特許第6077286号(P6077286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077286電磁回転装置及び該電磁回転装置を備えた真空ポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077286
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】電磁回転装置及び該電磁回転装置を備えた真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20170130BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20170130BHJP
   F16C 32/04 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   H02P29/00
   F04D19/04 H
   F16C32/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-262591(P2012-262591)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-110653(P2014-110653A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】大森 秀樹
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−028072(JP,A)
【文献】 特開2005−022321(JP,A)
【文献】 特開平04−271288(JP,A)
【文献】 特開平10−047346(JP,A)
【文献】 特開2005−198441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
該モータにより回転駆動されるロータ軸と、
該ロータ軸の位置偏差に応じて生成される変位電流がバイアス電流に重畳された形で励磁電流として流される電磁石と、
直流を供給する電源と、
該電源から供給された前記直流を前記モータに供給するモータ駆動主回路と、
前記直流の電圧を監視するモータ電圧監視回路と、
該モータ電圧監視回路で監視された前記電圧が所定値以上になったときに検出信号を出力する検出信号出力手段と、
該検出信号出力手段で出力された前記検出信号に基づき前記電磁石を励磁する前記バイアス電流を増加させ、前記電源からの前記直流が供給された磁気軸受制御回路とを備え、
前記モータで発生した回生電力を前記電磁石で消費することを特徴とする電磁回転装置。
【請求項2】
前記モータに流すモータ電流を指令値に従い制御するモータ駆動制御回路と、
前記検出信号出力手段で出力された前記検出信号に基づき前記モータ電流の前記指令値を減らす制動電流調整回路とを備えたことを特徴とする請求項1記載の電磁回転装置。
【請求項3】
前記電源より前記磁気軸受制御回路に対し、前記モータ駆動主回路に供給された電圧と同じ電圧の直流が供給されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電磁回転装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁回転装置を備えた真空ポンプであって、前記ロータ軸には回転翼が取り付けられたことを特徴とする真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁回転装置及び該電磁回転装置を備えた真空ポンプに係わり、特に回生時の電力を磁気軸受装置の電磁石巻線で消費することで小型化やコストダウンを図れる電磁回転装置及び該電磁回転装置を備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。これらの半導体は、極めて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、半導体基板上に微細な回路パターンを形成し、これを積層するなどして製造される。そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般にポンプ装置として真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易である等の点から真空ポンプの中の1つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。更に、ターボ分子ポンプは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等のチャンバ内の環境を高度の真空状態にするのにも用いられている。
【0004】
そして、このようなターボ分子ポンプは、半導体製造装置や電子顕微鏡等のチャンバからガスを吸引排気するためのターボ分子ポンプ本体と、このターボ分子ポンプ本体を制御する制御装置とから構成されている。ターボ分子ポンプ本体の縦断面図を図9に示す。
