(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンエラストマー>
本発明において、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンエラストマー(以下、「XNBR」という)は、広く、ゴムの主鎖を構成するアクリロニトリル及びブタジエン、少なくとも一種の不飽和カルボン酸、並びに、所望により他の共重合性モノマーを共重合させて得られるカルボキシル基を含むエラストマーを包含する。また、該カルボキシル基の一部は、誘導体化(例えばエステル、アミド等)されて架橋構造を形成していてよい。
【0012】
XNBRは、該XNBR重量の30〜40重量%、好ましくは32〜38重量%のアクリロニトリル残基を含む。アクリロニトリル残基の含有量が30重量%未満の場合、得られるXNBRの耐薬品性が十分ではない傾向がある。一方、アクリロニトリル残基の含有量が40重量%を超える場合、得られるXNBRの柔軟性が十分ではない傾向がある。XNBR中のアクリロニトリル残基の量は、ニトリル基の量を元素分析により求められる窒素原子の量から換算して求めることができる。
【0013】
XNBRは、該XNBR重量の
4〜8重量%、好ましくは4〜6重量%の不飽和カルボン酸残基を含む。不飽和カルボン酸残基の含有量が
4重量%未満の場合、後述する二価イオンによる架橋形成が十分ではなくXNBR中の架橋構造が十分に形成されない。一方、8重量%を超える場合、架橋構造が過多となり、最終製品であるゴム手袋の引張強度や引張応力(モジュラス)といった物性の低下を導く。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」という)が使用され、好ましくはメタクリル酸が使用される。XNBR中の不飽和カルボン酸残基の量は、カルボキシル基、及び、カルボキシル基由来のカルボニル基を赤外分光(IR)等により定量することによって求めることができる。
【0014】
XNBRの他の構成要素は、ブタジエン残基と架橋構造である。該ブタジエン残基を構成するブタジエンとしては、1、3−ブタジエンが好ましい。また、ブタジエン残基の量は、該ブタジエン残基、上記アクリロニトリル残基及び上記不飽和カルボン酸残基との合計に対して、52〜66重量%であり、好ましくは56〜64重量%である。該ブタジエン残基の量が該範囲内である場合、引張り特性や疲労特性といった物性に優れた最終製品を得ることができる。
【0015】
本発明において、XNBRの架橋構造は、非硫黄架橋構造である。架橋構造が非硫黄架橋構造であることによって、該XNBR燃焼ガス吸収液の中和滴定法により検出される硫黄元素の含有量を、該XNBR重量の1.0重量%以下に抑えることができる。該定量方法は、XNBR試料0.01gを空気中、1350℃で10〜12分燃焼させて発生する燃焼ガスを、混合指示薬を加えたH
2O
2水に吸収させ、0.01NのNaOH水溶液で中和滴定する方法である。
【0016】
本発明における非硫黄架橋構造としては、特に限定されず、例えば、有機過酸化物、オキシム等による主鎖間の架橋、酸無水物等のカルボキシル基間の架橋、架橋剤、例えばポリエポキシド、ポリオール、ポリイミド、モノ及びポリカルボジイミド、ポリイソシアネート等を用いたカルボキシル基間の架橋、カルボキシル基と反応性の基、例えばグリシジル基、を有する構成単位を主鎖に導入し、該基とカルボキシル基との反応による架橋等、が挙げられる。好ましくは、自己架橋、即ち、通常の保存状態では安定であるが、例えば、水を蒸発させもしくは加熱することによって、或いはpHの変化によって、別途架橋剤を加えずとも、形成される架橋であることが好ましい。このような架橋の例としては、カルボキシル基の自動酸化によるもの、n−メチロールアクリルアミド単位を導入し、それらを自己縮合させたもの、アセトアセトキシ基と不飽和結合のマイケル反応等が挙げられる。
【0017】
XNBRは、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、1,3−ブタジエン、及び、必要に応じて架橋構造等を形成するための他の不飽和モノマーを、定法に従い乳化重合することによって調製することができる。乳化重合に際しては、通常用いられる乳化剤、重合開始剤及び分子量調整剤等を使用することができる。
【0018】
