(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マルチキャリア信号が無線帯域で複数のサブキャリアをそれぞれ区別されるように散在させた構成を持つと共に、当該マルチキャリア信号のフーリェ変換のポイント数がNの複素マッピング信号を伝送するマルチキャリア伝送装置におけるピーク低減装置において、
前記複素マッピング信号をL×Nポイント(Lは1以上の整数)の時間領域の信号に変換する変換手段と、
前記変換手段の変換結果を時間領域信号として記憶するメモリ手段と、
前記時間領域信号からピーク低減信号を減算する減算器と、
前記時間領域信号若しくは前記減算器の出力の振幅に所定閾値を超えるピーク値が存在した場合、当該ピーク値から予め設定してある所定の閾値を複素減算し、差分時間信号を算出する第1の手段と、
前記差分時間信号を周波数領域信号に変換した周波数領域差分信号の情報キャリアと予備キャリア及び帯域外キャリアとの夫々に対して、予め設定してある各々異なった更新ゲインを乗算する第2の手段と、
前記更新ゲインが乗算された前記情報キャリアと前記予備キャリア及び前記帯域外キャリアとの夫々に対して予め各々異なった所定の周波数閾値を設定し、当該周波数閾値を超える場合には、当該周波数閾値でクリップして周波数領域ピーク低減信号を算出する第3の手段と、
前記周波数領域ピーク低減信号が得られた以降は、前記変換手段に当該周波数領域ピーク低減信号を前記ピーク低減信号に変換させ、前記第1の手段に前記減算器の出力を入力して当該第1の手段、前記第2の手段、及び前記第3の手段に一連の処理を実行させて新たなピーク低減信号を得ることで前記複素マッピング信号から当該ピーク低減信号がM(=整数の変数)回反復して減算されるように制御するピーク低減制御手段と、を設け、
ピーク低減された前記複素マッピング信号を出力することを特徴とするピーク低減装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るピーク低減装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明に係るピーク低減装置の第1の実施形態で、これは、例えばOFDM方式の無線伝送システムの送信側にあるキャリア増幅用電力増幅器の入力信号に現われるピークを低減するため、当該電力増幅器の入力側に設けられるもので、このため、図示の通りゼロパッディング部1と切り替えスイッチ部2、LNポイントIFFT部3、メモリ部4、減算器5、切り替えスイッチ部6、ピーク検出部7、差分信号算出部8、LNポイントIFFT部9、更新ゲイン制御部10、飽和積分制御部11、それに出力制御部12が備えられている。
【0012】
このとき、図示されていないが、この実施形態では、予め所望のプログラムを格納させ、所望の周波数のクロックにより動作するCPUからなるピーク低減制御部を設け、これにより上記した各部の動作を個別に制御し、その上でピーク低減装置に必要な機能が全体として発揮されるように制御するようになっている。
ここで、この実施形態に係るピーク低減装置は、上記したように、OFDM方式の無線伝送システムのキャリア増幅用電力増幅器の入力側に設けられる。
従って、この場合、上記した入力信号として複素マッピング信号X(ω)がゼロパッディング部1に入力され、出力制御部12の出力が上記キャリア増幅用電力増幅器に入力されることになる。
【0013】
始めに、パッディング部1に入力される複素マッピング信号X(ω)について説明する。
まず、この実施形態が対象とするマルチキャリア信号は、
図2に示す通り、伝送帯域内にあるサブキャリアの数がKで、FFT(フーリェ変換)ポイント数がNのOFDM方式のマルチキャリア信号であり、そして、このとき伝送帯域内にあるサブキャリアは、情報を伝送するDATAキャリア(情報キャリア)と、ACキャリア(予備キャリア)で構成されている。
