(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
【0020】
図1は本発明の第1実施形態に係るエンジンを搭載した自動二輪車の側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、このメインフレーム1の後部に取り付けられて車体フレームFRの後半部を形成するシートレール2とを有している。メインフレーム1の前端に設けられたヘッドパイプ4に、図示しないステアリングシャフトを介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されて、このフロントフォーク8に前輪10が取り付けられている。フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0021】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、ピボット軸16を介してスイングアーム12が上下揺動自在に軸支され、このスイングアーム12の後端部に後輪14が回転自在に支持されている。メインフレーム1の下部にエンジンEが取り付けられている。エンジンEの回転がトランスミッション13を介して、車体左側に配置されたチェーンのような伝達機構11に伝達され、この伝達機構11を介して後輪14が駆動される。
【0022】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、リヤフレーム2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、前記ヘッドパイプ4の前方を覆う樹脂製のフロントカウル22が装着されている。フロントカウル22には、外部からエンジンEへの吸気Iを取り入れる吸気取入口24が形成されている。
【0023】
エンジンEは、車幅方向に延びる回転軸であるクランク軸26を有する4気筒4サイクルの並列多気筒エンジンである。エンジンEの形式はこれに限定されない。エンジンEは、クランク軸26を支持するクランクケース28と、クランクケース28の上部に連結されたシリンダブロック30と、その上部に連結されたシリンダヘッド32と、シリンダヘッド32の上部に取り付けられたヘッドカバー32aと、クランクケース28の下部に取り付けられたオイルパン34とを有している。クランクケース28の後部は、トランスミッション13を収納するミッションケースを構成している。
【0024】
シリンダブロック30およびシリンダヘッド32は若干前傾している。具体的には、エンジンEのピストン軸線が上方に向かって前方に傾斜して延びている。シリンダヘッド32の後部に吸気ポート47が設けられている。シリンダヘッド32の前面の排気ポートに接続された4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラ38に接続されている。シリンダブロック30の後方でクランクケース28の後部の上方に、外気を取り込んで吸気としてエンジンEに供給する過給機42が配置されている。すなわち、過給機42は、トランスミッション13の上方に位置している。
【0025】
過給機42は、吸込口46から吸引した外気を圧縮して、その圧力を高めたのち吐出口48から吐出して、エンジンEに供給する。これにより、エンジンEに供給する吸気量を増大させることができる。過給機42は、クランクケース28の後部の上方に左向きに開口した吸込口46が位置し、エンジンEの車幅方向の中央部に上方を向いた吐出口48が位置している。
【0026】
図2に示すように、過給機42は、車幅方向に延びる過給機回転軸44と、過給機回転軸44に固定されたインペラ50と、インペラ50を覆うインペラハウジング52と、エンジンEの動力をインペラ50に伝達する伝達機構54と、過給機回転軸44の一部と伝達機構54を覆うケーシング56とを有している。つまり、過給機42は、インペラ50を備える遠心式の過給機である。本実施形態では、伝達機構54として、後述の遊星歯車装置からなる増速機54が用いられている。インペラハウジング52を挟んで車幅方向に増速機54とエアクリーナ40とが配置されている。インペラハウジング52は、図示しないボルトによりエアクリーナ40と連結されている。
【0027】
