(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記演算部が推定した前記空間にいる人の温冷感に基づいて、前記空気調和機の風量、風温、風向のうち少なくとも1つを制御する、請求項1に記載の空気調和機。
前記制御部は、前記人体温度から前記周囲温度を引いた差分値が前記所定の閾値よりも大きい場合に、前記周囲温度を上げるように制御し、前記人体温度から前記周囲温度を引いた差分値が前記所定の閾値よりも小さい場合に、前記周囲温度を下げるように制御する、請求項2に記載の空気調和機。
前記演算部は、前記二次元人体領域を複数の人体部位に区分し、当該複数の人体部位毎に重み付けをして、重み付け後の前記二次元人体領域の全画素の温度平均値に基づいて前記人体温度を定める、請求項1に記載の空気調和機。
前記演算部は、前記二次元人体領域を複数の温度範囲に区分し、当該複数の温度範囲毎に重み付けをして、重み付け後の前記二次元人体領域の全画素の温度平均値に基づいて前記人体温度を定める、請求項1に記載の空気調和機。
前記演算部は、前記熱画像内における前記二次元人体領域の全画素の温度平均値及び全画素における温度最大値に基づいて前記人体温度を定める、請求項1に記載の空気調和機。
前記演算部は、前記熱画像のうち所定の範囲の温度を示す領域であってかつ所定の数以上が連続した領域を、前記二次元人体領域として特定する、請求項2から16のいずれか1項に記載の空気調和機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<発明の各態様の概要>
本発明の一態様における空気調和機は、空間の空調制御を行う空気調和機において、空間の温度分布を表す熱画像を取得する熱画像取得部と、(i)熱画像取得部が取得した熱画像内における人に該当する領域を特定し、(ii)人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、(iii)人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて空間にいる人の温冷感を推定する演算部と、演算部が推定した空間にいる人の温冷感に基づいて、空気調和機の風量、風温、風向のうち少なくとも1つを制御する制御部と、を備えた。熱画像取得部及び演算部は、空気調和機とは分離した熱画像センサシステムを構成してもよい。
【0013】
さらに、演算部は、人体温度と周囲温度との差分値と、所定の閾値との、差に基づいて人の温冷感を推定しても構わない。
【0014】
さらに、制御部は、人体温度から周囲温度を引いた差分値が所定の閾値よりも大きい場合に、周囲温度を上げるように制御し、人体温度から周囲温度を引いた差分値が所定の閾値よりも小さい場合に、周囲温度を下げるように制御しても構わない。
【0015】
さらに、演算部は、人の活動量に基づいて所定の閾値を補正しても構わない。
【0016】
さらに、演算部は、空気調和機が冷房運転しているか暖房運転しているかに基づいて所定の閾値を補正しても構わない。
【0017】
さらに、周囲温度に基づいて所定の閾値を補正しても構わない。
【0018】
さらに、演算部は、熱画像内における人に該当する領域の全画素の温度平均値に基づいて人体温度を定めても構わない。
【0019】
さらに、演算部は、人に該当する領域を複数の人体部位に区分し、複数の人体部位毎に重み付けをして、重み付け後の人に該当する領域の全画素の温度平均値に基づいて人体温度を定めても構わない。
【0020】
さらに、演算部は、複数の人体部位において、肌が露出している人体部位を他の人体部位よりも重み付けを小さくしても構わない。
【0021】
さらに、演算部は、人に該当する領域を複数の温度範囲に区分し、複数の温度範囲毎に重み付けをして、重み付け後の人に該当する領域の全画素の温度平均値に基づいて人体温度を定めても構わない。
【0022】
さらに、演算部は、複数の温度範囲において、温度が低い側の重み付けを小さくし、温度が高い側の重み付けを大きくしても構わない。
【0023】
さらに、演算部は、熱画像内における人に該当する領域の全画素の温度平均値及び全画素における温度最大値に基づいて人体温度を定めても構わない。
【0024】
さらに、演算部は、人に該当する領域以外の領域における画素の温度の最頻値に基づいて周囲温度を定めても構わない。
【0025】
さらに、演算部は、熱画像内における空間に含まれる床領域又は/及び天井領域を特定し、床領域の温度又は/及び天井領域の温度に基づいて周囲温度を定めても構わない。
【0026】
さらに、演算部は、空間にいる人が身につけている又は身につけているものに取り付けた温度センサで測定された値を周囲温度として用いても構わない。
【0027】
さらに、演算部は、空気調和機に設置された空気調和機の周囲の温度を取得する温度センサで測定された値、もしくは空気調和機を遠隔で操作可能なリモコンに取り付けられた温度センサによって測定された値を、周囲温度として用いても構わない。
【0028】
さらに、演算部は、熱画像のうち所定の範囲の温度を示す領域を、人に該当する領域として特定しても構わない。
【0029】
さらに、演算部は、熱画像のうち所定の範囲の温度を示す領域であってかつ所定の数以上が連続した領域を、人に該当する領域として特定しても構わない。
【0030】
また、他の一態様としては、空間の空調制御を行う空気調和機であって、空間の温度分布を表す熱画像を取得する熱画像取得部と、熱画像取得部が取得した熱画像内における人に該当する領域を特定し、当該特定した領域における空間にいる人の温冷感を推定する演算部と、演算部が推定した空間にいる人の温冷感を、空間にいる人に通知する通知部とを備えた。
【0031】
さらに、通知部は、空気調和機本体に設けられた表示部又は空気調和機のリモコンに設けられた表示部に、空間にいる人の温冷感を表す画像、文字、又は記号を表示することで、空間にいる人に通知しても構わない。
【0032】
さらに、通知部は、表示部の表示色を変更させることによって、空間にいる人の温冷感を空間にいる人に通知しても構わない。
【0033】
さらに、演算部は、熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に、空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像を生成し、通知部は、表示部に補正画像を表示させることで、空間にいる人の温冷感を空間にいる人に通知しても構わない。
【0034】
さらに、通知部は、ネットワークを介して空気調和機以外の端末に、当該端末の表示部に空間にいる人の温冷感を表す画像、文字、又は記号を表示する旨のコマンドを通知しても構わない。
【0035】
さらに、通知部は、ネットワークを介して空気調和機以外の端末に、(i)熱画像と、(ii)演算部が特定した人に該当する領域の座標に関する情報と、(iii)推定した温冷感に関する情報と、(iv)演算部が生成した熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像を端末の表示部に表示する旨のコマンドと、を送信しても構わない。
【0036】
さらに、演算部は、熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に、空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像を生成し、通知部は、ネットワークを介して空気調和機以外の端末に、当該端末の表示部に補正画像を表示する旨のコマンドを通知しても構わない。
【0037】
さらに、演算部は、人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて、空間にいる人の温冷感を推定しても構わない。
【0038】
さらに、推定した温冷感の修正を受け付ける修正受付部を備え、演算部は、修正受付部が受け付けた情報を基に、推定した温冷感を補正しても構わない。
【0039】
さらに、推定した温冷感の修正を受け付ける修正受付部を備え、演算部は、人体温度と周囲温度との差分値と、所定の閾値との、差に基づいて、人の温冷感を推定し、修正受付部が受け付けた情報を基に、所定の閾値を変更しても構わない。
【0040】
また、他の一態様としては、空間の空調制御を行う空気調和機であって、空間の空調制御を行う空気調和機であって、空間の温度分布を表す熱画像を取得する熱画像取得部と、空気調和機の周囲の温度を取得する温度センサと、温度センサが取得した周囲温度が所定の温度域である場合に、熱画像取得部が取得した熱画像内における人に該当する領域を特定し、当該特定した領域における空間にいる人の温冷感を推定する演算部と、温度センサが取得した周囲温度が所定の温度域である場合に、前記演算部が推定した空間にいる人の温冷感に基づいて、空気調和機の風量、風温、風向のうち少なくとも1つを制御する制御部とを備えた。
【0041】
さらに、周囲温度が所定の温度域ではない場合に、演算部は演算をせず、周囲温度が所定の温度域ではない場合に、制御部が周囲温度に応じて空気調和機の空気調和機の風量、風温、風向のうち少なくとも1つに関する制御内容を判断し、制御しても構わない。
【0042】
