(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態として、ストッキングの一例である医療用ショートストッキング100(以下単にストッキング100と記載)を、図面に基づき詳しく説明する。なお、本発明は、このような医療用に限定されるものではないが、医療用に特に好適である。また、本発明は、このストッキング100の足首部130から足口部150の手前まで
に好適に適用される。また、ドラフト率とは、カバリング糸を製造する場合における(ウレタン系弾性糸の)伸張倍率のことである。また、T/mは、カバリング糸を製造する場合における捲糸の(単位長さである)1mあたりの巻き数(Turn数)である。
【0014】
[ストッキング全体構成]
本実施の形態に係るストッキング100の全体構成について説明する。
図1に、このストッキング100の概略側面図を示す。このストッキング100は、膝下丈のストッキング100であって、爪先部110から、踵部120、足首部130、ふくらはぎ部140を通り、膝部Kのやや下の足口部150まで覆う。このストッキング100は、筒状に編成された1対の編地を用いた左右同型の形状を備え、足部の爪先部110は周知の手段により、袋状に縫着することにより製造される。
【0015】
なお、本発明において、対象をストッキングとしているが、部分的にその機能を備えたパンティストッキング等を含むこと、および、厚地の編地を用いるタイツを含むこと、爪先部のないオープントゥタイプを含むこと、その他の下半身を被覆する衣類(男性用および女性用を問わない)を含むことは、上述の技術分野に記載した通りである。
さらに、詳しくは後述する編糸を用いて編み組織を編成してストッキング100を構成することにより、医療用に適した着圧を発現することができる。特に、このストッキング100は、リンパ浮腫の治療よりも下肢静脈瘤の治療に適したものである。ストッキング100における足首での着圧は、リンパ浮腫の治療に適した着圧34〜46mmHg(46〜62hPa)よりも低圧であって、下肢静脈瘤の治療に適した着圧20〜30mmHg(26〜40hPa)を発現する点で、従来の医療用ストッキングと異なる。
【0016】
[編糸および編地の構成]
本実施の形態に係るストッキング100は、地糸として
図2に示すダブルカバリング糸160を用いてゾッキ編みにて編成された伸縮性編地に、地糸であるダブルカバリング糸160の芯糸より強い弾性力を有するウレタン系弾性糸の裸糸を挿入糸として、地糸により編成された編み目に挿入して編み込んだ編地で構成される。
【0017】
図2に示すように、ダブルカバリング糸160は、ウレタン系弾性糸の一例であるポリウレタン弾性糸162に、非弾性糸の一例であるナイロン糸が、その巻着方向が逆方向(S撚りおよびZ撚り)になるように二重に巻着されている。捲糸であるナイロン糸は、下撚りの捲糸であるナイロン糸164および上撚りの捲糸であるナイロン糸166で構成される。この場合において、詳しくは後述するが、非弾性糸の一例であるナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が(通常のカバリング糸よりも)少ないことを特徴とする。なお、本発明におけるカバリング糸は、DCYではなくSCY(Single Covered Yarn)であってもよい。この場合においても、非弾性糸の一例であるナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が(通常のカバリング糸よりも)少ないことを特徴とする。
【0018】
挿入糸として用いられるウレタン系弾性糸は、一例としてポリウレタン弾性糸が好ましい。このポリウレタン弾性糸170(
図3および
図4参照)は裸糸(ベア糸)であって、ダブルカバリング糸160の芯糸であるポリウレタン弾性糸162より強い弾性力を有し、ポリウレタン弾性糸162よりも(またはポリウレタン弾性糸162とともに)、このストッキング100を着用したユーザの下肢の各部に所望の着圧を付与することに寄与する。
【0019】
このようにストッキング100に裸糸を使用することにより、ストッキング100において厚手の靴下と異なり薄手のストッキング感を実現しているにも関わらず、治療に必要な強い着圧を実現することができる。
