【0017】
複数の凹部の面積は、以下の(i)〜(iii)の手順で算出することができる。
(i) 表面処理アルミニウム材の表面を撮像した、倍率250倍のSEM像を取得する。
(ii)上記のSEM像において、直径5μm以上の凹部(ピット)を抽出し、マーキング(塗りつぶし)を行う。
(iii)画像処理ソフト(株式会社ニレコ製のLUZEX AP)を用いて、上記のようにマーキングした面積を算出する。
【実施例】
【0026】
1.表面処理アルミニウム材の製造
アルミニウム材として、JIS−A6063を用いた。このアルミニウム材を、弱アルカリ性脱脂液にて脱脂した後、50℃、5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬してエッチングピット(複数の凹部)を形成した。なお、この水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する工程は、凹部形成工程の一実施形態である。
【0027】
次に、アルミニウム材を水洗し、常温で10%硝酸に浸漬した。なお、この硝酸に浸漬する処理は、デスマット処理の一実施形態である。
次に、アルミニウム材を再度水洗した後、85℃の純水に浸漬して、アルミニウム水和酸化物層を形成した。なお、85℃の純水に浸漬する工程は、アルミニウム水和酸化物層形成工程の一実施形態である。
【0028】
以上の工程により、表面処理アルミニウム材が製造される。この製造方法において、アルミニウム材を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間と、85℃の純水に浸漬する時間とを種々に変更して、S1〜S7の7種類の表面処理アルミニウム材を製造した。S1〜S7の処理条件を表1に示す。
【0029】
【表1】
2.表面処理アルミニウム材の評価
(1)ピット面積の測定
S1〜S7のそれぞれについて、以下の(i)〜(iii)の方法により、表面処理アルミニウム材の表面においてピットが占める面積を測定した
(i) 表面処理アルミニウム材の表面を撮像した、倍率250倍のSEM像を取得する。なお、
図2A〜Dに、それぞれ、S4(水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間0秒)、S3(水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間60秒)、S1(水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間120秒)、S2(水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間300秒)についてのSEM像を示す。S3、S1、S2においては、表面処理アルミニウム材の表面に、複数のピットが形成されていた。また、水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間が長くなるほど、ピットの大きさ及び数が増加していた。
(ii)上記(i)のSEM像において、直径5μm以上のピットを抽出し、マーキング(塗りつぶし)を行う。
(iii)画像処理ソフト(株式会社ニレコ製のLUZEX AP)を用いて、上記(ii)のようにマーキングした面積を算出する。この面積が、表面処理アルミニウム材の表面においてピットが占める面積である。
【0030】
そして、S1〜S7のそれぞれについて、表面処理アルミニウム材の全表面積に対する、ピットが占める面積の比率(以下、ピット面積比とする)を算出した。算出結果を上記表1に示す。
【0031】
(2)アルミニウム水和酸化物層の膜厚測定
S1〜S7のそれぞれについて、GD−OES(グロー放電発光表面分析)により、膜厚方向におけるアルミニウム濃度、水素濃度、及び酸素濃度のプロファイルを取得した。なお、GD−OESに用いる装置は、RIGAKU製のGDA750である。また、GD−OESの測定条件は、以下のとおりとした。
【0032】
電力:25W
Arガス圧:3.5hpa
アノード径:2.5mmΦ
S1についてのプロファイルを
図3に示す。表面処理アルミニウム材の十分に深い場所(アルミニウム水和酸化物層が形成されていない場所)におけるアルミニウム濃度に比べてアルミニウムの濃度が1/2となる点から、最表面までの距離をアルミニウム水和酸化物層の膜厚とした。S1〜S7におけるアルミニウム水和酸化物層の膜厚を上記表1に示す。
【0033】
(3)アルミニウム水和酸化物層における元素の分布
図3において、アルミニウム水和酸化物層の厚み方向における水素濃度のプロファイルは、表面付近にピークを有していた。また、アルミニウム水和酸化物層の厚み方向におけるアルミニウム濃度のプロファイルは、極小値を有していた。また、アルミニウム水和酸化物層の厚み方向における酸素濃度のプロファイルは、極大値を有していた。なお、S2〜6におけるGD−OESのプロファイルも同様の傾向を有していた。一方、S7については、上記の傾向は見られなかった。
【0034】
(4)密着性の測定
表面処理アルミニウム材の製造直後、製造から15日間放置後、製造から30日間放置後、及び製造から100日間放置後において、それぞれ、表面処理アルミニウム材とエチレンアクリル酸共重合体(EAA)樹脂との密着性試験を行った。密着性試験は、S1〜S7のそれぞれについて行った。ここで、放置は、倉庫を模擬した室内環境で行った。また、密着性試験の方法は、以下のとおりとした。
<密着性試験の方法>
粒状のEAA樹脂を、常法に従って、130℃、98MPaで溶融成形し、厚さ:0.5mm、幅10mm、長さ20mmの矩形EAA材を作成した。
【0035】
次いで、第1の表面処理アルミニウム材(20mm×100mm)を、80℃に加熱されたホットプレート上で150秒加熱するとともに、第2の表面処理アルミニウム材(20mm×100mm)上に矩形EAA材を置き、その第2の表面処理アルミニウム材を170℃に加熱されたホットプレート上で加熱して矩形EAA材を加熱溶融した。
【0036】
次いで、80℃で加熱された第1の表面処理アルミニウム材に、第2の表面処理アルミニウム材を、矩形EAA材を両者で挟むように載せて重ね合わせ、1kgfの荷重をかけて15秒間保持した後、ホットプレート上から取り出し、放冷することで密着試験片を作成した。
【0037】
その後、この密着試験片について、JIS−K6854−3(1999)に従い、T形はく離試験を行った。引張速度は、50mm/分とした。最大強度を測定すると共に、はく離形態を観察した。はく離形態が、EAA樹脂の凝集はく離である場合を合格とした。試験結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
表2に示されているように、S1、2、6、7においては、表面処理アルミニウム材の製造から長時間経過後においても、表面処理アルミニウム材と樹脂との密着性が高かった。
【0039】
それに対し、S3〜5では、表面処理アルミニウム材の製造から長時間経過した場合、表面処理アルミニウム材と樹脂との密着性が低かった。