また、他の一態様としては、熱画像センサシステムであって、空間の温度分布を表す熱画像を取得する熱画像取得部と、(i)熱画像取得部が取得した熱画像内における人に該当する領域を特定し、(ii)人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、(iii)人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて空間にいる人の温冷感を推定する演算部とを備えた。
【0043】
また、他の一態様としては、コンピュータによって、熱画像を取得する熱画像センサによって取得された熱画像から人の温冷感を推定する温冷感推定方法であって、コンピュータが、熱画像内における人に該当する領域を特定し、人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて空間にいる人の温冷感を推定した。
【0044】
また、他の一態様としては、熱画像を取得する熱画像センサによって取得された熱画像から人の温冷感を推定する温冷感推定プログラムであって、(i)熱画像取得部が取得した熱画像内における人に該当する領域を特定し、(ii)人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、(iii)人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて空間にいる人の温冷感を推定する、演算処理を含んだ。
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするためにそれぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0046】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、全ての実施の形態において、各々の内容を組み合わせることもできる。また各実施の形態に記載した各々の変形例における構成も同様であり、各変形例に記載した構成をそれぞれ組み合わせてもよい。
【0047】
<発明の各態様の詳細な説明>
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態における空気調和機100に関して、図面を用いて説明する。
【0048】
図2において、本第1の実施形態に係る空気調和機100は、熱画像取得部110と、温度センサ120と、演算部130と、制御部160と、ルーバー171と、コンプレッサ172と、ファン173とを備える。演算部130は、位置特定部131、人体温度算出部132、差分温度算出部133、温冷感推定部134、及びセットポイント設定部135を含む。この空気調和機100の各構成は、室内に設置される室内機、及び室外に設置される室外機のいずれに配置されていてもよい。また、空気調和機100は、これらの構成以外の構成を備えていてもよい。
【0049】
熱画像取得部110は、空気調和機100の前面に取り付けられた、所謂サーモグラフィーである。熱画像取得部110は、左右方向の視野角Φを有しており、空気調和機100の前方空間に存在する物体の二次元的な熱画像を取得することができる。また、熱画像取得部110は、上下方向にも視野角を有しており、空気調和機100の前方空間における人102の存在を捉えられることができる。熱画像取得部110は、例えば二次元マトリックス状に配列された画素群を有し、一度に二次元的な熱画像を取得できる構造である。この構造以外にも例えば、熱画像取得部110は、一次元状に配列された画素群(ラインセンサ)を有し、画素群を一次元的に走査して二次元的な熱画像を取得する構造でもよいし、又は1つ以上の画素を有し、1つ以上の画素を二次元的に走査して二次元的な熱画像を取得する構造でもよい。ここでは、熱画像取得部110の構成は限定しない。
【0050】
本第1の実施形態においては、熱画像取得部110は、
図1Aのように空気調和機100の前方の視野角Φの空間内に人102が存在する場合、
図1Bの様な人102の温度分布を含んだ熱画像103aを取得することができる。以下、熱画像103aに関して説明する。
【0051】
熱画像103aでは、空間内の物体の温度が高い部分(画素)ほど濃度が高く表示される。
図1Bでは、温度が高い画素ほど、黒色に近い色で表示されている。なお、熱画像の表示に関してはこれに限られない。
【0052】
今、
図1Aに示す人102は、上着102aとズボン102bを着用している。上着102aやズボン102bの表面温度は、周囲温度に近くなる。このため、例えば周囲温度が25℃程度の常温である場合、熱画像取得部110で検出される人102の表面温度は、皮膚が露出している他の部位(顔面、首、両手、両足)よりも上着102aやズボン102bの部分が低下している。よって、皮膚が露出している部分の表面温度よりも、上着102aやズボン102bの表面温度の方が、相対的な濃度は低く(周囲の画素の色に近い色で)表示されることになる。また、上記温度環境では周囲温度は着衣表面の温度よりも低いため、視野角Φの内部に周囲温度以下の物体が存在しない場合、熱画像103aの人以外の領域は最も濃度が低くなる。例えば、室温が25℃程度において、顔面の皮膚温は平均33℃程度、上着102aの温度は27℃程度、両手(露出部)の温度は30℃程度、ズボン102bの温度は28℃程度、両足(露出部)の温度は29℃程度であった場合、熱画像103aに示すような温度分布になる。ただし、上着102aやズボン102b等の着衣表面の温度は、着衣の素材や厚み等に依存するため、他の温度になることもある。また、皮膚の表面温度も個人差や活動量等によりばらつく。また、人102が存在しない時であって、視野角Φ内に存在する物体の温度が均一である場合には、
図1Bの熱画像103bに示す様に均一な分布となる。
【0053】
次に、空気調和機100の各構成と機能に関して説明する。
熱画像取得部110で取得された温度分布は、熱画像として演算部130に送信される。温度センサ120は、サーミスタや熱電対といった、空間中の一点や部材表面の一点の温度を測定可能なセンサである。温度センサ120は、例えば空気調和機100の空気吸込口等に配置され、周囲温度を測定する。なお、温度センサ120の位置は、空気吸込口等以外の場所に配置しても構わず、ここではその位置を限定するものではない。温度センサ120で検出された周囲温度は、演算部130に送信される。
【0054】
演算部130において、位置特定部131は、熱画像取得部110から送信される熱画像を解析して、空間にいる人102の位置を特定する。人の位置の特定方法については、後述する。人体温度算出部132は、熱画像取得部110から送信される熱画像を解析して、人102に該当すると推定される領域を判断する。そして、人体温度算出部132は、判断した領域を切り出し、切り出した領域の温度の平均値を人体温度として定める(求める)。人の領域の特定方法や、温度の平均値の算出方法については、後述する。差分温度算出部133は、人体温度算出部132で算出された人体温度(A値)と、温度センサ120で検出された周囲温度(B値)とを取得し、両者の差分温度(C値)を求める(即ち、C=A−B)。
【0055】
温冷感推定部134は、差分温度算出部133で算出された差分温度(C値)を取得する。また、温冷感推定部134は、セットポイント設定部135に設定されたセットポイントTcを取得する。そして、温冷感推定部134は、差分温度(C値)とセットポイントTcとを比較することで、人102が暑いと感じているか寒いと感じているか(以後このことを温冷感と呼ぶ)を判断する。
【0056】
ここで、セットポイント設定部135に設定されたセットポイントTcとは、暑くもなく寒くもなく丁度よいと人が感じている時の差分温度(C値)[=人体温度(A値)−周囲温度(B値)]を言う。即ち、
図3に示すように、セットポイントTcよりも差分が小さくなれば、つまり人体温度に対して周囲温度が上昇すれば、その上昇分に応じて人が暖かさや暑さを感じることになる。一方、セットポイントTcよりも差分が大きくなれば、つまり人体温度に対して周囲温度が下降すれば、その下降分に応じて人が涼しさや寒さを感じることになる。このセットポイントTcの値は、例えば、実験によって求められてもよいし、シミュレーションで算出されてもよい。
【0057】
このように、演算部130では、視野角Φ内に存在する人102の位置と温冷感とを推定することができる。推定された人102の位置と温冷感は、制御部160に入力される。制御部160は、演算部130の温冷感推定部134において判断された温冷感に従って、ルーバー171、コンプレッサ172、及びファン173を制御する。例えば、人102が暑いと感じていると判断された場合には、制御部160は、ルーバー171を人102がいる方向に向け、コンプレッサ172とファン173とを動作させて冷風を発生させる制御を行う。こうすることで、人102の周囲温度が下げられることになるため、人102は暑くなくなり、快適に過ごすことができるようになる。
【0058】
このように、人102に該当する領域の平均温度、即ち人体温度(A値)と、人102の周囲温度(B値)との差分温度(C値)を求めて、温冷感を推定することで、次のような効果を有する。
【0059】