なお、後述するように、本発明に係るストッキング100の編み地は、撚り数が少ないカバリング糸を地糸としてゾッキ編みされた編み目に、ウレタン系弾性糸の裸糸を挿入糸として編み込んだ編地であれば特に制限されるものではなく、地糸で編成された編み地は、平編地、ゴム編地、パール編地等の編地を好適に用いることができ、その変化組織として、タック編、浮編、パイル編、レース編とすることもできる。以下では地糸で編成された編み地は平編地として説明する。
【0020】
図3にストッキング100をの編目をコース方向にループが一列に並ぶように伸張させ
た状態における編み組織の写真を、
図4にその編み組織の模式図をそれぞれ示す。本実施の形態に係るストッキング100の足首部130〜足口部150には、
図2に示すダブルカバリング糸160を地糸として
図3に示すようにゾッキ編みした平編みの編み目にポリウレタン弾性糸170を挿入糸として編成した編み組織が適用される。
【0021】
なお、
図4(および後述する
図6)の模式図では、ダブルカバリング糸160(
図6ではダブルカバリング糸260)の芯糸であるポリウレタン弾性糸162も、ダブルカバリング糸160の捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166も、挿入糸であるポリウレタン弾性糸170(
図6ではポリウレタン弾性糸270)も、図がわかりにくくなることを回避するためにモノフィラメントとして記載している。後述するように、ナイロン糸164およびナイロン糸166は、12フィラメント以上のマルチフィラメントが好ましい。ポリウレタン弾性糸162およびポリウレタン弾性糸170はモノフィラメントであってもマルチフィラメントであっても構わない。
【0022】
なお、
図3(および後述する
図5)はストッキング100の編目をコース方向にループが一列に並ぶように伸張させた状態の編み組織の拡大写真であって、
図4(および後述する
図6)は、その状態の編み組織を模式的に表した理想的な図である。このため、
図4(および
図6)は、あくまでも理想的(模式的、対称的)に記載されたものであって、平編ループにおけるダブルカバリング糸160を構成するポリウレタン弾性糸162ならびに非弾性糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166の状態も、挿入糸であるポリウレタン弾性糸170の状態(たとえば編み目におけるポリウレタン弾性糸170の挿入位置)も、現実のもの(
図3および
図5)と異なっている。また、これらの
図3〜
図6は、全て着用時における肌側(内側)を示す図である。
【0023】
このストッキング100の編み組織の特徴的な構成は、
図3および
図4に示すように、地糸としてダブルカバリング糸160を用いて、このダブルカバリング糸160を交互に用いてゾッキ編みして平編みを編成し、かつ、この平編みの編み目に、ダブルカバリング糸160の芯糸より強い弾性力を有するポリウレタン弾性糸170の裸糸を挿入糸として挿入したことであって、特に、ダブルカバリング糸160の上撚りの捲糸も下撚りの捲糸も撚り数が少ないこと(捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166の単位長さあたりの撚り数が少ないこと)を特徴とする。より具体的には、下撚りのナイロン糸164の単位長さあたりの撚り数が2000T/m以下で、上撚りのナイロン糸166の単位長さあたりの撚り数が1000T/m以下である。さらに好ましくは、下撚りのナイロン糸164の単位長さあたりの撚り数が600T/m以下で、上撚りのナイロン糸166の単位長さあたりの撚り数が400T/m以下である。この撚り数は、一般的なストッキングおよび/またはこのような医療用に特に好適なストッキングに用いられるカバリング糸における撚り数よりも少なく、かつ、特許文献1に開示された医療用ストッキングに用いられるカバリング糸における撚り数よりも少ない。
【0024】
本発明におけるカバリング糸は、上述したようにDCYではなくSCY(Single
Covered Yarn)であってもよく、この場合を含めて、非弾性糸の一例であるナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が1000T/m以下であることが好ましい。
