特許第6077484号(P6077484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077484
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20170130BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20170130BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20170130BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C04B37/00 A
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   F01N3/022 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-64509(P2014-64509)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-187044(P2015-187044A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2015年11月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】西垣 拓
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/096851(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/047209(WO,A1)
【文献】 特開2013−203572(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/098191(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/125713(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/145245(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00− 37/04
C04B 38/00− 38/10
B01D 53/34− 53/96
B01J 35/02− 35/10
F01N 3/00− 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、前記中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって前記全体構造を構成する複数のハニカムセグメントが、接合材によって一体的に接合されてなり、前記接合材が、20質量%以下の結晶質の異方性セラミックス粒子と、前記接合材内での平均粒子径が80〜200μmである粒状の造孔材とを含有し、前記接合材の圧縮ヤング率をE(単位:MPa)とし、前記接合材のせん断強度をσ(単位:kPa)としたとき、σ/Eが5〜50であり、前記結晶質の異方性セラミックス粒子は、その一次粒子の形状が針状であるハニカム構造体。
【請求項2】
前記接合材の圧縮ヤング率が、5〜100MPaである請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記接合材のせん断強度が、100〜2000kPaである請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記結晶質の異方性セラミックス粒子が、ヴォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維からなる群より選択された1種以上の物質である請求項1〜3の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記接合材の気孔率が、45%以上である請求項1〜4の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記接合材の細孔分布が、細孔径80〜200μmの範囲にピークを有するものである請求項1〜5の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記接合材の厚さが、0.5〜3.0mmである請求項1〜6の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のハニカムセグメントが接合材によって一体的に接合されたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子状物質(パティキュレートマター(PM))の捕集フィルター、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれているPMを捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)として、ハニカム構造体が広く使用されている。
【0003】
フィルターに使用されるハニカム構造体は、例えば、炭化珪素(SiC)等からなる多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有している。このようなハニカム構造体において、それぞれ隣接したセルの端部を、交互に(市松模様状に)目封じすることにより、PMを捕集可能なフィルターが得られる。
【0004】
