(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
仕込み工程の前に、有機アミド溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程を配置する請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、硫黄源1モル当り0.75〜0.98モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、有機アミド溶媒1kg当り0.1〜5.5モルの水を含有する混合物を調製する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、硫黄源1モル当り0.95〜1.2モルのジハロ芳香族化合物を含有する混合物を調製する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
前段重合工程において、仕込み工程で調製した混合物を温度170〜270℃に加熱して重合反応させる請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98%のプレポリマーを生成させる請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
後段重合工程において、硫黄源1モル当りのアルカリ金属水酸化物の合計量が1.01〜1.1モルとなるように、アルカリ金属水酸化物を添加する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
後段重合工程において、反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する請求項1乃至11のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
後段重合工程において、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当り4モル超過20モル以下となるように、相分離剤としての水を添加する請求項1乃至12のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において得られる、クロロフェニルメチルアミノブタン酸の含有量が硫黄源1モル当たり16.5ミリモル以下である重合反応後のポリアリーレンスルフィド重合反応液。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I.ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明のポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」ということがある。)の製造方法は、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において、下記工程1〜工程3:
工程1:有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及び硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製する仕込み工程;
工程2:混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる前段重合工程;及び、
工程3:硫黄源1モル当り0.11〜0.3モルのアルカリ金属水酸化物を添加して、重合反応を継続する後段重合工程;
を含むことを特徴とするPASの製造方法である。
【0020】
1.硫黄源
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物あるいはこれらの混合物、すなわち、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物の一方または両方を含んで使用することが好ましい。硫黄源として、硫化水素も使用することができる。すなわち、脱水工程の後の缶内にアルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)が過剰に存在する場合に、缶内に硫化水素を吹き込むことにより、アルカリ金属硫化物(例えば、Na
2S)を生成させることができる。硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物または該アルカリ金属水硫化物を主成分として含有する硫黄源が好ましい。
【0021】
アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。また、アルカリ金属水硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0022】
アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。また、アルカリ金属水硫化物は、少量のアルカリ金属硫化物を含んでいる場合に、安定した状態となりやすい。さらに、重合反応混合物のpH制御のし易さの観点からも、アルカリ金属硫化物の含有量は、あまり多くないことが好ましい。
【0023】
したがって、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物を使用する場合には、アルカリ金属水硫化物が主成分であることが好ましく、アルカリ金属水硫化物50モル%超過とアルカリ金属硫化物50モル%未満との混合物であることがより好ましい。
【0024】
さらに、硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、重合反応系のpH制御のし易さなどの観点から、その組成は、アルカリ金属水硫化物70〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜30モル%であることが好ましく、アルカリ金属水硫化物90〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜10モル%であることがより好ましく、アルカリ金属水硫化物95〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜5モル%であることがさらに好ましく、アルカリ金属水硫化物97〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜3モル%であることが特に好ましい。
【0025】
上記の場合、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、PASの製造に直接関与する硫黄源(「仕込み硫黄源」または「有効硫黄源」ということがある。)のモル量となる。また、この総モル量は、仕込み工程に先立って脱水工程を配置する場合には、脱水工程後の仕込み硫黄源のモル量になる。
【0026】
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手可能であって、かつ取り扱いが容易であることなどの観点から、硫化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物中に副生物として含有されているもののほか、一般に、水和物として市販されているものも使用することができる。アルカリ金属硫化物の水和物としては、例えば、硫化ナトリウム9水塩(Na
2S・9H
2O)、硫化ナトリウム・5水塩(Na
2S・5H
2O)などが挙げられる。アルカリ金属硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0027】
2.アルカリ金属水酸化物
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、工業的に安価に入手可能なことから、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが計量などの取り扱い性の観点から好ましい。本発明は、後に詳述するように、仕込み工程において、硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製すること、すなわち、アルカリ金属水酸化物の仕込み量が、後に説明する脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、1モル未満であることを特徴とする。
【0028】
3.ジハロ芳香族化合物
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。
