特許第6077820号(P6077820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077820
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ウッド型ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20170130BHJP
【FI】
   A63B53/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-230147(P2012-230147)
(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公開番号】特開2014-79446(P2014-79446A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504017809
【氏名又は名称】ダンロップスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓尊
【審査官】 ▲吉▼川 康史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−046338(JP,A)
【文献】 米国特許第05419559(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に中空部が設けられたウッド型ゴルフクラブヘッドであって、
ヘッド上面をなすクラウン部が、金属材料で形成され、
前記クラウン部は、ヒール側部分と、該ヒール側部分よりも厚さが小さいトウ側部分と、前記ヒール側部分と前記トウ側部分との間に設けられ、かつ、前記ヒール側部分から前記トウ側部分へ厚さが漸減する厚さ移行部とを含み、
しかも、規定のライ角及びロフト角でヘッドが水平面に置かれた基準状態の平面視において、前記厚さ移行部は、トウ側に突出する向きに滑らかに湾曲してのびており、
前記厚さ移行部は、フェースを具えるフェース部材と固着されるヘッド本体に設けられ、
前記ヘッド本体は、前記クラウン部の後側を形成するクラウン後部の周縁部が、前端から同一の厚さで連続する基部を含み、
前記基部は、前記ヒール側部分よりも厚さが大きいことを特徴とするウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記平面視において、前記厚さ移行部は、円弧状にのびている請求項1記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記平面視において、前記厚さ移行部は、ヘッド重心よりもトウ側をのびている請求項1又は2記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記ヒール側部分の厚さt1は0.6〜1.1mmであり、前記トウ側部分t2の厚さは0.3〜0.9mmである請求項1乃至3のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ヒール側部分の厚さt1と前記トウ側部分の厚さt2との差t1−t2は、0.05〜0.8mmである請求項1乃至4のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記平面視において、前記厚さ移行部の幅は2〜10mmである請求項1乃至5のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記平面視において、前記厚さ移行部は、曲率半径が37.5〜102.5mmの円弧状である請求項1乃至6のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロや上級者が好む低い打球音を提供しうるウッド型ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主要部が金属材料で形成されたウッド型ゴルフクラブヘッドが種々提案されている。これらのゴルフクラブヘッドは、内部に中空部を持っており、ヘッド体積の大型化、低重心、大きな慣性モーメント、及び、重量配分設計の自由度の向上等を実現する。従って、この種のゴルフクラブヘッドは、多くのメリットを持っている。
【0003】
ところで、主要部が金属材料で形成されたゴルフクラブヘッドでゴルフボールを打撃した場合、一般に、高く大きな打球音が生成される。他方、従来の木質材からなる中実のウッドゴルフクラブヘッドの打撃音は、低く小さなものであった。
【0004】
一般に、プロや上級者のゴルファーは、従来のような低く小さな打撃音を好む。打撃音は、スイングフィーリング等において重要な要素であり、プレーの結果に大きな影響を与える。このため、プロや上級者の要望を満足させるために、低く小さな打球音のゴルフクラブヘッドの出現が望まれていた。関連する技術として、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−272号公報
