特許第6077877号(P6077877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077877
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】高炉樋用キャスタブル耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20170130BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20170130BHJP
   C21B 7/14 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/00 N
   C21B7/14 302
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-25655(P2013-25655)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152092(P2014-152092A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 和晃
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−203953(JP,A)
【文献】 特開平04−077368(JP,A)
【文献】 特開2002−020177(JP,A)
【文献】 樋口芳朗,アルミナセメントの海外事情,コンクリート・ジャーナル,1968年,Vol.6,No.12,PP.55-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
C21B 7/14
F27D 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC成分を40質量%以上80質量%以下C成分を0.3質量%以上3.0質量%以下含有し、全原料中の粒径45μm以上のAl成分含有率が10質量%以上40質量%以下、かつ全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が6.9質量%以下である高炉樋用キャスタブル耐火物。
【請求項2】
全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が3.9質量%以下である請求項1に記載の高炉樋用キャスタブル耐火物。
【請求項3】
C成分の含有量が0.3質量%以上1.5質量%以下である請求項1又は2に記載の高炉樋用キャスタブル耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉樋の内張りとして使用するキャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉樋は、高炉から出銑した溶銑が取鍋、混銑車等に至る通路の役割を持つ。その内張り材は施工性の面からキャスタブル耐火物が使用されており、その材質はアルミナ−炭化珪素−炭素質が主流である。
【0003】
このような高炉樋用キャスタブル耐火物においては、酸化防止剤として炭化ホウ素(BC)を添加する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。炭化ホウ素は酸化することで耐火材料の表面に被膜を形成し、この被膜は炭素材料の酸化を防止する機能を有する。
【0004】
また、特許文献2には、BCとアルミナ微粉及びシリカ超微粉とを併用すると、BCから生成したBと、Al及びSiOが反応し、ムライト(3Al・2SiO)を固溶した9Al・2B(以下「9A2B」という。)の柱状結晶がマトリクス部や空隙に絡み合うように析出することが開示されている。マトリクス部や空隙に9A2Bが析出することにより、材料の気孔率が大幅に低下するとともに、高温の熱間強度が向上し、スラグや銑鉄に対しての耐食性、耐磨耗性を改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−203953号公報
【特許文献2】特開平3−164479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、BCは酸化により被膜(B)を生成し、表面酸化保護膜として機能する。一方で、Bはキャスタブル耐火物中のAlと反応をすることによって、AlとBの固溶体(9A2B)を形成する。しかし、この固溶体(9A2B)が形成されると、表面酸化保護膜としてのBが消費され、表面酸化保護の機能が低下する。表面酸化保護の機能が低下すると、キャスタブル耐火物の内部成分が酸化雰囲気に曝されてしまうため、炭素材料の酸化と、BとAlの反応が同時進行的に起こり、酸化層が更に内部まで進行する。
【0007】
