特許第6078013号(P6078013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078013
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】車両後部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20170130BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20170130BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B62D25/20 J
   B60R16/04 D
   B60R16/02 610J
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-29804(P2014-29804)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151118(P2015-151118A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛文
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−149793(JP,A)
【文献】 特開2013−151207(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013634(WO,A1)
【文献】 特開2006−213252(JP,A)
【文献】 特開2013−169849(JP,A)
【文献】 特開2004−148852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60R 16/02
B60R 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤフロアパネルに車両下方に向かって凹設され、スペアタイヤが載置される底部と当該底部から立設された縦壁部とが一体に形成されているスペアタイヤ収納部内に、低電圧機器へ電力を供給する低電圧バッテリと、前記低電圧バッテリの直流電圧を交流電圧に変換して前記低電圧機器で使用可能とするインバータとが配置された車両後部構造であって、
前記低電圧バッテリが取り付けられるバッテリ取付用リーンフォースメントと、前記インバータが取り付けられるインバータ取付用ブラケットとを有し、
前記インバータ取付用ブラケットは、前記スペアタイヤ収納部の前記縦壁部との間に空間を有すると共に、前記インバータが取り付けられる取付部位を挟んで一方側に第1の固定部位、他方側に第2の固定部位がそれぞれ設けられ、前記取付部位を位置基準にして、前記第1の固定部位は車両前後方向の前方向に位置することになる前記リヤフロアパネルに固定され、前記第2の固定部位は車両前後方向の後方向に位置することになる前記スペアタイヤ収納部の前記底部に固定され、
前記バッテリ取付用リーンフォースメントは、長尺形状に形成され、前記スペアタイヤ収納部の前記底部にその長手方向が車両車幅方向に沿って配置されると共に前記インバータ取付用ブラケットに対して車両前後方向の後方向に配置されるように、前記底部に固定されていることを特徴とする車両後部構造。
【請求項2】
前記インバータ取付用ブラケットは、前記取付部位の前記第2の固定部位への延設側における前記インバータが取り付けられる範囲から外れた位置において、前記スペアタイヤ収納部の前記縦壁部及び前記底部に空間を保った状態で沿うように略くの字に折曲され、前記第2の固定部位が前記底部の車両車幅方向及び車両前後方向それぞれにおける実質的に中央位置に固定されていることを特徴とする請求項1記載の車両後部構造。
【請求項3】
前記スペアタイヤ収納部の車両前後方向の前方向に位置する前記リヤフロアパネルにクロスメンバが設けられている場合には、前記第1の固定部位は当該クロスメンバに固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両後部構造。
【請求項4】