ここで、まず、DATAキャリアは、QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調方式)などの変調方式によりマッピングされたもので、次に、ACキャリアは、無変調の0レベルにあるサブキャリアであり、このとき帯域外の(N−K)本のサブキャリア(帯域外キャリア)も同様に0レベルにあるものとする。
【0014】
そして、このマルチキャリア信号の周波数領域における複素マッピング信号が上記した複素マッピング信号X(ω)であり、従って、上記実施形態のゼロパッディング部1には、この複素マッピング信号X(ω)が入力されることになる。
ここで符号ωは、サブキャリアの周波数インデックスを表すもので、−N/2≦ω≦N/2−1の範囲の整数をとる。
そこで、ゼロパッディング部1は、Nポイントの複素マッピング信号を順次入力し、それに(L−1)×Nポイントの振幅が0の信号を順次挿入して信号X0(ω)とし、それを切り替えスイッチ部2の0入力接点端子に供給する。
【0015】
このとき切り替えスイッチ部2の1入力接点端子には飽和積分制御部11の出力信号EC
(i)(ω)が接続され、当該切り替えスイッチ部2の出力接点端子はLNポイントIFFT部3に接続されている。ここで符号iは反復回数を表すが、詳しくは後述する。
従って、切り替えスイッチ部2が0入力接点端子に切り替えられると、ゼロパッディング部1から出力されている信号X0(ω)がLNポイントIFFT部3に入力され、1接点入力端子に切り替えられたときは、飽和積分制御部11の出力である信号EC
(i)(ω)がLNポイントIFFT部3に入力される。
LNポイントIFFT部3では、入力された信号X0(ω)又は信号EC
(i)(ω)のL×Nポイントについて逆フーリェ変換を施す。
【0016】
この結果、LNポイントIFFT部3では、周波数ωにより表されている信号X0(ω)又は信号EC
(i)(ω)から、時間tで表される信号x
(i)(t)に変換され、それが順次出力されることになる。ここで、符号tはサンプル時刻を示し、これは「0≦t≦L×N−1」の範囲の整数である。
このときLNポイントIFFT部3の出力は、メモリ部4と減算器5の減算入力及び切り替えスイッチ部6の0入力接点端子のそれぞれに接続されている。
そして、このLNポイントIFFT部3から出力された信号x
(i)(t)は、メモリ部4の入力と減算器5の減算入力−及び切り替えスイッチ部6の0入力接点端子にそれぞれ供給される。
【0017】
このときメモリ部4の出力は減算器5の加算入力+に接続され、減算器5の減算出力は切り替えスイッチ部6の1入力接点端子に接続されている。
そこで、減算器5の出力には、サンプル時刻t前にメモリ部4に記憶された信号x
(i)(t)から現在のサンプル時刻tにおいてLNポイントIFFT部3から出力されてくる信号x
(i)(t)を順次減算した信号(信号x
(i)(t)の減算信号)が入力されることになる。
そして、切り替えスイッチ部6の出力接点端子は出力制御部12とピーク検出部7に接続されている。
【0018】
ここで、出力制御部12についての説明は後述することにし、ピーク検出部7では、切り替えスイッチ部6から供給される信号x
(i)(t)、すなわち上記した減算信号である信号x
(i)(t)の振幅r
(i)(t)と位相角θ
(i)(t)、及び時間閾値thr (後で詳述)を超えるサンプル時刻tP を出力し、それぞれを差分信号算出部8に供給する。
そこで、差分信号算出部8は、サンプル時刻tP =1の時刻において、ピークを低減するための差分信号e
(i)(t)を算出し、それをLNポイントIFFT部9に供給する。
そして、LNポイントIFFT部9は、時間信号である差分信号e
(i)(t)を周波数信号である周波数信号E
(i)(ω)に変換し、それを更新ゲイン制御部10に供給する。
【0019】
このとき更新ゲイン制御部10には、入力された周波数信号E
(i)(ω)に応じてサブキャリア毎に、すなわち情報キャリアと予備キャリア及び帯域外キャリアの各々毎に異なっている更新ゲイン係数G(ω)が予め設定してある。
そこで、更新ゲイン制御部10は、当該更新ゲイン係数G(ω)を用い、それを入力された周波数信号E