即ち、こうして目封じしたハニカム構造体において、一方の端部から所定のセル(流入セル)に排ガスを流入させると、当該排ガスは、多孔質の隔壁を通過して、隣接したセル(流出セル)に移動してから、排出される。そして、排ガスが隔壁を透過する際に、隔壁が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
【0005】
ところで、このようなフィルターを長期間継続して使用するためには、定期的にフィルターに再生処理を施す必要がある。即ち、フィルター内部に経時的に堆積したPMにより増大した圧力損失を低減させてフィルター性能を初期状態に戻すため、フィルター内部に堆積したPMを高温のガスで燃焼させて除去する必要がある。そして、この再生時には、PMの燃焼熱によってフィルターに高い熱応力が発生するため、フィルターが破損することがある。
【0006】
こうしたフィルターの破損を防止するための対策として、フィルター全体を1つのハニカム構造体として製造するのではなく、複数のハニカム形状のセグメント(ハニカムセグメント)を接合してフィルター用のハニカム構造体とすることが提案されている。具体的には、複数のハニカムセグメントを、弾性率が低く変形し易い接合材で一体的に接合したセグメント構造とすることで、再生時にハニカム構造体に作用する熱応力を分散、緩和して、耐熱衝撃性の向上を図っている。
【0007】
従来、このようなセグメント構造のハニカム構造体では、複数のハニカムセグメントを接合するための接合材の主要な構成成分として、非晶質のアルミナシリケート繊維が好適に用いられている。
【0008】
しかしながら、非晶質のアルミナシリケート繊維は、欧州連合(EU)の発ガン性分類(EU指令97/69/EC「人造非晶質繊維の発ガン性分類と包装表示」)において、カテゴリー2(おそらく発ガン性あり)に分類されるRCFに該当する。このため、非晶質のアルミナシリケート繊維は、今後の使用が困難になると予想され、その代替物として、人体に吸収されても健康影響のない成分で構成された接合材を用いたハニカム構造体の開発が急務となっている。尚、RCFは、Refractry Ceramic Fiberの略称である。EU規則(1282/2008CLP規則)において定義されるRCFには、人造(非天然)の非晶質繊維で、アルカリ及びアルカリ土類酸化物の含有量が18重量%以下のものが含まれる。
【0009】
こうした背景の下、接合材の構成成分として、RCFの代わりに、人体に吸収されても健康影響のない生体溶解性ファイバーを用いたハニカム構造体が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、生体溶解性ファイバーは、その内部に含まれるアルカリ又はアルカリ土類元素によるpH変化で、接合材の形成に用いられる接合材スラリー(接合材の構成成分を含有するスラリー)の粘度(流動性)が変化するという課題がある。なお、特許文献1〜3には、この課題の解決策が提案されているものの、接合材スラリーの組成や製造工程、製造条件等の変化によっては不安定で、工業的に量産しようとしたときに扱い難いという問題があった。
【0010】
また、接合材の構成成分として、RCFも生体溶解性ファイバーも用いず、板状粒子と非板状粒子とを一定の割合で用いることにより、接合材のヤング率と強度との関係を改善することが提案されている(特許文献4及び5参照)。しかしながら、これらの方策では、接合材のヤング率と強度との関係を改善することはできるが、約30〜50質量%という多量の板状粒子を使用する必要が有るため、接合材の特性に異方性が生じるという問題があった。即ち、接合材中の板状粒子が接合面と平行に配向することにより、ハニカム構造体の長手方向と径方向とにおいて、接合材の強度及びヤング率の値が異なり、DPFとして使用する際に、内部応力の発生の仕方が変化し、場合によっては耐久性が低下する懸念がある。
【0011】
更に、粒状のフィラーを含有する接合材によって、複数のハニカムセグメントを一体的に接合して構成されたハニカム構造体が提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、粒状のフィラーを含有する接合材は、その塗布性や延び性の向上による欠陥の抑制には効果的であったが、DPFとしての使用に適した強度とヤング率を有するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許公開(WO)第2007/119407号
【特許文献2】特開2010−12415号公報
【特許文献3】特開2010−12416号公報
【特許文献4】国際特許公開(WO)第2008/96851号
【特許文献5】国際特許公開(WO)第2008/117611号
【特許文献6】特許第5281733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、健康影響のない物質から構成され、特性に異方性が無く、工業的に量産し易く、安定した特性を有する接合材を用いて構成されたハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0015】
[1] 多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、前記中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって前記全体構造を構成する複数のハニカムセグメントが、接合材によって一体的に接合されてなり、前記接合材が、20質量%以下の結晶質の異方性セラミックス粒子と、前記接合材内での平均粒子径が80〜200μmである粒状の造孔材とを含有し、前記接合材の圧縮ヤング率をE(単位:MPa)とし、前記接合材のせん断強度をσ(単位:kPa)としたとき、σ/Eが5〜50であり、前記結晶質の異方性セラミックス粒子は、その一次粒子の形状が針状であるハニカム構造体。