また、特許文献2では9A2Bが析出することで耐食性、耐摩耗性が改善するとされているが、9A2Bは緻密な焼結体であるため、9A2Bが生成すると施工体の強度が増し、未酸化の健全な組織との間に強度差が発生する。そうすると、この強度差によって亀裂剥離の組織劣化を招きやすい施工体となる。特に高炉樋のスラグライン部においては、高炉操業により加熱冷却が繰り返されるため、繰返し熱履歴による構造体の変化及びその際の熱衝撃によって亀裂剥離が生じやすい。
【0008】
以上に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、BCによる酸化防止機能が低下せず、施工体の亀裂剥離の発生も防止できる高炉樋用キャスタブル耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、SiC成分を40質量%以上80質量%以下C成分を0.3質量%以上3.0質量%以下含有し、全原料中の粒径45μm以上のAl成分含有率が10質量%以上40質量%以下、かつ全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が6.9質量%以下である高炉樋用キャスタブル耐火物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、高炉樋用キャスタブル耐火物の化学成分の合量100質量%(全原料)粒径45μm未満のAl成分含有率を6.9質量%以下に制限しているので、BC成分由来のBがAlと反応して9A2Bを生成することが抑制される。すなわち、BがAlと反応して消費されにくいことからBCによる酸化防止機能が低下せず、9A2Bの生成が抑制されることから施工体の亀裂剥離の発生も防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高炉樋用キャスタブル耐火物は、典型的には、アルミナ原料、炭化珪素原料及び炭素原料を主原料とし更に炭化ホウ素(BC)原料を配合したアルミナ−炭化珪素−炭素質であり、これに分散剤及び結合剤を加えてなる。そして、その化学成分として、SiC成分を40質量%以上80質量%以下C成分を0.3質量%以上3.0質量%以下含有し、全原料中の粒径45μm以上のAl成分含有率が10質量%以上40質量%以下、かつ全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が6.9質量%以下である。全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率は3.9質量%以下であることが好ましく、BC成分の含有量は0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。なお、アルミナ−炭化珪素−炭素質ではフリーのC成分も含有するが、その含有量は1〜10質量%程度である。
【0012】
本発明の高炉樋用キャスタブル耐火物の特徴は、全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率を6.9質量%以下に限定したことにある。この全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率には、アルミナ原料に由来するAl成分のほか、結合剤として汎用されているアルミナセメントに由来するAl成分も含まれる。すなわち、全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率とは、高炉樋用キャスタブル耐火物全体(高炉樋用キャスタブル耐火物の化学成分の合量100質量%中)における、粒径45μm未満のAl成分含有率である。なお、上記特許文献1の表2に示されている実施例5は、仮焼アルミナが5質量%含まれており、アルミナセメントを外掛けで3質量%含む。このアルミナセメント中には粒径45μm未満Al成分が少なくとも70質量%含まれている。更に粒径1mm以下の電融アルミナには粒径45μm未満Al成分が2質量%程度は含まれる。このため、キャスタブル耐火物全体における粒径45μm未満のAl成分含有率は7質量%以上となる。
【0013】
本発明の高炉樋用キャスタブル耐火物に使用するアルミナ原料としては、焼結アルミナ、電融アルミナ、ばん土けつ岩、ボーキサイト等が挙げられる。中でも、品質が安定している焼結アルミナ、電融アルミナ等の合成品が好ましい。微粉部には仮焼アルミナを使用してもよい。
【0014】
炭化珪素原料としては、SiC純度が85質量%以上のものが好ましく、95質量%以上のものがより好ましい。SiC成分の含有量は、40質量%未満では耐スラグ性の効果に劣り、80質量%を超えるとその分、炭素、アルミナ等の割合を少なくしなければならず、耐溶銑侵食性に劣る。
【0015】
炭素原料としては、各種ピッチ、カーボンブラック、人造黒鉛、りん状黒鉛、土状黒鉛、コークス、無煙炭等の1種又は2種以上が挙げられる。炭素原料(フリーのC成分)の含有量は上述のとおり1〜10質量%程度である。
【0016】