一般に、空気調和機では室温を設定することができるが、人の着衣の量は設定できない。例えば夏場の場合、同じ設定温度であっても、薄着であれば人は涼しく感じ、厚着であれば人は暑く感じる等、感じ方は異なる。例えば冬場の場合、同じ設定温度であっても、薄着であれば人は寒く感じ、厚着であれば人は温かく感じる等、感じ方は異なる。即ち、着衣量が異なれば、たとえ周囲温度が同じであったとしても人の温冷感は異なることになる。よって、周囲温度を同じ温度に維持するだけでは、着衣の量に依存して温冷感は変動することになり、空気調和機の設定温度を変える必要があった。
【0060】
本実施形態の様に、着衣の領域も含めた人102に該当する領域の平均温度、即ち人体温度(A値)と、人102の周囲温度(B値)との差分温度(C値)を求めることは、着衣をも考慮した体からの放熱量を推定していることに他ならない。一般に、人が摂取するエネルギー量は毎日ほぼ同程度であるため、体から放熱される熱量もほぼ一定に維持されるのが好ましい。よって、理想的な放熱量に基づき予め決定しておいたセットポイントTcに対して、体からの放熱量の指標である差分温度(C値)を比較することにより、温冷感を推定することができる。温冷感が推定できると、着衣の量を変えたとしても、例えば人102からわざわざ着衣の量を申告させることなく、演算部130において温冷感を精度よく推定し続けることが可能になる。その結果、着衣の量によらず、設定温度をいちいち変える必要もなく快適な空間を提供できるという効果を有する。
【0061】
これ以外の効果として、次の効果が期待できる。本実施形態では、熱画像103aから抽出する値として、人102に該当する領域の平均値を求めている。このため、解像度の粗い画像であっても構わないということが挙げられる。例えば、温冷感推定のために鼻の温度を測定しようとすると、室内において数センチ角の領域を解像するだけの熱画像の解像度が必要になる。しかし、本実施形態であれば、人102に該当する領域の平均値を求めればよいため、そのような高い解像度は不要である。よって、解像度の低い安価な熱画像取得部110でも十分に人102の温冷感を推定可能になるという効果を有する。
【0062】
勿論、制御部160によるルーバー171、コンプレッサ172、及びファン173の駆動量は、差分温度(C値)のセットポイントTcからのずれ量に関わらず一定であってもよいし、ずれ量に応じて変化させてもよい。例えば、ずれ量が大きい場合は、コンプレッサ172やファン173の駆動量を大きくしても構わないし、ずれ量が小さい場合にはコンプレッサ172やファン173の駆動量を小さくしても構わない。
【0063】
また、以下にさらなる変形例を幾つか説明する。
(変形例1)
変形例1は、人の深部体温が一日の中で変動している(一般に「サーカディアンリズム」と呼ばれる)ことに基づいて、セットポイントTcを時間に応じて変動させるものである。
【0064】
図4Aは、変形例1に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図4Aに示す変形例は、演算部130がサーカディアンリズム記憶部136及び時計137の構成をさらに備える。サーカディアンリズム記憶部136には、例えば
図5(a)に示した代表的なサーカディアンリズム(1日において変動する人の深部体温)などが、例えばテーブル形式で記憶されている。時計137は、空気調和機100の内部クロックであり、時刻に関する情報をセットポイント設定部135に与える。セットポイント設定部135は、時計137の時刻を参照し、サーカディアンリズム記憶部136に記憶された深部体温に基づいて、当該時刻に応じた補正を行ったセットポイントTcを設定する。この変形例のように、セットポイント設定部108にて補正したセットポイントTcに基づいて温冷感を推定することで、サーカディアンリズムによる一日の中での人の周囲温度の感じ方の変動にも対応した、快適な環境を維持することができる。
【0065】
なお、一般的に深部体温は、午前より午後の方が高いため、同じ温度であっても午前より午後の方が相対的に暖かく感じることが分かっている。よって、午後のセットポイントTcは高めに設定すればよく、サーカディアンリズムの体温変動量に比例する形でセットポイントTcを補正すればよい。
【0066】
また、
図4Bは、変形例1に関わる空気調和機100の他の構成を示す図である。
図4Bに示す変形例は、内部の時計137を外部の時計190に代えた構成である。この変形例は、人によって起床時間や就寝時間が異なることを考慮するものであり、空気調和機100が備える時計ではなく人が所有している時計190(例えば目覚まし時計)の時刻を参照する。例えば、時計190にセットされた起床時刻に基づいて、サーカディアンリズム記憶部136に記憶するサーカディアンリズムの参照位置を変えることができる。時計190としては、目覚まし時計以外にも寝室の照明や睡眠計等でもよい。睡眠計とは、人の体動等から入眠時刻や起床時刻、睡眠時間や睡眠深度などを推定できる計器である。即ち、寝室の照明がオン/オフされた時刻や睡眠計の値から、起床時間及び就床時間を推定することができる。この変形例のようにすることで、個人毎に最適化された快適な空気調和機を提供することができる。
【0067】
また、
図4Cは、変形例1に関わる空気調和機100のさらに他の構成を示す図である。
図4Cに示す変形例は、サーカディアンリズム記憶部136に複数のサーカディアンリズムを記憶し、サーカディアンリズム判定部138をさらに備えた構成である。サーカディアンリズムは、規則的な生活をしている人は温度変動幅が大きく、不規則な人ほど温度変動幅が小さいと言われている。例えば、
図5(b)に示すように、規則正しい人のサーカディアンリズム(リズム1)と、不規則な人のサーカディアンリズム(リズム2)とをサーカディアンリズム記憶部136に記憶しておく。サーカディアンリズム判定部138は、時計190から得られた起床及び就床時刻に基づいて規則的か不規則かを判定し、判断結果をセットポイント設定部135に通知する。セットポイント設定部135は、サーカディアンリズム判定部138から通知された判定に従って、リズム1又はリズム2のいずれかサーカディアンリズムを選択し、セットポイントTcを設定する。この変形例のようにすることで、人の生活習慣が規則的か不規則かにも応じた、個人毎に最適化された快適な空気調和機を提供することができる。
【0068】
なお、ここでは一例としてサーカディアンリズムを、規則的な生活か不規則かの2通りに分けて示したが、勿論さらに細分化しても構わない。また、
図5に示したサーカディアンリズムは、あくまで模式的な一例であり、体温変動幅等は任意に設定しても構わず、ここではそれを限定するものではない。
【0069】
(変形例2)
変形例2は、運動によって体からの放熱量が増大すると安静時よりも暖かく感じることに基づいて、セットポイントTcを活動量に応じて変動させるものである。
【0070】
図6は、変形例2に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図6に示す変形例は、演算部130が活動量演算部139及びバッファ140の構成をさらに備える。例えば、
図7において、熱画像103cは時刻T1における熱画像で、熱画像103dは時刻T1よりも所定時間後の時刻T2における熱画像であるとする。この時、位置特定部131は、熱画像103cから時刻T1における人102の位置を特定し、また熱画像103dから時刻T2における人102の位置を特定する。バッファ140は、位置特定部131がそれぞれの時刻で特定した人の位置を記憶する。活動量演算部139は、バッファ140に記憶された人の位置の変動量から人102の活動量を推定し、セットポイント設定部135に送信する。セットポイント設定部135は、活動量演算部139で推定された活動量に基づいて、セットポイントTcを補正する。この変形例により、人の活動量に対応した温冷感を推定することが可能になる。推定によって得られた温冷感に基づいて、制御部160は、人の活動量に応じてコンプレッサ172やファン173を制御することができる。これにより、活動していても快適な周囲環境を提供することが可能になる。
【0071】
なお、活動量が多い場合、通常は放熱量が多くなるため、活動量に応じてセットポイントTcを上げるケースが多くなる。また、ここでは人の位置の変動に着目して活動量を推定したが、位置ではなく、例えば手等の高温部の位置をモニターして活動量を推定しても構わない。こうすることで、アイロン掛けする時のように座位で作業している場合等であっても活動量を推定できるため、さらに快適な空気調和機を提供することができる。
また、この変形例2では、活動量を推定する一例として、熱画像における人の位置の変化を用いる手法を説明した。しかし、活動量を推定できるのであれば、熱画像を用いた手法以外の他の手法であってもよく、活動量の推定手法は特に限定されない。
【0072】
(変形例3)
変形例3は、同じ温度であっても夏と冬とでは感じ方が異なることに基づいて、セットポイントTcを季節に応じて変動させるものである。
【0073】
特に、日本の四季は温度差がはっきり現れるため、同じ温度であっても夏と冬では感じ方が異なることが知られている。通常、夏等の暑い季節では体が暑さに慣れるため、高めの周囲温度(例えば28℃)でも適温に感じる様になる。逆に、冬等の寒い季節では体が寒さに慣れるため、低めの周囲温度(例えば20℃)でも適温に感じる様になる。よって、夏場は周囲温度と人の平均温度との差分温度が他の季節と比較して小さくても快適であり、冬場は周囲温度と人の平均温度との差分温度が他の季節と比較して大きい方が快適ということになる。