【特許文献2】特開2011−24649号公報
【特許文献3】特開2010−115334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部に中空部が設けられたウッド型ゴルフクラブヘッドでゴルフボールの打撃時、ヘッドの各部が振動する。特に、クラウン部が最も小さな厚さで形成されたウッド型ゴルフクラブヘッドでは、大きな振動がクラウン部に生じる。
【0007】
このようなウッド型ゴルフクラブヘッドについて、一次固有モードの振動解析が行われた。その結果、図5に示されるように、ヘッドaのクラウン部のヒール側に、最も振幅が大きくなる振動の腹Aが生じ、そこからほぼ同心円状に振幅が小さくなっていることが判明した。
【0008】
一方、音の高低(周波数)は、振動の速さによってほぼ決まり、振動が速いほど、高い音として聴取される。従って、打球音を低くするためには、クラウン部をゆっくりと振動させ、周波数を下げることが重要である。このためには、クラウン部に生じた振動が全体に行き渡るよう、クラウン部を振動しやすい構造とすることが有効である。
【0009】
また、音の大きさ(音圧)は、振動の大きさによってほぼ決まる。即ち、振幅が大きいほど大きい音として聴取され得る。従って、打球音を小さくするためには、クラウン部の厚さを大きくして振幅を小さく抑え、音圧を下げることが重要である。
【0010】
しかしながら、クラウン部の全範囲において、厚さを大きくすると、ヘッド重心が高くなるという問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、低いヘッド重心を維持しながら、低く小さな打球音を生成しうるウッド型ゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のうち請求項1記載の発明は、内部に中空部が設けられたウッド型ゴルフクラブヘッドであって、ヘッド上面をなすクラウン部が、金属材料で形成され、前記クラウン部は、ヒール側部分と、該ヒール側部分よりも厚さが小さいトウ側部分と、前記ヒール側部分と前記トウ側部分との間に設けられ、かつ、前記ヒール側部分から前記トウ側部分へ厚さが漸減する厚さ移行部とを含み、しかも、規定のライ角及びロフト角でヘッドが水平面に置かれた基準状態の平面視において、前記厚さ移行部は、トウ側に突出する向きに滑らかに湾曲してのびていることを特徴とする。
【0013】
また請求項2記載の発明は、前記平面視において、前記厚さ移行部は、円弧状にのびている請求項1記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0014】
また請求項3記載の発明は、前記平面視において、前記厚さ移行部は、ヘッド重心よりもトウ側をのびている請求項1又は2記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0015】
また請求項4記載の発明は、前記ヒール側部分の厚さt1は0.6〜1.1mmであり、前記トウ側部分t2の厚さは0.3〜0.9mmである請求項1乃至3のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0016】
また請求項5記載の発明は、前記ヒール側部分の厚さt1と前記トウ側部分の厚さt2との差t1−t2は、0.05〜0.8mmである請求項1乃至4のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0017】
また請求項6記載の発明は、前記平面視において、前記厚さ移行部の幅は2〜10mmである請求項1乃至5のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0018】
また請求項7記載の発明は、前記平面視において、前記厚さ移行部は、曲率半径が30〜110mmの円弧状である請求項1乃至6のいずれかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【発明の効果】
【0019】
一般的に、小さい厚さのクラウン部を有する中空構造のウッド型ゴルフクラブヘッドでは、一次固有振動モードにおいて、クラウン部のヒール側に、振幅が大きくなる振動の腹を持つ。本発明では、この振動の腹となるクラウン部のヒール側に、相対的に厚さが大きいヒール側部分が設けられる。このため、クラウン部のヒール側部分の剛性が相対的に高められ、そこでの振動(振幅)が小さくなる。これにより、本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドでは、小さい音圧の打球音が生成される。
【0020】
