【実施例1】
【0014】
図1に本発明による使用済燃料貯蔵キャスクの転倒を防止する方法および装置の実施例1を示す。
図1において、燃料貯蔵プール1はプール水2を保持し、プール底面3に使用済燃料貯蔵キャスク4が設置されている。使用済燃料貯蔵キャスク4は、底面を有する円筒状の容器構造のものである。その内部には格子が切ってあり、数十本の燃料集合体10を高さ方向に収納することができる。その大きさは例えば高さ5m、直径3m程度のものである。一例ではプールの深さは、使用済燃料貯蔵キャスク4の高さに比して十分な深さの20m程度とされる。
【0015】
使用済燃料貯蔵キャスク4の上部には、複数のワイヤ固定部5が備え付けられており、ワイヤ固定部5にワイヤ6が固定されている。本発明の使用済燃料貯蔵キャスク4においては、転倒防止のために、ワイヤ6の上端に浮力発生装置7が設置されている。
図1では浮力発生装置7を使用済燃料貯蔵キャスク4の上部2か所に設置した例を示している。
【0016】
浮力発生装置7は、鉛直方向に長い形状をしており、中は気体が封入できるよう空洞になっている。浮力発生装置7の頭頂部には弁機構8が設置されており、ここから内部の空気が出し入れされる。後述するが、燃料貯蔵プール1に使用済燃料貯蔵キャスク4を入れる前の段階において、使用済燃料貯蔵キャスク4上部のワイヤ固定部5にワイヤ6を固定して萎ませた状態の浮力発生装置7を取り付ける。浮力発生装置7を取り付けた使用済燃料貯蔵キャスク4を燃料貯蔵プール1に設置した後、浮力発生装置7頭頂部の弁機構8から気体を封入して膨らませる。なお燃料貯蔵プール1から使用済燃料貯蔵キャスク4を取り出す前の段階では、浮力発生装置7頭頂部の弁機構8から気体を排出して浮力発生装置7を萎ませた状態にしておく。
【0017】
このように使用済燃料貯蔵キャスク4は、水中では膨張させた浮力発生装置7を取り付けた状態とされている。なお浮力発生装置7の1個当たりの体積は、使用済燃料貯蔵キャスク4が排斥した水の重量と同程度とされるのがよい。これにより、燃料貯蔵プール1内の使用済燃料貯蔵キャスクに対して常に上向きの力が発生する。このため、地震時に使用済燃料貯蔵キャスク4に対して転倒モーメントが発生した際、浮力発生装置7による上向きの力から転倒モーメントに対抗するモーメントが発生し、使用済燃料貯蔵キャスク4の転倒を防ぐことが可能となる。
【0018】
次に、使用済燃料貯蔵キャスク4に対する転倒モーメントと、浮力発生装置7による対抗モーメントの関係について説明する。
図2には、水平地震力によって発生する転倒モーメントM
Hが使用済燃料貯蔵キャスク4に加わる際のイメージを示す。この図では、使用済燃料貯蔵キャスク4が地震により角度θ傾いた状態を示しており、使用済燃料貯蔵キャスク4の点P1のみでプール底面3に接している状態を示している。このときに使用済燃料貯蔵キャスク4の重心位置P2は、点P1の鉛直方向から距離L0の位置にある。また浮力発生装置7Aを使用済燃料貯蔵キャスク4に固定するためのワイヤ固定部5Aの位置P3は、点P1の鉛直方向から距離L1の位置にある。さらに浮力発生装置7Bを使用済燃料貯蔵キャスク4に固定するためのワイヤ固定部5Bの位置P4は、点P1の鉛直方向から距離L2の位置にある。
【0019】
係る
図2の状態において、使用済燃料貯蔵キャスク4のワイヤ固定部5A、5Bには、それぞれ浮力発生装置7A、7Bによって上向きの力F
1及びF
2が生じる。F
1及びF
2が作用する点P3,P4と、使用済燃料貯蔵キャスク4がプール底面3と接している点P1(以下、支点)との距離がそれぞれL
1及びL
2であり、使用済燃料貯蔵キャスク4の重心P2と支点P1の間の距離がL
0である。このとき使用済燃料貯蔵キャスク4に働く転倒モーメントMは、次の(1)式で表される。ただし、Wは使用済燃料貯蔵キャスク4の重量を示す。
[数1]
M=M
H−L
1F
1−L
2F
2+L
0W (1)
この式によれば、使用済燃料貯蔵キャスク4のプール底面3からの傾きθが大きくなると、L
1及びL
2が大きくなり、水平地震力によって発生する転倒モーメントM
Hに対抗するモーメントL
1F
1及びL
2F
2が大きくなるため、使用済燃料貯蔵キャスク4の転倒を防止する効果が得られる。
【0020】
図3は、回復力と傾き角度の関係を示した図である。この
図3において横軸はプール底面3に対する使用済燃料貯蔵キャスク4の傾き角度θであり、縦軸は使用済燃料貯蔵キャスク4に働く回転モーメントの和である。縦軸の値がゼロであるラインは、転倒モーメントMと抵抗モーメント(モーメントL
1F
1及びL
2F
2)が等しい値になることを表しており、このラインの上部が転倒モーメントM>抵抗モーメントの領域であり、ラインの下部が転倒モーメントM<抵抗モーメントの領域である。
【0021】
この特性によれば、傾きの当初(角度がゼロからθ1の範囲)は転倒モーメントM>抵抗モーメントの領域にあり転倒方向であるが、以後最大安定傾斜角度θmまでの範囲では転倒モーメントM<抵抗モーメントの領域に入り、転倒を阻止する力が上回ることになる。なお最大安定傾斜角度θm以上になると、転倒モーメントMが抵抗モーメントを上回り、以後回復することができない。
【0022】
