特許第6077275号(P6077275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ化工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6077275-防炎性展示用パネル 図000003
  • 特許6077275-防炎性展示用パネル 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077275
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】防炎性展示用パネル
(51)【国際特許分類】
   G09F 7/00 20060101AFI20170130BHJP
   D21H 21/34 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G09F7/00 D
   D21H21/34
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-252166(P2012-252166)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-102277(P2014-102277A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109196
【氏名又は名称】ダウ化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(72)【発明者】
【氏名】三原 典正
(72)【発明者】
【氏名】アリ・S・ファズラット
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−225931(JP,A)
【文献】 特開2006−128454(JP,A)
【文献】 特開2005−156858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 7/00
D21H 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂発泡板の表裏面に不燃紙が粘着されている防炎性展示用パネルであって、
前記合成樹脂発泡板が、0.1%を超える量の難燃剤を含んでいない発泡ポリスチレン板であり、
前記不燃紙が、パルプと、100g/m2以上300g/m2以下の水酸化アルミニウム及び30g/m2超え40g/m2以下のガラス繊維とを含有していることを特徴とする防炎性展示用パネル。
【請求項2】
前記不燃紙のパルプの配合量が、g/m2基準の割合で15%以下であることを特徴とする請求項1に記載の防炎性展示用パネル。
【請求項3】
前記発泡ポリスチレン板が、密度が50〜130kg/m3で、表面にスキン層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の防炎性展示用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎性展示用パネルに関し、特に合成樹脂発泡板を基材とした防炎性能を有する展示用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂よりなる発泡体(以下、「樹脂発泡体」という)は、その成形性、加工性、断熱性等、の特性を生かして様々な分野に利用されている。特に最近では、商店、レストラン、デパート等で用いられる室内広告宣伝板、案内板等としても広く使われている。しかしながら樹脂発泡体は、熱に弱く、炎の中ではそのまま着火して燃焼する危険性を有している。そこで、板状またはシート状の樹脂発泡体を難燃化する試みが種々行われてきた。従来例の一つとして、板状またはシート状樹脂発泡体の製造工程中で、ハロゲン系難燃剤に代表される難燃化物質を添加する方法がある。ハロゲン系難燃剤は、プラスチックの難燃化に使用されるハロゲン化合物であり、特に有機臭素系化合物が主体である。この方法では、添加する難燃剤としてハロゲン化合物を使用しているため、燃焼・廃棄時にダイオキシン等の有害物が発生し、廃棄物の安全な処理やサーマルリサイクルを実施できないという問題点がある。
【0003】
