(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078061
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】熟成装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/02 20060101AFI20170130BHJP
G01M 3/38 20060101ALI20170130BHJP
G01N 21/35 20140101ALI20170130BHJP
【FI】
G01M3/02 Z
G01M3/38 L
G01N21/35
【請求項の数】43
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-519626(P2014-519626)
(86)(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公表番号】特表2014-521079(P2014-521079A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】GB2012051621
(87)【国際公開番号】WO2013008003
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年6月26日
(31)【優先権主張番号】1111837.9
(32)【優先日】2011年7月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514010047
【氏名又は名称】エム スクエアード レーザーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】M SQUARED LASERS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マルコム,グレーム ペーター アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】マーカー,ガレス トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン,ゴードン
【審査官】
萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03001877(US,A)
【文献】
特開昭57−008777(JP,A)
【文献】
特開昭53−091195(JP,A)
【文献】
特開2005−091268(JP,A)
【文献】
特開2000−206035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00 − 3/40
G01N 21/17 −21/61
C12C 1/00 −13/10
C12H 1/00 − 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熟成過程の間に樽からの流体の喪失を減らすための装置であって、当該装置が:
前記樽を密閉し、膨張空間を与えて前記樽から蒸発した流体を受容する容器と、
前記容器の中の前記蒸発した流体の存在を監視するよう構成された監視システムと、
を具えており、
前記監視システムが、光源及び検出器を具えており、
前記検出器が、前記光源からの光を受け取るよう構成され、
前記監視システムが、前記容器を通した光の相対透過率を判定するよう構成されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記監視システムが、時間の関数として蒸発した流体の漏れ量を監視するよう構成されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置が、前記容器の壁に少なくとも1つの開口を具えており、
前記光源及び検出器が、前記開口の両側にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記開口が、前記容器の壁に位置して前記容器を通って前記光源及び前記検出器と交差する光学的経路を規定する2つの開口を具えることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項5】
さらに、前記開口が、前記光源からの光を受け取り且つ同じ開口を介して前記検出器に向けて反射するよう構成されたミラーを具えることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの開口が、窓を具えることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記窓が、CaF2を具えることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記光源が、レーザ源を具えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記光源が、赤外線のレーザ源を具えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