特許第6077308号(P6077308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077308
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20170130BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20170130BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20170130BHJP
   F02D 35/00 20060101ALI20170130BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20170130BHJP
   G01M 15/04 20060101ALN20170130BHJP
   G01M 17/007 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   F02D41/14 310F
   F02D41/22 305K
   F02D45/00 368G
   F02D45/00 345Z
   F02D35/00 368B
   F01N3/20 C
   !G01M15/04
   !G01M17/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-2043(P2013-2043)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-134125(P2014-134125A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】花井 修一
(72)【発明者】
【氏名】名倉 康司
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079546(JP,A)
【文献】 特開2003−155953(JP,A)
【文献】 特開2002−339790(JP,A)
【文献】 特開平05−179935(JP,A)
【文献】 特開2007−198158(JP,A)
【文献】 特開2011−122571(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0150057(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00−45/00
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
G01M15/00−17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に設けられた触媒と、
前記排気経路のうち前記触媒の上流側に設けられ、検知素子および素子加熱用ヒータを有する上流側ガスセンサと、
前記排気経路のうち前記触媒の下流側に設けられ、検知素子および素子加熱用ヒータを有する下流側ガスセンサと、
前記上流側ガスセンサの前記素子加熱用ヒータおよび前記下流側ガスセンサの前記素子加熱用ヒータの発熱状態を制御するヒータ制御手段と、
前記上流側ガスセンサおよび前記下流側ガスセンサの少なくとも一方の出力に基づいて排気空燃比を制御する空燃比制御手段と、
を備える空燃比制御装置であって、
前記内燃機関の始動状態に関して、前記排気経路のうち前記触媒の上流側領域に凝縮水が存在すると推定される低温始動状態であるか否かを判断する始動状態判定手段、を備え、
前記ヒータ制御手段は、前記始動状態判定手段にて低温始動状態であると判定されると、排気系温度が水分蒸発温度に達するまでの待機時間を経ることなく前記下流側ガスセンサの前記素子加熱用ヒータを用いて、前記下流側ガスセンサの前記検知素子の温度を予め定められた下流側目標温度に制御し、前記始動状態判定手段にて低温始動状態ではないと判定されると、前記上流側ガスセンサの前記素子加熱用ヒータを用いて、前記上流側ガスセンサの前記検知素子の温度を予め定められた上流側目標温度に制御し、
前記空燃比制御手段は、前記始動状態判定手段にて低温始動状態であると判定されるとともに前記下流側ガスセンサの検知素子が活性化した場合には、前記下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御し、前記始動状態判定手段にて低温始動状態ではないと判定されるとともに前記上流側ガスセンサの検知素子が活性化した場合には、前記上流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御し、
前記下流側目標温度は、前記上流側目標温度よりも低温であって、前記下流側ガスセンサの前記検知素子が活性化状態となる温度であり、かつ被水により前記下流側ガスセンサの前記検知素子が破損しない温度であること、
を特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記空燃比制御手段により前記下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比が制御されている場合において、前記下流側ガスセンサの出力の変化周期が予め定められた触媒劣化条件に該当するか否かを判定し、前記変化周期が触媒劣化条件に該当する場合には前記触媒が劣化状態であると判定し、前記変化周期が触媒劣化条件に該当しない場合には前記触媒が非劣化状態であると判定する触媒劣化判定手段、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記上流側ガスセンサの検知素子は、排気ガスの酸素濃度に応じてリニアな出力を発生する板型の酸素検知素子であり、
前記下流側ガスセンサの検知素子は、理論空燃比近傍で出力が急変する有底筒型の酸素検知素子であること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の空燃比制御を行う空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の空燃比制御を行うために、排気経路に設けられたガスセンサのセンサ出力を用いてフィードバック制御を行う空燃比制御装置が知られている。
この空燃比制御装置は、ガスセンサにより排気ガス中の特定ガス(酸素など)の濃度を検出し、その検出結果を用いて空燃比のフィードバック制御を行う。
【0003】