また、他の従来例として、板状またはシート状樹脂発泡体の表面に難燃性塗料樹脂組成物を塗布する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法では、例えば、熱可塑性樹脂発泡体の少なくとも一表面に難燃性のケイ酸アルカリ系物質を該発泡体の単位面積当たり30g/m2以上を均一に塗布している。しかしながら、この方法の場合は、難燃性塗料樹脂組成物を、発泡体表面に多量に塗布するため、パネル表面に凹凸、クラックが発生しやすくなり、ディスプレイ用としての表面印刷適性も悪く、更には製造コストが高い等の問題点がある。また、基材表面に難燃性塗料樹脂組成物を直接に塗布しているため、使用後に基材樹脂発泡板を回収して、溶融樹脂化後に再利用することができないという問題点もある。さらに、防炎性能試験にて2分間加熱を行うと、炎を当てた箇所周辺の基材発泡樹脂が熱溶融により収縮し、塗膜にひびわれが生じる(塗膜破壊)ために、炎が基材発泡体を燃え上がらせる結果が生じる(防炎性能が劣る)、かつ、塗布斑等により塗膜による酸素の遮断がしにくいという問題点もある。
【0004】
また、その他の技術として、無機系塗料を塗布した不燃紙を基板である熱可塑性樹脂よりなる発泡体に接着して防炎性能を向上させた方法がある(例えば、特許文献2参照)。これらの結果によれば、水酸化アルミニウムを含む防炎紙にカオリン等の無機系塗料10g/m2以上を構成することで防炎製品認定試験へ合格する可能性が高いことが確認されている。無機系塗料を塗布すれば防炎性能は改善するものの試験方法が炭化面積によるものであり、着火作用により該不燃紙に穴が開き、素板である熱可塑性樹脂発泡体に着火すると延焼する結果となり、不燃紙の脆さ(穴あき作用)が防炎性能に大きく関わってくることが確認された。従って、試験の操作性、チェック側の判断基準により無機系塗料だけでは防炎性能評価試験へ合格することが困難であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−74937号公報
【特許文献2】特開2005−156858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、現在のところ、種々の性能をバランス良く有している展示用パネルは知られておらず、優れた防炎性能を有し、表面の平滑性、美観、インク等による印刷適性が良好であり、剛性に優れており、使用後は不燃紙と基材発泡樹脂板とを剥がして分離回収が容易で基材樹脂をリサイクル利用でき環境上好ましい展示用パネルの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、合成樹脂発泡板の表裏面に不燃紙が粘着されている防炎性展示用パネルであって、
前記合成樹脂発泡板が、0.1%を超える量の難燃剤を含んでいない発泡ポリスチレン板であり、
前記不燃紙が、パルプと、100g/m2以上300g/m2以下の水酸化アルミニウム及び30g/m2超え40g/m2以下のガラス繊維とを含有していることを特徴とする防炎性展示用パネルを提供する。
【0008】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記発泡ポリスチレン板の密度は、50〜130kg/m3であり前記発泡ポリスチレン板の表層部にスキン層を有すると、表面の平滑性をより改善することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防炎性展示用パネルは、不燃紙にガラス繊維が混成されているため、素板に難燃剤を有してなくても優れた防炎性能を有し、しかも表面の平滑性、美観、インク等による印刷適性が良好である。また、本発明の防炎性展示用パネルは、使用後は不燃紙と基材発泡樹脂板とを剥がして分離回収が容易であり、基材樹脂をリサイクル利用できるため環境上好ましい。更に、本発明の防炎性展示用パネルは、発泡樹脂板の表裏面に不燃紙が粘着されているので、パネルとしての剛性も優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の基本構成を示す概略的断面図である。
図2】実施例及び比較例の各不燃紙中の水酸化アルミニウム量とガラス繊維量をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の防炎性展示用パネルについて図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の防炎性展示用パネルの構成の一例を示した断面図である。本発明の防炎性展示用パネルは、パネル基材1、接着剤2、不燃紙3とから構成されている。すなわち、本発明の防炎性展示用パネルは、図1に示されるように板状のパネル基材1の表裏面にガラス繊維が混成された不燃紙3が接着剤2で粘着されたものである。