【0016】
[2] 前記接合材の圧縮ヤング率が、5〜100MPaである[1]に記載のハニカム構造体。
【0017】
[3] 前記接合材のせん断強度が、100〜2000kPaである[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【0018】
[4] 前記結晶質の異方性セラミックス粒子が、ヴォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維からなる群より選択された1種以上の物質である[1]〜[3]の何れかに記載のハニカム構造体。
【0019】
[5] 前記接合材の気孔率が、45%以上である[1]〜[4]の何れかに記載のハニカム構造体。
【0020】
[6] 前記接合材の細孔分布が、細孔径80〜200μmの範囲にピークを有するものである[1]〜[5]の何れかに記載のハニカム構造体。
【0021】
[7] 前記接合材の厚さが、0.5〜3.0mmである[1]〜[6]の何れかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0022】
本発明のハニカム構造体は、接合材が、健康影響のない物質から構成されているため環境安全性に優れる。また、接合材の構成成分である結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量が比較的少ないため、接合材の特性に異方性が生じ難い。更に、接合材の構成成分として、接合材内での平均気孔径が所定範囲の造孔材を使用することより、接合材に必要な強度を確保しつつ、接合材の低ヤング率化に寄与する大きな気孔が形成される。そして、その結果、接合材のせん断強度と圧縮ヤング率とが、熱応力緩和に適した関係となり、DPF等の高い熱応力が加わる製品に好適に使用可能なハニカム構造体となる。更にまた、接合材の低ヤング率化に寄与する大きな気孔の大部分は、接合材中の残存水分ではなく、造孔材で形成されるため、接合材の気孔のサイズが安定する。そして、その結果、接合材の特性が安定するとともに、工業的に量産し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例において使用されているハニカムセグメントを模式的に示す斜視図である。
図4図3のA−A線断面図である。
図5】実施例1で得られたハニカム構造体の接合材の細孔分布(Log微分細孔容積分布)を示すグラフである。
図6】実施例1で得られたハニカム構造体の接合材の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
図7参考例1で得られたハニカム構造体の接合材の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
図1は、本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1の要部拡大図である。また、図3は、本発明に係るハニカム構造体の実施形態の一例において使用されているハニカムセグメントを模式的に示す斜視図であり、図4は、図3のA−A線断面図である。
【0026】
図1及び2に示すように、本発明のハニカム構造体1は、多孔質の隔壁6によって区画、形成された流体の流路となる複数のセル5がハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有する。このハニカム構造体1は、複数のハニカムセグメント2が、接合材9によって一体的に接合されてなるものである。複数のハニカムセグメント2は、それぞれがハニカム構造体1の全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって前記全体構造を構成する。尚、図1において、ハニカムセグメント2の隔壁6及びセル5の描画は、一部のハニカムセグメント2を除いて省略してある。
【0027】
通常は、接合材9による複数のハニカムセグメント2の接合の後、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形、楕円形、三角形、正方形、その他の形状となるように研削加工され、外周面がコーティング材4によって被覆される。
【0028】
また、本発明のハニカム構造体1をDPF等のフィルターに用いる場合、隣接しているセル5におけるそれぞれの端部が充填材7によって交互に目封じされる。図4の例では、所定のセル5(流入セル5a)の左端部側が開口している一方、右端部側が充填7によって目封じされており、これと隣接する他のセル5(流出セル5b)は、左端部側が充填7によって目封じされるが、右端部側が開口している。このような目封じにより、図2及び3に示すように、ハニカムセグメント2の端面が市松模様状を呈するようになる。このような複数のハニカムセグメント2が接合されたハニカム構造体1をディーゼルエンジン等の排気系内に配置した場合、排ガスは図4における左側の開口部から各ハニカムセグメント2のセル5内に流入して右側に移動する。
【0029】
図4においては、ハニカムセグメント2の左側が排ガスの入口となる場合を示し、排ガスは、目封じされることなく開口しているセル5(流入セル5a)からハニカムセグメント2内に流入する。セル5(流入セル5a)に流入した排ガスは、多孔質の隔壁6を通過して隣接する他のセル5(流出セル5b)から流出する。そして、隔壁6を通過する際に排ガスに含まれるスート等のPMが隔壁6に捕捉され、排ガスが浄化される。このようなPMの捕捉によって、ハニカムセグメント2の内部にはスート等のPMが経時的に堆積して圧力損失が大きくなるため、このPMを燃焼させる再生処理が行われる。
