(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
編地中の同一コース内が前記導電糸により製編された構成経路と前記弾性糸により製編された構成経路とに分離されており、互いの構成経路が独立して伸縮挙動を生起可能とされていることを特徴とする請求項1記載の導電性伸縮編地。
前記導電糸は、合成繊維又は弾性糸との撚糸、合成繊維又は弾性糸によるカバリング加工、又は合成繊維又は弾性糸との引き揃え、のいずれかにより複合糸とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の導電性伸縮編地。
前記編地は、スムース編、ゴム編、又はそれらの変形組織のいずれかの編組織により製編されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の導電性伸縮編地。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る導電性伸縮編地1の第1実施形態を示した両面編目図である。この導電性伸縮編地1は、例えば
図2に示すような導電用ハーネス2を製造する際において、その構成要素の一つとして使用することができる。
図2に示したハーネス2は偏平で細長い帯紐状を呈して形成され、帯長手方向に沿って互いに平行な2本の導電部を備えたものとしてある。これら2本の導電部が、本発明に係る導電性伸縮編地1(以下、「本発明編地1」と言う)によって形成されている。
【0014】
図2に示した例では本発明編地1が細帯状であって且つハーネス2の表裏面に露出する状態に形成され、2本の本発明編地1,1の相互間には互いの短絡を防止するための非導電部3が設けられたものとしてある。
また、これら本発明編地1,1に対する帯幅方向の外側にも非導電部4が設けられており、ハーネス2の側縁部が他物と接触したときに本発明編地1による短絡や漏電等が起こらないように対処してある。非導電部3,4は、いずれも合成繊維(例えばアラミド繊維)や天然繊維、合成繊維と弾性糸とを混用した素材等の非導電糸のみによって製編された編地として組成されており、本発明編地1と同様にハーネス2の表裏面に露出する状態に形成されている。
【0015】
なお、本発明編地1は、ハーネス2の帯幅方向の中に3本以上設けてそれらを非導電部3で区分けするようにしてもよいし、ハーネス2の帯幅方向の中に1本だけ設けてもよい。また非導電部4については本発明編地1の片側だけとしたり、設けなかったりしてもよい。
また本発明編地1は、帯状とせず、線状に形成することも可能であるし、ハーネス2の帯幅方向及び帯長手方向の全部を形成する広幅のものとして形成することもできる(これらについては後述する)。要は、本発明編地1の配置や形成数は何ら限定されるものではない。またハーネス2自体も、そもそも帯紐状に形成することが限定されるものではなく、正方形や長方形などの四角形に形成すること等も可能である。
【0016】
図2で示したハーネス2では、当然に、本発明編地1(2本の導電部)が帯長手方向の両端部で電気抵抗の低い導通特性を有したものとされている。のみならず、帯長手方向の任意位置であっても、帯表面及び/又は帯裏面において電気抵抗の低い導通特性を有したものとされている。従って、本発明編地1の帯長手方向において導通させる2点間距離に応じて電気抵抗の大小を設定したり、反対に電気抵抗に応じた長さを設定したりするといった使い方をすればよい。或いはまた、本発明編地1の帯幅(コース数)を幅広にしたり幅狭にしたりすることの選択によっても電気抵抗の大小を設定することができる。
【0017】
また、このハーネス2は、本発明編地1及び非導電部3,4が一体となって帯長手方向に沿った豊富な伸縮性を有していると共に、表裏方向へ向けた反りや曲がり、面方向に沿った左右への曲がり、更には捻りなどに自由に対応できるだけの豊富な柔軟性を有している。そして、このようにハーネス2を帯長手方向に伸縮させたときや、表裏方向へ反らせたり曲げたり、或いは面方向に沿って曲げたりしたとき、更にはこれらの伸縮や反り、曲げを繰り返したときであっても、電気抵抗は不変状態に保持される特性を有している。
【0018】
