(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
印刷用インクの色材としては、大別して染料と顔料がある。染料を用いる場合、発色が良いといった利点がある。また、顔料に比べ耐摩耗性、特に耐擦過性に優れるという利点がある。しかし、染料自体の耐水性及び耐マーカー性が低いという問題がある。
【0003】
これに対して、染料を樹脂で包含して着色樹脂粒子の形態とすることで、染料の発色性をいかしたまま、耐擦過性とともに耐水性及び耐マーカー性にも優れるインクを提供する方法がある。ここで、樹脂としては、インクに耐擦過性、耐水性及び耐マーカー性を付与する特性を有することが望まれる。
【0004】
特許文献1、特許文献2及び非特許文献1には、有機溶媒Aと、有機溶媒Aとほとんど相溶性がない有機溶媒Bとを使用して、有機溶媒Bと樹脂とを含む分散相及び有機溶媒Aを含む連続相からなる分散液とした後、分散液から減圧又は加熱により有機溶媒Bを除去することで、有機溶媒A中に高分子粒子が分散した高分子粒子分散物を製造することが提案されている。
【0005】
すなわち、有機溶媒B中に有機溶媒Aに溶解しない樹脂を溶解させて内包させたものを、連続相となる有機溶媒A中に分散させ、その後有機溶媒Bを減圧又は加熱によって除去することにより、高分子粒子が有機溶媒A中に安定に分散した高分子粒子分散物を得ることが提案されている。
【0006】
分散相の樹脂として、特許文献1の実施例ではスチレン−マレイン酸共重合樹脂が使用され、特許文献2の実施例ではスチレン−マレイン酸共重合樹脂及びポリビニルピロリドンが使用され、非特許文献1ではポリビニルピロリドンが使用されている。これらの樹脂は、負に解離する極性基を有する樹脂や、正に解離する極性基を有する樹脂であり、負の電荷や正の電荷を有する高分子粒子を形成し、安定な分散液が提供されることが提案されている。
【0007】
特許文献3では、有機溶媒Aと、有機溶媒Aとほとんど相溶性がない有機溶媒Bを使用して、有機溶媒Bと多官能モノマーまたは樹脂と重合開始剤とを含む分散相及び有機溶媒Aを含む連続相からなる分散液とした後、光または熱により架橋反応を生じさせ、分散液から減圧又は加熱により有機溶媒Bを除去することで、有機溶媒A中に高分子粒子が分散した高分子粒子分散物を製造することが提案されている。
【0008】
上記文献によれば、高分子粒子分散物は、インキ、複写用トナーをはじめ、各種用途の塗料、さらにカラー化される液晶、携帯端末用カラーフィルター、電子ブック及び電子ペーパーの着色材料として、ナノレベルからマイクロレベルの高分子粒子が安定に分散されることが望まれる。
【0009】
しかしながら、これらの高分子粒子分散物を用いて印刷用インキを調整した場合に、用紙等へ印刷されたインキ画像の耐水性、耐マーカー性及び耐擦過性について、上記文献では検討されていない。上記文献の分散相の樹脂として、インキの耐水性、耐マーカー性及び耐擦過性が向上する樹脂を用いた場合に、分散液の安定性を維持することは難しいという問題がある。
【0010】
また、特許文献3の方法では、分散相中の多官能モノマーまたは樹脂の重合反応が必要であり、高分子粒子分散物の製造工程数がかかるという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態による着色樹脂粒子分散体(以下、単に「分散体」という場合がある)は、非水系溶剤A(以下、単に「溶剤A」という場合がある)と、非水系溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり非水系溶剤Aよりも沸点が低い非水系溶剤B(以下、単に「溶剤B」という場合がある)を用いて、非水系溶剤Aと塩基性分散剤とを含む連続相に、非水系溶剤Bと染料と樹脂と酸性分散剤とを含む分散相を分散させて油中油型エマルションを作製し、油中油型エマルションから、減圧及び/または加熱により非水系溶剤Bを除去したものであり、塩基性分散剤は、非水系溶剤Bよりも非水系溶剤Aに対する溶解度が高く、樹脂は、非水系溶剤Aよりも非水系溶剤Bに対する溶解度が高いことを特徴とする。
【0018】
これによって、耐水性とともに耐マーカー性及び耐擦過性に優れるインクを提供することができる。
【0019】
本実施形態によれば、分散相中に、酸性分散剤を含有することで、樹脂の種類によらず、油中油型エマルションを優れた乳化安定性で調整することができ、特に、耐水性とともに耐マーカー性及び耐擦過性に優れる樹脂を用いた場合でも、優れた乳化安定性の油中油型エマルションを提供することができる。これによって、耐水性とともに耐マーカー性及び耐擦過性に優れる着色樹脂粒子分散体を提供することができ、また、これを含むインクを提供することができる。
【0020】
本実施形態による分散体は、連続相と分散相とを混合して油中油(O/O)型エマルションを作製し、これから分散相のうち溶剤Bを減圧及び/または加熱することで除去して得られる。
【0021】
連続相としては、溶剤Aと塩基性分散剤とを含む。
【0022】
溶剤Aとしては、後述する塩基性分散剤、溶剤B及び樹脂との関係性を満たすように、各種非水系溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0023】