【0029】
ここで、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。ジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましいジハロ芳香族化合物は、ハロゲン原子が塩素原子であるp−ジハロベンゼンであるp−ジクロロベンゼン(pDCB)である。
【0030】
ジハロ芳香族化合物の仕込み量は、後に説明する脱水工程後に系内に残存する仕込み硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、通常0.9〜1.5モル、好ましくは0.95〜1.2モル、より好ましくは1〜1.09モルである。
【0031】
4.分子量調節剤、分岐・架橋剤
生成PASに特定構造の末端を形成したり、または重合反応や分子量を調節したりするために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することもできる。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。
【0032】
5.有機アミド溶媒
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たり、通常0.1〜10kgの範囲である。
【0034】
6.重合助剤
本発明では、重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るなどの目的のために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の使用量は、用いる化合物の種類により異なるが、硫黄源(仕込み硫黄源)1モルに対し、一般に0.01〜10モルとなる範囲である。
【0035】
7.相分離剤
本発明では特に、PASの重合工程において、重合反応を促進させて、高重合度のPASを短時間で得る観点から、反応混合物中に相分離剤を含有させることができる。すなわち、本発明のPASの製造方法としては、相分離剤の存在下で行うPASの製造方法が好ましい。相分離剤は、重合反応がある程度進行した反応混合物(液相)をポリマー濃厚相(溶融PAS相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒相)の2相に液−液相分離させるために用いられる。相分離剤としては、一般にPASの相分離剤として公知のものを使用することができ、例えば、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及び水からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。相分離剤は、単独で使用するだけでなく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。相分離剤の中でも、水、及び、酢酸リチウムや酢酸ナトリウムなどの有機カルボン酸金属塩が好ましく、コストが低く後処理が容易な水がより好ましい。相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機アミド溶媒1kgに対し、通常、0.01〜20モルの範囲内である。
【0036】
相分離剤は、重合反応の初期から反応混合物中に存在させることができるが、重合反応の途中で添加してもよい。また、相分離剤は、重合反応終了後の反応混合物に添加して、液−液相分離状態を形成してから、冷却してもよい。好ましくは、後段重合工程において、反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続することが望ましい。
【0037】
相分離剤としても好ましく使用される水については、後段重合工程において、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当り4モル超過20モル以下となるように、水を添加する方法を採用することができる。後段重合工程で水を添加する場合(相分離剤として機能してもよい。)、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当り、より好ましくは4.1〜14モル、特に好ましくは4.2〜10モルとなるように、水を添加することが望ましい。
【0038】
8.脱水工程
本発明では、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを前記工程1〜3を含む製造方法によりPASを製造する。後に詳述する仕込み工程では、有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及び硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製する。仕込み工程の前に、有機アミド溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程を配置することが好ましい。
【0039】
すなわち、硫黄源は、水和水(結晶水)などの水分を含んでいることが多い。また、硫黄源及びアルカリ金属水酸化物を水性混合物として使用する場合には、媒体として水を含有している。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって影響を受ける。そこで、一般に、重合工程前に脱水工程を配置して、重合反応系内の水分量を調節することが好ましい。
【0040】
脱水工程では、望ましくは不活性ガス雰囲気下で、有機アミド溶媒、硫黄源(好ましくはアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源)、及び全仕込み量の一部のアルカリ金属水酸化物を含む混合物を加熱し、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。脱水工程は、反応槽内で行われ、留出物の系外への排出は、一般に反応槽外への排出により行われる。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水和水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水などである。
【0041】
各原料の反応槽内への仕込みは、一般に、約20℃から約300℃、好ましくは約20℃から約200℃の範囲内で行われる。各原料の投入順序は、順不同でよく、また、脱水操作途中で各原料を追加投入してもよい。脱水工程では、媒体として有機アミド溶媒を用いる。脱水工程で使用する有機アミド溶媒は、重合工程で使用する有機アミド溶媒と同一のものであることが好ましく、工業的に入手が容易であることからN−メチル−2−ピロリドン(NMP)がより好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽内に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
【0042】
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入した後、前記各成分を含有する混合物を、通常300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲内で、通常15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱することにより行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的に昇温する方法、あるいは両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。脱水工程を行う装置は、重合工程に用いられる重合槽(反応缶)と同じであってもよいし、異なる装置であってもよい。
【0043】
脱水工程では、加熱により水及び有機アミド溶媒が蒸気となって留出する。したがって、留出物には、水と有機アミド溶媒とが含まれる。留出物の一部は、有機アミド溶媒の系外への排出を抑制するために、系内に環流してもよいが、水分量を調節するために、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。留出物を系外に排出する際に、微量の有機アミド溶媒が水と同伴して系外に排出される。
【0044】
