【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この目的は、式(I)のアルカリ土類金属複合金属ビスアミドまたはその互変異性体を調製するための、
【化2】
【0008】
〔式中、
AEは、カルシウムおよびマグネシウムから選択されるアルカリ土類金属であり;
Mは、元素周期律表の第3族、第4族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族およびランタノイド族の金属から選択される金属であり;
Xは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子であり;
R
1およびR
2は、各々独立に、1〜2個のR
3ラジカルにより置換されていてもよい(C
1−C
8)アルキルからなる群から選択され;
あるいは
R
1およびR
2は、一緒に、−(CH
2)
4−、−(CH
2)
5−または−(CH
2)
2O(CH
2)
2−基を形成し、ここで、これらの基の各々は、1〜4個のR
4ラジカルにより置換されていてもよく;
R
3は、独立に、ハロゲン、(C
1−C
3)アルコキシ、(C
1−C
3)ハロアルコキシから選択され;
R
4は、独立に、ハロゲン、(C
1−C
3)アルキル、(C
1−C
3)アルコキシ、(C
1−C
3)ハロアルコキシおよび(C
2−C
4)ジアルキルアミノから選択される〕
式(II)のクロロアミン
【化3】
【0009】
〔式中、R
1およびR
2ラジカルは、各々上に定義される通りである〕と、
(i)金属性マグネシウムおよび/またはカルシウムならびに/あるいは
(ii)ハロゲン化マグネシウムおよび/またはカルシウムならびに
(iii)一定量(所望により式(II)のクロロアミンに基づく化学量論量以下)の金属(M)(すなわち、元素の形態)ならびに/または
(iv)一定量(所望により化学量論量以下)の金属ハロゲン化物(M
n+X
−n)
(ここで、MおよびXは上に定義される通りである)
との反応による方法によって、本発明に従って達成された。
【0010】
アルカリ土類金属(AE)、好ましくはマグネシウムまたはカルシウム、および/または金属(M)、例えば亜鉛またはマンガンの酸化による挿入が、費用のかかるブチルリチウムを使用せずに済む本発明による方法を可能にする。
【0011】
ここで、指数nが、本発明による方法で使用されるどの金属ハロゲン化物(M
n+X
−n)においても、金属(M)の金属イオンの原子価に対応する整数であることは理解される。好ましくは、n=2、3または4、特に好ましくはn=2である。
【0012】
さらに、本発明による方法によって得られるマグネシウム複合−およびカルシウム複合金属ビスアミドは、穏和条件下での金属化に特に適している。したがって、それらは感受性のある(ヘテロ)芳香族化合物の変換に特に適し、感受性のある官能基、例えばニトロ、アルデヒドまたはFによって許容される(これは、対応するリチウム塩基またはマグネシウム塩基にはそうでないことが多い)。
【0013】
2−クロロ−3−ニトロピリジンと(TMP)
2Zn・2MgCl
2・2LiClの反応は、文献に記載されている(Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,7685−7688参照)。金属化は、その中で−40℃で1.5時間実施され、その後に求電子物質との反応が続く。しかし、社内研究において、(TMP)
2Zn・2MgCl
2・2LiClをより高い温度で、特に10℃を上回る温度、例えば25℃で用いる2−クロロ−3−ニトロピリジンの金属化が、2−クロロ−3−ニトロピリジンの破壊につながることが示された。
対照的に、2−クロロ−3−ニトロピリジンの反応が、本発明の式(I)のアルカリ土類金属複合金属ビスアミドと同じ条件下で実施されるならば、所望の金属化は、10℃を上回る温度で非常に短時間で(具体例では:25℃で1分で)進行し、その後の求電子物質「E」との反応も同様である。そのような反応を、本発明の(TMP)
2Zn.MgCl
2の例を用いて下に示す。
【化4】
【0014】
対応する金属化およびその後の4−ヨード安息香酸エチル(求電子物質「E」として)によるネギシカップリングにより、所望の化合物を収率58%で得た(下の例を参照されたい)。
【0015】
用語「ハロゲン」または「ハロゲン原子」は、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。この用語がラジカルに使用される場合、「ハロゲン」または「ハロゲン原子」は、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を意味する。
【0016】
アルキルは、直鎖、分枝状または環状のヒドロカルビルラジカルを意味する。「(C
1−C