試算によれば、θ1は10度程度、抵抗モーメントが最も大きく作用する角度θ2は40度程度、最大安定傾斜角度θmは70度程度である。従って、地震の規模にもよるが傾斜角度が70度を超す規模のものでなければ、回復可能であることが分かる。
【0023】
図4に使用済燃料貯蔵キャスク4の上面図を示す。使用済燃料貯蔵キャスク4をその上部からみると、燃料集合体10を収納するための格子11が形成されている。使用済燃料貯蔵キャスク4に形成された格子11内に燃料集合体10を収納するためには、燃料集合体10をクレーンなどで吊り下げ、
図4の矢印Yに沿って移動させ、所定の格子の位置吊り下ろすことになる。このため、
図4の領域Y2は燃料集合体の移動経路にあたる。
【0024】
このため、使用済燃料貯蔵キャスク4に浮力発生装置7を取り付けるときには、以下の点を考慮する必要がある。まず、ワイヤ固定部5A、5Bは、キャスク4の側面に位置させる。そのうえで、円筒形の浮力発生装置7は、燃料集合体10の移動経路の領域Y2外に位置させる。これにより、燃料交換器を用いて燃料集合体10を使用済燃料貯蔵キャスク4内へ移動させる際、浮力発生装置7及びワイヤ固定部5が燃料集合体10の移動に対して障害とならないようにすることが可能となる。
【0025】
図5に、浮力発生装置7の上面図を示す。浮力発生装置7の上端には、気体を封入するための弁8が取り付けられている。弁8は、常に燃料貯蔵プール1の水面上に浮き上がるよう、浮きが付属されている。このため、燃料貯蔵プール1の水面上から浮力発生装置7に容易に気体を封入することが可能となる。
【0026】
また、使用済燃料貯蔵キャスク4を燃料貯蔵プール1から取り出す際の浮力発生装置7の取り外し方法について説明する。浮力発生装置7に備えられた弁8を開け、浮力発生装置7に封入されている気体を放出することで、浮力発生装置7の体積を縮小させる。その後、使用済燃料貯蔵キャスク4を天井クレーンより吊り上げ、燃料貯蔵プール1から外に搬出した際に、浮力発生装置7を使用済燃料貯蔵キャスク4から取り外す。この方法により、浮力発生装置7が、使用済燃料貯蔵キャスク4の燃料貯蔵プール1の取り出しの妨げにならないようにすることが可能となる。
【0027】
次に、使用済燃料貯蔵キャスク4を原子力発電設備などの燃料貯蔵プール1に収納し、燃料を装荷し、最終的に搬出に至るまでの手順と、これらの手順において浮力発生装置7がどのように使用されていくのかについて説明する。
図6は各手順において使用される機器と作業内容を示しており、
図7は一連の処理手順を示している。なお
図6は、
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)、
図6(d)に分けて順次説明する。
【0028】
図7の一連の処理手順の最初の処理ステップS1では、
図6(a)S1に図示しているように原子力発電設備などのトレーラエリア111にトレーラ109により積載されてきた空の使用済燃料貯蔵キャスク4を搬入し、天井クレーン110により吊りあげる。
図7の次の処理ステップS2では、
図6(a)S2に図示しているように使用済燃料貯蔵キャスク4をオペレーティングフロア112に置き、使用済燃料貯蔵キャスク4に水を注入する。次いで処理ステップS3では、使用済燃料貯蔵キャスク4に萎んだ状態の浮力発生装置7を取り付ける。
【0029】
図7の処理ステップS4では、
図6(b)S4に図示しているように萎んだ状態の浮力発生装置7を取り付けた使用済燃料貯蔵キャスク4を天井クレーン110により吊りあげ、処理ステップS5では燃料貯蔵プール1のキャスクピット113まで搬送し、水中に設置する。処理ステップS6では、燃料貯蔵プール1内の萎んだ状態の浮力発生装置7の弁8を利用して気体を封入し、浮力発生装置7を膨張させる。これにより使用済燃料貯蔵キャスク4には回復力が作用できる状態となった。
【0030】
図7の処理ステップS7では、
図6(c)S7に図示しているように、燃料貯蔵プール1内に別途設置されている燃料貯蔵ラック15から燃料集合体16を、燃料移動用クレーン18を用いて取り出し、キャスクピット113内の使用済燃料貯蔵キャスク4に収納する。なお、燃料集合体を移動して使用済燃料貯蔵キャスク4に収納するに際し、
図4で説明したように浮力発生装置7の位置を避けてY1方向から進入するようにされることは言うまでもない。次いで処理ステップS8では、燃料集合体を装荷した使用済燃料貯蔵キャスク4の搬出のために、浮力発生装置7の弁8を開いて内部気体を放出させ、萎んだ状態にする。
【0031】
図7の処理ステップS9では、
図6(d)S9に図示しているように、天井クレーン110を用いて使用済燃料貯蔵キャスク4の一次蓋を閉め、使用済燃料貯蔵キャスク4を上に持ち上げ水中から出す。処理ステップS10では、使用済燃料貯蔵キャスク4をオペレーティングフロア112に置き、内部の水を排水し、使用済燃料貯蔵キャスク4の二次蓋を閉める。処理ステップS11では、使用済燃料貯蔵キャスク4から萎んだ状態の浮力発生装置7を取り外す。処理ステップS12では、使用済燃料貯蔵キャスク4を天井クレーン110により吊り上げ、処理ステップS12では使用済燃料貯蔵キャスク4をトレーラ109に積載して搬出する。