(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077295
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】動力変換機
(51)【国際特許分類】
F03B 17/06 20060101AFI20170130BHJP
F03B 3/04 20060101ALI20170130BHJP
F03B 3/12 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
F03B17/06
F03B3/04
F03B3/12
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-275272(P2012-275272)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-118898(P2014-118898A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年12月8日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512326539
【氏名又は名称】山田 英弘
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】山田 英弘
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−128272(JP,U)
【文献】
特表2009−522481(JP,A)
【文献】
特開2012−132386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 17/06
F03B 3/04
F03B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身に作用する浮力によって水面に浮くことができ係留可能な船体と、回転軸と、1又は2以上のタービンとを備える動力変換機において、
前記回転軸が、前記船体が係留状態にあるときに水の流れに平行し且つ水上に位置するように船体に固定されており、
前記タービンが、板材からなる前ホイル、後ホイル及び複数の羽根を備え、
前ホイル及び後ホイルが各々、回転軸の周囲から径方向に広がるボス、及び前記羽根と同数でボスから放射状ないしマルチスパイラル状に延びるアームを有するとともに、相対的に上流側及び下流側で互いに対向するよう前記ボスを介して前記回転軸に取り付けられており、
各羽根の第一の主面が第一の端部付近で前ホイルのいずれかのアームに、第二の主面が第二の端部付近で後ホイルのいずれかのアームに支持され且つ固定されており、
前記船体を流水上に浮かせたとき、前記回転軸より下位にある羽根が水没することを特徴とする動力変換機。
【請求項2】
前記各羽根が回転軸に対して30〜60度の角度をなしている請求項1に記載の動力変換機。
【請求項3】
前記前ホイルの各アームが先端部で時計方向に曲がった鉤形をなし且つ下流側に山折りされ、後ホイルの各アームが先端部で反時計方向に曲がった鉤形をなし且つ上流側に谷折りされており、前記各羽根の支持及び固定がこれらの先端部にてなされている請求項1に記載の動力変換機。
【請求項4】
前記各羽根が直線状の3辺と円弧状の1辺とで囲まれる方形をなし、回転軸方向から見たとき、前記円弧状の1辺が回転軸を中心とする円周線と重なる請求項1に記載の動力変換機。
【請求項5】
前記船体が、回転軸に垂直な断面視で、前記円周線と同心で、前記円周線の下半部と微小な間隙を介して対向する半円状の樋を有する請求項4に記載の動力変換機。
【請求項6】
前記船体が、前記浮力を生じさせるために内部に空間を有する2以上のフロートと、フロート同士を間隔を開けて互いに連結するとともに前記回転軸を固定するフレームとを有し、前記樋が2つのフロートの間に設置されている請求項5に記載の動力変換機。
【請求項7】
前記船体が、前記樋内に流水を案内する取水ガイドを更に有し、取水ガイドが前記樋に連なるとともに、樋から遠ざかるにつれて漸増する幅を有する請求項5又は6に記載の動力変換機。
【請求項8】
前記フロートは、その内部空間が複数のタンクに仕切られており、各タンクに個別にバラスト水を注入可能である請求項6の動力変換機。