記光源が、光学パラメーター式発振器の中赤外域の光源を具えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記光源が、量子カスケードレーザ源を具えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記光源が、エタノールの吸収線又は吸収帯に同調されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記監視システムが、アクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムを具えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記容器が、蓋を具えることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記容器の前記蓋及び/又は本体に、それらの間に密閉を与えるゴム製のガスケット又はO−リングが設けられていることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記容器が、直方体であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記容器が、円筒形又は樽形であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記容器が、複数の樽を受容するような大きさであることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記容器が、それぞれの監視システムの有無に拘わらず、1又はそれ以上の同じような容器と流通していることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
熟成過程の間に樽からの流体の喪失を減らすための方法であって、当該方法が、
膨張空間を有する容器の中の前記樽を密封し、前記容器の前記膨張空間の中で前記樽から蒸発した流体を受け取るステップと、
光源及び検出器を用いて前記容器の中の前記蒸発した流体の存在を監視するステップであって、前記検出器が、前記光源からの光を受光するよう構成されたステップと、
前記容器を通した前記光の相対透過率を判定するステップと、
前記容器の中の気圧を制御するステップと、
を具えることを特徴とする方法。
【請求項21】
さらに、前記密閉された容器の中のエタノールの存在を監視するステップを具えることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
さらに、前記密閉された容器の中の水蒸気の存在を監視するステップを具えることを特徴とする請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
さらに、前記密閉された容器の中のエタノールの存在のバックグラウンドでの測定値を得るステップを具えることを特徴とする請求項20乃至22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
さらに、時間の関数として、前記密閉された容器の中のエタノールの存在を記録するステップを具えることを特徴とする請求項20乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
熟成過程を制御するためのシステムであって、当該システムが、
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の装置と、
前記密閉された容器の中の環境条件を制御するよう構成された制御システムと、
を具えることを特徴とするシステム。
【請求項26】
前記容器が、前記熟成過程の少なくとも一部について十分な大気中の酸素を与えるような大きさであることを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記容器が、前記熟成過程の少なくとも一部について十分な水蒸気を与えるような大きさであることを特徴とする請求項25又は26に記載のシステム。
【請求項28】
前記システムが、前記容器の中の周囲圧力を制御するよう動作可能な少なくとも1つのポンプを具えることを特徴とする請求項25乃至27のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項29】
前記ポンプが、前記容器の中の標的周囲圧力を維持するよう動作可能であることを特徴とする請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記システムが、前記容器と流通し前記容器の中の1又はそれ以上のガスの存在を制御するよう動作可能な1又はそれ以上のガス源を具えることを特徴とする請求項25乃至29のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項31】