過給機42の吸込口46にエアクリーナ40のクリーナ出口62が接続され、クリーナ入口60に、シリンダブロック30の前方を流れる走行風Aを過給機42に導入する吸気ダクト70が車幅方向外側から接続されている。クリーナ入口60と吸気ダクト70の導出口70bとは、それぞれの外周に設けられた連結用フランジ63,65を複数のボルト55で連結することにより接続されている。これら連結用フランジ63,65に、吸気Iを浄化するクリーナエレメント41が内蔵されている。
【0028】
過給機42の吐出口48と
図1のエンジンEの吸気ポート47との間に吸気チャンバ74が配置されている。吸気チャンバ74は、過給機42から吸気ポート47に供給される吸気Iを溜める。吸気チャンバ74は、過給機42の上方に配置され、その大部分がシリンダブロック30の後方に位置している。
図2に示すように、過給機42の吐出口48は、吸気チャンバ74の車幅方向中央部に接続されている。これにより、過給機42からの吸気Iが吸気チャンバ74を経て複数の吸気ポート47に均等に流入する。
【0029】
図1に示すように、吸気チャンバ74とシリンダヘッド32との間には、スロットルボディ76が配置されている。このスロットルボディ76において、吸入空気中に燃料が噴射されて混合気が生成され、この混合気がシリンダ内に供給される。これら吸気チャンバ74およびスロットルボディ76の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0030】
吸気ダクト70は、前端開口70aをフロントカウル22の吸気取入口24に臨ませた配置でメインフレーム1に支持されており、開口70aから導入した走行風Aをラム効果により昇圧させ、吸気として過給機42に導入する。吸気ダクト70は、車体の左側に配置され、側面視で、ハンドル6の先端部の下方からエンジンEのシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の外側を通過する。
【0031】
吸排気バルブの動弁機構を構成するカムチェーントンネル59が車幅方向右側に位置し、吸気ダクト70は、カムチェーントンネル59と反対側の左側に配置されている。カムチェーントンネル59と同じ右側に、クラッチ71(
図3)が配置されている。クラッチ(
図3)がカムチェーントンネル59と同じ右側に配置されることで、エンジンEをコンパクトに形成できる。
【0032】
図3に示すように、エンジンEのクランク軸26の車幅方向一方側である右側の端部にクラッチ71が連結されるクラッチギヤ72が設けられ、このクラッチギヤ72よりも左側に過給機42を駆動する過給機用ギヤ80が設けられている。詳細には、クランク軸26の最も外側(右側)のクランクウェブ(
8番ウェブ)73の外周にクラッチギヤ72が形成され、クラッチギヤ72からジャーナル68を間に挟んで左側に配置されるクランクウェブ(6番ウェブ)75の外周に過給機用ギヤ80が形成されている。本実施形態では、過給機用ギヤ80は、クランク軸26と逆方向に回転するバランサ軸(図示せず)を駆動するアイドラギヤを兼ねている。
【0033】
このように、他のクランクウェブと同程度のクランクウェブをクラッチギヤ72とし、クランクウェブの外周部に歯を形成することで、クランクウェブよりも小さい径のクラッチギヤを形成してチェーン94で接続する場合に比べて、チェーン94とクランクウェブとの干渉を防ぐ必要がなく、クランク軸26の軸方向寸法を短くすることができる。
【0034】
過給機用ギヤ80は、クランク軸26と平行な軸心を持つ第1軸体である過給機駆動軸78を駆動する。過給機駆動軸78は、
ホルダ(以下「カセットミッション
」という場合がある。)89に回転自在に支持されている。カセットミッション89は、クランクケース28の内方に着脱自在に取り付けられている。カセットミッション89は、クラッチ71よりも車幅方向内側に配置され、トランスミッション13および過給機駆動軸78を支持する。カセットミッション89を取り外すことで、トランスミッション13および過給機駆動軸78をエンジンEに対して容易に着脱できる。
【0035】
過給機駆動軸78は、カップリング77を介してクランク軸26に連結されている。詳細には、カップリング77はカップリングケース79とカップリングカバー81とを有し、カップリングケース79は、過給機用ギヤ80に噛み合う従動側過給機用ギヤ84が外周に形成されて軸受87を介して過給機駆動軸78に相対回転自在に支持され、カップリングカバー81は、過給機駆動軸78にスプライン嵌合されて過給機駆動軸78と一体回転する。
【0036】