脱水工程では、硫黄源に起因する硫化水素が揮散する。すなわち、脱水工程では、前記混合物を加熱するが、加熱によって、硫黄源と水とが反応して、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とが生成し、気体の硫化水素が揮散する。例えば、アルカリ金属水硫化物1モルと水1モルとが反応すると、硫化水素1モルとアルカリ金属水酸化物1モルとが生成する。水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出するのに伴い、揮散した硫化水素も系外に排出される。
【0045】
脱水工程で系外に揮散する硫化水素によって、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源の量よりも減少することとなる。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を使用すると、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源のモル量から系外に揮散した硫化水素のモル量を差し引いた値と実質的に等しくなる。脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源を「有効硫黄源」と呼ぶことができる。この有効硫黄源は、仕込み工程とその後の重合工程における「仕込み硫黄源」に該当する。したがって、本発明において、「仕込み硫黄源」とは、脱水工程後に混合物中に存在している有効硫黄源を意味する。
【0046】
脱水工程後の有効硫黄源は、アルカリ金属水硫化物、アルカリ金属硫化物等を含有する混合物であり、その具体的な形態については、特に限定されない。従来、有機アミド溶媒中でアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを加熱すると、in situで反応してアルカリ金属硫化物が生成することが知られており、脱水工程においてアルカリ金属水酸化物を添加すると、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によりアルカリ金属硫化物が生成していると推察される。
【0047】
先に説明したように、脱水工程で最初に投入した硫黄源の量は、硫化水素の系外への揮散によって、脱水工程後に減少するから、系外に揮散した硫化水素の量に基づいて、脱水工程後に系内に残存する混合物中に含まれる硫黄源(有効硫黄源)の量を定量することが必要である。
【0048】
脱水工程では、水和水や水媒体、副生水などの水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、有効硫黄源1モルに対して、好ましくは0〜2モル、より好ましくは0.5〜2モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節することができる。
【0049】
アルカリ金属硫化物は、水との平衡反応によりアルカリ金属水酸化物を生成する。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を用いるPASの製造方法では、少量成分であるアルカリ金属硫化物の量を考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。また、脱水工程で硫化水素が系外に揮散すると、揮散した硫化水素とほぼ等モルのアルカリ金属水酸化物が生成するので、脱水工程で系外に揮散した硫化水素の量も考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。
【0050】
脱水工程においては、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及び硫黄源1モル当たり0.70〜1.05モル、さらには0.75〜1.0モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。
【0051】
硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、脱水工程で揮散する硫化水素の量が多くなり、仕込み硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、脱水後に残存する仕込み硫黄源に過硫化成分が増加したりすることによる異常反応、生成されるPASの品質低下が起こりやすくなる。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大することがある。
【0052】
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであっても、異なる装置でもよい。また、装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。その際、硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
【0053】
9.仕込み工程
仕込み工程では、有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及び硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物、すなわち、仕込み混合物を調製する。先に説明したように、好ましくは仕込み工程の前に脱水工程を配置することがあるので、仕込み混合物を形成する仕込み工程での各成分量の調整及びpH等の制御は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行う。また、「仕込み硫黄源」(有効硫黄源)の量は、脱水工程で投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって算出することができる。
【0054】
仕込み混合物の各成分の量比(モル比)の調整やpHの調整等は、通常、脱水工程で得られた混合物中に、仕込み硫黄源以外の成分を添加することにより行う。例えば、脱水工程で得られた混合物中のアルカリ金属水酸化物や水の量が少ない場合には、仕込み工程でこれらの成分を追加する。また、ジハロ芳香族化合物は、仕込み工程で添加する。
【0055】
脱水工程において硫化水素が揮散すると、平衡反応により、アルカリ金属水酸化物が生成し、脱水工程後の混合物中に残存する。したがって、これらの量を正確に把握して、仕込み工程での「仕込み硫黄源」に対するアルカリ金属水酸化物のモル比を決定する必要がある。すなわち、アルカリ金属水酸化物のモル数は、脱水工程において添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、脱水工程において生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数、及び仕込み工程で添加したアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。さらに、硫黄源にアルカリ金属硫化物を含む場合には、アルカリ金属水酸化物のモル数はアルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。
【0056】
本発明のPASの製造方法は、仕込み工程において、硫黄源(仕込み硫黄源)に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製することを特徴とする。硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が1モル以上(当然に1.000モルを包含する。)であると、重合反応時の副生成物の生成の抑制効果が不足したり、生成されたPAS中の不純物に由来する窒素含有量が十分小さくならなかったり、PASポリマーの収率が十分向上しなかったりすることがある。硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比は、好ましくは0.7〜0.99モル、より好ましくは0.75〜0.98モル、特に好ましくは0.8〜0.97モルの範囲である。本発明のPASの製造方法は、仕込み工程において、硫黄源(仕込み硫黄源)に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製することにより、pDCB等のジハロ芳香族化合物の含有量、すなわち存在量が多い重合工程初期の段階において、副生成物であるSMABと、pDCB等のジハロ芳香族化合物との反応が抑制されるため、同じく副生成物であるCPMABAの生成が抑制される結果、副反応が抑制され、高純度で高分子量であるPASを高収率で得ることができるのではないかと推察される。
【0057】