さらに、前記システムが、前記容器の温度を制御するよう構成された1又はそれ以上の加熱及び/又は冷却装置を具えることを特徴とする請求項25乃至30のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項32】
樽の熟成過程を制御する方法であって、
容器の中の樽を密閉するステップと、
密閉された容器の中の環境条件を制御するステップと、
光源及び前記光源から光を受け取るよう構成された検出器を用いて、前記容器を通る光の相対透過率を判定するステップと、
前記相対透過率を用いて、前記容器の中の流体の蒸気の存在を監視するステップと、
前記容器の中の前記温度を制御するステップと、
を具えることを特徴とする方法。
【請求項33】
さらに、前記容器の中の気圧を制御するステップを具えることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
さらに、前記容器に1又はそれ以上のガスを加えるステップを具えることを特徴とする請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
さらに、選択された1又はそれ以上の物質を加えて、熟成の間に地理的な位置をシミュレートすることを特徴とする請求項32乃至34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
さらに、前記容器の中の正の気圧を維持するステップを具えることを特徴とする請求項32乃至35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
さらに、前記容器の中の水蒸気の分圧を制御して、前記樽からのエタノールに対する水分の相対的損失を制御するステップを具えることを特徴とする請求項32乃至36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
さらに、前記容器を定期的に洗浄するステップを具えることを特徴とする請求項32乃至37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の装置、又は請求項25乃至31のいずれか1項に記載のシステムを具える容器漏れ試験システム。
【請求項40】
さらに、前記樽の1又はそれ以上の画像を取得して、前記樽の中の1又はそれ以上の漏れ箇所の位置及び大きさを特定するよう構成された撮像手段を具えることを特徴とする請求項39に記載の容器漏れ試験システム。
【請求項41】
前記撮像手段が、アクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムを具えることを特徴とする請求項39に記載の容器漏れ試験システム。
【請求項42】
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の装置の中の前記樽を密封するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項43】
さらに、前記樽をガスで満たすステップと、
前記監視システムを用いて前記容器の前記膨張空間の中の試験ガスの存在を検出するステップと、
を具えることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟成過程で使用するための装置及び方法に関し、特に、熟成過程の際に樽からの流体の漏れを減らすための装置及び方法、及び熟成過程を制御し及び熟成過程を監視するための装置及び方法に関する。特定の実施例が、樽を密閉し樽から発生する流体の蒸気を受容するための膨張空間を与える容器を提供する。
【背景技術】
【0002】
スコッチモルトウイスキー生産は、いくつかの段階を有しており、最も重要な段階は、当然ながら熟成過程であり、熟成過程によって新たに生産されるウイスキーが、木製樽の中で数年をかけて熟成される。
【0003】
ウイスキーは、樽に入れる際に、一般に、60%の水分、40%のエタノール(及び0.1%の他の構成物)で構成されているが、(一般に10年乃至20年かかる)熟成過程の間に、樽の中の液量の大部分が大気中に失われる。これは、同業者の間では「エンジェルズシェア」と親しみを込めて称される。
【0004】
エンジェルズシェアは、スコットランドでは、一般に毎年約2%の容量である。世界のそれ以外の場所では、喪失量は、毎年5%にものぼることがある。ウイスキーの生産者は、常に、熟成過程を受ける数千万のウイスキー用樽を有しているため、これらの喪失は、明らかに大きな影響を与える。
【0005】
実際に、エンジェルズシェアは、生産コストのうちの約10乃至15%のコストがかかることが報告されている。このため、生産におけるこのような喪失容量を減少又は防止させることが望ましい。樽を収縮包装する実験が行われているが、流体の喪失がなくなる(又は顕著に減少する)一方、それに応じて空気の進入がなくなるため(又は顕著に減少するため)、熟成過程ひいては最終製品の味に悪影響を及ぼすと考えられている。
【0006】
ワイン、コニャック、アルマニャック、シェリー酒、ポートワイン、ウイスキー(例えば、バーボン)及びビールもまた、(バルサミコ酢のように)樽の中で熟成され、エンジェルズシェアによる喪失問題もまた、(程度の差はあるが、)これらの熟成過程に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、これは広い範囲に及ぶ問題であり、このような問題を少なくとも部分的に解決する解決法が、大きな経済的利益をもたらすであろう。