他の不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン及びジメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド及びN−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;及び酢酸ビニル等が挙げられる。
【0019】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩及び脂肪族スルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル及びポリエチレングリコールアルキルエステル等のカチオン性界面活性剤;及び両性界面活性剤が挙げられる。これらのうち、好ましくはアニオン性界面活性剤が用いられる。
【0020】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸アンモニウム及び過リン酸カリウム等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド及びt−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル及びアゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0021】
分子量調整剤としては、t−ドデシルメルカプタン及びn−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン及び臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。これらのうち、好ましくはメルカプタン類が用いられる。さらに、必要に応じて分散剤及びpH調整剤等を用いることができる。
【0022】
次いで、乳化重合をすることにより得られたポリマーを、加熱し、もしくは水を蒸発させる等して、非硫黄架橋工程に付しXNBRを得る。但し、該工程は、後述する二価イオンによる架橋と同時に、もしくは、該イオン架橋の後の加熱工程で行ってもよい。
【0023】
得られるXNBRは、ムーニー粘度(ML
(1+4)(100℃))が100〜220であり、好ましくは100〜190であるような分子量を備える。ムーニー粘度が100未満の場合、XNBRの十分な強度を得ることが難しくなる。一方、前記上限値はムーニー粘度の実際上の測定限界であり、これを超えるものは、粘度が高く成形加工が困難となる。
【0024】
また、XNBRは、トルエン重量膨潤比率が190〜400重量%であり、好ましくは200〜400重量%である。該膨潤率が190重量%未満の場合、架橋度が低く、手袋にした際の強度が不足し、400重量%を超える場合、手袋の柔軟性が不足する。
【0025】
<エマルジョン組成物>
本発明のエマルジョン組成物は、上記XNBRに加え、ポリ(アクリロニトリルブタジエン)(以下、「NBR」という)を含むエマルジョン状の組成物である。該NBRは、スチレン換算の重量平均分子量が7,000〜
50,000であり、好ましくは9,000〜30,000である。分子量が7,000未満の場合、NBRが手袋表面へ移行するブリードが懸念され、
50,000を超える場合、手袋の柔軟性が不足する場合がある。
【0026】
NBRは、該NBR重量の20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%のアクリロニトリル残基を含み、残りがブタジエン残基である。アクリロニトリル残基の含有量が20重量%未満の場合、手袋の耐薬品性が低下し、50重量%を超える場合、分子鎖が剛直となり手袋の柔軟性が損なわれるからである。
【0027】
本発明のエマルジョン組成物におけるXNBR(以下、「成分(1)」という)とNBR(以下、「成分(2)」という)の混合比は、成分(1)/成分(2)の重量比で70/30〜90/10であり、好ましくは70/30〜85/15である。該重量比が70/30未満では、手袋の耐薬品性が不十分となり、90/10を超える場合には、手袋の十分な柔軟性を達成することが難しい。実施例において詳述するように、該重量比は、還流下でのメチルエチルケトン抽出で成分(2)を抽出することによって求めることができる。
【0028】
上記エマルジョン組成物は、成分(1)と成分(2)に加えて、二価金属酸化物と分散剤を含む。二価金属酸化物は、主として、成分(1)中のカルボキシル基の間をイオン架橋するものである。該二価金属酸化物としては、亜鉛、カルシウム及びマグネシウム等の酸化物が挙げられ、これらのうち、好ましくは酸化亜鉛が用いられる。該二価金属酸化物の含有量は、樹脂分、即ち成分(1)と成分(2)の合計を100重量部とした場合に、0.5〜4.0重量部であり、好ましくは0.7〜3.0重量部である。
