特許第6077365号(P6077365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077365エンジン制御装置及びこれを備えたハイブリッド建設機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077365
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置及びこれを備えたハイブリッド建設機械
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/06 20060101AFI20170130BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20170130BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20170130BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20170130BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20170130BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20170130BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20170130BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20170130BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   F02D29/06 N
   F02D29/00 B
   F02D29/04 G
   B60K6/485
   B60W20/00ZHV
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60W20/00 900
   E02F9/20 Z
   B60L11/14
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-75807(P2013-75807)
(22)【出願日】2013年4月1日
(65)【公開番号】特開2014-202073(P2014-202073A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】南條 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕治
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057347(JP,A)
【文献】 特開2003−028071(JP,A)
【文献】 特開2011−149226(JP,A)
【文献】 特開2008−121659(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157511(WO,A1)
【文献】 特開2011−047342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/06
B60K 6/485
B60L 11/14
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/00
E02F 9/20
F02D 29/00
F02D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
蓄電装置と、
前記エンジンからの動力により作動油を吐出する、少なくとも1つの可変容量式の油圧ポンプと、
前記エンジンからの動力により発電機として作動して前記蓄電装置を充電する一方、前記蓄電装置からの電力により電動機として作動して前記エンジンをアシストする発電電動機と、
前記油圧ポンプからの吐出油により作動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを操作するための操作手段と、
前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記エンジンの回転数を設定する回転数設定手段と、
前記回転数設定手段により設定された規定回転数よりも前記エンジンの回転数が低くなるように前記エンジンの回転数を制御するための制御器とを備え、
前記制御器は、前記エンジンの回転数が前記規定回転数である状態において少なくとも前記操作手段の操作量に基づいて決定される前記油圧ポンプの必要流量を得るための前記エンジンの回転数により定義される第1最低回転数、及び、前記エンジンの回転数が前記規定回転数である状態における前記操作手段の操作量と前記油圧ポンプの負荷状態とによって決定される必要駆動馬力を確保することができる前記エンジン及び前記発電電動機の合算出力を得るための前記エンジンの回転数により定義される第2最低回転数のうち、高位選択された下限回転数と前記規定回転数との間の回転数となるように前記エンジンの回転数を制御するための指令を出力する、ハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジンからの動力により駆動する冷却ファンと、