【0007】
上記を鑑み、熟成過程の際の流体の漏れを減少又は防止し得る装置、及びこれに対応する方法を提供することが、本発明の態様の少なくとも一実施例の目的である。
【0008】
また、熟成過程を監視及び/又は制御するためのシステム、及びこれに対応する方法を提供することが、本発明の態様の少なくとも一実施例の目的である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の実施形態によれば、熟成過程の間に樽からの流体の喪失を減らすための装置が提供され、この装置は、樽を密閉し膨張空間を与えて樽から蒸発した流体を受容する容器を具える。
【0010】
従来の熟成過程では、(例えば)ウイスキー樽から周囲環境にエタノール蒸気が漏れる。ウイスキー樽を密閉し、膨張空間を提供することによって、エタノール蒸気が初めに樽の中に残ることができ、その後、容器の中のエタノール蒸気(又は樽から喪失する他の流体)の分圧が、これ以上漏れが生じない平衡値に達する。
【0011】
好適には、本装置は、さらに、容器の中の蒸発した流体の存在を監視するよう構成された監視システムを具える。
【0012】
この監視システムは、時間の関数として漏れ量を監視できる。
【0013】
好適には、本監視システムは、光源及び検出器を具えており、検出器が、光源からの光を受け取るよう構成され、本監視システムは、容器を通した光の相対透過率を判定するよう構成される。
【0014】
好適には、本装置は、容器の壁に少なくとも1つの開口を具えており、光源及び検出器が、開口の両側にある。好適には、本装置は、容器の壁に位置して、容器を通って光源及び検出器と交差する光学的経路を規定する2つの開口を具える。代替的に、本装置は、さらに、光源からの光を受け取り且つ同じ開口を介して検出器に向けて反射するよう構成されたミラーを具える。好適には、少なくとも1つの開口が、窓を具える。例えば、この窓が、フッ化カルシウム(CaF
2)を具える
【0015】
好適には、光源が、レーザ源を具える。より好適には、光源が、赤外線のレーザ源を具える。選択的に、光源が、光学パラメーター式発振器の中赤外域の光源を具える。代替的に、光源が、量子カスケードレーザ源を具える。光源を、エタノールの吸収線又は吸収帯に同調させることができる。代替的に、又は追加的に、本監視システムは、アクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムを具える。
【0016】
有利なことに、容器が、蓋を具える。容器の蓋及び/又は本体に、それらの間に密閉を与えるゴム製のガスケット又はO−リングを設けることができる。好適には、容器が、長方形である。代替的に、容器が、円筒形又は樽形である。
【0017】
選択的に、容器が、複数の樽を受容するような大きさである。代替的に、又は追加的に、容器が、それぞれの監視システムの有無に拘わらず、1又はそれ以上の容器のようなものと流通している。
【0018】
本発明の第2の実施形態によれば、熟成過程の間に樽からの流体の喪失を減らすための方法が提供されており、この方法が、膨張空間を有する容器の中の樽を密封するステップと、容器の膨張空間の中で樽から蒸発した流体を受け取るステップとを具える。
【0019】
好適には、本方法は、さらに、密閉された容器の中のエタノールの存在を監視するステップを具える。より好適には、本方法が、さらに、密閉された容器の中の水蒸気の存在を監視するステップを具える。
【0020】
好適には、本方法は、さらに、密閉された容器の中のエタノールの存在のバックグラウンドでの測定値を得るステップを具える。好適には、本方法は、時間の関数として、密閉された容器の中のエタノールの存在を記録するステップを具える。
【0021】
本発明の第2の実施形態の実施例は、本発明の第1の実施形態の態様又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0022】
本発明の第3の実施形態によれば、熟成過程の際に樽からの流体の喪失を監視するための監視システムが提供され、この監視システムは、樽の近くにおける流体の蒸気の存在を判断するよう構成された光源及び検出器を具える。
【0023】
好適には、光源が、レーザ源を具える。好適には、光源が、光学パラメーター式発振器の中赤外域の光源を具える。代替的には、光源が、量子カスケードレーザ源を具える。光源を、エタノールの吸収線又は吸収帯に同調させることができる。
【0024】
本発明の第3の実施形態の実施例が、本発明の第1又は第2の実施形態の態様又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0025】
第4の実施形態によれば、熟成過程の際に樽からの流体の喪失を監視する方法が提供され、この方法が、光源から光を放射するステップと、検出器で光源から光を受け取るステップと、樽の近くにおける光の相対透過率を判断するステップとを具える。
【0026】