【0030】
尚、図2〜4には、全体の断面形状が正方形のハニカムセグメント2を示すが、ハニカムセグメント2全体の断面形状は、三角形、六角形等の形状であってもよい。また、図2〜4に示されるハニカムセグメント2のセル5の断面形状は四角形であるが、セル5の断面形状は、三角形、六角形、円形、楕円形、その他の形状であってもよい。
【0031】
図2に示すように、接合材9は、ハニカムセグメント2の外周面に塗布されて、ハニカムセグメント2を接合するように機能する。ハニカムセグメント2の接合面への接合材9の塗布は、隣接しているそれぞれのハニカムセグメント2の外周面に行ってもよいが、隣接したハニカムセグメント2の相互間においては、対応した外周面の一方に対してだけ行ってもよい。このような対応面の片側だけへの塗布は、接合材9の使用量を節約できる点で好ましい。接合材9の厚さは、ハニカムセグメント2の相互間の接合力を勘案して決定され、例えば、0.5〜3.0mmの範囲で適宜選択される。
【0032】
本発明において、接合材9は、必須の構成成分として、結晶質の異方性セラミックス粒子と、粒状の造孔材とを含有する。
【0033】
EU規則(1282/2008CLP規則)において定義されるRCFは、「非晶質」のものに限定されており、「結晶質」の異方性セラミックス粒子はRCFには該当しない。なお、本発明において、「異方性セラミックス粒子」とは、一次粒子の形状が異方性を有するセラミックス粒子を意味する、本発明において、接合材9の構成成分として使用される結晶質の異方性セラミックス粒子は、一次粒子の形状が針状のものである
【0035】
ここで、「針状」とは、粒子の直径が3μm以上で、長さが50μm以上であることを意味する。直径が3μm以上としたのは、一般に、肺に侵入した際に人体に影響する可能性のある粒子の直径が3μm未満と言われているためである。また、長さが50μm以上としたのは、長さが50μm未満であると、接合材のヤング率を所望の低い値に抑えることが困難となるからである。結晶質の異方性セラミックス粒子として、一次粒子の形状が針状のものを用いる場合、健康影響を考慮すると、その直径は5μm以上であることが好ましく、また、接合材の低ヤング率化を考慮すると、その長さは100μm以上であることが好ましい。
【0036】
本発明において、結晶質の異方性セラミックス粒子には、天然鉱物を用いてもよいし、人造のセラミックス繊維を用いてもよい。天然鉱物としては、ヴォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、パリゴスカイト、アタパルジャイトといった針状の天然鉱物が好適なものとして挙げられる。また、人造のセラミックス繊維としては、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維、酸化亜鉛繊維といった健康影響の問題が無い人造のセラミックス繊維が好適なものとして挙げられる。本発明における接合材9には、結晶質の異方性セラミックス粒子として、これらの天然鉱物及びセラミックス繊維から選択された1種以上の物質を含むことが好ましい。尚、マイカについては、仮焼したものを(仮焼マイカ)を用いることが好ましい。この場合、仮焼温度は、800℃以上とすることが好ましい。
【0037】
本発明において、接合材9に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量は20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。接合材に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量が多すぎると、その接合材を用いて製造されたハニカム構造体の径方向(X方向)と長手方向(Y方向)との特性差が大きくなり、特に長手方向の強度、即ちせん断強度に相当する強度が低下する。接合材に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量が20質量%以下であれば、前記のようなハニカム構造体の径方向(X方向)と長手方向(Y方向)との大きな特性差(特性の異方性)は生じ難い。尚、接合材全体としての強度を良好に保つため、接合材に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量の下限は、2質量%とすることが好ましい。
【0038】
本発明において、接合材9の構成成分として使用される粒状の造孔材は、接合材内での平均粒子径が80〜200μm、好ましくは100〜150μmである。ここで、「接合材内での平均粒子径」と規定したのは、造孔材の種類によっては、単独の状態における平均粒子径と、接合材内に含有された状態における平均粒子径とが異なる場合があるからである。例えば、造孔材が発泡樹脂である場合は発泡加工の前後で、また、造孔材が吸水性樹脂である場合は吸水の前後で平均粒子径が変化する。造孔材が発泡樹脂である場合、「接合材内での平均粒子径」は、発泡樹脂が発泡により膨張した後の接合部内での平均粒子径を意味する。また、造孔材が吸水性樹脂である場合、「接合材内での平均粒子径」は、吸水性樹脂が吸水により膨潤した後の接合部内での平均粒子径を意味する。尚、ここで言う「平均粒子径」は、レーザー回折法の粒度分布計で接合に使用する前の状態を測定した値である。また、本発明において、「粒状の造孔材」における「粒状」とは、球状を含む等方性の形状で、電子顕微鏡や光学顕微鏡等で粒子の画像を複数取り込み、画像解析により測定される長軸径と短軸径の比が5以下であることを意味する。