仕込み混合物のpHは、特に限定されないが、通常12.5超過14以下、好ましくは12.6〜14、より好ましくは12.7〜13.9となるように、アルカリ金属水酸化物など各成分の割合を調節する。硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比を前記範囲内とすることにより、pHを12.5超過に容易に調整することができ、それによって、重合反応を副生成物の生成を抑制しながら安定的に実施し、高品質のPASを得ることが容易になる。本発明では、前段重合工程において、仕込み混合物を加熱して硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を開始させるが、この前段重合開始時における仕込み混合物のpHが12.5以下であると、前段重合の途中でアルカリ金属水酸化物を追加しても、高品質のPASを得ることが困難になる場合がある。なお、仕込み混合物のpHが高すぎると、アルカリ金属水酸化物の存在量が多すぎる結果、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしたりすることがある。
【0058】
仕込み工程において、有機アミド溶媒1kg当り、好ましくは0.1〜5.5モル、より好ましくは0.5〜5.3モル、更に好ましくは2.5〜5.2モル、特に好ましくは3〜5.1モルの水を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
【0059】
また、仕込み工程において、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当り、好ましくは0.95〜1.2モル、より好ましくは1〜1.09モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
【0060】
仕込み工程において、硫黄源として、50モル%超過のアルカリ金属水硫化物と50モル%未満のアルカリ金属硫化物とを含む硫黄源を含有する仕込み混合物を調製することが好ましい。このような組成を有する硫黄源は、実際には、脱水工程で調製する。
【0061】
仕込み工程において、有機アミド溶媒は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当り、通常0.1〜5kg、好ましくは0.15〜1kgの範囲とすることが望ましい。有機アミド溶媒の量は、上記範囲内であれば、重合工程の途中でその量を変化させてもよい。
【0062】
10.重合工程
本発明では、少なくとも前段重合工程と後段重合工程の2つの重合工程により重合反応を行う。より具体的に、本発明の重合工程は、混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる前段重合工程;及び硫黄源1モル当り0.11〜0.3モルのアルカリ金属水酸化物を添加して、重合反応を継続する後段重合工程を含む。
【0063】
重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
【0064】
〔前段重合工程〕
前段重合工程では、仕込み工程で調製した混合物、すなわち仕込み混合物を温度170〜270℃の温度に加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させることが好ましい。前段重合工程での重合温度は、180〜265℃の範囲から選択することが、副反応や分解反応を抑制する上で好ましい。
【0065】
加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせが用いられる。重合反応の途中で重合温度を下げることもできる。好ましくは、重合反応の促進及び制御の観点から、連続的な昇温方法である。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。
【0066】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは50〜98%、より好ましくは60〜97%、更に好ましくは70〜96%、特に好ましくは80〜95%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0067】
前段重合工程では、pH12.5超過14以下の仕込み混合物を用いて重合反応を開始することが好ましい。この条件が守られる限りにおいて、重合反応の途中で、水、アルカリ金属水酸化物、有機アミド溶媒の少なくとも1種の量を変化させてもよい。例えば、重合途中で水やアルカリ金属水酸化物を反応系に加えることができる。ただし、前段重合工程において、通常は、仕込み工程で調製した仕込み混合物を用いて重合反応を開始し、かつ前段重合反応を終了させることが好ましい。
【0068】
前段重合工程及び後段重合工程は、均一重合として重合反応させてもよいし、相分離重合として重合反応させてもよい。多くの場合、前段重合工程では、生成するポリマーを含む各成分が均一に溶解した反応系での重合反応が行われる。他方、後段重合工程では、相分離剤を添加することにより、通常、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応が継続されることが好ましい。一般に、攪拌下に重合反応が行われるため、実際には、有機アミド溶媒(ポリマー希薄相)中に、ポリマー濃厚相が液滴として分散した状態で相分離重合反応が行われる。相分離状態は、後段重合反応の進行につれて明瞭に観察されるようになる。
【0069】
〔後段重合工程〕
後段重合工程では、前段重合工程において生成したプレポリマーに対して、硫黄源1モル当り0.11〜0.3モルのアルカリ金属水酸化物を添加して、重合反応を継続する。
【0070】
後段重合工程での重合温度については、好ましくは245〜290℃、より好ましくは257〜285℃に加熱して重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持してもよいし、必要に応じて、段階的に昇温または降温してもよい。重合反応の制御の観点から、一定の温度に維持することが好ましい。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。
【0071】
後段重合工程において、添加するアルカリ金属水酸化物の量は、好ましくは硫黄源1モル当り0.12〜0.25モル、より好ましくは0.13〜0.22モル、特に好ましくは0.14〜0.2モルである。後段重合工程において、硫黄源1モル当りのアルカリ金属水酸化物の合計量は、好ましくは1.01〜1.1モル、より好ましくは1.02〜1.08モル、更に好ましくは1.03〜1.06モルとなるように、アルカリ金属水酸化物を調節して添加することが望ましい。硫黄源1モル当りのアルカリ金属水酸化物の合計量が少なすぎると、所望の重合度を有するPASを得られないことがある。アルカリ金属水酸化物の合計量とは、仕込み混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量と後段重合工程で添加したアルカリ金属水酸化物の量、及び所望により前段重合工程で添加したアルカリ金属水酸化物の量との合計である。
【0072】
アルカリ金属水酸化物の添加時期は、後段重合工程の開始時であってもよいし、後段重合工程の途中であってもよい。また、アルカリ金属水酸化物を分割して添加することもできる。アルカリ金属水酸化物を水性混合物として分割添加すると、後段重合工程での後述する相分離重合を促進することもできる。後段重合工程でアルカリ金属水酸化物を添加しない場合には、副生成物の生成が抑制されなかったり、不純物が多くなったり、高溶融粘度のPASを安定して得ることが困難となったりする。
【0073】
後段重合工程において、反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する、相分離重合を行うことが好ましい。具体的には、相分離剤を添加することにより、重合反応系(重合反応混合物)をポリマー濃厚相(溶融PASを主とする相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒を主とする相)に相分離させる。後段重合工程の最初に相分離剤を添加してもよいし、後段重合工程の途中で相分離剤を添加して、相分離を途中で生ずるようにしてもよい。なお、相分離剤は、先に説明したように、後段重合工程に限られず存在させることができるが、後段重合工程において使用することが望ましいものである。
【0074】
相分離剤としては、先に説明したものを使用することができ、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及び、水からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。中でも、コストが安価で、後処理が容易な水が好ましい。