これらカップリングケース79とカップリングカバー81とが第1緩衝体69を介して回転方向に連結されている。第1緩衝体69は、クランク軸26から過給機回転軸44に至る動力伝達経路Pに設けられ、動力の回転変動を抑制する。過給機駆動軸78は、第1緩衝体69の両端で軸受91,91により回転可能に支持されている。これにより、第1緩衝体69を片持ち支持する場合に比べて、動力の回転変動を抑制しやすい。第1緩衝体69の詳細については後述する。
【0037】
過給機駆動軸78の左側の端部に、スタータギヤ86(第3回転体)が過給機駆動軸78に相対回転自在に支持されている。このように、スタータ用と過給機駆動用の歯車を共通にすることで、部品点数を削減できる。カップリングケース79に、第1緩衝体69の軸方向に隣接してカップリングケース79とスタータギヤ86とを連結するスタータワンウェイクラッチ85が収納されている。換言すれば、従動側過給機用ギヤ84とスタータギヤ86との間にスタータワンウェイクラッチ85が介在されている。スタータギヤ86に、トルクリミッタ88を介してスタータモーター90が接続されている。
【0038】
これにより、エンジンEが停止している状態でスタータモーター90が回転するとスタータワンウェイクラッチ85が接続されて、クランク軸26へ始動トルクが伝達される。また、エンジンEの始動後にクランク軸26の回転速度がスタータモーター90より速くなると、スタータワンウェイクラッチ85が遮断されてクランク軸26からスタータモーター90への動力伝達が阻止される。このように、過給機用ギヤ80とスタータギヤ86とは動力受け渡し自在に接続されている。第1緩衝体69により、スタータモータ90から動力伝達される場合にチェーン94に生じる出力変動を抑えることができる。
【0039】
過給機駆動軸78の右側の端部に、第1回転体である第1スプロケット92が設けられている。この第1スプロケット92の歯車92aに、エンジンEの動力を過給機42に伝達する無端動力伝達部材であるチェーン94が掛け渡されている。第1スプロケット92は、車幅方向に関して、従動側過給機用ギヤ84とクラッチギヤ72との間に配置されている。つまり、チェーン94は、クラッチ71よりも車幅方向内側で、ホルダ89とクラッチ71との間に配置されている。チェーン94を、クランクピンの寸法以下に形成することで、クラッチ71よりも幅方向内側に配置しやすい。
【0040】
クランク軸26の回転力が、過給機駆動軸78からチェーン94を介して、過給機回転軸44に連結された第2軸体である入力軸65に伝達されている。詳細には、入力軸65の右側端部に、第1スプロケット92からの動力が伝達される第2回転体である第2スプロケット96設けられ、この第2スプロケット96の歯車96aにチェーン94が掛け渡されている。チェーン94は、過給機42の吸込口46および車輪駆動用の伝達機構11(
図1)の車幅方向反対側である右側に配置されている。車幅方向に関して、第1および第2スプロケット92,96は同じ位置に配置され、過給機回転軸44は第2スプロケット96よりも左側に配置されている。
【0041】
入力軸65は中空軸からなり、軸受98を介してケーシング56に回転自在に支持されている。入力軸65における右側端部65bの外周面にスプライン歯が形成され、この外周面にスプライン嵌合された増速機ワンウェイクラッチ100を介して、前記第2スプロケット96が入力軸65に連結されている。
【0042】
増速機ワンウェイクラッチ100は、前記動力伝達経路Pにおける第2スプロケット96と過給機回転軸44との間に設けられ、動力の回転変動を抑制する第2緩衝体を構成する。増速機ワンウェイクラッチ100は、第2スプロケット96よりも車幅方向一方側(右側)に配置されている。これにより、過給機42の車幅方向寸法が、増速機ワンウェイクラッチ100の分だけ大形化するのを防いで、吐出口48をエンジンEの車幅方向中央部に配置しやすい。増速機ワンウェイクラッチ100が第2スプロケット96よりも軸端側に配置されることで、増速機ワンウェイクラッチ100の着脱を容易に行うことができる。
【0043】
第2緩衝体(増速機ワンウェイクラッチ)100は、下流側の回転速度が上流側の回転速度を超えると上流側と下流側との連結を解除するクラッチ構造を有している。増速機ワンウェイクラッチ100は、チェーン94の外側に配置されているので、設計変更がし易いうえに、交換も容易である。ただし、増速機ワンウェイクラッチ100をチェーン94の内側に配置してもよい。
【0044】
入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、増速機ワンウェイクラッチ100が、この雌ねじに螺合されたボルト102の頭部により、ワッシャ104を介して、右側端部65bに装着されている。
