特許第6077757号(P6077757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077757電子顕微鏡観察用染色剤および電子顕微鏡観察用試料の染色方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077757
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】電子顕微鏡観察用染色剤および電子顕微鏡観察用試料の染色方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20170130BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20170130BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 33/48 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   G01N1/28 F
   G01N1/30
   H01J37/20 F
   !G01N33/48 P
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-93703(P2012-93703)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-221854(P2013-221854A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】中越 雅道
(72)【発明者】
【氏名】西岡 秀夫
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−523141(JP,A)
【文献】 特開平06−288882(JP,A)
【文献】 特開平10−206301(JP,A)
【文献】 特開2011−112468(JP,A)
【文献】 特開2000−345052(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0240456(US,A1)
【文献】 特開2012−255697(JP,A)
【文献】 特開2012−247411(JP,A)
【文献】 山口正視,電子顕微鏡試料作製におけるトラブルシューティング 微生物試料作製におけるトラブルシューティング ,顕微鏡 ,日本,2007年 3月30日,Vol.42 No.1 ,Page.26-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00〜1/44、23/00〜23/22、33/48〜33/98、H01J37/20、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)、Science Direct、DWPI(Thomson Innovation)、CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酢酸イッテルビウムを含有する、電子顕微鏡観察用染色剤。
【請求項2】
請求項1に記載の電子顕微鏡観察用染色剤に試料を接触させる工程を含む、電子顕微鏡観察用試料の染色方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記電子顕微鏡観察用染色剤に接触した試料を、鉛化合物を含有する染色液に接触させる工程をさらに含む、電子顕微鏡観察用試料の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡観察用染色剤および電子顕微鏡観察用試料の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の微細な構造等を観察する装置として、光学顕微鏡や電子顕微鏡が知られている。特に、電子顕微鏡は光学顕微鏡と比べて分解能が高いため、より微細な構造を観察する際に有効である。しかしながら、生体試料は、炭素、酸素、窒素、水素などの軽元素を含んで構成されているため、電子線を十分に散乱させることができない。したがって、電子顕微鏡で観察しても、電子顕微鏡像に十分なコントラストが得られない場合がある。そのため、電子顕微鏡で生体試料を観察する際には、一般的に、試料を重金属等で電子染色する。試料を電子染色することにより、電子線の散乱を促し、電子顕微鏡像にコントラストをつけることができる。
【0003】
従来、電子染色剤(電子顕微鏡観察用染色剤)として、酢酸ウラニルが用いられていた。酢酸ウラニルは、高い染色効果を有しており、酢酸ウラニルで生体試料を染色することにより、高いコントラストの電子顕微鏡像を得ることができる。
【0004】
また、特許文献1には、電子染色剤として、白金ブルー([Pt(NH(C13+5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−286729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、酢酸ウラニルは高い染色効果を有しているが、放射性物質のため、入手や使用に厳しい規制がある。そのため、酢酸ウラニルに代替する電子染色剤が求められている。上述した特許文献1に開示された白金ブルーは、酢酸ウラニルに代替する電子染色剤の1つとして知られている。
【0007】
白金ブルーは、時間が経過すると変質する場合があるため、使用にあわせて合成することが望ましい。しかしながら、白金ブルーの合成には、通常5〜7日程度の時間が必要であり、かつ高度な化学的知識を必要とする。したがって、白金ブルーを用いた電子染色では、白金ブルーの合成に時間や手間がかかってしまい、簡便に電子染色を行うことができないという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、簡便に電子染色を行うことができ、かつ高い染色効果を有する電子顕微鏡観察用染色剤および電子顕微鏡観察用試料の染色方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸イッテルビウムを含有する。
【0010】