(i)(ω)にキャリア毎に乗算し、乗算結果EG
(i)(ω)を算出して飽和積分制御部11に供給する。
従って、飽和積分制御部11は、入力された周波数信号E
(i)(ω)に飽和積分処理を逐次施して出力信号EC
(i)(ω)を生成し、それを切り替えスイッチ部2の1入力接点端子に供給する。なお、この飽和積分制御部11については後で詳述する。
【0020】
ここで、上記した反復回数iについて説明する。
まず、この実施形態においては、ピーク電力の低減を複数回の反復演算処理により実現する。
そこで、この反復演算処理の回数を表したのが反復回数iであり、従って、この反復回数iは0から始まる整数であるが、このとき最大値をMとする。
そして、まず、反復回数i=0ではピーク低減前の元信号の生成処理を行い、以後、反復回数i≧1でピーク低減のための処理に移行し、M回まで処理を繰り返す。
以下、説明の順序として、最初、反復回数i=0の場合について説明し、次いで反復回数i=1の場合について説明し、以後、反復回数i≧2の場合について説明する。
【0021】
最初、反復回数i=0の処理について説明する。
まず、処理対象である複素マッピング信号X(ω)はゼロパッディング部1に取り込まれ、ここで入力されたマッピング信号のNポイント毎に、(L−1)×Nポイントの振幅が0の信号を挿入し、それを信号X0(ω)として出力する。
従って、この実施形態においては、処理対象である複素マッピング信号X(ω)が順次、Nポイント毎に処理されるという一種のバッチ処理となる。
このとき、符号Lはオーバーサンプリング比を表す1以上の整数であり、従ってサブキャリアの周波数インデックスωは、−L×N/2≦ω≦L×N/2−1の範囲の整数に拡張されることになる。
【0022】
上述の通り、ゼロパディング部1の出力X0(ω)は切り替えスイッチ部2の0入力接点端子に接続され、1入力接点端子には飽和積分制御部11の出力信号が接続されている。そして、この切り替えスイッチ部2の出力接点端子はLNポイントIFFT部3に接続される。
そして、ピーク低減制御部は、反復回数i=0の演算処理の場合、切り替えスイッチ部2の出力接点端子を0入力接点端子に切り替え、同じく切り替えスイッチ部6も、その出力接点端子を0入力接点端子に切り替える。
そこで、このi=0のときは、ゼロパディング部1の出力信号X0(ω)がLNポイントIFFT部3に入力され、ここで周波数信号から時間信号に変換された信号x
(i)(t)が出力され、メモリ4に順次LNポイント分入力されると共に、減算器5の−端子と切り替えスイッチ部6の0入力接点端子にも供給される。
【0023】
このときメモリ4は、反復回数i=0のときだけ入力信号x0(t)が入力され、それが後の反復回数i=1のとき読み出され、ピーク低減前の時間元信号となる。この場合、メモリ4は、入力信号x0(t)を記憶して保持するだけであり、従って、その出力信号も同じく信号x0(t)、つまり入力信号x0(t)と同じである。
メモリ4の出力信号x0(t)は減算器5の+端子に供給される。
この減算器5は、メモリ4に最初に記憶されていた瞬時ピークを有する時間信号(信号x0(t))から、−端子に入力されるピーク低減用の差分信号が減算処理され、これによりピークを低減させる働きが得られるようになっている。
【0024】
しかし、ここで反復回数i=0のときは、メモリ4には、まだ何も信号が記憶されていないので、減算器5は機能せず、しかも、このとき切り替えスイッチ部6の出力接点端子が0入力接点端子に切り替えられているので、LNポイントIFFT部3の出力信号x0(t)はメモリ4に入力されて記憶され、これと並行して、そのまま切り替えスイッチ部6から出力される。
以上が反復回数i=0のときの処理についての説明であり、従って、この反復回数i=0の場合は、瞬時ピークを有する元の時間の信号x0(t)をメモリ4に記憶するだけの処理となる。
【0025】
そして、この実施形態においては、この反復回数i=0の処理を実行した後、反復回数i=1以降の処理に進み、これにより所期のピーク低減を得るように構成されている点が特徴である。