【0029】
分散剤としては、アニオン界面活性剤が好ましく、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリリン酸エステル、高分子化アルキルアリールスルフォネート、高分子化スルホン化ナフタレン及び高分子化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合重合体等が挙げられ、好ましくはスルホン酸塩が用いられる。該分散剤の含有量は、成分(1)と成分(2)の合計を100重量部とした場合に、0.5〜4重量部であり、好ましくは1〜3重量部である。
【0030】
上記エマルジョン組成物は、上記各成分に加え、慣用の添加剤を含むことができる。該添加剤としては、pH調整剤、顔料、酸化防止剤、連鎖移動剤及び重合開始剤等が挙げられる。該pH調整剤としては、通常、水酸化カリウムが用いられる。水酸化カリウムの使用量は、通常、エマルジョン組成物100重量部に対して0.1〜2.0重量部である。また、顔料としては、例えば二酸化チタンが使用される。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノールタイプの酸化防止剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、t−ドデシルメルカプタン等に代表されるメルカプタン類を使用することができる。重合開始剤としては、特に限定されないが、加硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、及び、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート化剤等を使用することができる。
【0031】
本発明のエマルジョン組成物は、成分(1)、成分(2)、二価金属酸化物、分散剤、各添加剤及び水を、慣用の混合手段、例えば、ミキサー等で混合して製造することができる。本発明のエマルジョン組成物は、エマルジョン組成物の全重量に対し、固形分の含有量が30〜60重量%であり、好ましくは40〜50重量%である。
【0032】
本発明の手袋は、上記エマルジョン組成物を用い、下記の公知のディッピング法により製造することができる。
【0033】
1)ディップ成形型(以下、「フォーマ」という)を凝固剤液中に浸して、該凝固剤をフォーマに付着させる。該凝固剤としては、エラストマーを析出させる効果を有する無機塩であれば任意のものであってよく、例えば、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムの5〜20重量%水溶液が使用される。
【0034】
2)凝固剤が付着したフォーマを50〜70℃で乾燥させた後、本発明のエマルジョン組成物中に、手袋の目的とする厚みに応じた時間、通常、1〜20秒程度浸す。
【0035】
3)エマルジョン組成物でコーティングされたフォーマを80〜120℃で、20〜70秒間加熱した後、水洗する。
【0036】
4)水洗後、ビーディング(袖巻き工程)し、120〜150℃の後加熱工程に付する。
【0037】
上記のようにして得られる手袋は、弗酸等の薬品に耐性でありながら、柔軟性に富む。
【0038】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[エラストマーの調製]
1)XNBRの調製
表1に示す5種類のXNBRを、以下の手順に従って調製した。
【0040】
攪拌機つきの耐圧重合反応器に、イオン交換水120重量部、アクリロ二トリル35重量部、1,3−ブタジエン59重量部、メタクリル酸6重量部、N−メチロールアクリルアミド0.3重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3重量部、加硫酸カリウム0.3重量部、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05重量部からなる乳化液を仕込み、40℃に保持して18時間反応させた後、反応停止剤を添加して重合を終了させ、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、アンモニア水(pH 13.3)を滴下して共重合体ラテックスのpHを8以上に調整し、さらに濃度を調整して、固形分濃度45%のXNBR−Aを得た。
【0041】