【0074】
図8Aは、変形例3に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図8Aに示す変形例は、演算部130が暖房/冷房判断部141の構成をさらに備える。暖房/冷房判断部141は、空気調和機100が暖房運転しているか冷房運転しているかといった制御モードを判断する。セットポイント設定部135は、暖房/冷房判断部141における制御モードの判断結果に基づいて、セットポイントTcを補正する。例えば、制御モードが冷房運転であればセットポイントTcを3.0℃に設定し、制御モードが暖房運転であればセットポイントTcを4.0℃と設定する。こうすることで、季節による体の温冷感に対する順応にも適応した、快適な空気調和機を提供することが可能になる。
【0075】
また、
図8Bは、変形例3に関わる空気調和機100の他の構成を示す図である。
図8Bに示す変形例は、暖房/冷房判断部141の構成をなくして、温度センサ120で検出された周囲温度がセットポイント設定部135に入力される構成である。セットポイント設定部135は、温度センサ120で検出された周囲温度(空調によって室内が快適になる前の温度)から現在の季節を推定し、セットポイントTcの補正を行う。勿論、セットポイント設定部135は、季節を推定することなく、温度センサ120で検出された周囲温度に基づいて直接セットポイントTcを補正しても構わない。また、周囲温度は、温冷感推定部134が熱画像から推定した周囲温度(変形例7にて後述)であってもよい。
【0076】
さらに、
図8Cは、変形例3に関わる空気調和機100のさらに他の構成を示す図である。
図8Cに示す変形例は、演算部130がカレンダー部142の構成をさらに備える。カレンダー部142は、日付の情報を有している。セットポイント設定部135は、カレンダー部142から得られた日付から現在の季節を推定し、セットポイントTcの補正を行う。こうすることで、季節による体の温冷感に対する順応にも適応した、快適な空気調和機を提供することが可能になる。
【0077】
(変形例4)
変形例4は、同じ環境にいても人が受ける温冷感に個人差があることに基づいて、個人を判別してセットポイントTcを変動させるものである。
【0078】
熱画像から個人を判別する手法としては、例えば身長を検出することができる。例えば、
図10にXさんの熱画像103e及びYさんの熱画像103fを示す。人の身長は、立ち位置と画像上の人の高さとから、計算で簡単に求めることができる。即ち、画像上の立ち位置が上にあるか下にあるかで、空気調和機100から人までの距離が分かり、さらに取得された人の高さから、身長を計算することができる。熱画像103eのXさんと熱画像103fのYさんとは、身長の違いから個人を判別することが可能になる。
【0079】
図9は、変形例4に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図9に示す変形例は、演算部130が人判別部143及びバッファ144の構成をさらに備える。人判別部143は、熱画像取得部110で取得された熱画像を解析し、上述したように身長から個人の判別を行う。バッファ144は、個人毎(この例ではXさん及びYさん)のセットポイントTcを予め記憶している。このバッファ144は、人判別部143から個人の判別結果を入力し、この個人について記憶しているセットポイントTcをセットポイント設定部135に送信する。
【0080】
ここで、個人毎のセットポイントTcは、次のようにして定めることができる。例えば、熱画像取得部110で熱画像が取得できる位置に個人を立たせ、温度を変化させながら空気調和機100を動作させる。そして、暑くも寒くもないと感じたタイミングで、個人に空気調和機100へ特定の信号を入力してもらう(例えば図示しないリモコンによる送信)。空気調和機100は、特定の信号が入力された時の、温度センサ120で取得した周囲温度や、人体温度算出部132で定められた人体温度等からセットポイントを計算し、このセットポイントを人判別部143で取得した個人の身長情報と合わせてバッファ144に記憶しておく。また、個人毎のセットポイントTcの設定の際には、個人からの自己申告による情報(寒がり、暑がり、冷え症等)を加味してもよい。例えば、冷え症を自己申告したYさんのセットポイントを低めに設定する。このように設定することで、放熱量を相対的に下げる方向で制御するように機能するため、冷え症であっても冷えを感じにくくすることができるとういう効果を有する。
【0081】
このように、セットポイント設定部135は、人判別部143で判別された個人のセットポイントTcをバッファ144から取得して設定する。そして、温冷感推定部134は、この個人のセットポイントTcに基づいて温冷感を判断する。これにより、個人に対して最適化された周囲温度を実現可能な空気調和機を実現することができる。
【0082】
なお、上記実施例では、熱画像取得部110で得られた熱画像から身長を計算して個人の判別を行った。しかし、個人の判別の方法は、この方法に限定されるものではなく他の方法でも構わない。例えば、温度分布の差で個人を判別させても構わないし、別途設けたCCDカメラ等の画像を元に個人を判別しても構わない。
【0083】
[人体温度(A値)の定め方]
次に、演算部130における、人102に該当する領域の平均温度、即ち人体温度(A値)の算出方法を、
図11を参照して説明する。
【0084】
例えば、上で述べた通り、室温が25℃程度の場合、顔面の皮膚温は平均33℃程度、上着102aの温度は27℃程度、両手(露出部)の温度は30℃程度、ズボン102bの温度は28℃程度、両足(露出部)の温度は29℃程度になる。よって、温度センサ120で検出した周囲温度と比較して所定温度以上の領域を、人102に該当する領域とするができる。このようにして、演算部130は、人体温度(A値)を算出するための人の領域や、制御部160に出力する人102の位置に関する情報を算出する。
【0085】
例えば、この場合は周囲温度(25℃)よりも1℃以上高い画素部分を人102であると推定すると、
図11(a)で示した太線で囲む領域を人に該当する領域とすることができる。このように、所定以上の画素部分を人に該当する領域として決めてもよい。またこれに加えて、26℃以上の画素部分が所定数以上連続していることを、人の領域を特定するための条件として追加しても構わない。例えば
図11(b)の様に、熱画像内に、点灯時に26℃以上で発熱する照明器具等の領域が含まれる場合がある。このように場合であっても、例えば26℃以上の画素が10画素以上連続した領域を人物として認識するようにしておけば、これらの照明器具等の発熱物体を人として検出することはなくなる。よって、精度の高い人検出が可能になるため、確実に温冷感を推定し、快適な周囲環境を提供することができる。
【0086】
さらに、上述した実施例では、周囲温度に対して1℃以上の領域を人に該当する領域として設定したが、下限温度だけではなく、上限温度を設定しても構わない。例えば、上限温度を40℃とし、40℃よりも高い領域は人に該当する領域としないとすることができる。この場合、例えば
図11(c)の様に、胸部のポケットにスマートフォン等の人体の代謝等以外の要因で発熱している物体が存在したとして、その領域が40℃よりも高い場合には、その領域を人に該当する領域から除外しても構わない。こうすることで、人が代謝により放熱させている量を正確に見積もることができるため、さらに精度よく温冷感を推定できることになり、より快適な周囲環境を提供することができる。
【0087】
なお、この実施例では、周囲温度に対して1℃以上高いか否かを閾値として人に該当する領域を設定したが、勿論周囲温度によらず例えば26℃と決めても構わないし、自由に設定することができる。また、連続する画素数としても、ここでは一例として10画素としたが、勿論これは10画素に限定するものではなく、使用する熱画像取得手段の仕様等に応じて適宜設定すればよい。また、上限温度としても40℃としたが、勿論これもあくまで一例であって、他の温度に設定しても構わず40℃に限定するものではない。その他にも、時系列的に取得される熱画像を比較し、動きのあった部分を人102に該当する領域としても構わず。ここではその手段を限定するものではない。
【0088】
なお、ここでは、最適な構成として、演算部130の内部では熱画像から人102に該当する領域の温度平均値を人体温度(A値)として定めて(求めて)、人102の温冷感を推定した。しかし、周囲温度との差分を取ることによって着衣を含めた放熱量を推定できるのであれば、その他の値を人体温度としても構わない。例えば、人102に該当する領域の温度の積分値でも構わないし、同じく最大値でも構わず、その他最頻値や中央値等でも構わず、ここではそれを限定するものではない。
【0089】
なお、ここまでは、周囲温度が25℃程度の場合に関して記載していた。しかし、周囲温度が例えば33℃程度と高くなった場合、顔面の皮膚温が平均33℃程度であるのに対し、上着102aやズボン102bの温度も、周囲温度とあまり差がなくなり両方とも33℃程度になる。また、両手(露出部)や両足の温度も、周囲温度と同等になるため、熱画像上で人102の領域を検出するのが難しくなる。