このような電子顕微鏡観察用染色剤によれば、高い染色効果を有することができる。さらに、三酢酸イッテルビウムは、合成等の必要がなく、例えば、水に溶解させるだけで電子染色剤として用いることができる。したがって、簡便に電子染色を行うことができる。さらに、ネガティブ染色においても、高い染色効果を有することができる。
【0011】
(2)本発明に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法は、
本発明に係る電子顕微鏡観察用染色剤に試料を接触させる工程を含む。
【0012】
このような電子顕微鏡観察用試料の染色方法によれば、試料を、簡便かつ良好に電子染色することができる。
【0013】
(3)本発明に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法において、
前記電子顕微鏡観察用染色剤に接触した試料を、鉛化合物を含有する染色液に接触させる工程をさらに含んでいてもよい。
【0014】
このような電子顕微鏡観察用試料の染色方法によれば、染色効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】三酢酸イッテルビウムで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像。
図2】酢酸ウラニルで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像。
図3】三酢酸イッテルビウムで染色された肝臓の透過電子顕微鏡像。
図4】酢酸ウラニルで染色された肝臓の透過電子顕微鏡像。
図5】三酢酸イッテルビウムで染色された海馬の透過電子顕微鏡像。
図6】酢酸ウラニルで染色された海馬の透過電子顕微鏡像。
図7】三酢酸イッテルビウムで染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像。
図8】酢酸ウラニルで染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像。
図9】三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像。
図10】酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像。
図11】三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された肝臓の透過電子顕微鏡像。
図12】酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された肝臓の透過電子顕微鏡像。
図13】三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された海馬の透過電子顕微鏡像。
図14】酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された海馬の透過電子顕微鏡像。
図15】三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像。
図16】酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像。
図17】三酢酸イッテルビウムで染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像。
図18】酢酸ウラニルで染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像。
図19】三酢酸イッテルビウムで染色されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像。
図20】酢酸ウラニルで染色されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡観察用染色剤
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤について説明する。
【0018】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸イッテルビウム(Yb(CHCOO))を含有する。なお、三酢酸イッテルビウムを含有するとは、三酢酸イッテルビウムの水和物を含有している場合も含むものとする。三酢酸イッテルビウムの水和物としては、例えば、酢酸イッテルビウム四水和物(Ytterbium(III) acetate tetrahydrate, Yb(CHCOO)・4HO)が挙げられる。
【0019】
ここで、電子顕微鏡観察用染色剤とは、電子顕微鏡観察の対象となる試料を染色するための染色剤(電子染色剤)をいう。なお、染色とは、いわゆる電子染色をいい、試料の特定の部位に電子の散乱を促す物質(重金属等)を吸着または結合させることをいう。電子顕微鏡観察用染色剤を用いて試料を染色することにより、電子顕微鏡像にコントラストをつけることができる。
【0020】
また、染色された試料の観察に用いられる電子顕微鏡としては、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、STEM)などが挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、例えば、三酢酸イッテルビウム水溶液である。三酢酸イッテルビウム水溶液の濃度は特に限定されず、例えば、1〜10質量%である。
【0022】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸イッテルビウムに加えて、さらに、三酢酸イッテルビウム以外の物質を含有していてもよい。
【0023】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、例えば、タンパク質などの生体高分子を含んで構成される生体試料、ウイルス、リポソーム等の微粒子、炭素、酸素、窒素、水素などの軽元素を含んで構成される試料等を染色することができる。
【0024】
1.2. 電子顕微鏡観察用試料の作製方法
