(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アノード活性材料は、前記装置が作動している際には、リチウムでインターカレートされず又はデインターカレートされないことを特徴とする請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
前記装置が充電状態にある場合には、前記リチウムの20%以下は、前記アノード活性材料のバルク中に貯蔵され、前記装置が放電状態にある場合には、前記リチウムの20%以下は、前記カソード活性材料のバルク中に貯蔵されることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【背景技術】
【0004】
スーパーコンデンサ(ウルトラコンデンサ又は電気化学コンデンサ)
スーパーコンデンサは、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー貯蔵及び現在の網状電極用途に検討されている。スーパーコンデンサの高容量密度は、拡散二重層電荷の形成に貢献する大表面積を形成するための多孔性電極の使用から導き出される。この電荷の電気二重層(EDL)は、電圧が負荷された際に電極表面付近の電解質中で形成される。このEDL機構に要求される電極付近のイオンは、セルが製造された又は放電状態である場合には、液状電解質中に予め存在し、通常は反対の電極から来るものではない。言い換えると、負極(アノード)活性材料(例えば活性炭粒子)の表面付近のEDL形成に要求されるイオンは、陽極(カソード)から来る必要はない、すなわちカソード活性材料の表面又は内部に取り込まれ又は貯蔵されない。同様に、カソード活性材料の表面付近のEDL形成に要求されるイオンは、アノード活性材料の表面又は内部から来る必要はない。
【0005】
スーパーコンデンサが再充電される場合、すでに液状電解質中にあるイオン(カチオン及びアニオンの両方)が(一般に局所的な分子又は電荷のイオン分極により)各電極付近にEDLを形成する。アノード活性材料とカソード活性材料との間には大きなイオン交換はない。貯蔵され得る電荷量(容量)は、電解質中で利用可能なカチオン及びアニオンの濃度によってのみ規定される。これらの濃度は一般的に非常に低く(溶媒中の塩の溶解度によって限定される)、低エネルギー密度を生じさせる。さらに、リチウムイオンはスーパーコンデンサ電解質としては通常好適ではなく、一般に用いられない。
【0006】
いくつかのスーパーコンデンサにおいては、貯蔵エネルギーは、いくつかの電界化学反応(例えば酸化還元反応)に起因する擬似容量効果によりさらに増加する。このような擬似コンデンサにおいては、酸化還元対に含まれるイオンは電解質中に予め存在されている。また、アノード活性材料とカソード活性材料との間には大きなイオン交換はない。
【0007】
EDLの形成は化学反応又は2つの対向電極間のイオン交換を含まないため、EDLスーパーコンデンサの充電又は放電工程は非常に速く、一般に数秒、非常に高い出力密度(一般に5000〜10000W/kg)を生じさせる。バッテリと比較すると、スーパーコンデンサは、高出力密度が得られ、メインテナンスが不要であり、サイクル寿命が長く、非常に単純な充電回路しか必要でなく、一般により安全である。化学的というよりも物理的なエネルギー貯蔵は、安全操作及び非常に長いサイクル寿命がカギである。
【0008】
スーパーコンデンサの優れた特性にもかかわらず、スーパーコンデンサの様々な工業用途への広範囲な実施には、いくつかの技術的障害がある。例えば、スーパーコンデンサは、バッテリと比較すると、非常に低いエネルギー密度を有する(例えば鉛電池の10〜30Wh/kg及びNiMHバッテリの50〜100Wh/kgに対して市販のスーパーコンデンサの5〜8Wh/kg)。リチウムイオンバッテリは、一般にセル重量に対して100〜180Wh/kgの範囲の高いエネルギー密度を有する。
【0009】
リチウムイオンバッテリ
リチウムイオンバッテリは、より高いエネルギー密度が得られるが、出力密度が非常に低く(一般に100〜500W/kg)、一般に再充電に数時間必要となる。従来のリチウムイオンバッテリは、いくつかの安全性に対する懸念を引き起こす。
【0010】
リチウムイオンバッテリの低出力密度又は長い再充電時間は、再充電の間のアノード活性材料粒子のバルク内又は放電の間のカソード活性材料粒子のバルク内に入り込む又はインターカレートするためにリチウムイオンに必要なアノード内部とカソード内部との間のリチウムイオンの往復に起因する。例えば、
図1(A)に示されたように、アノード活性材料であるグラファイト粒子に特徴のある最も一般的に使用されるリチウムイオンバッテリにおいては、リチウムイオンは、再充電の間にアノードでグラファイト結晶の面内空間に拡散することを要求される。これらのリチウムイオンの大部分は、カソード活性粒子のバルクから固体セパレータの孔(液状電荷質で満たされた孔)を通してアノードのグラファイト粒子のバルク内に拡散することにより、カソード側から遙々やって来る必要がある。
【0011】
放電の間に、リチウムイオンは、アノード活性材料から拡散し(例えばグラファイト粒子からでインターカレートし)、液状電解質相を通して移動し、次いで、複合カソード結晶のバルク内に拡散する(例えばコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、他のリチウム挿入化合物の粒子中にインターカレートする)。言い換えると、液状電解質のみが固体粒子(例えば直径10μmのグラファイト粒子)の外上面に到達し、液状電解質中を泳ぐリチウムイオンのみが(速い液状拡散により)グラファイト表面に移動する。固体グラファイト粒子のバルク内への浸透には、リチウムイオンの(一般に「インターカレーション」と呼ばれる)遅い固体状拡散が必要であろう。リチウム金属酸化物の固体粒子におけるリチウムの拡散係数は一般的には10
−16〜10
−8cm
2/秒(より一般的には10
−14〜10
−10cm
2/秒)であり、液体におけるリチウムの拡散係数はおおよそ10
−6cm
2/秒である。
【0012】
言い換えると、固体状拡散(又は固体内部の拡散)は困難で遅いため、これらのインターカレーション又は固体状拡散工程は達成に長い時間が必要である。これは、例えば、スーパーコンデンサでは再充電時間がたった数秒であるのに対し、プラグインハイブリッド車用の現在のリチウムイオンバッテリでは2〜7時間必要であるこということである。上記は、バッテリにおけるエネルギーと同じ位貯蔵でき、スーパーコンデンサのように1〜2分で再充電できるエネルギー貯蔵装置は、エネルギー貯蔵技術における革新的な進歩により考察されるであろうことを示唆している。
【0013】
より最近の開発
最近、アノード材料としてチタン酸リチウムを含むリチウムイオンコンデンサ(LIC)用のカソード材料として、カルボニル基を含む多壁カーボンナノチューブ(CNT)がLeeらにより用いられた(非特許文献1)。ハーフセル形態においては、リチウム箔をアノードとして、機能化CNTをカソードとして用いることにより、比較的高い出力密度が提供される。しかしながら、layre-by-layer(LBL)法により調製されたCNT系電極は、高コストを超えるようないくつかの技術的問題を抱えている。
これらの問題のいくつかは、
(1)CNTは、相当量の不純物、特に化学蒸着工程に要求された触媒として用いられた遷移金属又は貴金属粒子を含むと知られている。これらの触媒材料は、電解質に対して有害な反応を引き起こす高い傾向のためバッテリ電極においては好ましくない。
(2)CNTは、電極製造の間に動作しずらい(例えば液状溶媒又は樹脂マトリクス中に分散しずらい)毛玉に似たもつれた固まりを形成する傾向がある。
(3)Leeらにより用いられたいわゆる“layre-by-layer”法(LBL)は、バッテリ電極の大量製造又は十分な厚さを有する(ほとんどのバッテリは100〜300μmの電極厚さを有する)電極の大量生産に適用できない遅く高価な工程である。Leeら(有名なMIT研究グループ)により製造されたLBL電極の厚さは3μm以下に限定される。
(4)どのようにLBLCNT電極の厚さが性能を付与するか不思議であろう。Leeらにより提供されたデータ(例えばLeeらの支持材料の
図S−7)の注意深い検査は、LBLCNT電極の厚さが0.3μmから3.0μmまで増大した場合に出力密度が一桁低下することを示している。電極厚さが有用なバッテリ又はスーパーコンデンサ電極の厚さ(例えば100〜300μm)まで増大する場合でさえも性能が低下するおそれがある。
(5)超薄LBLCNT電極が高出力密度を提供する(リチウムイオンのみが極めて短い距離を移動する必要がある)が、不十分なCNT拡散及び電解質の到達不可能な問題のため実用的な厚さのCNT系電極が作用することを証明するデータはない。Leeらは、LBL法を用いることなく調製されたCNT系複合電極が良好な性能を発揮しなかったことを示した。
(6)CNTは、底面構造に損傷することなく官能基を受け入れる非常に限定された量の好適な部位を有する。CNTは迅速に機能化される一端のみを有し、この端部はCNTの全表面に対して極めて小さな比率である。外底面を化学的に機能化することにより、CNTの電気伝導度は劇的に損なわれる。
【0014】
ごく最近、我々の研究グループは、2つの特許出願において、リチウムイオンとの酸化還元反応を迅速かつ可逆的に形成することができる、官能基を有する2つの新規なクラスの高伝導性カソード活性材料の開発を報告している。これらの材料は、ナノグラフェン(ナノグラフェンプレートレット又はNGPと全体的に呼ばれる単層グラフェン及び多層グラフェンシート)及び不規則カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、活性炭、非結晶カーボン等を含む)である。これらの2つの特許出願は、特許文献1及び2である。
【0015】
(いわゆる「リチウムスーパーバッテリ」に用いられた)これらの新規なタイプのカソード活性材料は、バッテリセルの充電及び放電サイクルの間にリチウムイオンとの酸化還元対を可逆的かつ迅速に形成することができる特定の官能基を有する化学的機能化ナノグラフェンプレートレット(NGP)又は機能化不規則カーボン材料を含む。これらの2つの特許出願において、機能化不規則カーボン又は機能化NGPは、リチウムスーパーバッテリのカソード(アノードではない)に用いられる。このカソードにおいては、液状電解質中のリチウムイオンは、(機能化NGPカソードの場合)グラフェンシートの端部又は表面あるいは不規則カーボンマトリクス中の芳香族環構造(小さなグラフェンシート)の端部/表面に移動する必要がある。固体状拡散はカソードでは要求されない。機能化グラフェン又はそこに官能基を有するカーボンの存在は、カソード材料のバルクでない表面(端部を含む)上にリチウムの可逆的貯蔵を可能とする。このようなカソード材料は、1タイプのリチウム貯蔵又はリチウム取り込み表面を提供する。
【0016】
従来のリチウムイオンバッテリにおいては、リチウムイオンは、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)及びリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)のようなカソード活性材料のバルク内に又はバルクから拡散する必要がある。また、これらの従来のリチウムイオンバッテリにおいては、リチウムイオンは、アノード活性材料として作用するグラファイト結晶における面内空間に又は面内空間から拡散する必要がある。カソード及びアノードにおけるリチウム挿入及び抽出工程は非常に遅い。これらのインターカレーション化合物中又はインターカレーション化合物からの遅いリチウム拡散工程(一般に固体状拡散又はインターカレーション工程と呼ばれる)により、従来のリチウムイオンバッテリは高出力密度を発揮できず、再充電に必要な時間が長い。これらの従来の装置は、リチウム含有電解質由来のリチウムイオンとの酸化還元反応を迅速かつ可逆的に形成する選択された(例えばグラフェンシートの端部又は底面表面に取り付けられた)官能基に依存する。
【0017】
これに対し、2つの先願(特許文献1及び2)に報告されているようなスーパーバッテリは、(カソードでグラフェン構造に取り付け又は結合された)官能基と電解質中のリチウムイオンとの間の迅速かつ可逆的な反応の動作に依存する。セパレータのみを通したアノード由来のリチウムイオンは、グラフェン面の表面/端部に到達するために、カソードに存在する液状電解質中に拡散する必要がある。これらのリチウムイオンは、固体粒子中に又は固体粒子から拡散する必要はない。拡散限定インターカレーションはカソードには含まれないため、この工程は速く、数秒で生じる。したがって、これは、類を見ない前代未聞の並外れた出力密度、高エネルギー密度、長く安定的なサイクル寿命、広い動作温度範囲の組み合わされた性能を示す全体的に新規なクラスのハイブリッドスーパーコンデンサ−バッテリである。この装置は、バッテリ及びスーパーコンデンサの両業界における最高なものである。
【0018】
これらの2つの特許出願に記載されたリチウムスーパーバッテリにおいては、アノードは、
図1(B)において概念的に説明されたチタン酸リチウムタイプの(固体状拡散を必要とする)アノード活性材料の粒子、又は、
図1(C)において説明された(リチウムイオン/原子を支持又は取り込むためのナノ構造材料を含まない)リチウム箔のみのいずれかを含む。後者の場合、バッテリが再充電される際に、リチウムがアノード集電体(例えば銅箔)の前面上に析出する。集電体の比表面積は非常に低い(一般的に1m
2/g以下)ため、全体のリチウム再析出速度は比較的低い(この問題は本発明において解決される)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一実施形態は、Aruna Zhamu、C. G. Liu、David Neff及びBor Z. Jangの2010年12月23日付け米国特許出願第12/928927号“Surface-Controlled Lithium Ion-Exchanging Energy Storage Device,”に開示されている。この装置においては、カソード及びアノード(カソードに限らず)の少なくとも1つは(一般的にはリチウムと可逆的に反応する官能基を有する)リチウム取り込み又はリチウム貯蔵機能的表面を備え、両電極(カソードに限らず)は固体状拡散において使用する必要性を除去する。これは
図1(D)及び
