特許第6077350号(P6077350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077350酪酸クロベタゾンを含有するアトピー性皮膚炎用の外用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077350
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】酪酸クロベタゾンを含有するアトピー性皮膚炎用の外用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/573 20060101AFI20170130BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20170130BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20170130BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170130BHJP
   A61K 8/37 20060101ALN20170130BHJP
   A61K 8/63 20060101ALN20170130BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20170130BHJP
   A61K 8/39 20060101ALN20170130BHJP
   A61K 8/06 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   A61K31/573
   A61P17/00
   A61K9/107
   A61K47/14
   A61K47/34
   !A61K8/37
   !A61K8/63
   !A61Q19/00
   !A61K8/39
   !A61K8/06
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-58954(P2013-58954)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-172904(P2014-172904A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】507029007
【氏名又は名称】株式会社ポーラファルマ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】増田 孝明
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩一
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/039974(WO,A1)
【文献】 西日皮膚,1990年,52(4),p.771-775
【文献】 津田恭介、野上寿,薬剤製造法(下)医薬品開発基礎講座XI,地人書館,1971年,p.479-483
【文献】 西日皮膚,1990年,52(4),p.776-780
【文献】 医薬品インタビューフォーム パルデスR軟膏0.05% パルデスRクリーム0.05% パルデスRローション0.05%,岩城製薬株式会社,2008年,改訂第3版,p.5-6
【文献】 医薬品インタビューフォーム ラノコナゾールクリーム1%「イワキ」、ラノコナゾール外用液1%「イワキ」、ラノコナゾール軟膏1%「イワキ」,岩城製薬株式会社,2010年,第1版,p.25
【文献】 医薬品インタビューフォーム デルトピカR軟膏0.05% デルトピカローション0.05%,岩城製薬株式会社,2012年,改訂第3版,p.4-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/33−31/80,
A61K47/00−47/48,
A61P1/00−43/00
JSTPlus (JDreamIII),
JMEDPlus(JDreamIII),
JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトピー性皮膚炎を処置するべきローション性の皮膚外用医薬組成物であって、
1)有効成分としての酪酸クロベタゾンと、2)アジピン酸ジエステルとを含有し、3)界面活性剤として不飽和結合を実質的に有しないノニオン界面活性剤のみを用いて乳化されていることを特徴とする、水中油乳化剤形の医薬組成物。
【請求項2】
更に、水を70〜80質量%含有することを特徴とする、請求項1に記載の水中油乳化剤形の医薬組成物。
【請求項3】
前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタンステアリン酸エステル及びグリセリンステアリン酸エステルから選択される1種乃至は2種以上であることを特徴とする、請求項1又はに記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ノニオン界面活性剤として、親油性界面活性剤と親水性界面活性剤とをそれぞれ1種以上ずつ含有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酪酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物に関し、更に詳細には、アトピー性皮膚炎の処置に好適な酪酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酪酸クロベタゾンは、適度な局所抗炎症作用を持ちながら全身的作用の少ない、いわゆる安全域の広い外用副腎皮質ホルモン剤として開発されたステロイド骨格を有する薬物であり(非特許文献1を参照)、この特性を生かして、酪酸クロベタゾンを有効成分として含有する外用医薬組成物が開発され、アトピー性皮膚炎などの炎症に対する抗炎症医薬として利用されている。しかしながら、開発の目的が「安全域の広い外用副腎皮質ホルモン剤の開発」であることから、その抗炎症作用は決して強いものではなく、アトピー性皮膚炎などで、刺激に対する感受性の高い患者においては、酪酸クロベタゾンの抗炎症効果よりも、外用剤を塗布する物理的刺激、外用剤の製剤成分に起因する刺激などの方が抗炎症効果を上回り、抗炎症効果を相殺するような現象が観察されている。また、酪酸クロベタゾン自身にも一過性の刺激感誘発作用が存し、アトピー性皮膚炎などに罹患した場合、この一過性の刺激感が更に高まるとも言われている。これに加えて、製剤成分との組合せがこの一過性の刺激感を増大させる場合が存すると言われている。その為、酪酸クロベタゾンの抗炎症効果を確保するため、刺激性の低い油剤を選択し、アルキル変性カルボキシビニルポリマーを用い乳化する方法(例えば、特許文献1を参照)、ヒアルロン酸、ヘパリン類似物質などの保湿成分を添加し、皮膚角層のバリア機能を増大させつつ、酪酸クロベタゾンを投与する方法(例えば、特許文献2、特許文献3を参照)等が提案されている。しかしながら、その効果は存するものの、酪酸クロベタゾンの効果を充分に引き出せるほど大きいものではなかった。