【0090】
しかし、通常周囲温度が33℃程度であれば、皮膚等からの放熱がなく体に熱が篭もっている状況である。このため、この場合には、演算部130で温冷感や人の位置を判断せず(演算せず)に、制御部160が周囲温度を直接判断して冷房運転を開始しても構わない。この時の構成を
図12に示す。このように、周囲温度が所定温度以上であった場合に、温冷感に関係なく冷房を開始して周囲温度を所定温度(例えば33℃)以下にする。周囲温度が所定温度以下(所定の温度域)になれば、人の領域を判別することができるようになるので、演算部130で温冷感を推定して快適な周囲環境を提供することができるようになる。
【0091】
なお、ここでは所定温度を33℃として説明したが、これに限定するものではない。人の顔面等の露出部位の表面温度よりも低い温度であれば、所定温度をもっと低めに設定しても構わないし、ここではその温度や範囲を限定するものではない。これまでに述べた温冷感推定部134によって温冷感を推定して制御部160を制御する処理は、周囲温度によらず(温度範囲を限定せず)実行される。しかし、例えば、周囲環境が10℃であれば誰もが寒く感じ、周囲環境が30℃であれば誰もが暑く感じる。このことから、温度センサ120で測定された周囲温度が所定の範囲内である場合に限定して、温冷感推定部134によって温冷感を推定して制御部160を制御してもよい。そして、その所定の範囲以下の周囲温度であった場合には誰もが寒いと感じるとして、温冷感推定を行わずに暖房運転を行っても構わず、その範囲以上の周囲温度であった場合には誰もが暑いと感じるとして、温冷感推定を行わずに冷房運転を行っても構わない。こうすることで、演算部130による計算の負荷を減らすことになり、消費電力の少ない空気調和機を提供することができる。なお、ここでは、温冷感推定を行う周囲温度の範囲として10℃から30℃としたが、勿論この範囲に限定するものではなく、趣旨から逸脱しない範囲で自由に設定しても構わない。また、上記で述べた所定温度範囲内に限定して温冷感推定を行う効果は、温冷感推定手法に依存するわけではなく、本実施例で述べた温冷感推定手法以外の手法であっても同様な効果を有することは言うまでもない。
【0092】
また、人が視野角Φの範囲内に存在しない時の熱画像(基準熱画像)を事前に取得しておき、演算部130において、実際に取得された熱画像と基準熱画像との差分を取ることにより、人体温度(A値)と周囲温度(B値)との差分である差分温度(C値)を直接求めることができる。このことを、
図13及び
図14を用いて説明する。
図13(a)に示す熱画像103gは、人102が視野角Φ内に存在しない場合に取得された基準熱画像である。視野角Φ内に照明器具が存在していたため、照明器具の領域に高い温度の領域が存在する。この基準熱画像は、
図14に示す構成において、背景データバッファ145に保存される。次に、
図13(b)に示す熱画像103hは、視野角Φ内に人102が存在する場合に取得された熱画像である。熱画像103hは、差分処理部146に送出される。差分処理部146は、熱画像103hと背景データバッファ145に保存されている熱画像103gとの差分を取得する。その画像が
図13(c)に示す熱画像103iになる。この熱画像は、すでに周囲温度の分が差し引かれているため、
図2の構成の様に演算部130内で引き算処理を行ってC値を求める必要がない。得られた熱画像103iに対して、所定温度以上の領域を人102に該当する領域として、各画素の平均値を取得することにより差分温度(C値)を求めることができる。そして、求めた差分温度(C値)に基づいて温冷感推定部134において温冷感を推定することができる。
【0093】
こうすることにより、温度センサ120が不要になるため、さらに安価に空気調和機を構成することができるという効果を有する。また、照明器具等の発熱物体があったとしても、差分を取ることにより確実に人に該当する領域を検出することができる。また、ここでは視野角Φ内に人がいるかいないかを、取得された熱画像を時系列的に比較し、所定時間以上変動がない場合には、人がいないとして判断してもよい。所定時間とは例えば5分程度が適当であるが、仕様に応じて適宜設定しても構わないし、調整できるようにしておいても構わない。
【0094】
また、空気調和機100は、通常は人102の位置より高い位置に存在し、通常は高い位置の温度の方が高い温度になる。このため、温度センサ120で測定された値に対して一定温度低い値を周囲温度(B値)として設定しても構わない。また、空気調和機100が設置される高さや位置やその他の条件に応じて、温度センサ120で測定された値に対して一定温度をオフセットして周囲温度(B値)と設定しても構わない。
【0095】
また、以下にさらなる変形例を説明する。
ここで空気調和機100は、さらに受信機180を有している。上記実施例では、温度センサとして空気調和機100に搭載されている温度センサ120を用いていたが、ここでは空気調和機100とは別に設けられた温度センサで測定した場合に関して説明する。
【0096】
(変形例5)
図15Aは、変形例5に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図15Aに示す変形例は、空気調和機100とは別にリモコン191が設けられた構成である。リモコン191は、温度センサ193と発信機194とを備えている。通常、リモコン191は、空気調和機100の動作のオンやオフ、風向、風量、温度調整等で用いられるが、この変形例5では、リモコン191内に温度センサ193を追加して、周囲温度を測定することとした。
【0097】
温度センサ193で測定された周囲温度は、発信機194に送出され、そこから空気調和機100内にある受信機180に対して無線送信される。その後の動作は、上述した内容と同じである。通常、リモコン191の位置は、空気調和機100の本体よりは室内にいる人に近い位置にあるため、リモコン191で測定された温度は、より室内にいる人の周囲温度に近い温度となる。よって、演算部130にて推定される温冷感もより精度が向上することになり、さらに快適な周囲環境を提供することができる。
【0098】
(変形例6)
図15Bは、変形例6に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図15Bに示す変形例は、空気調和機100とは別にウェアラブル端末192が設けられた構成である。ウェアラブル端末192は、リモコン191と同様、温度センサ193と発信機194とを備えている。ウェアラブル端末192は、室内にいる人が装着している。ウェアラブル端末192としては、例えばブレスレット型の活動量計等様々なものがあり、それ以外でもスマートフォンでも構わないし、腕時計型のスマートウォッチ等でも構わないし、スマートグラス等以外のものでも構わない。こういった身の回りに付ける装置に取り付けられている温度センサ193で測定された周囲温度を発信機194から空気調和機100の受信機180に送信する。その後の動作は、上述した内容と同じである。
【0099】
このように、ウェアラブル端末192等の身の回りに付ける装置で測定された周囲温度は、人の周囲温度を直接測定していることになるため、演算部130内にて推定される温冷感の精度はさらに向上されることになり、さらに快適な周囲環境を提供することが可能になる。
【0100】
(変形例7)
周囲温度を、温度センサではなく熱画像から推定する場合を説明する。
図16は、変形例7に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図16の構成は、温度センサ120に代えて周囲温度推定部147を備えることが、
図2の構成と異なる。周囲温度推定部147は、熱画像取得部110から熱画像を入力し、周囲温度(B値)を算出する。ここでは、周囲温度推定部147での処理を説明する。
【0101】
図17(a)は、熱画像取得部110で撮影された熱画像103jであり、人102と照明器具に該当する領域が含まれているとする。また、周囲温度は23℃程度、顔面の皮膚温は平均33℃程度、上着102aの温度は27℃程度、両手(露出部)の温度は30℃程度、ズボン102bの温度は28℃程度、両足(露出部)の温度は29℃程度とする。
【0102】
周囲温度推定部147において、この熱画像103jのヒストグラムを計算する。そのヒストグラムを
図17(b)に示す。上で説明した例の様に、この中で26℃から40℃までを人に該当する領域とし、それ以外を室内の背景領域と考えることができる。そして、この人102に該当する以外の最頻値である23℃を周囲温度(B値)として検出する。この熱画像103jにおいては、人に該当する以外の領域においては、照明器具に該当する領域も存在するが、一般に室内の人以外の発熱体の割合は少ないため、人に該当する以外の領域における最頻値を取得することで、精度よく周囲温度を求めることができる。こうすることで、温度センサ120を省略することができるため、さらに安価な空気調和機を提供することが可能になる。
【0103】
(変形例8)
空気調和機100に搭載している温度センサ120(例えば