他方、低温始動直後の内燃機関では、排気経路に凝縮水が存在する始動状態(以下、低温始動状態ともいう)になることがある。このような低温始動状態の内燃機関においてヒータ付きのガスセンサを使用する場合、ヒータにより加熱された高温のセンサ素子に凝縮水が付着すると、熱衝撃によりセンサ素子が破損するおそれがある。
【0004】
そこで、内燃機関が低温始動状態である場合には、まず触媒の下流側に設けられるガスセンサのセンサ出力を用いてフィードバック制御を行い、その後、排気経路に凝縮水が存在しない通常運転状態になると、触媒の上流側に設けられるガスセンサのセンサ出力を用いたフィードバック制御に切り替える構成の空燃比制御装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
なお、低温始動状態においては、排気管内に滞留した凝縮水がなくなるまでの時間よりも、機関(排気ポート)から凝縮水が排出されなくなるまでの時間の方が長い。また、機関から排出された凝縮水は触媒を通過する際に分散(拡散)等されるため、下流側ガスセンサは上流側ガスセンサに比べて機関から排出される凝縮水によって被水する可能性が低い。
【0006】
つまり、触媒下流側のガスセンサは、触媒上流側のガスセンサに比べて、早期にヒータ起動することが可能となる。
したがって、上記従来の空燃比制御装置のように、触媒下流側のガスセンサのセンサ出力を用いてフィードバック制御を行うことで、触媒上流側のガスセンサのセンサ出力のみを用いてフィードバック制御を行う場合に比べて、内燃機関の始動からフィードバック制御の開始時期までの所要時間を短縮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−079546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の空燃比制御装置では、触媒下流側のガスセンサであっても、内燃機関の始動後、排気系温度が水分蒸発温度に達するまでは、被水のおそれがあるためヒータを起動できず、触媒下流側のガスセンサを用いた空燃比のフィードバック制御を実行できないという問題がある。
【0009】
つまり、排気系温度が水分蒸発温度に到達するまでの待ち時間においては、空燃比のフィードバック制御ではなく、センサ出力を使用しないオープン制御により空燃比を制御する必要があり、実際の排気ガスの変化状態に応じた適切な空燃比制御が不可能となる。
【0010】
そこで、本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、内燃機関の低温始動時において、空燃比のフィードバック制御を早期に実行できる空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、内燃機関の排気経路に設けられた触媒と、排気経路のうち触媒の上流側に設けられ、検知素子および素子加熱用ヒータを有する上流側ガスセンサと、排気経路のうち触媒の下流側に設けられ、検知素子および素子加熱用ヒータを有する下流側ガスセンサと、上流側ガスセンサの素子加熱用ヒータおよび下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータの発熱状態を制御するヒータ制御手段と、上流側ガスセンサおよび下流側ガスセンサの少なくとも一方の出力に基づいて排気空燃比を制御する空燃比制御手段と、を備える空燃比制御装置であって、内燃機関の始動状態に関して、低温始動状態であるか否かを判断する始動状態判定手段、を備え、ヒータ制御手段は、始動状態判定手段にて低温始動状態であると判定されると、下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを用いて、下流側ガスセンサの検知素子の温度を予め定められた下流側目標温度に制御し、始動状態判定手段にて低温始動状態ではないと判定されると、上流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを用いて、上流側ガスセンサの検知素子の温度を予め定められた上流側目標温度に制御し、空燃比制御手段は、始動状態判定手段にて低温始動状態であると判定されるとともに下流側ガスセンサの検知素子が活性化した場合には、下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御し、始動状態判定手段にて低温始動状態ではないと判定されるとともに上流側ガスセンサの検知素子が活性化した場合には、上流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御し、下流側目標温度は、上流側目標温度よりも低温であって、下流側ガスセンサの検知素子が活性化状態となる温度であり、かつ被水により下流側ガスセンサの検知素子が破損しない温度であること、を特徴とする空燃比制御装置である。
【0012】
つまり、この空燃比制御装置は、低温始動状態であると判定されると、まず、下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを用いて、下流側ガスセンサの検知素子の温度を下流側目標温度に制御し、下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御する。
【0013】
ここで、内燃機関が低温始動状態である場合、排気経路のうち触媒の上流側領域には凝縮水が存在するとしても、その凝縮水は触媒を通過する際に分散(拡散)等される。そのため、始動状態判定手段にて低温始動状態であると判定された場合には、ヒータ制御手段が下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを駆動していても、下流側ガスセンサの検知素子が上記凝縮水の被水により破損する可能性は低い。
【0014】
このとき、ヒータ制御手段が下流側ガスセンサの検知素子の温度を下流側目標温度に近づけるようにヒータ制御しており、下流側目標温度は被水により下流側ガスセンサの検知素子が破損しない温度であることから、万が一、下流側ガスセンサの検知素子に凝縮水が付着しても、検知素子が被水により破損することはない。
【0015】
そして、ヒータ制御手段が下流側ガスセンサの検知素子の温度を下流側目標温度に制御することで、下流側ガスセンサが活性化されるため、空燃比制御手段が下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。なお、低温始動時には触媒が活性しておらず、酸素の吸蔵放出がなされないため、下流側ガスセンサの出力に基づく空燃比のフィードバック制御を実行することが可能である。