XNBR−Bは、アクリロニトリル量を34重量部とし、N−メチロールアクリルアミドを0.4重量部とし、反応時の温度を30℃とし、それ以外の条件はすべてXNBR−Aと同様にして調製した。XNBR-Cは、アクリロニトリル量を25重量部とし、N−メチロールアクリルアミドを0.3重量部とし、反応時の温度を40℃とし、反応時間を18時間とし、それ以外の条件はすべてXNBR−Aと同様にして調製した。XNBR−Dは、アクリロニトリル量を34重量部とし、N−メチロールアクリルアミド0.5重量部とし、反応時の温度を40℃とし、反応時間を24時間とし、それ以外の条件はすべてXNBR−Aと同様にして調製した。XNBR-Eは、アクリロニトリル量を34重量部とし、N−メチロールアクリルアミドを用いず、反応時の温度を50℃とし、反応時間を16時間とし、それ以外の条件はすべてXNBR−Aと同様にして調製した。
【0042】
得られた各XNBRの特性を、以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0043】
<不飽和カルボン酸残基>
各XNBRのエマルジョンを乾燥してフィルムを作成した。該フィルムをFT−IRで測定し、1699cm
−1と2237cm
−1における吸光度(Abs)の比を求め、下記式から不飽和カルボン酸残基量を求めた。
不飽和カルボン酸残基量(wt%)
=[Abs(1699cm
−1)/Abs(2237cm
−1)]/0.2661
【0044】
上式において、「0.2661」は、不飽和カルボン酸残基量とアクリロニトリル残基量が既知の複数の試料のデータから検量線を作って求めた係数である。
【0045】
<ムーニー粘度>
硝酸カルシウムと炭酸カルシウムの重量比4:1混合物の飽和水溶液200mlを室温にて攪拌し、各XNBRのエマルジョンをピペットにより滴下し、固形ゴムを析出させた。得られた固形ゴムを取り出し、イオン交換水約1000mlでの攪拌洗浄を10回繰り返した後、固形ゴムを搾って脱水し、真空乾燥(60℃、72時間)して、測定用ゴム試料を調製した。得られた測定用ゴムをロール温度50℃、ロール間隙約0.5mmの6インチロールにゴムがまとまるまで数回通したものを、JIS K6300−1:2001 「未加硫ゴム−物理特性、第1部ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準拠して測定した。なお、XNBR−Dの粘度ムーニーは、測定温度100℃での測定上限値を超えていた。
【0046】
<硫黄元素の含有量>
各XNBRのエマルジョン中の固形物0.1gを1350℃で12分間、燃焼炉で燃焼し、発生した燃焼ガスを吸収液(希硫酸を1〜数滴加えたH
2O
2水混合液)へ吸収させた後、0.01NaOH水を用いて中和滴定して定量した。
【0047】
<固形分の含有量>
各XNBRのエマルジョンを1g精秤し、105℃で24時間乾燥した後、残留する固形物量を計量し、固形分量とした。
【0049】
2)NBRの調製
攪拌機つきの耐圧重合反応器に、イオン交換水120重量部、アクリロ二トリル35重量部、1,3−ブタジエン65重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3重量部、加硫酸カリウム0.3重量部、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05重量部、t−ドデシルメルカプタン1.0重量部からなる乳化液を仕込み、60〜80℃で5時間反応させた後、反応停止剤を添加して重合を終了させ、共重合ラテックスを得た。得られた共重合ラテックスから未反応単量体を除去した後、アンモニア水(pH 13.3)を滴下して共重合体ラテックスのpHを8以上に調整し、さらに濃度を調整して、固形分濃度45%で、ポリスチレン換算の重量平均分子量19700のNBR−aを得た。
【0050】
t−ドデシルメルカプタンの量を0.5重量部に変更した以外は同上の方法で、重量平均分子量10900のNBR−bを調製した。また、t−ドデシルメルカプタンの量を0.8重量部に変更した以外は同上の方法で、重量平均分子量6600のNBR−cを調製した。
各NBRの重量平均分子量と固形分濃度を表2に示す。
【0052】
[エマルジョン組成物の調製]
上記各エラストマーを表3に示す重量比(樹脂分)で混合し、該混合樹脂分100重量部に対して、表4の添加剤を加えて、ミキサーで攪拌し、エマルジョン組成物1〜8を調製した。表3において、A〜EはそれぞれXNBR−A〜Eを、a〜cはそれぞれNBR−a〜bを表す。例えば、実施例1は、XNBR−A樹脂85重量部とNBR−a樹脂15重量部が混合されていることを示す。