前記冷却ファンにより冷却される冷却系の温度を検出可能な温度検出器とをさらに備え、
前記制御器は、前記第1最低回転数、前記第2最低回転数、及び、前記温度検出器により検出された冷却系の温度に基づいて前記冷却系の温度を予め設定された規定温度に冷却するための前記エンジンの回転数により定義される第3最低回転数のうち、高位選択されたものを前記下限回転数として設定する、請求項1に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記操作手段の操作量に基づいて設定される前記油圧ポンプの目標流量と前記油圧ポンプの吐出圧力とにより求められる前記油圧ポンプの出力が前記エンジンの出力を超える場合に、前記油圧ポンプの出力が前記エンジンの出力を超えないように前記目標流量に制限が加えられた流量として前記必要流量を設定する、請求項1又は2に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、最大傾転に設定された前記油圧ポンプが前記必要流量を吐出するための前記エンジンの回転数として前記第1最低回転数を設定する、請求項1〜3の何れか1項に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記必要流量と、前記油圧ポンプの吐出圧力と、前記規定回転数とに基づいて前記必要駆動馬力を設定する、請求項1〜4の何れか1項に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記エンジンの回転数に対する前記エンジンの出力特性と、前記エンジンの回転数に対する前記発電電動機の出力特性と、前記蓄電装置の充電量により定まる前記発電電動機の出力の上限値とに基づいて、前記エンジン及び前記発電電動機の合算出力を設定する、請求項1〜5の何れか1項に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記冷却系の温度に対する前記第3最低回転数が設定されたマップを予め記憶するとともに、前記温度検出器により検出された温度と前記マップとに基づいて前記第3最低回転数を設定する、請求項2に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記油圧ポンプとしての第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、
前記各油圧ポンプの吐出油を合流するための合流ラインと、
前記合流ラインを介した作動油の流れを許容する許容位置と前記流れを規制する規制位置との間で切換可能な合流弁とをさらに備え、
前記制御器は、前記第1油圧ポンプの前記必要流量と前記第2油圧ポンプの前記必要流量とが異なる場合に、前記合流弁を許容位置に切り換えるとともに前記各必要流量の合算値が得られるように前記各必要流量を近づけることにより、第1最低回転数を低減させる、請求項1〜7の何れか1項に記載のハイブリッド建設機械のエンジン制御装置。
【請求項9】
機体と、
前記機体に対して変位可能に設けられた作業アタッチメントと、
前記作業アタッチメントを駆動するための油圧アクチュエータを含む請求項1〜8の何れか1項に記載のエンジン制御装置とを備えている、ハイブリッド建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド建設機械におけるエンジンを制御するためのエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド建設機械は、エンジンと、蓄電装置と、エンジンからの動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、エンジンからの動力により発電機として作動して蓄電装置を充電する一方、蓄電装置からの電力により電動機として作動してエンジンをアシストする発電電動機とを備えている。
【0003】
この種のハイブリッドショベルでは、エンジンの回転数が一定に保たれた状態で、油圧ポンプの傾転を調整することにより吐出流量を制御し、かつ、発電電動機のトルクを調整することにより発電機又は電動機としての発電電動機の作動を制御している。
【0004】
ここで、一定に保たれるエンジン回転数は、エンジンの負荷が比較的に低い状態で燃料消費率が高くなる回転数に設定されているため、エンジンの負荷が高い状態において燃料消費率が悪くなる。
【0005】
そこで、エンジンの負荷が通常の負荷よりも低いときにエンジンの回転数を減少させる一方、エンジンの負荷が通常の負荷よりも高いときに、エンジンの回転数を上昇させることにより、燃料消費率の向上を図る技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
具体的に、特許文献1に記載のハイブリッド式油圧ショベルでは、ブーム下げ運動時に低負荷であると判定し、エンジンの燃料消費率が高い条件で運転できるような所定の低回転数にエンジン回転数を下げる。
【0007】
また、蓄電装置の充電率(State Of Charge:SOC)に基づいてエンジンの回転数を制御することも知られている(例えば、特許文献2)。