【0045】
これら増速機ワンウェイクラッチ100、第2スプロケット96およびボルト102は、ケーシング56の右側端部に連接されたスプロケットカバー103に収納されている。スプロケットカバー103の右側端部には、車体外側を向いた開口105が形成され、この開口105がキャップ107により塞がれている。
【0046】
過給機42の過給機回転軸44の左側端部44aに前記インペラ50が固定され、入力軸65の左側端部65aに、増速機54である遊星歯車装置106を介して過給機回転軸44の右側端部44bが連結されている。
【0047】
過給機回転軸44は、軸受99を介してケーシング56に回転自在に支持されている。ケーシング56は、入力軸65を支持する入力軸ケース部56Rと、過給機回転軸44を支持する回転軸ケース部56Lとからなり、これら入力軸ケース部56Rと回転軸ケース部56Lとが、ボルトのようなケーシング締結部材108を用いて連結されている。さらに、インペラハウジング52が、ボルトのようなハウジング締結部材110を用いてケーシング56の左側端部に連結されている。インペラハウジング52には、左側に開口した前記吸込口46と、上方に開口した前記吐出口48に連なる吐出通路49とが形成されている。
【0048】
上述のように、遊星歯車装置106は入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、ケーシング56に支持されている。過給機回転軸44の右側端部44bに、外歯112が形成されており、この外歯112に複数の遊星歯車114が周方向に並んでギヤ連結されている。すなわち、過給機回転軸44の外歯112は、遊星歯車装置106の太陽歯車として機能する。さらに、遊星歯車114は径方向外側で大径の内歯車(リングギヤ)116にギヤ連結している。遊星歯車114は、ケーシング56に装着された軸受120によりキャリア軸122に回転自在に支持されており、公転しない。
【0049】
キャリア軸122は固定部材118を有しており、この固定部材118がケーシング56にボルト124により固定されている。つまり、キャリア軸122は固定されている。内歯車116には入力軸65の左側端部65aに設けられた入力ギヤ126がギヤ連結されている。このように、内歯車116が入力軸65と同じ回転方向に回転するようにギヤ接続され、キャリア軸122が固定されて遊星歯車114は内歯車116と同じ回転方向に回転する。太陽歯車(外歯車112)は出力軸となる過給機回転軸44に形成されており、遊星歯車114と反対の回転方向に回転する。つまり、遊星歯車装置106は、入力軸65の回転を増速して、入力軸65と反対の回転方向で過給機回転軸44に伝達している。
【0050】
前記動力伝達経路Pは、過給機用ギヤ80、従動側過給機用ギヤ84、カップリング77、過給機駆動軸78、第1スプロケット92、チェーン94、第2スプロケット96、増速機ワンウェイクラッチ100、入力軸65、増速機54を含み、クランク軸26と平行な2つの側辺P1,P2と、両側辺P1,P2を結ぶ底辺P3とを有するほぼU字形状に形成されている。具体的には、クランク軸26の回転が従動側過給機用ギヤ84から過給機駆動軸78に伝達され、過給機駆動軸78の右端の第1スプロケット92から、左右方向に直交する方向に延びるチェーン94を介して、入力軸65に伝達され、入力軸65の左側に配置された過給機回転軸44に伝達される。
【0051】
過給機42の吐出口48は、
図2のエンジンEの車幅方向中央位置C、すなわちシリンダブロック30の車幅方向中央位置Cにほぼ合致するように配置されている。具体的には、吐出口48は、エンジンが偶数気筒の場合には、車幅方向一方側気筒(右寄り気筒)と車幅方向他方側気筒(左寄り気筒)との間の領域に配置される。すなわち、吐出口48は、複数のクランクジャーナルのうち、車幅方向中心のジャーナルが配置される領域に配置される。一方、エンジンが奇数気筒の場合には、車幅方向中央気筒の領域に配置される。すなわち、吐出口48は、複数のクランクピンのうち、車幅方向中心のクランクピンが配置される領域に配置される。
【0052】
