(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077882
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】二重靴下
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
A41B11/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-35902(P2013-35902)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-163017(P2014-163017A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】奥田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】下野 央子
(72)【発明者】
【氏名】長渡 聖奈
【審査官】
田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−138532(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3038460(JP,U)
【文献】
特開2001−055605(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3029621(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00−11/14
A41D 19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成された略同一形状の内筒体および外筒体を前記口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下であって、
前記内筒体における前記外筒体に対向する面にパイルを設けるとともに、
前記外筒体における前記内筒体に対向する面にパイルを設け、
前記内筒体に設けられたパイルを編成する繊維の熱伝導率が、前記外筒体に設けられたパイルを編成する繊維の熱伝導率よりも低く、
前記内筒体に設けられたパイルを編成する繊維は、ポリプロピレンを主体とする繊維であって、
前記外筒体に設けられたパイルを編成する繊維は、アクリルを主体とする繊維であることを特徴とする二重靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地で構成された靴下に関し、特に、口ゴム部から爪先部まで全体を二重にした二重靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防寒用、スポーツ用、作業用等として、かなり厚手の靴下が普及している。このような靴下として、口ゴム部で連なる筒形編地から内筒体と外筒体とを形成し、重なり合う両筒体を爪先部で縫合一体化した二重靴下がある。
特開2010−138532号公報(特許文献1)は、このような二重靴下の一例として、脚を挿入すると暖かい空気が長時間保温され、かつ、暖かい空気が逃げることのない二重靴下を開示する。
【0003】
この特許文献1に開示された二重靴下は、爪先部と足挿入部と脚挿入部とからなる内側靴下体と、爪先部と足挿入部と足挿入部とからなる外側靴下体とを、前記内側靴下体の脚挿入部と前記外側靴下体の脚挿入部とを接続糸を介して接続せしめる靴下編地体において、前記内側靴下体と前記外側靴下体の夫々の爪先部と足挿入部と脚挿入部の夫々の内側面にパイルを施して靴下編地体を編成し、前記内側靴下体と前記外側靴下体とを重ね合わせて前記内側靴下体の爪先部と前記外側靴下体の爪先部とを縫合し形成することを特徴とする。
【0004】
この二重靴下によると、脚を挿入すると暖かい空気が長時間保温され、かつ、暖かい空気が逃げることのない利点を有している。さらに、この二重靴下を履くと、履いたら直ちに冷たい外気を遮断し脚全体を暖める即効性を発揮する利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−138532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に開示された二重靴下は、内面パイルが内筒体の脚部には編成されていないために保温性が十分でないという問題点を解決するために発明されている。そのために、特許文献1に開示された二重靴下は、内側靴下体は、靴下用編糸を介して爪先部と足挿入部と脚挿入部の夫々の内側面にパイルを施し形成しているとともに、外側靴下体の脚挿入部と足挿入部と爪先部の夫々の内側面にも、内側靴下体の内側面と同様にパイルを施し形成している。このように、内側靴下体の内側面にも外側靴下体の内側面にも、靴下用編糸を介して同じ繊維素材のパイルを施している。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、外側面を編成する編糸についてはウール混素材との記載があるものの(特許文献1の第0041段落)、内側面のパイルを編成する編糸の素材については靴下用編糸としか記載されていない(特許文献1の第0031段落)。