4)アルキル」という表現は、例えば、炭素原子について述べられた範囲に従う、1〜4個の炭素原子を有するアルキルの簡潔な表記であり、例えば、メチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチルプロピル、tert−ブチル、シクロプロピルおよびシクロブチルラジカルを包含する。指定された炭素原子の範囲がそれよりも大きい一般的なアルキルラジカル、例えば、「(C
1−C
6)アルキル」は、相応してそれより多くの数の炭素原子をもつ直鎖、分枝状または環状のアルキルラジカルも包含する、すなわち、前記例によれば、5および6個の炭素原子を有するアルキルラジカルも包含する。
【0017】
具体的に述べられていない限り、複合ラジカル中を含む、アルキルラジカルなどのヒドロカルビルラジカルに関して、低級炭素骨格、例えば1〜6個の炭素原子を有する、または不飽和基の場合には2〜6個の炭素原子を有するものが好ましい。アルコキシ、ハロアルキルなどの複合ラジカル中を含むアルキルラジカルとは、例えば、メチル、エチル、シクロ−、n−もしくはi−プロピル、シクロ−、n−、i−、t−もしくは2−ブチル、ペンチル、ヘキシル、例えばシクロヘキシル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、および1,3−ジメチルブチルなど、ヘプチル、例えばシクロヘプチル、n−ヘプチル、1−メチルヘキシルおよび1,4−ジメチルペンチルなどを意味する。
【0018】
好ましい環状アルキルラジカルは、好ましくは3〜8個の環炭素原子を有する、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルである。置換されていてもよい環状アルキルラジカルの場合、置換基をもつ環系が含まれ、同様に、環状アルキルラジカルに二重結合を有する置換基、例えばメチリデンなどのアルキリデン基も含まれる。
【0019】
置換されていてもよい環状アルキルラジカルの場合、多環式脂肪族系、例えば、ビシクロ[1.1.0]ブタン−1−イル、ビシクロ[1.1.0]ブタン−2−イル、ビシクロ[2.1.0]ペンタン−1−イル、ビシクロ[2.1.0]ペンタン−2−イル、ビシクロ[2.1.0]ペンタン−5−イル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イル(ノルボルニル)、アダマンタン−1−イルおよびアダマンタン−2−イルなども含まれる。
【0020】
置換されていてもよい環状アルキルラジカルの場合、スピロ環式脂肪族系、例えば、スピロ[2.2]ペンタ−1−イル、スピロ[2.3]ヘキス−1−イル、スピロ[2.3]ヘキス−4−イル、3−スピロ[2.3]ヘキス−5−イルも含まれる。
【0021】
アリールは、好ましくは6〜14個、特に6〜10個の環炭素原子を有する、単環式、二環式もしくは多環式芳香族系、例えば、フェニル、インダニル、ナフチル、アントリル、フェナントレニルおよび同類のものであり、好ましくはフェニルである。
【0022】
2以上のラジカルが1以上の環を形成する場合、これらは、炭素環式、複素環式、飽和、部分飽和、不飽和の、例えばまた芳香族化合物であってもよく、所望によりさらに置換されていてもよい。縮合環は、好ましくは5員もしくは6員環であり、特に好ましいのは、ベンゾ縮合環である。
【0023】
例として述べた置換基(「第1置換基レベル」)は、それらが炭化水素系部分を含有する場合、所望によりその中で、例えば第1置換基レベルについて定義されるような置換基の1つによってさらに置換されていてもよい(「第2置換基レベル」)。対応するさらなる置換基レベルが可能である。用語「置換ラジカル」は、1つだけ、または2つの置換基レベルを包含することが好ましい。
【0024】
置換基レベルに好ましい置換基は、例えば、ハロゲン、ニトロ、シアノアルキル、ジアルキルアミノ、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ヘテロシクリルおよびトリアルキルシリルである。
【0025】
2以上の置換基レベルからなる置換基は、好ましくは、例えば、モノアルコキシアルキルまたはジアルコキシアルキルなどのアルコキシアルキル、モノアルコキシアルコキシまたはジアルコキシアルコキシなどのアルコキシアルコキシ、ベンジル、フェネチル、ベンジルオキシ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロアルコキシアルコキシ、ハロアルコキシアルキルである。
【0026】
炭素原子を有するラジカルの場合、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子、特に1または2個の炭素原子を有するものが好ましい。一般に、ハロゲン、例えばフッ素および塩素、(C
1−C
4)アルキル、好ましくはメチルもしくはエチル、(C
1−C
