(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の磁気バネ装置として、バネ定数やバネ力を自由に変えることが可能な磁気バネ装置が提案されている。この磁気バネ装置は、例えば電子部品などの小型部品や精密部品の組み付けを行うロボットのアーム先端とワーク(あるいはハンド)との間などに取り付けられ、部品の破損を防ぐための緩衝装置として用いられる。このような緩衝装置として用いられる磁気バネ装置では、設置後の調整や設備の仕様変更などで、バネ定数やバネ力などのバネの特性の変更が必要になる場合が多い。
【0003】
図20に従来の磁気バネ装置の一例を示す(例えば、特許文献1参照)。この磁気バネ装置400は、可動子21(可動子ヨーク22、永久磁石23)と固定子24(コイル25,26、ギャップ調整用固定子ヨーク27〜30、固定子コア31,32)と可動子21を支持するケース33と、可動子21と固定子24との間のギャップの間隔を変えるギャップ調整機構34〜37によって構成されている。
【0004】
この磁気バネ装置400では、コイル25,26に電流が流されていない場合、永久磁石23による磁束40,41が固定子24のヨーク27〜32に流れ、可動子21の変位0で安定状態にある。そのため、可動子21がプラスに変位してもマイナスに変位しても可動子21を変位0の中心点(原点)に戻そうとする吸引力が発生する。これにより、永久磁石23の吸引力のみで、可動子21の軸方向移動に対するバネ力(磁気バネ力)が得られる。
【0005】
これに対し、コイル25,26に電流を流すと、このコイル25,26に流れる電流(コイル電流)による磁束38,39が発生する。永久磁石23による磁束40,41をコイル電流による磁束38,39で弱めることで、磁気吸引力が減少し、バネ定数が小さくなる。逆に、永久磁石23による磁束40,41をコイル電流による磁束38,39で強めることで、磁気吸引力が増加し、バネ定数が大きくなる。
【0006】
また、ギャップ調整機構34〜37により、可動子21と固定子24との間のギャップ(21−27間、21−28間、21−29間、21−30間)の間隔を大きくすることで、磁気抵抗が増加し、永久磁石23から固定子24のヨーク27〜32に流れる磁束が減少することで磁気吸引力が減少し、バネ定数が小さくなる。逆に、可動子21と固定子24との間のギャップ(21−27間、21−28間、21−29間、21−30間)の間隔を小さくすることで、磁気抵抗が減少し、永久磁石23から固定子24のヨーク27〜32に流れる磁束が増加することで磁気吸引力が増加し、バネ定数が大きくなる。
【0007】
図21に従来の磁気バネ装置の他の例を示す(例えば、特許文献2参照)。この磁気バネ装置500は、円筒形状の固定軸51と、この固定軸51内に軸方向に移動可能に挿入された円柱形状の可動軸52と、固定軸51の内周に固定された円筒形状の固定側永久磁石53と、可動軸52の外周に固定された円筒形状の可動側永久磁石54とを備え、固定側永久磁石53および可動側永久磁石54は、N極着磁帯とS極着磁帯とが交互に着磁されて円周方向に分割され、固定側永久磁石53のN極着磁帯とS極着磁帯とをまたぐように鉄心55が固定され、この固定側永久磁石53に固定された鉄心55にコイル56が巻かれている。
【0008】
この磁気バネ装置500では、固定側永久磁石53と可動側永久磁石54との間に、固定軸51と可動軸52との軸方向および円周方向の相対変位に反発するように吸引力が発生し、軸方向に作用する吸引力がバネ力としてバネ機能を発揮し、円周方向に作用する吸引力が可動軸52の回転止めとして機能する。また、コイル56,56に電流を流すことにより、このコイル56,56に流れる電流(コイル電流)によって発生する磁束が固定側永久磁石53の磁束に作用し、バネ力を変化させる。すなわち、固定側永久磁石53による磁束をコイル電流による磁束で弱めることで、磁気吸引力が減少し、バネ力が弱くなる。逆に、固定側永久磁石53による磁束をコイル電流による磁束で強めることで、磁気吸引力が増加し、バネ力が強くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る磁気バネ装置の一実施の形態(実施の形態1)の要部を示す図である。
【
図2】実施の形態1の磁気バネ装置において磁気バネ力が発生する原理を説明する図である。
【
図3】本発明に係る磁気バネ装置の他の実施の形態(実施の形態2)の要部を示す図である。
【