図2に示されている。アノード及びカソードの両者は大量の表面積を有し、その上にリチウムイオンを同時に析出し、充電及び放電速度を劇的に速くし、出力密度を高くする。電極中のナノ構造材料(例えばグラフェン、CNT、不規則カーボン、ナノワイヤ、ナノファイバ)のこれらの表面の均一な分散は、樹枝状結晶を形成することなくリチウムがより均一に析出する電極においてより均一な電界を提供する。このようなナノ構造は、(リチウムイオンバッテリにとって代わられる前の1980年代及び1990年前半に通常用いられる)従来のリチウム金属バッテリにおける問題である樹枝状結晶の電位形成を排除する。このような装置はここでは表面制御リチウムイオン交換バッテリと呼ばれる。
【0022】
他の実施形態は、アノードの表面及びカソードの表面が、リチウムと酸化還元対を形成し得るいずれかの官能基を生じる材料を伝えない2011年8月30日付け米国特許出願第13/199450号に開示されている。その代わりに、いずれの官能基を有することなく、いくつかのグラフェン表面が固体状拡散を必要とすることなくリチウム原子を取り込み又は閉じ込められることを観測される。表面が官能基を備えるかどうかに関わらず、グラフェン表面は、これらの表面がリチウムイオン含有電解質に接触可能である安定的かつ可逆的な様式でリチウム原子を貯蔵し、電解質と直接接触する。リチウム貯蔵容量は、
図13に示されたように、リチウムイオン交換電解質に直接曝される総表面積に直接比例する。例えば、
図13において最高の比容量を有するデータポイントは、−OH又は−COOHのような官能基を有さない実質的に全ての炭素原子のみ(98%超)からなるグラフェン電極を備えたセルのものであった。したがって、この実施形態においては、リチウム官能基酸化還元反応の機構は有力なリチウム貯蔵機構ではないであろう。
【0023】
本願の請求項の趣旨の定義においては、「表面媒介セル」(SMC)の用語は、いずれのリチウム−空気(リチウム−酸素)セル、リチウム−硫黄セル、あるいは、エネルギー貯蔵装置の操作に装置の外側から酸素の誘導を含み、又は、カソードにおける金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、金属水酸化物又は金属ハロゲン化合物の形成を含むいずれかのセルを含まない。
【0024】
本発明は、(a)そこにリチウムを取り込み又は貯蔵する表面積を有する機能化又は非機能化カソード活性材料を含む陽極(カソード)と、(b)そこにリチウムを取り込み又は貯蔵する表面積を有する機能化又は非機能化アノード活性材料を含む陰極(アノード)と、(c)上記2つの電極間に配置された多孔性セパレータと、(d)上記2つの電極と物理的に接触するリチウム含有電解質とを備えた表面媒介リチウムイオン交換エネルギー貯蔵装置(SMC)を提供する。一実施形態においては、アノード活性材料及び/又はカソード活性材料は、そこからリチウムイオンを受け取り又はそこにリチウムイオンを提供するために、電解質と直接物理的に接触する100m
2/g以上の比表面積を有する。
【0025】
一実施形態においては、2つの電極の少なくとも一方は、エネルギー貯蔵装置の最初の充電又は最初の放電サイクルの前にリチウム源をそこに含み、少なくともカソード活性材料は、機能化材料ではない(すなわち、この材料はリチウムと酸化還元反応し得る官能基を有さない)。リチウム源は、固体リチウム箔、リチウムチップ、リチウム粉又は表面安定化リチウム粒子の形状であることが好ましい。リチウム源は、アノード活性材料の表面上に前処理されたリチウム薄膜の層であってもよい。
【0026】
他の実施形態においては、SMC電極材料(例えば実施的に99%超の炭素を含む純粋なグラフェン)の表面は、その上に結合された官能基を備えず、リチウム原子の単層が電解質中に浸漬され続けていても、可逆的かつ安定的な様式で、液状電解質相から直接リチウムイオンを取り込み、表面上のリチウム原子を貯蔵することができる。
【0027】
一実施形態においては、電解質は、リチウムイオンが高拡散係数を有する液状電解質(例えば有機液体又はイオン性液体)又はゲル状電解質を含む。固体電解質は、通常望ましくないが、比較的高い拡散速度を示す場合にはいくつかの固体電解質の薄層が用いられる。
【0028】
このバッテリ又は貯蔵装置の動作原理(
図2(A))を説明するため、リチウム源(例えばリチウム箔の小片)が、バッテリ装置が製造された際にナノ構造アノード(例えばナノ機能化グラフェンシートを含む)と多孔性ポリマーセパレータとの間で浸漬され、ナノ構造カソードが、2nmよりも小さくてもよいが、好ましくはナノスケール(2〜50nm)の相互連絡された孔により囲まれた非機能化グラフェンシートを備える場合を考慮する。
図2(A)〜(C)を参照すると、最初の放電サイクルの間に、リチウム箔がイオン化され、リチウムイオンを液状電解質中に生じさせる。リチウムイオンは多孔性セパレータの孔を通してカソード側に迅速に移動する。カソードは液状電解質をそこに収容する相互連絡された孔を有するメソ多孔質であるため、リチウムイオンは基本的にカソード上の活性部位に到達する液体を通して進む必要がある。一実施形態においては、活性部位は、他の実施形態における官能基であり、グラフェンシートの端部又は表面でもよい。前者の場合、その後のリチウムイオンと表面形成官能基(例えばカルボニル、>=O)との表面酸化還元反応は速く可逆的であり、後者の場合、グラフェン表面は直接電解質に接触し、電解質からリチウムイオンを迅速に受け取る。両実施形態はSMCの速い放電及び高出力密度を可能とする。これは、非常に緩慢な工程である放電の間に、固体カソード粒子(例えばミクロンサイズのコバルト酸リチウム)のバルク中にリチウムイオンが分散する必要がある従来のリチウムイオンバッテリとは対照的である。
【0029】
上記例示においては、放電工程は、リチウム箔が完全にイオン化され又はカソード活性材料上の活性部位がリチウム原子で占められるまで継続される。再充電の間に、リチウムイオンはカソード活性材料の広い表面から放出され、液状電解質中を拡散し、一実施形態においては表面形成官能基により又は官能基を有さない実施形態においてはアノード活性材料(例えばナノ構造アノード材料の表面上に単純に電気化学的に析出される)の表面により取り込まれる。また、固体状拡散は要求されず、それゆえに全工程は非常に速く、再充電に必要な時間は短い。これは、従来のリチウムイオンバッテリのアノードにおけるグラファイト粒子のバルク内にリチウムイオンの要求された固体状拡散と対照的である。
【0030】
明らかに、バッテリ又はエネルギー貯蔵装置は、両電極において固体状拡散を必要としないアノードの広い面積とカソードの広い面積との間におけるリチウムイオンの交換の非常に特有なプラットフォームを提供する。この工程は、リチウムイオンの表面取り込み+液相拡散(全ては非常に速い)により実質上要求される。したがって、この装置はここでは表面媒介リチウムイオン交換バッテリと呼ばれる。これは、充電及び放電サイクルの間にアノード及びカソードの両者でリチウムの固体状拡散(インターカレーション及びデインターカレーション)が要求される従来のリチウムイオンバッテリとは全体的に異なり、エネルギー貯蔵装置の明白に異なったクラスである。
【0031】
この表面媒介リチウムイオン交換バッテリ装置は、電気二重層(EDL)機構又は擬似容量機構に基づく従来のスーパーコンデンサとは明白に異なる。両機構においては、2つの電極間でリチウムイオンは交換されない(リチウムは電極のバルク又は表面に貯蔵されず、代わりに電極表面付近の電気二重層に貯蔵されるため)。スーパーコンデンサが再充電さる場合、電気二重層は、アノード及びカソードの両側の活性炭表面付近で形成される。EDLのそれぞれ及びすべては、(電極材料(例えば活性炭)の表面上の電荷に加えて)電極において負電荷種の層と正電荷種の層とからなる。スーパーコンデンサが放電される場合には、負電荷種と正電荷種の両者は(電極材料表面からさらに離れて)電極中でランダム化される。これに対して、SMCが再充電される場合には、実質的に全てのリチウムイオンがアノード活性材料の表面上に取り込まれ又は電気メッキされ、カソード側が実質的にリチウムを含まない。SMCが放電される場合には、実質的に全てのリチウムイオンがカソード活性材料表面によって取り込まれる(欠損中に貯蔵され、ベンゼン環中心に結合され又は官能基と反応する)。電解質中に留まるリチウムはほとんどない。
【0032】
意義深いことには、従来のスーパーコンデンサにおいては、(リチウム含有電解質を用いた場合でさえ)スーパーコンデンサの電荷貯蔵容量はEDL電荷の形成に関係するカチオン及びアニオンの量により限定される。これらの量は、電解質溶媒におけるこれらのイオンの限界溶解度により規定されるリチウム塩由来のリチウムイオン及びカウンターイオン(アニオン)の元の濃度により規定される。この点を説明するために、1mLの溶媒中に溶解できるリチウムイオンは1モルまでであり、特定のスーパーコンデンサセルに添加された溶媒は全部で5mLであると仮定する。すると、セル全体に存在するリチウムイオンが最大5モルであり、この量によりこのスーパーコンデンサに貯蔵可能な電荷の最大量が規定される。
【0033】
これに対して、SMCのアノード表面とカソード表面との間で往復するリチウムイオン量は、この同じ溶媒中のリチウム塩の化学的溶解度によっても限定されない。(上記のスーパーコンデンサに記載されたように5モルのリチウムイオンを含む)同じ5mLの溶媒がSMCに用いられたと仮定する。溶媒はすでにリチウム塩で十分飽和されているため、この溶媒はリチウム源からさらなるリチウムイオンを受け入れられない又は受け入れられないであろう(5モルが最大である)ことが期待されるであろう。したがって、これら5モルのリチウムイオンが、電荷貯蔵に我々が用いられるリチウムの最大量(すなわち、放電中にカソードにより取り込まれ得るリチウムイオンの最大量又は再充電中にアノードにより取り込まれ得るリチウムイオンの最大量)であることが期待されるであろう。電気化学の分野における当業者又は極めて通常の技術者によるこの期待に反して、驚くことに、SMC中の電極表面により取り込まれるリチウムイオンの量(又は2つの電極間で往復されるリチウムイオンの量)がこの溶解度よりも一桁又は二桁大きいことを我々は発見した。このアノードにおけるリチウム源の導入は、溶媒がそこに溶解するよりも多くのリチウムイオンを劇的に提供することによりこの期待を無視するように思われる。
【0034】
さらに驚くべきことに、SMCにおいては、電荷貯蔵に貢献し得るリチウム量は、電解質からリチウムイオンが取り込まれ得るカソードの表面活性部位の量により制御(限定)される。これは、溶媒が一度に保持できるリチウムイオン量(例えば本議論においては5モル)よりもこの表面活性部位の量が多い場合でさえも、導入されたリチウム源が過剰量のリチウムイオンを供給できるからである。上記したように、一実施形態においては、これらの活性部位は官能基あるいはグラフェン面(
図3(D)及び(E))上のグラフェンの表面欠損又はベンゼン環中心である。全く意外なことには、リチウム原子がグラフェンシートを構成するベンゼン環(炭素原子の六角形)の個々の中心に強力かつ可逆的に結合し又はグラフェン表面欠損部位により可逆的に閉じ込められることを見いだされた。
【0035】
表面媒介リチウムイオン交換バッテリ装置は、アノードにアノード活性材料を備えない(アノード側がアノード集電体のみを含む)我々の2つの先願(特許文献1及び2)に開示されたように、スーバーバッテリとは明らかに異なる。本発明のエネルギー貯蔵装置においては、カソードだけではなくアノードは、同時にリチウムイオンがそこに析出することができる広い表面積を有し、劇的に高い充電及び放電速度及び高出力密度を可能とする。言い換えると、高電流密度状態(速い再充電の間)においては、各リチウムイオンが析出又は反応する部位を探しているアノード側に大量のリチウムイオンが迅速に満たされる。アノード集電体(例えば銅箔)は、一度に利用可能な表面積が小さく、リチウムイオンのこのような高流速を調節することができない。対照的に、ナノ構造アノード及び光学的機能化材料(例えばグラフェン又はCNT又はその機能化物)の大きな比表面積は同時に大量にリチウムイオンを調節することができる。また、電極中のナノ材料(例えばグラフェン又はCNT)のこれら表面への均一分散は、リチウムが樹枝状結晶を形成することなくより均一に析出する電極中のより均一な電界を供給する。表面積が大きくなればなるほど析出スポットが多くなることを意味し、各スポットにはリチウムが少なく、危険な樹枝状結晶を形成するには不十分である。
このようなナノ構造は、従来のリチウム金属バッテリにおいて最も深刻な問題であった潜在的な樹枝状結晶の形成を排除する。
【0036】
このSMC装置の一実施形態においては、2つの電極のうちの少なくともカソードは、機能化材料ではない(すなわち電解質に露出された表面に備えられた官能基がない)活性材料を有する。用語「機能化材料」は、酸化還元対を形成するリチウム原子又はイオンと反応し得る官能基(例えばカルボニル基)を有する材料を意味する。カソード活性材料は、電解質と直接接触する(例えば電解質中に直接浸漬される)高比表面積(100m
2/g超)を有し、電解質からリチウムイオンを取り込み、リチウムイオンと反応し、表面活性部位(例えば表面欠損又はベンゼン環中心)中にリチウム原子を貯蔵することができる。
【0037】
2つの電極とも高比表面積(100m
2/g超)を有し、電解質と直接接触し、表面活性部位中にリチウムイオンを取り込み/貯蔵することができることが好ましい。2つの電極のうちの少なくとも1つは、そこにリチウムイオン又は原子を貯蔵又は支持するために、500m
2/g以上(好ましくは1000m
2/g超、より好ましくは1500m
2/g超、さらに好ましくは2000m
2/g超)の高比表面積を有するナノ構造非機能化材料を含むことが好ましい。
【0038】
リチウム源は、リチウムチップ、リチウム箔、リチウム粉、表面不動態化又は安定化リチウム粒子、これらの組み合わせを含むことが好ましい。リチウム源は、このバッテリ装置上で最初の放電工程が行われる前に、アノード側で浸漬されてもよい。あるいは、リチウム源は、このバッテリ装置上で最初の充電工程が行われる前に、カソード側で浸漬されてもよい。またさらには、カソード及びアノードは、バッテリ製造工程の間に、いくつかのリチウム源を含むよう組み立てられてもよい。この固体リチウム源が、充電−放電サイクルの際にアノード表面とカソード表面との間で交換される大部分のリチウムイオンを供給することが重要である。リチウム含有電解質が必要となるリチウムイオンの多くを当然提供するが、この量は高エネルギー密度を実現するバッテリ装置にとっては少なすぎる。これは、例えリチウム系電解質を備えたとしても、対称型コンデンサは高エネルギー密度を発揮しないことに起因している。