【0016】
つまり、本発明の空燃比制御装置は、内燃機関が低温始動状態である場合には、排気系温度が水分蒸発温度に達するまでの待機時間を経ることなく、下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを駆動して、下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。
【0017】
また、内燃機関が低温始動状態ではない場合、排気経路のうち触媒の上流側領域には凝縮水は存在しないと判断されるため、排気系温度が水分蒸発温度に達するまでの待機時間を経ることなく、上流側ガスセンサの素子加熱用ヒータを駆動して、上流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。
【0018】
つまり、本発明の空燃比制御装置は、内燃機関が低温始動状態の場合には、下流側ガスセンサを用いて空燃比のフィードバック制御を早期に実行し、また、内燃機関が低温始動状態ではない場合には、上流側ガスセンサを用いて空燃比のフィードバック制御を早期に実行する。
【0019】
したがって、本発明の空燃比制御装置によれば、内燃機関が低温始動状態の場合であっても、排気系温度が水分蒸発温度に達するのを待たずして空燃比のフィードバック制御を早期に実行することができる。
【0020】
次に、上述の空燃比制御装置においては、空燃比制御手段により下流側ガスセンサの出力に基づいて排気空燃比が制御されている場合において、下流側ガスセンサの出力の変化周期が予め定められた触媒劣化条件に該当するか否かを判定し、前記変化周期が触媒劣化条件に該当する場合には触媒が劣化状態であると判定し、前記変化周期が触媒劣化条件に該当しない場合には触媒が非劣化状態であると判定する触媒劣化判定手段、を備えてもよい。
【0021】
まず、触媒は、時間経過に伴い劣化が進行すると酸素の吸着性能が変化する。つまり、劣化時と非劣化時とでは、触媒における酸素の吸着速度に違いが生じる。
そして、下流側ガスセンサの出力に基づいて空燃比をフィードバック制御する場合、フィードバック制御により排気ガス中の酸素濃度が変化するまでの応答時間は、触媒の劣化度合いの影響を受けて変化する。
【0022】
このため、下流側ガスセンサの出力の変化周期が予め定められた触媒劣化条件に該当するか否かを判定することで、触媒が劣化状態であるか否かを判定できる。
そして、本発明は、下流側ガスセンサの出力の変化周期が触媒劣化条件に該当するか否かを判定する触媒劣化判定手段を備えることから、触媒が劣化状態であるか非劣化状態であるかを判定することができる。具体的には、触媒劣化判定手段は、出力の変化周期が触媒劣化条件に該当する場合には触媒が劣化状態であると判定し、また、出力の変化周期が触媒劣化条件に該当しない場合には触媒が非劣化状態であると判定する。
【0023】
よって、本発明によれば、内燃機関が低温始動状態の場合であっても、空燃比のフィードバック制御を早期に実行できるとともに、触媒の劣化状態を判定できるため、触媒の劣化状態を考慮しつつ空燃比を適切に制御することが可能となる。
【0024】
次に、上述の空燃比制御装置においては、上流側ガスセンサの検知素子は、排気ガスの酸素濃度に応じてリニアな出力を発生する板型の酸素検知素子であり、下流側ガスセンサの検知素子は、理論空燃比近傍で出力が急変する有底筒型の酸素検知素子である、という構成を採ることができる。
【0025】
まず、有底筒型の酸素検知素子は、板型の酸素検知素子に比べて、被水による破損に強い構造である。このため、下流側ガスセンサの検知素子を有底筒型の酸素検知素子で構成することで、低温始動状態であっても、下流側ガスセンサの検知素子における被水による破損が一層生じがたくなり、下流側ガスセンサの出力に基づいた空燃比のフィードバック制御を適切に継続することが可能となる。
【0026】
また、排気ガスの酸素濃度に応じてリニアな出力を発生する板型の酸素検知素子は、有底筒型の酸素検知素子と比べて被水による破損に強くはないものの、酸素濃度に対してリニアな出力を発生するために精密な空燃比のフィードバック制御を行うことが可能となる。このため、上流側ガスセンサの検知素子を上記の板型の酸素検知素子で構成することで、低温始動状態ではない場合に、排気ガス中の酸素濃度をより精度よく検知することができ、上流側ガスセンサの出力に基づいた空燃比のフィードバック制御を実行することで、当該フィードバック制御の制御精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】空燃比制御装置を備える内燃機関の概略構成図である。
図2】下流側ガスセンサの全体構成を表した断面図である。
図3】上流側ガスセンサの全体構成を表した断面図である。
図4】上流側検知素子の概略構造を表す斜視図である。
図5】空燃比制御処理の処理内容を表したフローチャートである。
図6】触媒劣化判定処理の処理内容を表したフローチャートである。
図7】劣化状態の触媒における下流側ガスセンサのセンサ出力波形、および正常状態(非劣化状態)の触媒における下流側ガスセンサのセンサ出力波形である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、本発明を適用した内燃機関の空燃比制御装置を例に挙げて説明する。
【0029】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態の内燃機関1の全体構成について、図1に基づいて説明する。図1は、空燃比制御装置10を備える内燃機関1の概略構成図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の内燃機関1は、エンジン本体部11の吸気管62のうち最上流部に設けられて異物の吸入を避けるためのエアクリーナ63と、このエアクリーナ63の下流側に設けられて吸入空気量を検出するエアフローメータ64と、を備える。
【0031】
また、内燃機関1は、エアフローメータ64の下流側に設けられてモータ65によって開度調節されるスロットルバルブ66と、このスロットルバルブ66の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ67と、を備える。
【0032】
さらに、内燃機関1は、スロットルバルブ66の下流側に設けられるサージタンク68と、このサージタンク68の下流側に設けられてエンジン本体部11に空気を導入する吸気マニホールド70と、を備える。
