(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077610
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】樹脂潤滑用グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20170130BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20170130BHJP
C10M 117/02 20060101ALN20170130BHJP
C10M 133/48 20060101ALN20170130BHJP
C10M 147/02 20060101ALN20170130BHJP
C10M 143/12 20060101ALN20170130BHJP
C10M 125/10 20060101ALN20170130BHJP
C10M 125/22 20060101ALN20170130BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20170130BHJP
C10M 145/22 20060101ALN20170130BHJP
C10M 143/06 20060101ALN20170130BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20170130BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20170130BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20170130BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20170130BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20170130BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20170130BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20170130BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20170130BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20170130BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20170130BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
C10M169/00
!C10M107/02
!C10M117/02
!C10M133/48
!C10M147/02
!C10M143/12
!C10M125/10
!C10M125/22
!C10M137/04
!C10M145/22
!C10M143/06
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:12
C10N20:02
C10N20:04
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
C10N50:10
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-157592(P2015-157592)
(22)【出願日】2015年8月7日
(62)【分割の表示】特願2013-40019(P2013-40019)の分割
【原出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-193858(P2015-193858A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 元治
(72)【発明者】
【氏名】土井 理史
(72)【発明者】
【氏名】岩松 宏樹
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−013351(JP,A)
【文献】
特開2002−327188(JP,A)
【文献】
特開2008−157463(JP,A)
【文献】
特開2007−297422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂用グリース組成物において、
(a)ポリアルファオレフィン油からなる100℃における動粘度4〜6mm2/sである基油、
(b)リチウム石鹸からなる増ちょう剤、
(c)増粘剤、
(d)メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンを含む固体潤滑剤、並びに(e)耐摩耗剤
を含有し、
前記(c)増粘剤は、数平均分子量が100,000乃至200,000のスチレンイソプレン樹脂、及び液状イソプレンゴムの何れか一方又は双方を含み、
該組成物はNLGIちょう度番号00号、0号、1号又は2号のちょう度を有し、
前記(d)固体潤滑剤は、粒径15〜30μmのメラミンシアヌレートの粒子及び粒径10〜25μmのポリテトラフルオロエチレンの粒子を含むことを特徴とする、樹脂用グリース組成物。
【請求項2】
スチレンイソプレン樹脂又は液状イソプレンゴムを単独使用する場合、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂を0.5質量%乃至6質量%の割合で、又は液状イソプレンゴムを5質量%乃至12質量%の割合で含むか、或いは、
スチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムを併用する場合、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムの混合増粘成分を0.9質量%乃至12質量%の割合で含み、そして
樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンの混合潤滑成分を2質量%乃至10質量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記(d)固体潤滑剤は、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンをポリテトラフルオロエチレンに対するメラミンシアヌレートの質量割合が0.6乃至9となる割合にて含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記(d)固体潤滑剤は、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンからなる、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記(d)固体潤滑剤は、さらに、炭酸カルシウム及び二硫化モリブデンのいずれか一方又は双方を含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記(e)耐摩耗剤は、トリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を含むものであり、
樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、トリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を0.5質量%乃至3質量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記(c)増粘剤は、さらに、ポリブテン及びポリイソブチレンのうちの少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用グリース組成物に関し、特に各種機械や自動車等の歯車、樹脂軸受部等幅広い製品に適用可能な樹脂用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂(プラスチック)製の歯車や摺動部材は、軽く、薬品に侵されにくく、錆びず、また運転騒音が小さく、自己潤滑性を有するという特徴を有する。加えて大量生産に適し、低いコストで生産できる等の優れた特徴を有していることから、近年、自動車部品、家電製品、電子情報機器、OA機器等の各種機械などに幅広く使用されている。
こうした樹脂製の部材表面に潤滑性を付与することを目的として、種々のグリース組成物の提案があり、例えば基油、増ちょう剤、フッ素系界面活性剤及びスチレン系ブロック共重合体を含有するグリース組成物(特許文献1)、特定のポリマー材料を用いることで油分の分離の防止を図った非油分離性潤滑剤組成物(特許文献2)、高温条件下における油の分離を抑制したグリース組成物(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―297422号公報
【特許文献2】特開2002−327188号公報
【特許文献3】特開2012−177105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車用アクチュエータに使用されるプラスチック歯車においても、金属歯車と同様に歯車の噛み合せ部及び歯車軸受部にグリースが用いられている。ただし車載用であるため、潤滑性能そのものだけでなく、−40℃といった低温環境下における動作性や起動性も重要視され、さらにハイブリッド車や電気自動車では低電圧化が図れることも要求されている。加えてグリースの信頼性・長寿命化に対する要求も高く、こうした要求性能を総て満足できるようなグリース組成物に対する要求がある。
【0005】
こうした低温環境下における起動性について、低温起動時の低電圧化を図るためには低粘度基油を用いることが重要であるが、蒸発量が多いために長寿命化を満足することはできない。逆に高粘度基油を用いると蒸発特性が良好になるため長寿命化は図れるものの、低温起動時に高電圧を必要とする。このように、低温環境下における起動性の向上とグリースの長寿命化の両立は非常に困難であるという問題がある。
【0006】
また、樹脂潤滑用グリースの基油には、歯車等を構成する樹脂材料へのケミカルアタックを避けるために、一般に合成炭化水素油(ポリαオレフィン等)が使用されている。しかしながら、合成炭化水素油はリチウム石鹸からなる増ちょう剤との相性が悪く、離油現象が大きくなり、油のにじみ出しによる製品の汚染と歯車の静粛性が損なわれるという問題がある。
【0007】
さらに、アクチュエータに設置される歯車の軸受部には、一般に、ケース材と一体成型されたポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂製のピンを使用しているが、長期使用に伴い、樹脂部材の摩耗が起こり、樹脂材料の強度を高めるために配合されているガラス繊維が部材表面から露出する。そして露出した硬質のガラス繊維が、さらにアブレシブ摩耗を引き起こし、歯車と軸受部のクリアランスが大きくなり、これにより振動や騒音が発
生するという問題がある。
加えて樹脂歯車装置の長期使用に伴い、樹脂歯車表面のグリースが接触面から排除され、歯車同士が振動し、騒音悪化に繋がる虞があるという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、樹脂(プラスチック)歯車装置等に対して、潤滑剤として要求される潤滑特性のみならず、特に低温環境下における起動性の向上を図れ、耐摩耗性を向上させることができるグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、低粘度の基油を用い、増粘剤としてスチレン系共重合体及び/又は液状イソプレンゴムを使用することにより、優れた低温起動性や離油の抑制が可能となることを見出した。