ここで、非水系溶剤とは、非極性有機溶剤および極性有機溶剤であって、50%留出点が100℃以上の溶剤をいう(以下同じ)。50%留出点は、JIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定される、質量で50%の溶剤が揮発したときの温度を意味する。
【0024】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を挙げることができ、市販品としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、エクソンモビール社製「Isopar(アイソパー)E、Isopar G、Isopar H、Isopar L、Isopar M、Exxsol DSP100/140、Exxsol D30、Exxsol D40、Exxsol D80、Exxsol D100、Exxsol D130、Exxsol D140」、日本サン石油株式会社製「サンセン、サンパー」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、エクソンモビール社製「ソルベッソ200」等を好ましく挙げることができる。
【0025】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤、およびこれらの混合溶剤を用いることができる。たとえば、炭素数8〜20の高級脂肪酸と炭素数1〜24のアルコールとのエステルであるエステル系溶剤、炭素数8〜24の高級アルコール、および炭素数8〜20の高級脂肪酸からなる群から選ばれた1種以上を使用できる。
【0026】
極性有機溶剤としてより具体的には、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなどのエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、デシテトラデカノールなどの高級アルコール系溶剤;ノナン酸、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などの高級脂肪酸系溶剤;ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、が好ましく挙げられる。
これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0027】
これらの中でも、溶剤Aとして、非極性有機溶剤が好ましく、より好ましくはナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の炭化水素溶剤である。
【0028】
溶剤Aの溶解度パラメーターとしては、8.5(cal/cm
3)
1/2以下であることが好ましく、より好ましくは8.0(cal/cm
3)
1/2以下である。
【0029】
溶剤Aの沸点としては、400℃以下であることが好ましく、より好ましくは300℃以下である。一方、溶剤Aの沸点の下限値は、溶剤Aの揮発を防止して着色樹脂粒子分散体の安定性を保つために、90℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0030】
塩基性分散剤は、塩基性官能基を有する分散剤である。塩基性分散剤としては、溶剤Bよりも溶剤Aに対する溶解度が高ければ、特に限定されない。
【0031】
好ましくは、塩基性分散剤は、溶剤Bに対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり、より好ましくは0.5g/100g以下である。また、好ましくは、塩基性分散剤は、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g以上であり、より好ましくは5g/100g以上である。さらに好ましくは、油中水型エマルションの配合割合において、溶剤Aに塩基性分散剤が実質的に全て溶解し、溶剤Bに塩基性分散剤が実質的に溶解しないように、塩基性分散剤が選択される。
【0032】
塩基性分散剤の塩基性官能基としては、例えばアミノ基、ピリジル基等を挙げることができ、中でもアミノ基であることが好ましい。
【0033】
塩基性分散剤としては、例えば、塩基性基変性ポリウレタン、塩基性基変性ポリ(メタ)アクリレート、塩基性基変性ポリエステル、ポリエステルアミン、第4級アンモニウム塩、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、脂肪酸アミン塩等を挙げることができる。これらは、単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
塩基性分散剤として、市販されているものとしては、例えば、
日本ルーブリゾール株式会社製「13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、
ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERKBYK116、2096、2163」(いずれも商品名)、
花王株式会社製「アセタミン24、86(アルキルアミン塩系)」(いずれも商品名)、
楠本化成株式会社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0035】
塩基性分散剤の含有量としては、着色樹脂粒子分散体全体に対し0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0036】
