特許第6078056号(P6078056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078056
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】アンモニアエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/00 20060101AFI20170130BHJP
   F02M 27/02 20060101ALI20170130BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20170130BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20170130BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20170130BHJP
   F02B 19/18 20060101ALI20170130BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20170130BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20170130BHJP
   B01J 23/755 20060101ALN20170130BHJP
   C01B 3/04 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   F02M25/00 F
   F02M27/02 Z
   F02B43/00 Z
   F02M21/02 K
   F02B19/12 A
   F02B19/18 B
   F02B19/12 B
   F02B77/11 A
   F02P13/00 302B
   !B01J23/755 M
   !C01B3/04 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-515545(P2014-515545)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2013061312
(87)【国際公開番号】WO2013172141
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-111450(P2012-111450)
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393001796
【氏名又は名称】石本 政晴
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 政晴
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121509(JP,A)
【文献】 特開平10−131814(JP,A)
【文献】 特開2006−052722(JP,A)
【文献】 特開2010−069394(JP,A)
【文献】 特開2009−097422(JP,A)
【文献】 特開平05−332152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/00
F02M 21/02
F02M 27/02
F02P 13/00
F02B 19/12
F02B 19/18
F02B 43/00
F02B 77/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの燃焼室内に燃料としてアンモニアガスが供給されるアンモニアエンジンであって、
前記燃焼室内に配置され、当該燃焼室内に供給されたアンモニアガスを窒素ガスと水素ガスとに分解する触媒部材を備え
前記シリンダは、筒状に形成されたシリンダライナと、前記シリンダライナ内にその軸方向に往復移動可能に設けられたピストンと、前記シリンダライナの軸方向一端部に配置されて前記ピストンとの間に前記燃焼室を形成しているシリンダヘッドと、を有し、
前記触媒部材は、前記シリンダヘッド又は前記シリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有しており、
前記シリンダヘッドに取り付けられ、アンモニアガスから分解された水素ガスを点火させる点火部を有する点火装置をさらに備え、
前記固定側触媒部の前記点火部の近傍には、前記水素ガスを燃焼させるための予燃室が形成されていることを特徴とするアンモニアエンジン。
【請求項2】
シリンダの燃焼室内に燃料としてアンモニアガスが供給されるアンモニアエンジンであって、