加えて、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンとメラミンシアヌレートを使用し、また耐摩耗剤としてトリクレジルホスフェート又は高分子エステルを使用することにより、樹脂軸受部の摩耗耐性が向上することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、樹脂用グリース組成物において、
(a)ポリアルファオレフィン油からなる100℃における動粘度4〜6mm
2/sである基油、
(b)リチウム石鹸からなる増ちょう剤、
(c)増粘剤、
(d)メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンを含む固体潤滑剤、並びに(e)耐摩耗剤
前記(c)増粘剤は、数平均分子量が100,000乃至200,000のスチレンイソプレン樹脂、及び液状イソプレンゴムの何れか一方又は双方を含むことを特徴とする、樹脂用グリース組成物に関する。
【0011】
ここで前記(c)増粘剤がスチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムのいずれか一方を含む場合、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂を0.5質量%乃至6質量%の割合で、又は液状イソプレンゴムを5質量%乃至12質量%の割合で含むことが好ましい。
或いは前記(c)増粘剤がスチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムの双方を含む場合、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムの混合増粘成分を0.9質量%乃至12質量%の割合で含むことが好ましい。
また前記(c)増粘剤として、さらにポリブテン、ポリイソブテン及びポリイソブチレンのうちの少なくとも何れか一つを含んでいてもよい。
【0012】
前記(d)固体潤滑剤は、樹脂用グリース組成物の総質量に基づいて、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンの混合潤滑成分を2質量%乃至10質量%の割合で含むことが好ましい。
中でも前記(d)固体潤滑剤は、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンをポリテトラフルオロエチレンに対するメラミンシアヌレートの質量割合が0.6乃至9となる割合にて含むことが好ましい。
特に好適な態様として、前記(d)固体潤滑剤が、メラミンシアヌレートとポリテトラフルオロエチレンのみからなるものが挙げられる。
また、前記(d)固体潤滑剤として、さらに、炭酸カルシウム及び二硫化モリブデンのいずれか一方又は双方を含んでいてもよい。
さらに前記(d)固体潤滑剤は、粒径15〜30μmのメラミンシアヌレート及び粒径10〜25μmのポリテトラフルオロエチレンを含む態様とすることができる。
【0013】
さらに前記(e)耐摩耗剤は、トリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を含むことが好ましく、このとき、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、トリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を0.5質量%乃至3質量%の割合で含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂用グリース組成物は、樹脂製の歯車や軸受部等の摺動部品に対して優れた潤滑特性を提供するのみならず、部品への油のにじみ(離油)が改善され、且つ低温における起動性(低電圧化)や耐摩耗特性を優れたものとすることができる。
このため本発明の樹脂用グリース組成物は、自動車のアクチュエータや、OA機器やAV機器の軸受等の摺動部に好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例で実施したレオメータ測定に用いたレオメータ装置の概念図である。
【
図2】
図2は、実施例で実施した摩耗試験に用いた装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂用グリース組成物は、(a)基油、(b)増ちょう剤、(c)増粘剤、(d)固体潤滑剤、並びに(e)耐摩耗剤を含有する。本発明の樹脂用グリース組成物は、例えばそのちょう度をNLGIちょう度番号00号、0号、1号又は2号であるものとすることができる。
【0017】
本発明の樹脂用グリース組成物に使用する(a)基油は、低粘度の合成炭化水素油を使用し、具体的にはポリアルファオレフィン油(以下、PAOとも称する)からなる。本発明において、上記PAOからなる基油は、100℃における動粘度が4〜6mm
2/sであるものを使用する。
本発明において、該基油の粘度が上記数値範囲より大きい場合、低温下におけるトルク性能が劣ることとなり、また上記数値範囲より小さい場合には、高温での蒸発量が増加するため好適でない。
【0018】
上記(a)基油は、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて70質量%乃至90質量%の割合で含むことが好ましい。
【0019】
本発明の樹脂用グリース組成物は(b)増ちょう剤としてリチウム石鹸を使用する。
【0020】