【0075】
後段重合工程では、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当り4モル超過20モル以下となるように、相分離剤として水を添加する方法を採用することが好ましい。後段重合工程で相分離剤として水を添加する場合、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当り、より好ましくは4.1〜14モル、特に好ましくは4.2〜10モルとなるように、水を添加することが望ましい。
【0076】
〔重合反応後のポリアリーレンスルフィド重合反応液〕
本発明のPASの製造方法によれば、重合反応中の副生成物の生成が抑制される。その結果、本発明によれば、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において得られる、クロロフェニルメチルアミノブタン酸(CPMABA)の含有量が硫黄源1モル当たり16.5ミリモル以下であり、好ましくは更に、フェノールの含有量が硫黄源1モル当たり9ミリモル以下である、後段重合工程後の、すなわち、重合反応後のPAS重合反応液(以下、単に「PAS重合反応液」ということがある。)が提供される。
【0077】
PAS重合反応液中のCPMABAの含有量(以下、「CPMABAの生成量」ということがある。)は、以下の方法によって測定することができる。すなわち、重合反応終了後のPASポリマー(粒状である。)を含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取する。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトニトリル含有量40質量%の水溶液と混合した後、振とうしてCPMABAを抽出する。CPMABAを抽出した溶液をメンブレンフィルターにてろ過し、このろ液を測定サンプルとしてCPMABAの含有量を測定する。測定は、標準物質として、合成したCPMABAを用いて、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使用して行い、測定サンプル中のCPMABAの定量を行う。次いで、硫黄源1モルに対するCPMABAのモル数を算出して、副生成物であるCPMABAの生成量(単位:ミリモル/モル)とする。PAS重合反応液中のCPMABAの生成量は、硫黄源1モル当たり好ましくは16.3ミリモル/モル以下、より好ましくは16ミリモル/モル以下のものとすることが可能である。CPMABAの生成量の下限値は0ミリモル/モルであるが、0.1ミリモル/モル程度を下限値としてもよい。
【0078】
PAS重合反応液中のフェノールの含有量(以下、「フェノールの生成量」ということがある。)は、以下の方法によって測定することができる。すなわち、重合反応終了後のPASポリマー(粒状である。)を含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取する。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトンと混合した後、振とうしてフェノールを抽出する。フェノールを抽出した溶液を測定サンプルとしてフェノールの含有量を測定する。測定は、標準物質として、和光純薬工業株式会社製のフェノールを用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって行い、測定サンプル中のフェノールの定量を行う。次いで、硫黄源1モルに対するフェノールのモル数を算出して、副生成物であるフェノールの生成量(単位:ミリモル/モル)とする。PAS重合反応液中のフェノールの生成量は、硫黄源1モル当たり好ましくは8.7ミリモル/モル以下、より好ましくは8.5ミリモル/モル以下のものとすることが可能である。フェノールの生成量の下限値は0ミリモル/モルであるが、0.1ミリモル/モル程度を下限値としてもよい。
【0079】
本発明のPAS重合反応液は、CPMABAの生成量及びフェノールの生成量が、上記の範囲であることにより、重合反応中にCPMABAやフェノールを始めとする副生成物の生成が抑制されていることを確認することができる。したがって、本発明のPASの製造法によれば、後に説明する平均粒径10〜5000μm、温度310℃及びせん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度0.1〜3000Pa・s、かつ、窒素含有量750ppm以下であるPAS(粒状PAS)を、高収率で得ることができる。
【0080】
11.後処理工程
本発明のPASの製造方法において、重合反応後の、具体的には後段重合工程後の後処理は、常法によって行うことができる。重合反応の終了後、冷却しなくてもよいが、例えば、反応混合物を冷却してポリマーを含むスラリー(以下、「生成物スラリー」ということがある。)を得ることもできる。先に説明したように、重合反応終了後の反応混合物に相分離剤を添加して、液−液相分離状態を形成してから、冷却してもよい。冷却した生成物スラリーをそのまま、または水などによって希釈した後に、ろ別し、洗浄・ろ過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。
【0081】
本発明のPASの製造方法によれば、粒状のPASポリマーを生成させることができるので、スクリーンを用いて篩分する方法によって粒状のポリマーを反応液から分離する方法が、副生物やオリゴマーなどから容易に分離できる観点から好ましい。なお、生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。
【0082】
上記ろ別(篩分)後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましい。PASを高温水などで洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0083】
II.ポリアリーレンスルフィド
1.PAS
本発明のPASの製造方法によれば、副生成物の生成が抑制され、不純物が少ない高品質のPASを得ることができる。本発明の製造方法によって得られるPASとしては、平均粒径が、通常10〜5000μm、好ましくは30〜4000μm、より好ましくは50〜3000μmであり、かつ、温度310℃、せん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度が、通常0.1〜3000Pa・s、好ましくは0.5〜2000Pa・s、より好ましくは1〜1000Pa・s、更に好ましくは5〜500Pa・sであることにより取扱い性に優れるPASを高収率で得ることができる。なお、PASの溶融粘度は、乾燥ポリマー約20gを用いてキャピログラフを使用して、所定の温度及びせん断速度条件で測定することができる。
【0084】
本発明のPASの製造方法によって得られるPASは、不純物が少ない高品質のPASであり、好ましくはPASポリマー中の窒素含有量が750ppm以下のPASを得ることができる。PASポリマー中の窒素含有量は、ポリマー試料約1mgを精秤し、微量窒素硫黄分析計を用いて元素分析を行うことにより測定することができる。PASポリマー中の窒素含有量は、より好ましくは720ppm以下、更に好ましくは700ppm以下である。PASポリマー中の窒素含有量の下限値は、もちろん0ppmであるが、多くの場合10ppm程度を下限値としてもよい。本発明のPASの製造方法によれば、不純物が少ない高品質のPASを、90質量%を超える高い収率で得ることができる。PASの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄源のすべてがPASポリマーに転換したと仮定したときのポリマー質量(理論量)を基準値として、この基準値に対する実際に回収したPASポリマー質量の割合を算出し、ポリマーの収率とする(単位:質量%)。本発明のPASの製造方法によれば、PASの収率を、91質量%以上、更には92質量%以上とすることができる。PASの収率の上限値は、もちろん100質量%であるが、通常99.5質量%程度である。
【0085】