前記燃焼室内に配置され、当該燃焼室内に供給されたアンモニアガスを窒素ガスと水素ガスとに分解する触媒部材を備え、
前記シリンダは、筒状に形成されたシリンダライナと、前記シリンダライナ内にその軸方向に往復移動可能に設けられたピストンと、前記シリンダライナの軸方向一端部に配置されて前記ピストンとの間に前記燃焼室を形成しているシリンダヘッドと、を有し、
前記触媒部材は、前記シリンダヘッド又は前記シリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有しており、
前記固定側触媒部には、前記燃焼室内にアンモニアガスを供給するための供給通路、及び前記燃焼室内で発生する燃焼後の排気ガスを外部へ排出するための排出通路のうちの少なくとも一方の通路が形成されていることを特徴とするアンモニアエンジン。
【請求項3】
シリンダの燃焼室内に燃料としてアンモニアガスが供給されるアンモニアエンジンであって、
前記燃焼室内に配置され、当該燃焼室内に供給されたアンモニアガスを窒素ガスと水素ガスとに分解する触媒部材を備え、
前記シリンダは、筒状に形成されたシリンダライナと、前記シリンダライナ内にその軸方向に往復移動可能に設けられたピストンと、前記シリンダライナの軸方向一端部に配置されて前記ピストンとの間に前記燃焼室を形成しているシリンダヘッドと、を有し、
前記触媒部材は、前記シリンダヘッド又は前記シリンダライナに取り付けられた固定側触媒部と、前記ピストンの前記燃焼室側の端面に取り付けられた可動側触媒部と、を有し、
前記固定側触媒部には、前記燃焼室内にアンモニアガスを供給するための供給通路、及び前記燃焼室内で発生する燃焼後の排気ガスを外部へ排出するための排出通路のうちの少なくとも一方の通路が形成され、
前記可動側触媒部は、前記ピストンの移動により前記少なくとも一方の通路に挿入可能に配置されていることを特徴とするアンモニアエンジン。
【請求項4】
前記触媒部材は、前記燃焼室内で発生した熱を蓄熱する蓄熱機能を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のアンモニアエンジン。
【請求項5】
記固定側触媒部を加熱する加熱装置をさらに備えている請求項に記載のアンモニアエンジン。
【請求項6】
前記触媒部材がニッケルからなる請求項1〜のいずれか一項に記載のアンモニアエンジン。
【請求項7】
前記シリンダが断熱されている請求項1〜のいずれか一項に記載のアンモニアエンジン。
【請求項8】
前記燃焼室内にアンモニアガスと酸素ガスとを混合した混合ガスを供給する供給装置をさらに備えている請求項1〜のいずれか一項に記載のアンモニアエンジン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアガスを燃料とするアンモニアエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止などの環境保全の観点から、再生可能な燃料を用いたエンジンとして、アンモニアエンジンが着目されている。しかし、アンモニアエンジンは、難燃性のアンモニアガスを燃料としているため、アンモニアガスを燃え易くするための工夫が必要になる。このため、従来のアンモニアエンジンは、燃焼室に複数の点火プラグを配置し、点火火災核を複数の箇所で生成することによって、アンモニアガスを容易に燃焼させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のアンモニアエンジンにあっては、燃焼室内に供給されたアンモニアガスの燃焼効率が依然として低いため、未だ実用化されていないのが現状である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃焼効率を向上させることができるアンモニアエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための本発明のアンモニアエンジンは、シリンダの燃焼室内に燃料としてアンモニアガスが供給されるアンモニアエンジンであって、前記燃焼室内に配置され、当該燃焼室内に供給されたアンモニアガスを窒素ガスと水素ガスとに分解する触媒部材を備えていることを特徴とする。
【0006】
本発明のアンモニアエンジンによれば、シリンダの燃焼室内に供給されたアンモニアガスは、触媒部材に接触することにより窒素ガスと水素ガスとに分解されるため、分解後の水素ガスは燃焼室内の雰囲気中の酸素と結合することで燃焼し易くなる。しかも、燃焼室内に配置された触媒部材の容積分だけ燃焼室の容積が減少してアンモニアエンジンの圧縮比が高くなるため、その圧縮熱により燃焼室内を昇温させることができるとともに、アンモニアガスが高密度になることで触媒部材に接触するアンモニアガスを増加させることができる。これにより、燃焼室内に供給されたアンモニアガスを燃焼し易い水素ガスに効率的に分解することができるため、アンモニアエンジンの燃焼効率を向上させることができる。