【0005】
図9において、ターボ分子ポンプ本体100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c、…を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0006】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸にかつ+方向と−方向に、それぞれの対をなして配置されている(図示しないが、必要に応じて電磁石104X+、104X−、104Y+、104Y−という)。この上側径方向電磁石104に近接かつ対応されて4個の電磁石からなる上側径方向センサ107が備えられている。この上側径方向センサ107は回転体103の径方向変位を検出し、制御装置に送るように構成されている。
【0007】
この制御装置においては、上側径方向センサ107が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介した磁気軸受制御回路により上側径方向電磁石104を励磁制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整する。
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
【0008】
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している(下側径方向電磁石105についても、必要に応じて電磁石105X+、105X−、105Y+、105−という)。
【0009】
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向変位信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0010】
そして、軸方向電磁石106A、106Bは、この軸方向変位信号に基づき、制御装置のPID調節機能を有する補償回路を介した磁気軸受制御回路により励磁制御されるようになっている。軸方向電磁石106Aは、磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bは、金属ディスク111を下方に吸引する。
【0011】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁駆動する磁気軸受制御回路については、後述する。
【0012】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。
【0013】
また、モータ121には図示しない回転数センサが組み込まれており、この回転数センサの検出信号によりロータ軸113の回転数が検出されるようになっている。更に、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転数センサの検出信号をともに用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0014】
回転翼102a、102b、102c、…とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c、…が配設されている。回転翼102a、102b、102c、…は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
【0015】
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c、…の間に嵌挿された状態で支持されている。固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0016】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
【0017】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113と共に回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
【0018】
ここに、ターボ分子ポンプは、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種の特定、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ本体100は、その本体内に電子回路部141を備えている。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ本体100の下部を構成するベース部129の中央付近の図示しない回転数センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0019】