図4】実施の形態2の磁気バネ装置において磁気バネ力が発生する原理を説明する図である。
【
図5】複数の薄板状の磁性体を積層してヨーク部を構成するようにした場合の磁気バネ装置の要部を示す図である。
【
図6】ヨーク部に段差を設けて永久磁石の可動子側への移動を規制するようにした磁気バネ装置の要部を示す図である。
【
図7】ヨーク部に突起を設けて永久磁石の可動子側への移動を規制するようにした磁気バネ装置の要部を示す図である。
【
図8】ヨーク部に非磁性体のスペーサを介して永久磁石を着脱可能に設けるようにした磁気バネ装置の要部を示す図である。
【
図9】永久磁石の着脱時に必要な力を低減するための機構の第1例を示す図である。
【
図10】永久磁石の着脱時に必要な力を低減するための機構の第2例を示す図である。
【
図11】永久磁石の着脱時に必要な力を低減するための機構の第3例を示す図である。
【
図12】永久磁石の着脱時に必要な力を低減するための機構の第4例を示す図である。
【
図13】永久磁石を交換するための機構として短冊状の永久磁石ホルダを用いた例を示す図である。
【
図14】永久磁石を交換するための機構として円盤状の永久磁石ホルダを用いた例を示す図である。
【
図15】ヨーク部の永久磁石の設置部を斜めに拡げるようにした例を示す図である。
【
図16】ヨーク部の永久磁石の設置部の厚みを段階的に変えるようにした例を示す図である。
【
図17】ヨーク部間に複数の永久磁石を設けるようにした例を示す図である。
【
図18】ヨーク部間の永久磁石に対してその極性を逆として磁力調整用の永久磁石を設けるようにして例を示す図である。
【
図19】ヨーク部間に着脱可能にバイパスヨークを接触させて設けるようにした例を示す図である。
【
図20】従来のバネ定数可変磁気バネ装置の一例を示す図である。
【
図21】従来のバネ定数可変磁気バネ装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔発明の原理〕
永久磁石により磁力を得るようにすれば、電磁石を利用せずに済むので、常時電力を消費する問題を解消することができる。一方で、永久磁石を可動子に備えようとすると、可動子の大きさや重量、形状などの設計上の制約により、使用できる永久磁石も制約を受けるため、必要な最大磁力を確保できるとは限らない。動特性の点からも可動子の重量への制約があり、つまり、重量が重いと慣性力のため動特性が低下し、また、可動子の自重はバネ力にも影響する。さらに、一般的に可動子は、ブッシュなどのリニアガイドに取り付けられて外部の部材に接続されているシャフトなどに固定されており、脱着しにくいことが多い。
【0018】
本願の発明者は、磁束を供給する永久磁石と磁束が供給される可動子とを別個に備えることにより、可動子の大きさや重量、形状など設計上の制約には基本的に影響されることなく、必要なバネ力を得るための磁力を確保できる永久磁石を採用でき、永久磁石の交換や脱着という点でも有利であることに着眼した。なお、可動子を構成する磁性体には、飽和磁束密度や透磁率が大きく、保磁力が小さく、磁気ヒステリシスの小さい軟磁性材料(例えば、電磁鋼板、電磁軟鉄、パーマロイなど)を使い、様々な永久磁石から(ヨーク経由で)供給される磁束に対応できるようにしておくことが好ましい。
【0019】
ところで、永久磁石を採用すると、バネ力を容易に変更することが困難となる。すなわち、永久磁石を採用することによりバネ力が完全に固定されてしまい、磁気バネの利用者にとって装置設計が煩わしくなる。
【0020】
それに対して、本願の発明者は、鋭意研究の結果、磁気バネ力を利用する装置では、特定の限られた固定的なバネ力に選択可能であれば十分であるケースが多いことを突き止めた。すなわち、任意かつ連続的にバネ力を変化させることは必ずしも必要ではなく、特定の限られたバネ力に選択的に固定することができれば十分であるケースが多いことを突き止めた。
【0021】
この場合、磁束を供給する永久磁石と磁束が供給される可動子とを別個に備えた構成とすれば、可動子はそのままで永久磁石のみを交換可能な設計とすることが可能になり、また、可動子に対する永久磁石の位置を変更可能な設計としたり、永久磁石の個数を増減させることが可能な設計としたりすることにより、永久磁石から可動子への磁束の供給状態を選択することも出来るようになるため、特定の限られたバネ力に選択的に固定することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
〔実施の形態1〕