【0013】
本発明における不燃紙とは、水酸化アルミニウムの含有量50〜300g/m2かつガラス繊維が10〜40g/m2、望ましくは水酸化アルミニウムの含有量100〜250g/m2かつガラス繊維が10〜35g/m2が混成されたものである。本発明によって発揮される効果はガラス繊維と水酸化アルミニウムの混合によるもので、水酸化アルミニウムが50g/m2未満のときはガラス繊維が10g/m2以上でも十分な効果を得られ難い。また水酸化アルミニウム量が300g/m2を超えると表面性がぼそぼそ感あり製品不良となる。同様にガラス繊維量が40g/m2を超えると繊維量が多くなりパネルの表面平滑性が損なわれ製品不良となってしまう。
【0014】
本発明に使用するパネル基材1は、好ましくは熱可塑性合成樹脂からなる発泡板であり、熱可塑性合成樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリスチレン系共重合樹脂、ポリメチルメタアクリレート系樹脂等が挙げられる。熱可塑性合成樹脂として、着火燃焼の際多量の発煙を伴うポリスチレン発泡体を使用する場合には、本発明の防炎効果が特に顕著に表れる。また、ここで用いられる押出発泡ポリスチレン板は、好ましくは、その厚さが2〜30mm、密度が10〜130kg/m3であり、より好ましくは厚さが3〜10mm、密度が30〜80kg/m3である。厚さが薄すぎると基材としての剛性が不足しやすく、厚過ぎるとかさばるので展示用として不都合を生じやすい。また、密度が低過ぎると基材としての剛性が不足しやすく、密度が高過ぎると樹脂の燃焼により防炎性能が劣り、また重量が増して取り扱いにくく、材料的に不経済になりやすい。
【0015】
また、ハロゲン系難燃剤等の、一般的にプラスチックの難燃剤として使用される難燃剤を、パネル基材に添加した場合、難燃性は向上するものの、燃焼・廃棄時にダイオキシン等の有害物が発生し、ハロゲン系難燃剤は環境上好ましくないので使用しない方が好ましい。従って、本発明に使用するパネル基材1としては、実質的に難燃剤を含まないものを用いている。ここで、実質的に難燃剤を含まないとは、発泡板の製造過程で、難燃剤をあえて添加しないことを意味する。もちろん、製造過程でリサイクルポリマー等をブレンド使用する際、その樹脂の中に微量の難燃剤が含まれている場合や、製造ライン中に微量の難燃剤が残っている場合がある。このような場合、発泡板を分析すると0.1pph以下(「pph」はparts par hundred(=%)の略)の難燃剤が含まれていることがあるが、この程度の量であれば、燃焼時や廃棄時に有害物が発生する危険性を考慮する必要がないのである。
【0016】
パネル基材1の表面は、できるだけ平滑であることが展示後の被着物と基材との分別の点においても好ましい。このような要求に適うものとしては、表層部にスキン層が形成された押出発泡ポリスチレン板であって、光学式変位センサーで求めた表面粗さが0.5mm以下であることが好ましい。尚、スキン層とは、押出発泡することによって発泡プラスチック板の表面にできる、内部よりは密度が高い平滑な層のことである。
【0017】
また、上記光学式変位センサーとは、被測定物表面との間隔を一定に保った状態で等速度で移動しながら光を被測定物表面に照射して反射光を受光するもので、被測定物表面の凹凸変位が光の反射率と比例していることを利用して、電気信号に変換してレコーダーに出力される光の反射率から表面粗さが得られるようにしたものである。本発明における押出発泡ポリスチレン板の表面粗さは、押出方向に対する幅方向に光学式変位センサーを移動させ、レコーダーにチャートから波の最大値と最小値を読み取り、波の上下差として求められる値である。
【0018】
本発明に使用する不燃紙3として、具体的には、パルプの割合が2割程度、7割は無機質の水酸化アルミニウム、あとの1割程度はガラス繊維という成分構成である。この水酸化アルミニウムは、高温になると分解反応を起こし水分を発生するため、その水分が冷却・消火の役割を果たす。ガラス繊維は水酸化アルミニウムが高温分解する際に穴が開く作用を防止する作用がある。この作用によって一定時間の延焼性(穴あき)が防止可能となり、優れた防炎性能が発揮される。
【0019】