編糸(繊維素材)の熱的特性は、その種類により大きく異なり、特許文献1に開示された二重靴下では、十分な保温性を実現しているとは考えにくい。すなわち、内側靴下体の内側面にも外側靴下体の内側面にも、靴下用編糸を介して同じ繊維素材のパイルを用いた二重靴下では、人体の肌からの内側靴下体の内側面への熱伝導率(熱伝導度)も内側靴下体の内側面から外側靴下体の内側面への熱伝導率も同じになり、十分に保温することができない可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成された略同一形状の内筒体および外筒体を前記口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下において、繊維素材の熱的特性を十分に活かして、保温性の極めて高い二重靴下を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る二重靴下は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る二重靴下は、口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成され
た略同一形状の内筒体および外筒体を前記口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下であって、前記内筒体における前記外筒体に対向する面にパイルを設けるとともに、前記外筒体における前記内筒体に対向する面にパイルを設け、前記内筒体に設けられたパイルを編成する繊維の熱伝導率が、前記外筒体に設けられたパイルを編成する繊維の熱伝導率よりも低いことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記内筒体に設けられたパイルを編成する繊維は、ポリプロピレンを主体とする繊維であって、前記外筒体に設けられたパイルを編成する繊維は、アクリルを主体とする繊維であるように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二重靴下によれば、口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成された略同一形状の内筒体および外筒体を前記口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下において、繊維素材の熱的特性を十分に活かして、保温性の極めて高い二重靴下を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る二重靴下の概略側面図である。
【
図2】
図1の二重靴下の着用状態を示す斜視図である。
【
図5】
図1の二重靴下の爪先部での縫着を解いて内筒体を引き出した状態(すなわち編み上がりの状態)を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る二重靴下を、図面に基づき詳しく説明する。ここで、二重靴下の構造および製造方法には様々なものがあり、本発明は特定の構造および製造方法に限定されるものではない。すなわち、後述する特徴(パイルを編成する編糸の素材)を備えたものであれば、どのような二重靴下であってもよい。たとえば、二重靴下を構成する編地の編み組織および二重靴下を編成する編機の種類は、どのようなものであっても構わない。そのため、以下に示す二重靴下の概略の構造は特許文献1に開示された二重靴下と類似するものであって単なる例示でしかない。
【0014】
なお、本発明は、ルームソックスやルームシューズと呼ばれる室内履きの靴下(ソックス)、特に好ましい。また、以下に示す二重靴下は左右共用であるために、左右を履き間違いすることがない点で好ましい。
図1は、本実施の形態に係る二重靴下10の概略側面図であって、
図2は、二重靴下10の着用状態を示す斜視図である。
図3は、この二重靴下10の部分断面図であって、
図4は、
図3のA部の部分拡大図である。
図5は、この二重靴下10の爪先部12での縫着を解いて内筒体30を引き出した状態(すなわち編み上がりの状態)を示す概略断面図である。なお、
図1、
図3および
図5は、二重靴下10または編み上がりの二重靴下10を平面に載置した状態を想定した図である。
【0015】
図1および
図2を参照して、この二重靴下10の外観上の特徴について説明する。
図1に示すように、この二重靴下10は、爪先部12から踵部14までを構成している環状のフット部と、開口部(穿き口)に設けられた口ゴム部16と、口ゴム部16から踵部14までを構成している環状のボディ部とを備えた、通常の靴下と同じ外観を備えている。たとえば、ボディ部およびフット部は同じ編糸で同じ編地で編成されており、爪先部12および踵部14は同じ編糸で同じ編地で編成されており、口ゴム部16は他の部位よりも伸縮性に優れたゴム編み等で編成することができる。しかしながら、本発明に係る二重靴下は、デザイン等の理由から、このような編糸にも編地にも限定されるものではない。
【0016】
次に、
図3〜
図5を参照して、本発明に係る二重靴下の特徴を備える、この二重靴下10の断面について説明する。
図3および