図1に本発明に係る磁気バネ装置の一実施の形態(実施の形態1)の要部を示す。
図1(a)はこの実施の形態1の磁気バネ装置の平面図、
図1(b)は
図1(a)におけるI−I線断面図である。
【0023】
図1において、1はN極から出てS極に戻る磁束を発生する永久磁石、2および3は永久磁石1のN極から出てS極に戻る磁束の磁路を形成するための第1および第2のヨーク部、4は第1のヨーク部2および第2のヨーク部3が形成する磁路中の空間にその軸心Oの位置が規制された状態で軸方向に移動可能に設けられた磁性体からなる可動子である。
【0024】
この実施の形態1の磁気バネ装置100において、第1のヨーク部2および第2のヨーク部3は、平板状とされ、それぞれの一端にほゞ同径の貫通孔2−1および3−1を有し、この貫通孔2−1および3−1の中心軸を一致させて対向して配置されている。可動子4は、円柱状とされ、第1のヨーク部2および第2のヨーク部3の貫通孔2−1,3−1の中心軸にその軸心Oを一致させて、両方の貫通孔2−1,3−1にかかるようにして設置されている。
【0025】
また、可動子4は、その長さLが第1のヨーク部2および第2のヨーク部3の対向する外側の板面2a(第1のヨーク部2の上面),3a(第2のヨーク部3の下面)間の距離Hと同程度とされている。また、可動子4は、図示されていないガイドによって、その軸心Oの位置が規制された状態(可動子4の水平方向の動きが規制された状態)で、軸方向に移動可能に設けられている。すなわち、可動子4の外周面4aを貫通孔2−1,3−1の内周面2−1a,3−1aから離間させた状態で、可動子4が貫通孔2−1,3−1に挿通されている。
【0026】
なお、ガイドを設ける代わりに、可動子4の外周面4aと貫通孔2−1,3−1の内周面2−1a,3−1aとの間に、表面が滑りやすい非磁性体の軸受を設けるようにしてもよい。ガイドや非磁性体の軸受などのように、可動子4の外周面4aと貫通孔2−1,3−1の内周面2−1a,3−1aとを離間させる機構がないと、磁気吸引力で可動子4がヨーク部2,3に吸着されてしまい、(通常で発生させる最大磁気バネ力の数10倍以上の力を加えないと)動かなくなる。
【0027】
また、この磁気バネ装置100において、永久磁石1は直方体とされ、その厚み方向の一方がN極、他方がS極に着磁されている。この永久磁石1は、第1のヨーク部2と第2のヨーク部3との対向空間中、可動子4が設けられた側とは反対側の端部に、そのN極の面(上面)1aおよびS極の面(底面)1bを第1のヨーク部2の下面(内面)2bおよび第2のヨーク部3の上面(内面)3bに接触させるようにして、交換可能にあるいはその位置を変更可能に固定されている。
【0028】
また、この磁気バネ装置100において、永久磁石1は、例えば、ネオジムやサマリウムコバルトなどの希土類磁石またはフェライト磁石などからなる。ヨーク部2,3や可動子4は、飽和磁束密度や透磁率が大きく、保磁力が小さく、磁気ヒステリシスの小さい軟磁性材料(例えば、電磁鋼板、電磁軟鉄、パーマロイなど)からなる。
【0029】
この磁気バネ装置100では、永久磁石1のN極から出てS極に戻る磁束5が第1のヨーク部2、可動子4、第2のヨーク部3の経路で流れ、第1のヨーク部2および第2のヨーク部3と可動子4との間に作用する磁力(吸引力)によって、(無負荷状態における)変位0の中心点(原点)に可動子4が戻ろうとするバネ力(磁気バネ力)が発生する。
【0030】
図2を参照して、この磁気バネ装置100において、磁気バネ力が発生する原理について説明する。なお、
図2は
図1(b)を拡大して示した図である。
【0031】
この磁気バネ装置100において、磁気バネ力は次のような原理によって発生する。すなわち、外力によって可動子4が対向したヨーク部2,3間に押し込められると、可動子4の押し込められた側の端部と押し込められた側のヨーク部2の貫通孔2−1(または、ヨーク部3の貫通孔3−1)間における斜め方向の吸引力により、その吸引力の軸方向の分解ベクトルとして可動子4を中央にもどす垂直方向(軸方向)の磁気バネ力が発生する。
【0032】
なお、この磁気バネ装置100において、永久磁石1の磁極の向きは、N極とS極の向きが逆になっても効果は同じである。また、可動子4の長さLはヨーク部2,3間の距離Hと同程度が磁気バネ力発生の効率がよく好ましいが、長くてもかまわない。また、磁束が可動子4を通過してヨーク部2,3間を流れる程度の範囲であれば短くても構わないが、可動子4の両端に逆方向の磁気バネ力が働くので効率は悪くなる。
【0033】
