特許第6077880号(P6077880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6077880-TNF−α産生抑制剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077880
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】TNF−α産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20170130BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A61K31/704
   A61K31/355
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P17/06
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-28553(P2013-28553)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156432(P2014-156432A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 剛史
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−537506(JP,A)
【文献】 特開2012−229179(JP,A)
【文献】 特開2011−153139(JP,A)
【文献】 特開昭53−109954(JP,A)
【文献】 Zhongguo Zhongyao Zazhi,2007年,Vol.32, No.12,p.1175-1179
【文献】 Zhongcaoyao,2008年,Vol.39, No.4,p.485-490
【文献】 W Sakamoto et al.,Inhibition of macrophage migration inhibitory factor secretion from macrophages by vitamin E.,Biochimica et Biophysica Acta,1998年,1404,427-434
【文献】 Free Radical Biology & Medicine,2005年,Vol.38,p.1212-1220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 − 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−シトステロールグルコシドパルミテート(β−Sitosterol glucoside palmitate)及びトコフェロールを有効成分として含有し、β−シトステロールグルコシドパルミテート1質量部に対してトコフェロールを等量〜10倍量を含有するTNF−α産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TNF−α産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
TNF−αはマウスに移植した腫瘍に対して出血性壊死を誘発させる因子として単離された。その後の研究で、アポトーシスの誘導、炎症メディエーターや抗体産生の亢進を行うことにより感染防御や抗腫瘍作用に関与するが、過剰な発現は関節リウマチや乾癬などの疾患の発症を招くことが明らかとなった。特に慢性炎症性疾患である関節リウマチは関節破壊などの臨床症状を有し、TNF−αはIL-6などと並んで関節リウマチの病態形成において中心的な役割を果たすサイトカインの一つとして特定されている。わが国の臨床においてもTNF−αをターゲットとした生物学的製剤が用いられており、sTNFRと免疫グロブリンGの融合タンパク質であるエタネルセプトや抗TNF−αモノクローナル抗体であるインフリキシマブおよびアダリムマブが適応となっている。しかしこれらのTNF−α抑制作用を有する薬剤は副作用も多く、感染症や発癌に対するリスクが高まることが警鐘されている。また脂肪組織は炎症性サイトカインを分泌しており、TNF−αにより細胞内へのグルコースの取り込み阻害やインスリンに対する感受性低下が生じ、さらに脂肪細胞や肝細胞における脂肪酸の産生を促進し、主にTNFR1を介して抗グリセリン血症を引き起こすことが知られている。
【0003】
近年生体のTNF−αの産生を抑制する物質の探索が進められてきた。
特許文献1(特開2012−207043号公報)にはニゲロオリゴ糖を有効成分とするTNF−α抑制剤が開示されている。特許文献2(特開2011−251950号公報)には、海洋性細菌の一種、クリセオバクテリウム(Chryserobacterium sp.)より単離されたスルホバシン BにTNF−α産生抑制作用があることが記載されている。特許文献3(特開2008−106014号公報)にはカルコンやヒドロキシカルコンなどの天然由来の化合物がTNF−α抑制作用を有することが記載されている。特許文献5(特開2011−153139号公報)にはビタミンE誘導体を有効成分とするTNF−αに抑制作用を有する薬剤が開示されている。
【0004】
また、ビタミンE(トコフェロール)を取り込んだマクロファージはLPSなどの刺激によって分泌するTNF−αの分泌量が減少することが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−207043号公報
【特許文献2】特開2011−251950号公報
【特許文献3】特開2008−106014号公報
【特許文献4】特開2007−197392号公報