なお、カバリング糸のドラフト率は、このようなストッキングに用いられる通常のカバリング糸のドラフト率と同程度(たとえば2.0〜4.0程度)である。
【0025】
また、ゾッキ編みとは、編み組織を編成する編糸の構成が1種類のサポート糸(同じポリウレタン糸に同じナイロン糸を同じように(同じドラフト率で単位長さあたり同じ巻き数で)巻き付けたカバリング糸)だけで編成するものである。
[編糸の詳細構造]
以下において、地糸であるダブルカバリング糸160を構成するウレタン系弾性糸(ポリウレタン弾性糸162)および非弾性糸(ナイロン糸164、ナイロン糸166)、ならびに、挿入糸であるウレタン系弾性糸の裸糸(ポリウレタン弾性糸170)について詳しく説明する。
【0026】
ダブルカバリング糸160の芯糸を構成するウレタン系弾性糸としては、(ポリウレタン弾性糸170とともにまたは単独で)所望の着圧感を発現できるものであれば特に限定
されるものではないが、熱セット性(形態保持性)、伸度および耐久性の面からポリウレタン弾性糸162が好ましい。
さらに、このポリウレタン弾性糸162は、エーテル結合を持つエーテルタイプであってもエステル結合を持つエステルタイプであっても構わない。なお、このポリウレタン弾性糸162のフィラメント数はモノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれでもよく、さらに、このポリウレタン弾性糸162の繊度は、(最適なパワーとなる範囲のものであれば)特に限定されるものではなく、通常のストッキング等に用いられる繊度であれば構わない。
【0027】
ダブルカバリング糸160の捲糸を構成する非弾性糸としては、ポリウレタン弾性糸162の周囲に被覆される非弾性糸として好適に使用できる糸であればよいが、このような非弾性糸としては、ナイロン糸164およびナイロン糸166が代表的に使用できる。
詳しくは後述するが、芯糸のウレタン系弾性糸としてポリウレタン弾性糸162を用いて、かつ、捲糸の非弾性糸としてナイロン糸164およびナイロン糸166を用いて撚り数の少ないダブルカバリング糸160でゾッキ編みした編み地に、ベア糸のポリウレタン弾性糸170を挿入した編み組織を構成することにより、ストッキング100に所望の着圧を発現させるともに、肌側(生地裏側)のベア糸が、ダブルカバリング糸160の捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166により被覆されて、ラバータッチ感を低減させて、すべりが良く履きやすく、肌触りが良く、暑苦しくなく、柔らかい風合いを実現することができる。肌側(生地裏側)のベア糸を被覆して、このような効果を発現することができる非弾性糸であればナイロン糸に限定されるものではない。
【0028】
これらのナイロン糸164およびナイロン糸166のフィラメント数はモノフィラメントよりもマルチフィラメント(特に12フィラメント以上のマルチフィラメント)であることが好ましい。さらに、これらのナイロン糸164およびナイロン糸166の繊度は、特に限定されるものではなく、ストッキングに通常用いられる繊度であれば構わない。たとえば、ナイロン糸164およびナイロン糸166としては、33dtexの26f(フィラメント)が好ましい。なお、DCYにおけるナイロン糸の好ましい繊度は20〜45dtexであって、好ましいフィラメント数は10〜40fである。さらに、SCYにおけるナイロン糸の好ましい繊度は40〜90dtexであって、好ましいフィラメント数は20〜60fである。これらのことから、ナイロン糸の単糸繊度は、33dtex、26fの1.27dtexとなり、特に、ナイロン糸の単糸繊度は3dtex以下であることが好ましい。このような単糸繊度が細いナイロン糸をカバリング糸に使用することにより、着用時に肌側においてベア糸が、ナイロン糸164および/またはナイロン糸166により被覆されやすくなり、ラバータッチ感を低減させる効果が大きくなる。
【0029】
さらに、本実施の形態に係るストッキング100においては、これらのナイロン糸164および/またはナイロン糸166は、嵩高加工されたウーリー糸を用いている。このような嵩高性のあるウーリー糸をカバリング糸に使用することにより、着用時に肌側においてベア糸が、ナイロン糸164および/またはナイロン糸166により被覆されやすくなり、ラバータッチ感を低減させる効果が大きくなる。