前記スペアタイヤ収納部は、前記リヤフロアパネルの車両車幅方向の実質的に中央部分に凹設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の車両後部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リヤフロアパネルに、スペアタイヤを収納するためのスペアタイヤ収納部が凹設された車両後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗用自動車等の車両では、ユーザによる車両へのオプション的な電装品等の低電圧機器を車内に配置するにあたり、予めエンジンコンパートメント内やフロアパネル上に配置されているバッテリ(以下、本明細書中において「既存バッテリ」と称する。)とは別に、新たに低電圧バッテリをフロアパネル上の何れかの位置に配置する場合がある。この場合、低電圧バッテリは直流電圧なので、交流電圧で機能する低電圧機器に電力を供給するには、低電圧バッテリの直流電圧を交流電圧に変換して低電圧機器で使用可能とするインバータも配置しなければならない。
【0003】
特に、エンジンとモータの異なる2つの動力機構を備え、車両の形態がSUV(スポーツユーティリティービークル)やミニバンであるハイブリッド車両の場合、モータ駆動用バッテリ等の既存バッテリはフロントフロアパネル上やセンターフロアパネル上に配置されていることから、低電圧バッテリをこの2箇所のフロアパネル上に配置することが難しくなるので、当該低電圧バッテリはリヤフロアパネル上に配置されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。また、インバータは、既存バッテリや低電圧バッテリ等のバッテリ群の配置状態に応じて、リヤフロアパネル上に配置され(例えば、特許文献1参照。)、或いは車室内におけるフロントシートの座部下とフロントフロアパネルとの間に確保されたスペースに配置されている。
【0004】
なお、本明細書中においては、フロントフロアパネルとはダッシュパネル下端からリヤシート足元までのフロアパネル部分を意味し、センターフロアパネルとはリヤシート下のフロアパネル部分を意味し、リヤフロアパネルとはリヤシート後方のフロアパネル部分を意味するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−148852号公報
【特許文献2】特開2013−169849号公報
【特許文献3】国際公開第2011/148725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インバータ及びバッテリの何れもがリヤフロアパネル上に配置された車両の電気機器固定構造(特許文献1)では、インバータが後部フロア(リヤフロアパネル)のフロア後部に形成された凹部内に固定されている第1のブラケット上に搭載され、また、バッテリが第1のブラケットの上部に固定され且つ左右のホイールハウスに固定された第2のブラケット上に搭載されている構造なので、後部フロアの剛性を高くすることはできるが、当該後部フロアの共振振動による応力集中を回避することが困難であった。また、インバータ上にバッテリを積層させる構造なので、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害する難点があった。さらに、第1のブラケットを凹部上にねじ締結で固定させ、第2のブラケットを第1のブラケット及び左右のホイールハウスにねじ締結で固定させているので、ねじ締結精度の低下による部品組付精度の低下を招く虞があった。
【0007】
また、ホイールハウスに固定される側面及びリヤフロアパネルに固定される底面を有しているバッテリトレーにバッテリが収容される車両後部構造(特許文献2)では、リヤフロアパネル上の一方のホイールハウス横にバッテリが配置されるので、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害し、且つ車両の後部における左右対称の剛性を確保できない難点があった。
【0008】
また、リヤフロアパネルには、車両下方に凹んで形成されたスペアタイヤハウスが設けられ、このスペアタイヤハウス内の底部に充電器が単に取り付けられた車両後部の充電用部品取付構造(特許文献3)では、後部フロアの共振振動による応力集中を回避することが困難であった。
【0009】
また、インバータが車室内におけるフロントシートの座部下とフロントフロアパネルとの間に確保されたスペースに配置されている場合には、サラウンドシステム等の音響関係の電装品を車室内に配置することが困難になる難点があり、また、そのスペースに配置されたインバータが車室内において見えてしまうので、見栄えをよくするためにインバータが見えないようにする見栄えカバーを設けなければならなくなる難点があり、さらに、家等における停電などの非常時に電源として使用できるように交流100Vのコンセントが車両の後部に設けられている場合には、このコンセントと、フロントシートの座部下に配置されたインバータとを電気的に接続するためのワイヤハーネスが長くなることで配線作業が煩雑になり、製造コストが上昇する難点があった。