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法について説明する。本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法を含む。以下、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法の一例として、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法を、生体試料に適用した場合について説明する。
【0025】
まず、生体試料をエポキシ樹脂に包埋する。具体的には、まず、灌流固定または浸漬固定した生体試料を切り出す。そして、切り出された生体試料を、カコジル酸緩衝1〜4%パラホルムアルデヒドと1〜4%グルタールアルデヒドとの混合液に浸漬し、前固定する。なお、前固定は、カコジル酸緩衝1〜4%パラホルムアルデヒドだけで行ってもよいし、1〜4%グルタールアルデヒドだけで行ってもよい。次に、前固定された生体試料を、カコジル酸緩衝液で洗浄し、1〜2%四酸化オスミウムで後固定する。そして、後固定された生体試料を上昇エタノール系列で脱水した後、エポキシ樹脂に包埋する。このようにして、生体試料をエポキシ樹脂に包埋することができる。なお、生体試料を包埋するための材料はエポキシ樹脂に限定されず、例えば、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、パラフィン等を用いてもよい。
【0026】
次に、エポキシ樹脂に包埋された生体試料を薄片化する。薄片化は、例えば、ミクロトーム(ウルトラミクロトーム)を用いて行われる。
【0027】
次に、薄片化された生体試料を染色する。染色は、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を薄片化された生体試料に接触させることにより行われる。例えば、染色は、三酢酸イッテルビウム水溶液に、薄片化された生体試料を浸漬させることにより行われる。ここで、三酢酸イッテルビウム水溶液の温度は、例えば、5℃以上50℃以下である。また、浸漬時間は、例えば、1分以上10時間以下である。その後、染色された生体試料を純水等で洗浄する。
【0028】
以上の工程により、電子顕微鏡観察用試料を作製することができる。
【0029】
1.3. 実施例1
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0030】
(1)試料作製
本実施例では、三酢酸イッテルビウムで染色された生体試料の(透過)電子顕微鏡観察用試料を作製した。生体試料としては、腎臓糸球体、肝臓、海馬、およびほうれん草の葉を用いた。具体的には、まず、灌流固定した生体試料(腎臓糸球体、肝臓、海馬、ほうれん草の葉)を切り出し、カコジル酸緩衝2%パラホルムアルデヒドと2%グルタールアルデヒドとの混合液に浸漬し、前固定した。次に、前固定された生体試料を、カコジル酸緩衝液で洗浄し、2%四酸化オスミウムで後固定した。そして、上昇エタノール系列で脱水し、エポキシ樹脂に包埋した。
【0031】
次に、エポキシ樹脂に包埋された生体試料を薄片化した。薄片化は、ウルトラミクロトームを用いて行った。次に、薄片化された生体試料を、三酢酸イッテルビウム水溶液に室温で30分間浸漬した。なお、三酢酸イッテルビウム水溶液は、三酢酸イッテルビウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解させることによって作製した。また、三酢酸イッテルビウム水溶液の濃度は、2質量%とした。その後、染色された生体試料を純水で洗浄した。このようにして、三酢酸イッテルビウムで染色された生体試料の電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0032】
なお、比較例として、酢酸ウラニル(2質量%)で染色された生体試料(腎臓糸球体、肝臓、海馬、ほうれん草の葉)の電子顕微鏡観察用試料を作製した。具体的には、三酢酸イッテルビウムにかえて酢酸ウラニルを用いて染色した点を除いて、上述した三酢酸イッテルビウムで染色した場合の試料作製工程と同様の工程でこれらの試料を作製した。
【0033】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡で観察した。図1は、三酢酸イッテルビウムで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像である。図2は、酢酸ウラニルで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像である。
【0034】
図1に示すように、三酢酸イッテルビウムで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像では、核、蛸足細胞、内皮細胞、赤血球等が染色されていることが確認でき、これらが高いコントラストで鮮明に観察できた。また、図1に示す透過電子顕微鏡像では、図2に示す酢酸ウラニルで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストが得られた。このように、三酢酸イッテルビウムは、高い染色効果(電子染色効果)を有することがわかった。
【0035】
図3は、三酢酸イッテルビウムで染色された肝臓の透過電子顕微鏡像である。図4は、酢酸ウラニルで染色された肝臓の透過電子顕微鏡像である。また、図5は、三酢酸イッテルビウムで染色された海馬の透過電子顕微鏡像である。図6は、酢酸ウラニルで染色された海馬の透過電子顕微鏡像である。また、図7は、三酢酸イッテルビウムで染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像である。図8は、酢酸ウラニルで染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像である。
【0036】
図1および図2に示す腎臓糸球体の場合と同様に、図3図5図7に示す三酢酸イッテルビウムで染色された生体試料(肝臓、海馬、ほうれん草の葉)の透過電子顕微鏡像では、図4図6図8に示す酢酸ウラニルで染色された生体試料の透過電子顕微鏡像と同等の高いコントラストが得られた。このように、三酢酸イッテルビウムは、高い染色効果(電子染色効果)を有することがわかった。