前記第1緩衝体69について説明する。第1緩衝体69は、動力伝達経路Pにおける第1スプロケット92よりも動力伝達方向の上流側に、具体的には、第1スプロケット92と従動側過給機用ギヤ84との間に配置されている。また、第1緩衝体69は、車幅方向において、クラッチギヤ72と過給機用ギヤ80との間に配置されている。クラッチギヤ72と過給機用ギヤ80との間に1つ以上のクランクウェブを介在させることで、第1緩衝体69を配置するための空間を確保しやすい。第1緩衝体69は、ゴムからなる複数の弾性体128を有し、上流側から下流側へ動力を伝達するダンパ構造を有している。
【0053】
ダンパ構造について説明する。
図4は、カップリング77を右側から見た側面図である。上述のように、カップリング77は、過給機駆動軸78に相対回転自在に支持されたカップリングケース79と、過給機駆動軸78と一体回転するカップリングカバー81とが、第1緩衝体69を介して連結されている。
図4は、カップリングカバー81の一部を切り欠いた状態を示している。
【0054】
図5は、カップリングケース79を右側から見た側面図で、
図6は、
図5のVI-VI線断面図である。
図6に示すように、カップリングケース79は、外径面に従動側過給機器用ギヤ84が形成され、内径の軸受リング部129でニードル軸受87を介して過給機駆動軸78に相対回転自在に支持される環状のカップリングギヤ部130と、カップリングギヤ部130から右側に突出する筒状のダンパ収納部132とを有している。ダンパ収納部132の内側に弾性体128が収納されている。
【0055】
カップリングギヤ部130における軸受リング部129の外径側に、左側に開口した環状のワンウェイクラッチ収納凹所134が形成されている。ワンウェイクラッチ収納凹所134に、前記スタータワンウェイクラッチ85が収納される。カップリングギヤ部130の右側端面130aは、ダンパ収納部132の底面を形成しており、右側のダンパ収納部132の内側に突出する複数の係合突部790が設けられている。
【0056】
図5に示すように、係合突部790は、放射状に延びており、周方向に等間隔に離間して5つ設けられている。さらに、カップリングギヤ部130の右側端面130aに、貫通孔からなるピン挿通孔137が形成されている。ピン挿通孔137も、周方向に等間隔に離間して5つ設けられ、各ピン挿通孔137は、周方向に関して、隣接する2つの係合突部790の間に配置されている。係合突部790およびピン挿通孔137の数はこれに限定されない。
【0057】
図7は、カップリングカバー81を左側から見た側面図で、
図8は、
図7のVIII-VIII線断面図である。
図8に示すように、カップリングカバー81は、内径面に過給機駆動軸78にスプライン嵌合するスプライン歯138aが形成された筒状の軸受部138と、軸受部138の右側端部(
図3のカップリングケース79と反対側の端部)に形成された鍔状のカバー部140とを有している。カバー部140の左側端面140aに、左側に突出する複数のストッパ部810が形成されている。
【0058】
図7に示すように、ストッパ部810は、放射状に延びており、周方向に等間隔に離間して5つ設けられている。
図8に示すストッパ部810の先端(左側端)に、左側に開口したピン係合孔144が形成されている。ピン係合孔144は、
図5のカップリングケース79のピン挿通孔137に対応する位置に設けられている。
【0059】
図4に示すように、第1緩衝体69を構成する弾性体128は、周方向に等間隔に離間して5つ配置されている。
図9は弾性体128の1つを右側から見た側面図である。弾性体128は、ゴムのような弾性材料からなり、本実施形態ではフッ素ゴムからなっている。
【0060】
弾性体128は、エンジン加速時に回転力を受ける加速側ダンパ片146と、エンジン減速時に回転力を受ける減速側ダンパ片148とを有し、両ダンパ片146,148が連結片150により連結されている。後述するリブ152を除いた加速側ダンパ片146の周方向の最大肉厚t1が、減速側ダンパ片148の周方向の最大肉厚t2よりも大きくなっている。これに応じて、加速側ダンパ片146の径方向に変化する周方向の肉厚の平均値も、加速側ダンパ片146の方が減速側ダンパ片148よりも大きくなっている。
【0061】
加速側ダンパ片146および減速側ダンパ片148における周方向に互いに対向している係合面146a,148aは、
図4のカップリングケース79の係合突部790に係合している。加速側ダンパ片146および減速側ダンパ片148における係合面146a,148aと周方向に関して反対側の面は、カップリングカバー81のストッパ部810に接触して回転力を受ける負荷面146b、148bを構成している。
【0062】