【特許文献5】特開2011−153139号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sakamoto, W. et al. Biochim.Biophys.Acta, in press, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マクロファージのTNF−α産生を抑制する剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マクロファージの刺激誘導性TNF−αの産生を抑制する方法を研究していたところ、アシル化ステロール配糖体とトコフェロールとの併用による強いTNF−α産生抑制能力を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)β−シトステロールグルコシドパルミテート(β−Sitosterol glucoside palmitate)及びトコフェロールを有効成分として含有し、β−シトステロールグルコシドパルミテート1質量部に対してトコフェロールを等量〜10倍量を含有するTNF−α産生抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により新たなTNF−α産生抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】パルミチン酸で刺激したマクロファージのTNF−αの分泌を、β−シトステロールグルコシドパルミテート(β−Sitosterol glucoside palmitate)、α-トコフェロール及びそれらを併用した剤が抑制することを確認した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いるアシル化ステロール配糖体のステロール骨格は、β−シトステロールであることが好ましい。また、アシル化ステロール配糖体の結合する糖は、D−グルコースであることが好ましい。さらにまた、アシル化ステロール配糖体のアシル基は、パルミチン酸基であることが好ましい。
【0013】
アシル化ステロール配糖体の具体的な化合物として、は、β−シトステロールグルコシドパルミテート(β−Sitosterol glucoside palmitate)であることが最も好ましい。
【0014】
本発明のTNF−α産生抑制剤はアシル化ステロール配糖体として成人1日1mg〜1000mg摂取できるように処方することが好ましい。
さらに、本発明のTNF−α産生抑制剤には、α−トコフェロール又はα−トコフェロール誘導体を配合することで、そのTNF−α抑制効果を増強することができる。α-トコフェロールは、アシル化ステロール配糖体の等量〜10倍量配合することが好ましい。α-トコフェロール誘導体はビタミンEとしての作用を有するものであればどのような化合物であっても許容できる。代表的なα−トコフェロール誘導体としてビタミンEリン酸ナトリウム(TPNa:商品名)が例示できる。
なお、アシル化ステロール配糖体、α-トコフェロールもその安全性は熟知されており、極めて低毒性の物質で問題がないことが知られている。
【0015】
本発明の各化合物、及びその薬理上許容される塩は、植物などから単離・精製した天然物であってもよいし、公知の合成方法により合成したものであってもよい。
【0016】
本発明の薬剤を体内投与する際は経口投与が好ましく、飲食品やサプリメントへ添加・配合することによりTNF−α抑制作用をもった健康食品として利用することも可能である。
【0017】
本発明のTNF−α産生抑制剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0018】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜使用することができる。
【0019】
結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0020】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の活性成分を添加することができる。例えば免疫機能を調節するために、生体の免疫反応を調整する物質を添加することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例・試験例を示し、本発明をより詳細に説明する。
試験1.α-トコフェロール及びβ−シトステロールグルコシドパルミテートのTNF−α産生抑制効果確認試験
表1に示す濃度の試料を用いて、パルミチン酸により誘導されるTNF−αの産生抑制効果を試験した。
【0022】
【表1】
【0023】
(1)試料及び試薬、培地の調製
[GW9508 (Cayman Chemical Company社)]
DMSOで20 mMに調製した。これをDMSOで希釈して所望の濃度に調製した。GW9508はTNF−α抑制効果が確認されている化合物であり化学名は4−(3−フェノキシベンジルアミノ)フェニルプロピオン酸である。
[Indomethacine ( Sigma-Aldrich社)]
DMSOで10 mMに調製した。これをDMSOで希釈して所望の濃度に調製した。TNF−α抑制効果が確認されている化合物である。
[α-トコフェロール( Sigma-Aldrich社)]
DMSOで 4 mg/mLに調製した。これをDMSOで倍希釈して希釈系列を調製した。
[β−シトステロールグルコシドパルミテート(β−Sitosterol glucoside palmitate)フナコシ社]
DMSOで20mMに調製した。これをDMSOで倍希釈して希釈系列を調製した。
【0024】
(2)細胞溶解緩衝液(RIPA)
次の組成の緩衝液を用いた。
50 mM Tris-HCl, pH8.0 (Wako社)、150 mM NaCl( Wako社)、1%(v/v) NP-40 Alternative (CALBIOCHEM社)、0.1%(w/v) SDS(Wako社)、0.5%(w/v)Na-deoxycholate( Wako社)
+Protease Inhibitor Cocktail(nacalai tesque社)