反復回数i=1の場合、切り替えスイッチ部2と切り替えスイッチ部6の1入力接点端子をそれぞれ出力接点端子に切り替える。
従って、この場合、LNポイントIFFT部3には、飽和積分制御部11から出力される信号EC
(t)(ω)が供給され、切り替えスイッチ部6の出力接点端子に現われる信号x
(i)(t)は出力制御部12とピーク検出部7に供給されることになる。
このときの信号x
(i)(t)は、極座標係で表現することができ、この場合、次の式(1)により表される。
【0027】
ここで、まず、r
(i)(t)は振幅で、これは次の式(2)で表されるところの、いわゆるユークリッド距離であり、次に、θ
(i)(t)は位相角で、次の式(3)で表されるものである。
【0030】
ピーク検出部7では、入力された信号x
(i)(t)の振幅r
(i)(t)を算出する。
このときのピーク検出部7による振幅r
(i)(t)の算出には、CORDIC(C0rdinate Rotation DIgital Computer)等のアルゴリズムにより式(2)を直接計算する方法を用いれば良いが、他の算出手法として、式(1)の近似演算を用いて算出するようにしても良く、この場合の近似演算としては、次の式(4)がある。
【0032】
この式(4)において、α、βは信号x
(i)(t)の位相角θ
(i)(t)に基づいて決定される所定の係数である。
ここで、このピーク検出部7の他の実現手法としては、予め式(2)の演算結果を算出しておき、それをROM(Read Only Memory)やLUT(Look Up Table)に記憶させ、信号x
(i)(t)と振幅r
(i)(t)を対応付けてROMやLUTから導出する方法があり、この方法で実現してもよい。
この場合、記憶容量を削減するため、後述するように、時間閾値thr 以上の振幅r
(i)(t)のみを記憶させるようにしても良い。
【0033】
こうして振幅r
(i)(t)を算出したら、次にピーク検出部7は、それを
図3に示すピーク低減目標となる時間閾値thrと比較し、比較結果tP(t)として、時間閾値thr を超えるサンプル時刻には、例えば“1”となり、それ以外の時刻には、例えば“0”となる信号を出力する。
そして、ピーク検出部7は、振幅r
(i)(t)と位相角θ
(i)(t)及び時間閾値thr を超えるサンプル時刻tP を差分信号算出部8に入力する。
そこで、差分信号算出部8では、比較結果tP(t)=1になっている時刻において、ピーク低減用の差分信号e
(i)(t)を算出する。
この差分信号算出部8による差分信号e
(i)(t)の算出について、
図4を用いて説明する。
【0034】
この
図4は複素平面を表した図で、このとき横軸Iが実数部を表し、縦軸Qが虚数部を表している。
そして、この
図4において、まず、離散信号x
(i)(t)は、小さな○印の点で示されている。
そこで、これら○印の点を結んだ細い実線が、理想的な連続アナログ信号に変換した離散信号x
(i)(t)を表していることになる。
また、ここで差分信号e
(i)(t)の振幅r
(i)(t)は矢印で表され、このとき時間閾値thr は、破線の円で表されている。
従って、矢印の破線で示されている振幅r
(i)(t)が時間閾値thr を超え、実線で示されている部分がピークの低減を要する差分信号成分となる。
【0035】
このとき振幅r
(i)(t)が時間閾値thr を超えない場合には差分信号e
(i)(t)の値を0とすることは、前述した通りである。
この差分信号e
(i)(t)を数式で表現すると、次の式(5)に示すようになり、従って、離散信号x
(i)(t))から差分信号e
(i)(t)を減算した結果の振幅値が時間閾値thr を超えることはない。
【0037】
ここで、
図5は、差分信号算出部8の一例で、この場合、除算器80と乗算器81、それに加算器82で構成されている。
そして、まず、除算器81には時間閾値thr と振幅r
(i)(t)が入力され、ここで時間閾値thr が振幅r
(i)(t)により除算される。
この除算結果thr/r