【0039】
SMC装置の一実施形態においては、アノード活性材料及びカソード活性材料の少なくとも1つ(好ましくは両方)が下記から選択される。
(a)ソフトカーボン、ハードカーボン、重合性カーボン又は炭化樹脂、メソフューズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭又は部分グラファイト化カーボンから選択される多孔性不規則カーボン材料、
(b)グラフェンの単層シート又は多層プレートレット、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、水酸化グラフェン、窒化グラフェン、ホウ素ドープグラフェン、窒素トープグラフェン、あるいは、化学的又は熱的還元酸化グラフェンから選択されるグラフェン材料、
(c)剥離グラファイト、
(d)メソ多孔性カーボン(例えばメソフェーズカーボンのテンプレート補助合成又は化学的活性化により得られたもの)、
(e)単壁カーボンナノチューブ又は多壁カーボンナノチューブから選択されるカーボンナノチューブ、
(f)カーボンナノファイバ、金属ナノワイヤ、金属酸化物ナノワイヤ又はファイバ、あるいは、伝導性ポリマーナノファイバ、
(g)これらの組み合わせ。
【0040】
CNTは高コスト及び他の技術的問題のため好適なナノ構造材料ではないが、(単独又は他のナノ構造材料と組み合わせた)それにもかかわらずCNTは本発明の表面制御リチウムイオン交換バッテリに用いることができる。
【0041】
アノード及びカソードの一方又は両方に官能基を有する実施形態においては、代表的な材料は、ポリ(2,5−ハイドロキシ−1,4−ベンゾキノン−3,6−メチレン)、Li
xC
6O
6(x=1〜3)、Li
2(C
6H
2O
4)、Li
2C
8H
4O
4(Liテレフタレート)、Li
2C
6H
4O
4(Liトランス−トランス−ムコネート)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)硫化物ポリマー、PTCDA、1,4,5,8,−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラ無水アントラキノン、テトラ無水−p−ベンゾキノン及びこれらの組み合わせの一群から選択される。一実施形態においては、機能的材料の少なくとも1つは、Rは炭化水素(例えば炭素数1〜6)であり、−COOH、=O、−NH
2、−OR、−COOR、これらの組み合わせの一群から選択される官能基を有する。これらの有機又は重合性材料(分子又は塩)は、可逆的かつ迅速なリチウムとの酸化還元反応を行え得る官能基(例えばカルボニル基)を有する。これらの官能基は、比較的低い電導度を有する傾向があり、それゆえ、この一群から選択された官能基が(例えばナノグラフェン、カーボンナノチューブ、不規則カーボン、ナノグラファイトのようなナノ構造材料、及び、ナノグラフェン、カーボンナノチューブ、不規則カーボン、ナノグラファイト、金属ナノワイヤ、伝導性ナノワイヤ、カーボンナノファイバ、重合性ナノファイバから選択された材料に化学的に結合され又は取り付けられるもの)と組み合わされることが好ましい。例えば、グラフェン及び不規則カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン、活性炭、カーボンブラック等)を構成する芳香族環は、前記機能化材料(例えばテトラヒドロキシ−p−ベンゾキノンの水酸基)上に結合する官能基と反応し得る官能基をその端部又は表面に有する。
【0042】
あるいは、非機能化ナノグラフェン、カーボンナノチューブ,不規則カーボン又はナノグラファイトのようなナノ構造カーボン材料は、例えば閉じ込める欠損部位又は取り込めるベンゼン環中心によってその上にリチウム原子を析出させる表面を単に提供してもよい。反応性官能基を持たない場合でさえも、単にナノ構造材料が存在するだけで広いリチウム貯蔵表面が提供される。
【0043】
一実施形態においては、不規則カーボン材料は、グラファイト結晶又はグラフェン面のスタックである第1相と、非結晶カーボンである第2相の2層から形成され、第1相は第2相中に分散され又は第2相により結合されてもよい。不規則カーボン材料は、グラファイト結晶の90重量%未満、非結晶カーボンの少なくとも10重量%含まれてもよい。
【0044】
SMCのアノード又はカソード活性材料は、単層グラフェンシート又は多層グラフェンプレートレットから選択された非機能化ナノグラフェンを含んでもよい。あるいは、活性材料は、単壁又は多壁カーボンナノチューブを含んでもよい。
【0045】
このように、本発明の一実施形態においては、SMCのアノード活性材料及び/又はカソード活性材料は、グラフェン、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、水酸化グラフェン、窒化グラフェン、ホウ素ドープグラフェン、窒素ドープグラフェン、ドープグラフェン、あるいは、化学的又は熱的還元酸化グラフェンの単層シート又は多層プレートレットから選択された非機能化グラフェン材料である。あるいは、アノード活性材料及び/又はカソード活性材料は、非機能化単壁又は多壁カーボンナノチューブ(CNT)、酸化CNT、フッ化CNT、水酸化CNT、窒化CNT、ホウ素ドープCNT、窒素ドープCNT又はドープCNTである。
【0046】
リチウム源は、リチウム金属(例えば薄い箔状又は粉末状の好ましくは安定化又は表面不動態化体)、リチウム金属合金、リチウム金属又はリチウム合金とリチウムインターカレーション化合物との混合物、リチウム処理化合物、リチウム処理二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、Li
4Ti
5O
12、又はこれらの組み合わせから選択してもよい。リチウムインターカレーション化合物又はリチウム処理化合物は下記の材料群から選択してもよい。具体的には、リチウムインターカレーション化合物又はリチウム処理化合物は、以下の材料群から選択してもよい。
(a)リチウム処理シリコン(Si)、リチウム処理ゲルマニウム(Ge)、リチウム処理スズ(Sn)、リチウム処理鉛(Pb)、リチウム処理アンチモン(Sb)、リチウム処理ビスマス(Bi)、リチウム処理亜鉛(Zn)、リチウム処理アルミニウム(Al)、リチウム処理チタニウム(Ti)、リチウム処理コバルト(Co)、リチウム処理ニッケル(Ni)、リチウム処理マンガン(Mn)、リチウム処理カドミウム(Cd)及びこれらの組み合わせ、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd及びこれらの混合物のリチウム処理合金又は金属間化合物、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd及びこれらの混合物のリチウム処理酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物又はアンチモン化物あるいはこれらの組み合わせ、
(d)Snのリチウム処理塩又は水酸化物。
【0047】
電解質は従来のリチウムイオンバッテリ又はリチウム金属バッテリに用いられたいずれの電解質から選択してもよい。電解質は液状電解質又はゲル状電解質であることが好ましい。電荷質はリチウム塩ドープイオン性液体を含んでもよい。バッテリ装置においては、陽極は5μm超、好ましくは50μm超、より好ましくは100μm超の厚さを有することが好ましい。
【0048】
一実施形態においては、SMCにおけるリチウムの少なくとも90%は、装置が充電状態の場合には、アノード活性材料の(リチウムがアノード表面と物理的に接触する)表面上に貯蔵され、装置が放電状態の場合には、カソード活性材料の(リチウムがカソード表面と物理的に接触する)表面上に貯蔵される。
【0049】
SMCは一般的に1.0〜4.5ボルトの範囲で動作するが、この範囲の部分集合(例えば1.5〜4.0ボルト又は2.0〜3.9ボルト等)で動作するよう規定されてもよい。4.5ボルト超又は1.0ボルト未満で動作してもよい(好ましくないが)。有機電解質を特徴とする対称型スーパーコンデンサは、3.0ボルトまで動作することができるが、一般的には0〜2.7ボルトで動作する。これに対して、全く同じ有機電解質を用いたSMCは、一般的に1.5〜4.5ボルトで動作する。これは、SMC及びスーパーコンデンサが異なる機構及び原理で動作する根本的に異なる2つのクラスのエネルギー貯蔵装置であることを示す他の証拠である。
【0050】
SMCの充電及び/又は放電動作はリチウムインターカレーション又は固体状拡散を含まない。例え多層グラフェンプレートレットがアノード又はカソードのいずれかに用いられたとしても、これは通常の場合である。2つのグラフェン面間へのリチウムのインターカレーションは、(リチウム/リチウムイオンに比例して)1.5ボルト未満、好ましくは0.3ボルト未満で生じる。本発明のリチウムイオン交換セルは、1.5〜4.5ボルトの範囲で動作するアノード表面とカソード表面との間のリチウムイオンの往復を含む。
【0051】
全く驚いたことに、SMC装置は、一般的に総電極重量に対して150Wh/kg以上のエネルギー密度及び25Kw/kg以上の出力密度を提供する。より一般的には、バッテリ装置は、300Wh/kg超のエネルギー密度及び20Kw/kg超の出力密度を提供する。多くの場合、バッテリ装置は、400Wh/kg超のエネルギー密度及び10Kw/kg超の出力密度を提供する。最も一般的には、バッテリ装置は、300Wh/kg超のエネルギー密度又は100Kw/kg超の出力密度を提供する。いくつかの場合、出力密度は200Kw/kgよりも顕著に高く、400Kw/kgよりもさらに高く、従来のスーパーコンデンサの出力密度(1〜10Kw/kg)よりも1〜3桁高い。
【0052】
SMCにおいては、陽極は5μm超、好ましくは50μm超、より好ましくは100μm超の厚さを有することが好ましい。
【0053】
本発明は、エネルギー貯蔵装置(SMC)を動作する方法も提供する。この方法は、装置の最初の放電サイクルの間に電解質中にリチウムイオンを放出するために、アノードにリチウム源を提供し、リチウム源をイオン化する工程を備える。また、この方法は、カソード上に放出されたリチウムイオンを電気化学的に誘導し、カソード活性材料により、例えば官能基又はグラフェンと相互作用することにより放出されたリチウムイオンを取り込む工程をさらに備える。さらに、この方法は、装置の再充電サイクルの間にカソード表面からリチウムイオンを放出し、外部バッテリ充電装置を用いてアノード活性材料表面に放出されたリチウムイオンを電気化学的に誘導する工程を含む。
【0054】
あるいは、この方法は、装置の最初の充電サイクルの間に電解質中にリチウムイオンを放出するために、カソードにリチウム源を提供し、リチウム源を操作する工程を備えてもよい。
【0055】
本発明は、(a)アノード、リチウム源、多孔性セパレータ、液状又はゲル状電解質及びカソードを備える表面介在セルを用意する工程と、(b)装置の最初の放電の間にリチウム源からリチウムイオンを放出する工程と、(c)連続する充電又は放電の間に、アノードのリチウム取り込み表面とカソードのリチウム取り込み表面との間でリチウムイオンを交換する工程とを備え、一実施形態においては、アノード及び/又はカソードは機能化され、第2実施形態においては、アノード及び/又はカソードはリチウム取り込み表面を有する非機能化材料である表面媒介エネルギー貯蔵装置の動作方法をさらに提供する。装置の充電及び放電の両方がリチウムインターカレーション又は固体拡散を含まないことが好ましい。
【0056】
本願は、表面媒介エネルギー貯蔵装置の他の動作方法を開示する。この方法は、(a)アノード、リチウム源、多孔性セパレータ、(初期量のリチウムイオンを含む)電解質及びカソードを備える表面介在セルを用意する工程と、(b)装置の最初の放電の間にリチウム源から電解質中にリチウムイオンを放出する工程と、(c)カソードにおいて、電解質からリチウムイオンを取り込み、(100m
2/g超、より好ましくは1000m
2/g超、さらに好ましくは2000m
2/g超の比表面積を有する)カソード表面上に取り込まれたリチウムを貯蔵する工程と、(d)連続する充電又は放電動作の間に、アノードのリチウム取り込み表面とカソードのリチウム取り込み表面との間で(初期量よりも多くの)リチウムイオンを交換する工程とを備え、アノード及びカソードの両方は、電解質と接触するリチウム取り込み表面を有する材料を含み、充電操作は、リチウム浸入を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明は、この開示の一部を形成する添付図を伴う以下の発明の詳細な説明を参照することによってより容易に理解されるであろう。本発明がここに記載及び/又は示された特定の装置、方法、条件またはパラメータに限定されず、ここで用いられた専門用語が実施例のみを通して記載の特別な実施形態を目的とするものであり、請求の発明を限定する意図ではないことは理解されるであろう。
【0070】
本発明は、表面媒介リチウムイオン交換セル(又は単純な表面媒介セルSMC)と呼ばれる電気化学エネルギー貯蔵装置を提供する。多くの実施形態においては、このSMC装置は、従来のスーパーコンデンサの出力密度よりも顕著に高く、従来のリチウムイオンバッテリのものより劇的に高い出力密度を供給する。この装置はバッテリのものに相当し、従来のスーパーコンデンサよりも著しく高いエネルギー密度を示す。
【0071】
表面媒介イオン交換バッテリは、リチウム貯蔵又はリチウム取り込み表面を有する機能化又は非機能化材料(機能化又は非機能化材料は、ナノスケール又はメソスケールの孔及び大きな表面積を有するナノ構造であることが好ましい)を含む陽極と、リチウム貯蔵又はリチウム取り込み表面を有する高表面積材料(好ましくはナノスケール又はメソスケールの孔を有するナノ構造)を含む陰極と、2つの電極間に配置された多孔性セパレータと、2つの電極と物理的に接触するリチウム含有電解質と、アノード又はカソードにおいて供給されるリチウムイオン源とを備える。これらのリチウム取り込み表面は、直接電解質に接触し、そこからリチウムイオンを取り込み又はそこにリチウムイオンを放出する。水性又は固体の電解質を使用することを選択してもよいが、好適な電解質のタイプは、有機液状電解質、ゲル状電解質、イオン性液状電解質(好ましくはリチウムイオンを含む)又はこれらの組み合わせである。