好適には、この方法が、樽の近くに光源及び検出器のうちの一方又は双方を配置するステップを具える。
【0027】
本発明の第4の実施形態の実施例が、本発明の第1、第2又は第3の実施形態の態様又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0028】
本発明の第5の実施形態によれば、熟成過程を制御するためのシステムが提供され、このシステムが、第1の実施形態の装置及び密閉された容器の中の環境条件を制御するよう構成された制御システムとを具える。
【0029】
好適には、容器が、熟成過程の少なくとも一部について十分な大気中の酸素を与えるような大きさである。代替的に、又は追加的に、容器が、熟成過程の少なくとも一部について十分な水蒸気を与えるような大きさである。
【0030】
好適には、本システムが、容器の中の周囲圧力を制御するよう動作可能な少なくとも1つのポンプを具える。選択的に、このポンプが、容器の中の標的周囲圧力を維持するよう動作可能である。
【0031】
選択的に、このシステムが、容器と流通し容器の中の1又はそれ以上のガスの存在を制御するよう動作可能な1又はそれ以上のガス源を具える。
【0032】
好適には、このシステムが、さらに、容器の温度を制御するよう構成された1又はそれ以上の加熱及び/又は冷却装置を具える。
【0033】
本発明の第5の実施形態の実施例が、本発明の第1乃至第4の実施形態の態様又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0034】
本発明の第6の実施形態によれば、樽の熟成過程を制御する方法が提供され、この方法が、容器の中の樽を密閉するステップと、密閉された容器の中の環境条件を制御するステップとを具える。
【0035】
好適には、この方法が、容器の中の温度を制御するステップを具える。
【0036】
好適には、この方法が、容器の中の気圧を制御するステップを具える。
【0037】
選択的に、この方法が、容器に1又はそれ以上のガスを加えるステップを具える。
【0038】
有利なことに、この方法が、選択された1又はそれ以上の物質を加えて、熟成の間に地理的な位置をシミュレートする。
【0039】
有利なことに、この方法が、容器の中の正の気圧を維持するステップを具える。追加的に、又は代替的に、この方法が、容器の中の水蒸気の分圧を制御して、樽からのエタノールに対する水分の相対的損失を制御するステップを具える。
【0040】
選択的に、この方法が、容器を定期的に洗浄するステップを具える。これにより、さらに、より好適には、平衡状態に達した後に、ガスを樽と容器の膨張空間との間で交換することができる。
【0041】
本発明の第6の実施形態の実施例が、本発明の第1乃至第5の実施形態のうちのいずれかの実施形態又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0042】
本発明の第7の実施形態によれば、樽漏れ試験システムが提供され、このシステムが、第1の実施形態の装置、第3の実施形態のシステム、又は第5の実施形態のシステムを具える。
【0043】
選択的に、このシステムが、樽の1又はそれ以上の画像を取得して、樽の中の1又はそれ以上の漏れ箇所の位置及び大きさを特定するよう構成された撮像手段を具える。選択的に、この撮像手段が、アクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムを具える。
【0044】
本発明の第7の実施形態の実施例が、本発明の第1乃至第6の実施形態のうちのいずれかの実施形態又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0045】
本発明の第8の実施形態によれば、漏れに関する樽の試験方法が提供され、この方法が、第1の実施形態の容器の中の樽を密閉するステップと、第3の実施形態の監視システムを使用するステップとを具える。
【0046】
好適には、この方法が、試験ガスで樽を充填するステップと、監視システムを使用して、容器の膨張空間の中の試験ガスの存在を検出するステップとを具える。
【0047】
本発明の第8の実施形態の実施例が、本発明の第1乃至第7の実施形態のうちのいずれかの実施形態又はその実施例に対応する1又はそれ以上の態様を有し、逆もまた同様にいえる。
【0048】
ここで、図面を参照し、単に例として本発明の様々な実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、本発明の一発明に係るウイスキーの熟成過程を監視及び制御するための装置を概要形式で示す。
【
図2】
図2は、本発明の一発明に係る、熟成過程の初期段階の際の、
図1に示す装置を通して向けられた光ビームの相対透過率対時間のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下の実施例は、ウイスキー樽の中のウイスキーの熟成の文脈で説明されるが、本発明は、例えば、ワイン、コニャック、アルマニャック、シェリー酒、ポートワイン、ウイスキー(例えば、バーボン)、ビール及びバルサミコ酢といった他の熟成過程に実用性を見い出すことが理解されよう。さらに、木製樽が一般的に採用されるが、(ワインの熟成で増々使用されるプラスチック又は金属といった)他の材質でできた樽も、ここで説明された保護の範囲を逸脱するものでないことが理解されよう。