【0033】
吸気マニホールド70の吸気ポート近傍には、燃料を噴射する燃料噴射弁71が取り付けられている。また、エンジン本体部11のエンジンヘッドには、点火プラグ72が取り付けられ、各点火プラグ72の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0034】
また、内燃機関1は、冷却水系統(図示省略)に備えられて冷却水の温度を検知する水温センサ77と、エンジン回転数を検知する回転数センサ78と、を備える。
エンジン本体部11の排気ポート69に接続された排気管73には、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒74が設けられている。
【0035】
排気管73のうち触媒74よりも下流側には、排出ガス中の酸素濃度を検出する下流側ガスセンサ15が設けられ、排気管73のうち触媒74よりも上流側には、排出ガス中の酸素濃度を検出する上流側ガスセンサ22が設けられる。下流側ガスセンサ15および上流側ガスセンサ22は、空燃比センサや酸素センサ等として内燃機関1に備えられている。
【0036】
図2に、下流側ガスセンサ15の全体構成を表した断面図を示す。
下流側ガスセンサ15は、ジルコニア(ZrO2 )を主成分とする固体電解質体により先端が閉じた有底筒状に形成された下流側検知素子17と、下流側検知素子17の有底孔に配置された軸状のセラミックヒータ16(以下、下流側ヒータ16ともいう)と、下流側ガスセンサ15の内部構造物を収容すると共に下流側ガスセンサ15を排気管等の取付部に固定するケーシング18と、を主に備えて構成されている。
【0037】
ケーシング18の下端側(図における下方)外周には、下流側検知素子17の突出部分(検出部19)を覆うと共に、排気ガスを導入するための複数の孔部を有する金属製の二重のプロテクタ20,21が溶接によって取り付けられている。
【0038】
この下流側ガスセンサ15は、下流側検知素子17の検出部19の外側が排気ガスに晒される一方、下流側検知素子17の検出部19の内側が基準となる酸素濃度を有する基準ガス(大気)に晒される。これにより、下流側ガスセンサ15では、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力が生じ、この起電力は理論空燃比近傍で急変するため、下流側ガスセンサ15は、結果として理論空燃比近傍で出力が急変する酸素センサとして機能する。
【0039】
図3に、上流側ガスセンサ22の全体構成を表した断面図を示す。
上流側ガスセンサ22は、排気管に固定するためのネジ部103が外表面に形成された筒状の主体金具102と、軸線方向(図中上下方向)に延びる板状形状をなす上流側検知素子23と、を主に備えている。
【0040】
主体金具102の先端側(図における下方)外周には、上流側検知素子23の突出部分(検出部26)を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)の二重の外部プロテクタ27および内部プロテクタ28が、溶接等によって取り付けられている。
【0041】
ここで、上流側検知素子23の概略構造を表す斜視図を、図4に示す。なお、図4では、軸線方向における中間部分を省略して上流側検知素子23を表している。
上流側検知素子23は、軸線方向(図4における左右方向)に延びる板状形状に形成された素子部24と、同じく軸線方向に延びる板状形状に形成されたヒータ部25(以下、上流側ヒータ25ともいう)とが積層されて、長方形状の軸断面を有する板状形状に形成されている。また、上流側検知素子23は、測定対象となるガスに向けられる先端側(図中左側)に保護層(図示省略)に覆われた検出部26が形成され、後端側(図中上方)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1板面38および第2板面39に電極端子部30,31,32,34,36が形成されている。なお、酸素濃度を検知するためのガスセンサ素子として用いられる上流側検知素子23は、酸素ポンプセル及び酸素濃度検出セルを中空の測定室を有する絶縁層を介して積層した素子部24に対して、絶縁層間に発熱抵抗体を挟持したヒータ部25を積層した公知の構成を有するものであるため、その内部構造等の詳細な説明は省略する。なお、酸素ポンプセル及び酸素濃度検出セルは、ジルコニアを主成分とする固体電解質層の表裏面に一対の電極が設けられて構成されている。
【0042】
そして、この上流側検知素子23は、制御部12(ECU12)に設けられる制御回路部によって、酸素濃度検出セルの出力が一定の値となるように酸素ポンプセルに流すポンプ電流が制御されることで、測定室内に導入される排気ガス中の酸素を汲み入れたり、汲み出したりするように機能する。そして、上流側検知素子23の酸素ポンプセルに流れるポンプ電流の大きさは、排気ガス中の酸素濃度に応じてリニアに変化するため、上流側ガスセンサ22は、排気ガス中の酸素濃度に応じてリニアに出力が変化する酸素センサとして機能する。
【0043】
図1に戻り、内燃機関1は、各部の状態を示す信号に基づいて内燃機関の運転状態を制御する制御部12(ECU12)を備える。制御部12は、いわゆるマイクロコンピュータで構成されており、詳細は図示しないが、公知の構成を有し、演算を行うマイクロプロセッサ、プログラムやデータを一時記憶するRAM、プログラムやデータを保持するROM、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路などを含んで構成されている。さらに、制御部12は、上流側ガスセンサ22の上流側検知素子23を駆動制御するための制御回路部を含んで構成されるものでもある。
【0044】
また、内燃機関1は、触媒が劣化状態であることを通知するための触媒劣化通知ランプ76を備える。
[1−2.空燃比制御装置]
次に、内燃機関1の排気管73に設けられたガスセンサ(下流側ガスセンサ15および上流側ガスセンサ22)のセンサ出力を用いて空燃比のフィードバック制御を行う空燃比制御装置10について説明する。
【0045】
空燃比制御装置10は、主に、制御部12(ECU12)、触媒74、下流側ガスセンサ15、上流側ガスセンサ22を備えて構成される。
制御部12は、各部の状態を示す信号に基づいて内燃機関の運転状態を制御するための制御処理として、空燃比制御処理や触媒劣化判定処理などの各種処理を実行する。
【0046】