【0072】
リチウムイオン源は、リチウムチップ、リチウム箔、リチウム粉末、表面安定化リチウム粒子、アノード又はカソード活性材料の表面上に塗工されたリチウムフィルム又はこれらの組み合わせから選択される。好適な実施形態においては、アノード活性材料はリチウム前処理あるいはリチウムで前塗工又はメッキ前処理される。リチウム源としては、比較的純粋なリチウム金属のほかに、リチウム金属合金、リチウム金属又はリチウム合金とリチウムインターカレーション化合物との混合物、リチウム処理化合物、リチウム処理二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、Li
4Ti
5O
12、又はこれらの組み合わせから選択してもよい。リチウムインターカレーション化合物又はリチウム処理化合物は下記の材料群から選択してもよい。(a)リチウム処理シリコン(Si)、リチウム処理ゲルマニウム(Ge)、リチウム処理スズ(Sn)、リチウム処理鉛(Pb)、リチウム処理アンチモン(Sb)、リチウム処理ビスマス(Bi)、リチウム処理亜鉛(Zn)、リチウム処理アルミニウム(Al)、リチウム処理チタニウム(Ti)、リチウム処理コバルト(Co)、リチウム処理ニッケル(Ni)、リチウム処理マンガン(Mn)、リチウム処理カドミウム(Cd)及びこれらの組み合わせ;(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd及びこれらの混合物のリチウム処理合金又は金属間化合物;(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd及びこれらの混合物のリチウム処理酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物又はアンチモン化物あるいはこれらの組み合わせ;(d)Snのリチウム処理塩又は水酸化物。
【0073】
電極厚さについては限定はないが、陽極は5μm超、好ましくは50μm超、より好ましくは100μm超の厚さを有することが好適である。このような表面媒介イオン交換バッテリ装置の一例としては、
図1(D)及び
図2に挙げられている。
【0074】
いずれの理論により束縛されることを望まないが、おそらく下記の理論的考察が有用であろう。
【0075】
従来のリチウムイオンバッテリの内部構造を
図1(A)に模式的に示した。バッテリ放電状態においては、リチウムイオンは、グラファイト、シリコン、チタン酸リチウムのようなアノード活性材料(粒径=d
a及び平均固体拡散距離=d
a/2)のバルクから拡散(デインターカレート)し、アノード厚さ(アノード層厚さ=La及び平均拡散距離=La/2)を横切って液状電解質中に移動する。続いて、リチウムイオンは、多孔性セパレータ(厚さ)=Ls)を横切って(液状電解質中に)移動し、球状カソード活性材料粒子(平均拡散距離=Lc/2)に到達するように液状電解質中のカソード厚さ(厚さ=Lc)の一部を横切って拡散し、次いで、粒子(直径=d
c及び必要平均固体拡散距離=d
c/2)のバルク内に拡散(インターカレート)する。再充電状態において、リチウムイオンは逆方向にほぼ同じ距離移動する。
【0076】
言い換えると、従来のリチウムイオンバッテリの操作は、一方の電極(例えば放電中のアノード)における電極活性材料粒子のバルク(表面ではない)からリチウムイオンをインターカレートする工程と、反対の電極(例えばカソード)における電極活性材料粒子のバルク中にリチウムイオンをインターカレートする工程とを備える。一般に、液状電解質中の拡散は速いが、固体中の拡散は劇的に(3〜8桁)遅い。本発明の表面媒介セル(SMC)は、多孔性電極表面間(リチウムイオンバッテリ内のような電極のバルク中ではない)での大量のリチウムイオンの交換に本質的に作用する。この方法は、リチウムのインターカレーション及びデインターカレーションの時間のかかる工程の必要性を完全に除去する。SMCは、本質的にインターカレートすることがなく、リチウムの大部分が電極活性材料粒子の大きな表面積上に貯蔵される。一般的にはリチウム原子の90%超はグラフェン表面上に取り込まれ、より一般的にはリチウムの1%未満は偶然にも多層グラフェン構造の内部に入り込む。(高出力密度で有名な)スーパーコンデンサによってさえも匹敵できないほどの非常に速く、非常に高い出力密度が得られるSMCの充電/放電時間は液状電解質(有機又はイオン性液状)中のリチウムイオンの移動によってのみ限定される。以下にこれをさらに説明する。
【0077】
粒子媒体におけるリチウムイオンの拡散係数がDであり、必要移動距離がxであるとすると、必要拡散時間は、公知の動力学方程式にしたがってt〜x
2/Dと概算される。概算の一次式としては、リチウムイオンの充電又は放電工程を完了するために必要な総時間尺度は、
【数1】
と推定される。なお、D
electrolyte=電解質中のリチウムイオン拡散係数であり、D
a=アノード活性材料粒子中のリチウムイオン拡散係数であり、D
s=多孔性セパレータを通過するリチウムイオン拡散係数であり、D
c=カソード活性材料粒子中のリチウムイオン拡散係数である。
【0078】
様々な液状媒体あるいは固体膜又は粒子中のリチウムイオンの代表的な拡散係数を以下に挙げた(オープン文献データに基づく)。液状電解質(2×10
−6cm
2/s)、セパレータ(7.5×10
−7cm
2/s)、LiFePO
4カソード(10
−13cm
2/s)、Li
3V
2(PO
4)
3カソード(10
−13〜10
−9cm
2/s)、ナノSiアノード(10
−12cm
2/s)、グラファイトアノード(1〜4×10
−10cm
2/s)及びLi4Ti5O12アノード(1.3×10
−11cm
2/s)。これは、LiFePO
4粒子がカソード活性材料として用いられた従来のリチウムイオンバッテリセルにおいては、式(1)における最後の項:(d
c/2)
2/D
cが非常に低い拡散係数に起因する必要な総拡散時間を支配することを示している。実際に、拡散係数の値は、Li
xFePO
4及びLi
1−xFePO
4(xは0.02未満)固溶体中のリチウム含量又はLiFePO
4/FePO
4相比に応じて10
−10〜10
−16cm
2/sの間で変化する。
【0079】
これに対して、機能化ナノカーボン材料(例えばグラフェン、CNT又は不規則カーボン)のメソ多孔性カソードと、(
図1(C)に概念的に示された)アノードとしてのリチウム金属箔とを備えたスーパーバッテリ(部分的表面媒介セル)においては、リチウムイオンは、固体状カソード粒子中を拡散する必要がなく、そのため、カソードでの低固体状拡散係数(例えばLiFePO
4粒子における10
−13cm
2/s)により限定されない。それどころか、カソード活性材料は多孔性が高いため、高拡散係数(例えば2×10
−6cm
2/s)を有する液状媒体(固体状媒体ではない)を通過して孔内に拡散するリチウムイオンと迅速かつ可逆的に反応するために官能基が存在する孔の内部に電解質が到達することができる。このようなスーパーバッテリにおいては、式(1)における最後の項:(d
c/2)
2/D
cは事実上存在しない。必要な総拡散時間は、電極及びセパレータの厚さにより規定される。上記考察は、電解質中の官能基とリチウムイオンとの間の可逆的な反応が速く、全体の充放電工程が反応制御されないとの前提に基づいている。
【0080】
従来のリチウムイオンコンデンサ(LIC)においては、カソードはナノカーボン材料(例えば活性炭)のメソ多孔性構造であるが、チタン酸リチウム又はグラファイト粒子が(
図1(B)に概念的に示された)アノードを構成する。セル放電状態においては、リチウムイオンは、チタン酸リチウム粒子又はグラファイト粒子から拡散し(遅いデインターカレーションステップ)、アノード厚さを横切って液状電解質中に移動する。続いて、リチウムイオンは、多孔性セパレータを横切って(液状電解質中に)移動し、液状電解質中のカソード厚さの一部を横切って拡散し、ナノ構造カソード活性材料の表面積に近接する位置に到達する。カソードでは固体状拡散の必要がない。全工程はアノードでの固体状拡散によって本質的に規定される。したがって、このLICは、スーパーバッテリ(部分的表面媒介)及びここに開示された完全表面媒介セル(SMC)と比較してより緩慢な動力学工程(低出力密度)を示すであろう。
【0081】
式(1)における様々なパラメータの代表的な値を用いることにより、いくつかの従来のリチウムイオンバッテリタイプ並びにいくつかの従来のスーパーバッテリセル及びLICにおけるバッテリ充電又は放電工程の必要な総リチウム移動時間を我々は得る。第1グループは、グラファイト粒子アノードと、リン酸鉄リチウムカソードとを備えた従来のリチウムイオンバッテリ(Gr/LiFePO
4)である。第2及び第3グループは、それぞれLiFePO
4カソードと、Si粒子又はチタン酸リチウム系アノードとを備えた従来のリチウムイオンバッテリ(ナノ)Si/LiFePO
4及びLi
4Ti
5O
12/LiFePO
4)である。第4グループは、アノードがLi
4Ti
5O
12粒子からなり、カソードがCNT又は活性炭(AC)のような機能化カソードナノ材料であるLIC(Li
4Ti
5O
12/f−CNM)である。第5グループは、アノードがリチウム箔であり、カソードがカーボンナノ材料である部分的表面媒介セル(Li箔/f−CNM)である。これらのデータは下記の表1及び2に示す。
【0084】
いくつかの顕著な結果が表1及び2のデータから得られる。
(1)マイクロサイズグラファイト粒子アノード(グラファイト径=20μm)と、マイクロサイズLiFePO
4カソード(粒径=1μm)とを備えた従来のリチウムイオンバッテリ(上記第1グループ)は、必要なリチウムイオン拡散工程を完了するのに数時間(例えば8.4時間)必要であろう。これは、従来のリチウムイオンバッテリが非常に低い出力密度(一般的に100〜500W/Kg)及び非常に長い再充電時間を示すためである。
(2)この長い拡散時間の問題は、上記第2及び第3グループにおけるように、ナノスケール粒子を用いることにより、部分的に緩和される(例えばアノード及びカソード活性材料粒子が100nmの粒径を有する場合、8分)。
(3)これに対して、カーボンカソード(例えばf−CNT)と、Li
4Ti
5O
12ナノ粒子のアノードを備えたLICにおいては、必要な拡散時間は、カソード厚さ200μmで235秒(4分未満)〜超薄カソード(例えばMITの研究グループのlayre-by-layer法(非特許文献1)により調製された0.3μmLBLf−CNT)で1.96秒の間である。あいにく、このような超薄電極(0.3〜3μm)は非常に限定された利用価値である。
(4)リチウムスーパーバッテリ(部分的表面媒介)においては、電極厚さは支配要因である。例えば、アノードとしてリチウム金属箔を用いた場合(第1タイプ)、総拡散時間は(カソード厚さが0.3μm又は3μmの場合)0.6秒未満と短いが、カソード厚さが200μmの場合103秒(2分未満)まで増加する。
(5)上記結果は、特に電極が超薄である場合、リチウムスーパーバッテリが異常な出力密度を有するであろうことを示している。これは、厚さ0.3μmのLBLf−CNTカソードを備えたリチウムスーパーバッテリにおける出力密度が100Kw/KgであることをMITのLeeらが報告した理由である。しかしながら、有用な電極サイズは、少なくとも厚さ50μm(一般的には100〜300μm)であり、0.3〜3.0μmのカソード厚さを有するセルは非常に限定された実際の利用価値を有する。Leeらにより報告されたLBLf−CNTカソードを備えたリチウムスーパーバッテリにおいて得られた非常に高い出力密度は、超薄カソード厚さ(0.3μm)によるものである。
【0085】
図11に示されたように、(一般的に100〜300μmの電極厚さを有する)我々のグラフェン系表面媒介セルは薄い電極系LBLf−CNTセル(部分的表面媒介)よりも良好に機能する。
【0086】
なお、アノードとしてリチウム箔を含むスーパーバッテリにおける上記計算は、リチウム箔厚さがナノ構造アノードの厚さと入れ替わることを除いては、本発明の表面媒介エネルギー貯蔵装置に良好に適応可能である。ナノ構造アノードが「弾性」又は圧縮性を有することから、リチウム源(リチウム粒子又はリチウム箔のかけら)は付加的なアノード厚さの値を時間計算に追加しないであろう。リチウム箔はナノ構造アノードに対して圧縮されてもよく、また、リチウム粒子はバッテリ装置作製時のナノ構造アノード内に組み込まれていてもよい。最初の放電サイクルの間にリチウム粒子又は箔がイオン化されると、ナノ構造アノード(例えば)NGP又はCNT系マット)がセパレータに接触するように素早く戻るであろう。
【0087】
なお、アノードがリチウム箔であるリチウムスーパーバッテリ(Li箔/f−CNM)においては、アノード粒子がなく、そのため、粒径がない(上記計算においてはd
aはゼロとする)。最初の放電の間に、リチウム箔は電気化学的にイオン化され、イオンを放出する。上記計算においては、この表面制御反応は早く、律速ではないとみなされる。実際に、高放電速度が要求される場合(すなわち外部回路又は負荷が高電流密を要求する場合)には、この表面反応は律速となる。この限定は表面イオン化速度によっては制御されないが、最初の放電サイクルの間に、リチウム箔の限定された表面積によって制御される。言い換えると、最初の放電サイクルの間の所定の時間において、リチウムイオンが同時に放出されるような表面積を有する。
【0088】
再充電サイクルの間に、リチウムイオンがカソードからアノード側へ移動し、スーパーバッテリ(部分的表面媒介セル)のアノードで利用可能な表面であるアノード集電体(例えば銅箔)の表面上に再析出する。再充電の間に大量のリチウムイオンの流入を調節するための集電体(例えば銅箔)単独の使用には2つの問題点がある。
(1)再充電速度が速い(高回路電流密度を有する)場合、アノード側に迅速に移動する大量のリチウムイオンが、一般に非常に低い表面積(一般に銅箔の比表面積は1m
2/g以下である)を有する集電体の表面上に全て同時に析出しようとする。この限定された表面積は析出の律速になる。
(2)再充電速度が遅い(低電流密度を有する)場合、リチウムイオンが引き返し、集電体表面上への析出が不均一になる。ある程度有利なスポットは析出されたリチウム原子をより速く受け入れ、これらのスポットは高速で析出し続ける。このような不均一なリチウム析出は、アノードにおいて、サイクル数の増加に伴ってより長く成長する樹枝状結晶の形成をもたらし、最終的にはセパレータを通過してカソード側に到達し、内部短絡を引き起こす。この可能性は、1980年代後半にリチウム金属バッテリ産業を悩ませた問題と類似の問題を引き起こし、最終的には1990年代前半に実質的に全てのリチウム金属セルの製造を終了させるに至った。