図9に示すように、加速側および減速側ダンパ片146、148における回転力を受ける負荷面146b、148bに、周方向に突出するリブ152,154が形成されている。リブ152,154は、径方向に離間して2つ設けられ、軸方向(紙面に直交する方向)に延びている。リブ152,154の数は2つ以上であっても、1つでもよい。また、加速側ダンパ片146のリブ152の数と、減速側ダンパ片148のリブ154の数は異なっていてもよい。本実施形態では、係合面146a,148aにもリブ153,155が形成されている。
【0063】
つぎに、
図4および
図10を用いてカップリング77の組み立て方法を説明する。まず、
図10のカップリングケース79のダンパ収納部132に、弾性体128を収納する。具体的には、
図4に示すカップリングケース79の係合突部790に、弾性体128の各係合面146a,148aが当接するように弾性体128を装着する。
【0064】
つづいて、
図10のカップリングケース79のダンパ収納部132に、カップリングカバー81を組み付ける。具体的には、
図4に示すカップリングカバー81のストッパ部810が弾性体128の間に配置されるように、カップリングケース79に装着する。この状態で、
図10のカップリングカバー81のカバー部140により、弾性体128が軸方向(右側)に外れるのが防止される。
【0065】
最後に、ピン156を、カップリングケース79のピン挿通孔137に左側から挿通し、カップリングカバー81のピン係合孔144に係合する。ピン156は、回り止め用に取り付けられるもので、ピン挿通孔137の直径は、ピン156の外径よりも大きく設定されている。
【0066】
図3に示すクランク軸26が回転すると、過給機駆動軸78が、過給機用ギヤ80と従動側過給機用ギヤ84との噛み合いによりクランク軸26に連動して回転する。具体的には、
図4のカップリングケース79の従動側過給機用ギヤ84がD方向に回転すると、カップリングケース79の係合突部790に係合された弾性体128も一体に回転し、カップリングカバー81のストッパ部810に接触する。これにより、カップリングカバー81もD方向に回転し、カップリングカバー81にスプライン嵌合された過給機駆動軸78が回転する。
図3の過給機駆動軸78が回転すると、チェーン94を介して入力軸65が回転し、さらに、遊星歯車装置106を介して過給機回転軸44が回転して過給機42が始動する。
【0067】
自動二輪車が走行すると、
図1に示す走行風Aは、吸気Iとして吸気取入口24から吸気ダクト70に取り込まれて、吸気ダクト70内でラム圧により加圧され、エアクリーナ40で清浄化されたのち過給機42に導入される。過給機42に導入された吸気Iは、過給機42により加圧されて、吸気チャンバ74およびスロットルボディ76を介してエンジンEへ導入される。このようなラム圧と過給機42による加圧との相乗効果により、エンジンEに高圧の吸気を供給することができる。
【0068】
エンジンEが急加速するとき、
図4のカップリングケース79の係合突部790も急回転し、弾性体128の加速側ダンパ片146の負荷面146bが、カップリングカバー81のストッパ部810に大きなD方向の回転力で接触し、周方向に大きく変形する。この変形により、動力伝達方向であるD方向における弾性体128の下流側に大きな回転衝撃力が伝わるのを防ぐことができる。
【0069】
加速側ダンパ片146がストッパ部810に衝突する際、最初にリブ152がストッパ部810に当たり、その後に加速側ダンパ片146の本体が当たる。このように2段階で衝突することで、緩衝効果が向上し、下流側のギヤ同士またはギヤとチェーンとが滑らかに当たるようにできる。
【0070】
また、エンジンが急減速または急停止する際、
図3のクランク軸26は減速または停止していても、過給機42は慣性で回転を続けようとするが、入力軸65の回転速度が過給機駆動軸78の回転速度よりも大きくなると、増速機ワンウェイクラッチ100が外れる。その結果、過給機42の回転がクランク軸26に伝達されない。
【0071】
一方、第1緩衝体69では、クランク軸26にギヤ連結されたカップリングケース79が減速または停止している一方で、過給機駆動軸78とこれと一体に回転するカップリングカバー81が慣性力によって回転を続けようとする。つまり、
図4のカップリングカバー81のストッパ部810がD方向に回転し、カップリングケース79とこれに装着された弾性体128は減速または停止している。そのため、カップリングカバー81のストッパ部810が、弾性体128の減速側ダンパ片148の負荷面148bにD方向の回転力で接触し、減速側ダンパ片148が周方向に変形する。この変形により、過給機駆動軸78の回転がクランク軸26に伝わるのを防ぐことができる。