【0030】
挿入糸である、裸糸のウレタン系弾性糸としては、単独で所望の着圧感を発現できるものであれば特に限定されるものではないが、熱セット性(形態保持性)、伸度および耐久性の面からポリウレタン弾性糸170が好ましい。
さらに、このポリウレタン弾性糸170は、ポリウレタン弾性糸162と同様にエーテル結合を持つエーテルタイプであってもエステル結合を持つエステルタイプであっても構わない。なお、このポリウレタン弾性糸170のフィラメント数はモノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれでもよく、さらに、その繊度は、このポリウレタン弾性糸170単独で、このストッキング100において、所望のパワー(緊縛力)を発現できる範囲のものであれば特に限定されない。
【0031】
さらに、このようなポリウレタン弾性糸162およびナイロン糸164およびナイロン糸166を用いたダブルカバリング糸160について説明する。
上述したように、このダブルカバリング糸160の捲糸の撚り数(ナイロン糸の単位長
さあたりの撚り数)は、通常のダブルカバリング糸よりも少ない、1000〜2000T/m程度である。具体的には、下撚りのナイロン糸164の単位長さあたりの撚り数が2000T/m以下で、上撚りのナイロン糸166の単位長さあたりの撚り数が1000T/m以下である。好ましくは、下撚りのナイロン糸164の単位長さあたりの撚り数が200〜1000T/m、さらに好ましくは300〜600T/m程度で、実施例においては400T/mのものを用いている。また、上撚りのナイロン糸166の単位長さあたりの撚り数は好ましくは120〜400T/m、さらに好ましくは200〜400T/m程度で、実施例においては240T/mのものを用いている。なお、このような撚り数の下限について、下撚りが200T/mであって、上撚りが120T/mであるのは、これら以下の撚り数では、摩擦抵抗に弱く、耐久性に劣る可能性があることが理由である。
【0032】
このようなカバリング糸を用いると(特に好ましい範囲において)、後述するように、挿入糸であるポリウレタン弾性糸170がカバリング糸の捲糸であるナイロン糸に被覆されて(特に肌側(生地裏側)で)、ポリウレタンのラバータッチ感を低減させることができる。
[編地の詳細構造および作用効果]
以上のようなダブルカバリング糸160により編成された平編地に裸糸のポリウレタン弾性糸170を挿入した編み組織の構造および作用効果について、
図3および
図4を参照して説明する。
【0033】
なお、比較のために、従来例として、カバリング糸の捲糸であるナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が通常の撚り数(下撚りのナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が2500T/m程度で、上撚りのナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が1400T/m程度)である)ダブルカバリング糸260を用いてゾッキ編みされた編み地に裸糸のポリウレタン弾性糸270を挿入したストッキングの編み組織を
図5および
図6に示す。
図5は
図3に、
図6は
図4に、それぞれ対応する。
【0034】
図3および
図4に示すように、本実施の形態に係るストッキング100の編地において、ダブルカバリング糸160は、芯糸であるポリウレタン弾性糸162に捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166が強固に巻着された状態ではなく、これらのナイロン糸164およびナイロン糸166の撚り数が少ないために芯糸であるポリウレタン弾性糸162に緩く巻着している状態である(
図3の白黒矢印で示すようにカバリング糸の幅が広い)。すなわち、捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166が芯糸であるポリウレタン弾性糸162に強固ではなく緩やかに巻着されている状態になっている。これは、主として、ポリウレタン弾性糸162に少ない撚り数でナイロン糸164およびナイロン糸166を巻着してダブルカバリング糸160を構成していることが理由である。
【0035】
そして、