【0089】
これら2つの問題は、アノード集電体と多孔性セパレータとの間にナノ構造アノードを設けることにより解決される。このナノ構造アノードは、ナノグラフェンプレートレット(NGP、グラフェンの単層及び多層に関する集合、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、ドープグラフェン等)、カーボンナノチューブ(単壁又は多壁)、カーボンナノファイバ(気相法、エレクトロンスピニング重合体誘導等)不規則カーボン、金属ナノワイヤ、伝導性ナノワイヤ等のような高比表面積(好ましくは100m
2/g超)を有するナノカーボン材料からなることが好ましい。ナノ構造アノードは、100m
2/g超、好ましくは500m
2/g超、より好ましくは1000m
2/g超、さらに好ましくは1500m
2/g超、最高に好ましくは2000m
2/g超の比表面積を有することが好適である。これらの表面は電解質(好ましくは有機液状電化質)に直接接触し、そこからリチウムイオンを直接取り込み、そこにリチウムイオンを直接放出することが好ましい。
【0090】
ナノ構造アノードの設置は、表面媒介リチウムイオン交換エネルギー貯蔵装置の出力密度(Kw/Kg)のみならず、エネルギー密度(Wh/Kg)も顕著に増大させる。理論により限定されることを望むのではなく、この新規に設けられたナノ構造アノードが少なくとも以下の3つの役割を果たすと我々は考えている。
(1)再充電サイクルの間に、このナノ構造アノードの広い表面積は、高電流密度状態(高充電率)において同時に大量のリチウムイオンを迅速に析出する。これは、エネルギー貯蔵装置を数秒で又は数分の1秒で再充電することができる。
(2)本発明の新たに作製された表面媒介エネルギー貯蔵装置の最初の放電操作の間に、リチウム箔又はリチウム粒子がアノードでイオン化されて放出され、カソード側に移動し、カソードのグラフェン表面によって取り込まれる。再充電によって、これらのリチウムイオンがアノードに戻り、ナノ構造アノードの広い表面上で均一に析出し、リチウムの超薄塗膜を形成する。このようなリチウム修飾表面の非常に広い表面積は、その後の放電サイクルの間に、同時に大量のリチウムイオンを放出する。この同時の大量のリチウムイオンの放出は、比表面積が通常1m
2/g未満のアノード集電体を備えたバッテリ中では実現不可能であった。ナノ構造アノードの高比表面積(100m
2/g以上)は、迅速な充電及び放電を可能とし、高出力密度を達成する。
(3)集電体に電子的に接続されたナノ構造アノードは、戻ってきたリチウムイオンがナノ材料(例えばグラフェン)の表面により均質に析出できるように、アノード空間に均一な電界を提供する。この目的のために広い表面積が利用可能であるため、樹枝状結晶の成長には不十分な極めて少量のリチウムのみをいずれか1つのスポット上に析出させる。本発明の表面制御エネルギー貯蔵装置がより安全なエネルギー貯蔵装置であることをこれらの根拠が示している。
【0091】
表面媒介リチウムイオン交換バッテリ装置は、以下の態様の従来のスーパーコンデンサと明確に異なっている。
(1)従来又は以前のスーパーコンデンサは、セル製造の際にアノードにおいて設けられるリチウムイオン源を有していない。
(2)これらの従来のスーパーコンデンサに用いられる電解質は、ほとんどリチウムを含んでおらず又は非リチウム系である。スーパーコンデンサの電解質中にリチウム塩が用いられる場合でさえも、溶媒中のリチウム塩の溶解度は、(
図3(B)に示されたように電極材料表面上ではなく近傍)電解質相内部の電荷の電気二重層の形成に関係するリチウムイオン量の上限を実質的に設定する。結果として、得られたスーパーコンデンサの比容量及びエネルギー密度は、例えば本発明の表面媒介セルの160Wh/kg(セル総重量に基づいて)に対して比較的低い(例えば一般的にセル総重量に基づいて6Wh/kg未満)。
(3)従来のスーパーコンデンサは、電荷を貯蔵するために電気二重層(EDL)機構又は擬似容量機構のいずれかに基づく。両機構においては、(電解質中にリチウム塩が用いられた際でさえ)2つの電極間で大量のリチウムイオンが交換されない。例えば、EDL機構においては、電極活性材料の表面近傍(表面上ではなく)の電荷の電気二重層を形成するために、電解質中のカチオン及びアニオンを対とする。カチオンは電極活性材料内又は表面上で取り込まれ又は貯蔵されない。これに対し、本発明の表面媒介セルにおける電極活性剤材料の一例であるグラフェンを用いた場合においては、欠損部位、グラフェン端部、グラフェン面のベンゼン環中心又はグラフェン表面上の官能基でリチウム原子が取り込まれ又は閉じ込められる。
(4)EDLにおいては、スーパーコンデンサが充電状態である場合には、両カチオン及びアニオンは両アノード及びカソード内で共存する。例えば、対称型スーパーコンデンサの2つの電極の一方においては、これら表面近傍に正電荷の一層を形成するために正電荷種を引き付ける活性炭粒子の表面上に負電荷が存在する。しかしながら、同様に、近くには、負電荷の一層を形成するためにこれら正電荷により引き付けられた負電荷種がある。スーパーコンデンサの反対の電極は同様に配置されるが、電荷は反対の極性である。これは電気化学におけるHelmholtzの拡散電荷層の公知概念である。スーパーコンデンサが放電した場合には、活性炭粒子表面上の電荷が使用され又は消滅し、その結果、塩の負電荷種及び正電荷種がランダム化され、(活性炭粒子表面ではなく)電解質相内部に留まる。これに対して、SMCが充電状態である場合には、大部分のリチウムイオンが引き付けられ、アノードのグラフェン表面上に付着又は電気メッキされ、カソード側には実質的にいずれのリチウムもなくなる。放電後、電解質内部にリチウムを留めることなく又は僅かに留めて、実質的に全てのリチウム原子は、カソード活性材料表面により取り込まれる。
(5)リチウム塩系有機電解質を用いた従来の対称型スーパーコンデンサ(EDLスーパーコンデンサ)は0〜3ボルトの範囲でのみ動作する。これらは3ボルト超では動作できず、3ボルトを超える付加的な電荷貯蔵能はなく、実際に有機電解質は一般的に2.7ボルトで絶縁破壊し始める。これに対して、本発明の表面媒介セルは、一般的に1.0〜4.5ボルトの範囲で、より一般的には1.5〜4.5ボルトの範囲(例えば
図9参照)で動作するが、好ましくは1.5〜4.0ボルトの範囲である。これら2つの動作電圧の範囲は全体的に異なる電荷貯蔵機構の影響である。例え、紙面上において、これら2つの電圧範囲間に1.5〜3.0ボルトの重複があるように見えても、電荷貯蔵機構が基本的に異なることから、
図9において2つの非常に異なるサイクルボルタンメトリ(CV)により立証されているように、この重複は人工的、偶然の一致であり、科学的に意味のあるものではない。
(6)従来のEDLスーパーコンデンサは一般的に0〜0.3ボルトの開回路電圧を有する。これに対して、SMCは一般的に0.6ボルト超、好ましくは0.8ボルト超、より好ましくは1.0ボルト超(カソードに対するアノード活性材料のタイプ及び量、リチウム源の量に応じて、いくつかは1.2ボルト超又はより高くは1.5ボルト超)の範囲の開回路電圧を有する。
(7)
図10(A)及び(B)のラゴーンプロットは、本発明の表面媒介セルがスーパーコンデンサ及びリチウムイオンバッテリの両方と異なるエネルギー貯蔵セルのクラスであることを正確に示している。
(8)
図11は、いくつかのSMC:セルN(グラフェン系)、セルAC(活性炭)及びセルM(人工グラファイト由来の剥離グラファイト)のサイクル性能を示す。この結果は、SMCのいくつかが多くの充電/放電サイクル後(いくつかの微少な初期劣化後)の容量の連続増加を示し、さらに、スーパーコンデンサ又はリチウムイオンバッテリのいずれとも異なるSMCの特異性を示す。
【0092】
電荷貯蔵機構及びエネルギー密度の考察
理論により限定されることを望むのではなく、リチウムイオン交換表面媒介セル(SMC)における電極の比容量は、その中又はその上にリチウムイオンを取り込めるナノ構造カーボン材料のグラフェン表面上活性部位の数によって決定されるように思われる。前述したように、ナノ構造カーボン材料は、活性炭(AC)、カーボンブラック(CB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、剥離グラファイト(EG)、天然グラファイト又は人工グラファイト由来の単離グラフェンシート(ナノグラフェンプレートレット又はNGP)から選択してもよい。これらのカーボン材料は、共通の構成要素グラフェン又はグラフェン様芳香族環構造を有する。上述したように4つの可能なリチウム貯蔵機構があると我々は考えている。
機構1:グラフェン面におけるベンゼン環の幾何学中心がリチウム原子をそこに取り込む活性部位である。
機構2:グラフェンシート上の欠損部位がリチウムイオンを閉じ込めることができる。
機構3:液状電解質中のカチオン(Li
+)及びアニオン(リチウム塩由来)が電極材料表面近傍で電荷の電気二重層を形成することができる。
機構4:グラフェン表面/端部上の官能基がリチウムイオンと酸化還元対を形成することができる。
【0093】
表面結合機構(機構1):リチウム原子は、リチウムを取り合う電解質が存在しない場合に、グラフェン面上の炭素原子と安定的な相互作用を形成することができる。このような(官能基を有していない)層中のLi−C結合は、炭素軌道のsp
2からsp
3への変換を生じないであろう。エネルギー計算は、このような電解質が存在しない(グラフェン面のベンゼン環中心に結合されたリチウム原子を有する)リチウム原子吸収グラフェン層の可能な安定性を示している。驚いたことに、リチウム吸収グラフェン層(
図3(D))が電解質の存在下で自発的に形成されることを我々は観測した。リチウムイオンが電解質中の他の構成要素と良好な化学的親和性を有し(これは当然電解質中に存在しているため)、グラフェン表面により「力づくで奪う」のではなく、これらの構成要素(例えば溶媒)が溶媒相中のリチウムイオンを保持しようとしてグラフェン表面と競合するであろうことから、これは予期されなかった。リチウム原子とグラフェン表面との結合は驚くほどに強い。
【0094】
欠損部位でのリチウムイオン閉じ込め(機構2):炭素質材料における端部及び空孔(例えば
図3(D))のような活性欠損は、付加的なリチウムを収容することができる。NGPには、グラフェン製造に通常用いられる酸化還元工程により不可避的に引き起こされるこれらの欠損又は不規則部位が多数存在する。
【0095】
電気二重層(EDL)(機構3):SMC電解質は、一般的に溶媒中に溶解されたリチウム塩を含む。電荷質塩は、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)等から選択することができる。原則的には、
図3(B)に示されたように、いくつかの電気二重層(EDL)はカチオン(例えばLi
+)及びカウンターイオン(例えばPF
6−及びBF
4−アニオン)により概念的に形成され、SMCセルのエネルギー貯蔵容量に貢献するこのEDLは溶媒中の電解質塩濃度により決定される。
【0096】
十分量の電極表面積を得るための電荷貯蔵容量全体に対する機構3の最大限の貢献はカチオン又はアニオンの濃度により規定される。EDL機構は、以下に説明されたSMCの総リチウムイオン貯蔵容量の一般的におおよそ10%未満(より一般的に5%未満)に貢献する。我々は、2つの別々のグラフェン又は他のナノ構造電極(別々の組成を有するアノード及びカソード)をそれぞれ備え、アノードがリチウム源であるリチウム金属箔/粉末を有しておらず、リチウム化されていない、いくつかの対称型スーパーコンデンサを用意し、試験した。例えば、グラフェン系スーパーコンデンサ及び対応SMCのCV線図を
図9に示した。両セルにおいて、電解質は1MのLiPF
6/EC+DMCであり、スキャン速度は25mV/sである。この有機電解質は、対称型スーパーコンデンサ構成においては0〜2.7ボルト未満でのみ動作し、SMC構成においては1.5〜4.5ボルトで動作することは興味深いことである。4.0ボルトまで(一般的には3.5ボルト未満、より一般的には3.0ボルト以下)動作できるスーパーコンデンサにおける(有機溶媒に基づく)有機電解質はないことから、これは最も驚くべきことである。有機電解質は、水又はイオン性液体に基づかないが、有機溶媒を含む電解質として定義される。1.5〜2.7ボルトの重複電圧範囲を示す容量は、SMCの総容量の5%未満をカバーする。実際、SMCの動作は、1.5〜2.7ボルトの電圧範囲内でさえ、主に表面取り込みを介してであり、電気二重層形成ではない。
【0097】
酸化還元対の形成(機構4):表面酸化還元反応は、
図3(A)に示されたようなカルボニル基(>C=O)やカルボキシル基(−COOH)のような官能基(もしあるなら)とリチウムイオンとの間で生じる。化学的に調製された酸化グラフェンにおける−COOH及び>C=Oのような官能基の存在は、よく文書化されている。これらの官能基の形成は、硫酸及び強酸化剤(例えば酸化グラフェンの調製に通常用いられる量産及び過マンガン酸カリウム)によりグラファイトの酸化反応の自然の結果である。未分離グラファイトウォーム(剥離グラファイト)及び分離グラフェンシート(NGP)は表面又は端部形成官能基を有する。一実施形態においては、本願におけるSMCは主に機構1及び2に基づく。
【0098】
一般に、電気二重層機構は、SMCの電荷貯蔵容量の10%未満(主として5%未満)に貢献する。アノード又はカソードのいずれかが多層グラフェンプレートレットである場合には、SMCの動作電圧が1.5ボルト以下になるとき、活性材料のバルクにリチウムがインターカレートする。この場合でさえ、装置が充電状態である時にリチウムの20%以下がアノード活性材料のバルク内に貯蔵され、装置が放電状態である時にリチウムの20%以下がカソード活性材料のバルク内に貯蔵される。一般的には、装置が充電状態である時にリチウムの10%以下がアノード活性材料のバルク内に貯蔵され、装置が放電状態である時にリチウムの10%以下がカソード活性材料のバルク内に貯蔵される。
【0099】
本発明のアノード又はカソードに用いられるナノ構造材料は、ナノグラフェンプレートレット(NGP)、カーボンナノチューブ(CNT)又は不規則カーボンを含むことが好ましい。これらのナノ構造カーボン材料は、有用な官能基(例えばカルボニル基)を有するが、電導性ではない他の有機又は重合性機能的材料用の支持基材として用いられる。CNTはナノ材料産業においてよく知られた材料であり、ここではさらなる議論はしないであろう。以下に、NGP及びナノ構造不規則カーボンについて記載する。