【0008】
特許文献2に記載のハイブリッド型作業機械では、第n期間の作業機械の負荷出力と第n期間の終了時刻における蓄電装置のSOCとに基づいて、第(n+1)期間のエンジン要求出力を算出し、これに基づいて第(n+1)期間のエンジンの回転数の目標値を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/157511号
【特許文献2】特開2011−47342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ブーム下げ動作時にエンジンの燃料消費率が高い条件で運転できるような所定の低回転数にエンジン回転数を下げるものの、この所定の低回転数を決定する手法は明らかでない。
【0011】
また、特許文献2に記載の技術では、将来の第(n+1)期間のエンジン要求出力を予想してエンジンの回転数を決定するものの、この回転数は、現時点で油圧ポンプ、発電電動機、及びエンジンに要求される動力を考慮して設定された回転数ではない。
【0012】
そのため、各特許文献1、2では、現時点で油圧ポンプに要求される必要流量、及び現時点で発電電動機及びエンジンに要求される必要駆動馬力を確保しながら、燃料消費率を向上することは困難である。
【0013】
本発明の目的は、現時点で要求される必要流量及び必要駆動馬力を確保しながら燃料消費率を向上することができるエンジン制御装置及びこれを備えたハイブリッド建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンと、蓄電装置と、前記エンジンからの動力により作動油を吐出する、少なくとも1つの可変容量式の油圧ポンプと、前記エンジンからの動力により発電機として作動して前記蓄電装置を充電する一方、前記蓄電装置からの電力により電動機として作動して前記エンジンをアシストする発電電動機と、前記油圧ポンプからの吐出油により作動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを操作するための操作手段と、前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、前記エンジンの回転数を設定する回転数設定手段と、前記回転数設定手段により設定された規定回転数よりも前記エンジンの回転数が低くなるように前記エンジンの回転数を制御するための制御器とを備え、前記制御器は、前記エンジンの回転数が前記規定回転数である状態において少なくとも前記操作手段の操作量に基づいて決定される前記油圧ポンプの必要流量を得るための前記エンジンの回転数により定義される第1最低回転数、及び、前記エンジンの回転数が前記規定回転数である状態における前記操作手段の操作量と前記油圧ポンプの負荷状態とによって決定される必要駆動馬力を確保することができる前記エンジン及び前記発電電動機の合算出力を得るための前記エンジンの回転数により定義される第2最低回転数のうち、高位選択された下限回転数と前記規定回転数との間の回転数となるように前記エンジンの回転数を制御するための指令を出力する、ハイブリッド建設機械のエンジン制御装置を提供する。
【0015】
本発明によれば、油圧ポンプの必要流量を得るための第1最低回転数、及び必要駆動馬力を得るための第2最低回転数のうちの高位選択された下限回転数と規定回転数との間の回転数となるように、エンジンの回転数を下げることができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、現時点で要求される必要流量及び必要駆動馬力を確保しながら燃料消費率を向上することができる。
【0017】
前記エンジン制御装置において、前記エンジンからの動力により駆動する冷却ファンと、前記冷却ファンにより冷却される冷却系の温度を検出可能な温度検出器とをさらに備え、前記制御器は、前記第1最低回転数、前記第2最低回転数、及び、前記温度検出器により検出された冷却系の温度に基づいて前記冷却系の温度を予め設定された規定温度に冷却するための前記エンジンの回転数により定義される第3最低回転数のうち、高位選択されたものを前記下限回転数として設定することが好ましい。
【0018】
この態様では、第1最低回転数及び第2最低回転数に加えて、冷却系の温度を予め設定された規定温度に冷却するための第3最低回転数も下限回転数を決定する要素として考慮されている。
【0019】
そのため、現時点で要求される冷却能力も確保しながら燃料消費量を向上することができる。
【0020】
前記エンジン制御装置において、前記制御器は、前記操作手段の操作量に基づいて設定される前記油圧ポンプの目標流量と前記油圧ポンプの吐出圧力とにより求められる前記油圧ポンプの出力が前記エンジンの出力を超える場合に、前記油圧ポンプの出力が前記エンジンの出力を超えないように前記目標流量に制限が加えられた流量として前記必要流量を設定することが好ましい。
【0021】
この態様によれば、油圧ポンプの出力がエンジンの出力を超えないように油圧ポンプの流量を制御する、いわゆる馬力一定制御により決定される流量を必要流量として用いることができる。これにより、エンジンに過負荷が生じるのを抑制することができる。
【0022】