【0039】
前記平均粒子径の下限を80μmとしたのは、せん断強度と圧縮ヤング率との比が所定範囲となるような高強度と低ヤング率、特に低ヤング率を実現するためには、前記平均粒子径が80μm以上の造孔材が必要になることを実験により見出したからである。また、前記平均粒子径の上限を200μmとしたのは、せん断強度と圧縮ヤング率との比が所定範囲となるような高強度と低ヤング率、特に高強度を実現するためには、前記平均粒子径が200μm以上の造孔材が必要になることを実験により見出したからである。
【0040】
なお、接合材9の低ヤング率化に寄与する径の大きい気孔は、本発明のように平均粒子径の大きい造孔材を用いなくても、例えば、特許第4927710号公報に開示されているように、接合材中の水分量を増やすことで、残存水分によって形成することが可能である。但し、このように残存水分で形成される気孔は、接合材の他の構成成分との兼ね合いでサイズが安定しない、即ち特性が安定しないという工業的に量産を実施する上での課題があった。本発明は、接合材9の低ヤング率化に寄与する径の大きい気孔の大部分を、接合材中の残存水分ではなく、所定の平均粒子径を有する造孔材で形成するため、そのような課題も解決することができる。
【0041】
本発明において、造孔材には、無機物質からなるものを用いてもよいし、有機物質からなるものを用いてもよい。無機物質からなる造孔材としては、フライアッシュバルーン、シラスバルーンを初めとする中空の無機バルーン等が好適なものとして挙げられる。また、有機物質からなる造孔材としては、発泡樹脂を初めとする中空あるいは中実の有機バルーン、吸水性樹脂、デンプン等が好適なものとして挙げられる。造孔材の添加量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましい。
【0042】
前記結晶質の異方性セラミックス粒子及び造孔材以外の接合材9の構成成分としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム等の無機粒子を挙げることができる。また、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイダルゾルや金属繊維を加えてもよい。更に、必要に応じて、接合材スラリーの流動性や特性を制御するために、小粒径の造孔材を加えることも望ましい。「小粒径の造孔材」とは、接合材内での平均粒子径が80〜200μmである既述の造孔材よりも、接合材内での平均粒子径が小さい造孔材である。この小粒径の造孔材は、無機物質からなるものであっても、有機物質からなるものであってもよいが、有機物質からなる発泡樹脂を用いることが好ましい。また、これらの成分に加えて、接合材スラリーの粘度を調整するために有機バインダー、無機バインダー、界面活性剤を用いてもよい。有機バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が好適なものとして挙げられる。また、無機バインダーとしては、ベントナイト、モンモリロナイト等の粘度鉱物が好適なものとして挙げられる。更に、ポリエチレングリコールオレイン酸エステル等の分散剤を加えてもよい。
【0043】
本発明においては、接合材の圧縮ヤング率をE(単位:MPa)とし、接合材のせん断強度をσ(単位:kPa)としたとき、σ/Eが5〜50、好ましくは10〜40である。σ/Eが5未満では、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される圧縮応力により破壊が生じ易い。一方、σ/Eが50を超えると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力を開放し難くなり、破壊が生じ易い。
【0044】
尚、本発明において、接合材の圧縮ヤング率は、次のように算出した。即ち、ハニカム構造体から接合材部分を含む所定の寸法(10×10mm〜30×30mm、厚さ0.5〜3mm)の試料を切り出し、Z軸方向の圧縮試験を行った。ここで、「Z軸方向」とは、接合材のハニカムセグメントとの接合面に垂直な方向である。この試験に際し、試料には基材(ハニカムセグメントの一部)が付いていてもかまわない。Z軸方向において、荷重を0〜3MPaまで試料に加えた時の応力−ひずみ曲線における傾きを圧縮ヤング率として、下式(1)により算出した。
【0045】
E=(W/S)×(t/Δt) ・・・(1)
E:圧縮ヤング率(MPa)
W:荷重(N)
S:試料面積(mm
t:試料厚さ(mm)
Δt:試料厚さの変化量
【0046】
また、本発明において、接合材のせん断強度は、次のように算出した。即ち、ハニカム構造体から2本のハニカムセグメントが接合された2本組構造体を切り出し、その2本組構造体を接合している接合材のY軸方向(長手方向)にせん断荷重をかけたときの破壊荷重と接合材の面積とから、下式(2)より算出した。
【0047】
σ=(W/S)×1000 ・・・(2)
σ:せん断強度(kPa)
W:破壊荷重(N)
S:接合材面積(mm
【0048】
本発明において、接合材の圧縮ヤング率は、5〜100MPaであることが好ましく、15〜80MPaであることがより好ましい。接合材の圧縮ヤング率が5MPa未満であると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される圧縮応力により破壊が生じ易くなる場合がある。一方、接合材の圧縮ヤング率が100MPaを超えると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力を開放し難くなり、破壊が生じ易くなる場合がある。