【0051】
図1は、ウイスキーの熟成過程を監視且つ制御するための装置1を示しており、ウイスキー樽5を収容するための容器3を具える。この容器3は直方体の箱であり、本実施例ではアルミニウムでできており、容器にアクセスするための蓋7を具える。この蓋7は、ネジを用いて所定の位置に保持され、蓋7をネジでとめた時に容器3が密閉されるように、ゴム製のガスケット(図示せず)を有する。容器は、膨張空間(すなわち、樽5によって占められていない内部空間)を与え、そこに樽からの蒸気(例えば、エタノール蒸気)が膨張し得る。後で示すように、実験結果が、膨張空間により、平衡状態に達すると樽からの流体の喪失を防ぐことを示している。
【0052】
2つの開口9a,9bが、容器の両側に形成されており、容器を通る光学的経路を規定する。これらの開口は、開口に取り付けられるフッ化カルシウム(CaF
2)製の窓によって密閉されるが、任意の適した材料を窓に使用し得る。
【0053】
赤外線レーザ源11、本実施例では、(他の適切な赤外線光源を採用し得ることは容易に明らかであるが)約3306nmの出力70mWの中赤外域の光学パラメーター式発振器の光源からの光が、開口を通って検出器13に向けられる。この特定の波長は、エタノールのO−H及びC−H延伸吸収帯と一致しており、したがって、容器を通した透過により、容器の中のエタノールの存在を示す。検出器13は、このケースではレーザ出力計器であり、例えば、適切なデータ取り込みカードを備えたPCといったデータロガー(図示せず)に接続され、時間の関数として透過される出力を記録する。
【0054】
使用時に、容器3の中に樽5が無い状態での相対的な透過又は吸収を判定するためのバックグラウンドレベルが取得されるが、バックグラウンドの測定値は、顕著なエタノール漏れが発生する前に、樽5が容器3の中に設置された直後(蓋7が所定の位置に設置される前後)に取り込まれる。次に、蓋7が所定の位置に固定され、密閉される。上述したように、エタノールがエタノール蒸気として樽5から漏れると、容器3の中でレーザ光の吸収がなされる。この吸収が、容器3を通した光強度の減少を通して検出され、検出器13によって検出される。
【0055】
本発明の代替的な実施例が、容器の中に収容されるレーザ源及びパワーメータを具えると予想され、このケースでは開口を要しない。また、本発明の監視システムを、容器とは別体の独立型の監視システムとして使用し、樽の近傍のエタノール蒸気の存在を検出することによって、樽からの流体の喪失を監視するよう使用してもよいことが予想される。
【0056】
図2は、時間の関数としての相対透過率23の典型的なグラフ21を示しており、容器に収容された試験樽(5)からのエタノール蒸気の漏れ量を示す。相対透過率は、時間tで測定された光パワーを、処理の開始時に取得されたバックグラウンドでの測定値で割ることによって判定される。
【0057】
漏れ量は時間が経つと減少し、樽からの漏れが終了する安定値又は連続値になる傾向にあることに留意されたい。実験データの補間によるフィッティングが、参照番号25によって示されるように、本実施例では2、3日以内で平衡に達したことを示す。この段階では、樽からの漏れが止まり、エタノール蒸気の量が一定になる。
【0058】
通過させる2つの開口の代わりに、1つの開口と、容器の内側の、例えば、容器の開口の反対側に、逆反射のミラーとを設けてもよいことが予想される。これによる効果は、2つあり;吸収経路長(ひいては、感度)が2倍となり、容器を片側から監視できることである。
【0059】
ウイスキー樽5は、容器の中で水平となるように設置されるが、樽5を鉛直に又は他の向きに設置してもよいことが理解されよう。さらに、直方体の箱として容器3を示すが、他の適切な容器形状を採用し得る。例えば、既存の貯蔵施設に適合するように、円筒形又は樽形が有用である。さらに、アルミニウムでできた典型的な実施例の容器を説明したが、他の適切な材質を採用し得る。
【0060】
当然ながら、容器を、多くのウイスキー樽に適合するような大きさにでき;特に有利なことは、前述した総てのウイスキー樽について、一度に熟成過程を監視且つ制御し得ることであり、これにより、複数の樽間での製品の一貫性を改善し得る。代替的に、状態があらゆる場所で共有するように、いくつかの容器を管路によって結合でき、これらの容器のうちの1つの容器をここで説明したように監視することで、その容器の中の状態又は変化により、結合した容器における状態における対応する変化と一致し又は対応する変化をもたらすことが分かる。
【0061】
レーザ及びパワーメータを用いて容器の容積の中のエタノールの存在を監視するための典型的な実施例を記載したが、容器の中の雰囲気組成を分析するための分光計又は分光光度計を採用することによって、他の有用な情報を収集できる。分光計は、例えば、波長可変ダイオードレーザ吸収分光計又は本出願人の光学パラメーター式発振器の基づくシステムといった、アクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムのような任意の適切な種類とすることができる。したがって、容器の中の雰囲気組成の詳細な分析をリアルタイムで判定できる。