上記(b)増ちょう剤は、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて3質量%乃至15質量%の割合で含むことが好ましい。
なお本発明の樹脂用グリース組成物は、例えばそのNLGIちょう度番号が00号、0号、1号又は2号となるよう、上記(a)基油及び上記(b)増ちょう剤の配合量を適宜調整することができる。
【0021】
本発明の樹脂用グリース組成物において、(c)増粘剤は、グリース組成物に通常使用されるポリマー等を使用でき、中でも増粘剤としての効果、並びにグリース組成物として使用した時の装置の低温起動性や耐久性等への効果等を考慮し、スチレンイソプレン樹脂や液状イソプレンゴムを使用することが特に好ましい。
【0022】
スチレンイソプレン樹脂としては、数平均分子量が100,000乃至200,000のものを好適に使用し得、分子量が高いものの方が増粘剤としての作用が大きいものとな
る。
本発明で使用するスチレンイソプレン樹脂は上述の数平均分子量を有するものであれば特に限定されず好適に使用し得るが、具体例を挙げるとすれば、たとえばJSR(株)製JSR SIS 5200、同5405、同5505;ルーブリゾール(Lubrizol)社製Lubrizol(登録商標)7306、同7308、同7460;インフィニアムジャパン(株)製Infineum(登録商標)SV140、同SV150、同SV160;(株)クラレ製Septon(登録商標)1001、同1020などが挙げられる。
【0023】
また液状イソプレンゴムとしては、イソプレン単分子のみからなるホモポリマータイプのポリマーを使用することが好ましい。なおブタジエンを含むコポリマータイプの液状イソプレンゴムは、加熱により熱硬化を起こし、すなわちグリース組成物に配合した場合にグリースの固化やそれによる機動性の悪化をもたらす問題を生じ得るため、好ましくない。
上記液状イソプレンゴム(ホモポリマー)は、数平均分子量が28,000乃至54,000程度の範囲にあるものが好ましい。なお、一般に数平均分子量が100,000を超えるものを多量に含有すると固化する虞があり、基油への分散性が悪くなる。
本発明で使用する液状イソプレンゴムは上述の性質を有するものであれば特に限定されず好適に使用し得るが、具体例を挙げるとすれば、たとえば(株)クラレ製クラプレン(登録商標)LIR−30、同LIR−50、同LIR−200、同LIR−290;ロイヤルエラストマーズ(ROYAL ELASTOMERS)社製ISOLENE40、同400などが挙げられる。
【0024】
上記(c)増粘剤としてスチレンイソプレン樹脂又は液状イソプレンゴムを単独使用する場合、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂は0.5質量%乃至6質量%の割合で、より好ましくは2質量%乃至4質量%の割合で含むことが好ましい。また液状イソプレンゴムは、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、5質量%乃至12質量の割合で、より好ましくは5質量%乃至8質量%の割合で含むことが好ましい。
また、上記(c)増粘剤としてスチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムを併用する場合、液状イソプレンに対するスチレンイソプレン樹脂の質量割合が2乃至5となる割合、すなわち、スチレンイソプレン樹脂/液状イソプレンゴム=2乃至5の質量割合にて併用することが好ましい。
そして、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、スチレンイソプレン樹脂及び液状イソプレンゴムの混合増粘成分を0.9質量%乃至12質量%の割合で、より好ましくは0.9質量%乃至6質量%の割合で含むことが好ましい。
【0025】
またこの他にも、増粘剤としてポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン等を併用することもできる。但し、高粘度を有するPAO100等のポリアルファオレフィン、或いはアルファオレフィンコポリマー(AOCP)等は、低温下における粘度上昇が懸念されるため使用を控えることが望ましい。
【0026】
本発明の樹脂用グリース組成物において、(d)固体潤滑剤は、メラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンを併用することが好ましい。特に本発明の効果を最も好適に発揮するという観点より、メラミンシアヌレートとポリテトラフルオロエチレンのみを使用することが好ましい。
これらは、ポリテトラフルオロエチレンに対するメラミンシアヌレートの質量割合が0.6乃至9となる割合、すなわち、メラミンシアヌレート/ポリテトラフルオロエチレン=0.6乃至9の質量割合にて併用することが好ましい。そしてメラミンシアヌレート及びポリテトラフルオロエチレンの混合潤滑成分を、本発明の樹脂用グリース組成物の総質
量に基いて2質量%乃至10質量%の割合で含むことが好ましい。
また好適な態様として、粒径15〜30μmのメラミンシアヌレートと、粒径10〜25μmのポリテトラフルオロエチレンとを用いることができる。
なお、本発明の効果を損なわない範囲において、(d)固体潤滑剤として、炭酸カルシウムや二硫化モリブデンなどの当該技術分野に既知の固体潤滑剤を配合してもよい。
【0027】
本発明の樹脂用グリース組成物において、(e)耐摩耗剤はトリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を含むことが好ましい。
上記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。上記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
