(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077962
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】スライド式防波堤
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-156527(P2013-156527)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-25324(P2015-25324A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】福本 正
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−092017(JP,A)
【文献】
特開2013−032683(JP,A)
【文献】
特開2007−277945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04− 3/14
F16F 15/00−15/08
E04H 9/16− 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が溝型の収容部を形成した土台に、収容部の幅より小さな幅の堤体が設置されており、その堤体の底面には転動体が設けてあり、土台の収容部には溝を横断して両端が溝の壁に固定されたガイドが設けてあり、このガイドは堤体を貫通するものであると共に、堤体とガイドの間には摩擦材が設けてあり、堤体が外力を受けて収容部内をスライドして移動する間に堤体が受ける外力エネルギーを消費させるようにしてあるスライド式防波堤。
【請求項2】
請求項1において、転動体が、車輪、ローラ、またはベアリングのいずれかであるスライド式防波堤。
【請求項3】
請求項1または2において、土台の溝内の底面を凹面とすると共に堤体底面を凹面に合致する凸面とし、ガイドが堤体底面の凹面に合わせて湾曲させてあり、外力を受けてスライド移動した堤体が重力によって凹面の中心に自動復帰するようにしたスライド式防波堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
防波堤などの海岸構造物に高波浪や津波の襲来による大きな波力が作用した際、堤体が水平方向にスライドすることによって波力を運動エネルギーに変換・吸収し、堤体が修復不可能なまでに破壊されるのを防止するようにした防波堤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海中に設置されたケ−ソン式防波堤は、基礎から天端まで一体の構造物であり、潮流や波浪、更には津波による転倒・滑動を抑止して安定性を確保するため、構造物の重量を増大させて底面マウンドとの間の摩擦力を大きくし、滑動力に抵抗するのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−84868号公報
【特許文献2】特開2004−116130号公報
【特許文献3】特開2013−14972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防波堤に対して、設計力以上の外力が作用すると、
図5に示すように堤体に大きな水平力と揚圧力が作用して構造物としての安定性が低下し、波力等によって押されて転倒したり滑動したりすることがある。また、堤体前面のマウンドが洗掘によって崩壊するなどし、堤体が前方向に転倒するということがある。
このような状態になると、次々と襲来する波浪は転倒した堤体の上を通過し、防波堤によって減勢されない波浪が沿岸に到達して沿岸域の護岸を破壊するだけでなく、陸上部にまで達した波浪や津波は、構造物を破壊するなど物的損害を与えると共に、人の生命を奪うなど人的被害を引き起こすことになる。
そこで、本発明は大きな波浪が襲来しても堤体が転倒することがないようにし、また、波力によって押されて堤体が滑動しても、堤体が元の位置に戻ることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、連続する堤体の横断面において、断面が溝型の基礎内に、溝の幅より小さな幅の堤体が溝内に設置されており、その堤体底面が基礎面と接する面には移動の際にエネルギーを消費する移動体が設けてあり、溝を横断して両端が溝の壁に固定されたガイドが設けてあり、このガイドは堤体を貫通するものであると共に、堤体とガイドの間には摩擦材が設けてあり、堤体が溝内をスライドして移動する間に堤体が受け外力エネルギーを消費させるようにしてあるスライド式防波堤である。
更に、基礎底面を凹面とすると共に堤体底面を凹面に合致する凸面とし、水平移動した堤体が重力によって自動的に凹面の中心に自動復帰するようにしたスライド式防波堤である。
【0006】
本発明は、巨大津波等による堤防等の海岸構造物の転倒や滑動によってマウンドから転落して転倒して防波堤としての機能を失うことを阻止するものである。
大重量の堤体が波力を受けてスライド移動することによって波力を運動エネルギーに変換して転倒を防止するものである。
【発明の効果】
【0007】
堤体に作用する波浪による水平力が堤体をスライドさせることによって波力は運動エネルギー変換され、堤体に作用する波力は、堤体がスライド移動しながら受けることによって波浪が短時間に衝撃的に作用して堤体を転倒させるのを防止するものある。堤体が転倒することなくその高さを維持するものであるため、堤体が転倒させられて次々と襲う波浪が減衰されないままで沿岸に到達することを防止でき、大きな物的または人的被害が発生するのを防止することができる。
また、堤体をガイドが貫通しており、堤体と土台が一体構造となっているため、耐震性の大きな構造物とすることができる。