次に、制御装置について説明する。
制御装置300では図10に示すように、整流回路10で交流が直流に変換されるようになっている。この直流は、モータ駆動制御回路20で調節されたパルス信号に基づきモータ駆動主回路30で三相変換されてモータ121を駆動するようになっている。
【0020】
整流回路10の出力は直流安定化電源回路40で電圧を落とされた後、モータ駆動制御回路20に対し電源供給されると共に磁気軸受制御回路50に対しても電源供給されるようになっている。磁気軸受制御回路50からは上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bの各電磁石に対し励磁電流が流されるようになっている。
【0021】
この励磁電流は一定の定常電流(バイアス電流)に位置偏差信号に応じた変位電流が重畳された形で、上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを構成する一対の電磁石に流されている。
【0022】
次に、モータ駆動主回路30について説明する。
図11において、2本の電源線1a、1b間には、抵抗3とトランジスタ5とが電源回路に対し接続されている。
【0023】
また、この2本の電源線1a、1b間には、トランジスタ7、9、11、13、15、17が三相ブリッジ結線されモータ121へと電源供給されるようになっている。各トランジスタ5〜17のソース・ドレイン間には回生電流パス用のダイオード19a〜19gが接続されている。
【0024】
トランジスタ9、13、17を流れる電流は図示しない電流検出部により検出され、モータ電流指令値との間で偏差が取られるようになっている。そして、トランジスタ7、9、11、13、15、17のそれぞれのゲートには、この偏差に基づき調節されたPWM制御信号が入力されるようになっている。
【0025】
かかる構成において、抵抗3は回生抵抗として機能しており、回転体103を減速させるときにモータ121から発生する回生電力を熱に変換して消費させている。このように真空ポンプに回生抵抗を用いた従来例としては特許文献1〜3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開平7−279962
【特許文献2】特開2002−180990
【特許文献3】特開2004−112877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ところで、従来のようにモータの駆動主回路に回生抵抗を設置した場合、この回生抵抗で発生する熱を伝熱させる取付スペースが必要であるため制御装置が大きくなるという問題があった。
また、回生抵抗と共に回生抵抗への電流をオン、オフするトランジスタやダイオードも必要であり、コスト高になっていた。
【0028】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、回生時の電力を磁気軸受装置の電磁石巻線で消費することで小型化やコストダウンを図れる電磁回転装置及び該電磁回転装置を備えた真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
このため本発明(請求項1)は、モータと、該モータにより回転駆動されるロータ軸と、該ロータ軸の位置偏差に応じて生成される変位電流がバイアス電流に重畳された形で励磁電流として流される電磁石と、直流を供給する電源と、該電源から供給された前記直流を前記モータに供給するモータ駆動主回路と、前記直流の電圧を監視するモータ電圧監視回路と、該モータ電圧監視回路で監視された前記電圧が所定値以上になったときに検出信号を出力する検出信号出力手段と、該検出信号出力手段で出力された前記検出信号に基づき前記電磁石を励磁する前記バイアス電流を増加させ、前記電源からの前記直流が供給された磁気軸受制御回路とを備え、前記モータで発生した回生電力を前記電磁石で消費することを特徴とする。
【0030】
回生時や加速時の設定速度到達後のオーバーシュート等でモータ駆動主回路にかける電圧が上がったときには磁気軸受のバイアス電流を増加させることで磁気軸受装置の電磁石巻線で回生電力を消費させる。このことにより、回生抵抗を削除することが可能となる。
回生抵抗を削除すれば、回生抵抗設置スペースが不要となり、制御装置の小型化に繋がる。また、回生抵抗をON/OFFするスイッチング素子も不要にできるため、コストダウンも図れる。
【0031】
また、本発明(請求項2)は、前記モータに流すモータ電流を指令値に従い制御するモータ駆動制御回路と、前記検出信号出力手段で出力された前記検出信号に基づき前記モータ電流の前記指令値を減らす制動電流調整回路とを備えて構成した。
【0032】
回生時や加速時に電圧が上がり過ぎると電子素子が壊れるのでモータ電流を調整して回生時等の電圧が上がらないようにする。
即ち、モータ駆動主回路への電圧が上がったらモータ電流の指令値を減らす。モータに流れる電流が減ると回生時等の電圧も下がる。