【0010】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、リヤフロアパネルに凹設されたスペアタイヤ収納部内に低電圧バッテリ及びインバータを組み込んでも、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害することなく、スペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの耐久性能の低下を防ぐと共に、当該スペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの共振振動に起因する室内の騒音を低減させることができる車両後部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様である車両後部構造は、リヤフロアパネルに車両下方に向かって凹設され、スペアタイヤが載置される底部と、当該底部から立設された縦壁部とが一体に形成されているスペアタイヤ収納部内に、低電圧機器へ電力を供給する低電圧バッテリと低電圧バッテリの直流電圧を交流電圧に変換して低電圧機器で使用可能とするインバータとが配置された車両後部構造であって、低電圧バッテリが取り付けられるバッテリ取付用リーンフォースメントと、インバータが取り付けられるインバータ取付用ブラケットとを有しているものである。なお、本明細書において、「凹設」とは、凹んだ状態に設けることを意味する。また、「立設」とは、立った状態で設けることを意味する。
インバータ取付用ブラケットは、スペアタイヤ収納部の縦壁部との間に空間を有すると共に、インバータが取り付けられる取付部位を挟んで一方側に第1の固定部位、他方側に第2の固定部位がそれぞれ設けられ、取付部位を位置基準にして、第1の固定部位は車両前後方向の前方向に位置することになるリヤフロアパネルに固定され、第2の固定部位は車両前後方向の後方向に位置することになるスペアタイヤ収納部の底部に固定されているものである。
バッテリ取付用リーンフォースメントは、長尺形状に形成され、スペアタイヤ収納部の底部にその長手方向が車両車幅方向に沿って配置されると共にインバータ取付用ブラケットに対して車両前後方向の後方向に配置されるように、底部に固定されているものである。
【0012】
このような第1の態様である車両後部構造によれば、インバータ取付用ブラケットは第1の固定部位及び第2の固定部位が車両前後方向に沿うように配置され、バッテリ取付用リーンフォースメントは車両車幅方向に沿って配置されていることから、スペアタイヤ収納部の車両前後方向及び車両車幅方向の剛性を強化することができるので、スペアタイヤ収納部内に重量物である低電圧バッテリ及びインバータを搭載しても、スペアタイヤ収納部の車両上下方向の変位を抑制してスペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの耐久性能を向上させることができ、さらに、インバータ取付用ブラケットがスペアタイヤ収納部の縦壁部との間に空間を有することから、取り付けられるインバータと共にダイナミックダンパを構成することになるので、このダイナミックダンパによりスペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの共振周波数を制御することで当該リヤフロアパネルの共振振動に起因する応力集中を回避することができ、且つ室内の騒音を低減させることができる。
【0013】
本発明の第2の態様は第1の態様である車両後部構造において、インバータ取付用ブラケットは、取付部位の第2の固定部位への延設側におけるインバータが取り付けられる範囲から外れた位置において、スペアタイヤ収納部の縦壁部及び底部に空間を保った状態で沿うように略くの字に折曲され、第2の固定部位が底部の車両車幅方向及び車両前後方向それぞれにおける実質的に中央位置に固定されているものである。なお、本明細書において、「延設」とは、一方向に延びるように設けることを意味する。
【0014】
このような第2の態様である車両後部構造によれば、このインバータ取付用ブラケットの略くの字に折曲された部位でもダイナミックダンパの弾性機能を持たせることができるので、当該ダイナミックダンパの制振機能を高めることができ、さらに、インバータ取付用ブラケットの第2の固定部位をスペアタイヤ収納部の底部の車両車幅方向及び車両前後方向それぞれにおける実質的に中央位置に固定させているので、スペアタイヤ収納部の車両上下方向の変位を効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明の第3の態様は第1の態様又は第2の態様である車両後部構造において、スペアタイヤ収納部の車両前後方向の前方向に位置するリヤフロアパネルにクロスメンバが設けられている場合には、第1の固定部位は当該クロスメンバに固定されているものである。