【0007】
前記触媒部材は、前記燃焼室内で発生した熱を蓄熱する蓄熱機能を有することが好ましい。
この場合、触媒部材に蓄熱された熱により、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができるため、アンモニアエンジンの燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0008】
前記シリンダは、筒状に形成されたシリンダライナと、前記シリンダライナ内にその軸方向に往復移動可能に設けられたピストンと、前記シリンダライナの軸方向一端部に配置されて前記ピストンとの間に前記燃焼室を形成しているシリンダヘッドと、を有し、前記触媒部材は、前記シリンダヘッド又は前記シリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有していることが好ましい。
この場合、触媒部材は、シリンダの固定側となるシリンダヘッド又はシリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有しているため、シリンダの可動側となるピストンに取り付ける場合に比べて、ピストンの往復移動による慣性力等の外力が作用するのを抑制することができる。したがって、アンモニアエンジンの駆動中に触媒部材が破損するのを抑制することができる。
【0009】
前記シリンダは、筒状に形成されたシリンダライナと、前記シリンダライナ内にその軸方向に往復移動可能に設けられたピストンと、前記シリンダライナの軸方向一端部に配置されて前記ピストンとの間に前記燃焼室を形成しているシリンダヘッドと、を有し、前記触媒部材は、前記シリンダヘッド又は前記シリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有し、前記アンモニアエンジンは、前記固定側触媒部を加熱する加熱装置をさらに備えていることが好ましい。
この場合、触媒部材は、シリンダの固定側となるシリンダヘッド又はシリンダライナに取り付けられた固定側触媒部を有しているため、シリンダの可動側となるピストンに取り付ける場合に比べて、ピストンの往復移動による慣性力等の外力が作用するのを抑制することができる。したがって、アンモニアエンジンの駆動中に触媒部材が破損するのを抑制することができる。
また、アンモニアエンジンは固定側触媒部を加熱する加熱装置を備えているため、アンモニアエンジンの始動後に固定側触媒部が燃焼室内で発生した熱を蓄熱できる状態になるまで、加熱装置により固定側触媒部を加熱することができる。これにより、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができるため、アンモニアエンジンの燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0010】
前記アンモニアエンジンは、前記シリンダヘッドに取り付けられ、アンモニアガスから分解された水素ガスを点火させる点火部を有する点火装置をさらに備え、前記固定側触媒部の前記点火部の近傍には、前記水素ガスを燃焼させるための予燃室が形成されていることが好ましい。
この場合、予燃室においてアンモニアガスから分解された水素ガスを点火部により効率良く燃焼させることができる。
【0011】
前記固定側触媒部には、前記燃焼室内にアンモニアガスを供給するための供給通路、及び前記燃焼室内で発生する燃焼後の排気ガスを外部へ排出するための排出通路のうちの少なくとも一方の通路が形成されていることが好ましい。
この場合、供給通路及び/又は排出通路を、固定側触媒部と別体として設ける場合に比べて、部品点数が少なくなるため、アンモニアエンジンの構成を簡素化することができる。
【0012】
前記触媒部材は、前記ピストンの前記燃焼室側の端面に取り付けられた可動側触媒部をさらに有していることが好ましい。
この場合、可動側触媒部の容積分だけ燃焼室の容積がさらに減少して、アンモニアエンジンの圧縮比がさらに高くなるため、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができる。
【0013】
前記固定側触媒部には、前記燃焼室内にアンモニアガスを供給するための供給通路、及び前記燃焼室内で発生する燃焼後の排気ガスを外部へ排出するための排出通路のうちの少なくとも一方の通路が形成され、前記可動側触媒部は、前記ピストンの移動により前記少なくとも一方の通路に挿入可能に配置されていることが好ましい。
この場合、ピストンが移動したときに可動側触媒部は固定側触媒部の供給通路及び/又は排出通路に挿入されるため、両触媒部が干渉するのを防止することができる。