連続相には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等のその他の任意成分を添加してもよい。
【0037】
分散相としては、溶剤Bと染料と樹脂と酸性分散剤とを含む。
【0038】
溶剤Bは、上記した溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり、溶剤Aよりも沸点が低いものである。
【0039】
溶剤Bとしては、非水系溶剤から適宜選択して用いることができ、好ましくは極性有機溶剤であり、より好ましくは低級アルコール系溶剤である。低級アルコール系溶剤としては、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等を挙げることができる。さらに好ましくは、炭素数4以下の低級アルコール系溶剤である。
【0040】
溶剤Bのその他の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等を挙げることができ、さらに、上記した溶剤Aの具体例の中から、溶剤A、塩基性分散剤及び樹脂との関係性を満たすものを適宜選択して用いることができる。
これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0041】
溶剤Bの溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100gであるが、より好ましくは、23℃で1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下であり、一層好ましくは、実質的に溶解しないことである。
【0042】
溶剤Bと溶剤Aとの沸点の差は、10℃以上であることが好ましく、より好ましくは20℃以上である。また、溶剤Bの沸点は、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下である。一方、溶剤Bの沸点の下限値は、溶剤Bが−20〜90℃の範囲で液状であれば特に制限されない。
【0043】
溶剤Bの溶解度パラメーターとしては、9(cal/cm
3)
1/2以上であることが好ましく、より好ましくは10(cal/cm
3)
1/2以上である。
【0044】
また、溶剤Aが炭化水素系溶剤であり、溶剤Bが炭素数4以下のアルコール系溶剤であることが好ましい。炭化水素系溶剤の好ましい例としては、パラフィン、イソパラフィン等であり、炭素数4以上のアルコール系溶剤の好ましい例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等であり、より好ましくはメタノールである。
【0045】
染料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができ、例えば、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料、金属錯塩染料等を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
好ましくは、染料は、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いことで、分散相中で溶剤Bに染料とともに樹脂が溶解して着色樹脂粒子分散体を安定して提供することができる。
【0047】
ここで、染料は、溶剤Aに対する溶解度が23℃で0.5g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.1g/100g以下である。また、染料は、溶剤Bに対する溶解度が23℃で0.5g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは1g/100g以上である。さらに好ましくは、油中水型エマルションの配合割合において、溶剤Bに染料が実質的に全て溶解し、溶剤Aに染料が実質的に溶解しないように、染料が選択される。
【0048】
また、染料は、分散相中の樹脂に対し溶解性がある油溶性染料であることが好ましい。また、酸性染料を用いることで、連続相に塩基性分散剤が含まれ、分散相に酸性の酸性染料が含まれるため、油中油型エマルションをより安定化することができる。より好ましくは金属錯塩染料である。
【0049】
このような油溶性染料としては、例えば、オリエント化学工業株式会社製「OIL COLORSシリーズ」、「VALIFAST COLORSシリーズ」等を挙げることができる。
【0050】
染料の含有量としては、着色樹脂粒子分散体全体に対し、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%であり、一層好ましくは2〜20質量%である。
【0051】
樹脂としては、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いものである。
【0052】
樹脂の溶剤Bに対する溶解度は23℃で10g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは20g/100g以上である。また、樹脂の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、樹脂は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0053】
樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ロジン樹脂、ロジン変性樹脂、スチレン−無水マレイン酸樹脂及びそのエステル、アルキルフェノール樹脂、ケトン樹脂、アルコール溶解性ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。このうち、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0054】
使用できる樹脂のうちポリビニルアルコールのけん化度としては、60mol%以下であることが好ましく、より好ましくは40mol%以下であり、一層好ましくは10mol%以下である。けん化度が60mol%以下であることで、溶剤Bへの溶解度が増す。
【0055】
樹脂は、水に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下であり、一層好ましくは実質的に溶解しないことである。これによって、樹脂自体の耐水性が高くなることで、分散体の耐水性も高まり、印刷画像の耐水性を高めることができる。
【0056】
樹脂の重量平均分子量としては、3000〜100000が好ましく、より好ましくは5000〜80000である。
【0057】
樹脂の含有量としては、着色樹脂粒子分散体全量に対し、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%であり、一層好ましくは2〜20質量%である。
【0058】
酸性分散剤は、酸性官能基を有する分散剤である。酸性分散剤を添加することで、耐擦過性をより向上させることができる。これは、分散相の樹脂に、酸価の低い樹脂を用いて耐水性を付与する場合、耐擦過性が低下することがあるが、この樹脂とともに酸性分散剤を添加することで、耐擦過性もともに向上させることができる。
【0059】
また、分散相に酸性分散剤を添加することで、連続相と分散相とからなる油中油型エマルションの乳化安定性を高めることができる。
【0060】
酸性分散剤は、特に制限されないが、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いことが好ましい。酸性分散剤の溶剤Bに対する溶解度は23℃で1g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは2g/100g以上である。また、酸性分散剤の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、酸性分散剤は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0061】
酸性分散剤は、酸価を持つことが好ましい。酸性分散剤の酸価は、好ましくは30KOHmg/g以上であり、より好ましくは60KOHmg/g以上であり、一層好ましくは90KOHmg/g以上である。
【0062】
ここで、酸価は、分散剤固形分1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。以下同じである。
【0063】
酸性分散剤としては、例えば、酸性基を有する共重合体またはコポリマー、酸性基を有するブロック共重合物のアルキルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、水酸基含有カルボン酸エステル、高分子量ポリカルボン酸の塩等の脂肪酸塩、ポリエーテルエステル型アニオン性界面活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等のリン酸エステル及びその塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸塩等を挙げることができる。これらは、単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
中でも、酸価が90KOHmg/g以上であるリン酸エステル及び/または酸価が90KOHmg/g以上であるアルキルアンモニウム塩が好ましい。
【0065】
酸性分散剤として、市販されているものとしては、例えば、
ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK102、108、110、111、180」(いずれも商品名)、
巴工業株式会社製「TEGODisper655」等を挙げることができる。
【0066】
酸性分散剤の含有量としては、着色樹脂微粒子分散体全体に対し0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。
【0067】
酸性分散剤と染料の質量比は、(酸性分散剤の質量)/(染料の質量)≧0.5であることが好ましい。この範囲で、連続相と分散相とを混合及び攪拌したときに、乳化安定性に優れた油中油型エマルションを提供することができる。
【0068】
分散相には、本発明の効果を損なわない範囲で、消泡剤、酸化防止剤、表面張力調整剤等のその他の任意成分を添加してもよい。
【0069】