【0016】
このような第3の態様である車両後部構造によれば、リヤフロアパネルの剛性がクロスメンバの剛性より劣っている場合に有効で、スペアタイヤ収納部の車両上下方向の変位を補強部材であるクロスメンバで抑制することができる。
【0017】
本発明の第4の態様は第1の態様乃至第3の態様のうち何れか1つの態様である車両後部構造において、スペアタイヤ収納部は、リヤフロアパネルの車両車幅方向の実質的に中央部分に凹設されているものである。
【0018】
このような第4の態様である車両後部構造によれば、スペアタイヤ収納部内に低電圧バッテリとインバータとを配置しても、当該スペアタイヤ収納部は、リヤフロアパネルの車両車幅方向の実質的に中央部分に凹設されているので、車両の後部における左右対称の剛性を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両後部構造によれば、リヤフロアパネルに凹設されたスペアタイヤ収納部内に低電圧バッテリ及びインバータを組み込んでも、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害することなく、スペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの耐久性能の低下を防ぐと共に、当該スペアタイヤ収納部が凹設されたリヤフロアパネルの共振振動に起因する応力集中を回避することができ、且つ室内の騒音を低減させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の車両後部構造における好ましい実施の形態を示す図で、(A)はリヤフロアパネルのスペアタイヤ収納部内に低電圧バッテリ及びインバータが組み込まれた状態の上面図、(B)は(A)のA−A断面の断面図である。
図2】本発明の車両後部構造が適用されるフロアパネル全体を示す上面図である。
図3図1(A)に示された本発明の車両後部構造の分解斜視図である。
図4】(A)はリヤフロアパネルの特定の共振周波数に対する振動レベルの波形を示すグラフ、(B)はインバータが取り付けられたインバータ取付用ブラケットのリヤフロアパネルの共振振動を制振させる設定周波数に対する振動レベルの波形を示すグラフ、(C)はリヤフロアパネルの共振振動をインバータが取り付けられたインバータ取付用ブラケットで制振させたときの振動レベルの波形を示すグラフである。
図5】(A)、(B)、(C)は、リヤフロアパネルのスペアタイヤ収納部内に低電圧バッテリ及びインバータが組み込まれた状態のそれぞれ異なる実施形態を示す上面図である。
図6】リヤフロアパネルのスペアタイヤ収納部の振動による変形前後の状態を示す説明図で、(A)は図1の車両後部構造におけるスペアタイヤ収納部、(B)は図5(A)の車両後部構造におけるスペアタイヤ収納部、(C)は図5(B)の車両後部構造におけるスペアタイヤ収納部、(D)は図5(C)の車両後部構造におけるスペアタイヤ収納部である。
図7】(A)は図5(A)のB−B断面の部分斜視図、(B)は図1(A)のC−C断面の部分斜視図である。
図8】リヤフロアパネルのスペアタイヤ収納部における当該スペアタイヤ収納部、バッテリ取付用リーンフォースメント及びインバータ取付用ブラケットの振動による変形前後の状態を示す説明図で、(A)は図7(A)に対応する図、(B)は図7(B)に対応する図である。
図9】リヤフロアパネルのスペアタイヤ収納部を下面視した状態を示す下面図である。
図10図9に示すスペアタイヤ収納部における振動による変形状態を示す応力コンター図で、(A)は図1(A)に対応する図、(B)は図5(A)に対応する図、(C)は図5(B)に対応する図、(D)は図5(C)に対応する図である。
図11図10(A)、(B)、(C)、(D)から導き出された寿命比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の車両後部構造を実施するための形態例について、図面を参照して説明する。なお、この発明を実施するための形態で使用する各図中において矢印で方向を示してあるが、これは運転席に着座した乗員から見た方向を示している。矢印UPは車両上方向、矢印Frは車両前方向、矢印RHは車両右方向、矢印LHは車両左方向をそれぞれ示している。