【0014】
前記触媒部材はニッケルからなることが好ましい。
この場合、触媒部材は、耐熱性、耐圧性及び耐振性に優れたニッケルからなるため、触媒部材の長寿命化を図ることができる。
【0015】
前記シリンダは断熱されていることが好ましい。この場合、シリンダの燃焼室内で発生した熱がシリンダの外方へ放出されるのを抑制することができるため、アンモニアエンジンの燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0016】
前記アンモニアエンジンは、前記燃焼室内にアンモニアガスと酸素ガスとを混合した混合ガスを供給する供給装置をさらに備えていることが好ましい。
この場合、燃焼室内においてアンモニアガスから分解された水素ガスを、混合ガスに含まれる酸素ガスと結合して燃焼させることができるため、アンモニアエンジンの燃焼効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアンモニアエンジンによれば、燃焼効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るアンモニアエンジンの側断面図である。
図2】固定側触媒部を示す図1のA−A矢視断面図である。
図3】可動側触媒部を示す図1のB−B矢視断面図である。
図4】ピストンを上昇させた状態を示すアンモニアエンジンの側断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るアンモニアエンジンの側断面図である。
図6図5のアンモニアエンジンにおける固定側触媒部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るアンモニアエンジンの側断面図である。図1において、本実施形態のアンモニアエンジン1は、内部に燃焼室21を有するシリンダ2と、燃焼室21内にアンモニアガス(燃料)と空気とを混合した混合ガスを供給する供給装置3と、燃焼室21内に供給された混合ガスを燃焼させる点火装置4と、燃焼後の排気ガスを燃焼室21から外部へ排出する排出装置5と、燃焼室21内に配置された触媒部材6とを備えている。
【0020】
シリンダ2は、支持部材9により支持されている円筒状のシリンダライナ22と、シリンダライナ22内にその上下方向(軸方向)に往復移動可能に設けられたピストン23と、シリンダライナ22の上端部(軸方向一端部)に配置されたシリンダヘッド24とを有している。シリンダヘッド24は、例えば椀状に形成されており、その開口を下方に向けた状態でシリンダライナ22に固定されている。シリンダライナ22の内周面と、ピストン23の上面と、シリンダヘッド24の内面24cとによって囲まれた空間が、燃焼室21とされており、この燃焼室21内に供給された混合ガスは、ピストン23が上昇することにより圧縮される。また、シリンダヘッド24には、混合ガスを燃焼室21内に供給するための供給孔24a、及び前記排気ガスを外部へ排出するための排出孔24bが形成されている。
【0021】
支持部材9は、シリンダライナ22の外周面が嵌合される断面円状の壁面9aを有しており、この壁面9aには、環状の凹溝9a1が軸方向に所定間隔をあけて複数形成されている。各凹溝9a1とシリンダライナ22の外周面とによって囲まれた環状空間は、燃焼室21内で発生した熱がシリンダライナ22の外方へ放出されるのを抑制するための断熱空間S1として構成されている。
【0022】
点火装置4は、例えば点火プラグからなり、シリンダヘッド24の中心部において、その厚さ方向に貫通して固定されている。点火装置4の下端部には、燃焼室21内に供給された混合ガス中のアンモニアガスから分解された水素ガスを点火させる点火部4aが設けられている。
【0023】
供給装置3は、供給孔24aを開閉する供給弁3aを備えており、図示しない駆動手段により供給弁3aを開放駆動することにより、供給孔24aから燃焼室21内に混合ガスが供給されるようになっている。
排出装置5は、排出孔24bを開閉する排出弁5aを備えており、図示しない駆動手段により排出弁5aを開放駆動することにより、燃焼室21内の燃焼後の排気ガスが排出孔24bから排出されるようになっている。
【0024】
触媒部材6は、燃焼室21内において混合ガスに含まれるアンモニアガスが接触することにより、当該アンモニアガス(NH)を、下記式(1)に示すように、窒素ガス(N)と水素ガス(H)とに分解するものである。
2NH→N+3H ・・・(1)
分解後の水素ガスは、点火装置4の点火部4aで発生する火花により、燃焼室21内の雰囲気中の酸素(混合ガス中の空気に含まれる酸素)と結合して燃焼するようになっている。
【0025】