ここで、制御部12で実行される空燃比制御処理について説明する。図5は、空燃比制御処理の処理内容を表したフローチャートである。
なお、空燃比制御処理は、内燃機関1(詳細には、空燃比制御装置10)が起動されるとともに処理が開始され、内燃機関1(空燃比制御装置10)が停止するまで処理が継続される。
【0047】
空燃比制御処理が起動されると、まず、S110(Sはステップを表す。以下同様。)では、RAM動作の初期化などを含む初期設定処理を行う。
なお、S110での初期設定処理では、空燃比制御処理の中で用いる各種パラメータの値や各種フラグの状態を初期値に設定する処理を行う。
【0048】
次のS120では、内燃機関の始動状態が低温始動状態であるか否かを判断しており、肯定判定するとS130に移行し、否定判定するとS200に移行する。
具体的には、S120では、内燃機関の冷却水温度Tcが予め定められた基準温度T1よりも低いか否かを判定しており、冷却水温度Tcが基準温度T1よりも低い場合に「低温運転状態である」と判定(肯定判定)し、冷却水温度Tcが基準温度T1以上である場合に「低温運転状態ではない」と判定(否定判定)する。なお、冷却水温度Tcは、冷却水の温度を検知するために備えられた水温センサ77からのセンサ出力に基づいて検出する。
【0049】
S120で肯定判定されてS130に移行すると、S130では、下流側ヒータ通電フラグFdhがON状態(Fdh=1)であるか否かを判断しており、肯定判定するとS160に移行し、否定判定するとS140に移行する。
【0050】
ここで、下流側ヒータ通電フラグFdhは、下流側ガスセンサ15に備えられる下流側ヒータ16の通電状態を示すフラグであり、ヒータ通電されている場合にはON状態(Fdh=1)に設定され、ヒータ通電されていない場合にはOFF状態(Fdh=0)に設定される。なお、下流側ヒータ通電フラグFdhは、S110の初期設定処理では、初期状態としてOFF状態(Fdh=0)に設定される。
【0051】
S130で否定判定されてS140に移行すると、S140では、下流側ガスセンサ15に備えられる下流側ヒータ16への通電を開始する。これにより、下流側ヒータ16は、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17に対する加熱を開始する。
【0052】
次のS150では、下流側ヒータ通電フラグFdhをON状態(Fdh=1)に設定変更する処理を行う。
S130で肯定判定されるかS150の処理が終了すると、S160に移行し、S160では、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17が活性化したか否かを判断し、肯定判定するとS170に移行し、否定判定すると再びS120に移行する。
【0053】
具体的には、S160では、下流側検知素子17の素子インピーダンス(以下、下流側素子インピーダンスRdともいう)が予め定められた下流側判定基準値Rtdよりも低いか否かを判定しており、下流側素子インピーダンスRdが下流側判定基準値Rtdよりも低い場合に肯定判定し、下流側素子インピーダンスRdが下流側判定基準値Rtd以上である場合には否定判定する。
【0054】
なお、本実施形態の下流側検知素子17は、自身の素子温度が350[℃]以上になることで酸素検知が可能な活性化状態となる。そして、下流側検知素子17は、自身の素子温度の上昇に伴い素子インピーダンスが低下する特性があるため、下流側素子インピーダンスRdに基づいて素子温度を判定できるとともに素子の活性化状態を判定できる。
【0055】
そして、本実施形態では、温度が350[℃]であるときの下流側検知素子17の下流側素子インピーダンスRdに相当する値が、下流側判定基準値Rtdとして設定されている。
【0056】
下流側検知素子17が活性化していない場合には、S160で否定判定されて、S120,S130,S160の各ステップを繰り返し実行することで、下流側検知素子17が活性化状態となるまで(S160で肯定判定されるまで)待機する。
【0057】
S160で肯定判定されてS170に移行すると、S170では、下流側検知素子17の素子温度が予め定められた下流側目標温度Tdtに近づくように、下流側ヒータ16の通電制御を行う。
【0058】
S170では、下流側検知素子17の下流側素子インピーダンスRdに基づいて素子温度を判定し、その素子温度と下流側目標温度Tdtとの差分値に基づいて下流側検知素子17に与えるべき熱量を判定し、その判定結果に基づいて下流側ヒータ16への通電制御を行う。
【0059】
なお、下流側目標温度Tdtは、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17が活性化状態となる温度であり、かつ被水により下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17が破損しない温度である。本実施形態では、この下流側目標温度Tdtは400[℃]に設定されている。
【0060】
次のS180では、下流側センサフィードバックフラグFdf(以下、下流側センサFBフラグFdfともいう)をON状態(Fdf=1)に設定変更する。
ここで、下流側センサFBフラグFdfは、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御が実行中であるか否かを示すフラグであり、フィードバック制御実行中の場合にはON状態(Fdf=1)に設定され、フィードバック制御実行中ではない場合にはOFF状態(Fdf=0)に設定される。なお、下流側センサFBフラグFdfは、S110の初期設定処理では、初期状態としてOFF状態(Fdf=0)に設定される。
【0061】
続くS190では、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づいて空燃比のフィードバック制御を行う。
具体的には、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づき排気ガス中の酸素濃度を判定し、その酸素濃度と制御基準値(理論空燃比での酸素濃度に相当する値)とを比較し、その比較結果に基づいてフィードバック係数を演算し、そのフィードバック係数に応じた燃料噴射量を演算する。つまり、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づいて燃料噴射量を制御することで、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づいた空燃比のフィードバック制御を行う。