(i)(t)は乗算器81に入力され、時間信号x
(i)(t)と乗算される。
そこで乗算結果を加算器82の−端子に入力し、加算器82の+端子に入力されている時間信号x
(i)(t)から減算することにより、式(5)の計算と同様の結果を得ることができる。
そして、この差分信号算出部8の出力である差分信号e
(i)(t)は、LNポイントFFT部9に入力される。
【0038】
LNポイントFFT部9では、時間信号である信号e
(i)(t)を周波数信号に変換する。そこで、この変換結果である周波数信号をE
(i)(ω)とする。
このときの差分信号e
(i)(t)は時間的に鋭い信号で、
図6は、その周波数信号特性E
(i)(ω)の一例を示したものであるが、ここで、反復回数i=1の場合の周波数信号特性E
(1)(ω)の帯域は、図示の通り、無線帯域幅Kよりも広い。
従って、時間波形x0(t)から単純に差分信号e
(1)(t)を減算したとすると、減算結果においては、その周波数特性が帯域外に広く漏洩してしまうことを意味している。
【0039】
ここで、この
図6においては、反復回数i=1〜4の各場合における周波数信号E
(i)(ω)の特性について、それぞれ周波数信号特性E
(1)(ω)、周波数信号特性E
(2)(ω)、周波数特性E
(3)(ω)、それに周波数信号特性E
(4)(ω)として示されている。そして、この特性から、反復回数を増加するにつれピークが低く抑えられていて、その分、差分信号成分が少なくなっていることが分かる。
LNポイントFFT部9から出力された周波数信号E
(i)(ω)は、更新ゲイン制御部10に入力される。
そして、この更新ゲイン制御部10では、入力された周波数信号E
(i)(ω)に対してキャリア毎に異なる更新ゲイン係数G(ω)を乗算する。
ここで乗算結果をEG
(i)(ω)とすると、これは、式(6)に示す通りになる。
【0041】
ここで更新ゲイン係数G(ω)の数値(大きさ)について説明する。
まず、この更新ゲイン係数G(ω)を乗じた差分信号EG
(i)(ω)は、より良いピーク低減性能を得るという点からすれば、更新ゲイン係数G(ω)を乗じる前の差分信号E
(i)(ω)のレベルになるべく近いレベルの値に設定した方が有利であるが、しかし、この場合、帯域外漏洩が生じたり、帯域内のサブキャリアに干渉が生じたりしてしまう。
そこで、この実施形態では、更新ゲイン係数G(ω)として、次の式(7)に示すように、3種の更新ゲイン係数G(ω)を設定し、予備キャリア領域と情報キャリア領域及び帯域外領域に対して夫々異なった更新ゲインが与えられるようにしてある。
【0043】
しかして、各サブキャリアに割り当てた変調方式の多値数が異なるような場合には、その所要C/Nに関連付けて更に多くの更新ゲインが用いられるようにしても良い。
ここで差分信号E
(i)(ω)は、既に
図6に示したように、帯域外への電力の漏洩が生じている。
しかし、この実施形態の場合、更新ゲイン制御部10が備えられている。そこで、帯域外領域の場合には、更新ゲイン係数G(ω)としてGEXT=0を乗算することで、帯域外への漏洩を完全に抑えることが可能になる。
このときGEXT として、無線伝送規格で定められたスペクトルマスクを逸脱しない範囲で微小な値を設定するようにしても良い。
【0044】
情報キャリア領域については、例えば情報キャリアが64QAMのような多値数の多い変調を施されているような場合には、所要C/Nが大きい。そこで、この場合には更新ゲインGDATA を小さな値に設定し、差分信号E
(i)(ω)による干渉量を制限することができる。
また、QPSKのように多値数が少ない変調を施している場合、その所要C/Nはそれほどではなく、低くてもよい。そこで、この場合、更新ゲインGDATA に大きな値を設定してやれば良く、この場合、ピーク低減処理(後述)に必要な反復回数を少なくすることができる。
【0045】
一方、予備キャリア領域の場合、情報を伝送しない無変調領域であるため、更新ゲインGAC として、大きな値を設定することができ、この場合もピーク低減処理に必要な反復回数を少なくすることができる。