また、本発明に使用するパネル基材1と不燃紙3とを粘着する接着剤2としては、水性高分子エマルジョンが好ましい。より具体的には、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルとエチレンの共重合物、酢酸ビニルとアクリル酸エステルの共重合物、酢酸ビニルとイソブテンの共重合物、酢酸ビニル・エチレン・塩化ビニルの三元共重合物、酢酸ビニル・エチレン・アクリル酸エステルの三元共重合物等などのエマルジョンやこれらのカルボン酸変性物などが好ましく用いられる。これらのエマルジョンは単独で使用しても良いし、2種以上混合使用しても良い。接着性・難燃性の点から望ましいものは酢酸ビニル・エチレン・アクリル酸エステルの三元共重合物である。さらに、これらの水性高分子エマルジョンに難燃剤、水和無機化合物粉体を添加すれば更に難燃性は向上する。
【0020】
なお、接着剤塗布量は、実用上、10〜20g/m2(固形分換算)であることが望ましい。下限値未満では接着強度が低下し、上限値を超える場合ではそれ以上塗布しても接着強度は実質的に向上しないからである。
【実施例】
【0021】
<参考例1、2、実施例1〜9>
厚さ7mm、密度75kg/m3のポリスチレン押出発泡板(0.1pphを超える量の難燃剤を含まない;表面に表面粗さ0.5mm以下のスキン層有)をパネル基材とし、表裏面に表1に記載する、
イ)防災コーモ(三善製紙(株))坪量120g/m2、「パルプ」20〜25%、「水酸化アルミニウム」70〜75%、「その他」5〜10%、「コート層」カオリン/炭酸カルシウム;
ロ)サンウォール(三善製紙(株))坪量150g/m2、「パルプ」約20〜25%、「水酸化アルミ」約70〜75%、「その他」約5〜10%;
ハ)JRF(リンテック(株))坪量120g/m2、「パルプ」約30〜40%、「水酸化アルミ」約55〜65%、「ガラス繊維」約1〜3%;
ニ)セラフォームW(リンテック(株))坪量150g/m2、「パルプ」約15〜25%、「水酸化アルミ」約70〜80%、「ガラス繊維」約3〜5%;
ホ)セラフォームM(リンテック(株))坪量130g/m2、「パルプ」約15〜25%、「水酸化アルミ」約70〜80%、「ガラス繊維」約8〜10%;
ヘ)MSA−155(三菱製紙(株))坪量155g/m2、「パルプ」約5〜15%、「水酸化アルミ」約70〜80%、「ガラス繊維」約15〜25%;
ト)テスト品A 坪量100g/m2、「パルプ」約15〜25%、「水酸化アルミ」約50〜70%、「ガラス繊維」約15〜30%;
チ)テスト品B 坪量180g/m2、「パルプ」約15〜25%、「水酸化アルミ」約50〜70%、「ガラス繊維」約15〜30%;
のこれらの単体又は複合を、エチレン・酢酸ビニルエマルジョン接着剤(固形分55%)を用いて粘着した。室温で半日放置乾燥し、防炎性能を付与したパネルを得た。表1に各材料の構成とガラス繊維及び水酸化アルミニウムの質量(g/m2)を示した。
【0022】
得られたパネルに対して、財団法人日本防炎協会において防炎製品として認定基準に適合するか否かの評価(防炎性能)を実施した(防炎製品認定試験)。防炎性能試験は消防法施行規則(昭和36年4月1日自治省令第6号)第4条の3第6項各号に規定する防炎性能試験法に準じて下記の要領で行い評価した。
防炎試験方法:45°メッケルバーナー法
設置法:試験片を45°角度に設置し下限からバーナーで加熱
燃焼方法:火源(炎の高さ)メッケルバーナー65mm、加熱時間2分
評価基準:残炎時間10秒以下、残じん時間30秒以下、炭化面積70cm2以下であること。
加熱終了より15分後に発炎およびくすぶりが認められないこと。
【0023】
参考例1、2、実施例1〜9は、防炎性能試験(炭化面積)は合格であった。なお、実施例1〜7は参考実施例である。
【0024】
<比較例1〜10>
比較例1〜10については、実施例に示す素板の密度と同じく厚さ7mm、密度75kg/m3のポリスチレン押出発泡板(0.1pphを超える量の難燃剤を含まない;表面に表面粗さ0.5mm以下のスキン層有)をパネル基材とし、また、それぞれ表1に示す不燃紙を接着剤で粘着した。そして、実施例と同様に評価したところ、比較例1〜10は防炎性能試験に不合格であった。
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の防炎性展示用パネルは、例えば、商店、レストラン、デパート等で用いられる室内広告宣伝板、案内板等に使用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 パネル基材(合成樹脂発泡板)
2 接着剤
3 不燃紙
図1
図2