〔実施の形態2〕
図3に本発明に係る磁気バネ装置の他の実施の形態(実施の形態2)の要部を示す。
図3(a)はこの実施の形態2の磁気バネ装置の平面図、
図3(b)は
図3(a)におけるI−I線断面図である。
【0034】
この実施の形態2の磁気バネ装置200では、間隔をあけてほゞ平行に対向して配置した平板状の第1のヨーク部2と第2のヨーク部3との間に、その軸方向をヨーク部2,3の対向方向に対してほゞ垂直として四角柱状の可動子4を配置している。
【0035】
また、可動子4は、図示されていないガイドによって、その軸心Oの位置が規制された状態(可動子4の水平方向の動きが規制された状態)で、可動子4の軸方向とヨーク部2,3の面方向を平行にして軸方向に移動可能に設けられている。すなわち、可動子4の外周面4a(上面4a1,下面4a2)をヨーク部2,3の内面2b,
3bから離間させた状態で、可動子4がヨーク部2,3の間に配置されている。
【0036】
なお、ガイドを設ける代わりに、可動子4の外周面4aとヨーク部2,3の内面2b,
3bとの間に、表面が滑りやすい非磁性体の軸受を設けるようにしてもよい。ガイドや非磁性体の軸受などのように、可動子4の外周面4aとヨーク部2,3の内面2b,
3bとを離間させる機構がないと、磁気吸引力で可動子4がヨーク部2,3に吸着してしまい、(通常で発生させる最大磁気バネ力の数10倍以上の力を加えないと)動かなくなる。
【0037】
また、この磁気バネ装置200において、可動子4の長さLはヨーク部2,3の幅W(可動子4の近傍に位置するヨーク部2,3の可動子4の軸方向の長さ)と同程度以下とされている。また、この磁気バネ装置200において、永久磁石1は、直方体とされ、その厚み方向の一方がN極、他方がS極に着磁されている。この永久磁石1は、第1のヨーク部2と第2のヨーク部3との対向空間中、可動子4が設けられた側とは反対側の端部に、そのN極の面(上面)1aおよびS極の面(下面)1bを第1のヨーク部2の下面2bおよび第2のヨーク部3の上面3bに接触させるようにして、交換可能にあるいはその位置を変更可能に固定されている。
【0038】
また、この磁気バネ装置200において、永久磁石1は、例えば、ネオジムやサマリウムコバルトなどの希土類磁石またはフェライト磁石などからなる。ヨーク部2,3や可動子4は、飽和磁束密度や透磁率が大きく、保磁力が小さく、磁気ヒステリシスの小さい軟磁性材料(例えば、電磁鋼板、電磁軟鉄、パーマロイなど)からなる。
【0039】
この磁気バネ装置200では、永久磁石1のN極から出てS極に戻る磁束5が第1のヨーク部2、可動子4、第2のヨーク部3の経路で流れ、第1のヨーク部2および第2のヨーク部3と可動子4との間に作用する磁力(吸引力)によって、(無負荷状態における)変位0の中心点(原点)に可動子4が戻ろうとするバネ力(磁気バネ力)が発生する。
【0040】
図4を参照して、この磁気バネ装置200において、磁気バネ力が発生する原理について説明する。なお、
図4は
図3(b)におけるII−II線断面図である。
【0041】
この磁気バネ装置200において、磁気バネ力は次のような原理によって発生する。すなわち、外力によって可動子4が対向したヨーク部2,3間に押し込められると、可動子4の押し込められた側の端部と押し込められた側のヨーク部2の端部間およびヨーク部3の端部間における斜め方向の吸引力により、その吸引力の軸方向の分解ベクトルとして可動子4を中央にもどす垂直方向(軸方向)の磁気バネ力が発生する。なお、可動子4の押し出された側の端部と押し出された側のヨーク部2の端部間およびヨーク部3の端部間においても、わずかな斜め方向の吸引力が働き、その吸引力の軸方向の分解ベクトルとして可動子4を中央にもどす垂直方向(軸方向)のわずかな磁気バネ力が発生するが、押し込められた側の影響が大きい。
【0042】
なお、この磁気バネ装置200において、永久磁石1の磁極の向きは、N極とS極の向きが逆になっても効果は同じである。また、可動子4の形状は、四角柱状に限らず、円柱状、平板状などとしてもよいが、ヨーク面と近接して対向する面積が大きい方が磁気抵抗が小さくなり、より多くの磁束が効率よく流れるようになるので好ましい。また、可動子4の長さLはヨーク幅Wと同程度より短い方が磁気バネ力発生の効率がよく好ましい。また、磁束が可動子4を通過してヨーク部2,3間を流れる範囲であれば、可動子4はどのような形状でも(例えば、柱状を板状まで短くしても、逆に長くしても)構わないが、所望の特性に応じて形状や長さは選択される。