前記エンジン制御装置において、前記制御器は、最大傾転に設定された前記油圧ポンプが前記必要流量を吐出するための前記エンジンの回転数として前記第1最低回転数を設定することが好ましい。
【0023】
この態様によれば、必要流量を得ることができる最小限の第1最低回転数を設定することができる。
【0024】
前記エンジン制御装置において、前記制御器は、前記必要流量と、前記油圧ポンプの吐出圧力と、前記規定回転数とに基づいて前記必要駆動馬力を設定することができる。
【0025】
前記エンジン制御装置において、前記制御器は、前記エンジンの回転数に対する前記エンジンの出力特性と、前記エンジンの回転数に対する前記発電電動機の出力特性と、前記蓄電装置の充電量により定まる前記発電電動機の出力の上限値とに基づいて、前記エンジン及び前記発電電動機の合算出力を設定することが好ましい。
【0026】
発電電動機の出力には、蓄電装置の充電量に応じた上限値が存在する。そのため、前記態様のように蓄電装置の充電量に基づく発電電動機の出力の上限値を考慮することにより、エンジン及び発電電動機の合算出力をより正確に設定することができる。
【0027】
前記エンジン制御装置において、前記制御器は、前記冷却系の温度に対する前記第3最低回転数が設定されたマップを予め記憶するとともに、前記温度検出器により検出された温度と前記マップとに基づいて前記第3最低回転数を設定することが好ましい。
【0028】
この態様によれば、予め記憶されたマップに基づいて第3最低回転数を設定することができるので、温度検出器により検出された温度ごとに第3最低回転数を設定する場合よりも処理を簡素化することができる。
【0029】
前記エンジン制御装置において、前記油圧ポンプとしての第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、前記各油圧ポンプの吐出油を合流するための合流ラインと、前記合流ラインを介した作動油の流れを許容する許容位置と前記流れを規制する規制位置との間で切換可能な合流弁とをさらに備え、前記制御器は、前記第1油圧ポンプの前記必要流量と前記第2油圧ポンプの前記必要流量とが異なる場合に、前記合流弁を許容位置に切り換えるとともに前記各必要流量の合算値が得られるように前記各必要流量を近づけることにより、第1最低回転数を低減させることが好ましい。
【0030】
第1油圧ポンプの必要流量と第2油圧ポンプの必要流量とが異なる場合、大きい方の必要流量を得るためのエンジン回転数が第1最低回転数として設定されるため、必要流量の小さな油圧ポンプは、必要以上の回転数で駆動することになる。
【0031】
そこで、前記態様のように、第1油圧ポンプと第2油圧ポンプの必要流量を近づけることにより、1つの油圧ポンプ当たりの必要流量を小さくすることができ、これにより、第1最低回転数を低減することができる。
【0032】
また、本発明は、機体と、前記機体に対して変位可能に設けられた作業アタッチメントと、前記作業アタッチメントを駆動するための油圧アクチュエータを含む前記エンジン制御装置とを備えている、ハイブリッド建設機械を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、現時点で要求される必要流量及び必要駆動馬力を確保しながら燃料消費率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッドショベルの全体構成を示す側面図である。
図2図1に示すハイブリッドショベルのエンジン制御装置を示す回路図である。
図3図2に示す制御器により実行される処理の概要を示すフロー図である。
図4図2に示す制御器により設定される第2最低回転数を説明するためのグラフである。
図5】第3最低回転数と冷却系の温度との関係を示すマップの一例である。
図6】第3最低回転数と冷却系の温度との関係を示すマップの他の一例である。
図7】第3最低回転数と冷却系の温度との関係を示すマップの他の一例である。
図8】第2実施形態に係るエンジン制御装置の一部を拡大して示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0036】
<第1実施形態>
図1を参照して、ハイブリッド建設機械の一例としてのハイブリッドショベル1は、自走式の下部走行体(機体)2と、下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体(機体)3と、上部旋回体3に取り付けられた作業アタッチメント4と、図2に示すエンジン制御装置5とを備えている。
【0037】
作業アタッチメント4は、上部旋回体3に対して起伏可能に取り付けられたブーム6と、ブーム6の先端部に対して揺動可能に取り付けられたアーム7と、アーム7の先端部に対して揺動可能に取り付けられたバケット8とを備えている。
【0038】
また、作業アタッチメント4は、上部旋回体3に対してブーム6を起伏させるブームシリンダ9と、ブーム6に対してアーム7を揺動させるアームシリンダ10と、アーム7に対してバケット8を揺動させるバケットシリンダ11とを備えている。
【0039】