そしてこれらトリクレジルホスフェート及び高分子エステルのいずれか一方又は双方を、本発明の樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、0.5質量%乃至3質量%にて含むことが好ましい。
【0028】
また、本発明の樹脂用グリース組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上剤、腐食防止剤等の当該技術分野に既知の各種添加剤を適宜選択して配合してもよい。
例えば酸化防止剤としては、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
これら酸化防止剤は一種を単独で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよく、通常、樹脂用グリース組成物の総質量に基いて、0.01質量%乃至5質量%の割合で添加することが好ましい。
【0029】
前述した通り、本発明の樹脂用グリース組成物は、NLGIちょう度番号が00号、0号、1号又は2号(すなわち混和ちょう度範囲にするとおよそ430〜260の範囲内にあるもの)のちょう度を有するものとすることができる。これ以上に柔らかいグリース組成物とした場合、使用時にグリースの漏えいが起こり、また硬い場合は接触面にグリースが残存しにくくなる。
【0030】
本発明の樹脂用グリース組成物を用いて潤滑する樹脂部材の樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、ポリアセタール(POM)、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、フェノール樹脂(PF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る樹脂グリース組成物は、複写機、プリンター等の事務機器用部品、減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モーター等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制御系
部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車補強部品、電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品、食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品や相対運動する機械部品等に広く適用可能であり、また、転がり軸受、スラスト軸受、動圧軸受、樹脂軸受、直動装置等の軸受等にも適用可能である。
【0032】
特に本発明の樹脂用グリース組成物は、自動車のアクチュエータ等において問題となる騒音の低減に効果を発揮し得る。
アクチュエータは、一例としてステッピングモータと、前記ステッピングモータの回転を順に減速して回転トルクを増強する少なくとも複数段の歯車で構成される歯車装置と、これらを内部に設置するベース部材から構成される。このとき、ステッピングモータが回転すると、ステッピングモータで発生した振動が最終的に第1段歯車と第2段歯車の噛合箇所に集まり、噛合箇所に大きな周期音を発生させる。また、第1段歯車と第2段歯車は回転方向が異なるため、これらの振動と音圧に差異が生じ、振動音圧が大きい回転方向の振動音が騒音として耳につくことになる。また軸受部の摩耗により隙間が生じて、これもまた振動と騒音の原因となる。
またアクチュエータは低温環境下における動作も想定されるため、低温起動時にグリースの粘度上昇による起動トルクへの影響も無視できない。
本発明の樹脂用グリース組成物は、歯車の噛み合せ部及び歯車の軸受部等に使用することにより、騒音の低減のみならず製品寿命の長期化を図ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例及び比較例のグリースの調製に使用した各成分の詳細及びその略称は以下のとおりである。
(a)基油
・PAO:ポリαオレフィン(100℃における動粘度:4mm
2/s)
(b)増ちょう剤
・Li石鹸:12ヒドロキシステアリン酸リチウム
(c)増粘剤
・SIP:スチレンイソプレン樹脂(Infineum(登録商標)SV150)
・LIR:液状イソプレンゴム(クラプレン(登録商標)LIR−50)
(d)固体潤滑剤
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(粒径10〜25μm)
・MCA:メラミンシアヌレート(粒径15〜30μm)
(e)耐摩耗剤
・TCP:トリクレジルホスフェート
・高分子エステル:クローダジャパン製 PRIOLUBE(登録商標)3986
(その他添加剤)
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【0035】
〔グリース組成物の調製〕
下記各表に示す配合量にて(a)基油及び(b)増ちょう剤を加熱撹拌し、溶解させた後冷却し、ここに(c)増粘剤、(d)固体潤滑剤、(e)耐摩耗剤及び酸化防止剤を加え、ロールミルで均質化し、実施例1乃至実施例20並びに比較例1乃至比較例9のグリース組成物を調製した。
得られたグリース組成物について、混和ちょう度、離油度、レオメータ測定(起動トルク評価)及び耐摩耗性(軸受部摩耗)についてそれぞれ以下の手順を用いて評価した。
【0036】
(1)混和ちょう度(JIS K2220 7.)
グリースの外観的硬さを評価するものであり、潤滑油の粘度に相当するものといえる。
試験温度:25℃
試験方法:JIS K2220 7.に準拠し、標準円すいを用いる混和ちょう度試験の手順に従い、混和ちょう度測定を行った。
【0037】
(2)離油度試験(JIS K2220 11.)
離油度は、静的な条件におけるグリースの油分離傾向を評価するものである。
