(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078049
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】イヌの炎症を診断、抑制および予防し、炎症状態を緩和するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20170130BHJP
A61K 31/70 20060101ALI20170130BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20170130BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20170130BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20170130BHJP
A61K 31/205 20060101ALI20170130BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20170130BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20170130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170130BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20170130BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
A61K37/02
A61K31/70
A61K31/375
A61K31/355
A61K31/215
A61K31/205
A61K31/202
A61P19/02
A61P43/00 171
C12Q1/68 A
G01N33/50 P
【請求項の数】3
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-246789(P2014-246789)
(22)【出願日】2014年12月5日
(62)【分割の表示】特願2013-510177(P2013-510177)の分割
【原出願日】2011年5月5日
(65)【公開番号】特開2015-96071(P2015-96071A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2014年12月25日
(31)【優先権主張番号】61/334,084
(32)【優先日】2010年5月12日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502329223
【氏名又は名称】ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】フランツ,ノーラン・ゼブロン
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−536148(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/009474(WO,A1)
【文献】
油脂・油糧ハンドブック,株式会社 幸書房,1988年 5月25日,初版第一刷,第482−483頁
【文献】
Effect of Prescription Diet canine j/d on whole blood gene expression in dogs with osteoarthritis,J Vet Intern Med,2010年 5月 7日,Vol.24,p.771
【文献】
Hill's Prescription Diet Canine j/d, Trochfutter,2008年12月 1日,URL: http://www.vetpharm.uzh.ch/reloader.htm?tpp/?inhalt_c.htm (検索日2014年3月11日)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
A61K 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌの骨関節炎を治療または抑制する方法であって、
IL−6、ADAMTS−4、IFNG、HAS2、BGN、SOX−9、ADAMTS−5、MMP3、ACP5、IL1A、TNC、HAS3、COMP、IGF−1、GHR、Xaa−プロペプチダーゼ、RANKL、SMAD7、PGE2、TLR9、PLOD1、およびSCL2A9のうち1種類以上から選択される1種類以上の炎症バイオマーカーの血中レベルを測定することにより骨関節炎を検出すること、
乾燥重量基準で
タンパク質:18〜22%;
脂肪:14.4〜17.6%;
炭水化物:45.9〜56.1%;
粗繊維:8.1〜9.9%;
L-カルニチン:315.9〜386.1mg/kg;
ビタミンC:202.5〜247.5ppm;
ビタミンE:526.5〜643.5ppm;
DHA:0.27〜0.33%;および
EPA:0.45〜0.55%;
を含む食餌をイヌに与えること、
前記1種類以上の炎症バイオマーカーの血中レベルの増大を測定することであって、ここで血中レベルの増大が骨関節炎の軽減を示すもの、および、
ANXA1の血中レベルを測定することを含み、ここで、ANXA1のレベル低下が組織における骨関節炎の軽減と相関している、方法。
【請求項2】