ところで、水素ガスは、アンモニアガスを分解すると、前記式(1)に示すように、モル数が2倍になることで、体積が2倍になって体積膨張するため、燃焼室21外でアンモニアガスを分解して、その分解後に体積膨張した水素ガスをすべて燃焼室21内に供給することは困難になる。これに対して、本実施形態では、燃焼室21内でアンモニアガスを分解しているため、燃焼室21内で前記体積膨張した水素ガスは燃焼室21から外部へほとんど排出されることなく、燃焼に使用することができる。このため、本実施形態では、燃焼室21外でアンモニアガスを分解する場合に比べて、分解後の水素ガスを、燃焼室21内に多く取り入れることができ、その分、アンモニアエンジン1の出力を向上させることができる。
また、アンモニアガスは、通常、高温で水素ガスと窒素ガスとに分解されるが、アンモニアガスを触媒部材6に接触させることにより、その分解温度を効果的に低減することができる。
【0026】
触媒部材6は、燃焼室21内で発生した熱を蓄熱する蓄熱機能を有しており、その蓄熱された熱により、燃焼室21内に供給された混合ガスの温度を上昇させるようになっている。さらに、触媒部材6は、燃焼室21内に配置されており、触媒部材6の容積分だけ燃焼室21の容積を減少させ、アンモニアエンジン1の圧縮比を高くしている。このように、燃焼室21内は、触媒部材6によって高温及び高圧の状態となるため、アンモニアガスを効率良く分解することができる。
【0027】
なお、本発明における触媒部材6としては、例えば、コバルト、ニッケル、クロム、セリウム、鉄、銅、白金、チタン、マンガン、モリブデン、タングステン、パラジウム、ルテニウム、バナジウム、ジルコニウム、ビスマス、シリコンなどの金属部材、並びにこれらの合金(焼結合金を含む)又はメッキなどが挙げられる。本実施形態の触媒部材6は、高温及び高圧の状態で用いられるため、耐熱性、耐圧性及び耐振性に優れ、かつコスト面を考慮して、ニッケルメッキが用いられている。
【0028】
図2は、図1のA−A矢視断面図である。図1及び図2において、触媒部材6は、シリンダヘッド24の内面24cに取り付けられている固定側触媒部7と、ピストン23の上面に取り付けられている可動側触媒部8とによって構成されている。
固定側触媒部7は、例えば扁平半球状に形成されており、その全体がシリンダヘッド24の内部に収納されている。
【0029】
固定側触媒部7の球状の外周面7aは、図1に示すように、円環状の第1〜第4環状板10〜13を介して、シリンダヘッド24の内面24cに固定されている。第1環状板10は、固定側触媒部7の窪み7e(後述)の開口の外側を覆うように配置されている。第2,第3環状板11,12は、供給通路7c(後述)及び排出通路7d(後述)の開口の外側をそれぞれ覆うように配置されている。第4環状板13は、固定側触媒部7の外周面7aの下端部を全周に亘って覆うように配置されている。固定側触媒部7の外周面7aとシリンダヘッド24の内面24cと第1環状板10と第4環状板13とによって囲まれた空間(第2及び第3環状板11,12の各内側の空間を除く)は、燃焼室21内で発生した熱が、固定側触媒部7を介してシリンダヘッド24の外方へ放出されるのを抑制するための断熱空間S2として構成されている。
【0030】
図1及び図2に示すように、固定側触媒部7には、シリンダヘッド24の供給孔24aに対向する位置に、燃焼室21内に混合ガスを供給するための断面円状の供給通路7cが上下方向に貫通して形成されている。供給通路7cは、固定側触媒部7の外周面7aから内面7hに向かうに従って、当該供給通路7cの孔径が漸次拡大するように形成されており、この供給通路7c内において供給弁3aが往復移動するようになっている。
【0031】
また、固定側触媒部7には、シリンダヘッド24の排出孔24bに対向する位置に、燃焼室21で発生する燃焼後の排気ガスを外部へ排出するための断面円状の排出通路7dが上下方向に貫通して形成されている。排出通路7dは、固定側触媒部7の外周面7aから内面7hに向かうに従って、当該排出通路7dの孔径が漸次拡大するように形成されており、この排出通路7d内において排出弁5aが往復移動するようになっている。
【0032】
図1において、固定側触媒部7の外周面7aの中央部には、点火部4aの周りに略円錐状の窪み7eが形成されている。この窪み7eとシリンダヘッド24の内面24cとによって囲まれた空間は、点火部4aの近傍でアンモニアガスから分解された水素ガスを燃焼させるための予燃室7fとされている。固定側触媒部7の窪み7eには、供給通路7c、排出通路7d及び予燃室7f下方の燃焼室21にそれぞれ連通する複数の小孔7gが放射状に延びて形成されている(図2も参照)。
【0033】