【0072】
ここで、加速時におけるカップリングケース79のD方向の回転力は、減速時におけるカップリングカバー81のD方向の回転力に比べて、極めて大きい。
図9に示すように、回動力の大きい加速側ダンパ片148の肉厚を大きくすることで、弾性体128の変形量が大きくなるから、効果的に回転力を吸収できる。
【0073】
また、自動二輪車のエンジンは、汎用の小型エンジンに比べて回転慣性が低いので、トルク変動が生じやすい。本実施形態では、第1緩衝体69により、このトルク変動を吸収することができる。
【0074】
上記構成において、
図3の過給機42の動力を、車幅方向外側に配置されたクラッチギヤ26の内側(車体の中央側)の過給機用ギヤ80から取り出しているので、過給機42の吐出口48をエンジンEの車幅方向中央位置C付近に配置できる。また、過給機42を車幅方向の中央よりに配置できるので、エンジンEの車幅方向一方側への突出量を減らして、バンク角の制約を小さくできる。
【0075】
また、過給機用ギヤ80は、クラッチギヤ72からジャーナル68を間に挟んで中央よりに配置されるクランクウェブ75に形成されている。これにより、過給機用ギヤ80がクラッチギヤ72から離れて配置されるから、過給機42を中央よりに配置することが一層容易になる。また、増速機54をクラッチギヤ72よりも内側に配置しやすい。
【0076】
さらに、第1スプロケット92が、車幅方向に関して、過給機用ギヤ80とクラッチギヤ26との間に配置されている。過給機用ギヤ80は、クラッチギヤ72に対してジャーナル68を間に挟んで配置されており、過給機用ギヤ80とクラッチギヤ72との間に余裕があるので、第1スプロケット92をクラッチギヤ72の内側に配置し易い。
【0077】
また、車幅方向に関して、第1スプロケット92と第2スプロケット96とは同じ位置に配置され、過給機回転軸44が第1スプロケット96よりも車幅方向左側に配置されている。これにより、動力伝達経路PがほぼU字形状に形成されるので、クラッチギヤ72よりも内側から動力を取出しつつ、動力伝達経路Pを長くできる。その結果、過給機42の吐出口48をエンジンEの車幅方向中央位置C付近に容易に配置することができるうえに、動力伝達経路Pに、増速機54、第1緩衝体69、増速機ワンウェイクラッチ100を配置し易い。
【0078】
さらに、過給機用ギヤ80は、車幅方向左側に配置されたスタータギヤ86に動力受け渡し可能に接続されているので、従動側過給機用ギヤ84の軸方向両側のスペースを有効利用して、第1スプロケット92とスタータギヤ86をバランスよく配置できる。スタータギヤ86に接続されるスタータモーター90と第1スプロケット92との干渉を防ぐことができる。
【0079】
動力伝達経路Pに、回転変動を抑制する第1および第2緩衝体69,100が配置されているので、過給機42に回転方向の大きな伝達力変動(トルク変動)が生じるのを防ぐことができる。これにより、過給機42が損傷するのを防ぐことができる。
【0080】
さらに、動力伝達経路Pにおける増速機54よりも動力伝達方向の上流側に、第1および第2緩衝体69,100が設けられているので、増速機54に回転方向の大きな伝達力変動が生じるのを防ぐことができる。これにより、増速機54が損傷するのを防ぐことができる。
【0081】
また、動力伝達経路Pにおけるチェーン94よりも動力伝達方向の上流側に、第1緩衝体69が設けられているので、チェーン94に伝わるトルク変動を抑えて、チェーン94に引っ張り方向の大きな伝達力変動が生じるのを防ぐことができる。また、チェーン94と第1緩衝体69の両方によって、動力伝達経路Pの回転変動を抑制できる。
【0082】
さらに、ダンパ構造を有する第1緩衝体69が、増速機ワンウェイクラッチ100からなる第2緩衝体100よりも動力伝達方向の上流側に配置されているので、第1および第2緩衝体69,100により、エンジン脈動と、逆向きの動力伝達の両方を防止できる。第1緩衝体69はダンパ構造を有しているので、第1緩衝体69はダンパ効果により、微小な回転変動も抑制することができる。
【0083】
エンジン脈動は、爆発工程が時間間隔をあけて繰り返すことに起因して生じるものであり、エンジン回転数が一定回転でも生じる周期的に繰り返す変化である。第1緩衝体69のダンパ効果により、出力増加側、出力減速側の両方の変動を防ぐことができるうえに、比較的小さい変動幅の脈動も抑えることができる。