【0033】
更に、本発明(請求項3)は、前記電源より前記磁気軸受制御回路に対し、前記モータ駆動主回路に供給された電圧と同じ電圧の直流が供給されることを特徴とする。
【0034】
磁気軸受制御回路に対しモータ駆動主回路に供給された電圧と同じ電圧の直流を供給することで、モータ駆動制御回路や磁気軸受制御回路に直流を供給する直流安定化電源回路を小さくできる
【0035】
更に、本発明(請求項4)は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁回転装置を備えた真空ポンプであって、前記ロータ軸には回転翼が取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように本発明(請求項1)によれば、モータ電圧監視回路で監視された電圧が所定値以上になったときに検出信号を出力し、この検出信号に基づき電磁石を励磁するバイアス電流を増加させるように構成したので、回生時や加速時等でモータ駆動主回路にかける電圧が上がったときには磁気軸受装置の電磁石巻線で回生電力を消費させることができるようになる。このことにより、回生抵抗を削除することが可能となる。
【0037】
回生抵抗を削除すれば、回生抵抗設置スペースが不要となり、制御装置の小型化に繋がる。また、回生抵抗をON/OFFするスイッチング素子も不要にできるため、コストダウンも図れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の第1実施形態の全体ブロック図
図2】モータの制動電流に関する制御ブロック図
図3】磁気軸受制御回路の構成図
図4】電磁石巻線に流す電流に関する制御ブロック図
図5】半径方向位置制御システム図
図6】タイムチャート
図7】加速時に回生電力が発生する意味
図8】本発明の第2実施形態の全体ブロック図
図9】ターボ分子ポンプ本体の縦断面図
図10】従来の全体ブロック図
図11】モータ駆動主回路の構成図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の第1実施形態の全体ブロック図を図1に示す。なお、図10と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
【0040】
図1において、制御装置400の整流回路10には交流電源が接続されている。整流回路10では交流が整流されて100〜150ボルトの直流に変換されるようになっている。この直流は電源線1a、1b間を流れモータ駆動主回路30に入力されるようになっている。電源線1a、1b間にはモータ電圧監視回路60が配設されモータ駆動主回路30の電圧が監視されるようになっている。
【0041】
そして、このモータ電圧監視回路60では、モータ121の減速時若しくは加速時に電源線1a、1b間の電圧が所定の電圧より高くなったことが検出されるようになっている。
【0042】
このときモータ電圧監視回路60からは電圧高検出信号が出力されるようになっている。そして、この電圧高検出信号は制動電流調整回路70と磁気軸受制御回路50とに入力されるようになっている。制動電流調整回路70では、この電圧高検出信号が入力されたときに図2に示す制動電流指令値演算部71でモータ121の制動電流の指令値が演算されるようになっている。
【0043】
制動電流指令値演算部71で演算された制動電流の指令値はトランジスタ9、13、17に対しそれぞれ直列に配設された電流検出部73により検出された電流値との間で偏差部75において偏差が取られ、この偏差に基づきPWM制御部77でパルス幅変調されたPWM制御信号が生成されるようになっている。
【0044】
そして、モータ駆動主回路30のトランジスタ7、9、11、13、15、17のそれぞれのゲートには、このPWM制御信号が入力されることで制動電流が調整されるようになっている。
【0045】
整流回路10から出力された直流は直流安定化電源回路40で数ボルト程度の大きさの直流に落とされた後、モータ駆動制御回路20及び磁気軸受制御回路50に対し制御用の電圧として入力されるようになっている。
また、磁気軸受制御回路50には電源線1a、1b間の電圧が供給されている。
【0046】
図3に磁気軸受制御回路50の構成図を示す。磁気軸受制御回路50は、アンプ回路250とアンプ制御回路271とで構成されている。アンプ制御回路271には直流安定化電源回路40より制御用の電圧が入力されるようになっている。
【0047】
図3において、ターボ分子ポンプ本体100には、各電磁石104、105、106A、106Bを構成する電磁石巻線151、151、…に対して共通のノード(このノードを共通ノードCという)が設けられている。そして、各電磁石巻線151の一端151aが共通ノードCに接続されている。また、電磁石巻線151の他端151bは、アンプ回路250のトランジスタ261及びダイオード265に接続されている(この他端151bのノードをノードEという)。
【0048】