着色樹脂粒子分散体において、着色樹脂粒子の平均粒径は、10μm以下程度であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが一層好ましい。記録媒体の種類に応じて着色樹脂粒子の平均粒径を適宜調整してもよく、例えば、コート紙を用いた印刷物の裏抜けを抑制するためには、この平均粒径は150nm程度であることが好ましい。ここで、顔料複合体の平均粒径は、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−500」により測定された値である。
【0070】
着色樹脂粒子の平均粒径は、連続相に配合される塩基性分散剤の量、または、分散相に配合される固形分の量等を調整することで制御することができる。
【0071】
着色樹脂粒子分散体の調整方法としては、特に限定されず、上記した連続相に上記した分散相を分散させて油中油型エマルションを作製し、この油中油型エマルションから、減圧及び/または加熱により分散相中の非水系溶剤Bを除去することで調整することができる。
【0072】
例えば、連続相及び分散相は、上記した各成分を混合して調整することができる。その後、連続相に分散相を滴下しながら混合及び攪拌することで、連続相に分散相を分散させることができる。このとき、混合及び攪拌は、超音波ホモジナイザーを用いて行うことができる。得られた油中油型エマルションから減圧及び/または加熱により非水系溶剤Bを除去する。このとき、減圧及び/または加熱の程度は、非水系溶剤Bが除去されるが、非水系溶剤Aは残るように調整する。
【0073】
また、油中油型エマルションの連続相と分散相との質量比は、40:60〜95:5の範囲で調整することができる。非水系溶剤Bの添加量は、油中油型エマルション全体に対し、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。また、非水系溶剤Bの除去量は、配合された非水系溶剤B全量であることが望まししいが、配合された非水系溶剤B全量に対し90質量%以上であればよい。
【0074】
本実施形態によるインクとしては、上記した着色樹脂粒子分散体を含むインクである。このインクは、インクジェット印刷、オフセット印刷、孔版印刷、グラビア印刷等の印刷インク全般として用いることができる。特に、分散安定性が良好であるため、インクジェット用インクとして用いることが好ましい。
【0075】
インクジェット用インクとして用いる場合、着色樹脂粒子分散体をそのまま用いることも可能であり、また、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。例えば、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。また、着色樹脂粒子分散体を上記した非水系溶剤で希釈してもよい。
【0076】
インクジェット用インクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、最も好ましい。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0077】
インクジェット用インクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0078】
記録媒体としては、特に限定されず、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが使用できる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
<インク調整>
表1から表3に、溶剤B除去前の実施例及び比較例の油中油型エマルションの処方を示す。各表において、分散剤の酸価の単位は「KOHmg/g」であり、分散剤に揮発分が含まれる場合は、分散剤の全体量とともに不揮発分量をカッコ内に併せて示す(後述する表4〜表6も同じである)。
【0081】
各表に示す溶剤A及び塩基性分散剤を各配合量で混合し連続相を調整した。次に、各表に示す溶剤Bに、染料、樹脂及び酸性分散剤を各配合量で混合し分散相を調整した。
【0082】
連続相をマグネティックスターラーで攪拌した状態で、この連続相に、予め混合しておいた分散相を滴下しながら、超音波ホモジナイザー「Ultrasonic processor VC―750」(ソニックス社製)を10分間照射し、油中油(O/O)型エマルションを得た。
【0083】
得られたエマルションを、エバポレーターで減圧しながら、分散相中の溶剤Bを除去して、着色樹脂粒子分散体を得た。溶剤Bの除去率は、ほぼ100質量%であった。この着色微粒子分散体をそのままインクとして用いた。
【0084】
表4から表6に、溶剤B除去後の実施例及び比較例のインクの処方を示す。インク全量に対する固形分(塩基性分散剤、染料、樹脂、酸性分散剤及び比較分散剤)の合計量から、固形分量を求め、各表に併せて示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
各表に示す成分は、以下の通りである。
(連続相)
塩基性分散剤:日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース17000」、不揮発分100%
炭化水素系溶剤:イソパラフィン系炭化水素、エクソンモビール社製「Isopar M」
【0089】
(分散相)
メタノール:炭素数1のアルコール系溶剤、和光純薬工業株式会社製
酸性分散剤1:特殊変性ポリエーテル重合物のリン酸エステル、巴工業株式会社製「TEGODisper655」、不揮発分100%