【0084】
また、増速機ワンウェイクラッチ100で、エンジンEの回転数変化に起因して生じる動力変動を防ぐことができる。この動力変動は、加減速等のアクセル、ブレーキ、クラッチ、変速操作などに起因して生じるものであり、エンジン回転数が一定であれば生じる可能性低い。つまり、非周期的であってインパルス的な変化である。増速機ワンウェイクラッチ100により、比較的大きい変動幅の脈動を抑えることができる。
【0085】
また、チェーン94よりも動力伝達方向の上流側に第1緩衝体69が設けられ、チェーン94よりも動力伝達方向の下流側で、かつ増速機54よりも動力伝達方向の上流側に、第2緩衝体100が設けられているので、2つの緩衝体69,100により、大きな伝達力変動を一層効果的に防止できるとともに、クラッチ構造を有する第2緩衝体100により、エンジン急減速時に、チェーン94からエンジンEに動力が伝達されるのを防ぐことができる。これによって、エンジン回転の変動を抑制できる。
【0086】
カップリング77の外周に従動側過給機用ギヤ84を設け、且つ、カップリング77にスタータワンウェイクラッチ85と第1緩衝体69の両方を収納することにより、コンパクト化できるから、エンジン周辺を簡素化できるとともに、エンジンEの内部に配置し易い。エンジンEの内部に第1緩衝体69を配置したことで、従動側過給機用ギヤ84に噛み合うアイドラギヤ(図示せず)が設けられたバランサ軸(図示せず)に、回転変動が伝わるのも阻止できる。その結果、バランサ軸の軸受にかかる負荷が軽減され、ベアリングを小形化できる。
【0087】
また、過給機駆動軸78は、クランクケース28に着脱自在に取り付けられたカセットミッション89に支持されているので、カセットミッション89を取り外すことで、第1緩衝体69に容易にアクセスができ、弾性体128の交換等のメンテナンスがし易い。
【0088】
さらに、第1緩衝体69は、車幅方向において、クラッチギヤ72と過給機用ギヤ80との間に配置されているので、第1緩衝体69とクラッチ71とが干渉するのを防ぐことができる。
【0089】
図3のクラッチギヤ72から1つのジャーナル68を挟んで過給機用ギヤ80が形成され、過給機用ギヤ80から車幅方向右側に過給機42への動力伝達経路Pが形成されている。これにより、チェーン94をクラッチ71の裏側(内側)に配置しつつ、過給機用ギヤ80からチェーン94への動力伝達経路P1を過給機用ギヤ80とクラッチギヤ72との間に配置することができる。
【0090】
また、第2スプロケット96、増速機54、インペラ50が車幅方向に一列に並んでいる。すなわち、過給機42の動力入力位置(第2スプロケット96)と、過給機42の吐出口48(インペラ50)とが車幅方向に離れる構造である。しかしながら、本実施形態では、過給機42の動力入力位置が車幅方向一方側(右側)に配置されているので、過給機42の動力導入位置と吐出口48が車幅方向に離れていても、吐出口48をエンジンの中心C付近に配置できる。つまり、過給機42への動力伝達経路となるチェーン94および第2スプロケット96を車幅方向一方側に配置することで、増速機54も車幅方向一方側に配置され、その結果、吐出口48を車幅方向中心寄りに配置しやすくなる。
【0091】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、第1回転体として、第1スプロケット92を用いているが、歯車、プーリであってもよい。また、エンジンEの動力を過給機42に伝達する無端動力伝達部材としてチェーン94を用いているが、ベルトであってもよい。
【0092】
上記実施例では、クラッチギヤ72は、クランク軸26の車幅方向一方側(右側)の端部のクランクジャーナルに隣接する部分に形成されたが、クラッチギヤ72は、クランク軸26の車幅方向一方に配置されればよく、これに限らない。例えば、クランク軸26の車幅方向一方端のクランクピンよりも車幅方向中央寄りのクランクアームにクラッチギヤを形成してもよい。
【0093】
さらに、上記実施形態では、チェーン94よりも動力伝達方向の上流側に第1緩衝体69が設けられ、チェーン94よりも動力伝達方向の下流側で、かつ増速機54よりも動力伝達方向の上流側に第2緩衝体100が設けられているが、緩衝体は、動力伝達経路Pに少なくとも一つ設ければよい。また、緩衝体は、ダンパ構造およびクラッチ構造の少なくとも一方を有していればよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。