図4に示すように、このストッキング100の肌側(生地裏側)において、このように緩やかに芯糸に巻着されたマルチフィラメントのナイロン糸164および/またはナイロン糸166が、裸糸のポリウレタン弾性糸170を被覆している部分を発生させている。特に、
図4の部分拡大図に示すように、裸糸のポリウレタン弾性糸170が地糸の編み目内で移動してダブルカバリング糸160に接近した場合には(ポリウレタン弾性糸170は熱融着性を備えないので編み目内で白抜き矢示のように移動できる)、ナイロン糸164および/またはナイロン糸166が、裸糸のポリウレタン弾性糸170を被覆している部分を発生させている。このことは、ナイロン糸164およびナイロン糸166がマルチフィラメントであり(図では表わされていないが)バルキー性を発現するため、さらに顕著になる。
【0036】
このように、このストッキング100においては、カバリング糸の捲糸の撚り数が少ないこと、ナイロン糸164およびナイロン糸166がマルチフィラメントであること、および、ナイロン糸164およびナイロン糸166が嵩高加工されたウーリー糸であることの相乗効果により、着用時の肌側において裸糸のポリウレタン弾性糸170がナイロン糸により効果的に被覆されている。これにより、ポリウレタン弾性糸のラバータッチ感を低減させて、すべりが良く履きやすく、肌触りが良く、暑苦しくなく、柔らかい風合いを実現している。なお、ストッキング100において、下肢静脈瘤の治療に適した着圧(20
〜30mmHg(26〜40hPa))は、裸糸のポリウレタン弾性糸170により主として発現されている。
【0037】
一方、
図5および
図6に示す従来のダブルカバリング糸260で編成された編み目に裸糸のポリウレタン弾性糸270を挿入した編み組織においては、ダブルカバリング糸260は、芯糸であるポリウレタン弾性糸に捲糸であるナイロン糸が強固に巻着された状態である(
図5の白黒矢印で示すようにカバリング糸の幅が狭い)。すなわち、捲糸であるナイロン糸が芯糸であるポリウレタン弾性糸に緩やかではなく強固に巻着されている状態になっている。これは、ポリウレタン弾性糸に通常の撚りでナイロン糸を巻着してダブルカバリング糸260を構成していることが理由である。
【0038】
そして、
図6に示すように、従来のストッキングの肌側(生地裏側)において、このように強固に芯糸に巻着されたナイロン糸が、裸糸のポリウレタン弾性糸270を被覆している部分を発生させることはなく、裸糸のポリウレタン弾性糸270を効率的に被覆することができていない。このように裸糸のポリウレタン弾性糸170がナイロン糸により被覆されることがないため、ポリウレタン弾性糸のベア糸が肌に直接触れることによりラバータッチ感を発現させてしまい、すべりが悪く履きにくく、肌触りが悪く、暑苦しく、硬い風合いになってしまい、ユーザが着用感に満足できない。
【0039】
さらに、このような履きやすさ等を定量的(客観的に)に検証した結果について説明する。
図7および
図8に、
図3および
図4に示した本実施の形態に係るストッキング100および
図5および
図6に示した従来のストッキングの、静摩擦係数および動摩擦係数の測定結果を示す。
この測定においては、ストッキングを平足型に履かせて、着用状態を刺繍枠で採取し、その刺繍枠ごと、生地の裏側が模擬皮膚(バイオスキン)側になるように模擬皮膚上に設置して、100gの荷重を付与して摩擦係数を測定した。
図7と
図8とでは、ユーザの皮膚の違いによる摩擦係数の影響を検証するために模擬皮膚の種類が異なる。なお、10mmの測定距離を移動速度5mm/secで測定した。また、測定時の周囲の雰囲気は、気温20±2℃、湿度60±4%RHであった。
【0040】
図7および
図8のいずれにおいても、静止摩擦係数も動摩擦係数もともに、従来のストッキング(比較例)よりも本実施の形態に係るストッキング100(実施例)のほうが小さいことが明らかになった。これらのことから、ストッキング100のほうが、ウレタン特有のべたつき(ラバータッチ感)を軽減でき、肌すべりがよく履きやすく、肌触りが良く着用感に優れることが定量的に明らかになった。
【0041】