【請求項9】
請求項1−8のいずれかに記載の動力変換機と発電機とを組み合わせた水力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流水の力を回転力に変換して発電機などを駆動させる動力変換機に関し、係留式水力発電装置に好適に利用されうる。
【背景技術】
【0002】
水力発電は、水資源の豊富な我が国において無限に近い国産エネルギーを生み出すもので、騒音や有害な廃棄物を出すこともないなど、多くの利点を有している。このうち、河川や用水路に係留した状態で発電する水力発電措置は、設置のために大がかりな土木工事を要せず、水位の変化にも自然に対応することから、種々提案されている。
【0003】
提案されている係留式水力発電装置の多くは、流水の力を回転力に変換するタービン(羽根車)の回転軸が水の流れに対して直交しているものである(特許文献1−3)。一方、回転軸が水の流れに平行して設けられ、複数の羽根が放射状に取り付けられた羽根車を軸方向に複数連結したものも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−208576号公報
【特許文献2】特開2000−64939号公報
【特許文献3】特開2003−286935号公報
【特許文献4】特開2012−132386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1−3に開示されたものは、タービンが単一であるから、回転トルクが小さくエネルギー変換効率に乏しい。一方、特許文献4に開示されたものは、回転軸を完全に水没させた状態で稼働させるので、軸と軸受けとの間に水が浸入してきて壊れやすいし、羽根が肉厚であるので加工コストが高い。
それ故、この発明の課題は、エネルギー変換効率及び耐久性に優れた係留式動力変換機を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その課題を解決するために、この発明の動力変換機は、
自身に作用する浮力によって水面に浮くことができ係留可能な船体と、回転軸と、1又は2以上のタービンとを備える動力変換機において、
前記回転軸が、前記船体が係留状態にあるときに水の流れに平行し且つ水上に位置するように船体に固定されており、
前記タービンが、板材からなる前ホイル、後ホイル及び複数の羽根を備え、
前ホイル及び後ホイルが各々、回転軸の周囲から径方向に広がるボス、及び前記羽根と同数でボスから放射状ないしマルチスパイラル状に延びるアームを有するとともに、相対的に上流側及び下流側で互いに対向するよう前記ボスを介して前記回転軸に取り付けられており、
各羽根の第一の主面が第一の端部付近で前ホイルのいずれかのアームに、第二の主面が第二の端部付近で後ホイルのいずれかのアームに支持され且つ固定されており、
前記船体を流水上に浮かせたとき、前記回転軸より下位にある羽根が水没することを特徴とする。
【0007】
この発明の動力変換機によれば、前記船体を流水上で係留させると、回転軸より下位にある羽根が水没する。水没した羽根は、流水の圧力を受けて旋回しながら水を後方に送る。通過した流水は、タービンが複数設置されている場合、後続のタービン羽根の旋回に再び寄与する。回転軸は水上にあるので、軸受けやその周辺に流水が浸入してくることはない。また、羽根及び両ホイルがいずれも板材からなるので、加工しやすい。前後のホイルのアームで羽根が支持され固定されているので、前後のホイルのアームと羽根とが互いに補強し合う関係となる。そのため、いずれも板材からなるにもかかわらず、流水中で形状を維持するのに十分な強度を有する。前ホイル、後ホイル及び羽根の材質は、同種でも異種でもよい。
【0008】
前記各羽根は、好ましくは回転軸に対して30〜60度、特に好ましくは45度の角度をなしている。羽根がこの範囲の角度をなしているときに、水の力が高い効率で回転力に変換されるからである。羽根をこのように傾け且つ必要な機械的強度をもたせるために、適切な羽根とホイルの組み合わせは、前ホイルの各アームが先端部で時計方向に曲がった鉤形をなし且つ下流側に山折りされ、後ホイルの各アームが先端部で反時計方向に曲がった鉤形をなし且つ上流側に谷折りされ、前記各羽根の支持及び固定がこれらの先端部にてなされているものである。
【0009】