図5に示すように、この二重靴下10は、口ゴム部16で連続する略筒形状の編地から一体的に編成された略同一靴下側面形状の内筒体30および外筒体20を口ゴム部16で折り返して両筒体の爪先部(内筒体30の爪先部12B(裏側:Back)および外筒体20の爪先部12F(表側:Front))を縫着
している。なお、口ゴム部16は、本実施の形態に係る二重靴下10においては外筒体20の一部として編成しているが、内筒体30の一部として編成しても構わないし、外筒体20および内筒体30の一部として編成しても構わない。
【0017】
図5に示す、この二重靴下10の編み上がりの状態において、内筒体30を矢示の方向へ外筒体20の内側へ入れ込んで、外筒体20の爪先部12Fと内筒体30の爪先部12Bとを縫着することにより、この二重靴下10は製造される。なお、本発明に係る二重靴下の製造方法は、このような製造方法に限定されるものではない。
そして、
図3〜
図5に示すように、外筒体20において、内筒体30に対向する面にパイル24を設けるとともに、パイル24の反対面が二重靴下10の外表面22となっている。外表面22は、外気に触れる。また、内筒体30において、外筒体20に対向する面にパイル34を設けるとともに、パイル34の反対面が二重靴下10の内表面32となっている。内表面32は、ユーザの脚Fの肌に当接する。このように構成したため、外筒体20におけるパイル24と内筒体30におけるパイル34とは対向している。このため、
図4に示すように、パイル24自体の編み目、パイル34自体の編み目およびパイル24とパイル34との間隙に、それぞれ暖かい空気を蓄えることができる。なお、本実施の形態においては区別を明確にするために、パイル24のパイル長さとパイル34のパイル長さとを異なるように(パイル24のパイル長さが長くなるように)記載しているが、本発明に係る二重靴下のパイル長さがこれに限定されるものではない。
【0018】
さらに、このパイルを編成する編糸の繊維の特性、特に熱的特性について以下に詳しく説明する。以下において、熱伝導率は、熱伝導において、熱流束密度(単位時間に単位面積を通過する熱エネルギー)を温度勾配で除算した物理量であって熱伝導度と同じ物理量である。
この二重靴下10においては、上述した内筒体30に設けられたパイル34を編成する繊維の熱伝導率が、外筒体20に設けられたパイル24を編成する繊維の熱伝導率よりも低い。さらに詳しくは、内筒体30に設けられたパイル34を編成する繊維は、ポリプロピレンを主体とする繊維であって(少なくともポリプロピレンが50重量%以上)、外筒体20に設けられたパイル24を編成する繊維は、アクリルを主体とする繊維(たとえばアクリル95重量%、ウール5重量%)である。
このように、内筒体30のパイル34に、アクリル(熱伝導率λ=0.21)を始め、ナイロン(熱伝導率λ=0.24)およびポリエステル(熱伝導率λ=0.15)等の熱伝導率の高い繊維よりも、熱伝導率が低いポリプロピレン(熱伝導率λ=0.12)を用いた。
【0019】
これにより、二重靴下において外筒体におけるパイルと内筒体におけるパイルとを対向させたために、外筒体のパイル自体の編み目、内筒体のパイル自体の編み目および外筒体のパイルと内筒体のパイルとの間隙に、それぞれ暖かい空気を蓄えることができるので、高い保温性を実現することができる。さらに、このようなパイルによる保温性に加えて、内筒体のパイルを(外筒体のパイルよりも)低い熱伝導率の繊維素材へ編成したので、ユーザの脚Fの肌から内筒体への熱伝導率が低く、ユーザの脚Fの熱を外気へ逃がすことがない。
【0020】
なお、外筒体20においてパイル24を編成する方法および内筒体30においてパイル34を編成する方法は、公知の技術を採用すれば良い。さらに、外筒体20において、外表面22とパイル24とを同じ編糸で編成しても構わないし、異なる編糸で編成しても構わないし、内筒体30において、内表面32とパイル34とを同じ編糸で編成しても構わないし、異なる編糸で編成しても構わない。特に、ユーザの脚Fの肌に当接する内筒体30の内表面32およびパイル34をポリプロピレンで編成すると、ポリプロピレンは吸湿性が小さいので、蒸れ気味になって暖かいという効果を発現する。
【0021】
以上のようにして、本実施の形態に係る二重靴下は、口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成された略同一形状の内筒体および外筒体を前記口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下において、内筒体へ伝達される人体からの放熱量を低下せしめることができる。その結果、従来の二重靴下のパイル(パイルは全て同じ編成糸)による
保温性に加えて、ユーザの脚Fの熱を外気へ逃がすことがなく、高い保温性を実現することができる。
【0022】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、口ゴム部で連続する略筒形状の編地から形成された略同一形状の内筒体および外筒体を口ゴム部で折り返して両筒体の爪先部を縫着した二重靴下に好適であり、繊維素材の熱的特性を十分に活かして、保温性を極めて高くできる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0024】
10 二重靴下
20 外筒体
22 外表面
24 パイル
30 内筒体
32 内表面
34 パイル