【0062】
本発明の前述の説明は、何よりもまず、均衡点に達した時点で樽からの流体の漏れを防止する、装置及び方法を提供するものである。
【0063】
光源及び対応する検出器といった監視手段に加えて、本装置及び方法はまた、樽から漏れるエタノール蒸気のレベルの監視が可能である。任意に、雰囲気組成も判定できる。また、大気汚染物質といった外部の影響から樽を保護する。
【0064】
さらに、本発明は、熟成過程を制御するためのシステム及び方法を提供する。例えば収縮包装といった樽の簡単な密閉が流体の漏れを無くすが、周囲から樽の中に空気が進入するのも防ぐため、熟成過程に影響を及ぼすことも分かっている。これは、ウイスキーの味にとって重大な障害であると考えられている。ウイスキーは熟成の際に「呼吸」するべきであるためである。
【0065】
このような問題を改善するために、本発明の容器は、膨張空間を提供している。さらに、容器3の中の環境条件、及び特に膨張空間を熟成期間の間中制御し得る。本システムは、相対湿度、雰囲気組成及び当然ながら温度とともに、容器3の中の圧力を制御し得る制御システムを具える。この制御は、熟成過程の間中同じ環境条件の維持を具え、又は代替的に必要に応じて環境条件の変動を具える。環境条件を制御することによって、ウイスキーの熟成過程も制御できる。
【0066】
熟成過程の際に容器に物質を加えて、望ましい雰囲気条件をシミュレートしてもよいことが予想される。例えば、塩水を注入して、海岸の熟成地での海辺の空気をシミュレートできる。
【0067】
本発明の特定の実施例では、本制御システムを使用して、密閉された容器の中の低い正圧を保持する。したがって、エンジェルズ・シェアに由来する樽からの流体の漏れが最小限になる一方で、樽の中に空気(酸素)が流入してウイスキーが適切に熟成されることが可能となる。
【0068】
本実施例の拡張例として、容器の大きさを、熟成過程全体に関して又はその一部に関して、十分な雰囲気酸素を与えるような大きさとし得る。上述のように、エンジェルズ・シェアに由来する容器の中のエタノールの分圧は、適切な酸素供給が何年にもわたってなされた場合、例えば数日にわたって停滞するであろう。必要に応じて、数年毎に容器をパージして再充填できる。通常のパージであっても、エンジェルズ・シェアによる予想される漏れは、熟成過程全体にわたって顕著に減少するであろう。
【0069】
一例として、樽からのエタノールの漏れに対する水分の漏れの比が、支配的な雰囲気条件;原理的に相対湿度及び温度に依存するが、他の条件もまた影響を有することが分かっている。例えば、温度が高くなれば、エタノール及び水分双方の漏れが増加することが分かっている。湿度が高くなれば、(水分と比較して)エタノールの漏れが増加し、湿度が低くなれば、(エタノールと比較して)水分の漏れが増加する。ここで説明するシステムによれば、これらの条件(温度及び相対湿度)を制御することで、熟成過程を制御できる。
【0070】
本システムの1つの特定の使用法により、結果的には、熟成過程の際のテストが、雰囲気条件を変えることによって改善できるウイスキーに関する問題を明らかにするであろう。例えば、水分の漏れの増加を要すると思われる場合には、相対湿度を減らすことができる。この場合、特に、熟成過程の最終段階の際に、エタノールの特定の含有量を標的とすることができる。これを使用して、当業界においてしばしば要されることであるが、最終製品において、例えば、ウイスキーの中のアルコールの含有量を増加させ、又はワインの中のアルコールの含有量を減少させる。
【0071】
本発明のさらなる適用例は、樽の中の漏れを検出することであり、この場合、樽が容器の中に入っており、容器の中への漏れが時間の関数として監視され、漏れの存在及び漏れの程度を判断する。これは、好適には、ウイスキーを充填する前に、例えば、試験ガスを充填することによって実施される。(本出願人のアクティブ赤外線方式のハイパースペクトル画像システムといった)画像システムを採用して、樽の中の漏れの位置及び/又は大きさを特定することが予想される。
【0072】
本発明は、樽から発生する流体の蒸気を受容するための膨張空間を与える容器の中に樽を密閉することによって、熟成過程の際に樽からの流体の漏れを減らす装置及び方法、光源及び検出器を用いて熟成過程の際に樽からの流体の漏れを監視し、樽の近くの流体の蒸気の存在を判断する監視システム及び方法、環境条件が制御されるような熟成過程を制御するための対応するシステム、及び上記のシステム及び方法を用いた樽漏れ試験システム及び方法を提供する。
【0073】
ここで意図する本発明の範囲内で様々な変更を行うことができ、本発明の実施例は、特許請求の範囲で表現された以外の態様の組み合わせを有する。例えば、上述のように、樽の中のウイスキーの熟成に関する特定の実施例を説明しているが、同様な装置、方法及びシステムをバーボン及び他の蒸留酒、ワイン、他のアルコール飲料、及び樽で熟成される他の流体(例えば、バルサミコ酢)の熟成に採用し得る。