前記の食餌を少なくとも2週間の期間与える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イヌの骨関節炎を治療または抑制する際に使用するための組成物であって、
乾燥重量基準で
タンパク質:18〜22%;
脂肪:14.4〜17.6%;
炭水化物:45.9〜56.1%;
粗繊維:8.1〜9.9%;
L-カルニチン:315.9〜386.1mg/kg;
ビタミンC:202.5〜247.5ppm;
ビタミンE:526.5〜643.5ppm;
DHA:0.27〜0.33%;および
EPA:0.45〜0.55%;
を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、イヌの炎症を診断、抑制および予防し、炎症状態、特に関節炎およ
び関節痛を緩和する方法であって、炎症バイオマーカーを測定することを含み、その際、
バイオマーカーの血中レベルの上昇を炎症の軽減と相関させ、血中レベルの低下を組織に
おけるレベルの上昇と相関させる方法に関する。本発明はさらに、炎症を治療または抑制
する方法であって、増加したレベルのDHA、EPA、ビタミンC、ビタミンE、および
/またはL−カルニチンのうち1種類以上を含む食餌を与えることを含む方法を提供する
。
【背景技術】
【0002】
[0002] 変性性関節疾患は、比較的頻繁に骨関節炎と関連し、イヌの最も一般的な筋骨
格疾患のひとつである。生化学的には、骨関節炎は滑膜関節にある関節軟骨の合成と分解
の均衡の喪失である。これには、しばしば滑膜に関わる炎症を含めることができる。炎症
サイクルは関節表面をさらに分解し、その結果、痛みおよび跛行が生じる。関節炎はイヌ
の跛行の最も一般的な原因であり、その発病率は1歳を超えるイヌの20%が罹患すると
報告されている。関節炎は異常な負荷、外傷、感染症/炎症、および十字靭帯破断の結果
として起きる可能性がある。素因には、年齢、品種、体格、肥満症および遺伝性が含まれ
る。イヌの関節炎において軟骨代謝関連遺伝子の発現がどのように変化しているかを理解
することは、関節炎状態を治療し、および/または管理を補助するのに有用な見通しを提
供する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[0003] 骨関節炎は、1以上の関節の軟骨、骨、および軟組織の進行性炎症および劣化
により引き起こされる慢性変性性関節疾患である。リウマチ性関節炎は、関節に炎症およ
び損傷を引き起こす自己免疫状態である。両方とも慢性炎症状態である。関節に対する損
傷は進行性でありかつ大部分は不可逆性であるので、炎症プロセスを事前に確認して対処
することが望ましい。残念ながら血中のバイオマーカー発現と組織における発現の相関性
を求めるのは困難であることが証明されており、このためこの疾患が重篤な痛みおよび不
可逆的な組織損傷を生じる前に診断するのは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004] 意外にも、本発明者らはイヌにおいて組織と比較した血中の多数の炎症バイオ
マーカーの発現の逆相関性を見出した。組織レベルおよび関連炎症が軽減した時点で、バ
イオマーカーの血中レベルはより高い。この逆相関性は予想外であり、初期の炎症の存在
を評価するための新しい方法を提供する。
【0005】
[0005] したがって本発明は、第1態様において、イヌの炎症状態を検出する方法であ
って、1種類以上の炎症バイオマーカーの血中レベルを測定することを含み、その際、血
中での発現の増大を組織における炎症の治癒および軽減と相関させる方法を提供する。
【0006】
[0006] 他の態様において、本発明は、イヌの炎症を抑制および/または予防し、ある
いは炎症状態、特に関節炎および関節痛を緩和する方法であって、血中の炎症マーカーの
より低いレベルを測定することによりその状態を確認し、そして増加したレベルのDHA
、EPA、ビタミンC、ビタミンE、および/またはL−カルニチンのうち1種類以上を
含む食餌を、たとえば2週間の期間与えることを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[0007] 本発明の方法に使用するための食餌には、たとえば増加したレベルのDHA、
EPA、ビタミンC、ビタミンE、および/またはL−カルニチンのうち1種類以上を含
む、たとえば乾燥重量基準で0.25〜5%の量のDHA+EPAを含むイヌ用食餌、た
とえば乾燥重量基準で
DHA+EPA:0.5〜2.5%
ビタミンC:75〜1000mg/kg
ビタミンE:250〜1000mg/kg
L−カルニチン:100〜1000mg/kg
を含む食餌、たとえばほぼ実施例1の被験食の栄養素組成をもつ食餌、たとえば乾燥重量
基準でほぼ表1に示す量+/−10%の成分を含む食餌が含まれる。
【0008】
[0008] 組織において減少した際に血中で増加する炎症バイオマーカーには、たとえば
下記のものから選択される1種類以上のバイオマーカーが含まれる:IL−6、ADAM
TS−4、IFNG、HAS2、BGN、SOX−9、ADAMTS−5、MMP3、A
CP5、IL1A、TNC、HAS3、COMP、IGF−1、GHR、Xaa−プロペ
プチダーゼ、RANKL、SMAD7、PGE2、TLR9、PLOD1、およびSCL
2A9。
【実施例】
【0009】
実施例1−食餌が関節炎のイヌの炎症バイオマーカーに及ぼす効果
[0009] 骨関節炎(OA)を伴うイヌに与えた場合に被験食が全血中の選択した関節炎
関連遺伝子に及ぼす効果を評価するために試験を実施した。跛行および少なくとも1つの
関節にOAに一致するX線像の変化を伴う31匹のビーグル犬(初期体重13.5±1.