【0037】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤によれば、三酢酸イッテルビウムを含有していることにより、高い染色効果を有することができる。さらに、三酢酸イッテルビウムは、合成等の必要がなく、例えば、水等に溶解させるだけで電子染色剤として用いることができる。したがって、簡便に電子染色を行うことができる。
【0038】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法によれば、上述したように、簡便に電子染色を行うことができ、かつ高い染色効果を有する本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を用いて染色するため、試料を、簡便かつ良好に染色することができる。
【0039】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡観察用試料の作製方法
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法について説明する。
【0040】
第2実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製工程に加えて、さらに、第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤に接触した試料を、鉛化合物を含有する染色液に接触させる工程を含む。
【0041】
第2実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、例えば、三酢酸イッテルビウムで染色された試料を、鉛化合物を含有する染色液に浸漬する工程を含む。すなわち、第2実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法では、試料を、三酢酸イッテルビウムと鉛化合物を含有する染色液とによって二重染色する。
【0042】
鉛化合物としては、例えば、クエン酸鉛が挙げられる。このクエン酸鉛を含有する染色液(クエン酸鉛染色液)としては、例えば、レイノルド(Reynolds)法で処方されたものが挙げられる。クエン酸鉛染色液の温度は、例えば、5℃以上50℃以下である。また、浸漬時間は、例えば、1分以上10時間以下程度である。クエン酸鉛染色液に浸漬された試料は、純水等によって洗浄される。また、鉛化合物として、例えば、硝酸鉛を用いてもよい。以上の工程により、電子顕微鏡観察用試料を作製することができる。
【0043】
2.2. 実施例2
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0044】
(1)試料作製
本実施例では、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された生体試料の電子顕微鏡観察用試料を作製した。生体試料としては、腎臓糸球体、肝臓、海馬、およびほうれん草の葉を用いた。具体的には、上述した実施例1と同様の工程で、生体試料を三酢酸イッテルビウムで染色し、この三酢酸イッテルビウムで染色された生体試料をレイノルドのクエン酸鉛染色液に室温で10分間浸漬し、その後、純水で洗浄した。
【0045】
また、比較例として、酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された生体試料(腎臓糸球体、肝臓、海馬、およびほうれん草の葉)の電子顕微鏡観察用試料を作製した。具体的には、三酢酸イッテルビウムにかえて、酢酸ウラニルを用いる点を除いて、上述した三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された試料の試料作製工程と同様の工程でこれらの試料を作製した。
【0046】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡で観察した。
【0047】
図9は、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像である。図10は、酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像である。図9に示すように、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像では、核、蛸足細胞、内皮細胞、赤血球等が染色されていることが確認でき、これらが高いコントラストで鮮明に観察できた。また、図9に示す透過電子顕微鏡像では、図10に示す酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストが得られた。また、図9に示す透過電子顕微鏡像では、図1に示す三酢酸イッテルビウムのみで染色された腎臓糸球体の透過電子顕微鏡像と比べて、より高いコントラストが得られた。このように、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された場合、三酢酸イッテルビウムのみで染色された場合と比べて、より染色効果を高めることができることがわかった。
【0048】
図11は、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された肝臓の透過電子顕微鏡像である。図12は、酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された肝臓の透過電子顕微鏡像である。また、図13は、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された海馬の透過電子顕微鏡像である。図14は、酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された海馬の透過電子顕微鏡像である。また、図15は、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像である。図16は、酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色されたほうれん草の葉の透過電子顕微鏡像である。