このときピーク低減処理の反復回数を更に少なくすることを目的として、更新ゲインGAC に1よりも大きな値に設定することもできるが、しかし、更新ゲインGAC 値が大きくなると発振の可能性も大きくなるので、発振が生じない範囲で妥当な値に設定する必要があるのはいうまでもない。
更新ゲイン制御部10の出力である信号EG
(i)(ω)は飽和積分制御部11に入力される。
【0046】
ここで、
図7は、飽和積分制御部11の詳細で、この場合、ゲイン制御差分信号EG
(i)(ω)は加算器110の一方の入力端子に供給される。このとき加算器110の他方の入力端子には切り替えスイッチ113の出力信号が供給される。
そして、この加算器110の出力が飽和処理部111に入力される。
このとき切り替えスイッチ113の0入力接点端子にはレベル0を表すデータ“0”が0出力器114から供給され、1入力接点端子にはメモリ112から読み出されたデータが供給されている。
そして、この切り替えスイッチ113は、反復回数i=1のとき0入力接点端子に切り替わり、反復回数i<1のときには1入力接点端子に切り替わる。
【0047】
このため、反復回数i=1のとき、加算器110は実質的には動作せず、従って、このときは、当該切り替えスイッチ113に入力されたゲイン制御差分信号EG
(i)(ω)がそのまま加算器110を通って飽和処理部111に入力される。
このとき飽和処理部111には、サブキャリアω毎に、すなわち情報キャリアωと予備キャリアω及び帯域外キャリアωの各々毎に異なっている周波数閾値THR(ω)が予め設定してある。そして、ゲイン制御差分信号EG
(i)(ω)の振幅が周波数閾値THR(ω)を超えていた場合には、当該周波数閾値THR(ω)にクリップして飽和処理する。
そこで、このときの飽和処理部111による飽和処理について説明する。
始めにゲイン制御差分信号EG
(i)(ω)を極座標系により表現すると、次の式(8)の通りになる。
【0049】
次に、飽和処理後の信号をEC
(i)(ω)とすると、この場合の飽和処理は、例えば次式(9)により表される処理となる。
【0051】
この飽和処理において、サブキャリアω毎の周波数閾値THR(ω)は、更新ゲイン制御部10と同様、差分信号EG
(i)(ω)によるサブキャリアωへの影響度を制限することを目的として設けられる。
このとき、帯域外のサブキャリアωについては、周波数閾値THR(ω)を0、或いは無線伝送規格で定められたスペクトルマスクを逸脱しない範囲の微小値に設定することができる。
情報キャリア領域についても、更新ゲインと同様に所要C/Nの高い変調方式の場合には、周波数閾値THR(ω)は小さな値に設定し、多値数の少ない変調方式の場合には周波数閾値THR(ω)を大きな値に設定する。
【0052】
例えば、64QAM方式で符号化率5/6のときの所要C/Nを22dB程度とし、許容C/N劣化を0.1dBとした場合には、周波数閾値THR(ω)を情報キャリアの平均振幅値よりも30dB程度低下した値に設定すれば良い。
一方、この場合は、予備キャリア領域が情報を伝送しない無変調領域になるから、周波数閾値THR(ω)を更に大きな値に設定しても良い。
ここで予備キャリア領域の周波数閾値THR(ω)は、大きなスペクトルピークが発生しないように、情報キャリアと同程度の大きさに設定するのが望ましい。このことは、更新ゲイン部10で予備キャリアの更新ゲインを大きく設定した場合での発振を抑えるという点でも同じである。
【0053】
ところで、この飽和処理の他の例としては、例えば次式(10)に示すように、直交座標系における実数部と虚数部のそれぞれを周波数閾値THR(ω)と比較する方法がある。
但し、この場合、直交座標系から極座標系への変換に必要な演算が、一般的にはかなり大きな規模の演算になってしまう。
しかし、この式(10)によれは、少ない演算量により簡易的に実現できる。
【0055】
こうして飽和処理部111から出力された信号EC