酸化防止剤として、炭化ホウ素(BC)を用いる。BC成分の含有量が0.3質量%未満では酸化防止効果が得られない。またBC成分の含有量が3.0質量%を超えると液相生成量が多くなり、過焼結作用により亀裂剥離が生じやすくなる。
【0017】
分散剤としては、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、炭酸ソーダ、ポリメタリン酸塩などの無機塩、クエン酸ソーダ、酒石酸ソーダ、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、スルホン酸ソーダ、ポリカルボン酸塩、β−ナフタレンスルホン酸塩類、ナフタリンスルフォン酸等が挙げられる。
【0018】
結合剤としては、アルミナセメント、マグネシアセメント、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等が挙げられる。中でも施工体の組織強度が得られやすいアルミナセメントが好ましく、アルミナセメントはJIS規格の耐火物アルミナセメント1種又は2種相当品が好ましい。
【0019】
上記各原料のほかにも、上記化学成分の規定値を満たす範囲内で、ケイ酸質粉末、乾燥促進剤、Al粉、Si粉、金属ファイバー、有機ファイバー、セラミックファイバー、塩基性乳酸アルミニウム、ホウ素化合物、酸化防止剤、増粘剤、硬化剤、硬化遅延剤、耐火粗大粒子等を使用することができる。
【0020】
本発明の高炉樋用キャスタブル耐火物は、従来の高炉樋用キャスタブル耐火物と同様に、施工水を添加して施工される。
【実施例】
【0021】
表1に本発明の実施例及び比較例を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の化学成分となるように、アルミナ原料、炭化珪素原料、炭素原料、炭化ホウ素(BC)原料、分散剤及び結合剤を配合し、適量の施工水を添加後混練し、型枠に流し込み成形した。次いで養生・乾燥し、試験施工体を得た。なお、表1の実施例及び比較例ではアルミナ原料として電融アルミナ、炭化珪素原料として純度が95質量%以上の炭化珪素、炭素原料としてカーボンブラック及びピッチ、酸化防止剤として炭化ホウ素(BC)、分散剤としてポリアクリル酸、結合剤としてアルミナセメント2種相当品を使用し、化学成分値として示した。なお、表1中「その他」の成分には、表1に記されない成分と分散剤及び各原料不純物の成分が含まれる。
【0024】
得られた試験施工体について、以下の要領で、酸化試験を行うとともに曲げ試験を行って曲げ強さを測定し、総合評価を行った。
【0025】
(酸化試験)
直径50mm、高さ50mmの試験片を作製し、乾燥後、大気中1000℃で焼成した。焼成後の試験片について、外観及び高さ25mm位置を水平方向に切断した面の酸化状態を観察した。酸化状態の観察では、白みを帯びた部分を酸化部分とみなした。酸化が進んでいないものを○、酸化は進んでいないが試験片外観が多泡化し性状が劣るものを△、酸化が進んでいるものを×として評価した。
【0026】
(曲げ試験)
40mm×40mm×160mmの試験片を作製し、乾燥後、大気中1000℃で焼成した。焼成後の試験片について、JIS R2553に準じて曲げ試験を行い曲げ強さを測定した。実施例2を実機に供したところ亀裂剥離が抑制される結果が得られ、また曲げ強さが15MPa以上の場合は亀裂剥離が発生したことから、曲げ強さ15MPa未満を好ましい範囲とした。なお、比較例2を実機に供したところ、亀裂剥離が多い結果であった。
【0027】
(総合評価)
酸化試験及び曲げ強さは緻密な焼結体(9A2B)の生成の程度を評価する項目であり、これらの項目において酸化試験○、曲げ強さ15MPa未満を満足すれば、緻密な焼結体(9A2B)による亀裂剥離は発生しないし、BC成分由来のBによる酸化防止機能も低下しない。したがって、総合評価では、酸化試験が○であって曲げ強さが15MPa未満の場合を○とし、酸化試験が△若しくは×、又は曲げ強さが15MPa以上の場合を×とした。
【0028】
表1に示すとおり、本発明で規定する化学成分の範囲にある実施例1〜6は、いずれも総合評価が○であった。
【0029】
これに対して、比較例1はBC成分を0.8質量%含有するが、全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が7.2質量%と多例であり、実施例と比較して、耐酸化性が劣り、曲げ強さが高くなった。
【0030】
比較例2は、全原料中の粒径45μm未満のAl成分含有率が11質量%と更に多例であり、更に、耐酸化性が劣化し、曲げ強さも高くなる結果であった。
【0031】
比較例3はBC成分が0.2質量%と少ない例であり、BCが少ないためにBの生成量が減少したことでAlとの固溶体(9A2B)の生成が抑制された影響のためか、曲げ強さは高くなかったが、耐酸化性に劣る結果であった。
【0032】
比較例4はBCが3.1質量%と多い例であり、試験片の酸化が抑制され耐酸化性は向上するが、BC過多の影響で表面が多泡化し、試験片の外観性状は悪かった。また液相生成量が多くなるためか、曲げ強さが高くなった。