図2を参照して、エンジン制御装置5は、エンジン12と、蓄電装置19と、エンジン12の出力軸に接続された第1油圧ポンプ14、第2油圧ポンプ15、発電電動機18、及び冷却ファン23と、各油圧ポンプ14、15からの作動油により作動する油圧アクチュエータ(図2では、ブームシリンダ9及びアームシリンダ10のみを例示するが、バケットシリンダ11も含む。)と、油圧アクチュエータに対する作動油の給排を制御するコントロールバルブ16と、油圧アクチュエータを操作するための操作手段としてのリモコン弁17と、発電電動機18の駆動を制御する第1インバータ20と、下部走行体2に対して上部旋回体3を旋回駆動する旋回モータ21と、旋回モータ21の駆動を制御する第2インバータ22と、冷却ファン23により冷却される冷却器24と、エンジン12の回転数を設定するための回転数設定手段としてのアクセル25及びモード選択手段26と、ECU(Engine Control Unit)27と、ECU27に対してエンジン12の回転数を制御するための指令を出力する制御器28とを備えている。
【0040】
第1油圧ポンプ14及び第2油圧ポンプ15は、それぞれ、エンジン12から動力により作動油を吐出する可変容量式の油圧ポンプである。各油圧ポンプ14、15からの吐出圧は、それぞれ圧力検出器D1、D2によって検出される。
【0041】
発電電動機18は、エンジン12からの動力により発電機として作動して蓄電装置19を充電する。一方、発電電動機18は、蓄電装置19からの電力により電動機として作動してエンジン12をアシストする。
【0042】
具体的に、発電電動機18の発電機としての作動と、電動機としての作動との切り換えは、第1インバータ20によって行なわれる。第1インバータ20は、発電電動機18に対する電流又は発電電動機18のトルクを制御する。また、第1インバータ20は、発電電動機18の作動状態に応じて蓄電装置19の充電及び放電を制御する。
【0043】
リモコン弁17は、レバー操作に応じてコントロールバルブ16に対するパイロット圧を生じさせる。リモコン弁17の操作量は、圧力検出器(操作量検出手段)D3によってパイロット圧として検出される。ここで、リモコン弁17及び圧力検出器D3は、図2では1つのみを示すが、油圧アクチュエータ(各シリンダ9〜10)ごとにそれぞれ設けられている。
【0044】
蓄電装置19は、第1インバータ20及び第2インバータ22に対して電気的に接続されている。蓄電装置19の温度は、温度検出器D4により検出される。また、蓄電装置19の充電状態(充電量)は、蓄電状態検出器(温度検出器)D5により検出される。
【0045】
第2インバータ22は、蓄電装置19の電力を用いて上部旋回体3を旋回駆動する状態と、上部旋回体3の旋回減速時の慣性エネルギーを回生して蓄電装置19を充電する状態との間で、旋回モータ21の駆動を制御する。
【0046】
冷却器24は、作動油を冷却するオイルクーラ29と、エンジン12の冷却水を冷却する第1ラジエータ30と、蓄電装置19の冷却水を冷却する第2ラジエータ31と、エンジン12の過給機で用いられる空気を冷却するインタークーラー32とを備えている。
【0047】
オイルクーラ29において冷却される前の作動油の温度は、温度検出器(温度検出器)D6により検出される。第1ラジエータ30において冷却される前の冷却水の温度は、温度検出器(温度検出器)D7により検出される。第2ラジエータ31において冷却される前の冷却水の温度は、温度検出器(温度検出器)D8により検出される。インタークーラー32において冷却される前の空気の温度は、温度検出器(温度検出器)D9により検出される。
【0048】
制御器28は、アクセル25及びモード選択手段26により設定されたエンジン12の回転数(以下、規定回転数という)の指令に基づいて、ECU27に対して回転数に関する指令を出力する。
【0049】
また、制御器28は、上述した各検出器D1〜D9による検出結果に基づいて、前記規定回転数よりもエンジン12の回転数が低くなるようにエンジン12の回転数を制御するための指令を出力する。
【0050】
具体的に、制御器28は、各油圧ポンプ14、15の必要流量を得るためのエンジン12の回転数により定義される第1最低回転数、エンジン12及び発電電動機18に対する必要駆動馬力を確保するためのエンジン12の回転数により定義される第2最低回転数、及び冷却ファン23による冷却能力を所定の冷却能力に調整するためのエンジン12の回転数により定義される第3最低回転数のうち、高位選択された下限回転数と規定回転数との間の回転数となるようにエンジン12の回転数を制御するための指令を出力する。
【0051】
以下、図3を参照して、制御器28の処理について説明する。
【0052】
制御器28は、アクセル25及びモード選択手段26からのアクセル指令及びモード選択指令に基づいて規定回転数を決定する(ステップS1)。
【0053】
このステップS1において、制御器28は、アクセル指令及びモード選択指令と規定回転数との関係を示すマップを予め記憶しており、このマップとアクセル指令及びモード選択指令とに基づいて規定回転数を設定する。
【0054】
次いで、制御器28は、ステップS1で設定された規定回転数と、リモコン弁17(圧力検出器D3)からのレバー操作指令と、圧力検出器D1、D2からのポンプ吐出圧とに基づいて油圧ポンプ14、15のそれぞれの必要流量を演算する(ステップS2)。
【0055】