【0025】
<増殖用培地>DMEM-10%FBS-1%P/S
4.5 g/Lグルコース、110 mg/mL ピルビン酸ナトリウム、15 m/Lフェノールレッドを含むDMEM (Gibco社,) 445 mLに牛胎児血清(FBS、171012、NICHIREI BIOSCIENCES INC社) 50 mL、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma社) 5 mLを加え、ピペッティングにて混合し調製した。
【0026】
<アッセイ用培地>DMEM-0.5%FBS-1%P/S
4.5 g/Lグルコース、110 mg/mL ピルビン酸ナトリウム、15 m/Lフェノールレッドを含むDMEM (Gibco社) 495 mLにペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma社) 5 mLを加えて混合し、この内39.8 mLを遠沈管に分注し、牛胎児血清(FBS、171012、NICHIREI BIOSCIENCES INC社) 0.2 mLを加えた後、混合し調製した。
【0027】
(3)細胞培養方法
1)凍結保存していた細胞(2×106 cell)を150 mmディッシュ(MS-10150、住友ベークライト社)1枚に播種し、30 mLの増殖用培地中で、3日間培養した。
2)150 mmディッシュで増殖させた細胞を、48ウェルプレートに細胞密度2×105cells/wellで播種し、細胞を完全に接着させるためアッセイ用培地中で9時間培養した。
3)48ウェルプレートの増殖用培地をP200のマイクロピペットで丁寧に取り除いた。
4)1.5 mLマイクロチューブに各サンプルストック溶液14 μL、培地1386 μLを入れ、サンプル添加培地を調製した(サンプル濃度は添加濃度の100分の1、ジメチルスルフォオキサイド(DMSO)濃度は1%)。
5)ボルテックスで良く撹拌した後、各ウェルに400μLずつ入れ、14時間静置した。
6)14時間後、培地をマイクロチューブに回収した。
7)1.5 mLマイクロチューブに200μMのパルミチン酸(PA)7 μL、各サンプルストック溶液7 μL(前処置濃度の2倍濃度)、培地1386μLを入れ、PA+サンプル添加培地を調製した(サンプルとDMSOの終濃度は前処理時と同じになるように調製した)。
8)調製したサンプルをボルテックスミキサーで撹拌後、各ウェルに400μLずつ入れ24時間培養し、TNF−αの分泌を誘導した。
9)24時間後、培地を回収し分析まで-80℃で冷凍保存した。
10)培地回収後、細胞をPBS(-)で1度洗浄し、各ウェルにRIPAを100 μLずつ入れ超音波破砕を行った。
11)可溶化したタンパク質をピペットでマイクロチューブに移し、分析まで-80℃で冷凍保存した。
【0028】
(4)細胞タンパク量の定量
1)-80℃で凍結保存していた培地を水中解凍し、4℃、20,400×gで10 分間遠心した。
2)遠心後、上清中のタンパク量をPierce BCA Protein Assay Kit(Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて添付のプロトコールに従い測定した。
【0029】
(5)ELISAによるTNF−α量の測定
1)-80℃で凍結保存していた培地を水中解凍し、1000×gで3分間遠心した。
・上清中のTNF−α量を「Quantikine Mouse TNF-αImmunoassay kit」(R&D Systems社製)を用いてキットに添付のプロトコールに従い測定した。
【0030】
測定結果は各試料とも3ウェルの平均値を求め、パルミチン酸刺激によるTNF−α産生量を100とする相対値(%)で図1に示した。なお測定結果はスチューデントのt 検定による有意差検定を行い評価した。なお図中の「ASG」はβ−シトステロールグルコシドパルミテートを示す。
各化合物はいずれもパルミチン酸刺激によって誘導されるマクロファージのTNF−α産生を抑制した。
【0031】
試験2.β−シトステロールグルコシドパルミテートとα-トコフェロールの併用効果試験
上記試験1でTNF−α抑制効果を有することが確認できたβ−シトステロールグルコシドパルミテートとα-トコフェロールを併用したときの効果を確認した。
試験例1と同様の方法でTNF−α抑制試験を行った。試験試料としてβ−シトステロールグルコシドパルミテート5μg/mLにα-トコフェロール25μM併用群、β−シトステロールグルコシドパルミテート2.5μg/mLにα-トコフェロール12.5μM併用群を用意し、パルミチン酸刺激によるTNF−α抑制効果を試験した。
なおα-トコフェロールは次のように調製した。
α-トコフェロール( Sigma-Aldrich社)をDMSOで20mM濃度に調製し、このストック溶液をDMSOで希釈することで所望の濃度溶液を調製した。
【0032】
結果を図1に示す。
β−シトステロールグルコシドパルミテート単独群では、TNF-α産生抑制効果が認められるものの、10μMで頭打ち傾向になり、その効果に限界が見られた。
α-トコフェロール単独群では濃度依存的にTNF-α産生抑制効果が認められ、100μMで約32%の産生抑制効果であった。
それらに対し、β−シトステロールグルコシドパルミテートにα-トコフェロールを併用することでTNF−αは相乗的に抑制され、β−シトステロールグルコシドパルミテート5μg/mLにα-トコフェロール25μM併用群では、パルミチン酸無刺激と同等の結果となった。これは、α−トコフェロール100μM相当以上の抑制効果である。
したがって、β−シトステロールグルコシドパルミテートにα-トコフェロールを併用するとマクロファージが外部刺激にともなって産生するTNF−αを完全に抑制できる可能性がある。
【0033】
以上の試験結果から、β−シトステロールグルコシドパルミテートとα-トコフェロールの併用は、TNF―α産生を顕著に抑制することが確認された。
図1