【0043】
以上の説明から分かるように、実施の形態1の磁気バネ装置100や実施の形態2の磁気バネ装置200では、磁束を供給する永久磁石1と磁束が供給される可動子4とを別個に備えた構成としている。
【0044】
これにより、可動子4はそのままで永久磁石1のみを形状、体積、材質などが異なる別の永久磁石と交換することにより、すなわち永久磁石1を磁力の強い磁石に交換したり、磁力の弱い磁石に交換したりすることにより、永久磁石の磁束にコイルからの磁束を作用させ続ける場合のような電力を常時消費し続ける必要性を生じさせることなく、バネの特性を必要に応じて選択的に変更することが可能となる。
【0045】
また、可動子4に対する永久磁石1の位置を変更することにより、すなわち可動子1に作用する磁力を強くしたり、弱くしたりすることにより、永久磁石の磁束にコイルからの磁束を作用させ続ける場合のような電力を常時消費し続ける必要性を生じさせることなく、バネの特性を必要に応じて選択的に変更することが可能となる。
【0046】
また、永久磁石1の個数を増減させることにより、すなわち永久磁石1の個数を増やして磁力を強くしたり、永久磁石1の個数を減らして磁力を弱くしたりすることにより、永久磁石の磁束にコイルからの磁束を作用させ続ける場合のような電力を常時消費し続ける必要性を生じさせることなく、バネの特性を必要に応じて選択的に変更することが可能となる。
【0047】
また、実施の形態1の磁気バネ装置100や実施の形態2の磁気バネ装置200では、磁束を供給する永久磁石1と磁束が供給される可動子4とを別個に備えることにより、可動子4の大きさなど設計上の制約に影響されることなく、必要なバネ力を得るための磁力を確保できる永久磁石1を採用することができる。
【0048】
すなわち、可動子を可動子ヨークと永久磁石とで構成する方式では、コイルからの磁束を作用させることなくバネ力を強くしようとすると、永久磁石が大きくなって可動子が大型化する。これに対して、実施の形態1の磁気バネ装置100や実施の形態2の磁気バネ装置200では、磁束を供給する永久磁石1と磁束が供給される可動子4とを別個に備えた構成としているので、可動子4の大きさはそのままとし、永久磁石1を大きくすることで必要なバネ力を得るための磁力を確保することができるようになる。これにより、可動子4の大きさなど設計上の制約に影響されることなく、またコイルを使用せずに、必要なバネ力を得るための磁力を確保することができるようになる。
【0049】
なお、
図1に示した磁気バネ装置100や
図2に示した磁気バネ装置200では、ヨーク部2,3を1枚の板状の磁性体としているが、ヨーク部2,3を複数の薄板状の磁性体(軟磁性体板)を積層して構成するようにしてもよい。複数の薄板状の磁性体を積層してヨーク部2,3を構成する場合は、例えば
図5に示すように、積層されたそれぞれの軟磁性体板の平面方向と平行に磁束が入って出ていくようにすると、すなわち軟磁性体板の積層方向と磁束の入出力方向を垂直とすると、形状磁気異方性の影響により反磁界の影響が少なく(板厚方向で反磁界が大きい)、磁気抵抗が小さくなるため、効率よく磁束を流すことができるので好ましい。また、可動子4も一体の磁性体で形成してもよいし、板状の磁性体を積層して形成してもよい。
【0050】
また、
図6に示すように、ヨーク部2,3に段差2c,3cを設けて、永久磁石1の可動子4側への移動(吸引による移動)を規制するようにしてもよい。また、
図7に示すように、ヨーク部2,3に突起2d,3dを設けて、永久磁石1の可動子4側への移動(吸引による移動)を規制するようにしてもよい。このヨーク部2,3に設けた段差2c,3cや突起2d,3dが本発明でいう永久磁石の可動子側への移動を規制する移動規制部に相当するが、ヨーク部2,3に窪み部を設けるようにしてもよく、ヨーク部2,3に突起2d,3dに相当するストッパを別部材として設けるようにしてもよい。
【0051】
また、
図8に示すように、ヨーク部2,3に非磁性体のスペーサ(非磁性体スペーサ)6,6を設け、このスペーサ6,6間に永久磁石1を摺動可能に設けるようにしてもよい。このようなスペーサ6,6を設けると、永久磁石1を非磁性体スペーサ6,6間に滑らせるようにして設置したり、滑らせるようにして取り出すことが可能となり、ヨーク部2,3からの永久磁石1
の着脱が容易となる。
【0052】
〔永久磁石の着脱時に必要な力を低減させる機構〕
ヨーク部2,3間に永久磁石1を着脱可能に設ける場合、送りネジやてこ等、永久磁石1の着脱時に必要な力を低減するための機構を設けることが考えられる。