このステップS2では、まず、制御器28は、予め記憶されたレバー操作指令と各油圧ポンプ14、15の目標流量との関係を示すマップと、入力されたレバー操作指令とに基づいて、各油圧ポンプ14、15の目標流量をそれぞれ設定する。ここで、前記マップは、エンジン12の回転数が規定回転数である状態におけるレバー操作指令と目標流量との関係を示すものである。このように設定された各油圧ポンプ14、15の目標流量のうちの大きい流量が次の処理に用いられる。
【0056】
具体的に、制御器28は、前記のように設定された目標流量とポンプ吐出圧とにより求められる油圧ポンプ14、15の出力がエンジン12の出力を超える場合に、油圧ポンプ14、15の出力がエンジン12の出力を超えないように目標流量に制限(馬力一定制御)を加えて必要流量を算出する。
【0057】
次いで、制御器28は、最大傾転に設定された油圧ポンプ14、15が必要流量を吐出するためのエンジン12の回転数(第1最低回転数)を演算する(ステップS3)。具体的に、第1最低回転数は、最大傾転に設定された油圧ポンプ14、15の容量によって必要流量を除することにより算出される。
【0058】
また、制御器28は、規定回転数と、必要流量と、ポンプ吐出圧と、蓄電装置19の充電状態とに基づいて第2最低回転数を演算する(ステップS4)。
【0059】
ステップS4では、図4に示すように、規定回転数N1においてエンジン12及び発電電動機18に要求される必要駆動馬力H4が算出される。具体的に、制御器28は、規定回転数と、必要流量と、ポンプ吐出圧とを乗じることにより必要駆動馬力H4を算出する。
【0060】
次いで、制御器28は、必要駆動馬力H4を確保することができるエンジン12及び発電電動機18の合算出力H3を得るための第2最低回転数N2を演算する。
【0061】
具体的に、制御器28は、エンジン12の回転数に対するエンジン12の出力特性H2と、エンジン12の回転数に対する発電電動機18の出力特性H1とに基づいて、エンジン12及び発電電動機18の合算出力H3を特定する。そして、制御器28は、この合算出力H3上で必要駆動馬力H4を得ることができるエンジン12の回転数、つまり、第2最低回転数N2を特定する。
【0062】
なお、発電電動機18の出力には、蓄電装置19の充電量に応じた上限値が存在する。そのため、発電電動機18の出力特性H1には、蓄電装置19の充電量に応じて上限値H1aが設定され、これに伴い合算出力H3にも、蓄電装置19の充電量に応じて合算出力H3aが設定されている。これにより、蓄電装置19に過負荷を与えることなく、必要駆動馬力を得ることができる第2最低回転数を正確に設定することができる。
【0063】
次いで、制御器28は、第1冷却系温度、第2冷却系温度、第3冷却系温度、及び蓄電装置19の温度に基づいて、冷却能力に基づく第3最低回転数を演算する(ステップS5)。
【0064】
ここで、第1冷却系温度は、温度検出器D6による作動油の温度であり、第2冷却系温度は、温度検出器D7、D8による冷却水の温度であり、第3冷却系温度は、温度検出器D9による空気の温度である。つまり、作動油が流通する回路、冷却水が循環する回路(蓄電装置19自体も含む)、及び空気の循環する回路がそれぞれ冷却系を構成している。
【0065】
制御器28は、図5に一例を示すように、第1〜第3冷却系及び蓄電装置19の温度と第3最低回転数との関係をそれぞれ示す複数のマップを予め記憶している。そして、ステップS5において、制御器28は、各マップと各検出器D6〜D9による検出温度とに基づいて、複数の第3最低回転数を特定し、これら第3最低回転数のうちの最も大きな回転数をその後の処理に用いる第3最低回転数として設定する。
【0066】
なお、図5では、検出温度の増加に応じて段階的に増加するマップを例示しているが、マップは、これに限定されない。例えば、図6に示すように、温度の増加に応じて第3最低回転数が連続的に増加するマップを採用することもできる。また、図7に示すように、温度の増加時と低下時との間でヒステリシスを持たせたマップを採用することもできる。
【0067】
次いで、制御器28は、ステップS3〜S5で演算された第1〜第3最低回転数のうち、高位選択された下限回転数を特定する(ステップS6)。
【0068】
そして、制御器28は、下限回転数と規定回転数との間で、エンジン12(ECU27)に指令すべき回転数を決定する(ステップS7)。このステップS7では、後に規定回転数に復帰する際の応答性を考慮して下限回転数に対して余裕を持った回転数に設定することができる。また、燃費特性の悪い領域を避けるように、回転数を設定することもできる。そして、制御器28は、ステップS7で決定された回転数の指令をECU27に出力する。
【0069】
また、制御器28は、ステップS7で決定された回転数において前記必要流量を得るために各油圧ポンプ14、15に指令すべき傾転を決定する(ステップS8)。そして、制御器28は、ステップS8で決定された傾転指令を各油圧ポンプ14、15のレギュレータ14a、15a(図2参照)に出力する。
【0070】
さらに、制御器28は、ステップS7で決定された回転数における、蓄電装置19の動力の配分、つまり、発電電動機18の発電機としての作動と発電電動機18の電動機としての作動との配分を決定する(ステップS9)。そして、ステップS9で決定された配分に基づいて、発電電動機18(第1インバータ20)に指令すべきトルク指令値を決定する(ステップS10)。