図2の構成)で測定した温度に、ヒストグラム計算を応用してもよい。例えば、温度センサ120の温度精度が±2℃で、さらに温度センサ120で測定した温度が例えば
図17(c)の様に24℃であった場合、24℃±2℃内における熱画像103jのヒストグラム内の最頻値(
図17(c)では23℃)を、周囲温度(B値)としても構わない。こうすることで、さらに精度よく周囲温度(B値)を推定することができる。また、通常、空気調和機は、室内でも高い位置に取り付けられることから、人の周囲温度よりも温度センサ120で測定される温度の方が高いことが多い。よって、温度センサ120で測定された温度から所定温度が低い温度に対して測定ばらつき等を加味した範囲を、周囲温度(B値)の存在範囲としても構わない。
【0104】
(変形例9)
熱画像から周囲温度を推定する他の方法を説明する。
図18(a)は、空気調和機100が室内の壁面に取り付けられた状態を示しており、熱画像取得部110は上下方向の視野角θを有している。この上下方向の視野角θの中には、室内の天井104と床105が含まれる様に、熱画像取得部110が配置されている。また、室内には人102が立っており、熱画像取得部110の上下方向の視野角θの内部に入っている。この状態で熱画像取得部110が取得した熱画像を、熱画像103kとして
図18(b)に模式的に示す。熱画像103kには、人102に該当する領域の他に、天井104に該当する領域と床105に該当する領域とが両方とも存在している。ここで、床105に該当する領域の温度と、天井104に該当する領域の温度を取得し、平均した値を人102の周囲温度としても構わない。一般に、暖かい空気は上昇するため、天井の温度は床の温度と比較して暖かい。人が存在する位置の周囲は、天井と床のほぼ中間に位置するため、天井104に該当する領域の温度と床105に該当する温度との平均を取得することで、高精度に周囲温度を推定することが可能になる。こうすることで、温度センサ120を省略することができるため、さらに安価な空気調和機を提供することが可能になる。
【0105】
なお、床105に該当する領域は、人102の立ち位置付近の温度としてもよく、天井104に該当する領域の温度は、熱画像103kの最も上のラインにある画素の中から抽出しても構わないし、その選択の仕方は限定しない。また、ここでは、天井104に該当する領域の温度と、床105に該当する領域の温度との平均値としたが、平均値以外でも構わず、例えば低い位置での温度を推定する場合は、床105に該当する領域の温度の割合を高くし、逆に高い位置での温度を推定する場合は、天井104に該当する領域の温度の割合を高くして計算しても構わず、その計算手法も限定するものではない。
【0106】
(変形例10)
ここまでは、人102に対して通常の正面の熱画像に対して述べてきたが、実際の室内における状況は、これ以外にも様々な状況が考えられる。ここでは、他の状況として、後ろを向いている場合と、寒い所から入出したばかりの状況に関する演算部の演算方法を説明する。
【0107】
図19(a)の熱画像103mは、正面を向いた人102の熱画像である。
図19(b)の熱画像103nは、後ろを向いた人102の熱画像である。
図19(c)の熱画像103pは、寒い所から入室した直後における正面を向いた人102の熱画像である。
図20Aは、変形例10に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図20Aに示す変形例は、演算部130の人体温度算出部148の構成が
図2の構成と異なる。
【0108】
人体温度算出部148は、熱画像取得部110から送信される熱画像を解析して、人102に該当する領域の温度の平均値(A値)を求める。また、人体温度算出部148は、人102に該当する領域の温度の最大値(D値)を求める。そして、人体温度算出部148では、温度の平均値(A値)と温度の最大値(D値)から、熱画像内の人102が現在どういう状態にあるかを判別する。例えば、温度の平均値(A値)が所定の範囲内(例えば25℃±3℃)に入っておらず22℃以下であった場合は、寒い所から入室したばかりで体全体が冷えていると判断される。同様に28℃以上であった場合は、暑い所から入室したばかりだと判断する。温度の平均値(A値)が25℃±3℃の範囲にあり温度の最大値(D値)が例えば31℃以下であった場合、後ろを向いていると判断される。これは通常は顔の温度は33℃程度であるが、それ以下の温度であると、顔の温度を測定できていないと考えられるため、後ろを向いていると判断される。
【0109】
このように、温度の平均値(A値)と最大値(D値)とを組み合わせることで、人102がどういう状態にあるのかを推定することができる。よって、
図19(c)に示す熱画像103pに対しては、
図19(d)に示す様に、温度の平均値(A値)が25℃±3℃の範囲外であるため、寒い所から入室した状態と判断される。熱画像103nに対しては、温度の平均値(A値)は25℃±3℃の範囲内であるが、温度の最大値(D値)が31℃以下であることから、過渡状態にはなく後ろを向いていると判断される。熱画像103mに対しては、温度の平均値(A値)は25℃±3℃の範囲内であり、温度の最大値(D値)も31℃以上であることから、過渡状態にはなく正面を向いていると判断される。
【0110】
正面を向いていると判断された熱画像103mに対しては、温度の平均値(A値)を人体温度算出部148における計算結果、即ち人体温度(E値)とすればよい。一方、熱画像103pの様に寒い所から入室した状態と判断された場合は、温冷感推定をせずに直接制御部160に指令を出して、人102を温めればよい。また、熱画像103nの様に後ろを向いていると判断された場合には、温度の平均値(A値)に対して所定の値だけ定数倍した補正値を人体温度(E値)とすればよい。このように設定された人体温度(E値)と温度センサ120から得られた周囲温度(B値)との差分を取って差分温度(C値)を求め、温冷感推定部134において温冷感を推定して制御する。こうすることで、人の過渡状態や、正面を向いていない状態であっても、人の温冷感に応じた制御を行うことができる。
【0111】
なお、
図20Bの構成のように、人体の状態を判断できる人体状態判断部149を有していれば、人体温度算出部148で温度の平均値(A値)を補正しなくてもよい。つまり人体状態判断部149で人102が後ろを向いていると判断された場合、セットポイント設定部135によってセットポイントTcの値を補正することで、温冷感推定しても構わないし、寒い所から入室した状態と判断されたなら、やはり温冷感推定をせずに直接制御部160に指令を出して、人102を温めても構わない。
【0112】
なお、上記において、人体温度算出部148や人体状態判断部149にて温度の平均値(A値)や最大値(D値)から人の状態を判断する基準として、温度範囲25℃±3℃や、最大値31℃といった判断基準を示した。しかし、勿論これらの温度は一例であって、他の値を採用しても構わない。
【0113】
さらに、人体状態判断部149にて、人102が所定期間(例えば10分程度)以上後ろを向き続けていると判断された場合は、図示しない警告手段により、空気調和機100の熱画像取得部110の方を向くように、人102に対して警告をしても構わない。こうすることで、セットポイントTcを変更したり、温度の平均値(A値)を補正したりすることなく、正確に温冷感を推定することができるようになるため、快適な周囲環境を提供することができる。なお、警告手段としては、音声で案内することの他に、本体に搭載した、図示していない表示ランプ等を点灯させることでも構わないし、リモコン等にその旨を表示しても構わないし、他の手段でも構わず、ここではその手段を限定するものではない。また、警告を出す所定期間も10分でなくても構わず、長くても短くても構わない。
【0114】
(変形例11)
ここまでは熱画像における人に該当する領域の全体を1つの括りとして処理してきたが、この変形例では人に該当する領域を複数の人体部位に区分して処理した場合の例を説明する。
図22は、変形例11に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図22に示す変形例は、演算部130が部位判別部150及び重み付け加算部151を備える。
【0115】
例えば、冷え症である人は、特に手足の温度が周囲温度に影響されやすく、周囲温度と近い温度になってしまう。この場合、手や足といった部位と周囲温度との差は小さくなってしまうため、そのままでは放熱量が小さいと判断される。そこで、この変形例では、人体部位毎に重み付けを与えることを行う。部位判別部150は、例えば
図21に示す様に、人102に該当する領域において頭部、胴体部、手部、足部、足先部を判別し、5つの人体部位に区分する。そして、部位判別部150は、区分した複数の人体部位毎に温度の平均値を計算する。重み付け加算部151は、部位判別部150によって算出された人体部位毎の温度平均値を入力し、人体部位毎の温度平均値に対して重み付けを与える。差分温度算出部133は、重み付けされた温度の平均値(F値)と、周囲温度(B値)とから差分温度(C値)を求める。なお、人体部位毎の温度平均値を算出しなくてもよく、各人体部位に含まれる全画素の温度にそれぞれ重み付けを与えても、結果として同じ温度平均値(F値)が得られる。