【0062】
S190での処理が完了すると、再びS120に移行する。
S120で否定判定されてS200に移行すると、S200では、上流側ヒータ通電フラグFuhがON状態(Fuh=1)であるか否かを判断しており、肯定判定するとS230に移行し、否定判定するとS210に移行する。
【0063】
ここで、上流側ヒータ通電フラグFuhは、上流側ガスセンサ22に備えられる上流側ヒータ25の通電状態を示すフラグであり、ヒータ通電されている場合にはON状態(Fuh=1)に設定され、ヒータ通電されていない場合にはOFF状態(Fuh=0)に設定される。なお、上流側ヒータ通電フラグFuhは、S110の初期設定処理では、初期状態としてOFF状態(Fuh=0)に設定される。
【0064】
S200で否定判定されてS210に移行すると、S210では、上流側ガスセンサ22に備えられる上流側ヒータ25への通電を開始する。これにより、上流側ヒータ25は、上流側ガスセンサ22の上流側検知素子23における素子部24に対する加熱を開始する。つまり、素子部24が活性化する温度となるように上流側ヒータ25の通電が開始される。
【0065】
次のS220では、上流側ヒータ通電フラグFuhをON状態(Fuh=1)に設定変更する処理を行う。
S210で肯定判定されるかS220の処理が終了すると、S230に移行し、S230では、上流側ガスセンサ22に備えられる上流側検知素子23が活性化したか否かを判断し、肯定判定するとS250に移行し、否定判定するとS240に移行する。
【0066】
具体的には、S230では、上流側検知素子23(詳細には、上流側検知素子23を構成する酸素濃度検出セル)の素子インピーダンス(以下、上流側素子インピーダンスRuともいう)が予め定められた上流側判定基準値Rtuよりも低いか否かを判定しており、上流側素子インピーダンスRuが上流側判定基準値Rtuよりも低い場合には肯定判定し、上流側素子インピーダンスRuが上流側判定基準値Rtu以上である場合には否定判定する。
【0067】
なお、本実施形態の上流側検知素子23は、自身の素子温度が700[℃]以上になることで安定した酸素検知が可能な活性化状態となる。そして、上流側検知素子23は、自身の温度上昇に伴い素子インピーダンスが低下する特性があるため、上流側素子インピーダンスRuに基づいて素子温度を判定できるとともに素子の活性化状態を判定できる。
【0068】
そして、本実施形態では、温度が700[℃]であるときの上流側検知素子23の上流側素子インピーダンスRuに相当する値が、上流側判定基準値Rtuとして設定されている。
【0069】
そして、上流側検知素子23が活性化していない場合には、S230で否定判定されてS240に移行し、S240では、下流側センサFBフラグFdfがON状態(Fdf=1)であるか否かを判断しており、肯定判定するとS190に移行し、否定判定するとS250に移行する。
【0070】
換言すれば、S240では、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御中であるか否かを判定しており、フィードバック制御中の場合には肯定判定してS190に移行し、フィードバック制御中ではない場合には否定判定してS250に移行する。
【0071】
S240で肯定判定された場合には、S190に移行して、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御が継続される。
S230で肯定判定された場合、またはS240で否定判定された場合には、S250に移行し、S250では、下流側センサFBフラグFdfをOFF状態(Fdf=0)に設定変更する。
【0072】
次のS260では、上流側検知素子23の素子温度が予め定められた上流側目標温度Tutに近づくように、上流側ヒータ25の通電制御を行う。
S260では、上流側検知素子23の上流側素子インピーダンスRuに基づいて素子温度を判定し、その素子温度と上流側目標温度Tutとの差分値に基づいて上流側検知素子23に与えるべき熱量を判定し、その判定結果に基づいて上流側ヒータ25への通電制御を行う。なお、本実施形態では、この上流側目標温度Tutが750[℃]に設定されている。
【0073】
続くS270では、上流側ガスセンサ22のセンサ出力に基づいて空燃比のフィードバック制御を行う。
具体的には、上流側ガスセンサ22のセンサ出力に基づき排気ガス中の酸素濃度を判定し、その酸素濃度と制御基準値(理論空燃比での酸素濃度に相当する値)とを比較し、その比較結果に基づいてフィードバック係数を演算し、そのフィードバック係数に応じた燃料噴射量を演算する。つまり、上流側ガスセンサ22のセンサ出力に基づいて燃料噴射量を制御することで、上流側ガスセンサ22のセンサ出力に基づいた空燃比のフィードバック制御を行う。
【0074】
S270での処理が完了すると、再びS120に移行する。
以上説明したように、空燃比制御処理が実行されることで、内燃機関が低温始動状態であるとともに下流側ガスセンサ15(下流側検知素子17)が活性化した場合には(S120で肯定判定、かつS160で肯定判定)、まず、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御を行う(S190)。
【0075】
その後、低温始動状態ではなくなるとともに上流側ガスセンサ22(上流側検知素子23)が活性化した段階で(S120で否定判定、かつS230で肯定判定)、上流側ガスセンサ22のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御(S270)への切り替えを行う。
【0076】
次に、空燃比制御装置10の制御部12で実行される制御処理のうち、下流側ガスセンサ15のセンサ出力を用いて触媒の劣化状態を判定する触媒劣化判定処理について説明する。
【0077】
図6は、触媒劣化判定処理の処理内容を表したフローチャートである。
なお、触媒劣化判定処理は、内燃機関1(詳細には、空燃比制御装置10)が起動されるとともに処理が開始され、内燃機関1(空燃比制御装置10)が停止するまで一定周期で繰り返し実行される。
【0078】
触媒劣化判定処理が起動されると、まず、S300(Sはステップを表す)では、下流側センサFBフラグFdfがON状態(Fdf=1)であるか否かを判断しており、肯定判定するとS310に移行し、否定判定すると本処理(触媒劣化判定処理)を終了する。
【0079】