【0049】
本発明において、接合材のせん断強度は、100〜2000kPaであることが好ましく、300〜1500kPaであることがより好ましい。接合材のせん断強度が100kPa未満であると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力で破壊が生じ易くなる場合がある。一方、接合材のせん断強度が2000kPaを超えると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力を開放し難くなり、破壊が生じ易くなる場合がある。
【0050】
本発明において、接合材の気孔率は、45%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。尚、ここで言う「気孔率」は、アルキメデス法によって測定した値である。接合材の気孔率が45%未満では、接合材の圧縮ヤング率を十分に低下させ難く、その結果、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力を開放し難くなり、破壊が生じ易くなる場合がある。尚、接合材全体としての強度を良好に保つため、接合材の気孔率の上限は、75%とすることが好ましい。
【0051】
本発明において、接合材の細孔分布は、細孔径80〜200μmの範囲にピークを有するものであることが好ましく、細孔径90〜160μmの範囲にピークを有するものであることがより好ましい。尚、ここで言う「細孔径」は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法によって測定した値であり、「細孔分布」は、Log微分細孔容積分布である。細孔径が80〜200μmの大きな気孔(細孔)は、接合材の低ヤング率化に寄与するものであり、このような気孔が接合材内に多く存在すると、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、DPFの運転環境下で曝される熱応力が開放され易くなり、破壊が生じ難くなる。尚、接合材の細孔分布は、造孔材の平均粒子径や添加量等により制御することができる。
【0052】
本発明に用いられるハニカムセグメント2の隔壁6の平均細孔径は、5〜100μmであることが好ましく、8〜50μmであることがより好ましい。隔壁6の平均細孔径が5μm未満では、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。一方、隔壁6の平均細孔径が100μmを超えると、十分な強度が得られないことがある。尚、ここで言う「平均細孔径」は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法によって測定した値である。
【0053】
ハニカムセグメント2の隔壁6の気孔率は、30〜85%であることが好ましく、35〜70%であることがより好ましい。隔壁6の気孔率が30%未満では、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。一方、隔壁6の気孔率が85%を超えると、十分な強度が得られないことがある。尚、ここで言う「気孔率」は、アルキメデス法によって測定した値である。
【0054】
ハニカムセグメント2の隔壁6の厚さは、6〜70mil(0.015〜0.177cm)であることが好ましく、8〜30mil(0.020〜0.076cm)であることがより好ましく、10〜20mil(0.025〜0.050cm)であることが更に好ましい。隔壁6の厚さが6mil(0.015cm)未満では、十分な強度が得られないことがある。一方、隔壁6の厚さが70mil(0.177cm)を超えると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0055】
ハニカムセグメント2のセル密度は、50〜400セル/平方インチ(7.7〜62.0セル/cm)であることが好ましく、70〜370セル/平方インチ(10.8〜57.3セル/cm)であることがより好ましく、80〜320セル/平方インチ(12.4〜49.6セル/cm)であることが更に好ましい。ハニカムセグメント2のセル密度が50セル/平方インチ(7.7セル/cm)未満では、十分な強度が得られないことがある。一方、ハニカムセグメント2のセル密度が400セル/平方インチ(62.0セル/cm)を超えると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0056】
本発明に用いられるハニカムセグメント2の材料は、強度、耐熱性等の観点から、適宜選択することができる。具体的には、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種から構成された物を挙げることができる。これらの中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料から構成されてなるものが好ましい。尚、「珪素−炭化珪素系複合材料」とは、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された複合材料である。
【0057】