【0100】
ナノグラフェンプレートレット(NGP)
出願人の研究グループは、スーパーコンデンサ用グラフェンの使用(特許文献3)及びリチウムイオンバッテリ用グラフェンの使用(特許文献4)を含む単層グラフェンの応用(特許文献5)について活発に開発している。
【0101】
単層グラフェン又はグラフェン面(六角形又はハニカム構造を形成する炭素原子の層)は、天然グラファイト、人工グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン、コークス、活性炭、カーボンブラック等を含む一連のグラファイト材料の共通の構造単位である。これらのグラファイト材料においては、一般的に、多層グラフェンシートはグラフェンの厚さ方向に沿って積み重ねられ、規則的なドメイン又はグラフェン面の結晶を形成する。ドメインの多層結晶は不規則又は非結晶炭素種と結合する。本願においては、不規則炭素種から多層グラフェンプレートレットを得るために、我々はこれらの結晶又はドメインを抽出又は単離することができる。ある場合には、我々は単離単層グラフェンシート内のこれらの多層グラフェンプレートレットを剥離及び分離する。他の場合(例えば活性炭、ハードカーボン及びソフトカーボンにおいて)には、ゲートを広げ、液状電解質を内部に入れる(グラフェン表面を電解質に曝す)ために、我々はいくつかの不規則炭素種を化学的に除去した。
【0102】
本願においては、ナノグラフェンプレートレット(NGP)又は「グラフェン材料」は、全体として、グラフェン、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、水酸化グラフェン、窒化グラフェン、ドープグラフェン等の単層及び多層態様を意味する。
【0103】
NGPの幾何学の定義のために、NGPは、長さ(最大寸法)、幅(二番目の寸法)及び厚さを有するものとして記載される。厚さは最小寸法であり、本願においては10nm以下(好ましくは5nm以下)である。NGPは単層グラフェンであってもよい。プレートレットがほぼ円形状である場合、長さ及び幅は直径と呼ばれる。ここで定義されたNGPにおいては、長さ及び幅に限定はないが、好ましくは10μmより小さく、より好ましくは1μmより小さい。100nmより小さい又は10μmより大きい長さを有するNGPを我々は製造できる。NGPは(酸素含有量実質的0%、一般的に2%未満の)純粋なグラフェン又は(酸素含有量一般的に10〜ほぼ45重量%までの)酸化グラフェンである。酸化グラフェンは、熱的又は化学的に還元され、(一般的に酸素含有量1〜20重量%、より好ましくは5重量%未満の)還元酸化グラフェンになる。我々の先願に開示されたリチウムスーパーバッテリ及び機能的材料系表面制御セルのアノード及び/又はカソードの使用においては、酸素含有量は5〜30重量%の範囲であることが好ましく、10〜30重量%の範囲であることがより好ましい。しかしながら、本願においては、SMC電極は、一般的に酸素含有量が5重量%未満(したがって、実質的に官能基を有さない)であり、多くの場合2%未満である。液状電解質に接触可能な比表面積は、SMCのエネルギー密度及び出力密度を規定する単一の最重要パラメータである。
【0104】
個々のグラフェンシートが例外的に高比表面積を有することにもかかわらず、従来の経路により調製された平面状グラフェンシートは再び重なり合い又は重複する傾向が大きく、これにより、電解質により接触可能な比表面積が劇的に低減される。
図5(A)は湾曲グラフェンプレートレット又はシートと呼ばれたグラフェンを示す。湾曲NGPは、重なり合って電極を形成する際に、所望の孔サイズ範囲(例えば僅かに2nm超)を有するメソ多孔性構造を形成することができる。このサイズ範囲は、通常用いられるリチウム含有電解質により接触可能となる伝導性であるように思われる。
【0105】
湾曲NGPは以下の工程により製造される。
(a)グラファイトインターカレーション化合物(GIC)又は酸化グラファイト(GO)を得るために、インターカレント及び酸化体(例えばそれぞれ濃硫酸及び硝酸)の混合物中に積層グラファイト材料(例えば天然グラファイト粉末)を分散又は浸漬する工程。
(b)(インターカレーション/酸化工程が十分長い持続時間例えば24時間超で行われた場合、厚さ100nm未満の酸化NGPがこのステージで形成される)剥離グラファイト又はグラファイトウォームを得るために、得られたGIC又はGOを、好ましくは600〜1100℃の温度範囲で短時間(一般的には15〜60秒)熱ショックに曝す工程。
(c)懸濁液を形成するために、剥離グラファイトを任意に機能化剤を含む液状媒体(例えば硫酸、硝酸、過酸化水素、又は、好ましくは−COOH基の源であるカルボン酸、ギ酸等)に分散する工程。拡散、機械的剪断、超音波処理及び又は温度がグラファイトウォームを分解するために用いられる。グラフェン液状懸濁液を得るために、分離/単離NGPを形成し、及び/又は、酸化NGPに所望の官能基を取り付け、機能化NGPを形成する。
(d)湾曲NGPを回復するために、同時に液体を除去しつつ、任意に化学的機能化単一又は多数のNGPを含む液滴にグラフェン懸濁液をエアロゾル化する工程。エアロゾル化工程を備えない場合には、得られたグラフェンプレートレットは平面状となる傾向がある。
【0106】
(a)工程から(b)工程は、この分野において剥離グラファイト(
図5(B))及び酸化グラフェンプレートレットを得るための最も普通に用いられる工程である。酸化NGP又はGOプレートレットは、化学的機能化の前、最中又は後に、伝導性を回復するために、還元剤としてヒドラジンを用いて化学的に還元される。
【0107】
一実施形態においては、環境に配慮したカルボン酸は、NGPにカルボニル基又はカルボキシル基を付与するための特に望ましい機能化剤である。カルボン酸は、芳香族カルボン酸、脂肪族又は環状脂肪族カルボン酸、直鎖又は側鎖カルボン酸、飽和及び不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸及び炭素数1〜10のポリカルボン酸、これらのアルカリエステル及びこれらの組み合わせからなる一群から選択することができる。好ましくは、カルボン酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸を含む化学式H(CH
2)
nCOOH(n=0〜5)の飽和脂肪族カルボン酸、これらの無水物、これらの反応性カルボン酸誘導体、これらの組み合わせからなる一群から選択される。最も好ましいカルボン酸はギ酸及び酢酸である。
【0108】
NGPは以下の処理を機能化操作の前又は後に分離して又は組み合わせて施してもよい。
(i)異なる官能基による化学的機能化。他の有用な表面官能基はキノン、ハイドロキノン、4級化芳香族アミン又はメルカプタンを含む。
(ii)所望の官能基(例えばカルボニル基)を含む重合体による塗工又はグラフト化。
(iii)付加的表面を形成し、これらの表面に官能化学基を付与するための、(カーボンブラック材料の活性化に類似の)活性化処理。活性化処理は、CO
2物理的活性化、KOH化学的活性化、又は、硝酸、フッ素又はアンモニアプラズマへの暴露を通して達成される。
【0109】
上述の工程は、酸化グラフェンプレートレット又は酸化NGPを製造する。これらの工程に含まれた重い酸化ステップは、NGPの端部表面及び基底面表面(上面及び底面)の両面に酸素含有基を本質的に取り入れる。これは良いことでもあり、悪いことでもある。一方では、我々はリチウム取り込み性能を最大化する可能な限り多くの官能基を作製したい。しかしながら、他方では、基底又はグラフェン面上の官能基はその面に損傷を与え、NGPの伝導性全体を著しく低下する。上記(c)工程を備えない、この様式の官能基の形成は、良好に制御された工程ではない。
【0110】
さらに制御された様式でNGPに官能基を付与する方法は、従来の化学的インターカレーション/酸化工程を通して行うことなく、純粋なNGPを製造する工程を含む。(より化学的活性である端部表面を本質的に備える)製造された非酸化グラフェンは、制御された酸化又は制御された機能化を実施する。官能基は、まず端部表面に取り付けられ、顕著な量の官能基が基底面に取り付け始める前に、端部表面で活性部位を本質的に使い果たす。
【0111】
2007年に、界面活性剤−水懸濁液中に分散されたグラファイト粒子から純粋なナノグラフェンを直接製造する直接超音波処理方法を我々は報告した(特許文献6)。この方法は、アセトン又はヘキサンのような低表面張力液体中の天然グラファイト粒子の分散を伴う。得られた懸濁液は、一粒子に対して一秒につき20000グラフェンシートを剥離する速度でグラフェンを製造する直接超音波処理を10〜120分間施す。グラファイトは、インターカレート又は酸化されることがなく、これにより、その後の化学的還元が要求されない。この方法は速く、環境に配慮され、容易にスケールアップされ、純粋なナノグラフェン材料の大量生産を実現する。同じ方法は後に他者により研究され、通常の「液相製造」と呼ばれる。純粋なグラフェンが製造される場合、材料は例えば気相又は液状酸又は酸混合物を用いて酸化又は機能化処理に曝される。純粋なNGPは、所望のレベルで機能化されたNGPを得るために、所望の温度及び所望の時間でカルボン酸中に浸漬される。
【0112】
具体的には、酸化処理は、好ましくはオゾン、スルホン酸(SO
3)蒸気、酸素含有ガス、過酸化水素蒸気、硝酸蒸気、これらの組み合わせから選択された酸化剤に純粋なNGP材料を施す工程を含む。好ましくは、この処理は、水素含有環境中において純粋なNGP材料を酸化剤に施す工程を含む。酸化処理は液状酸及び/又は酸化剤環境中にNGPを浸漬することにより行われるが、このような工程はその後の水洗及び精製ステップを必要とする(このような洗浄工程は従来の硫酸−インターカレーショングラファイトの場合に要求されるほど退屈ではない)。したがって、洗浄の後処理を必要としない気体処理は好ましい。
【0113】
伝導性機能化NGPは、酸素含有量25重量%以下、好ましくは5〜25重量%で製造される。電気伝導性が顕著に低減することから、おそらく官能基の大多数はNGPの端部表面に配置される。全酸素含有量が25%超の場合、官能基はグラフェン面上に現れ始め、電子伝導経路を中断する。酸素含有量は、化学的要素分析及びX線光電子顕微鏡(XPS)を用いて測定された。
【0114】
部分的酸化NGPは、部分的酸化NGPを反応物質と接触させてナノグラフェンプレートレットの表面又は端部に官能基を追加する追加ステップを実施することによりさらに機能化される。官能基は、アルキル又はアリルシラン、アルキル又はアラルキル基、水酸基、アミン基、フルオロカーボン、これらの組み合わせを含む。
【0115】
NGPは、部分酸化処理後、反応性グラフェン表面(RGS)又は反応性グラフェン端部(REG)を有する。これらは下記反応を実施するように記載される。
(a)RGS/RGE+CH
2=CHCOOX(1000℃で)→グラフェン−R’COH(X=−OH、−Cl又は−NH
2)、例えばRGS/RGE+CH
2=CHCOOH→G−R’CO−OH(G=グラフェン)
(b)RGS/RGE+マレイン酸無水物→G−R’(COOH)
2
(c)RGS/RGE+CH
2=CH−CH
2X→G−R’CH
2X(X=−OH、−ハロゲン又は−NH
2)
(d)RGS/RGE+H
2O→G=O(キノイド系)
(e)RGS/RGE+CH
2=CHCHO→G−R’CHO(アルデヒド系)
【0116】
上記反応においては、R’は炭化水素ラジカル(アルキル、シクロアルキル等)である。純粋なNGPの部分酸化は、カルボン酸及び水酸基を含むいくつかの官能基のグラフェン面の表面又は端部上への取り付けにより誘導される。多くの誘導体がカルボン酸から調製される。例えば、アルコール又はアミンは容易に酸と連結し、安定なエステル又はアミドを提供する。グラフェン端部又は基底面表面にカルボニル基(>C=O)又はアミン基(−NH
2)を取り付けるいずれかの反応は本発明の実行に用いられる。
【0117】
ナノ構造不規則カーボン
不規則カーボン材料は、ソフトカーボン、ハードカーボン、重合性カーボン(又は炭化樹脂)、メソフェーズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭、部分グラファイト化カーボンのような一連の炭素質材料から選択される。
図3(A)及び(B)に概略的に示されたように、不規則カーボン材料は一般的に2つの相からなる。第1相は小さなグラファイト結晶又はグラファイト面の小さなスタック(一般的に小さな規則ドメインを形成するために重複された10グラファイト面又は10芳香族環構造まで)であり、第2相は非結晶カーボンであり、第1相は第2相中に分散され又は第2相により結合される。第2相は主として小さな分子、小さな芳香族環、欠損、非結晶カーボンからなる。任意の所望の官能基(例えば
図3(B)における−COOH及びNH
2基)は芳香族環構造の端部又は平表面に取り付けられる。一般的に、不規則カーボンは高多孔性(例えば活性炭)又はナノスケール態様(それゆえに高比表面積)を有する超微粉末形状(例えばカーボンブラック)で存在する。
【0118】
ソフトカーボンは小さなグラファイト結晶からなる炭素質材料であり、これらのグラファイト結晶又はグラフェンシートのスタックの方向は、高温熱処理(グラファイト化)を用いる隣接するグラフェンシートのさらなる結合又はこれらのグラファイト結晶又はグラフェンスタックのさらなる成長(
図4(A))に役に立つ。したがって、ソフトカーボンはグラファイト化し得ると言える。
【0119】
ハードカーボン(
図4(B))は小さなグラファイト結晶からなる炭素質材料であり、これらグラファイト結晶又はグラフェンシートのスタックは好ましい方向に向いておらず(例えば互いにほぼ垂直)、それゆえに、隣接グラフェンシートのさらなる結合又はこれらグラファイト結晶又はグラフェンスタックのさらなる成長(に役立たないすなわちグラファイト化し得ない)。
【0120】
図4(C)に概略的に示されたように、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)及び活性炭(AC)は一般的に芳香族環又は小さなグラフェンシートのドメインからなり、芳香族環又は隣接ドメインのグラフェンシートは不規則相(マトリクス)中のいくつかの化学結合を通してどうにかして連結される。これらのカーボン材料は、通常炭化水素ガス又は溶液あるいは天然物(木材、ヤシ殻等)の熱分解(熱処理、熱分解又は焼成)から得られる。