(i)(ω)は、一方ではメモリ112に入力され、他方では飽和積分演算部11の出力信号として、切り替えスイッチ部2の接点1入力端子に供給される。
そこで、メモリ112には出力信号EC
(i)(ω)の値が保持され、それが切り替えスイッチ部113の1入力接点端子に供給される。
ここで、反復回数i≧1のとき、切り替えスイッチ部2は、その出力接点端子が1入力接点端子に切り替えられ、従って、このときは、飽和積分演算部11の出力信号EC
(i)(ω)がLNポイントIFFT部3に入力される。
そこで、LNポイントIFFT部3では、反復回数i=0のときと同様にLNポイントの逆フーリェ変換を行い、周波数領域から時間領域の信号ec
(i)(t)に変換する。
【0056】
この結果、LNポイントIFFT部3は、反復回数i=0のとき、入力マッピング信号X0(ω)の変換を行い、反復回数i≧1のときは誤差信号EC
(i)(ω)の変換を行なうことになり、従って、同じ論理回路を異なる目的で使用することになる。
このときのLNポイントIFFT部3の出力信号eC
(i)(t)は減算器5の−端子に入力されるが、このとき減算器5の+端子には、反復回数i=0のときメモリ4に記憶した信号x
(0)(t)が、ピークを有する時間元信号x
(0)(t)として入力されている。
そこで、減算器5では、+端子のピークを有する時間元信号x
(0)(t)から−端子の信号eC
(i)(t)が減算され、これにより、ピークの低減が実現できることになる。
【0057】
以上で反復回数i=1の処理の説明を終わり、次に反復回数i≧2の処理について説明する。
この反復回数i=1のとき、差分信号として使用した信号eC
(i)(t)は、上記したように、本来の差分信号となるべく差分信号算出部8から出力された差分信号e
(i)(t)ではなく、それに対して帯域外漏洩や情報キャリアへの干渉の軽減のための制限が、更新ゲイン制御部10と飽和積分制御部11により施されている信号になっている。
そのため、反復回数i=1の処理だけではピーク低減効果が少なく、ピークが低減しきれず残留してしまうことがある。しかも、このとき上記制限が施されたことに起因して新たなピークが発生してしまうこともある。
【0058】
そこで、本願発明においては、上記の残留ピークに対応するため、複数回の反復演算を行ない、これにより、ピークが更に低減できるようにし、このため反復回数i=1の処理に続き、反復回数i≧2の処理として、以下の処理を繰り返し反復実行するようになっている。
そして、この場合、反復処理1回当りのピーク低減量が少なく抑えられているので、制限が施されたことに起因して新たなピークが発生してしまうなどの障害発生が抑えられ、従って、最終的には、必要とするピーク低減量が確実に得られることになり、これが本願発明の特徴である。
【0059】
反復回数i≧1のとき、減算器5の出力信号は切り替えスイッチ部6の1入力接点端子に入力されている。
従って、反復回数i≧1のとき、切り替えスイッチ部6からは減算器5からのピーク低減後の時間信号x
(i)(t)が出力されている。
そして、このことを前提として、反復回数i≧2の処理を実行する。
【0060】
ここで、まず、この反復回数i≧2の処理においても、ピーク検出部7から更新ゲイン制御部10までの処理は、反復回数i=1のときの処理と同じであり、従って、飽和積分制御部11には、減算器5から出力されたピーク低減後の時間信号x
(i)(t)に対応した差分信号EG
(i)(ω)が入力されることになる。
一方、
図7に示す飽和積分制御部11の切り替えスイッチ113は、反復回数i=1のとき0入力接点端子に切り替わり、反復回数i<1のときには1入力接点端子に切り替わる。
従って、この反復回数i≧2とき、
図7に示す加算器110の他方の入力にはメモリ112の出力信号が供給されている。
【0061】
このとき、当該メモリ112には、1回前の反復演算によって得られた飽和処理差分信号EC
(i-1)(ω)が記憶されている。
そこで、メモリ112からは、この信号EC
(i-1)(ω)が出力され、それが加算器110の他方の入力に供給される。