【0049】
図9および図10に示す腎臓糸球体の場合と同様に、図11図13図15に示す三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された生体試料(肝臓、海馬、ほうれん草の葉)の透過電子顕微鏡像では、図12図14図16に示す酢酸ウラニルとクエン酸鉛染色液とで二重染色された生体試料の透過電子顕微鏡像と同等の高いコントラストが得られた。また、図11図13図15に示す透過電子顕微鏡像では、図3図5図7に示す三酢酸イッテルビウムのみで染色された生体試料(肝臓、海馬、ほうれん草の葉)の透過電子顕微鏡像と比べて、より高いコントラストが得られた。このように、三酢酸イッテルビウムとクエン酸鉛染色液とを用いた二重染色は、高い染色効果(電子染色効果)を有することがわかった。
【0050】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法によれば、三酢酸イッテルビウムを含有する電子顕微鏡観察用染色剤と鉛染色液とで二重染色を行うことにより、三酢酸イッテルビウムを含有する電子顕微鏡観察用染色剤のみで染色を行った場合と比較して、より染色効果を高めることができる。
【0051】
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡観察用試料の作製方法
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法について説明する。
【0052】
第3実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法では、本発明に係る電子顕微鏡観察用染色剤を、ネガティブ染色法に適用した。
【0053】
第3実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、本発明に係る電子顕微鏡観察用染色剤にウイルスやタンパク質等の試料を接触させることにより行う。具体的には、例えば、カーボン支持膜等を備えたグリッド上に、ウイルス等を含む試料を載せ、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤(三酢酸イッテルビウム水溶液)を加える。これにより、染色剤の一部が、グリッドの支持膜と試料との間、試料の凹凸の凹部等に残留し、透過電子顕微鏡像にコントラストがつく(ネガティブ染色法)。
【0054】
3.2. 実施例3
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0055】
(1)試料作製
本実施例では、三酢酸イッテルビウムで染色された、バクテリオファージの一種であるT4ファージの(透過)電子顕微鏡観察用試料を作製した。具体的には、支持膜を備えたグリッド上にT4ファージを吸着させ、三酢酸イッテルビウム水溶液を加える。そして、余分な三酢酸イッテルビウム水溶液を濾紙で吸い取り乾燥させた。なお、三酢酸イッテルビウム水溶液は、三酢酸イッテルビウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解させることによって作製した。また、三酢酸イッテルビウム水溶液の濃度は、2質量%とした。
【0056】
また、同様の工程で、三酢酸イッテルビウムで染色された、線維状タンパク質であるβ−アミロイドの(透過)電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0057】
なお、比較例として、酢酸ウラニル(2質量%)で染色された、T4ファージおよびβ−アミロイドの電子顕微鏡観察用試料を作製した。具体的には、三酢酸イッテルビウムにかえて酢酸ウラニルを用いて染色した点を除いて、上述した三酢酸イッテルビウムで染色した場合の試料作製工程と同様の工程でこれらの試料を作製した。
【0058】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡で観察した。図17は、三酢酸イッテルビウムで染色(ネガティブ染色)されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。図18は、酢酸ウラニルで染色(ネガティブ染色)されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。
【0059】
図17に示すように、三酢酸イッテルビウムで染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像では、T4ファージが高いコントラストで鮮明に観察できた。また、図17に示す透過電子顕微鏡像では、図18に示す酢酸ウラニルで染色(ネガティブ染色)されたT4ファージの透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストが得られた。
【0060】
また、図19は、三酢酸イッテルビウムで染色(ネガティブ染色)されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像である。図20は、酢酸ウラニルで染色(ネガティブ染色)されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像である。
【0061】
図17および図18に示すT4ファージの場合と同様に、図19に示す三酢酸イッテルビウムで染色されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像では、図20に示す酢酸ウラニルで染色されたβ−アミロイドの透過電子顕微鏡像と同等の高いコントラストが得られた。
【0062】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤によれば、三酢酸イッテルビウムを含有していることにより、ネガティブ染色法においても、高い染色効果を有することができる。
【0063】
なお、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
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