【0055】
表4において、分散剤はアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムであり、抗酸化剤は2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノールであり、着色剤はファストグリーンFCFである。
【0056】
[手袋の製造]
上記各エマルジョン組成物を用いて、以下のディッピング法により手袋(実施例1及び2、並びに、比較例1〜6)を製造した。
(1)手袋の型であるフォーマを、洗浄液、次いで冷水で洗浄して乾燥した後、凝固剤である硝酸カルシウムがCa
2+イオン濃度が10重量%となる量で水に溶解されている水溶液中に15秒間浸した。
(2)凝固剤が付着したフォーマを60℃で1分程度フォーマを乾燥した。
(3)30℃に調整したエマルジョン組成物中にフォーマを20秒間浸した。
(4)フォーマをエマルジョン組成物から取り出して水で洗浄した後、熱水(50℃)中に140秒間浸した。
(5)エマルジョン組成物の膜で覆われたフォーマを120℃で300秒間乾燥した後、60℃で80秒間維持し、得られた手袋をフォーマから取り外した。
【0057】
[手袋の物性評価]
得られた手袋の諸物性を以下の方法で評価した。結果を表5に示す。
【0058】
<手袋のメチルエチルケトン熱抽出成分>
手袋をメチルエチルケトン(MEK)に浸漬し、還流下で8時間抽出した後、得られた抽出液を回収し、濃縮・乾燥後の残留物を4桁天秤で計量した。
【0059】
<手袋のトルエン膨潤比率>
手袋を常温でトルエンに浸漬し、72時間後の重量を初期重量で除して膨潤比率(%)求めた。トルエンの膨潤比率が低い程、手袋における架橋密度は高くなる。手袋のような架橋ポリマーをトルエンのような良溶媒中に浸漬すると、良溶媒はポリマー鎖を溶かし広げようとするが、架橋ポリマーの網目の弾力で抑えられ膨潤平行に達するため、架橋ポリマーの架橋密度は良溶媒中の平行膨潤率と逆比例の関係になる。
【0060】
<手袋の柔軟性>
手袋の柔軟性を、引張り特性により評価した。
手袋からJIS K6251:2010のダンベル状5号試験片を切り出し、株式会社A&D製のTENSILON万能引張試験機「RTC−1310A」を用い、試験速度500mm/min、チャック間75mm、標線間25mmで、引張強度(MPa)、破断時伸び(%)、及び、500%弾性率(MPa)を測定し、ゴム手袋の強度及び柔軟性を評価した。引張強度は、ゴム手袋の強度を示し数値が大きい程強度が高い。また、破断時伸びは、ゴム手袋の柔軟性を示し数値が大きい程柔軟性が高い。また、500%弾性率は、ゴム手袋の柔軟性を示し数値が大きい程柔軟性が低い。
【0061】
<手袋の耐薬品性>
以下の方法で、手袋を透過する薬剤量により、手袋の耐薬品性を調べた。
手袋を裏返し、手袋の中指部分に47%フッ化水素(HF)酸、50%硫酸、生理食塩水、メタノール、エタノール、アセトン、及びN−メチルピロリドン(NMP)から選ばれる一種の薬液を10ml入れた状態で、該中指部分を純水30mlに浸漬し、室温で2時間放置後、純水中に溶出してきた上記各化合物の重量(g)をイオンクロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィー等により定量した。表5において、「ND」は検出限界以下であったことを示す。
【0063】
表5に示すとおり、実施例の手袋は、いずれも引張強度及び破断時伸びの値が大きく、一方、500%弾性率の値が小さいことから柔軟性に優れていた。また、実施例の手袋は、いずれの化合物についても透過量が少なく、すなわち、手袋の表面から裏面への各化合物の透過量が少なく、薬液透過合計量も少ないことから耐薬品性に優れていた。これに対して、アクリロニトリル残基量が低いXNBR−Cを含む組成物から得られた手袋(比較例1)は、実施例の手袋に比べて薬液透過量が多く、耐薬品性が低かった。また、NBR含有量が少ないエマルジョン組成物から得られた手袋(比較例2)、低分子量のNBRを含有するエマルジョン組成物から得られた手袋(比較例3)、NBR含有量が多いエマルジョン組成物から得られた手袋(比較例4)、ムーニー粘度が高いXNBR−D含むエマルジョン組成物から得られた手袋(比較例5)、ムーニー粘度が低いXNBR−E含むエマルジョン組成物から得られた手袋(比較例6)は、いずれも引張強度、破断時伸び又は500%弾性率のいずれかの引張り特性が極めて劣っていた。