以上の構成により、ピストン23が上昇すると(図4参照)、燃焼室21内の混合ガスの一部が、小孔7gに入り込んで圧縮されながら、高温の固定側触媒部7に接触することにより、混合ガス中のアンモニアガスが分解され、その分解後の水素ガスが予燃室7f内に導入される。この状態で、点火部4aにより予燃室7f内の水素ガスを点火すると、予燃室7f内は、水素ガスの燃焼により高圧になることで、その燃焼による炎が、各小孔7gを通過して予燃室7f下方の燃焼室21内へ放射状に勢いよく伝播する。これにより、燃焼室21に存在する未燃の水素ガスを効率良く燃焼させることができる。
【0034】
図3は、可動側触媒部8を示す図1のB−B矢視断面図である。また、図4は、ピストン23を上昇させた状態を示すアンモニアエンジン1の側断面図である。図3及び図4において、可動側触媒部8は、ピストン23の上方に配置された円板状の基板部8aと、この基板部8aの上面に突設された第1突出部8b及び第2突出部8cとによって構成されている。
【0035】
基板部8aは、ピストン23の上面(燃焼室21側の端面)に円環状の第5環状板15を介して固定されており、ピストン23の上面と、基板部8aの下面と、第5環状板15とによって囲まれた隙間は、燃焼室21内で発生した熱が、可動側触媒部8を介してピストン23側へ放出されるのを抑制するための断熱空間S3として構成されている。この断熱空間S3と、上述の断熱空間S1,S2とによって、シリンダ2は断熱されている。
【0036】
第1突出部8bは、例えば截頭円錐体状に形成されており、図4に示すように、ピストン23の上昇により、固定側触媒部7における供給通路7cに挿入されるようになっている。第1突出部8bの上面は、供給通路7cに挿入されたときに供給弁3aと干渉しないように、水平面に対して傾斜して形成されている。
【0037】
第2突出部8cは、例えば截頭円錐体状に形成されており、図4に示すように、ピストン23の上昇により、固定側触媒部7における排出通路7dに挿入されるようになっている。第2突出部8cの上面は、排出通路7dに挿入されたときに排出弁5aと干渉しないように、水平面に対して傾斜して形成されている。
【0038】
以上、本実施形態のアンモニアエンジン1によれば、シリンダ2の燃焼室21内に供給された混合ガス中のアンモニアガスは、触媒部材6に接触することにより、窒素ガスと水素ガスとに分解されるため、分解後の水素ガスは燃焼室21内の雰囲気中の酸素と結合することで燃焼し易くなる。しかも、燃焼室21内に配置された触媒部材6の容積分だけ燃焼室21の容積が減少して、アンモニアエンジン1の圧縮比が高くなるため、その圧縮熱により燃焼室21内を昇温させることができるとともに、アンモニアガスが高密度になることで触媒部材6に接触するアンモニアガスを増加させることができる。これにより、燃焼室21内に供給されたアンモニアガスを燃焼し易い水素ガスに効率的に分解することができるため、アンモニアエンジン1の燃焼効率及び出力を向上させることができる。
【0039】
また、触媒部材6は、燃焼室21内で発生した熱を蓄熱する蓄熱機能を有しているため、触媒部材6に蓄熱された熱により、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができる。これにより、アンモニアエンジン1の燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0040】
また、触媒部材6は、シリンダ2の固定側となるシリンダヘッド24に取り付けられた固定側触媒部7を有しているため、シリンダ2の可動側となるピストン23に取り付ける場合に比べて、ピストン23の往復移動による慣性力等の外力が作用するのを抑制することができる。したがって、アンモニアエンジン1の駆動中に触媒部材6が破損するのを抑制することができる。
【0041】
また、固定側触媒部7の点火部4aの近傍に、アンモニアガスから分解された水素ガスを燃焼させるための予燃室7fが形成されているため、予燃室7fにおいてアンモニアガスから分解された水素ガスを点火部4aにより効率良く燃焼させることができる。
また、固定側触媒部7には、供給通路7c及び排出通路7dが形成されているため、供給通路7c及び排出通路7dを固定側触媒部7と別体として設ける場合に比べて、部品点数を少なくすることができる。これにより、アンモニアエンジン1の構成を簡素化することができる。
【0042】
また、ピストン23の燃焼室21側の端面(上面)に可動側触媒部8が取り付けられているため、可動側触媒部8の容積分だけ燃焼室21の容積をさらに減少させることができる。これにより、アンモニアエンジン1の圧縮比をさらに高くすることができるため、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができる。また、ピストン23が上昇したときに可動側触媒部8は固定側触媒部7の供給通路7c及び排出通路7dに挿入されるため、両触媒部7,8が干渉するのを防止することができる。