換言すれば、S300では、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御が実行中であるか否かを判定しており、フィードバック制御実行中の場合には肯定判定してS310に移行し、フィードバック制御実行中ではない場合には否定判定して本処理(触媒劣化判定処理)を終了する。
【0080】
S300で肯定判定された場合には、S310に移行し、S310では、S300での肯定判定時点を起点として予め定められた診断待ち時間が経過したか否かを判断しており、肯定判定するとS320に移行し、否定判定すると本処理(触媒劣化判定処理)を終了する。
【0081】
換言すれば、S310では、下流側ガスセンサ15のセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御が一定期間以上にわたり実行されたか否かを判定している。
S310で肯定判定された場合には、S320に移行し、S320では、下流側ガスセンサ15で検出される酸素濃度の変化状態が適正であるか否かを判断しており、肯定判定するとS330に移行し、否定判定するとS340に移行する。
【0082】
具体的には、S320では、下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形(出力)の変化周期を検出し、その変化周期と予め定められた判定基準周期Cjとを比較し、変化周期が判定基準周期Cjよりも大きい場合には肯定判定してS330に移行し、変化周期が判定基準周期Cj以下である場合には否定判定してS340に移行する。
【0083】
S320で肯定判定されてS330に移行すると、S330では、触媒74が正常状態(非劣化状態)であると判定し、触媒劣化通知ランプ76を消灯状態に設定する。
S320で否定判定されてS340に移行すると、S340では、触媒74が劣化状態であると判定し、触媒劣化通知ランプ76を点灯状態に設定する。
【0084】
S330またはS340での処理が完了すると、触媒劣化判定処理が終了する。
つまり、触媒劣化判定処理では、下流側ガスセンサ15の出力に基づく空燃比のフィードバック制御が一定期間以上行われるまでは、S300またはS310の処理を繰り返し実行することで待機する。その後、下流側ガスセンサ15の出力に基づく空燃比のフィードバック制御が一定期間以上行われると、触媒劣化判定処理では、下流側ガスセンサ15の出力の変化周期を用いてのS320での判定結果に基づいて、触媒74の劣化状態を判定する。
【0085】
[1−3.触媒の劣化状態判定]
ここで、低温始動状態の内燃機関において、触媒の劣化状態の違いに応じて酸素濃度の変化状態がどのように変化するかを測定した測定結果について説明する。
【0086】
具体的には、低温始動状態の内燃機関において下流側ガスセンサのセンサ出力に基づく空燃比のフィードバック制御の実行中に、未使用(換言すれば、正常状態または非劣化状態)の触媒と、一定期間使用した(換言すれば、劣化状態)の触媒とをそれぞれ用いて、触媒下流での排気ガス中の酸素濃度の変化状態を測定した測定結果について説明する。
【0087】
図7に、劣化状態の触媒における酸素濃度の変化状態(図中の上側)と、正常状態(非劣化状態)の触媒における酸素濃度の変化状態(図中の下側)と、を示す。なお、詳細には、図7の上側の波形は、劣化状態の触媒における下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形であり、図7の下側の波形は、正常状態(非劣化状態)の触媒における下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形である。
【0088】
図7によれば、劣化状態の触媒における下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形の変化周期(以下、劣化時周期Ca)と、正常状態(非劣化状態)の触媒における下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形の変化周期(以下、正常時周期Cn)とを比較すると、劣化時周期Caは正常時周期Cnよりも短いこと(Ca<Cn)が判る。つまり、触媒が正常状態(非劣化状態)のときは触媒活性時の酸素の吸着能力が高くなるので、正常時周期Cnは長くなり、触媒が劣化状態のときは触媒活性時の酸素の吸着能力が低くなるので、劣化時周期Caは短くなる。
【0089】
このことから、下流側ガスセンサ15の出力に基づいて空燃比をフィードバック制御する場合、フィードバック制御により排気ガス中の酸素濃度が変化するまでの応答時間は、触媒74の劣化度合いの影響を受けて変化することが判る。
【0090】
よって、触媒劣化判定処理のS320での処理のように、検出した酸素濃度の変化周期と判定基準周期Cjとを比較することで、触媒74が劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0091】
[1−4.効果]
以上説明したように、本実施形態の空燃比制御装置10は、低温始動状態であると判定されると(S120で肯定判定)、まず、下流側ガスセンサ15の下流側ヒータ16を用いて、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17の温度を下流側目標温度に制御し(S170)、下流側ガスセンサ15の出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御する(S190)。
【0092】
ここで、内燃機関1が低温始動状態である場合、排気管73のうち触媒74の上流側領域には凝縮水が存在するとしても、その凝縮水の触媒74を通過する際に分散(拡散)等される。そのため、S120で肯定判定されて低温始動状態であると判定された場合には、下流側ガスセンサ15の下流側ヒータ16を駆動していても、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17が上記凝縮水の被水により破損する可能性は低い。
【0093】
このとき、S170では、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17の温度を下流側目標温度Tdt(400[℃])に近づけるようにヒータを通電制御している。そして、下流側目標温度Tdt(400[℃])は被水により下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17が破損しない温度である。このため、万が一、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17に凝縮水が付着しても、下流側検知素子17が被水により破損することはない。