従って、この反復回数i≧2の処理においては、次の式(11)に示すように、メモリ112からの出力信号EC
(i-1)(ω)が、加算器110により、このとき飽和積分制御部11に入力されている差分信号EG
(i)(ω)に対して加算されることになる。
【0063】
従って、この反復回数i≧2の処理により、飽和処理差分信号EC
(i)(ω)は、
図6に示すように、反復回数の増加毎に逐次更新され、反復回数iが最大値Mになるまでピーク低減の収束値に漸近してゆくようになる。
そこで、反復回数iが最大値Mになったら、ここで反復処理を終え、この最後の反復演算(i=M)によって最終的にピーク低減が与えられ、その上で切り替えスイッチ部6から出力されてくる時間信号x
(M)(t)を出力制御部12に入力させる。
このとき出力制御部12では、入力された時間信号x
(M)(t)を所望のフォーマット、例えばゼロパッディング部1に入力されている複素マッピング信号X(ω)と同じフォーマットに変換する。
【0064】
そして、このフォーマットを変換した複素マッピング信号X(ω)が、出力制御部12からOFDM方式の無線伝送システムの送信側にあるキャリア増幅用電力増幅器の入力に供給される。
そこで、この実施形態によれば、マルチキャリア伝送において大きな振幅の瞬時ピークが発生した際、情報キャリアへの干渉と帯域外漏洩電力をそれぞれサブキャリア単位で高精度に制限しながら容易にピーク低減が得られるようになり、この結果、ビット誤り率の増加を伴うことなくスペクトルマスクの逸脱を避けることができる。
【0065】
ところで、この実施形態の場合、上記した反復演算によるピーク低減処理は、処理対象である複素マッピング信号X(ω)が順次、ピーク低減制御部のクロックによりNポイント毎に処理されるという一種のバッチ処理になっている。
そこで、装置の入力側と出力側にそれぞれ所望の記憶容量を備えたバッファを設け、必要に応じて予めバッチ処理した上で出力側のバッファに記憶しておき、必要なとき出力側のバッファから、必要な周波数のクロックにより読み出して上記したキャリア増幅用電力増幅器の入力に供給してやればよい。
【0066】
一方、実時間による処理が要求された場合、制御部のクロック周波数を最大反復回数であるM倍に設定し、出力制御部12として、出力レートを元の1倍のレートに変換するのに必要なレート変換機能を備えたものを設けてやれば、実時間による処理が可能なピーク低減装置を容易に得ることができる。
【0067】
従って、上記実施形態によれば、帯域外漏洩や情報キャリアへの干渉量を最低限に抑えながら、大きな瞬時ピークを有する時間信号のピークも容易に低減させることができる。
また、この実施形態においては、ピーク低減処理に必要な演算を同一の論理回路の反復使用により得るようになっているので、回路規模の増大が抑えられ、回路リソースの削減によるコスト低減が図れ、ピーク低減装置をローコストで提供することができる。
【0068】
次に、本願発明の他の実施形態について説明する。
まず、
図8は、本願発明の第2の実施形態で、この場合、
図1に示した第1の実施形態におけるLNポイントIFFT部3に代え、それをNポイントIFFT部21と内挿補間部22に置き換え、LNポイントFFT部9に代え、それを間引き部23とNポイントFFT部24に置き換えたものであり、これら以外の部分は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0069】
次に、
図9は、本願発明の第3の実施形態で、この場合、
図1に示した第1の実施形態において、その飽和積分制御部11に代えて飽和判定積分制御部31を設けたもので、これ以外の構成は、第1の実施形態と同じである。
ここで、
図10は、この飽和判定積分制御部31の詳細で、
図7に示した飽和積分制御部11において、その加算器110と飽和処理部111の間に判定部115と切り替えスイッチ部116を挿入したものである。
ここで、既に
図8により説明した第2の実施形態においても、その飽和積分制御部11に代え、飽和判定積分制御部31を設けるようにしても良い。