【0003】
併用成分による、皮膚機能の修復以外に、刺激を低減する手だてとしては、塗工時の摩擦係数を低減する方法が考えられるが、その様なアプローチは為されていない。これは酪酸クロベタゾンの溶解特性に起因するものと考えられる。
【0004】
即ち、酢酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物において、使用時における刺激を低減する手段が望まれているが、充分に使用時の刺激低減を実現した製剤が得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】医薬品インタビューフォーム「日本標準商品分類番号872646」
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−114081号公報
【特許文献2】特開2008−81505号公報
【特許文献3】特開2000−212021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、酢酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物において、使用時における刺激を低減する手段提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者等は、酢酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物において、使用時における刺激を低減する手段を求め、鋭意研究を重ねた結果、アジピン酸ジイソプロピル等のアジピン酸ジエステルを含有せしめ、界面活性剤としてノニオン界面活性剤のみを用いて乳化されている水中油乳化剤形の製剤がその様な特徴を備えていることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)アトピー性皮膚炎を処置するべきローション性の皮膚外用医薬組成物であって、
1)有効成分としての酪酸クロベタゾンと、2)アジピン酸ジエステルとを含有し、3)界面活性剤としてノニオン界面活性剤のみを用いて乳化されていることを特徴とする、水中油乳化剤形の医薬組成物。
(2)更に、水を70〜80質量%含有することを特徴とする、()に記載の水中油乳化剤形の医薬組成物。
(3)前記ノニオン界面活性剤は、不飽和結合を実質的に有しないもののみで構成されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の水中油乳化剤形の医薬組成物。
(4)前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタンステアリン酸エステル及びグリセリンステアリン酸エステルから選択される1種乃至は2種以上であることを特徴とする、(1)〜(3)何れかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸クロベタゾンを含有する外用医薬組成物において、使用時における刺激を低減する手段提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)本発明の外用医薬組成物の必須成分である酪酸クロベタゾン
本発明の外用医薬組成物は、酪酸クロベタゾンを有効成分として含有することを特徴とする。酪酸クロベタゾンは、クロベタゾン酪酸エステルとも称し、IUPAC名は21−Chloro−9−fluoro−17−hydroxy−16β−methyl−1,4−pregnadiene−3,11,20−trione 17−butyrateであり、適度な局所抗炎症作用を持ちながら全身的作用の少ない、いわゆる安全域の広い外用副腎皮質ホルモン剤として開発されたステロイド骨格を有する薬物でありその構造式は式(1)に示すとおりである。
【0011】
【化1】
【0012】
酪酸クロベタゾンの本発明の外用医薬組成物における好ましい含有量は、現在市場で使用されている製剤に準じて用いれば良く、具体的には、0.01〜0.1質量%が好ましく、より好ましくは0.02〜0.08質量%である。この量比の範囲であれば、免疫抑制による、感染症の拡大を伴うことなく、抗炎症作用を発現することが出来る。かかる酪酸クロベタゾンの有効性が発揮できる疾患としては、例えば、アトピー性皮膚炎、顔面、頸部、腋窩、陰部における湿疹・皮膚炎等が好適に例示できる。
【0013】
(2)本発明の外用医薬組成物の必須成分であるアジピン酸ジエステル
本発明の外用医薬組成物は、必須成分としてアジピン酸ジエステルを含有することを特徴とする。アジピン酸ジエステルは前記酪酸クロベタゾンを可溶化し、水中油乳化剤形の油滴中に溶液として包含せしめることが出来る。この様な作用を発現するためには、油相中におけるアジピン酸ジエステルの量を、油相に対して3〜8質量%とすることが好ましい。加えて、同じく可溶化しうる観点では、酪酸クロベタゾンに対して50〜150質量倍であることが好ましい。また、のびなどの塗工時の塗布作業を刺激感無く行うためには、外用医薬組成物全量に対して、アジピン酸ジエステルが3〜8質量%、更に好ましくは4〜7質量%となるように含有させることが好ましい。
【0014】
前記の作用を発現するアジピン酸のジエステルとしては、例えば、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジエトキシジエチル、アジピン酸ジイソプロピル等が好適に例示でき、これらは唯一種を用いることも出来るし二種以上を組み合わせて用いることも出来る。特に好ましいものは、酪酸クロメタゾンとの相溶に優れるアジピン酸ジイソプロピルである。
【0015】
(3)本発明の外用医薬組成物の必須成分であるノニオン界面活性剤