また、本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドでは、クラウン部のトウ側に、ヒール側部分よりも厚さが小さいトウ側部分が設けられる。このため、クラウン部の質量の増加が抑えられ、低いヘッド重心が得られる。しかも、クラウン部のトウ側は、振動の腹から遠い位置にあるため、本来的に振幅が小さい。従って、トウ側部分の厚さが小さくても、クラウン部の振動が大きくはならず、打球音の音圧の増加を抑えることができる。
【0021】
本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドでは、クラウン部のヒール側部分とトウ側部分との間に、ヒール側部分からトウ側部分へ厚さが漸減する厚さ移行部を含んでいる。厚さ移行部は、規定のライ角及びロフト角で水平面に置かれた基準状態の平面視において、トウ側に突出する向きに滑らかに湾曲してのびている。このような厚さ移行部の形状は、クラウン部のヒール側の振動の腹から広がる振幅を妨げることなくトウ側部分に伝達する。これにより、振動しやすいクラウン部の構造が提供される。このため、クラウン部の振動の周波数が低くなり、打球音が低くなる。
【0022】
以上のように、本発明のゴルフクラブヘッドでは、低いヘッド重心を維持しながら、低く小さな打球音を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドの全体斜視図である。
図2図1のウッド型ゴルフクラブヘッドの基準状態の平面図である。
図3図2のC−C断面図である。
図4】(A)は図2のA−A断面図、(B)は図2のB−B断面図である。
図5】コンピュータシミュレーションによるヘッドの一次固有振動モードの解析結果を示すヘッドの平面図である。
図6】本発明の他の実施形態を示すウッド型ゴルフクラブヘッドの基準状態の平面図である。
図7】(A)は図6のA−A断面図、(B)は図6のB−B断面図である。
図8】(a)〜(d)は、実施例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図9】(a)〜(d)は、実施例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図10】比較例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図11】比較例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図12】比較例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図13】(a)は比較例のウッド型ゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はそのA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は本実施形態のウッド型ゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」又は「クラブヘッド」ということがある。)1の斜視図、図2はその基準状態の平面図、図3図2のC−C断面図である。
【0025】
ここで、ヘッド1の基準状態とは、ヘッド1が、該ヘッドに定められた規定のライ角及びロフト角で水平面HPに置かれた状態と定義される。本明細書中、特に言及されていない場合、ヘッド1は、この基準状態にあるものとされる。
【0026】
図3に示されるように、ヘッド1は、内部に中空部iが設けられている。中空部iの主要部は、中空のままとされ、気体が充填されている。しかし、中空部iの中には、ゲル等の重量調整剤等が充填されても良い。
【0027】
ウッド型のゴルフクラブヘッドとは、典型的には、ドライバー(#1)又はフェアウェイウッドである。本明細書のウッド型ゴルフクラブヘッドは、これらとは名称や番手が異なるいわゆるユーティリティ型ヘッドをも含む概念であり、約8〜25度のロフト角を有しているものが望ましい。
【0028】
ヘッド1の体積は、慣性モーメントや重心深度を大きくするために、例えば90cm3以上、好ましくは110cm3 以上とされる。他方、ヘッド1の体積は、ヘッド重量の著しい増加及びゴルフ規則を遵守するために、例えば460cm3以下、好ましくは450cm3 以下とされる。
【0029】
ヘッド1の質量は、良好なスイングバランスを維持するために、例えば、160g以上、より好ましくは170g以上であり、例えば、250g以下、好ましくは240g以下とされる。
【0030】
図1乃至3には、ウッド型のヘッド1として、フェアウェイウッドが示されており、ボールを打撃するフェース2を有するフェース部3と、ヘッド上面を形成するクラウン部4と、ヘッド底面を形成するソール部5と、クラウン部4とソール部5との間を継ぐサイド部6と、シャフト(図示省略)が挿入されるシャフト差込穴7aを有するホーゼル部7とを具えている。
【0031】