前記各羽根としては、直線状の3辺と円弧状の1辺とで囲まれる方形をなし、回転軸方向から見たとき、前記円弧状の1辺が回転軸を中心とする円周線と重なる形状のものが好ましい。ほぼ方形をなしているので、板材をほとんど余すところ無く有効に利用することができるし、円弧状の1辺が外側に位置するように取り付けることで、少ない抵抗で羽根を旋回させることができるからである。
【0010】
羽根が前記のように円弧状の1辺を有する場合、前記船体が、回転軸に垂直な断面視で、前記円周線と同心で、前記円周線の下半部と微小な間隙を介して対向する半円状の樋を有するのが好ましい。これにより羽根が水中にある障害物と衝突するのを避けることができるからである。
このように樋を設けるために適切な船体は、前記浮力を生じさせるために内部に空間を有する2以上のフロートと、フロート同士を間隔を開けて互いに連結するとともに前記回転軸を固定するフレームとを有するものである。この場合、樋はフロート及びフレームのどちらに支持されても良く、いずれにしても2つのフロートの間に設置することで全体のバランスを保ちやすくなる。
【0011】
前記樋を有する船体においては樋内に流水を案内する取水ガイドを更に有するとよい。好ましい取水ガイドは、前記樋に連なるとともに、樋から遠ざかるにつれて漸増する幅を有するものである。広幅の取水口から流入した水の流速が、幅の漸減に伴って増速され、タービンの回転トルクを増すからである。
【0012】
前記フロートは、その内部空間が複数のタンクに仕切られており、各タンクに個別にバラスト水を
注入可能であるとよい。バラスト水を各タンクに個別に注入することで、喫水線を望ましい位置にすることができるとともに、全体のバランスもとりやすくなるからである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の動力変換機によれば、回転軸が水上にあって、軸受けやその周辺に流水が浸入してくることはないので耐久性に優れている。また、羽根及び両ホイルがいずれも板材からなっていて加工しやすいので、製作コストが低くて済む。そして、1つの回転軸にタービンを複数設置することができるので、個々のタービンが小さくても大きな回転力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の動力変換機と発電機とを組み合わせた水力発電装置の斜視図である。
【
図2】実施形態の動力変換機に用いられるタービンの斜視図である。
【
図5】同じく上記水力発電装置の天板を取り外した状態の平面図である。
【
図6】上記水力発電装置の使用状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図に示すように、この実施形態の水力発電装置1は、船体2と、回転軸3と、4つのタービン4と、発電機5とを備え、流水の勢いによってタービン4が回転し、その回転運動を回転軸3に掛けられたタイミングベルト5a、及び増速ユニット5bを介して発電機5に伝達し、発電するものである。
船体2は、平面視で先端部がテーパになっている他は細長い中空直方体状の一対のフロート6、6と、これらのフロート6、6を間隔を開けて連結するとともに回転軸3その他の構成要素を搭載するフレーム7と、半割円筒状の樋8と、取水ガイド9とからなる。
【0016】
フロート6の内部は、4つのタンクに液密に仕切られていて、図略の注水口より個別に注水可能にされている。フロート6の先端面及び後端面には、係留ロープを留めるフック6aが取り付けられており、河川、水路、下水道などにて係留されている状態ではフロート6、6に作用する浮力によって装置1全体が水面に浮くと共に流水は両フロート6、6間を通過する。フロート6の下面には、安定性を増すための板状のヒレ6bが長寸方向に設けられている。
【0017】
フレーム7は、フロート6、6の側面にそれぞれ固定された2本の側ビーム(符号省略)と、これらのビームの前端、中央及び後端を連結する3本の連結ビーム7a、7b、7cと、これらの5本組のビーム群の4隅に立てられた4本のマスト(符号省略)と、これらの4本のマストの上端を連結する4本のビーム(符号省略)と、上面全体を覆う天板(符号省略)とからなる。増速ユニット5b及び発電機5は、天板上に搭載されている。
【0018】