このとき、トランジスタ261は、パワーMOSFETであり、ドレイン端子261aが電磁石巻線151の他端151bに、ソース端子261bが電流検出回路255を介して整流回路10の負極1bに接続されている。また、ダイオード265は、電流回生用あるいはフライホイール用のダイオードであり、カソード端子265aが整流回路10の正極1aに、アノード端子265bが電磁石巻線151の他端151bに接続されている。
【0049】
そして、トランジスタ261のソース端子261bに接続されている電流検出回路255は、一端が負極1bに他端がトランジスタ261のソース端子261bに接続された検出抵抗256と、この検出抵抗256の他端の電圧から電磁石電流iLを検出する検出部257とを有している。この検出部257は電磁石巻線151に流れる電磁石電流iLを検出して、この検出結果である電流検出信号273をアンプ制御回路271に出力するようになっている。
【0050】
以上のようにして構成されるアンプ回路250は、各電磁石104、105、106A、106Bを構成する電磁石巻線151、151、…毎に設けられるようになっている。
【0051】
アンプ制御回路271は、DSP部(図示略)内の回路となっている。そして、このアンプ制御回路271には、図4に示すように、モータ電圧監視回路60で検出された電圧高検出信号が入力されるようになっている。そして、この電圧高検出信号が入力されたときに電流指令値演算部371で電磁石巻線151に流すバイアス電流の指令値が演算されるようになっている。
【0052】
電流指令値演算部371で演算されたバイアス電流指令値373は、図4及び図5の半径方向位置制御システム図に示すように例えば下側径方向電磁石105を構成する電磁石105X+の駆動のため、補償回路379から出力された一方の信号と加算部387において加算された形で偏差部375に入力されるようになっている。
【0053】
また、電磁石105X−の駆動のため、補償回路379から出力された他方の信号は反転回路381で反転され、バイアス電流指令値373と加算部389において加算された形で偏差部375に入力されるようになっている。
【0054】
バイアス電流指令値を加算するのは、回転体103の半径方向位置制御が線形的に行えるようにするためである。即ち、電磁石105X+、電磁石105X−には、一定の直流バイアス電流と回転体103を一定位置に保持するための制御電流が重畳して流される。
【0055】
補償回路379には、例えば下側径方向センサ108の位置検出回路383で検出された回転体103の半径方向位置と位置指令値385間の偏差部341で演算された偏差が入力されるようになっている。
【0056】
図4において、電流検出回路255で検出した電磁石電流iLの値と電流指令値とを偏差部375で比較し、PWM制御部377では電磁石電流iLを増加させる時間(上述した増加時間Tp1)や電磁石電流iLを減少させる時間(上述した減少時間Tp2)を決めて、これに基づきPWM制御による1周期である制御サイクルTs内にトランジスタ261のゲート端子に出力するゲート駆動信号274のパルス幅時間を決めるようになっている。
【0057】
更に、図3において、アンプ回路250の共通ノードCに対しては、切替回路280が接続されている。この切替回路280では、共通ノードCに対してトランジスタ281及びダイオード285が接続されている。
【0058】
ダイオード285は、電流回生用あるいはフライホイール用のダイオードであり、カソード端子285aが共通ノードCに、アノード端子285bがアンプ回路250と同じ負極1bに接続されている。また、トランジスタ281は、パワーMOSFETであり、ドレイン端子281aが整流回路10の正極1aに、ソース端子281bが共通ノードCに接続されている。
【0059】
そして、このトランジスタ281のゲート端子に対してはアンプ制御回路271から切替信号276が出力されるようになっており、アンプ制御回路271ではアンプ回路250に対する制御と同じ制御サイクルTs内にトランジスタ281のゲート端子に出力する切替信号276のパルス幅時間を決めるようになっている。
【0060】
かかる構成において、アンプ回路250のトランジスタ261をonにして、切替回路280のトランジスタ281をonにすると、正極1aからトランジスタ281、共通ノードC、電磁石巻線151、トランジスタ261(及び電流検出回路255)を介して負極1bへ電流が流れる。そのため、電磁石巻線151には正極1aから電流が供給されるので、電磁石電流iLが増加する(この状態を増加モードA1という)。
【0061】
一方、アンプ回路250のトランジスタ261をoffにして、切替回路280のトランジスタ281をoffにすると、電磁石巻線151で生じる逆起電力により負極1bからダイオード285、共通ノードC、電磁石巻線151、ダイオード265を介して正極1aへ回生電流が流れる。これにより電磁石巻線151から生じる電磁エネルギーが消費されるので、電磁石電流iLが減少する(この状態を減少モードA2という)。