ヘッド1は、例えば、各部が金属材料から構成されている。即ち、フェース部3、クラウン部4、ソール部5、サイド部6及びホーゼル部7が、それぞれ金属材料で形成されている。ヘッド1を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、マルエージング鋼又はチタン合金等が挙げられる。
【0032】
ヘッド重心Gの位置を最適化するために、ヘッド1は、例えば、比重が異なる2種以上の金属材料で構成される場合がある。繊維強化樹脂が、ヘッド1の一部に用いられる場合もある。しかしながら、ヘッド1の打球音を改善するためには、クラウン部4は、金属材料で形成されている必要がある。本実施形態において、クラウン部4は、同一の比重を有する1種類の金属材料で形成されている。
【0033】
フェース部3は、ゴルフボール打撃時の衝撃に耐えうるよう、十分な強度が要求される。このような観点より、フェース部3の厚さtfは、例えば、2.0〜4.0mmの範囲で設定されるのが望ましい。
【0034】
ソール部5は、スイング時、地面と接触する機会がある。このため、ソール部5にも十分な強度が要求される。このような観点より、ソール部5の厚さtsは、例えば、0.6〜10.0mmの範囲で設定されるのが望ましい。
【0035】
サイド部6は、ヘッド1の軽量化と、大きなヘッド重心Gを通る垂直軸回りの慣性モーメントとをバランスよく両立させるために、厚さtpが、好ましくは0.6〜4.0mmの範囲で設定されるのが望ましい。
【0036】
図4の(A)及び(B)には、図2のA−A断面図及びB−B断面図がそれぞれ示されている。図2及び図4に示されるように、クラウン部4は、ヒール側部分4aと、ヒール側部分4aよりも厚さが小さいトウ側部分4bと、ヒール側部分4aとトウ側部分4bとの間に設けられ、かつ、ヒール側部分4aからトウ側部分4bへ厚さが漸減する厚さ移行部4cとを含んでいる。この厚さ移行部4cは、図2の基準状態の平面視において、ヘッド1のトウT側に突出する向きに滑らかに湾曲してのびている。
【0037】
このようなヘッド1は、ゴルフボールの打撃時に、低く小さい打球音を生成することができる。その理由は次の通りである。
【0038】
発明者らは、有限要素法を用いたコンピュータシミュレーションで、様々な金属製の中空構造のウッド型ゴルフクラブヘッドの一次固有振動モードを解析した。代表的なヘッドの仕様は、次の通りである。
ヘッド体積:130〜370cm3
ヘッド質量:180〜230g
ヘッド構成材料:チタン合金、マルエージング鋼等
フェース部の厚さ:2.0〜4.0mm
ソール部の厚さ:1.0〜8.0mm
サイド部の厚さ:1.0〜4.5mm
クラウン部の厚さ:0.4〜1.5mm
【0039】
シミュレーションの結果、上述のようなウッド型ゴルフクラブヘッドの一次固有振動モードでは、クラウン部が最も大きく振動していることが確認された。これは、クラウン部が小さい厚さで形成されているためと推察される。発明者らは、打球音にクラウン部の振動が大きく影響しているという事実に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、クラウン部の振動をコントロールすることにより、従来の高く大きい打球音を改善しうることを見出した。
【0040】
図5は、コンピュータシミュレーションによって得られたウッド型ゴルフクラブヘッドaの一次固有振動モードの解析結果を示すヘッド平面図である。図5では、振幅の大きさが色の濃淡で表現されている。図5において、ヘッドaの一次固有振動モードにおいて、クラウン部は、そのトウ・ヒール方向の中心よりもややヒール側に、最も振幅が大きくなる振動の腹Aを持つ。クラウン部の振動は、この振動の腹Aからクラウン部の輪郭にほぼ沿ったような滑らかな縦長の楕円状で周囲へと広がっていることが確認される。なお、振動の腹Aの位置がヒール側に寄っている理由は明確ではないが、慣例的な洋梨状のウッド型ゴルフクラブヘッドの形状に依存しているとも考えられる。
【0041】
本発明では、図2に示したように、上述の振動の腹を含むように、クラウン部4のヒールH側に、相対的に厚さが大きいヒール側部分4aが設けられている。このため、クラウン部4のヒール側部分4aの剛性が相対的に高められ、そこでの振動(振幅)が小さくなる。これにより、本発明のヘッド1では、小さい音圧の打球音が生成される。
【0042】
次に、本発明のヘッド1では、クラウン部4のトウT側に、相対的に厚さが小さいトウ側部分4bが設けられている。このため、クラウン部4の全体の質量の増加が抑えられ、低いヘッド重心Gを維持することが可能になる。しかも、クラウン部4のトウT側は、図5で示したように、クラウン部4の振動の腹Aから遠い位置にあり、本来的に振幅が小さい。従って、トウ側部分4bの厚さが小さく形成された場合でも、打球音の音圧の増加を抑えることができる。
【0043】