図9〜
図12に永久磁石1の着脱時に必要な力を低減するための機構を例示する。
【0053】
〔第1例:送りネジを用いた例1〕
図9に示した例では、磁気バネ装置200に対して、ねじシャフト7−1と、ねじシャフト7−1の上端に固定された回転つまみ7−2と、ねじシャフト7−1の下端に固定された摺動接触連結体(磁性体)7−3と、ねじシャフト7−1を螺合した固定ナット7−4とからなる着脱力低減機構7Aを設けている。なお、
図9(a)は正面図、
図9(b)は
図9(a)をA方向から見た図である。
【0054】
この着脱力低減機構7Aを用いると、回転つまみ7−2を回すことによって、ねじシャフト7−1の下端に固定された摺動接触連結体7−3を前進あるいは後退させて、ヨーク部2,3に設けられたスペーサ6,6間に永久磁石1を滑らせるようにして設置したり、滑らせるようにして取り出したりして、永久磁石1の着脱時に必要な力を低減させることができる。
【0055】
〔第2例:送りネジを用いた例2〕
図10に示した例では、磁気バネ装置200に対して、ねじシャフト7−1と、ねじシャフト7−1に螺合された回転つまみナット7−5と、回転つまみナット7−5の上下に設けられた固定軸受7−6,7−6と、ねじシャフト7−1の下端に固定された摺動接触連結体(磁性体)7−3とからなる着脱力低減機構7Bを設けている。なお、
図10(a)は正面図、
図10(b)は
図10(a)をA方向から見た図である。
【0056】
この着脱力低減機構7Bを用いると、回転つまみナット7−5を回すことによって、ねじシャフト7−1の下端に固定された摺動接触連結体7−3を前進あるいは後退させて、ヨーク部2,3に設けられたスペーサ6,6間に永久磁石1を滑らせるようにして設置したり、滑らせるようにして取り出したりして、永久磁石1の着脱時に必要な力を低減させることができる。
【0057】
〔第3例:送りネジを用いた例3〕
図11に示した例では、磁気バネ装置200に対して、ねじシャフト7−1と、ねじシャフト7−1の一方の端部に固定された回転つまみ7−2と、ねじシャフト7−1に螺合されたナット7−7と、ナット7−7を挟んで回転つまみ7−2側およびねじシャフト7−1の他方の端部側に設けられた固定軸受7−8,7−8と、ナット7−7に固定された接続部(磁性体)7−9とからなる着脱力低減機構7Cを設けている。なお、
図11(a)は正面図、
図11(b)は
図11(a)をB方向から見た図である。
【0058】
この着脱力低減機構7Cを用いると、回転つまみ7−2を回すことによって、ねじシャフト7−1に螺合されたナット7−7を接続部7−9と共に左右方向に移動させて、ヨーク部2,3に設けられたスペーサ6,6間に永久磁石1を滑らせるようにして設置したり、滑らせるようにして取り出したりして、永久磁石1の着脱時に必要な力を低減させることができる。
【0059】
〔第4例:てこを用いた例〕
図12に示した例では、磁気バネ装置200に対して、支点(固定支点)P1を中心として回動する第1のレバー8−1と、この第1のレバー8−2に支点(移動支点)P2を介して連結された第2のレバー8−2と、第2のレバー8−2の遊端部に固定された接続部(磁性体)8−3とからなる着脱力低減機構8を設けている。なお、
図12(a)は正面図、
図12(b)は
図12(a)をB方向から見た図である。
【0060】
この着脱力低減機構8を用いると、第1のレバー8−1を支点P1を中心として回動することによって、第2のレバー8−2に固定された接続部8−3を左右方向に移動させて、ヨーク部2,3に設けられたスペーサ6,6間に永久磁石1を滑らせるようにして設置したり、滑らせるようにして取り出したりして、永久磁石1の着脱時に必要な力を低減させることができる。
【0061】
〔永久磁石ホルダ〕
永久磁石1を交換する場合、複数の永久磁石が分離して搭載された永久磁石ホルダを用い、この永久磁石ホルダを移動させることによってヨーク部2,3間に選択的に所望の永久磁石を位置させるようにしてもよい。
図13に短冊状の永久磁石ホルダを用いた例を、
図14に円盤状の永久磁石ホルダを用いた例を示す。
【0062】
〔短冊状の永久磁石ホルダを用いた例〕
図13(a)は短冊状の永久磁石ホルダを用いた例を示す平面図であり、
図13(b)は
図13(a)をA方向から見た図である。
【0063】
図13において、9は短冊状の永久磁石ホルダ(スライド磁石ホルダ)であり、非磁性材よりなる。このスライド磁石ホルダ9には、第1の永久磁石1−1と、第2の永久磁石1−2と、第3の永久磁石1−3とが、スライド磁石ホルダ9の長手方向に分離して一列に埋め込まれている。