【0022】
本発明の車両後部構造は図1(A)、(B)、図2図3に示すように、リヤフロアパネル1に車両下方に向かって凹設され、スペアタイヤ(図示せず。)が載置される底部2aと、当該底部2aから立設された縦壁部2bとが一体に形成されているスペアタイヤ収納部2内に、低電圧機器へ電力を供給する低電圧バッテリ3と低電圧バッテリ3の直流電圧を交流電圧に変換して低電圧機器で使用可能とするインバータ4とが配置されている。また、低電圧バッテリ3が取り付けられるバッテリ取付用リーンフォースメント5と、インバータ4が取り付けられるインバータ取付用ブラケット6とを有している。なお、図1(A)ではインバータ4の記載を省略し、図1(B)においては低電圧バッテリ3及びインバータ4の記載を省略している。
【0023】
スペアタイヤ収納部2は、底部2aと縦壁部2bとによって、車両前後方向の前側、車両車幅方向の両側及び車両上下方向の下側から囲まれた空間を有し、縦壁部2bの上面から水平方向にフランジ部2cが外側に向かって延設されている。このように形成されたスペアタイヤ収納部2は、車両前後方向の前側に位置する第1リヤクロスメンバ7と、車両前後方向の後側に位置する第2リヤクロスメンバ8と、車両車幅方向の両側に位置する右左のサイドメンバ9A、9Bとが囲うようにスポット溶接等によって接合されている。これら第1リヤクロスメンバ7、第2リヤクロスメンバ8及び右左のサイドメンバ9A、9Bは、リヤフロアパネル1の補強材である。
【0024】
インバータ取付用ブラケット6は、スペアタイヤ収納部2の縦壁部2bとの間に空間を有すると共に、インバータ4が取り付けられる取付部位6aを挟んで一方側に第1の固定部位6b、他方側に第2の固定部位6cがそれぞれ設けられている。そして、このインバータ取付用ブラケット6は、取付部位6aを位置基準にして、第1の固定部位6bは車両前後方向の前方向に位置することになるリヤフロアパネル1のフランジ部2cにねじ等の螺合部材による螺合締結で固定され、第2の固定部位6cは車両前後方向の後方向に位置することになるスペアタイヤ収納部2の底部2aにねじ等の螺合部材による螺合締結で固定されている。
【0025】
このような構造のインバータ取付用ブラケット6にインバータ4を取り付けるには、ねじ等の螺合部材による螺合締結やゴム等の弾性部材バンドによる固定手段が用いられる。
【0026】
バッテリ取付用リーンフォースメント5は、長尺形状に形成されている。このように形成されたバッテリ取付用リーンフォースメント5は、スペアタイヤ収納部2の底部2aにその長手方向が車両車幅方向に沿って配置されると共にインバータ取付用ブラケット6に対して車両前後方向の後方向に配置されるように、底部2aに固定されている。即ち、インバータ取付用ブラケット6が車両前後方向に沿って配置され、バッテリ取付用リーンフォースメント5が車両車幅方向に沿って配置されていることになる。この場合、バッテリ取付用リーンフォースメント5に取り付けられている低電圧バッテリ3は、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向の後側に2面ある縦壁面2bのうち何れか一方の縦壁面2bに沿うように配置され、インバータ4は、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向の前側に位置する縦壁面2bに沿うように配置されることになる。
【0027】
このような構造のバッテリ取付用リーンフォースメント5を使用して低電圧バッテリをスペアタイヤ収納部2内に配置するには、バッテリ取付用リーンフォースメント5上にねじ等の螺合部材による螺合締結で固定され低電圧バッテリ3を搭載するバッテリトレイ11と、バッテリトレイ11に搭載された低電圧バッテリ3をバッテリ取付用リーンフォースメント5及びリヤフロアパネル1にそれぞれねじ等の螺合部材による螺合締結で固定するバッテリ締結用バンド12とを使用する。なお、バッテリ取付用リーンフォースメント5を使用して低電圧バッテリ3をスペアタイヤ収納部2内に配置する配置方法は、これに限らず、バッテリ取付用リーンフォースメント5を使用して低電圧バッテリ3をスペアタイヤ収納部2内に配置することができれば、どのような配置方法でもよい。
【0028】