【0043】
また、触媒部材6は、耐熱性、耐圧性及び耐振性に優れたニッケルメッキからなるため、触媒部材6の長寿命化を図ることができる。
【0044】
シリンダ2は断熱空間S1〜S3によって断熱されているため、シリンダ2の燃焼室21内で発生した熱がシリンダ2の外方へ放出されるのを抑制することができる。これにより、アンモニアエンジン1の燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0045】
また、アンモニアエンジン1は、燃焼室21内にアンモニアガスと空気とを混合した混合ガスを供給する供給装置3を備えているため、燃焼室21内においてアンモニアガスから分解された水素ガスを、混合ガス中の空気に含まれる酸素ガスと結合して燃焼させることができる。これにより、アンモニアエンジン1の燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0046】
図5は、本発明の第2実施形態に係るアンモニアエンジン1の側断面図である。また、図6は、そのアンモニアエンジン1における固定側触媒部7の平面図である。
図5及び図6に示すように、本実施形態におけるアンモニアエンジン1は、固定側触媒部7を加熱する加熱装置16を備えている。この加熱装置16は、例えば、渦巻状に形成された一対の電熱線16aを有している。各電熱線16aは、固定側触媒部7の外周面7aにおいて平面視略楕円状に形成された一対の凹部7a1にそれぞれ収容されている。なお、凹部7a1の形状は、平面視略楕円状以外に、平面視矩形状など他の形状に形成されていてもよい。
【0047】
加熱装置16は、アンモニアエンジン1の始動直前に作動を開始することで、アンモニアエンジン1の始動直前及び始動直後の暖気運転中に固定側触媒部7を加熱するようになっている。そして、加熱装置16は、アンモニアエンジン1が前記暖気運転から通常運転となり、且つ固定側触媒部7が燃焼室21内で発生した熱により蓄熱できる状態になると、その作動を停止する。なお、本実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0048】
以上、本実施形態におけるアンモニアエンジン1によれば、固定側触媒部7が燃焼室21内で発生した熱を蓄熱できる状態になるまで、加熱装置16により固定側触媒部7を加熱することができる。これにより、アンモニアガスをさらに効率的に分解することができるため、アンモニアエンジン1の燃焼効率をさらに向上させることができる。
【0049】
上述の実施の形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更は本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態における触媒部材6は、蓄熱機能を有しているが、少なくともアンモニアガスを分解する触媒としての機能を有していればよい。
また、触媒部材6の固定側触媒部7は、シリンダヘッド24に取り付けられているが、シリンダライナ22の内周面に取り付けられていてもよい。この場合、シリンダライナ22の内周面を触媒部材6によって保護することができる。
【0050】
さらに、触媒部材6は、固定側触媒部7と可動側触媒部8とによって構成されているが、一方の触媒部のみによって構成されていてもよい。
また、触媒部材6は、シリンダ2に対して別体として設けられているが、シリンダ2と一体に形成されていてもよい。
また、固定側触媒部7には、供給通路7c及び排出通路7dが形成されているが、一方の通路のみが形成されたものであってもよい。この場合、可動側触媒部8は、その一方の通路に挿入される第1突出部8b又は第2突出部8cを有していればよい。また、固定側触媒部7は、供給通路7c及び排出通路7dのいずれも形成されていないものであってもよい。
【0051】
また、供給装置3は、アンモニアガスと空気とを混合した混合ガスを供給しているが、少なくともアンモニアガスと酸素ガスとを混合した混合ガスを供給すればよい。また、供給装置3は、アンモニアガスと空気(又は酸素ガス)とを個別に供給するようにしてもよい。
また、シリンダ2は、断熱空間S1〜S3によって断熱されているが、断熱材により断熱されていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 アンモニアエンジン
2 シリンダ
3 供給装置
4 点火装置
4a 点火部
6 触媒部材
7 固定側触媒部
7c 供給通路
7d 排出通路
7f 予燃室
8 可動側触媒部
16 加熱装置
21 燃焼室
22 シリンダライナ
23 ピストン
24 シリンダヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6