【0064】
このスライド磁石ホルダ9において、永久磁石1−1,1−2,1−3は、永久磁石1−1,1−2,1−3の順にその大きさが小さくされている。すなわち、永久磁石1−1,1−2,1−3の順にその磁力が弱くされている(永久磁石の種類が同じ場合、磁力は永久磁石の大きさにほぼ比例する。)。また、この永久磁石ホルダ9は、ヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に、永久磁石1−1,1−2,1−3の並び方向(長手方向)へ移動可能に設けられている。
【0065】
図13は、スライド磁石ホルダ9を移動させて、ヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に永久磁石1−1を位置させた状態を示している。この場合、可動子4には、最も磁力が強い永久磁石1−1の磁束が作用している。
【0066】
これに対して、スライド磁石ホルダ9を移動させて、永久磁石1−2をヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に位置させると、永久磁石1−2の磁束が可動子4に作用するものとなる。すなわち、永久磁石1−1の次に磁力が強い永久磁石1−2の磁束が可動子4に作用するものとなる。
【0067】
さらに、スライド磁石ホルダ9を移動させて、永久磁石1−3をヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に位置させると、永久磁石1−3の磁束が可動子4に作用するものとなる。すなわち、最も磁力が弱い永久磁石1−3の磁束が可動子4に作用するものとなる。
【0068】
このようにして、このスライド磁石ホルダ(短冊状の永久磁石ホルダ)9を用いた場合、スライド磁石ホルダ9を移動させるだけで、所望の永久磁石1(1−1〜1−3)をヨーク部2,3間に位置させることができ、永久磁石1の交換を必要に応じて簡単かつ素早く行うことができるものとなる。
【0069】
〔円盤状の永久磁石ホルダを用いた例〕
図14(a)は円盤状の永久磁石ホルダを用いた例を示す平面図であり、
図14(b)は
図14(a)をB方向から見た図である。
【0070】
図14において、10は円盤状の永久磁石ホルダ(回転磁石ホルダ)であり、非磁性材よりなる。この回転磁石ホルダ10には、第1の永久磁石1−1と、第2の永久磁石1−2と、第3の永久磁石1−3と、第4の永久磁石1−4とが、回転磁石ホルダ10のO1を中心とする回転方向に分離して一列に埋め込まれている。
【0071】
この回転磁石ホルダ10において、永久磁石1−1,1−2,1−3,1−4は、永久磁石1−1,1−2,1−3,1−4の順にその大きさが小さくされている。すなわち、永久磁石1−1,1−2,1−3,1−4の順にその磁力が弱くされている(永久磁石の種類が同じ場合、磁力は永久磁石の大きさにほぼ比例する。)。また、この回転磁石ホルダ10は、ヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に、永久磁石1−1,1−2,1−3,1−4の並び方向(回転方向)へ移動可能に設けられている。
【0072】
図14は、回転磁石ホルダ10を回転させて、ヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に永久磁石1−1を位置させた状態を示している。この場合、可動子4には、最も磁力が強い永久磁石1−1の磁束が作用している。
【0073】
これに対して、回転磁石ホルダ10を回転させて、永久磁石1−2をヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に位置させると、永久磁石1−2の磁束が可動子4に作用するものとなる。すなわち、永久磁石1−1の次に磁力が強い永久磁石1−2の磁束が可動子4に作用するものとなる。
【0074】
さらに、回転磁石ホルダ10を回転させて、永久磁石1−3をヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に位置させると、永久磁石1−3の磁束が可動子4に作用するものとなる。すなわち、永久磁石1−2の次に磁力が強い永久磁石1−3の磁束が可動子4に作用するものとなる。
【0075】