本発明のPASの製造方法により得られるPASは、そのまま、または酸化架橋させた後、単独で、または所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。本発明の製造方法により得られたPASは、色調が良好である。また、本発明の製造方法により得られたPASのコンパウンドは、揮発分の発生量が少なく、揮発分の抑制が期待される電子機器などの分野にも好適である。PASとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が特に好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。各種の特性または物性は以下の測定方法は、以下のとおりである。
【0087】
(1)ポリマーの収率
PASポリマー(以下、単に「ポリマー」ということがある。)の収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄源のすべてがポリマーに転換したと仮定したときのポリマー質量(理論量)を基準値として、この基準値に対する実際に回収したポリマー質量の割合を算出し、ポリマーの収率とした(単位:質量%)。
【0088】
(2)溶融粘度
乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機株式会社製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、せん断速度1216sec
−1での溶融粘度を測定した(単位:Pa・s)。
【0089】
(3)仕込み混合物のpH
仕込み混合物を精製水(関東化学株式会社製)で10倍に希釈し、pHメーターを使用して室温で測定した。
【0090】
(4)硫黄源の量
硫黄源水溶液中の水硫化ナトリウム(NaSH)及び硫化ナトリウム(Na
2S)は、ヨージメトリー法により硫黄分の全量を求め、中和滴定法によりNaSHの量を求めた。硫黄分の全量からNaSHの量を差し引いた残りをNa
2Sの量とした。
【0091】
(5)窒素含有量
ポリマー中の窒素含有量は、ポリマー試料約1mgを精秤し、微量窒素硫黄分析計(アステック株式会社製、機種「ANTEK7000」)を用いて元素分析を行って求めた(単位:ppm)。
【0092】
(6)CPMABA(副生成物)の生成量
重合反応終了後のPASポリマー(粒状である。)を含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取した。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトニトリル含有量40質量%の水溶液と混合した後、振とうしてCPMABAを抽出した。CPMABAを抽出した溶液をメンブレンフィルターにてろ過し、このろ液を測定サンプルとしてCPMABAの含有量を測定した。測定は、標準物質として、合成したCPMABAを用いて、株式会社日立ハイテクノロジー製の高速液体クロマトグラフ(カラムオーブン「L−5025」、UV検出器「L−4000」)を使用して行い、測定サンプル中のCPMABAの定量を行った。硫黄源1モルに対するCPMABAのモル数を算出して、副生成物であるCPMABAの生成量(単位:ミリモル/モル)とした(以下、「CPMABA/S」ということがあり、単位を「mmol/mol」で表すことがある。)
【0093】
(7)フェノール(副生成物)の生成量
重合反応終了後のPASポリマー(粒状である。)を含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取した。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトンと混合した後、振とうしてフェノールを抽出した。フェノールを抽出した溶液を測定サンプルとしてフェノールの含有量を測定する。測定は、標準物質として、和光純薬工業株式会社製のフェノールを用いて、株式会社日立ハイテクノロジー製のガスクロマトグラフィー「GC−6000」を使用して行い、測定サンプル中のフェノールの定量を行った。次いで、硫黄源1モルに対するフェノールのモル数を算出して、副生成物であるフェノールの生成量(単位:ミリモル/モル)とした(以下、「フェノール/S」ということがあり、単位を「mmol/mol」で表すことがある。)
【0094】
[実施例1]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を2001.7g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(21.83モル)であり、硫化ナトリウム(Na
2S)が0.37モル含まれている。上記水硫化ナトリウム水溶液、及び73.45質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1006.5gを、N−メチル−ピロリドン(NMP)6000gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/Sは、0.83(モル/モル、以下「mol/mol」と表記することがある。)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1024.6gとNMP1215.1gとを留出させた。この際、0.41モルの硫化水素(H
2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量(すなわち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.80モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.84モル%に相当した。
【0095】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」ということがある。)3349g〔pDCB/有効S=1.045(モル/モル)。なお、「モル/モル」の値は、小数点以下3桁までの算出とした。以下、同様である。〕、NMP3391g〔NMP/有効S=375(g/モル)〕、及び水219.5gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=0.900(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH14.64gを加えて仕込み混合物(pH13.61)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0096】
3.重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を回転して仕込み混合物を撹拌しながら、温度183℃から260℃まで2.5時間かけて連続的に昇温しながら重合反応させた(前段重合工程)。pDCBの転化率は、90.8%であった。
【0097】
その後、水444gとNaOH125.9gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.040(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間重合反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0098】
4.後処理工程:
上記のように重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却した後、100メッシュ(目開き150μm)のスクリーンに通して、ポリマー(粒状ポリマー)を篩分した。分離したポリマーを、アセトンにより3回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、92.2%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0099】
[実施例2]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%のNaSH水溶液を2341.6g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(25.54モル)であり、Na
2Sが0.44モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1179.40gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、0.83(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1149.0gとNMP1378.8gとを留出させた。この際、0.42モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、25.56モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.60モル%に相当した。