ハニカムセグメント2の作製方法としては、例えば、まず、上述の材料から適宜選択したものに、バインダー、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を上述の形状となるように押出成形する。バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が好適なものとして挙げられる。次いで、押出成形により得られた成形体を、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼結することにより、ハニカムセグメント2が得られる。
【0058】
セル5の目封じに用いる充填材7としては、ハニカムセグメント2と同様の材料を用いることができる。充填材7による目封じは、目封じをしないセル5をマスキングした状態で、ハニカムセグメント2の端面をスラリー状の充填材7に浸漬することにより開口しているセル5に充填することにより行うことができる。充填材7の充填は、ハニカムセグメント2の成形後における焼成前に行っても、焼成後に行ってもよいが、焼成前に行うことの方が、焼成工程が1回で終了するため好ましい。
【0059】
以上のような方法で作製したハニカムセグメント2の外周面にスラリー状の接合材9を塗布し、所定の立体形状(ハニカム構造体1の全体構造)となるように複数のハニカムセグメント2を組み付け、この組み付けた状態で圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、複数のハニカムセグメント2が一体的に接合された接合体が作製される。その後、この接合体を上述の形状に研削加工し、外周面をコーティング材4によって被覆し、加熱乾燥する。このようにして、図1に示すハニカム構造体1が作製される。コーティング材4の材質としては、接合材9と同様の用いられるのを用いることができる。コーティング材4の厚さは、例えば、0.1〜1.5mmの範囲で適宜選択される。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1〜11、参考例1〜5及び比較例1〜7)
1.ハニカムセグメントの作製:
ハニカムセグメント原料として、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、バインダー、界面活性剤及び水を加えて、可塑性の坏土を作製した。造孔材には、澱粉及び発泡樹脂を用いた。また、バインダーには、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロースを用いた。この坏土を押出成形し、マイクロ波及び熱風で乾燥して、隔壁の厚さが310μm、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正四角形、長さが152mmのハニカムセグメント成形体を得た。このハニカムセグメント成形体の端面が市松模様状を呈するように、各セルの一方の端部を目封じした。即ち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封じを行った。セルの端部を目封じするための充填材には、ハニカムセグメント原料と同様の材料を用いた。この充填材を乾燥させた後、ハニカムセグメント成形体を大気雰囲気中にて約400℃で脱脂した。更に、脱脂後のハニカムセグメント成形体を、Ar不活性雰囲気中にて約1450℃で焼成して、珪素−炭化珪素系複合材料から構成された、多孔質のハニカムセグメントを得た。
【0062】
2.接合材の調製:
表1に示す種類及び寸法の結晶質の異方性セラミックス粒子及び造孔材と、炭化珪素粉末とを、表1に示す配合量で配合し、更に、それらの配合量の合計を100質量%から差し引いた量のアルミナ粉末及びコージェライト粉末を加えて、接合材の原料粉末を調合した。但し、比較例2については、接合材の原料粉末に、結晶質の異方性セラミックス粒子を配合しておらず、また、比較例3については、接合材の原料粉末に、造孔材を配合していない。尚、表1に示される結晶質の異方性セラミックス粒子の「平均径」は、結晶質の異方性セラミックス粒子が、針状粒子(例えばアルミナ繊維)である場合も、板状粒子(例えば仮焼マイカ)である場合も、それらの粒子の直径の平均値である。また、同表に示される「平均長さ」は、結晶質の異方性セラミックス粒子が、針状粒子である場合は、その粒子の長さの平均値であり、板状粒子である場合は、その粒子の厚さの平均値である。針状粒子においては、その直径と長さとが、「直径<長さ」という関係となり、板状粒子においては、その直径と長さ(厚さ)とが、「直径>長さ(厚さ)」という関係になる。また、表1に示される造孔材の平均粒子径は、造孔材が発泡樹脂である場合は、その発泡樹脂が発泡により膨張した後の接合部内での平均粒子径であり、造孔材が吸水性樹脂である場合は、その吸水性樹脂が吸水により膨潤した後の接合部内での平均粒子径である。前記のようにして得られた原料粉末100質量%に対し、外配で、表1に示す量のコロイダルシリカ、有機バインダー及び水と、適量の分散剤を加えて混合した。コロイダルシリカには、固形分40%のものを用いた。有機バインダーには、カルボキシメチルセルロースを用いた。分散剤には、ポリエチレングリコールオレイン酸エステルを用いた。その後、この混合物をミキサーにて30分間混練し、ペースト状の接合材組成物(接合材スラリー)を得た。更に、このペースト状の接合材組成物の粘度が600〜800dPa・sとなるように水を加えて調整した。尚、接合材の低ヤング率化のため、何れの接合材組成物においても、当該組成物から最終的に形成される接合材の気孔率が50%以上になるように、組成が調整されている。具体的には、造孔材による気孔形成が十分でないものについては、水の配合割合を高めて、50%以上の気孔率が確保できるように調整している。
【0063】
3.ハニカム構造体の作製:
ハニカムセグメントの外壁面に、厚さ約1mmとなるように接合材組成物を塗布し、その上に別のハニカムセグメントを載置した。この工程を繰り返して、4個×4個に組み付けられた合計16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製した。そして、外部から圧力を加えることにより、ハニカムセグメント積層体を構成するハニカムセグメント同士を圧着させながら、140℃で2時間乾燥させてハニカムセグメント接合体を得た。次いで、このハニカムセグメント接合体の中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形となるように、ハニカムセグメント接合体の外周を研削加工した。その後、その加工面に接合材と同じ組成のコーティング材を塗布し、700℃で2時間乾燥硬化させ、実施例1〜11、参考例1〜5及び比較例1〜7のハニカム構造体を得た。
【0064】
4.評価試験:
得られたそれぞれのハニカム構造体から試料を切り出し、それぞれの試料についてZ軸方向の圧縮ヤング率、せん断強度及び気孔率を測定した。更に、それぞれのハニカム構造体について、急速冷却試験(電気炉スポーリング(E−sp)試験)、及びエンジン試験(E/G試験)を行った。これらの測定結果及び試験結果を表2に示す。また、実施例1のハニカム構造体については、接合材の細孔分布を調べ、その結果をグラフ化して図5に示した。更にまた、実施例1及び参考例1のハニカム構造体については、その接合材の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真を図6及び図7に示した。図6及び図7中の符号10で示す黒色部分が、表1に示す平均粒子径を有する造孔材によって接合材9に形成された気孔である。尚、圧縮ヤング率、せん断強度、気孔率及び細孔径の測定は、本明細書に既に述べた方法に従って行なった。また、急速冷却試験(電気炉スポーリング(E−sp)試験)及びエンジン試験(E/G試験)はそれぞれ以下のようにして行なった。
【0065】
[急速冷却試験(電気炉スポーリング(E−sp)試験)]
ハニカム構造体を電気炉にて500℃で2時間加熱し、全体を均一な温度にした後、電気炉から取り出して、室温まで急速冷却する。そして、その急速冷却後、ハニカム構造体にクラックが発生していたか否かにより、耐熱衝撃性を評価する。クラックの発生が認められない場合を「合格」、クラックの発生が認められる場合を「不合格」とする。
【0066】
[エンジン試験(E/G試験)]
ハニカム構造体にディーゼルエンジンからの排ガスを流して、その内部にPMを堆積させてから、ハニカム構造体の中心部の温度が1000℃となるような温度条件で加熱することにより堆積したPMを燃焼除去する。そして、そのPMの燃焼除去後、ハニカム構造体にクラックが発生していたか否かにより、耐熱衝撃性を評価する。クラックの発生が認められない場合を「合格」、クラックの発生が認められる場合を「不合格」とする。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
(考察)
表2に示すとおり、本発明の実施例である実施例1〜11、及び参考例1〜5のハニカム構造体は、E−sp試験とE/G試験との何れにおいても、クラックが発生せず、良好な耐熱衝撃性を示した。一方、接合材内での造孔材の平均粒子径が80μm未満で、σ/Eが5未満である比較例1及び5のハニカム構造体は、E/G試験においてクラックの発生が認められた。また、接合材に結晶質の異方性セラミックス粒子が含まれておらず、接合材内での造孔材の平均粒子径が200μmを超え、σ/Eが5未満である比較例2のハニカム構造体は、E−sp試験とE/G試験との何れにおいても、クラックの発生が認められた。また、接合材に造孔材が含まれておらず、σ/Eが50を超える比較例3のハニカム構造体は、E/G試験においてクラックの発生が認められた。また、接合材に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量が20質量%を超え、σ/Eが50を超える比較例4のハニカム構造体は、E/G試験においてクラックの発生が認められた。また、接合材内での造孔材の平均粒子径が200μmを超え、σ/Eが5未満である比較例6のハニカム構造体は、E−sp試験とE/G試験との何れにおいても、クラックの発生が認められた。また、接合材に含まれる結晶質の異方性セラミックス粒子の含有量が20質量%を超え、σ/Eが5未満である比較例7のハニカム構造体は、E−sp試験とE/G試験との何れにおいても、クラックの発生が認められた。
【0070】
比較例1及び5の前記試験結果は、せん断強度に対して圧縮ヤング率が高すぎるため、熱応力が十分に緩和できなかったことが原因であると考えられる。また、比較例2、6及び7の前記試験結果は、圧縮ヤング率に対してせん断強度が低すぎるため、熱応力に耐えるのに必要な強度が不足していたことが原因であると考えられる。更に、比較例3及び4の前記試験結果は、圧縮ヤング率に対してせん断強度が高すぎるため、接合材によるハニカムセグメントの拘束力が大きくなり、熱応力が十分に緩和できなかったことが原因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、DPF等のPM捕集フィルターとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:ハニカム構造体、2:ハニカムセグメント、4:コーティング材、5:セル、5a:流入セル、5b:流出セル6:隔壁、7:充填材、9:接合材、10:気孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7