さらに、回転磁石ホルダ10を回転させて、永久磁石1−4をヨーク部2,3に設けられた非磁性体スペーサ6,6間に位置させると、永久磁石1−4の磁束が可動子4に作用するものとなる。すなわち、最も磁力が弱い永久磁石1−4の磁束が可動子4に作用するものとなる。
【0076】
このようにして、この回転磁石ホルダ(円盤状の永久磁石ホルダ)10を用いた場合、回転磁石ホルダ10を回転(移動)させるだけで、所望の永久磁石1(1−1〜1−4)をヨーク部2,3間に位置させることができ、永久磁石1の交換を必要に応じて簡単かつ素早く行うことができるものとなる。
【0077】
〔永久磁石からヨークに流れる磁束の制御〕
上述した実施の形態1,2では、ヨーク部2,3の内面2b,3bを平行に対向させるようにしたが、例えば
図15に示すように、ヨーク部2(或いはヨーク部3)の永久磁石1の設置部を斜めに拡げるようにしてもよい。また、例えば
図16に示すように、ヨーク部2(或いはヨーク部3)の永久磁石1の設置部の厚みを段階的に変えるようにしてもよい。このようにすると、永久磁石1のヨーク部2,3間における可動子方向の設置位置を変えて、すなわち永久磁石1のN極(或いはS極)とヨーク部2(或いはヨーク部3)との対向間隔を変えて、永久磁石1からヨーク部2へ流れる磁束を変化させることにより、可動子4に作用する磁力を変化させることができるようになる。
【0078】
なお、
図16のように、ヨーク部2(或いはヨーク部3)の永久磁石1の設置部の厚みを変えた場合、ヨーク内部の磁気抵抗も変化するので、つまり、ヨーク部2(或いはヨーク部3)の薄くした部分の磁気抵抗が高くなるため、上述した対向間隔を広げたことによる磁気抵抗増加分(磁束の低下分)に、ヨーク部2(或いはヨーク部3)の薄くした部分の磁気抵抗増加分(磁束の低下分)が追加される。
【0079】
〔永久磁石の数の増減〕
上述した実施の形態1,2では、永久磁石1をヨーク部2,3間に1つしか設けなかったが、例えば
図17に示すように、ヨーク部2,3の対向空間の中央部に可動子4を設けるようにし、この可動子4を挟むヨーク部2,3の両端部に永久磁石1A,1Bを設けるようにしてもよい。
【0080】
このようにすると、永久磁石1の数の増減により、可動子4に作用する磁力を変化させることができる。すなわち、永久磁石1Aのみを設けた構成から永久磁石1Bを追加して設けると、可動子4に作用する磁力を強くすることができ、永久磁石1Aと永久磁石1Bとを設けた構成から永久磁石1Bを取り外すと、可動子4に作用する磁力を弱くすることができる。
【0081】
なお、この例では、ヨーク部2,3間への永久磁石1の設置数を2個としたが、すなわちヨーク部2,3間に永久磁石1の設置部を2つ設けるものとしたが、さらに多くの設置部を設けるようにしてもよい。また、設置する永久磁石1についても、同じ磁力を有する磁石ではなく、異なる磁力を有する磁石としてもよい。
【0082】
また、
図18に示すように、ヨーク部2,3間に永久磁石1に対してその極性を逆として、磁力調整用の永久磁石11を設けるようにしてもよい。このような磁力調整用の永久磁石11を設けると、永久磁石1の磁束に影響を与えて、可動子4に作用する磁力を変化させることができる。
【0083】
また、
図19に示すように、ヨーク部2,3間に着脱可能に1つ又は複数のバイパスヨーク12を接触させて設け、永久磁石1からの磁束の一部をバイパスヨーク12に流すようにして、可動子4に作用する磁力を変化させるようにしてもよい。また、ヨーク部2,3間に1つ又は複数のバイパスヨーク12を接近させて設けたり、離間させて設けたりして、可動子4に作用する磁力を変化させるようにしてもよい。
【0084】
上述した実施例において、永久磁石の脱着や移動、および、永久磁石ホルダの動作などは、手動で行っても良いし、モータなどを用いた電動やエアシリンダなどの圧空機器を用いた方法など、(電力を常時必要としない)様々な動力を使って行うことが可能である。
【0085】
なお、
図5以降の説明では、実施の形態2の磁気バネ装置200を基本としてその変形例について示したが、実施の形態1の磁気バネ装置100でも同様の構成を採用することが可能であることは言うまでもない。
【0086】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術的思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、各実施の形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。