このように構成された本発明の車両後部構造では、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向の剛性を高めるように、インバータ取付用ブラケット6は第1の固定部位6b及び第2の固定部位6cが車両前後方向に沿うように配置され、スペアタイヤ収納部2の車両車幅方向の剛性を高めるように、バッテリ取付用リーンフォースメント5が車両車幅方向に沿って配置されているので、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向及び車両車幅方向の剛性を強化することができる。したがって、スペアタイヤ収納部2内に重量物である低電圧バッテリ3及びインバータ4を搭載しても、スペアタイヤ収納部2の車両上下方向の変位を抑制してスペアタイヤ収納部2が凹設されたリヤフロアパネル1の耐久性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、インバータ取付用ブラケット6は、スペアタイヤ収納部2の縦壁部2bとの間に空間を有するので、取り付けられるインバータ4と共にダイナミックダンパを構成することになる。したがって、このダイナミックダンパによりスペアタイヤ収納部2が凹設されたリヤフロアパネル1の共振周波数を制御することができる。即ち、スペアタイヤ収納部2が設けられたリヤフロアパネル1の振動レベルは、図4(A)に示すように、当該リヤフロアパネル1の波形WP1が着目周波数域Zで上向きのピークP1(図4(C)参照。)の共振周波数が形成される波形なので、ダイナミックダンパの波形WP2で形成される設定周波数を図4(B)に示すようなリヤフロアパネル1の共振周波数に近い周波数になるように、ダイナミックダンパを構成するインバータ4及びインバータ取付用ブラケット6の質量、インバータ取付用ブラケット6のばね定数もしくは減衰係数等を調整する。
【0030】
このようにダイナミックダンパの特性を設定すると、図4(C)に示すように、リヤフロアパネル1の振動レベルの波形には、共振周波数で下向きのピークP2が着目周波数域Z内で形成されると共に、当該共振周波数を挟んで低周波数側と高周波数側とに略均等で比較的小さな上向きのピークを有する共振波形が形成される。この2つの共振波形は、共振振動に起因する弊害を除去可能な目標振動レベルPより低いレベルにすることができる。これにより、ダイナミックダンパの設定周波数に基づき、リヤフロアパネル1の共振振動を効果的に低減できる。
【0031】
即ち、ダイナミックダンパによりスペアタイヤ収納部2が凹設されたリヤフロアパネル1の共振周波数を制御することで、当該リヤフロアパネルの共振振動に起因する弊害である応力集中を回避することができ、且つ室内の騒音を低減させることができる。
【0032】
また、本発明の車両後部構造では、インバータ4はインバータ取付用ブラケット6でスペアタイヤ収納部2内に固定され、バッテリ3はバッテリ取付用リーンフォースメント5でスペアタイヤ収納部2内に固定されていることから、螺合締結精度が低下することはないので、部品組付精度が低下することはない。
【0033】
また、本発明の車両後部構造では、リヤフロアパネル1のスペアタイヤ収納部2内にインバータ4を配置することができることから、車両の後部に設けられている交流100Vのコンセントと当該インバータ4とを電気的に接続するためのワイヤーハーネスが短くなり配線作業が簡素化されるので、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0034】
また、本発明の車両後部構造では、リヤフロアパネル1のスペアタイヤ収納部2内に低電圧バッテリ3及びインバータ4が格納される構造なので、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害してしまうことはない。
【0035】
また、本発明の車両後部構造においては、インバータ取付用ブラケット6は、取付部位6aの第2の固定部位6cへの延設側におけるインバータ6が取り付けられる範囲から外れた位置において、スペアタイヤ収納部2の縦壁部2b及び底部2aに沿うように略くの字に折曲され、第2の固定部位6cが底部2aの車両車幅方向及び車両前後方向それぞれにおける実質的に中央位置に固定されていてもよい。
【0036】
このような構造にすることで、このインバータ取付用ブラケット6の略くの字に折曲された部位でもダイナミックダンパの弾性機能を持たせることができるので、当該ダイナミックダンパの制振機能を高めることができる。さらに、インバータ取付用ブラケット6の第2の固定部位6cをスペアタイヤ収納部2の底部2aの車両車幅方向及び車両前後方向それぞれにおける実質的に中央位置に固定させているので、スペアタイヤ収納部2の車両上下方向の変位を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、本発明の車両後部構造においては、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向の前方向に位置するリヤフロアパネル1に第1クロスメンバ7が設けられている場合には、第1の固定部位6bは当該クロスメンバ7に固定されていてもよい。