さらに、本発明のヘッド1では、図4(A)に示したように、クラウン部4のヒール側部分4aとトウ側部分4bとの間に、ヒール側部分4aからトウ側部分4bに向かって厚さが漸減する厚さ移行部4cを含んでいる。このような厚さ移行部4cは、厚さが滑らかに変化するため、トウ側部分4aとヒール側部分4bとの境界部に、大きな剛性段差を形成しない。しかも、厚さ移行部4cは、クラウン部4のヒールH側の振動の腹Aから広がる振幅の等高線と同じ向きに湾曲している。
【0044】
このような厚さ移行部4cは、クラウン部4の振動の腹となりがちなヒール側部分4aから広がる振幅を妨げることなくトウ側部分4bに伝達する。これにより、振動しやすいクラウン部4の構造が提供される。このため、ゴルフボール打撃時、クラウン部4の振動の周波数が低くなり、打球音が低くなる。
【0045】
以上のように、本発明のヘッド1では、低いヘッド重心Gを維持しながら、低く小さな打球音を生成することができる。
【0046】
図3に示されるように、低いヘッド重心Gを有するヘッド1は、小さいスイートスポット高さSHを有する。スイートスポット高さSHは、基準状態において、水平面HPからスイートスポットSSまでの垂直高さで示される。スイートスポットSSは、ヘッド重心Gからフェース2に引いた法線Nがフェース2と交差する点である。スイートスポット高さSHが小さいヘッド1は、ゴルフボールをフェース2のスイートスポットSSよりも上側で打撃する機会が増す。この結果、打球のバックスピン量が低減し、飛距離が増大する点で望ましい。
【0047】
ヘッド1がドライバーの場合、スイートスポット高さSHは、例えば、30〜40mmの範囲が望ましい。同様に、ヘッド1がフェアウェイウッドの場合、スイートスポット高さSHは、例えば20〜30mmの範囲が望ましい。
【0048】
図2に示したように、基準状態のヘッド平面視において、クラウン部4は、例えば、ヒール側部分4a、トウ側部分4b、及び、厚さ移行部4cの3つの部分から構成され得る。ただし、図4(B)に示されるように、クラウン部4には、フェース部3との接続部jという限られた範囲において、クラウン部4の周縁部4eの厚さが滑らかに変化している部分が含まれても良い。同様に、図3に示されるように、クラウン部4のサイド部6との接続部jの限られた範囲において、クラウン部4の周縁部4eの厚さが滑らかに変化している部分が含まれても良い。つまり、本実施形態のヘッド1のクラウン部4は、上記接続部jを除けば、ヒール側部分4a、トウ側部分4b、及び、厚さ移行部4cの3つの部分から実質的に構成されている。
【0049】
図2の平面視において、ヒール側部分4aは、トウ側部分4bよりも大きい面積で形成されるのが望ましい。これによって、例えば、打球音の音圧をより確実に小さくすることができる。上記各面積は、それぞれ、便宜上、図2の水平面HPに投影された二次元の面積として特定され得る。
【0050】
図4(A)に示されるように、ヒール側部分4aの厚さt1は、特に限定されるものではないが、過度に小さい場合、打球音の音圧が低下しないおそれがある。このため、ヒール側部分4aの厚さt1は、例えば0.6mm以上、好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上とされる。他方、ヒール側部分4aの厚さt1が過度に大きい場合、低いヘッド重心Gが得られないおそれがある。このため、ヒール側部分4aの厚さt1は、例えば、1.1mm以下、好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.9mm以下とされる。本実施形態では、ヒール側部分4aは、一定の厚さで形成されている。
【0051】
トウ側部分4bの厚さt2も、特に限定されるものではないが、過度に小さい場合、クラウン部4の耐久性が悪化するおそれがある。このため、トウ側部分4bの厚さt2は、例えば、0.3mm以上、好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上とされる。他方、トウ側部分4bの厚さt2が過度に大きい場合、低いヘッド重心Gが得られないおそれがある。このため、トウ側部分4bの厚さt2は、例えば、0.9mm以下、好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.7mm以下とされる。本実施形態では、トウ側部分4bも、一定の厚さで形成されている。
【0052】
ヒール側部分4aの厚さt1とトウ側部分4bの厚さt2との差t1−t2は、特に限定されないが、上述の作用を効果的に発揮させるために、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.6mm以下とされる。
【0053】
図2の実施形態では、ヘッド1の平面視において、厚さ移行部4cは、フェース2側からヘッド後方側にのびており、クラウン部4を、ヒール側部分4aと、トウ側部分4bとに二分している。即ち、厚さ移行部4cの一端は、クラウン部4の前側に位置し、厚さ移行部4cの他端は、クラウン部4の後側に位置している。
【0054】