本発明の外用医薬組成物は、酪酸クロベタゾン及びアジピン酸ジエステルを含有し、ノニオン界面活性剤のみを用いて乳化されていることを特徴とする。ノニオン界面活注剤としては、例えば、親油性界面活性剤としては、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、平均のフリー水酸基が3以下であり、重合度4以下であるポリグリセリンの脂肪酸エステル等が好適に例示でき、親水性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタンポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、フリーの水酸基が4以上で重合度5以上のポリグリセリン脂肪酸エステルなどが例示でき、これらの内では、分子内に不飽和結合を有しないものが好ましい。更に好ましいものは、飽和脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン飽和脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択される1種乃至は2種以上であり、親油性界面活性剤と親水性界面活性剤とを1種以上ずつ含有する形態がより好ましい。脂肪酸モノグリセリドとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、イソステアリン酸モノグリセリドなどが好適に例示でき、ソルビタン飽和脂肪酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンセスキラウレート、ソルビタントリラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタントリステアレートなどが好適に例示でき、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、ポリオキシエチレンの付加モル数が30〜90のものが好適に例示でき、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルが好適に例示でき、その好ましいポリオキシエチレンの平均付加モル数は10〜30である。かかるノニオン界面活性剤の好ましい含有量は、外用医薬組成物全量に対して、総量で2〜5質量%であり、より好ましくは2.5〜4.5質量%である。そのうち、1.5〜3.5質量%が親水性ノニオン界面活性剤であることが好ましい。
【0016】
(4)本発明の外用医薬組成物
本発明の外用医薬組成物は、前記必須成分を含有し、水中油乳化剤形であることを特徴とする。ここにおいて、水中油乳化剤形とは、最外相に水相を配する形の乳化系を意味し、分散相は油滴であっても、乳化物であっても許容される。本発明の外用医薬組成物においては、必須の成分以外に、通常外用剤で使用される任意の成分を含有することが出来る。任意の成分としては、例えば、炭化水素類、ホホバ油、セチルイソオクタネート、ミリスチン酸イソプロピルなどのようなエステル油剤、中鎖脂肪酸トリグリセリドの様なトリグリセリド、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールのような多価アルコール、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガムなどの増粘剤、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール、EDTAのようなキレート剤、BHT、BHA等のような抗酸化剤等が好適に例示できる。特に好ましい形態は、不飽和結合を有する成分を含有しない形態であり、脂肪酸、高級アルコールを実質的に含有しない、言い換えれば、高級アルコールを配合しない形態が特に好ましい。この様な形態を採用することにより、剤形の持っている一過性の刺激感発現可能性を著しく低減することが出来る。本発明の外用医薬組成物は、前記の必須成分、及び、任意成分を常法に従って処理することにより製造することが出来る。かかる外用医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、顔面、頸部、腋窩、陰部における湿疹・皮膚炎等の治療及び症状の悪化の抑制や発症の抑制(予防)に好適に用いられる。適用部位は粘膜を除く皮膚全般であり、適量を1日1回乃至数回症状に合わせて塗布する形態で用いられる。以下、実施例を挙げて更に詳細に本発明について説明を加える。
【実施例1】
【0017】
以下に示す処方に従って、乳化ローション剤形の外用医薬組成物1〜3を調製した。即ち、水と水以外の成分に分け、80℃で加温可溶化させ、水以外の部分に攪拌をしながら徐々に水を添加して乳化し、攪拌下室温まで冷却し、外用医薬組成物1〜3を得た。
比較例1として、親水性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウムを用いたものを調製した。
【0018】
【表1】
【0019】
<評価1>
一過性の刺激を感じやすいパネラー5名を用いて、外用医薬組成物1〜3及び比較例1を比較した。即ち、検体100mgをチャージした綿棒を37℃に保温し、上腕内側部にそっと置いた場合に刺激を感じるか否かを、明確に感じる、感じる、わずかに感じる、感じないの4つのグレードに分けて評価してもらった。表2に出現例数を示す。これより、ノニオン乳化であることが一過性の刺激発現を抑制していることが判る。
【0020】
【表2】
【実施例2】
【0021】
以下に示す処方に従って、実施例1と同様に、外用医薬組成物4、5を作製した。併せて、親水性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを用いた比較例2も作製した。実施例1の評価1と同様にこれらの製剤についても一過性刺激発現抑制を評価した。
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【実施例3】
【0024】
組成物1〜5及び比較例1、2について、使用性を官能検査専門パネラー3名を用いて評価した。使用性の評価項目は、のびの良さ、のびの軽さ、おさまりの良さの3項目で、評価基準は「非常によい」「良い」「普通」「悪い」の4段階とした。表5、6に出現例数を示す。これより本発明の外用医薬組成物は優れた使用性を示し、特に、不飽和結合を有しないノニオン界面活性剤のみで乳化した場合にはそれが顕著であることが判る。このことより、アトピー性皮膚炎などに適用した場合、塗工に際して負担が少ないことも判る。
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は医薬品に応用できる。