27kg、年齢11.0±2.23歳)を試験に含めた。すべてのイヌに対照である維持
食を28日間与えた後、増加したレベルのEPAおよびDHA、ビタミンCおよびE、な
らびにL−カルニチンを含有する被験食を与えた。対照食の最終日および被験食摂取14
日後に全血試料を採集した。被験食を14日間摂取した後、これらのイヌに改善された整
形学的検査スコアが認められた。被験配合物を14日間摂取した後、OAイヌは健康な高
齢のイヌと比較してOAにおいてダウンレギュレートされることが先に立証された22の
遺伝子(IL−6、ADAMTS−4、IFNG、HAS2、BGN、SOX−9、AD
AMTS−5、MMP3、ACP5、IL1A、TNC、HAS3、COMP、IGF−
1、GHR、Xaa−プロペプチダーゼ、RANKL、SMAD7、PGE2、TLR9
、PLOD1、およびSCL2A9)の発現が増大し、アップレギュレートされることが
先に示されたANXA1の発現が低下していた。まとめると、骨関節炎を伴うイヌに被験
配合物を与えると、先に健康な高齢のイヌと比較して骨関節炎のイヌの血中にみられた遺
伝子発現パターンが14日後に復帰していた。
【0010】
【表1】
【0011】
[0010] この試験は、ゲノム全血Nanostring遺伝子分析を用いて、骨関節炎
のイヌが被験食を摂取した後の選択した遺伝子における変化を先の文献に基づき同定する
。
【0012】
[0011] 種々の程度の骨関節炎のX線撮影証拠および跛行歴をもつ31匹の去勢/卵巣
切除したビーグル犬(初期体重13.5±1.27kg、年齢11.0±2.23歳)を
この試験のために同定した。理学的検査および血清化学プロフィールにより、すべてのイ
ヌが他の点では健康であるとみなされた。すべてのイヌがイヌジステンパー、アデノウイ
ルス、パルボウイルス、ボルデテラ(bordetella)、および狂犬病に対して免疫化されてお
り、理学的検査、完全血球計数、血清生化学分析、尿分析、および寄生虫に関する検便の
結果に基づいて、慢性全身性疾患を伴うものはなかった。イヌは、相互交流、飼育者との
毎日の交流や遊びの時間、毎日の屋外での駆け足や運動の機会、および玩具の利用によっ
て、豊かな行動を経験していた。試料採集前に、すべてのイヌに基礎的な維持用対照食を
28日間与えた。血液を採取してPAXgeneチューブに集め、評価するまで−80℃
で保存した。分析のための遺伝子は公開された文献に基づいて選択され、イヌについての
配列を入手できるものであった。Nanostring法(発現分析)を用いて89の選
択した遺伝子につきデータを作製した。
【0013】
[0012] 全試料中で最も安定な遺伝子を基準として遺伝子を標準化した。P<0.05
(偽所見率調整Q=0.1による)および少なくとも1.25の変化倍率をもつ遺伝子を
、2グループ間で差があるとみなした。アップレギュレートされた遺伝子を正の変化倍率
として示す。ダウンレギュレートされた遺伝子を負の変化倍率として示す。
【0014】
【表2-1】
【0015】
【表2-2】
【0016】
[0013] Nanostring法を用いた全血遺伝子発現プロフィールの分析により、
選択した遺伝子のうち23において骨関節炎のイヌと正常な高齢のイヌとの間に差がみら
れた。これらの遺伝子は大部分が、イヌの骨関節炎軟膏組織において以前に報告されたも
のと反対方向に発現している。しかし、骨関節炎のイヌが被験配合物を摂取した後、この
遺伝子発現パターンは健康なイヌとより類似するように復帰した。このデータは、改善さ
れた整形学的スコアおよび軟骨バイオマーカーを含めて、測定した臨床応答を裏付ける。
【0017】
[0014] この試験の結果は、正常な高齢のイヌと比較して骨関節炎のイヌにおいて差が
あると認められた選択した遺伝子が被験配合物の摂取後に完全復帰したことを示した。遺
伝子発現の変化のほか、整形学的スコアおよび軟骨バイオマーカーの改善がみられた。こ
れらは、OAを伴うイヌにおける治療食の有効性を示す有用なマーカーとなりうる。