離油度は、円錘型金網を用いたろ過器に試料である各グリース組成物20gを取り、重量既知のビーカー中につるし、規定温度(100℃)の恒温槽内に規定時間(24時間)保ち、放冷後ビーカー中の分離油の重量を測定し、試料に対する質量%として算出される。得られた分離油の質量%は以下の基準に従い評価した。分離油の質量%の数値が高い(グリースの油分離性が大きい)と貯蔵安定性が悪く、軸受などの長期使用に対しても不都合である。
・温度:100℃ 時間:24時間
[評価:分離油の質量%]
0質量%以上〜7質量%以下: ○ 使用可能
7質量%超 〜 : × 使用不可
【0038】
(3)レオメータ測定
図1のレオメータ装置を用い、上部回転するプレートと下部固定のプレート間にあるギャップを設定し、そのギャップ間に各グリース組成物を挟みこみ、−40℃の環境に保持後、せん断速度が10s
−1となる条件下で、起動時のトルク(低温起動トルク)を測定した。測定された低温起動トルクの値について以下の基準に従い評価した。
・測定器:レオメータ(
図1参照)
・測定温度:−40℃
・プレートのギャップ:0.5mm
・せん断速度:10s
−1
[評価:低温起動トルク]
7mN/m以下 :○ 低温起動性に優れる
10mN・m以下 :△ 低温期性にやや劣る
10mN・m超 :× 低温起動に劣る
【0039】
(4)摩耗試験評価
図2の摩耗試験の概念図に示すように、樹脂軸と樹脂製円柱ブロックによる負荷試験を実施し、耐摩耗性(軸受部摩耗)を評価した。
[測定条件]
・樹脂軸 軸径:直径4mm、樹脂材料:ガラスフィラ−30%配合 ポリブチレンテレフタレート(PBT)
・樹脂製円柱ブロック:径10mm、樹脂材料:ポリアセタール(POM)(ガラスフィラーなし)
・荷重:30Ncm 温度:室温(約25℃)
・軸周速20rpm 4.2mm/s
・試験時間:500時間
[手順]
図2(概念図)に示す樹脂軸の外周面に各グリース組成物を塗布した後、該樹脂軸を樹脂製円柱ブロックに挿入した。前記円柱ブロックに錘(負荷荷重)を付けて荷重をかけ、
樹脂軸を回転機(図示せず)に接続し、回転させた。上記測定条件に示す条件にて回転させた後、前記円柱ブロックと接している樹脂軸の外周面を観察した。
[評価]
耐久試験後に目視により円柱ブロックに接している樹脂軸の外周面の摩耗状況を観察し、以下の評価基準にて評価した。
○;摩耗なし
×;摩耗あり(ガラス繊維のむき出しが見られる)
【0040】
[実施例1乃至実施例6、比較例1及び比較例2]
スチレンイソプレン樹脂(SIP)の添加量を種々変化させた実施例及び比較例のグリース組成物を調製し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、増粘剤である(c)スチレンイソプレン樹脂の含有量が増加するにつれて離油度は向上するものの、粘度が上昇して低温起動トルクが悪化する結果となり、反対にスチレンイソプレン樹脂の含有量が減少するにつれて離油度は悪化し、一方粘度は低下して低温起動トルクへの影響は少ないとする結果を得た。
【0043】
[実施例7乃至実施例9、比較例3及び比較例4]
液状イソプレンゴム(LIR)の添加量を種々変化させた実施例及び比較例のグリース組成物を調製し、各種評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、スチレンイソプレン樹脂の結果と同様に、液状イソプレンゴムの
添加量の増加に伴い離油度の向上と低温起動トルクの悪化が見られ、添加量の減少に伴い離油度の悪化と低温起動トルクの向上が見られた。
【0046】
[実施例10乃至実施例13]
スチレンイソプレン樹脂(SIP)と液状イソプレンゴム(LIR)を併用し、それぞれの添加量を種々変化させた実施例のグリース組成物を調製し、各種評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、スチレンイソプレン樹脂/液状イソプレンゴムの併用割合を質量比で2〜5、これらの総添加量を0.9〜12質量%とすることにより、評価項目を概ね満足するグリース組成物が得られた。
【0049】
[実施例1(再掲)及び実施例14乃至実施例17]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びメラミンシアヌレート(MCA)の併用割合を種々変化させた実施例のグリース組成物を調製し、各種評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すように、メラミンシアヌレート/ポリテトラフルオロエチレンの併用割合を質量比で
0.6〜9の範囲、これらの総添加量を2〜10質量%とすることにより、総ての評価項目を満足するグリース組成物が得られた。
【0052】
[実施例1(再掲)及び実施例18乃至実施例20並びに比較例9]
トリクレジルホスフェート(TCP)又は高分子エステルの配合割合を種々変化させた実施例及び比較例のグリース組成物を調製し、各種評価を行った。得られた結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
表5に示すように、トリクレジルホスフェートまたは高分子エステルを添加した実施例のグリース組成物は耐摩耗性に優れていたが、これらを含まない比較例9は耐摩耗性に劣るとの結果を得た。
【0055】
以上、表1乃至表5に示すように、実施例1乃至実施例20の樹脂用グリース組成物において、(c)増粘剤として液状イソプレンゴム及び/又はスチレンイソプレン樹脂を配合することにより低温における起動性及び耐久性(軸の摩耗低減)に効果があることが確認された。また、増粘剤の添加量を好適な範囲より増加させてしまうと、低温における粘度が増加し、起動性が悪化するとする結果を得た。
【0056】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。