酸性分散剤2:酸基を有する共重合物(リン酸エステル)、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK−111」、不揮発分95.0%
酸性分散剤3:酸基を有するブロック共重合物のアルキルアンモニウム塩、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK−180」、不揮発分81%、
比較分散剤1:ノニオン性分散剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK−192」、不揮発分98%
比較分散剤2:塩基性分散剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK−2155」、不揮発分99%
黒色金属錯塩染料:オリエント化学工業株式会社製「Valifast Black 3810」
黄色金属錯塩染料:オリエント化学工業株式会社製「Valifast Yellow 1101」
ポリビニルアルコール:けん化度2.7mol%、重量平均分子量15000、日本酢ビ・ポバール製「JMR−8L」
ポリビニルピロリドン:重量平均分子量40000、和光純薬工業株式会社製「PVP K−30」
スチレンマレイン酸樹脂:重量平均分子量7000、川原油化株式会社製「SMAレジン1440F」
【0090】
溶剤Bであるメタノールは、溶剤Aである炭化水素系溶剤(Isopar M)に対する溶解度が23℃で0.4g/100gである。また、メタノールの沸点は64.7℃であり、Iopar Mの沸点はおよそ222℃である。
【0091】
塩基性分散剤であるソルスパース17000は、表1から表3に示す連続相の配合割合で溶剤Aに溶解し、溶剤Bに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
染料は、それぞれ、表1から表3に示す分散相の配合割合で溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対する溶解度が23℃で0.5g/100g未満であった。
樹脂は、それぞれ、表1から表3に示す分散相の配合割合で溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であり、水に対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
酸性分散剤1〜3及び比較分散剤1及び2は、表1から表3に示す分散相の配合割合で溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
<評価>
上記した各インクを用いて、耐擦過性、耐水性、耐マーカー性及び着色樹脂粒子粒子径について評価を行った。結果を各表に併せて示す。
【0096】
(耐擦過性)
上記した各インクをライン式インクジェットプリンタ「オルフィスHC5500」(理想科学工業株式会社製)に装填し、コート紙「オーロラコート」(日本製紙株式会社製)に、ベタ画像を印刷して、印刷物を得た。印刷は、解像度300×300dpiにて、1ドット当りのインク量が42plの吐出条件で行った。なお、「オルフィスHC5500」は、ライン型インクジェットヘッドを使用し、主走査方向(ノズルが並んでいる方向)に直交する副走査方向に用紙を搬送して印刷を行うシステムである。
【0097】
印刷後300秒放置後及び24時間放置後に、印刷物のベタ画像部分を指で強く5回擦った時の状態を目視で観察し、耐擦過性を次の基準で評価した。
A:画像のはがれがほとんど確認されないレベル。
B:画像のはがれが確認されるが実際の使用上問題ないレベル。
C:画像のはがれが顕著であり実際の使用上問題あるレベル。
【0098】
(耐水性)
上記した耐擦過性と同様にして印刷物を得た。印刷後300秒放置後、印刷物のベタ画像部分に0.5mlの水を垂らして、そのにじみ具合を目視で観察して、耐水性を次の基準で評価した。
A:印刷画像部分がにじまないレベル。
B:印刷画像部分が若干にじむが実際の使用上問題ないレベル。
C:印刷画像部分がにじみ実際の使用上問題あるレベル。
【0099】
(耐マーカー性)
上記した耐擦過性と同様にして印刷物を得た。印刷後300秒放置後、コート紙印字部の文字上を、コクヨ株式会社製ラインマーカーペン「PM−L103Y」で線を描き、その状態を目視で観察して、耐マーカー性を次の基準で評価した。
A:印刷画像部分が汚れない、または印刷画像部分の周りがわずかに汚れるレベル。
B:印刷画像部分の周りが汚れたが実際の使用上問題ないレベル。
C:印刷画像部分の周りが汚れ実際の使用上問題あるレベル。
【0100】
(着色樹脂粒子平均粒径)
上記した各インクについて、インク中に分散している着色樹脂粒子の平均粒径を動的光散乱式粒径分布測定装置「LB―500」(株式会社堀場製作所製)を用いて、散乱光強度から算出した。
【0101】
上記各表に示す通り、各実施例のインクは、耐擦過性、耐水性及び耐マーカー性が良好であり、また、着色樹脂粒子の平均粒径も適正な範囲であった。
【0102】
比較例1及び2では、樹脂としてポリビニルピロリドンを用いて分散相に分散剤を含まず、良好な結果が得られなかった。比較例3及び4では、それぞれ比較分散剤1及び2としてノニオン性分散剤及び塩基性分散剤を用いており、各成分を乳化できずインクを調製できなかった。比較例5及び6では、樹脂としてポリビニルアルコールを用いて分散相に分散剤を含まず、良好な結果が得られなかった。