【0062】
更に、アンプ回路250のトランジスタ261をonにして、切替回路280のトランジスタ281をoffにすると、電磁石巻線151で生じる逆起電力により負極1bからダイオード285、共通ノードC、電磁石巻線151、トランジスタ261(及び電流検出回路255)を介して負極1bへフライホイール電流が流れる。このとき、電磁石巻線151の両端151a、151b間には電位差が生じないので、電磁石電流iLがほぼ一定に保たれる(この状態を一定モードA3という)。
【0063】
また、この一定モードA3以外にも、アンプ回路250のトランジスタ261をoffにして、切替回路280のトランジスタ281をonにすると、電磁石巻線151で生じる逆起電力により正極1aからトランジスタ281、共通ノードC、電磁石巻線151、ダイオード265を介して正極1aへフライホイール電流が流れるので、この場合も電磁石電流iLがほぼ一定に保たれる(この状態を一定モードA4という)。
【0064】
ここで、アンプ回路250によるトランジスタ261等への制御位相と切替回路280によるトランジスタ281等への切替位相との調節を示すタイムチャートを図6に示す。
【0065】
図6において、切替回路280に対しては、制御サイクルTs中にトランジスタ281がonにされる時間とoffにされる時間とが同じ時間となるように制御が行われる。このとき、制御サイクルTsの始めの時間(時間0)から制御サイクルTsの半分の時間(時間0.5Ts)まではトランジスタ281がoffにされる。
【0066】
そのため、共通ノードCの電圧は、電磁石巻線151で生じる逆起電力等により負極1bと略同じ電圧(以下、電圧VLという)になる。一方、制御サイクルTsの半分の時間(時間0.5Ts)から制御サイクルTsの終わり(時間Ts)まではトランジスタ281がonにされる。そのため、共通ノードCの電圧は、正極1aと略同じ電圧(以下、電圧VHという)になる。
【0067】
そして、電流検出回路255で検出した電磁石電流iLの値が電流指令値よりも小さい場合には、アンプ制御回路271で電磁石電流iLを増加させるように制御が行われる。この場合には、1制御サイクルTs中で上述した増加時間Tp1だけ増加モードA1の状態となるように制御が行われ、他の時間は一定モードA3、A4いずれかの状態となるように制御が行われる。
【0068】
具体的には、時間0.5Ts〜時間Tsでは切替回路280のトランジスタ281がonにされているので、時間0.5Tsを始点に時間Tp1だけトランジスタ261をonにすることで増加時間Tp1だけ増加モードA1の状態とする。また、この時間Tp1経過後は、トランジスタ261をoffにすることで一定モードA4の状態とする。
【0069】
一方、時間0〜時間0.5Tsでは、切替回路280のトランジスタ281がoffにされているので(即ち増加モードA1の状態にはできないので)、トランジスタ261をonにすることで一定モードA3の状態とする。これにより、1制御サイクルTs中に増加時間Tp1だけ電磁石電流iLが増加される。
【0070】
一方、電流検出回路255で検出した電磁石電流iLの値が電流指令値よりも大きい場合には、アンプ制御回路271で電磁石電流iLを減少させるように制御が行われる。この場合には、1制御サイクルTs中で上述した減少時間Tp2だけ減少モードA2の状態となるように制御が行われ、他の時間は一定モードA3、A4いずれかの状態となるように制御が行われる。
【0071】
具体的には、時間0〜時間0.5Tsでは切替回路280のトランジスタ281がoffにされているので、時間0.5Tsを終点に時間Tp2だけトランジスタ261をoffにすることで減少時間Tp2だけ減少モードA2の状態とする。また、トランジスタ261をoffにするまでの時間は、トランジスタ261をonにすることで一定モードA3の状態とする。
【0072】
一方、時間0.5Ts〜時間Tsでは、切替回路280のトランジスタ281がonにされているので(即ち減少モードA2の状態にはできないので)、トランジスタ261をoffにすることで一定モードA4の状態とする。これにより、1制御サイクルTs中に減少時間Tp2だけ電磁石電流iLが減少される。
【0073】
更に、電流検出回路255で検出した電磁石電流iLの値が電流指令値と一致している場合には、アンプ制御回路271で電磁石電流iLを一定に保つように制御が行われる。この場合には、1制御サイクルTs中で常に一定モードA3、A4いずれかの状態となるように制御が行われる。
【0074】
具体的には、時間0〜時間0.5Tsでは切替回路280のトランジスタ281がoffにされているので、トランジスタ261をonにすることで一定モードA3の状態とする。
【0075】
一方、時間0.5Ts〜時間Tsでは、切替回路280のトランジスタ281がonにされているので、トランジスタ261をoffにすることで一定モードA4の状態とする。これにより、電磁石電流iLが一定に保たれる。
【0076】