上記平面視において、厚さ移行部4cの幅Wは、例えば、2mm以上、好ましくは4mm以上が望ましい。厚さ移行部4cの幅Wが小さい場合、ヒール側部分4aとトウ側部分4bとの間に剛性段差が形成されるおそれがある。このような剛性段差は、クラウン部4の耐久性の低下や、振動伝達の妨げになるおそれがある。他方、厚さ移行部4cの幅Wが大きい場合、例えば、クラウン部4の軽量化が期待できないおそれがある。このような観点より、厚さ移行部4cの幅Wは、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下が望ましい。
【0055】
上述のヘッド平面視において、厚さ移行部4cは、ヘッド1のトウT側に突出する円弧状であるのが望ましい。とりわけ、厚さ移行部4cは、曲率半径Rが30〜110mmの円弧状であるのが望ましい。曲率半径Rは、厚さ移行部4cの幅Wの中心線で特定される。
【0056】
厚さ移行部4cは、単一の円弧、又は、複数の円弧が滑らかに接続された連続円弧のいずれかが望ましい。このような円弧状の厚さ移行部4cの形状は、ヘッド1の一次固有振動モードのクラウン部4の振幅の等高線により近似して湾曲する。従って、さらに振動しやすいクラウン部4の構造が提供され、低い打球音が生成され得る。
【0057】
ヘッド平面視において、厚さ移行部4cは、ヘッド重心Gよりもトウ側をのびているのが望ましい。即ち、ヘッド平面視において、ヘッド重心Gは、ヒール側部分4aに含まれるのが望ましい。これにより、トウ側部分4bに比して、ヒール側部分4aの面積が大きくなり、さらに効果的にクラウン部の振幅を抑え、より一層、低くかつ小さな打球音が生成される。
【0058】
打球音をより好ましくするために、ヒール側部分4aの面積Ahと、トウ側部分4bの面積Atとの比Ah/Atは、好ましくは0.70以上、より好ましくは1.00以上、さらに好ましくは1.20以上であり、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.80以下である。
【0059】
また、クラウン部4に対して、ヒール側部分4aの面積が小さい場合、十分な打球音の改善効果が期待できないおそれがある。このような観点より、ヘッド平面視において、相対的に厚さが大きいヒール側部分4aの面積は、クラウン部4の全面積Acに対して、例えば、25%以上、好ましくは33%以上が望ましい。
【0060】
なお、上記各面積は、水平面HPに投影された二次元の面積である。また、クラウン部4の全面積は、図2に示されるように、ヘッド輪郭線1Eで囲まれる面積から、ホーゼル部7を含むヒール面積を差し引いた面積とされる。ヒール面積は、ヘッド平面視において、ホーゼル部7のシャフト差込穴の中心CPを中心として半径r=15mmの円の内側の面積(ハッチング部分)として定義される。
【0061】
図6及び図7には、本発明の他の実施形態が示されている。
図6はヘッド1の基準状態の平面図、図7(A)は図6のA−A断面図、図7(B)は図6のB−B断面図である。この実施形態では、ヘッド1が、フェース部材1Aと、ヘッド本体1Bとを含んで構成されている。これらは、それぞれ比重が異なる金属材料で形成されている。例えば、フェース部材1Aがチタン合金であり、ヘッド本体1Bがフェース部材1Aよりも比重が大きいマレージング鋼で形成されている。
【0062】
フェース部材1Aは、フェース2と、少なくともフェース2の上縁2aからヘッド後方にのびる返し部9とを具えている。詳細は図示していないが、フェース部材1Aは、フェース2の上縁2a、下縁2b、トウ側縁2c及びヒール側縁2dからヘッド後方にのびることにより、環状に連続する返し部9が形成された略カップ状である。なお、本明細書中、ヘッド1について、前側(前方又は前部も同様)とはフェース2側、後側(後方又は後部も同様)とは前側と逆、即ちフェース2から遠い側をそれぞれ意味している。
【0063】
ヘッド本体1Bは、クラウン部4の後側の主要部分を形成するクラウン後部10と、ソール部5の後側部分を形成するソール後部(図示省略)と、サイド部6の後側の主要部分を形成するサイド後部(図示省略)とを少なくとも含んでいる。
【0064】
図7(A)に示されるように、ヘッド本体1Bのクラウン後部10の前端10eは、フェース部材1Aの返し部9の後端9eと溶接又ロウ付けで固着されている。これにより、この実施形態のヘッド1のクラウン部4は、返し部9と、クラウン後部10とから構成される。
【0065】
クラウン後部10の前側の周縁部11と返し部9との接合部16の強度を確保するために、クラウン後部10の周縁部11は、前端10eから同一の厚さで連続する基部12と、基部12からヒール側部分4a(又はトウ側部分4b)へと厚さが滑らかに漸減する漸減部14とを含んでいる。
【0066】
基部12は、返し部9の後端9eとの溶接時等、接合部16の強度を十分に確保するため、ヒール側部分4aよりもさらに大きい厚さt3で形成されている。この厚さt3は、例えば、0.9〜2.0mm程度が望ましい。
【0067】