【0094】
そして、S170で、下流側ガスセンサ15の下流側検知素子17の温度を下流側目標温度Tdt(400[℃])に制御することで、下流側ガスセンサ15が活性化されるため、S190にて、下流側ガスセンサ15の出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。
【0095】
つまり、空燃比制御装置10は、内燃機関1が低温始動状態である場合には、排気系温度が水分蒸発温度に達するまでの待機時間を経ることなく、下流側ガスセンサ15の下流側ヒータ16を駆動して、下流側ガスセンサ15の出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。
【0096】
また、内燃機関1が低温始動状態ではない場合、上流側ガスセンサ22の上流側ヒータ25を駆動して、上流側ガスセンサ22の出力に基づいて排気空燃比をフィードバック制御することが可能となる。
【0097】
つまり、空燃比制御装置10は、内燃機関1が低温始動状態の場合には、下流側ガスセンサ15を用いて空燃比のフィードバック制御を早期に実行し、また、内燃機関1が低温始動状態ではない場合には、上流側ガスセンサ22を用いて空燃比のフィードバック制御を早期に実行する。
【0098】
したがって、本実施形態の空燃比制御装置10によれば、内燃機関1が低温始動状態の場合であっても、排気系温度が水分蒸発温度に達するのを待たずして空燃比のフィードバック制御を早期に実行することができる。
【0099】
また、本実施形態の空燃比制御装置10は、触媒劣化判定処理のS320において、下流側ガスセンサ15のセンサ出力波形(出力)の変化周期を検出し、その変化周期と判定基準周期Cjとを比較している。そして、変化周期が判定基準周期Cjよりも大きい場合には、触媒74が正常状態であると判定し、触媒劣化通知ランプ76を消灯状態に設定する。また、変化周期が判定基準周期Cj以下である場合には、触媒74が劣化状態であると判定し、触媒劣化通知ランプ76を点灯状態に設定する。
【0100】
つまり、空燃比制御装置10は、触媒74が劣化状態になると触媒劣化通知ランプ76を点灯することで、使用者に対して触媒74の交換の必要性を通知する。この触媒劣化通知ランプ76による通知に従い、適切な時期に触媒74を交換することで、劣化状態の触媒の影響を抑制しつつ、空燃比のフィードバック制御を適切に実行することができる。
【0101】
よって、本実施形態の空燃比制御装置10によれば、内燃機関1が低温始動状態の場合であっても、空燃比のフィードバック制御を早期に実行できるとともに、触媒74の劣化状態を判定できるため、触媒74の劣化状態を考慮しつつ空燃比を適切に制御することが可能となる。
【0102】
[1−5.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
排気管73が排気経路の一例に相当し、上流側ヒータ25が上流側ガスセンサの素子加熱用ヒータの一例に相当し、素子部24が上流側ガスセンサの検知素子の一例に相当し、下流側ヒータ16が下流側ガスセンサの素子加熱用ヒータの一例に相当し、下流側検知素子17が下流側ガスセンサの検知素子の一例に相当する。
【0103】
S140,S170,S210,S260を実行する制御部12がヒータ制御手段の一例に相当し、S190,S270を実行する制御部12が空燃比制御手段の一例に相当し、S120を実行する制御部12が始動状態判定手段の一例に相当し、S320,S330,S340を実行する制御部12が触媒劣化判定手段の一例に相当する。
【0104】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0105】
例えば、上記実施形態は、下流側ガスセンサとして、有底筒状に形成された下流側検知素子17を備える下流側ガスセンサ15を備える構成であるが、板状形状に形成された検知素子を備えるガスセンサを備える構成としても良い。
【0106】
また、空燃比制御処理および触媒劣化判定処理で用いる各種パラメータの判定閾値(温度条件、時間条件など)は、上記数値に限定されることはなく、適切な判定処理が可能な範囲において用途に応じた任意の値を採ることができる。
【0107】
また、始動状態判定手段として、上記実施形態では、図5の空燃比制御処理のS120にて水温センサ77の出力に基づいて内燃機関の始動状態が低温始動状態であるか否かを判断するようにしたが、低温始動状態であるか否かの判断はこの手法に限定されることはない。例えば、排気ガスの温度を検出する排気温センサや外気の温度を検出する外気温センサ等を用いて内燃機関の始動状態が低温始動状態であるか否かを判断するようにしても良い。つまり、本発明の始動状態判定手段は、内燃機関の始動状態に関して、排気経路のうち触媒の上流側領域に凝縮水が存在すると推定される低温始動状態であるか否かを判断する構成を有するものであれば良い。
【0108】
さらに、上記実施形態では、低温始動状態でないと判定されると(S120で否定判定)、上流側ガスセンサ22の上流側ヒータ25の通電を開始するようにしたが、上流側ヒータ25の通電手法は上記手法に限られるものではない。例えば、低温始動状態であると判定されたときに(S120で肯定判定)、上流側検知素子23が活性化せず、且つ、被水により当該上流側検知素子23が破損しない温度で上流側ヒータ25を予備通電し、低温始動状態でないと判定されたときに(S120で否定判定)、上流側検知素子23(素子部24)が活性化する温度となるように上流側ヒータ25を本通電するようにしても良い。また、低温始動状態でないと判定された場合にも下流側ガスセンサ15の下流側ヒータ16の通電を維持しつつ下流側ガスセンサ15からの出力を用いて、上流側ガスセンサ22の出力補正等の各種処理を実行しても良い。
【符号の説明】
【0109】
1…内燃機関、10…空燃比制御装置、12…制御部、15…下流側ガスセンサ、16…セラミックヒータ(下流側ヒータ)、17…下流側検知素子、22…上流側ガスセンサ、23…上流側検知素子、24…素子部、25…ヒータ部(上流側ヒータ)、74…触媒、76…触媒劣化通知ランプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7