以上により、切替回路280への制御を行いつつアンプ回路250を制御することで、電磁石電流iLを増加、減少、一定に維持させることができ、電磁石電流iLの値を電流指令値と一致させることができる。
【0077】
次に、本発明の第1実施形態の動作を説明する。
図1では図10とは異なり、モータ駆動主回路30から回生抵抗3とトランジスタ5を除いている。そして、従来回生抵抗3で消費していた回生電力を電磁石巻線151で消費させるものである。
【0078】
電磁石巻線151で消費されるエネルギーが従来回生抵抗3で消費されていたエネルギーのすべてではない場合、回生抵抗3を除くとモータ121の減速時、若しくは図7に示すように、加速時の設定回転速度到達後のオーバーシュート時に回生電流が流れた際、モータ駆動主回路30の電圧が高くなる。このように電圧が上がると電子素子が壊れる恐れが生ずるので制動電流を調整して回生時の電圧が上がらないようにする必要がある。
【0079】
そこで、モータ電圧監視回路60で、モータ駆動主回路30の電圧がモータ121の減速時若しくは加速時に通常運転時の電圧より10〜20%以上高くなったとき、この状態を検出しモータ電圧監視回路60より制動電流調整回路70と磁気軸受制御回路50に対し電圧高検出信号を送る。
【0080】
制動電流調整回路70では、この電圧高検出信号を受けてモータ121の誘起電圧が一定若しくは下がるようにモータ121の制動電流指令値を減らす。
トランジスタ9、13、17を流れる電流は、この制動電流指令値との間で偏差が取られ、トランジスタ7、9、11、13、15、17のそれぞれのゲートには、この偏差に基づき調節されたPWM制御信号が入力される。このとき、モータ121を流れる制動電流は減り、制動電流が減ると電源線1a、1b間に生じた回生電圧も下がる。
【0081】
一方、磁気軸受制御回路50のアンプ制御回路271では、この電圧高検出信号を受けて電磁石巻線151を流れる電流が通常運転時のバイアス電流の1.2倍〜3倍程度に増加するようにバイアス電流を含む電流指令値が演算される。
即ち、モータ駆動主回路30の電圧が上がったら電磁石巻線151を流れるバイアス電流を含む電流を増加して消費電力を増やす。
【0082】
以上により、回生抵抗3を削除した場合でも回生電力を消費し安定的にポンプを停止することができる。
また、回生抵抗3を削除すれば、回生抵抗設置スペースが不要となり、制御装置の小型化に繋がる。また、回生抵抗3をON/OFFするスイッチング素子も不要にできるため、コストダウンも図れる。
【0083】
なお、回生抵抗3を削除するとして説明したが、この回生抵抗3は残しておくことも可能である。この場合には、電磁石巻線151側で大半の回生エネルギーを消費させているので、回生抵抗3やこの回生抵抗3をON/OFFするスイッチング素子の容量を小さくできる。また、ポンプを迅速に停止できる。
【0084】
なお、電圧高検出信号は符号であるが、連続する電圧値とされてもよい。また、電圧値のレベルに応じて段階的に生成される符号とされてもよい。
連続する電圧値とすれば、制動電流の調整やバイアス電流の調整が連続的に可能となる。段階的とすれば制動電流の調整やバイアス電流の調整を段階的に変更できる。
【0085】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態の全体ブロック図を図8に示す。なお、図1と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
【0086】
図1では、磁気軸受制御回路50には電源線1a、1b間の直流電圧が供給されていたのに対し、図8の制御装置500では、直流安定化電源回路40より40〜60ボルトに落とされた直流電圧が磁気軸受制御回路50に供給されている点で相違する。1つの直流安定化電源回路40を制御用と磁気軸受用に分岐して使用可能であるが、第2実施形態の場合には第1実施形態に比べ直流安定化電源回路40の容量は大きくなる。
【符号の説明】
【0087】
1 電源線
3 回生抵抗
5〜17、261、281 トランジスタ
10 整流回路
20 モータ駆動制御回路
30 モータ駆動主回路
40 直流安定化電源回路
50 磁気軸受制御回路
60 モータ電圧監視回路
70 制動電流調整回路
71 制動電流指令値演算部
73 電流検出部
75、375 偏差部
77、377 PWM制御部
100 ターボ分子ポンプ本体
102 回転翼
104 上側径方向電磁石
105 下側径方向電磁石
106A、106B 軸方向電磁石
113 ロータ軸
121 モータ
151 電磁石巻線
250 アンプ回路
255 電流検出回路
256 検出抵抗
257 検出部
265、285 ダイオード
271 アンプ制御回路
273 電流検出信号
274 ゲート駆動信号
276 切替信号
280 切替回路
300、400、500 制御装置
371 電流指令値演算部
373 バイアス電流指令値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11