【0100】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3927g〔pDCB/有効S=1.045(モル/モル)〕、NMP3045g〔NMP/有効S=300(g/モル)〕、及び水67.9gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=0.900(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH20.46gを加えて仕込み混合物(pH13.68)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0101】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、89.4%であった。その後、水415gとNaOH147.59gとを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.040(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0102】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、93.5%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0103】
[実施例3]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%のNaSH水溶液を2341.4g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(25.97モル)であり、Na
2Sが0.44モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1119.5gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、0.79(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1123.3gとNMP1419.6gとを留出させた。この際、0.43モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、25.55モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.66モル%に相当した。
【0104】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3887g〔pDCB/有効S=1.035(モル/モル)〕、NMP3083g〔NMP/有効S=300(g/モル)〕、及び水58.4gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=0.850(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH11.91gを加えて仕込み混合物(pH13.65)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0105】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、90.1%であった。その後、水414gとNaOH194.90gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.035(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0106】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、94.5%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0107】
[比較例1]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%のNaSH水溶液を2002.9g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(21.75モル)であり、Na
2Sが0.45モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1208.40gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、1.00(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1028.4gとNMP1058.8gとを留出させた。この際、0.33モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量(すなわち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.88モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.49モル%に相当した。
【0108】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3409.0g〔pDCB/有効S=1.060(モル/モル)〕、NMP3264g〔NMP/有効S=375(g/モル)〕、及び水168.7gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.070(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH20.18gを加えて仕込み混合物(pH13.69)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0109】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、88.1%であった。その後、水445gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.070(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0110】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、88.2%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0111】
[比較例2]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%のNaSH水溶液を1999.1g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(21.71モル)であり、Na
2Sが0.45モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1129.80gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、0.93(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1004.8gとNMP1074.5gとを留出させた。この際、0.37モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、21.80モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.66モル%に相当した。
【0112】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3369.5g〔pDCB/有効S=1.060(モル/モル)〕、NMP3250g〔NMP/有効S=375(g/モル)〕、及び水167.5gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.000(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH11.60gを加えて仕込み混合物(pH13.66)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0113】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、89.2%であった。その後、水444gとNaOH53.93gとを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.060(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0114】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、90.4%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0115】