従来のマウンドの上にケーソン等を設置する形式の防波堤に比較し、マウンドを構築せず海底に溝型の土台を設置し、溝の内部にガイド部材で溝型の基礎に固定し、堤体を水平移動可能に設置したものであり、堤体構造物周囲の洗掘が起きず、長期間に渡って防波堤としての機能を発揮することができるので、土台を構築するための費用を長期間の使用で取り戻すことが可能であり、トータルのコストとしては、従来の防波堤と変わらぬコストパフォーマンスであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のスライド式防波堤の実施例の断面図。
【
図2】本発明のスライド式防波堤の他の実施例の断面図。
【
図3】基礎面を凹面としたスライド式防波堤の作用の説明図。
【0009】
実施例1
図1に示すように、スライド式防波堤1は、海底5を浚渫して平坦に造成した基礎面に土台2が設置してある。土台2は、中央部に溝型の収容部20が形成されている。収容部20の両側の下面からは張出部21が左右に延びており、張出部21の上に浚渫土砂などの埋め戻し土51が盛られており、張出し部21は土砂中に埋設されている。必要に応じて張出部21に捨石を載置して土台2が転倒したり移動しないようにする。張出部21の先端部には上方に突出する縁22が設けてあり、埋め戻し土51内部において移動に抵抗する抵抗体として作用し、土台2の移動を阻止するものである。
【0010】
土台2は鉄筋コンクリート製であり、施工性を考慮して3〜5mの長さのユニットとして製造するものであり、製造工場から設置現場に運搬した複数のユニットを並べて順に土台2の収容部20に沈設して防波堤とするものであり、堤体10は土台2と同じ長さである。土台2の長手方向の中央部には控え26が設けてあり、溝の壁体25を補強するものであり、堤体10がスライド移動して壁体25に衝突したときの衝撃に対抗できるようするものである。控え26は、ユニットが比較的長いものである場合は、中央部に加えて1.5〜2m程度の間隔で複数設けて壁体25を補強する。壁体25には収容部20内に沈積した砂を排出するためのスリットまたは穴からなる排出口27が設けてあり、排出口27の底面は海底面と一致するようにして設置する。
なお、土台2は、鉄筋コンクリート製に限られるものでなく、鋼製としてもよい。
【0011】
溝の両側の壁体25、25のほぼ中間の高さには収容部20を横断する鋼管からなるガイド4が固定してある。ガイド4の両端は、収容部20の両側の壁体25に固定されており、また、ガイド4の周囲には、堤体10がスライド移動して壁体25に衝突する際の衝撃を緩衝するゴム製等の緩衝材40が固定してある。
【0012】
収容部20の内部には、スライドして移動することが可能な堤体10が設置されている。堤体10には貫通穴15が形成してあり、この貫通穴15にガイド4が挿入されている。堤体10は、コンクリート製の中空の構造物であり、設置現場までは中空の状態で運搬され、沈設して設置された後に中空部に砂、土砂、砕石等の中埋め材30を充填して重量を増し、上部にコンクリートを打設して蓋をする。
堤体10とガイド4は摩擦材を介して接触するようにしてあり、堤体10が収容部内をスライドして移動する際に移動の運動エネルギーを消費するようにしてある。
また、ガイド4は、堤体10のスライドする方向をガイドすると共に、堤体10が作用する水平力によって転倒するのを防止するものである。
【0013】
堤体10の底部には、転動体、例えば車輪16が設けてあり、堤体10が波浪による水平力を受けた際に、外力に抵抗するのではなく、重量物である堤体10がスライドして収容部20内を移動するようにしてある。車輪16に代えて、ローラ、ベアリングなどでもよい。
車輪やベアリングは海水によって錆びることが予想されるので、軸受け部をシールしたものを使用するのが好ましいが、波浪によって堤体10が前後に微小スライドを繰り返しているので、錆び付きによって巨大津波の襲来時にスライドしないということはなく、また、堤体10自体が大重量であり錆びによるスライドに対する抵抗の増大は微小であり、無視できると考えられる。
【0014】
巨大波浪や巨大津波の襲来によって堤体10が水平力を受けて岸側にスライドさせられ、壁体25まで移動することによって波力エネルギーを移動に要する運動エネルギーに変換して吸収され、堤体10の転倒が回避される。また、この作用は返し波に対しても同様の機能を発揮することができる。
【0015】
実施例2
図2に示す例は、基本的構造は、
図1の実施例1と同じであるが土台2の収容部20の表面をその中央部が最低部となる凹面としてある。また、堤体10の底面は収容部20の表面の凹面に合致する凸面としてあり、堤体10のスライドがスムースに行われるように堤体10の底部には車輪16が設けてある。
堤体10を貫通して設けてあるガイド4は、収容部20の凹面に沿うように下向きに湾曲させてあり、堤体10の貫通穴15は同様に湾曲させてあり、堤体10のスライド移動がガイド4によって円滑に行われるようにしてある。
【0016】
巨大波浪や巨大津波の襲来によって堤体10が水平力を受けて岸側にスライドさせられ、壁体25まで移動することによって波力エネルギーを移動に要する運動エネルギーに変換して吸収することによって堤体10の転倒を回避した後、堤体10は、収容部20の凹面がその中心向かって下がっていることからゆっくりと中心に向かって重力によって移動し、最終的に最下部である中心に停止することになる。
【0017】
施工手順
本発明のスライド式防波堤の施工手順を
図4を参照して説明する。
図4(1)に示すように、防波堤の設置位置の海底5を、防波堤を設置する土台2を収容できる幅を浚渫して基礎面を水平に均す。
次に、
図4(2)に示すように、予め土台2の収容部20の内部に堤体10を設置したものを、堤体10が水平移動しないように車輪16をロックした状態で設置現場に運搬し、浚渫してある基礎面に沈設する。続いて、同様に隣接する土台2を沈設し所定の長さの防波堤とする。
図4(3)に示すように、沈設した土台の両脇を元の海底面まで埋め戻しを行う。
最後に、
図4(4)に示すように堤体10の中空部に土砂、砕石等で中詰土砂30を充填し、堤体の頂部にコンクリートを打設して蓋を形成してスライド式防波堤1を完成させる。
【符号の説明】
【0018】
1 スライド式防波堤
10 堤体
15 貫通穴
16 車輪
2 土台
20 収容部
25 壁体
26 控え
27 排出口
4 ガイド
5 海底