これは、ストッキング100においてはダブルカバリング糸160の捲糸であるナイロン糸164およびナイロン糸166がふわっと緩く芯糸であるポリウレタン弾性糸162に巻着されているために、挿入糸である裸糸のポリウレタン弾性糸170を被覆することができているのに対して、従来のストッキングにおいてはダブルカバリング糸260の捲糸であるナイロン糸が芯糸であるポリウレタン弾性糸162に強固に巻き締まっているために、挿入糸である裸糸のポリウレタン弾性糸270の表面を効率的に被覆できていない(ラバータッチ感を低減させるほどに効果的に被覆できていない)ことが理由であると考えられる。
【0042】
さらに、このような履きやすさ等を定性的に(主観的に)検証した結果(官能評価の結果)について説明する。
図9および
図10に、
図3および
図4に示した本実施の形態に係るストッキング100(実施例)および
図5および
図6に示した従来のストッキング(比較例)の、官能評価の結果を示す。
官能評価は、はきやすさ、肌触り(内側)、肌触り(外側)、食い込み(足首)および脱ぎやすさの5項目について、着用者が、評価値=2(非常に良い)、評価値=1(良い)、評価値=0(普通)、評価値=−1(悪い)、評価値=−2(非常に悪い)の5段階で、実施例、基準品および比較例をそれぞれ評価した。なお、評価値はアンケート方式で収集した。
図9は、比較例を官能評価の基準(評価値=0(普通))とした場合における実施例の相対的な評価値の平均値を示す。
【0043】
また、官能評価においては、評価者に男性と女性とを略同数含め、評価者の服装を統一
して(半袖Tシャツ、ハーフパンツ、ストッキング、靴)、28℃、50%RH環境のチャンバー小室で、1日に1サンプルずつ行った。また、官能評価するにあたり、そのプロトコルは、椅座位安静(10分)、時速5kmでの歩行(10分)、椅座位安静(15分)とした。
【0044】
図10において、5項目ともに、従来のストッキング(比較例)よりも本実施の形態に係るストッキング100(実施例)のほうが高い評価値であることが明らかになった。特に、はきやすさおよび脱ぎやすさが、比較例に対して実施例が顕著に好ましいことがわかる。また、内側(肌側)の肌触りも、比較例よりも実施例が好ましいことがわかる。これらのことから、ストッキング100のほうが、ウレタン特有のべたつき(ラバータッチ感)を軽減でき、肌すべりがよく履きやすくかつ脱ぎやすく、肌触りが良く着用感に優れることが定性的にも明らかになった。これは、静動摩擦係数を用いた定量的評価で説明した理由によるものである。
【0045】
以上のようにして、本実施の形態に係るストッキングによると、捲糸であるナイロン糸の単位長さあたりの撚り数が少ないカバリング糸を地糸として用いて、このカバリング糸を交互に用いてゾッキ編みして平編みを編成し、かつ、この平編みの編み組織に、カバリング糸の芯糸より強い弾性力を有するポリウレタン弾性糸の裸糸を挿入糸として挿入した。このため、主としてポリウレタン弾性糸の裸糸により治療に必要な着圧を実現するとともに、ストッキングの肌側(生地裏側)において、緩やかに芯糸に巻着されたナイロン糸が、裸糸のポリウレタン弾性糸を被覆している部分を発生させることができる。このように、裸糸のポリウレタン弾性糸がナイロン糸により被覆されているため、ポリウレタンのラバータッチ感を低減させて、すべりが良く履きやすく、肌触りが良く、暑苦しくなく、柔らかい風合いを備えたストッキングを実現することができる。
【0046】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
たとえば、履きやすさおよび肌触りに加えて、日本国内での使用を前提として、高温多湿の国内気候に応じた蒸れにくく涼しく感じることができるように、ストッキング100の透湿度および通気抵抗が設計されている。さらに、日本人の使用を前提として、足甲の側部が痛くならないように、日本人の幅広の足に合わせて挿入糸の送り込み量を変化させて、ストッキング100が設計されている。さらに、パンティストッキング型の場合には、日本人の使用を前提として、欧米のストッキングに比較して長さを短く太腿部を太めに、ストッキング100が設計されている。さらに、ストッキング100においては、カバリング糸の捲糸であるナイロン糸の繊度を高めに設計することにより、強度を増して半年程度の耐用を実現している。さらに、ストッキング100においては、所望の着圧を発現させるために、部位により編み目の大きさを変えて、コース方向の編み目の密度を変化させることで単位面積当たりの挿入糸の本数を最適に設計している。