[比較例3]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%のNaSH水溶液を2340.2g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(25.53モル)であり、Na
2Sが0.44モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1448.20gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、1.02(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度210℃まで昇温して、水1232.4gとNMP1309.3gとを留出させた。この際、0.38モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、25.59モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.45モル%に相当した。
【0116】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3987g〔pDCB/有効S=1.060(モル/モル)〕、NMP2990g〔NMP/有効S=300(g/モル)〕、及び水79.8gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.084(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH13.16gを加えて仕込み混合物(pH13.76)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0117】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、86.6%であった。その後、水415gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.084(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0118】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、88.3%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0119】
[比較例4]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.20質量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を2340.5g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.15質量%(25.53モル)であり、Na
2Sが0.44モル含まれている。上記NaSH水溶液、及び73.45質量%のNaOH水溶液1339.50gをNMP6000gと共に反応缶に投入した。脱水前のNaOH/Sは、0.95(モル/モル)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水1179.9gとNMP1220.0gとを留出させた。この際、0.36モルのH
2Sが揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、25.60モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.40モル%に相当した。
【0120】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、pDCB3971g〔pDCB/有効S=1.055(モル/モル)〕、NMP2907g〔NMP/有効S=300(g/モル)〕、及び水55.9gを加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.000(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH8.51gを加えて仕込み混合物(pH13.72)を得た〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)〕。
【0121】
3.重合工程:
実施例1と同様にして前段重合工程を行った。pDCBの転化率は、87.5%であった。その後、水415gとNaOH73.91gとを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.0(モル/kg)、合計NaOH/有効S=1.070(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して、相分離重合として2.5時間反応させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0122】
4.後処理工程:
重合反応終了後、実施例1と同様にして洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた粒状ポリマー(100メッシュ通過)の収率は、90.3%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1から、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において、下記工程1〜工程3:
工程1:有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及び硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製する仕込み工程;
工程2:混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる前段重合工程;及び、
工程3:硫黄源1モル当り0.11〜0.3モルのアルカリ金属水酸化物を添加して、重合反応を継続する後段重合工程;
を含むことを特徴とする実施例1〜実施例3のPASの製造方法によれば、i)副生成物であるCPMABAの生成量が硫黄源1モル当たり16.5ミリモル以下であり、更に同じくフェノールの生成量が硫黄源1モル当たり9ミリモル以下であるPAS重合反応液が得られること、ii)窒素含有量が750ppm以下であって、溶融粘度が20Pa・s以上である粒状PASポリマー(100メッシュ通過)が得られること、さらに、iii)ポリマーの収率が90質量%を超えていることが分かった。すなわち、実施例1〜実施例3で具体化された本発明のPASの製造方法によれば、副反応が抑制され、高純度で高分子量であるPASを高収率で得られることが分かった。
【0125】
これに対して、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において、仕込み工程で、硫黄源に対し等モル未満のアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を調製せず、また、後段重合工程で、硫黄源1モル当り0.11〜0.3モルのアルカリ金属水酸化物を添加しない比較例1〜4のPASの製造方法によれば、i)副生成物であるCPMABAの生成量が硫黄源1モル当たり16.5ミリモル超過であるか、更には、同じくフェノールの生成量が硫黄源1モル当たり9ミリモル超過(比較例1、3及び4)であるPAS重合反応液が得られることから副反応が十分抑制されていないこと、ii)PASポリマーの窒素含有量が750ppm超過であるか、または、溶融粘度が22Pa・s未満であることから、高純度で高分子量のPASが得られないこと、さらに、iii)ポリマーの収率が91質量%未満であり、90質量%未満の場合もあることが分かった。すなわち、比較例1〜4のPASの製造方法によっては、副反応が抑制され、高純度で高分子量であるPASを高収率で得ることはできないことが分かった。