【0116】
ここで、露出している人体部位(露出部)である手部と足先部の重み付けを小さくした場合、より人の温冷感を正確に反映できる様になり、精度よく温冷感を推定できるようになる。なお、ここでは人体部位として頭部、胴体部、手部、足部、足先部の5つとしたが、この5つの人体部位への判別に限定するものではなく、もっと多くの人体部位へ判別しても構わないし、少なくても構わない。さらに、人体部位毎の重み付けは、
図9で示した様な人判別部143と組み合わせて行ってもよい。即ち、人判別部143で判別された個人毎に異なる人体部位毎の重み付けを与えてもよい。この場合には、重み付けの係数をバッファ144内に持たせても構わない。
【0117】
(変形例12)
図23は、変形例12に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図23に示す変形例は、演算部130が重み付け加算部151及び温度範囲分割部152を有している。
【0118】
温度範囲分割部152は、取得された熱画像における人102に該当する領域を、
図24の様に複数(
図24では6つ)の温度範囲に分割する。さらに、温度範囲分割部152は、各温度範囲内の画素数が何画素あるかを分析する。重み付け加算部151は、温度範囲分割部152で分割された各範囲に対して重み付けを与える。例えば、分割された温度範囲の中で、外気温に近く比較的低温の範囲の重み付けを小さくしても構わない。そして、重み付け加算部151は、重み付けされた各温度範囲の平均値を人体温度(F値)として算出する。差分温度算出部133は、重み付け加算部151で算出された人体温度(F値)と周囲温度(B値)とから差分温度(C値)を求める。これにより、手部や足先部が冷えている場合でも、より正確に温冷感を推定できるようになる。
【0119】
なお、ここでは、冷え症の対策として、人102に該当する領域の中で、低温側の重み付けを小さくした。しかし、この重み付け係数は目的に応じて任意に変更してよく、ここではその係数や分割数を限定するものではない。
【0120】
(変形例13)
次に、人102が机106の後ろに座っている時の処理に関して説明する。
図26は、変形例13に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図26に示す変形例は、演算部130が間取り推定部153を有している。
【0121】
リビング等の室内においては、机や棚等の家具が配置されることにより、熱画像取得部110で撮影された熱画像において、体の一部が遮られて撮影される場合がある。例えば、
図25(a)の様に人102の下半身が机106で遮られている場合に熱画像を撮影すると、
図25(b)の熱画像103rの様にやはり下半身は遮られて撮影される。なお、
図25(b)内の点線は、机106の配置を示すために追記したものであり、温度情報を示すものではない。そこで、間取り推定部153は、熱画像取得部110から得られた熱画像から部屋の間取りを推定し、推定した間取りから、得られた人102の表面温度情報が全身の温度情報か、体の一部の温度情報かを推定する。熱画像103rの様に体の上半身のみの画像である場合、人102と判断される領域内で、比較的温度の高い顔面部の領域の割合が高くなるため、人102の表面温度の平均値は、体全身の表面温度の平均値よりも高くなる。よって、間取り推定部153は、熱画像103rが体の上半身のみの画像であると推定した場合、セットポイント設定部135にて設定するセットポイントTcを高くする。これにより、机106や棚等の家具が配置されるような場合であっても、正確に温冷感を推定することが可能になる。よって、より実態にあった空気調和機の制御を実現することができる。
【0122】
なお、熱画像において人と判別された領域の一番下側の位置は、足部であると予想できる。よって、間取り推定部153は、例えば熱画像取得部110で取得された熱画像において人と判別された領域の一番下側の位置をプロットし続け(つまり、人が歩いた軌跡を求め)、領域内でプロットされない領域を机等の家具が配置されている領域であると学習することで、間取りを推定することが可能になる。勿論推定の仕方はこの方法に限定するものではなく、図示しないCCDカメラ等で撮影して、画像認識により推定しても構わず、ここではその手法を限定するものではない。
【0123】
(変形例14)
次に、横を向いている人の温冷感推定に関して説明する。
図28は、変形例14に関わる空気調和機100の構成を示す図である。
図28に示す変形例は、演算部130が人の向き推定部154を有している。
【0124】
人が横を向いている場合、正面を向いている場合と比較して、比較的温度の高い顔面部の領域の割合が低くなるため、熱画像から求められる人の表面温度の平均値は低くなる。そこで、人の向き推定部154は、熱画像取得部110から得られた熱画像から人の向きを推定する。例えば、熱画像103sから、人102が右側を向いていると推定した場合、人の向き推定部154は、熱画像103sから計算された表面温度の平均値が低く計算されているとして、セットポイント設定部108にて設定するセットポイントTcを低くする。これにより、人が正面を向いていない場合であっても、正確に温冷感を推定することができる。よって、より実態にあった空気調和機の制御を実現することができる。
【0125】
なお、人の向き推定部154では、例えば人が横を向いている場合、熱画像103sの様に人102と認識された上部の温度分布が、左右非対称になることが分かる。よって、画像上部の温度分布から人の向きを推定することができる。なお、ここでは横を向いている場合に関して説明したが、勿論後ろを向いている場合も可能である。例えば、人の顔面の温度は通常33℃程度であるが、人に該当する領域内で上部の温度分布の最大値が33℃よりも大幅に低い場合、髪の影響により温度が低く測定されていると推定される。よって、その場合は、後ろを向いていると推定することができる。勿論、人の向きを推定する方法は他の方法でも構わず、例えば図示しないCCDカメラ等で撮影して、目の位置を認識する等により画像認識により推定しても構わず、ここではその手法を限定するものではない。
【0126】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る空気調和機200は、第1の実施形態で示した空気調和機100において、人102から視認できる位置に通知部210を取り付けた構成である。
【0127】
図29は、本発明の第2の実施形態に係る空気調和機200の外観を概略的に示した図である。
図29において、空気調和機200は、筐体の前面に取り付けられた熱画像取得部110と、内部に取り付けられた演算部230と、制御部160とを含んでいる。熱画像取得部110は、第1の実施形態で説明した構成と同じであり、左右方向の視野角Φを有しており、空気調和機200の前方空間に存在する物体の二次元的な熱画像を測定することができる。取得できる熱画像は、第1の実施形態で述べた熱画像と同様であるため、ここでの改めての説明は割愛する。
【0128】
次に、空気調和機200の構成と機能に関して、
図30を用いて説明する。熱画像取得部110で取得された人の温度分布を含んだ熱画像は、演算部230に送信される。演算部230は、熱画像取得部110から入力する熱画像から、人102の位置を特定し、かつ、温冷感を推定する。演算部230で行われる温冷感の推定は、上記第1の実施形態の様に、人体温度と周囲温度との差分から推定しても構わないが、他の方法として、熱画像から取得された人の手や鼻の温度から推定しても構わず、また必ずしも熱画像から推定しなくてもよく、ここではその方法は限定しない。
【0129】
演算部230で推定された人102の温冷感と位置とに基づいて、制御部160は、ルーバー171、コンプレッサ172、ファン173を制御して、人102の周囲温度を快適に保つように動作する。加えて、本実施形態においては、演算部230で推定された人102の温冷感を、通知部210に与える。通知部210は、空気調和機200の本体に設けられた表示部、例えばLEDを含む。このLEDは、演算部230で推定された人102の温冷感に基づき、発光する色を変えることを行う。例えば演算部230で、人102が快適だと推定すると緑色で発光し、暑いと推定すると赤やオレンジ色等の暖色系で発光し、寒いと推定すると青や水色といった寒色系で発光する。
【0130】
こうすることで、人102は今空気調和機200が、自分の温冷感をどのように推定しているのかを即時に判断することができる。よって、今後さらに強く空調されるのか、もしくはほぼ快適に近づいているため、今後空調は弱まるのかを予測することができるため、不安を感じなくなるという効果を有する。
【0131】
また、もし通知部210に表示されている温冷感と、自分が今感じている温冷感に差があった場合は、例えば
図31に示すようなリモコン291を通して、演算部230内のセットポイント設定部135で設定されるセットポイントTcを変更する(温冷感を補正する)ことができる。例えば、通知部210が緑色で発光している(快適であると推定している)場合であっても、人102が暖かいと感じた時には、リモコン291の「暖かい」というボタンを押して修正を指示できる。ボタンの押し下げに応じてリモコン291から送信される信号は、