【0038】
このような構造にするのは、リヤフロアパネル1のフランジ部2cの剛性が第1クロスメンバ7の剛性より劣っている場合に有効で、スペアタイヤ収納部2の車両上下方向の変位を補強部材である第1クロスメンバ7で抑制することができる。
【0039】
また、本発明の車両後部構造においては、スペアタイヤ収納部2は、リヤフロアパネル1の車両車幅方向の実質的に中央部分に凹設されているとよい。
【0040】
このような構造にすることで、スペアタイヤ収納部2内に低電圧バッテリ3とインバータ4とを配置しても、当該スペアタイヤ収納部2は、リヤフロアパネル1の車両車幅方向の実質的に中央部分に凹設されているので、車両の後部における左右対称の剛性を確保することができる。
【0041】
次に本発明の車両後部構造による低電圧バッテリとインバータとの配置構造が最適であることについて、いくつかの低電圧バッテリとインバータとの配置例と比較しながら説明する。この比較するための構造解析は、FEM(有限要素法)による汎用解析プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータを使用した。
【0042】
本発明の車両後部構造と比較対象となる低電圧バッテリとインバータとの配置例を図5(A)、(B)、(C)に示した。この図5(A)、(B)、(C)に示すリヤフロアパネルは本発明の車両後部構造と同一なので、構成部材は本発明の車両後部構造と同一参照番号を付してある。また、バッテリ及びバッテリ取付用リーンフォースメントも同一なので、本発明の車両後部構造と同一参照番号を付してある。また、図5(A)、(B)、(C)においては、バッテリ3はバッテリ取付用リーンフォースメント5を使用して本発明の車両後部構造と同様の取付手段でスペアタイヤ収納部2内に配置されている。
【0043】
図5(A)に示す比較対象である第1の車両後部構造は、インバータ4が取り付けられるインバータ取付用ブラケット61は、バッテリ取付用リーンフォースメント5に対して車両前後方向の前方向に配置され、且つインバータ4が取り付けられる取付部位61aを位置基準にして、第1の固定部位61bがスペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両前後方向の前方向の箇所に固定され、第2の固定部位61cがスペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両前後方向の後方向の箇所に固定されている。この場合、インバータ4は、スペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両前後方向の前方向の位置に配置されることになる。
【0044】
図5(B)に示す比較対象である第2の車両後部構造は、インバータ4が取り付けられるインバータ取付用ブラケット62は、バッテリ取付用リーンフォースメント5に対して車両前後方向の前方向に配置され、且つインバータ4が取り付けられる取付部位62aを位置基準にして、第1の固定部位62bがスペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両車幅方向の右方向の箇所に固定され、第2の固定部位62cがスペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両車幅方向の左方向の箇所に固定されている。この場合、インバータ4は、スペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両車幅方向の右方向の位置に配置されることになる。
【0045】
図5(C)に示す比較対象である第3の車両後部構造は、インバータ4が取り付けられるインバータ取付用ブラケット63は、バッテリ取付用リーンフォースメント5に対して車両前後方向の前方向に配置され、且つインバータ4が取り付けられる取付部位63aを位置基準にして、第1の固定部位63bが車両車幅方向の右方向に位置することになる右サイドメンバ9Aに固定され、第2の固定部位63cがスペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両車幅方向のほぼ中心位置の箇所に固定されている。この場合、インバータ4は、スペアタイヤ収納部2の底部2aにおける車両車幅方向の右方向の位置に配置されることになる。