【0071】
そして、制御器28は、各ステップS10で決定されたトルク指令値を第1インバータ20に出力する。
【0072】
以上説明したように、前記エンジン制御装置5によれば、油圧ポンプ14、15の必要流量を得るための第1最低回転数、必要駆動馬力を得るための第2回転数のうちの高位選択された下限回転数と規定回転数との間の回転数となるように、エンジン12の回転数を下げることができる。
【0073】
したがって、現時点で要求される必要流量及び必要駆動馬力を確保しながら燃料消費率を向上することができる。
【0074】
また、第1実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0075】
第1実施形態では、第1最低回転数及び第2最低回転数に加えて、冷却系の温度を予め設定された規定温度に冷却するための第3回転数も下限回転数を決定する要素として考慮されている。
【0076】
そのため、現時点で要求される冷却能力も確保しながら燃料消費量を向上することができる。
【0077】
第1実施形態によれば、油圧ポンプ14、15の出力がエンジン12の出力を超えないように油圧ポンプ14、15の流量を制御する、いわゆる馬力一定制御により決定される流量を必要流量として用いることができる。これにより、エンジン12に過負荷が生じるのを抑制することができる。
【0078】
第1実施形態のように、最大傾転に設定された油圧ポンプ14、15が必要流量を吐出するためのエンジン12の回転数として第1最低回転数を設定することにより、必要流量を得ることができる最小限の第1最低回転数を設定することができる。
【0079】
第1実施形態によれば、図4に示すように蓄電装置19の蓄電量に基づく発電電動機18の出力の上限値H1aを考慮することにより、エンジン12及び発電電動機18の合算出力をより正確に設定することができる。
【0080】
第1実施形態によれば、図5図7に示すマップに基づいて第3最低回転数を設定することができるので、温度検出器D6〜D9により検出された温度ごとに第3最低回転数を設定する場合よりも処理を簡素化することができる。
【0081】
ただし、温度検出器D6〜D9により検出された温度と、冷却器24に設定された上限温度との偏差に基づいて、冷却器24の温度を上限温度に近づけるための回転数を算出し、これを第3最低回転数に設定することもできる。
【0082】
<第2実施形態>
第1実施形態では、2つの油圧ポンプ14、15のそれぞれに対する必要流量のうちの高い必要流量に基づいて第1最低回転数を演算しているが、各油圧ポンプ14、15の吐出油を合流させて、1つの油圧ポンプ当たりの必要流量を下げることにより、第1最低回転数を低減することもできる。
【0083】
以下、図8を参照して、本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置5を説明する。なお、第1実施形態と同様の構成の一部については図示を省略し、他の部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0084】
第2実施形態に係るエンジン制御装置5は、各油圧ポンプ14、15の吐出油を合流するための合流ラインL1と、合流ラインL1を介して作動油の流れを許容する許容位置と前記流れを規制する規制位置との間で切換可能な電磁弁(合流弁)33とを備えている。
【0085】
電磁弁33は、通常時に規制位置に付勢されているとともに、制御器28からの指令に応じて許容位置に切り換えられる。
【0086】
第2実施形態に係る制御器28は、図3に示すステップS2において、第1油圧ポンプ14の必要流量と第2油圧ポンプ15の必要流量とが異なる場合に、電磁弁33を許容位置に切り換えるとともに、各油圧ポンプ14、15の必要流量の合算値が得られるように各必要流量を近づける。
【0087】
これにより、各必要流量のうちの最大の必要流量(1つの油圧ポンプ当たりの必要流量)の値を小さくすることができ、これにより、ステップS2において算出される第1最低回転数を低減することができる。
【符号の説明】
【0088】
D3 圧力検出器(操作量検出手段の一例)
D4、D6〜D9 温度検出器
H1 発電電動機の出力特性
H1a 発電電動機の出力の上限値
H2 エンジンの出力特性
H3、H3a 合算出力
H4 必要駆動馬力
L1 合流ライン
N1 規定回転数
N2 第2最低回転数
1 ハイブリッドショベル(建設機械の一例)
2 下部走行体(機体の一例)
3 上部旋回体(機体の一例)
4 作業アタッチメント
5 エンジン制御装置
9 ブームシリンダ(油圧アクチュエータの一例)
10 アームシリンダ(油圧アクチュエータの一例)
11 バケットシリンダ(油圧アクチュエータの一例)
12 エンジン
14 第1油圧ポンプ
15 第2油圧ポンプ
17 リモコン弁(操作手段)
18 発電電動機
19 蓄電装置
23 冷却ファン
24 冷却器(冷却系の一部)
25 アクセル(回転数設定手段)
26 モード選択手段(回転数設定手段)
28 制御器
33 電磁弁(合流弁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8