【0121】
ポリマー又は石油/石炭タールピッチ材料の簡単な熱分解による重合性カーボンの調製は約30年間公知である。ポリアクリルニトリル(PAN)、レーヨン、セルロース及びフェノールホルムアルデヒドのようなポリマーが不活性雰囲気中約300℃で加熱されると、次第に非カーボン含有量のほとんどを失う。得られる構造は一般に重合性カーボンと呼ばれる。重合性カーボンは、熱処理温度(HTT)及び時間に依存して、約12桁をカバーする電気伝導性範囲を有する絶縁化、半導体化又は伝導体化される。この伝導性値の広い範囲は、電子供与体又は受容体に重合性カーボンをドープすることによりさらに拡張される。これらの独特な特徴は、重合性カーボンを、新規で加工の容易な、構造及び物理的特性が容易に調整できる電子受容材料とみなす。
【0122】
重合性カーボンは本質的に非結晶構造であると仮定され、又は、非結晶カーボンマトリクス中に分散された多くのグラファイト結晶又はグラフェン面のスタックを有する。用いられるHTTに依存して、様々な比率及びサイズのグラファイト結晶及び欠損が非結晶マトリクス中に分散される。様々な量の二次元圧縮芳香族環又は六角形(グラフェン面前駆体)はPANファイバのような熱処理ポリマーのミクロ構造内部で見られる。感知可能な量の小さなグラフェンシートは300〜1000℃で処理されたPAN系重合性カーボン内に存在すると考えられる。これらの種は、高いHTT(例えば1500℃超)又は長い熱処理時間で、幅広い芳香族環構造(大きなグラフェンシート)及び厚い平面(積み重ねられたグラフェンシート)に圧縮される。これらのグラフェンプレートレット又はグラフェンシート(基底面)のスタックは非結晶カーボンマトリクス中に分散される。このような二相構造はいくつかの不規則カーボン材料の特徴である。
【0123】
本願の不規則カーボン材料には数クラスの前駆体材料がある。例えば第1クラスはファイバ形状の半結晶性PANを含む。フェノール樹脂と比較すると、熱分解PANファイバは不規則カーボンマトリクス中に分散された小さな結晶を成長させる高い傾向を有する。フェノールホルムアルデヒドに代表される第2クラスはより等方性で本質的な非結晶及び高い架橋ポリマーである。第3クラスはバルク又はファイバ形状の石油及び石炭タールピッチ材料を含む。前駆体材料組成、熱処理温度(HTT)及び熱処理時間(Htt)は、長さ、幅、厚さ(グラファイト結晶中グラフェン面の数)及び得られた不規則カーボン材料の化学的組成を制御する3つのパラメータである。
【0124】
本研究においては、様々なナノ結晶グラファイト構造(グラファイト結晶)を有する重合性カーボンを得るために、PANファイバに対して、張力下で200〜350℃の酸化を行い、続いて350〜1500℃の部分的又は完全な炭化を行った。材料を部分的にグラファイト化し、所望の量の非結晶カーボン(10%以上)を維持するために、これらの重合性カーボンの選択された試料を1500〜2000℃の温度範囲でさらに熱処理した。フェノールホルムアルデヒド樹脂並びに石油及び石炭タールピッチ材料に対して、500〜1500℃の温度範囲で同様の熱処理を行った。PANファイバ又はフェノール樹脂から得られた不規則カーボン材料は、(例えば900℃で溶解されたKOH中で1〜5時間処理された)活性炭を製造するために通常用いられる工程を用いて活性化を行うことが好ましい。この活性化処理は、液状電解質をSMC装置を構成する芳香族環の端部又は表面に到達させる不規則カーボンメソ多孔質を形成させるものである。このような装置は、固体状拡散を行うことなく溶液中のリチウムイオンをグラフェン表面上に容易に配置させる。
【0125】
あるグレードの石油ピッチ又は石炭タールピッチは、液状結晶タイプの、通常メソフェーズと呼ばれる光学的異方性構造を得るために、熱処理(一般的に250〜500℃)してもよい。このメソフェーズ材料は、メソフェーズ粒子又は球体を製造するために、混合物の液状成分から抽出することができる。任意に、これらのメソフェーズ粒子又は球体は、グラファイト化の熱処理をさらに行ってもよい。
【0126】
物理的又は化学的活性化は、活性化不規則カーボンを得るために、全ての種類の不規則カーボン(例えばソフトカーボン、ハードカーボン、重合性カーボン又は炭化樹脂、メソフェーズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭、部分グラファイト化カーボン)に行われる。例えば、活性化処理は、酸化、CO
2物理的活性化、KOH又はNaOH化学的活性化、硝酸、フッ素又はアンモニアプラズマへの暴露を通して達成される(機能化ではなく電解質接触可能な孔を形成するため)。
【0127】
ナノ構造不規則カーボンの機能化工程は、NGPに用いられた工程と同様であり、それゆえにここでは繰り返さない。特に、不規則カーボン材料のグラフェン端部又は基底面表面にカルボニル基(>C=O)又はアミン基(−NH
2)を取り付けるいずれの反応も本発明に用いることができる。
【0128】
リチウム反応性官能基含有有機及び重合性機能的材料
多くの有機又は重合性機能的材料は、液状又はゲル状電解質中のリチウムイオンと迅速かつ可逆的に反応する下記の官能基を含んでもよい。例示としては、ポリ(2,5−ハイドロキシ−1,4−ベンゾキノン−3,6−メチレン)、Li
xC
6O
6(x=1〜3)、Li
2(C
6H
2O
4)、Li
2C
8H
4O
4(Liテレフタレート)、Li
2C
6H
4O
4(Liトランス−トランス−ムコネート)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)硫化物ポリマー、PTCDA、1,4,5,8,−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラ無水アントラキノン、テトラ無水−p−ベンゾキノン及びこれらの組み合わせが含まれる。これらの機能的分子、ポリマー又は塩は、それ自体が電極材料として有用とはならない比較的低い電気伝導性を通常有する。例外の1つは硫黄架橋PTCDA(PTCDA硫化物ポリマー)である。
【0129】
これらの非伝導性機能的材料のいくつかは、NGP、CNT、不規則カーボン、ナノワイヤ及びナノファイバのようなナノ構造材料と好適に組み合わされる(例えば化学的結合又は付着)。例えば、グラフェン及び不規則カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン、活性炭、カーボンブラック等)の構成要素の芳香族環は、上記機能的材料上の官能基(例えばテトラ無水−p−ベンゾキノン上の水酸基)と反応し得る官能基をその端部又は表面上に有する。また、これらの有機又は重合性機能的材料は、ナノ構造材料(例えばグラファイト又はナノワイヤ表面)の表面上に単純に支持されてもよい。ナノ構造材料(例えばグラフェン及び不規則カーボン)は、有機又は重合性材料の支持(電気伝導性の付与)だけではなく、リチウムと反応し得る官能基も提供するように、機能化されてもよい。
【0130】
要するに、本発明のSMCのカソード活性材料及び/又はアノード活性材料は、(a)ソフトカーボン、ハードカーボン、重合性カーボン又は炭化樹脂、メソフューズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭又は部分グラファイト化カーボンから選択される多孔性不規則カーボン材料、(b)グラフェンの単層シート又は多層プレートレット、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、水酸化グラフェン、窒化グラフェン、ホウ素ドープグラフェン、窒素トープグラフェン、機能化グラフェン又は還元酸化グラフェンから選択されるグラフェン材料、(c)剥離グラファイト、(d)メソ多孔性カーボン、(e)単壁カーボンナノチューブ又は多壁カーボンナノチューブから選択されるカーボンナノチューブ、(f)カーボンナノファイバ、金属ナノワイヤ、金属酸化物ナノワイヤ又はファイバ、又は、伝導性ポリマーナノファイバ、(g)これらの組み合わせ、から選択してもよい。
【0131】
以下の実施例は本発明の好適な実施形態を説明するために有用であるが、発明の趣旨を限定すると解釈べきではない。
【実施例】
【0132】
<実施例1>
機能化及び非機能化ソフトカーボン(不規則カーボンの1タイプ)、ソフトカーボン系スーパーバッテリ及び表面介在セル
【0133】
非機能化及び機能化ソフトカーボン材料は液体結晶芳香族樹脂から調製した。この樹脂をモルタルとともに粉砕し、窒素雰囲気下900℃で2時間焼成し、グラファイト化カーボン又はソフトカーボンを調製した。得られたソフトカーボンをアルミニウムるつぼ中で少量のKOHタブレット(4倍重量)と混合した。続いて、このKOH含有ソフトカーボンを窒素雰囲気下750℃で2時間加熱した。冷却後、廃液がpH7になるまでアルカリリッチな残留カーボンを温水で洗浄した。得られた材料は活性化された非機能化ソフトカーボンである。
【0134】
上記とは別に、酸化処理として、45℃の90%H
2O
2−10%H
2O溶液中に活性化ソフトカーボンの一部を2時間浸漬した。そして、機能化のために、室温の蟻酸中に得られた部分酸化ソフトカーボンを浸漬した。その後、得られた機能化ソフトカーボンを60℃の真空オーブン中で24時間加熱して乾燥させた。
【0135】
カソードとして機能化ソフトカーボンをまたナノ構造アノード(及び集電材とセパレータ層との間に実装されたリチウム源であるリチウム箔の薄片、試料−1)として機能化ソフトカーボンを用いたコインセルを作製し、試験した。比較用として、機能化なしの対応セル(試料−1b)も調製し、試験した。全てのセルにおけるセパレータとして、一枚の微細孔膜(Celgard 2500)を用いた。上記の2つの電極のそれぞれの集電材は一枚の炭素被覆アルミニウム箔であった。電極の組成は、ソフトカーボン85重量%(並びに、アルミニウム箔上に塗工されたSuper-P5重量%及びPTFEバインダ10重量%)であった。電解質溶液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比3:7の混合物中にLiPF
6を1Mに溶解したものであった。バックグランド電流を低減させるために、最小量の電解質によりセパレータを湿潤状態にした。リチウムセルのサイクルボルタンメトリ及び定電流測定は、Arbin 32-channel supercapacitor-battery testerを用いて室温(ある場合には、−40℃の低温及び60℃の高温で)で行った。
【0136】
参照試料(試料−1−CA)として、アノードに一枚のリチウム箔を備えるが、ナノ構造カーボン層を有しない同様なコインセルを作製し、試験した。これは従来のリチウムスーパーバッテリである。また、機能化ソフトカーボン材料からなり、液体電解質中で使用可能な付加的なリチウム源を含まない両電極を備えた対称型スーパーコンデンサ(試料−1−CB)も作製し、評価した。このデータをLeeらの従来の対称型スーパーコンデンサ(f−LBL−CNT/f−LBL−CNT)のデータと比較した。
【0137】
カソード活性材料である機能化ソフトカーボン系バルク材料(厚さ200μm未満)を含むスーパーバッテリ(試料−1CA)、対応表面制御バッテリセル(試料−1)及び非機能化表面媒介セル(試料−1b)の定電流研究によって、
図6(A)のラゴーンプロット及びサイクル安定性データ(
図6(B))に要約されるような重要なデータが得られる。これらのプロットにより以下の結果が得られる。
(a)機能化及び非機能化表面制御リチウムイオン交換バッテリ装置は、特に比較的高い電流密度(プロット中の高い出力密度データポイント)の対応スーパーバッテリよりも著しく高いエネルギー密度及び電力密度を発揮する。これは、(ナノ構造カソードに加え)ナノ構造アノードの存在によって、再充電及び放電サイクルの間に、高比率のリチウムイオンがそれぞれアノードの広範囲の表面領域上に析出され、この表面領域から放出されることを示している。アノードとして限定された比表面積を有する集電材を備えた従来のスーパーバッテリは、同時に限定された表面積上に析出又は表面積から放出するようにリチウムイオンにより使用するために十分量の表面積を提供することができない。全充電及び放電工程は表面が限定される。
(b)両表面制御リチウムイオン交換バッテリ装置は、リチウム源であるリチウム箔を備えない対応対称型スーパーコンデンサ(試料−1−CB)並びにLeeらの機能化LBL−CNTアノード及び機能化LBL−CNTカソードからなる従来のスーパーコンデンサものよりも高いエネルギー密度及び出力密度を顕著に発揮する。実際、不規則カーボン又はLBL−CNTのいずれかに基づく2つの対称型スーパーコンデンサ(リチウム源を有しない)は、2つの電極の厚さが劇的に異なっていた(不規則カーボン電極の厚さが100μm超であり、LBL−CNT電極の厚さは3.0μm未満である)としても、ほぼ一致したラゴーンプロットを示す。これは、変化の長距離移動を要求されない(特に、アノードとカソードとの間のリチウムイオン交換を要求されない)従来のスーパーコンデンサに伴う局部的表面吸収又は電気二重層機構の顕在化ということであろう。リチウムイオン及びカウンターイオン(アニオン)の量は、溶媒中のリチウム塩の溶解性によって限定される。電極の活性材料表面に取り込み及び貯蔵されるリチウム量は、この溶解性の限界よりも劇的に高い。
(c)上述したように、公知のスーパーコンデンサの出力密度は一般的に5,000〜10,000W/KGであるが、リチウムイオンバッテリのものは100〜500W/kgである。これは、表面媒介リチウムイオン交換セルが、従来のスーパーコンデンサのエネルギー密度より5〜16倍高い最新のバッテリのものに相当するエネルギー密度を有することを意味している。SMCは、従来の電気化学スーパーコンデンサの出力密度よりも著しく高い出力密度(又は充電−放電比率)も発揮する。
(d)非機能化表面に基づくSMCは、エネルギー密度及び出力密度に関して対応機能化表面制御セルよりも著しく良好に機能する。
(e)特に、非機能化表面媒介セルは、機能化材料系セルに比較してより良好なサイクル安定性を発揮する。
図6(B)に示されたように、非機能化表面セルは、2500回の充電/放電サイクル後でさえも高いエネルギー密度を維持する。しかしながら、機能化表面制御セルは充電/放電の繰り返しによってより早い劣化を受ける。
(f)得られたデータからの計算は、従来のスーパーバッテリの放電回数が10A/gの電流密度で19秒であることを示す。これに対し、対応SMCの放電回数が同じ電流密度で5秒未満である。