【0046】
まず、本発明の車両後部構造の図1(A)に示す線L1位置における断面変形と、第1の車両後部構造の図5(A)に示す線L2位置における断面変形と、第2の車両後部構造の図5(B)に示す線L3位置における断面変形と、第3の車両後部構造の図5(C)に示す線L4位置における断面変形とを比較した。即ち、スペアタイヤ収納部2の車両車幅方向における剛性を比較した。具体的には、タイヤからの突き上げ荷重を予め定められた値に設定し、その突き上げ荷重によりスペアタイヤ収納部2の底部2aが基準値から車両上方向に変位した量を検出した。
【0047】
解析結果は、第1の車両後部構造では図6(B)に示すように変位M2が2.8mm、第2の車両後部構造では図6(C)に示すように変位M3が2.8mm、第3の車両後部構造では図6(D)に示すように変位M4が2.6mmであるのに対して、本発明の車両後部構造では図6(A)に示すように変位M1が2.3mmであった。したがって、本発明の車両後部構造は、第1の車両後部構造、第2の車両後部構造及び第3の車両後部構造より、スペアタイヤ収納部2の車両車幅方向における剛性が向上したことが確認できた。なお、図6中において、点線が変形前、実線が変形後である。
【0048】
次に、本発明の車両後部構造の図7(B)に示す断面変形と、第1の車両後部構造の図7(A)に示す断面変形とを比較した。即ち、スペアタイヤ収納部2の車両前後方向における剛性を比較した。具体的には、タイヤからの突き上げ荷重を予め定められた値に設定し、その突き上げ荷重によりスペアタイヤ収納部2の底部2aが基準値から車両上方向に変位した量を検出した。なお、図7(A)に示した断面箇所は図5(A)に示す断面B−B’の位置で、図7(B)に示した断面箇所は図1(A)に示す断面A−A’の位置である。
【0049】
解析結果は、第1の車両後部構造である図8(A)に示す変位D1が、本発明の車両後部構造である図8(B)に示す変位D2より大きくなった。したがって、本発明の車両後部構造は第1の車両後部構造より、スペアタイヤ収納部2の車両車幅方向における剛性が向上したことが確認できた。なお、図8中において、点線が変形前、実線が変形後である。また、第2の車両後部構造及び第3の車両後部構造は、インバータ取付用ブラケット62、63の取付方向がスペアタイヤ収納部2の剛性を高める方向に配置されていないのは明らかであるので、比較対象にはしていない。
【0050】
次に、図9に示すスペアタイヤ収納部2の底部2aの範囲Arにおける応力解析を行った。この応力解析は、タイヤからの突き上げ荷重を予め定められた値に設定し、その突き上げ荷重によりスペアタイヤ収納部2の底部2aの範囲Arに発生する応力を検出した。なお、範囲Arは低電圧バッテリ3がスペアタイヤ収納部2内に搭載される箇所である。また、応力が発生した箇所は図10に示すように、複数の点による塗り潰し部分である。
【0051】
解析結果は、本発明の車両後部構造は図10(A)に示すように応力の発生範囲は、図10(B)に示す第1の車両後部構造の応力の発生範囲、図10(C)に示す第2の車両後部構造の応力の発生範囲及び図10(D)に示す第3の車両後部構造の応力の発生範囲より明らかに少ないことが確認できた。したがって、本発明の車両後部構造は、第1の車両後部構造、第2の車両後部構造及び第3の車両後部構造よりスペアタイヤ収納部2の底部2aの範囲Arに発生する応力を低減させることができるので、図11に示すように、リヤフロアパネル1の寿命を向上させることがわかった。
【0052】
このように上述したような3種類の構造解析からわかるように、本発明の車両後部構造は、リヤフロアパネル1に凹設されたスペアタイヤ収納部2内に低電圧バッテリ3及びインバータ4を組み込んでも、車両の後部における車室内のラッケージ空間を阻害することなく、スペアタイヤ収納部2が凹設されたリヤフロアパネル1の耐久性能の低下を防ぐと共に、当該スペアタイヤ収納部2が凹設されたリヤフロアパネル1の共振振動に起因する応力集中を回避することができ、且つ室内の騒音を低減させることができる。
【0053】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0054】
1……リヤフロアパネル
2……スペアタイヤ収納部
2a……底部
2b……縦壁部
3……低電圧バッテリ
4……インバータ
5……バッテリ取付用リーンフォースメント
6……インバータ取付用ブラケット
6a……取付部位
6b……第1の固定部位
6c……第2の固定部位
7……第1クロスメンバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11