漸減部14は、図6に示されるように、ヘッド1の平面視において、接合部16に沿ってトウ・ヒール方向にのびている。返し部9やクラウン後部10の前側の周縁部11は、厚さが大きく形成され、剛性が高く、打球音への影響は少ない。従って、この実施形態では、クラウン部4のヒール側部分4aと、トウ側部分4bとは、漸減部14よりもヘッド後方側に形成される。
【0068】
この実施形態では、ヘッド1の平面視において、厚さ移行部4cは、ヘッド本体1Bのクラウン後部10(正確には漸減部14から後方部分)を、ヒール側部分4aと、トウ側部分4bとに二分している。即ち、厚さ移行部4cの一端は、クラウン後部10の前側に位置し、厚さ移行部4cの他端は、クラウン後部10の後側に位置している。この実施形態では、図1乃至5に示した実施形態に比べて、ヒール側部分4a及びトウ側部分4bの面積は小さくなるが、このような構成でも、十分に低く小さい打球音を提供することができる。なお、この実施形態でも、ヒール側部分4a、トウ側部分4b、及び、厚さ移行部4cは、いずれも同一の金属材料の中に形成されている。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく種々の形態に変形して実施され得る。
【実施例】
【0070】
本発明の効果を確認するために、表1の仕様に基いて、ウッド型ゴルフクラブヘッドが試作され、その打球音及びスイートスポット高さが測定された。実施例及び比較例の主な共通仕様やテスト方法は、次の通りである。
ヘッド構造:カップ状のフェース部材+ヘッド本体(図6及び図7の形状)
フェース部材の材料:Ti6−22−22S
ヘッド本体のクラウン部の材料:CUSTOM450
ヘッド体積:150cm3
ヘッド重量:213g
ヘッド厚さ(図3の符号H):36.4mm
フェース高さ:30.6mm
ロフト角:18°
ライ角:58.5°
フック角:0.5°
返し部の長さ:10mm
クラウン後部の前側の周縁部の基部の厚さ:1.7mm
クラウン後部の前側の周縁部の基部の幅:7mm
クラウン後部の前側の周縁部の漸減部の幅:5mm
【0071】
比較例4は、図13に示されるヘッドである。このヘッドは、図10のヘッドを基調としているが、ヘッド前後方向に直線状でのびるリブ20が設けられている。リブ20は、幅1mm、高さ6.5mm、長さ60mmで、質量は3.0gである。リブのY座標は−10mmである。
【0072】
[スイートスポット高さ]
スイートスポット高さは、図3に示されるように、基準状態において、水平面HPからのスイートスポットSSまでの高さSHが測定された。
【0073】
[打球音(官能評価)]
ハンディキャップ5〜15及びドライバーでのヘッドスピードが45m/s以上の上級者ゴルファーの10名で、各テストクラブを使用し、ゴルフボールの実打試験が行われ、打球音についての官能評価が行われた。評価は、打球音が良い(音が低くて小さい)と感じられたものが5点、打球音が悪い(音が高くて大きい)と感じられたものが1点である5点法であり、10名のゴルファーの評価の平均値の小数点第一位が四捨五入されて表示されている。数値が大きいほど良好である。なお、各テストクラブは、上記テストヘッドに、長さ42インチ、シャフトフレックスSのゴルフクラブシャフトが装着されて形成された。
【0074】
[打球音の一次固有振動の音圧及び周波数]
上記各ゴルフクラブで3ピースゴルフボールが打撃され、そのときの打球音が、リオン社製のマイク及び騒音計を用いて採取された。FFTアナライザ等(小野測器社製のCF−4220、解析ソフト「Graduo」)を用いて、採取された打球音の周波数応答関数が求められ、その一次固有振動の音圧と周波数とが読み取られた。結果は、比較例1の音圧及び周波数をそれぞれ100とする指数であり、数値が小さいほど打球音が低くかつ小さいことを示している。
【0075】
[厚さ移行部の中心座標(X,Y)]
図8及び図9において、基準状態のヘッドの平面図に、フェース中心を通りかつシャフト軸中心線が含まれる垂直面と直角にのびるX軸、及び、このX軸とフェースの上縁との交点を通りX軸と直角なY軸を有する座標系が設定され、厚さ移行部の幅の中心線の曲率半径の中心座標(単位:mm)が求められた。
【0076】
テストの結果等が表1に示されている。なお、表1において、厚さ移行部の質量は、ヒール側部分及びトウ側部分に均等分配して計算されている。
【0077】
【表1】
【0078】
テストの結果、実施例のヘッドは、スイートスポット高さを低く維持しつつ、打球音が低く小さいことが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
1 ウッド型ゴルフクラブヘッド
2 フェース
3 フェース部
4 クラウン部
4a ヒール側部分
4b トウ側部分
4c 厚さ移行部
5 ソール部
6 サイド部
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図5