試料−1及び試料−1−CAのセルは、カソード側(試料−1−CA)並びにカソード及びアノードの両方(試料−1)で芳香族環の表面/端部上の選択された官能基によりリチウムイオンの酸化還元反応を実行する。芳香族環(小さいグラフェンシート)の端部及び平板表面の両方に結合されたこれらの官能基は、リチウムと迅速かつ可逆的に反応する。多くの場合、非機能化表面に基づくSMCはさらに良好に機能する。本発明の表面媒介リチウムイオン交換バッテリは、スーパーコンデンサ及びリチウムイオンバッテリとは根本的に異なる革新的で新たなエネルギー貯蔵装置である。エネルギー密度及び出力密度に関しては、どちらも従来の装置のものとは近似しない。
【0138】
<実施例2>
MCMBの硫酸のインターカレーション及び剥離由来のNGP
【0139】
MCMB2528マイクロビーズ(日本の大阪ガス化学社製)は約2.24g/cm
3の密度、約22.5ミクロンのメジアン径及び約0.336nmの面間距離を有する。このMCMB2528(10g)を酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸及び過マンガン酸カリウム)に24時間インターカレートした。反応の完了後、混合物をイオン交換水中に注ぎ、濾過した。ほとんどの硫酸イオンを除去するために、インターカレートされたMCMBをHCLの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次いで、濾液のpHが中性になるまで試料をイオン交換水で洗浄した。スラリーを乾燥し、60℃の真空乾燥機内で24時間貯蔵した。剥離グラファイトを得るために、乾燥粉末試料を石英管内に入れ、所望温度600℃に予め設定された水平加熱管炉内に30秒間挿入した。さらに、機能化グラフェン(f−NGP)を得るために、剥離MCMB試料に対し、25℃の超音波浴中で30分間蟻酸中の機能化を行った。機能化試薬を含まない水中での剥離MCMBの超音波処理により非機能化NGPも得た。
【0140】
機能化又は非機能化表面制御バッテリにおけるカソード材料及びアノード材料としてNGPを用いた。アノードとセパレータとの間にリチウム箔を追加した。参照スーパーバッテリとしては、アノードがリチウム箔(ナノ構造NGPを含まない)であり、カソードがf−NGPである。これら3タイプのセルのラゴーンプロットを
図7に示す。NGP系表面媒介リチウムイオン交換バッテリ装置のエネルギー密度及び出力密度は、特に比較的高い電流密度(プロット中の高出力密度データポイント)での対応スーパーバッテリのものよりも高い。これは、スーパーバッテリ上のSMCの優れた性能を示す。非機能化表面媒介セルは、エネルギー密度及び出力密度について機能化表面制御セルよりも良好に機能する。まったく意義深く驚いたことに、機能化表面媒介セルと比較すると、非機能化表面媒介セルは、連続的に充電/放電が繰り返されるような良好な長期安定性を示す(
図8)。
【0141】
<実施例3>
有機3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、PTCDA硫化物ポリマー及びナノ構造NGP支持PTCDA
【0142】
エノレーションは、共役構造により安定化される炭素二重結合の重要な反応である。エノレーションは、カルボニル基が還元又は酸化される際に、リチウムイオンを酸素原子の位置に可逆的に取り込み又は放出することを可能としており、これはリチウムイオンバッテリにおける新規の有機エネルギー貯蔵システムとして用いられることを示している。PTCDAの還元工程においては、各カルボニル基は、リチウムエノレートを形成するため、1つの電子を受け取り、1つのリチウムイオンを取り込み、可逆的酸化工程において、リチウムイオンが放出される。
【0143】
表面制御リチウムイオン交換バッテリ装置のアノード及び/又はカソードとして用いるために3タイプの電極を用意した。第1タイプはPVDFにより結合されたPTCDAとカーボンブラック(おおよそ20重量%)との単純な混合物であった(試料3−A)。
【0144】
第2タイプ(試料4−B)はPTCDA硫化物ポリマーと導電性フィラーであるカーボンブラックとの類似の混合物であった。質量比1:1で粉砕することにより十分に混合したPTCDA(ブライトレッド)及び開始材料である昇華硫黄を用いることによりPTCDA硫化物ポリマーを合成した。混合物を流動アルゴン雰囲気下の500℃で3時間反応させ、PTCDA硫化物ポリマーのブラック−レッド粉末を得た。この合成経路は、X. Y. Hanらの非特許文献2により独創的に提案された。
【0145】
<実施例4>
天然グラファイト、カーボンファイバ及び人工グラファイト由来グラフェン材料(NGP)に基づくSMC並びにカーボンブラック(CB)及び処理CBに基づくSMC
【0146】
開始グラファイト材料を4:1:0.1の比率の硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムの混合物に72時間曝す工程を含む改良されたHummerの方法により、酸化NGP又はグラフェン酸化物(GO)を調製した。次いで、得られたGOを水で十分に洗浄し、2つの異なる材料調製経路により生じるGO懸濁液を得た。1つの経路は、水中に懸濁された単離グラフェン酸化物シート(セル−N)を得るために、GO懸濁液に超音波処理を行う工程を含む。他の経路は、グラファイトインターカレーション化合物(GIC)又はGO粉末を得るために、GO懸濁液をスプレー乾燥する工程を含む。次いで、GIC又はGO粉末を1050℃で45秒間熱的に剥離し、剥離グラファイト又はグラファイトウォーム(セルG)を得た。人工グラファイト及びカーボンファイバ由来の剥離グラファイトウォームに超音波処理を行い、酸化グラフェンシートを分離又は単離(それぞれセルM及びセルC)した。カーボンブラック(CB)にHummerの方法と同様の化学処理を行い、ナノゲートを広げ、内部に電解質を入り込ませた(セルt−CB)。
【0147】
グラフェン85%、Supre-P(AB系伝導性添加剤)5%及びPTFE10%からなる各電極をアルミニウム箔で被覆した。電極の厚さは一般的に約150〜200μmであったが、得られたスーパーコンデンサ−バッテリセルの出力及びエネルギー密度に対する電極サイズの効果を評価するために、おおよそ80、100、150μmの厚さを有する追加試料を調製した。比較のために厚さ20μmの電極も作製した。使用前に120℃の真空乾燥機内で12時間電極を乾燥させた。陰極はグラフェンシートの層上に支持されたリチウム金属であった。電解質として1MのLiPF
6/EC+DMCを用いてグローブボックス内でコインサイズセルを組み立てた。
【0148】
<実施例5>
機能化及び非機能化活性炭
【0149】
活性炭(Ashbury Carbon社製のAC)を酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸及び過マンガン酸カリウム)で24時間処理した。反応の完了後、混合物をイオン交換水中に注ぎ、濾過した。ほとんどの硫酸イオンを除去するために、処理されたACをHCLの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次いで、濾液のpHが中性になるまで試料をイオン交換水で洗浄した。スラリーに対し、25℃の超音波浴中で30分間蟻酸中の機能化を行った。続いて、集電材であるアルミニウム化カーボン層の表面上に塗工された一般的に20〜150μmの厚さを有する化学的機能化活性炭(f−CA)の薄層を得るために、ディップコーティングを用いた。このような電極をアノードとして用い、多孔性セパレータと1つの電極との間に設けるリチウム箔をリチウム源として備えた同じタイプの材料をカソードとして用いた。機能化処理を行わない対応SMCセルも調製し、試験した。
【0150】
Arbin SCTS電気化学試験装置を用いた定電流試験によりコンデンサを測定した。NGP及び剥離グラファイト試料の化学組成及び微細構造を明らかにするため、サイクルボルタンメトリ(CV)をCHI 660 Instruments社製の電気化学ワークステーション上で処理した。走査電子顕微鏡(SEM、日立社製のS-4800)、透過電子顕微鏡(TEM、日立社製のH-7600)、FTIR(Perkin Elmer社製のGX FTIR)、ラマン分光器(Renishaw社製のVia Reflex Micro-Raman)及び原子間力顕微鏡を用いた。
【0151】
NGP媒介電極は、0.1A/gの電流密度で127mAh/gの比容量を有し、市販のAC系対称型スーパーコンデンサの一般的な5Wh/kg
cellよりも17倍高い0.1A/gの電流密度で85Wh/kg
cellのセルレベルエネルギー密度に達する(
図8(C))セル(例えばセルM)を供給する。
【0152】
他のグラフェン表面媒介セル(セルN、
図8(D))は、リチウムイオンバッテリのものに相当する160Wh/kg
cellの高いエネルギー密度を示す。セルNのエネルギー密度は、10A/gの電流密度でさえ51.2Wh/kg
cell超の値を維持し、4.55kW/kg
cellの出力密度を実現する。市販のAC系対称型スーパーコンデンサの出力密度は一般的に5Wh/kg
cellのエネルギー密度で1〜10kW/kg
cellの範囲内である。これは、同じ出力密度での従来のスーパーコンデンサと比較すると、表面媒介装置が10倍超のエネルギー密度を実現することを示している。
【0153】
出力密度は、24Wh/kg
cellのエネルギー密度に対して50A/gで25.6kW/kg
cellである。出力密度は、12Wh/kg
cellのエネルギー密度に対して200A/gで93.7kW/kg
cellに増加する(
図8(D))。この出力密度は、高出力密度で有名な従来のスーパーコンデンサのものよりも一桁高く、従来のリチウムイオンバッテリのもの(一般的に0.1〜1.0kW/kg
cell)よりも2〜3桁高い。これらのデータは、表面可能セルが従来のスーパーコンデンサ及びリチウムイオンバッテリとはまったく異なるエネルギー貯蔵セルのクラスであることを明確に示している。
【0154】
図8(B)は、カーボンファイバ由来グラフェンが電極活性材料であるグラファイト由来グラフェンよりも僅かに良好な性能を有することを示すCVデータの比較を含む。これは、電極調製の間にグラフェンシートの完全な向かい合わせの再スタックを避けるファイバ由来グラフェンのより湾曲した又は折り目をつけた形状の結果であろう。十分に分離されたNGP系セル(セルM及びC)に対して低い剥離グラファイト系セル(セルG)のエネルギー密度及び出力密度は、ほとんど単離された単層グラフェンシートの一般的な600〜900m
2/gに対して低いEGの比表面積(一般にBET測定に基づく200〜300m
2/g)に起因するものであろう。
【0155】
図8(D)は、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムの混合物に24時間曝す工程を含む活性化/機能化処理をCBに行うことにより、カーボンブラック(CB)のエネルギー密度及び出力密度の値が十分に増加することを示している。BET表面積がおおよそ60m
2/g〜300m
2/gに増加し、容量が8.47mAh/g〜46.63mAh/gに増加することがわかった。処理されたカーボンブラック電極を備えたセルは、活性炭電極のものに相当する出力及びエネルギー密度を発揮する。
【0156】
図10は、異なる電極厚さを有するグラフェン表面可能リチウムイオン交換セルのラゴーンプロットを示す。エネルギー密度及び出力密度の値は、
図10(A)における総セル重量及び
図10(B)におけるカソード重量のみに基づいて計算された。これらのデータは、SMCのエネルギー密度及び出力密度を規定する際に電極厚さが重要な役割を担うことが示されている。特に、これらのデータは、厚い電極を備えたSMCが、高価で緩慢な工程(Leeらにより提案されたlayre-by-layer、LBL)を用いることなく、CNT系スーパーバッテリに用いられる超薄の電極を作製するために非常に良好に機能することを明確に示している。
図10は、表面媒介セルがスーパーコンデンサ及びリチウムイオンバッテリとは異なるエネルギー貯蔵セルのクラスであることも明確に示している。
【0157】
図12は、電極の比表面積がリチウム貯蔵容量を規定する際の1つの最重要パラメータであることを示している。このプロットにおける最高比容量を有するデータポイントは、化学的に還元されたグラフェン酸化物から得られる。化学的分析データは、この重い還元グラフェン材料が2.0%未満の酸素含有量を有することを示しており、これは本質的に官能基を備えないことを示唆している。化学的又は熱的還元による重い酸化グラフェンは、かなりの表面欠損部位を有することが知られている。(xで示された)4つのデータポイントは、グラフェン材料が純粋なグラファイト(99.9%超)の直接超音波処理から得られた本来のグラフェン電極である。これらのデータポイントは、(ベンゼン環中心を有し、表面欠損又は官能基を有さない)純粋なグラフェン表面が電解質からリチウムイオンを均等に取り込み、表面積単位あたりに相当する量のリチウムを貯蔵することを示している。
【0158】
これらのSMCセルの長期安定性は顕著である(
図11)。特に、これらの非機能化表面系SMCセル(セルN及びAC)は、始めの300サイクルの間に僅かな劣化後に、サイクル数を増加する容量を示す。これはかなり独特で予想外である。これは、従来のスーパーコンデンサ、リチウムイオンコンデンサ、リチウムイオンバッテリ、リチウムスーパーバッテリ又は機能化表面制御セルにより決して得られない。
【0159】
要するに、本発明は、スーパーコンデンサ及びリチウムイオンバッテリの両方の態様を有するエネルギー貯蔵装置を提供する。これらの十分に表面可能なリチウムイオン交換セルは、従来の電気二重層(EDL)スーパーコンデンサのものよりも本質的に高い少なくとも160Wh/kg
cellのエネルギー密度をすでに貯蔵することができる。少なくとも100kW/kg
cellの出力密度は、従来のEDLスーパーコンデンサのものよりも本質的に高く、従来のリチウムイオンバッテリのものよりも遙かに高い。これらの表面媒介セルは、従来のリチウムイオンバッテリとしての使用において、迅速に再充電することができる。
【0160】
詳細に及びその特別な実施形態を参照して本発明が記載されたが、下記の請求項により定義されたような本発明の趣旨及び目的から逸脱しない限り多くの変更及び改良が可能であることは明らかであろう。