4)ハロアルキル、好ましくはトリフルオロメチル、(C
1−C
4)アルコキシ、好ましくはメトキシもしくはエトキシ、(C
1−C
4)ハロアルコキシ、ニトロおよびシアノからなる群からの置換基が好ましい。特に、ここでは置換基メチル、メトキシ、フッ素および塩素が好ましい。
【0027】
一置換もしくは二置換アミノなどの置換アミノは、例えば、アルキル、アルコキシおよびアリールの群からの1個または2個の同一または異なるラジカルによってN−置換されている置換アミノラジカルの群からのラジカルであり;好ましくはジアルキルアミノおよびジアリールアミノ、例えば置換されていてもよいN−アルキル−N−アリールアミノ、および飽和N−複素環であり;1〜4個の炭素原子を有するアルキルラジカルが好ましい;アリールは、好ましくはフェニルまたは置換フェニルである。
【0028】
置換されていてもよいフェニルは、好ましくは、非置換であるか、あるいは、ハロゲン、(C
1−C
4)アルキル、(C
1−C
4)アルコキシ、(C
1−C
4)アルコキシ−(C
1−C
4)アルコキシ、(C
1−C
4)アルコキシ−(C
1−C
4)アルキル、(C
1−C
4)ハロアルキル、(C
1−C
4)ハロアルコキシ、シアノおよびニトロ、例えば、o−、m−およびp−トリル、ジメチルフェニル、2−、3−および4−クロロフェニル、2−、3−および4−フルオロフェニル、2−、3−および4−トリフルオロメチル−ならびに−トリクロロメチルフェニル、2,4−、3,5−、2,5−および2,3−ジクロロフェニル、o−、m−およびp−メトキシフェニルの群からの同一または異なるラジカルによって一置換もしくは多置換されている、好ましくは三置換までのフェニルである。
【0029】
置換されていてもよいヘテロシクリルは、好ましくは、非置換であるか、あるいは、ハロゲン、シアノ、(C
1−C
4)アルキル、(C
1−C
4)アルコキシ、(C
1−C
4)アルコキシ−(C
1−C
4)アルコキシ、(C
1−C
4)アルコキシ−(C
1−C
4)アルキル、(C
1−C
4)ハロアルキル、(C
1−C
4)ハロアルコキシ、ニトロおよびオキソの群からの同一または異なるラジカルによって一置換もしくは多置換されている、好ましくは三置換までのヘテロシクリルであり、特に、ハロゲン、(C
1−C
4)アルキル、(C
1−C
4)アルコキシ、(C
1−C
4)ハロアルキルおよびオキソの群からのラジカルによって、非常に特に、1または2個の(C
1−C
4)アルキルラジカルによって、一置換もしくは多置換されている。
【0030】
ハロアルキルは、同一または異なるハロゲン原子、例えばモノハロアルキル、例えばCH
2CH
2Cl、CH
2CH
2F、CHClCH
3、CHFCH
3、CH
2Cl、CH
2Fなど;ペルハロアルキル、例えばCCl
3またはCF
3またはCF
2CF
3など;ポリハロアルキル、例えばCHF
2、CH
2CHFCl、CHCl
2、CF
2CF
2H、CH
2CF
3などによって部分的にまたは完全に置換されたアルキルである;ハロアルコキシは、例えば、OCF
3、OCHF
2、OCH
2F、OCF
2CF
3、OCH
2CF
3およびOCH
2CH
2Clである。
【0031】
式(I)のアルカリ土類金属複合金属ビスアミドの互変異性体は、個々の原子または原子群の移動によって急速に相互変換される異性体である、つまり、いくつかの異性体が相互と急速な化学平衡にある。急速な平衡のために、個々の互変異性体は孤立することができない場合が多い;相互に対する互変異性体の比は、一般に一定である。
【0032】
活性化C−H結合を有する有機化合物は、炭素原子に結合した水素原子をプロトンとして放出する、そのため、形式的な意味で、酸として機能する傾向の強い分子である。これは、例えば、炭素原子が、電子吸引性基、例えばカルボニル(エステル、ケトンまたはアルデヒド中)、スルホン、ニトリル、トリフルオロメチル基またはニトロ基などに強く結合する場合の例である。例えば、マロン酸(pKa=約13)またはアセチルアセトン(pKa=約9)の誘導体は、活性化C−H結合を有する。C−C多重結合は、炭素原子に近接する結果として、同様により強い分極化を確実にし、そのためα−アルケニルおよび−アルキニル基は、例えば、ビニルおよびプロパルギル基中で、CH活性化を導く。その上、芳香族系の形成もCHの酸度を増強することができる。
【0033】
式(I)の金属ビスアミドについて、例えば、下のスキーム1に示される互変異性体平衡を仮定することができる:
スキーム1:
【化5】
【0034】
そのため、式(I)はまた、形成される構造に配位性溶媒が含まれていてもよい、平衡に存在するすべての互変異性体(I−i、IおよびI−ii)および/またはそれらのオリゴマー複合体もしくはポリマー複合体を包含する。結合は、ハロゲン化物Xを介するか、または、窒素原子を介して形成されてよい。