回転軸3は、前記3本の連結ビーム上の中間位置に搭載され固定されている。4つのタービン4は、2つが連結ビーム7a、7b間に、残り2つが連結ビーム7b、7c間に位置するように回転軸3に縦列に取り付けられている。各タービン4は、いずれもSUS304鋼板製の前ホイル41、後ホイル42及び8枚の羽根43からなる。前ホイル41と後ホイル42は、同形同大で一方が他方を反転した配置になっている。ホイル41は、回転軸3の周囲から径方向に広がるボス41a、及びボス41aから延びる8本のアーム41bを有する。アーム41bは、8本全体としては正面視で中心から遠ざかるにつれて時計方向に変位するマルチスパイラル状をなしている。
【0019】
各アーム41bを個別に見ると、中心を通過しない直線に沿ってボス41aから離れ、続いて円弧を描きながら直角方向に曲がって再び直線状に延びる鉤形をなしている。そして、直角方向に曲がって再び直線状に延び始める位置にて前ホイル41のアームは45度に山折り、後ホイル42のアームは45度に谷折りされることにより、羽根43を固定するための先端部を形成している。
【0020】
山折りされた先端部と対応する谷折りされた先端部とは、板厚分だけ厚み方向にずれている他は同一平面上にあり、一方の先端部と羽根43の第一の主面とが2個所でボルト締めされ、他方の先端部と羽根43の第二の主面とが2個所でボルト締めされることにより、羽根43が前後から挟み持ちされて安定して45度の配置をとっている。羽根43は、直線状の3辺と円弧状の1辺とで囲まれる方形をなし、円弧状の1辺と対向する直線状の辺に沿って前記ボルト締めされていて、回転軸方向から見たとき、前記円弧状の1辺が回転軸3を中心とする円周線と重なるように加工されている。この円周線は、次に述べる樋8の内周面と微小間隙を介して対向する。
【0021】
樋8は、フロート6、6の間で前記連結ビームに固定されており、正面視手前の開口が流水の入口、後端の開口が出口となっている。取水ガイド9は、樋8の入口に連ねて取り付けられており、上面が前方に向かうにつれて下降するとともにフロート6、6の先端部内側面に倣って広がる形状を有している。
【0022】
水力発電装置1を使用するときは、係留状態でフロート6、6のタンクにバラスト水を注入し、回転軸3が水面と平行になり且ついずれの位相にあるアーム41bも水没することなく最下位にある羽根43の水没面積が最大となるように各タンクの注水量を調整するすると、水没した羽根43は、流水の圧力を受けて旋回しながら水を後方に送る。
【0023】
羽根43が回転軸3に対して45度に傾いているので、水の力があまり無駄になることなく回転力に変換される。また、羽根43が8枚取り付けられているので、1つの羽根43が水面から脱する際には、後続の羽根43の水没面積が最大に達しており、更にその後の羽根43が水に浸かり始める。このため、いずれかの羽根43が連続して水の力を受けることができ、しかも通過した流水は、後続のタービン羽根の旋回に再び寄与するので、強い回転力を生じる。
【0024】
そして、取水ガイド9によって広範囲から集められた流水が樋8内に収束するので、流速が増し、一層強い回転力を生じる。例えば
図6に示すハッチング部分が樋8内に流入した水の断面、樋8の半径を35cmとすると、ハッチング部分の円弧に対応する中心角は約90度であるから、ハッチング部分の面積は{(35×35×π/4)−(35×35/2)}=350cm
2となる。一方、取水ガイド9の入口の最大幅は100cm、取水ガイド9の先端部の深さは12.8cmとなり、取水ガイド9の入口にあって桶8内集められようとする水の断面積は、12.8×100=1280cm
2となり、取水ガイド9を通過する間に流速が1280/350=3.65倍に増すこととなる。
【0025】
水力発電装置1においては回転軸3は水上にあるので、軸受けやその周辺に流水が浸入してくることはない。また、羽根43及び両ホイル41、42がいずれも板材からなるので、加工しやすい。このようにタービン4は、全体が板材からなるにもかかわらず、前後のホイルのアーム41、42と羽根43とが互いに補強し合う構造をとっているので、流水中で形状を維持するのに十分な強度を有する。尚、フック6aが前後に設けられているので、1個所の係留位置から複数の水力発電装置1を水の流れ方向に連結して使用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 水力発電装置
2 船体
3 回転軸
4 タービン
41、42 ホイル
43 羽根
5 発電機
6 フロート
7 フレーム
8 樋
9 取水ガイド