図32の構成で示す受信機280が修正受付部として受信し、受信した信号が演算部230内のセットポイント設定部135に転送される。例えば、第1の実施形態で示した様に、人体温度と周囲温度との差分に基づいて温冷感を推定する場合、閾値であるセットポイントTcをやや大きく設定すれば(変更すれば)よいことになる。こうすることで、制御部160は、コンプレッサ172の温度を低下させることで、人102の周囲温度は低下することになり、快適に過ごすことが可能になる。
【0132】
以上のように、リモコン291等で今感じている温冷感を空気調和機200内のセットポイント設定部135に認識させることで、個人毎に最適化された快適な周囲環境を提供することが可能になる。またこの時、第1の実施形態の
図9で示した様に、設定した個人を特定し、温冷感の設定をバッファ144に記憶させても構わず、こうすることにより使用する個人に最適化された、快適な空気調和機を実現することができる。
【0133】
なお、上記では発光する色としては3色であったが、勿論、セットポイントTcからのずれ量に応じて、発色の色をアナログ的に変更しても構わないし、他の色を用いても構わない。
【0134】
また、上記例では、人の温冷感の通知を通知部210に設けられたLEDを用いて説明したが、それ以外であっても例えばリモコン291が設ける表示部に文字等で表示しても構わない。即ち、
図34の様に、演算部230で推定された温冷感を、発信機294からリモコン291に向けて発信し、受信したリモコン291は、
図33の様に、受信した結果を表示部の画面上に表示しても構わない。こうすることにより、人102は今空気調和機200が、どう推定しているのかを即時に判断することができる。よって、今後さらに強く空調されるのか、もしくはほぼ快適に近づいているため、今後空調は弱まるのかを予測することができるため、不安を感じなくなるという効果を有する。また、勿論
図35の様に、取得した熱画像を元に、複数名の温冷感が分かるように表示しても構わない。なお、ここでは通知部210としてリモコン上では文字で、空気調和機上ではLEDの色で温冷感を表示しているが、通知する手段としてはこれ以外でも構わず、スマホやタブレット等ここではその手段を限定するものではない。
【0135】
例えば、演算部230が、熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に、空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像を生成し、通知部210が、表示部に補正画像を表示させることで、空間にいる人の温冷感を空間にいる人に通知してもよい。これにより、リモコンの表示部などの小さな表示領域内に、その人に関する温冷感推定結果を表示することができる。また、例えばシステムに温冷感推定の機能が搭載されていることを知らないユーザにとっても、当該表示が自分に対する温冷感をシステムが推定した結果の表示であることを認識できる。
【0136】
また、通知部210は、ネットワークを介して空気調和機200以外の端末に、その端末の表示部に空間にいる人の温冷感を表す画像、文字、又は記号を表示する旨のコマンドを通知してもよい。ここで、空気調和機200以外の端末とは、スマートフォンやタブレットなど、表示機能や通信機能を備えた端末であればいかなるものでも良い。これにより、ユーザはわざわざリモコンを手に持つことなく、常に保持しているスマートフォンなどで現在の温冷感推定状況を把握できる。
【0137】
また、通知部210は、ネットワークを介して空気調和機200以外の端末に、熱画像と、演算部230が特定した人に該当する領域の座標に関する情報と、演算部230が生成した熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像をその端末の表示部に表示する旨のコマンドとを、送信してもよい。すなわち、空気調和機200は、必要な情報を外部の端末に送るだけで、補正画像の生成及び表示は外部の端末で行う。これにより、空気調和機200にて補正画像を生成するなどの重い処理をすることがないので、空気調和機200側の処理量が軽減される。
【0138】
また、演算部230が、熱画像内における人に該当する領域の座標の周辺に、空間にいる人の温冷感を表す文字又は記号を重畳させた補正画像を生成し、通知部210が、ネットワークを介して空気調和機200以外の端末に、その端末の表示部に補正画像を表示する旨のコマンドを通知してもよい。すなわち、空気調和機200が必要な補正画像を生成し、外部の端末はこれを表示する処理のみを行う。これにより、外部の端末に補正画像生成のための特別なアルゴリズムを記憶させておく必要なく、ユーザは現在の温冷感推定状況を把握できる。
【0139】
さらには、演算部230は、人に該当する領域の温度分布に基づいて空間にいる人の温度である人体温度を定め、人体温度と、人に該当する領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値に基づいて、空間にいる人の温冷感を推定してもよい。
【0140】
なお、上記第1及び第2の実施形態では、位置特定部131が熱画像取得部110で取得された熱画像から人の位置を特定する例を説明した。しかし、人の位置を特定する方法は、この方法に限定されるものではなく他の方法でも構わない。例えば、空気調和機100及び200などに別途設けたセンサ(焦電センサ、カメラ、ミリ波レーダ等)の情報に基づいて、人の位置を特定しても構わない。
【0141】
また、上記第1及び第2の実施形態にて、位置特定部131が特定した人の位置に関する情報を人体温度算出部132に出力してもよい。これにより、人体温度算出部132が行う「熱画像を解析して、人102に該当すると推定される領域を判断」する処理を軽減もしくは割愛してもよい。
【0142】
[応用形態]
上記第1及び第2の実施形態では、熱画像を取得する構成及び/又は人の温冷感を推定する構成を組み込んだ空気調和機を説明した。しかし、熱画像を取得する構成及び/又は人の温冷感を推定する構成をモジュール化して別個の構成とすることも可能である。
【0143】
例えば、
図36に示すように、熱画像取得部110、人体温度算出部132、差分温度算出部133、温冷感推定部134、及びセットポイント設定部135をモジュール化して、汎用性を持った熱画像センサシステム300を形成することができる。このようにモジュール化すれば、熱画像センサシステム300を搭載する空気調和機の小型化や低コスト化が期待できる。このように汎用性を持たせた熱画像センサシステム300では、差分温度算出部133に必要な周囲温度を、空気調和機が本体又はリモコンに備える温度センサから供給してもよいし、例えば周囲温度推定部147を構成に含めて、熱画像取得部110で取得された熱画像から推定してもよい。このようにモジュール化して別個の構成にすれば、熱画像センサシステム300を空気調和機以外の装置に搭載することもできる。空気調和機以外の装置は、例えばカメラ、照明機器、又はスマートフォン等の携帯端末等であり、特に限定しない。
【0144】
また、人の温冷感を推定する構成をソフトウェアとして別個の構成とすることも可能である(図示せず)。すなわち、人体温度算出部132、差分温度算出部133、温冷感推定部134、及びセットポイント設定部135に関する処理(プログラム)が書き込まれた記録媒体(ディスク、外付けメモリ等を含む)であってもよい。また、人体温度算出部132、差分温度算出部133、温冷感推定部134、及びセットポイント設定部135に関する処理(プログラム)を、ネットワークを介して提供する行為も含むものとする。この場合、当該ソフトウェアを処理する主体は、空気調和機に搭載される演算部であってもよいし、PC(パーソナルコンピュータ)やスマートフォン等に含まれる演算部であってもよいし、ネットワークを介してクラウドサーバ等で処理をしてもよい。この場合、熱画像に関する情報は外部から取得すればよい。
【0145】
ここで説明したモジュール化もしくはソフトウェアとして別個の構成にする例は、上で説明した例に限られず、演算部130又は演算部230に含まれる構成のうち一部の構成をモジュール化もしくはソフトウェアとして、別個の構成にすればよい。
【0146】
なお、上で述べた実施の形態に示す構成は一例であって、発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができるのは言うまでもない。また、上で述べた各実施の形態やそれらを変形した発明を組み合わせて用いることも勿論可能である。
【解決手段】空間の空調制御を行う空気調和機であって、空間の温度分布を表す熱画像を取得する熱画像取得部と、熱画像取得部が取得した熱画像内において着衣の領域も含めた人に該当する二次元の領域である二次元人体領域を特定し、二次元人体領域の温度分布に基づいて空間にいる人の着衣も含めた温度である人体温度を定め、着衣も含めた人からの放熱量の指標として、人体温度と、二次元人体領域以外の領域の温度から得られる周囲温度との、差分値を算出し、その差分値に基づいて空間にいる人の温冷感を推定する演算部と、演算部が推定した空間にいる人の温冷感に基づいて、空気調和機を制御する制御部とを備え、演算部は、人体温度と周囲温度との差分値と、所定の閾値との、差に基づいて、人の温冷感を推定する。