ここにおいて「電気抵抗の低い」とは、電流を流した際の電圧降下が機能に影響を与えない抵抗値であることを言う。具体的な抵抗値は、用途や使用条件によって種々に異なっている。例えば、給電用であれば10Ω/m以下、より好ましくは1Ω/m以下、さらには0.1Ω/m以下が望ましいが、配線長や供給電流により許容範囲は異なる。
一般に、給電用と比較して、信号用の場合は電流が低いことが一般的であるので、より高抵抗値まで許容可能である
一方、「伸縮性」とは、非伸長時(常態)からの伸長と、この伸長状態からの解放による即時復元との両方を備えた特性を言う。本発明編地1と非導電部3,4とで、伸縮性を同じ強度にするか強弱の差をつけるかは適宜変更可能である。例えば、編地全体としてシワや波打ち等が目立たないようにしたり、伸張負荷時に導電糸10がダメージを受けないように伸縮性を抑えたりすることを目標として、それぞれの伸縮性を設定すればよい。
【0019】
非伸長状態からどれだけ伸長するかの度合い(伸長度)については、製編に用いる材料(糸)の材質や太さ、製編材料の混用の有無や混用方法
(プレーティング、引き揃え等)
、混用数、ハーネス2としての帯幅や帯長さ等といった様々なファクターを、所望されるところに応じて適宜変更することで対応することができる。
また組成組織の選択によっても伸長度を適宜変更することができることは言うまでもない。この場合、殊に本発明編地1の編みを設計する際には、後述する導電糸10のループ長と弾性糸11の弾性率、ドラフト(短繊維束を引き伸ばして細くすること)との調整が大きな要因となる。
【0020】
なお、復元に関しては非伸長時の長さに100%回復することが理想である。しかし、必ずしも100%回復が限定されるものではなく、伸長と復元との繰り返し数を規定したうえで、この規定数以内のときは80%以上回復するような特性を備えるものであれば「良」と見なすなど、用途に応じた性能を設定すればよい。この「伸長−復元繰り返し数」が1000回に満たない場合は、実質上、実用に向かないと言わざるを得ない。
【0021】
「伸長−復元繰り返し数」は、デマッチャ式繰返疲労試験機を用いた繰返し引っ張り疲労試験により、計数することができる。この場合、ハーネス2としての試験片にはコース方向を長辺とする長方形のものを用いる。本実施形態では試験片の寸法を長辺10cm、短辺1.5cmとした。また、試験片の中で、導電部(本発明編地1)の両側を挟む配置となる非導電部3,4にはそれぞれ40番手の綿糸を用いるものとし、これによって導電部に伸びの影響(外乱)を与えないように配慮した。
【0022】
試験片には非伸長時の5cm間隔おきにマーキングしておく。そしてこのマーキングの間隔が伸長時に10cmになることを目安にストローク(伸長度)を調整した。試験は室温下で行い、60回/分の速度で伸長と復元とを3000回、及び1万回繰り返し実行し、その後のマーキング間隔及びマーキング間の抵抗値を測定して、規定の結果が得られていることを確認することにより、その繰り返し数の達成と見なした。
【0023】
このようなハーネス2は、例えば特開平11―279937号に記載の方法(筒状生地からテープ生地を取り出す方法)等を採用して製造することができる。すなわち、丸編機を用いた筒状生地の製編を行うに際して、帯幅方向外側の非導電部4、本発明編地1、帯幅方向中央の非導電部3、本発明編地1、帯幅方向外側の非導電部4、の合計5区分を複数の給糸口から同時進行で製編するピース編みを行うと共に、ピース間に熱、水、溶剤などで溶ける繋ぎの糸を入れ、製編後に得られた筒状生地からこの繋ぎの糸を溶かす処理を行うことにより、ハーネス2を螺旋状に分離しつつ取り出すという方法である。
【0024】
本発明編地1の製編時には、
図1に示すように導電糸10と弾性糸11とを混用させる。導電糸10と弾性糸11とが含まれていれば、その他に別種の糸を混用させることは任意である。
本発明編地1に採用し得る編組織は、例えばスムース編(両面編又はインターロックとも言う)とする。スムース編は、ゴム編を2枚重ね合わせてお互いの凹凸の溝を埋め合ったような編組織である。すなわち、
図1(a)の上面側を編地表面側とおき、同下面側を編地裏面側とおいて説明すると、導電糸10は、編地表面側の導電糸オールドループ10aと絡んで第1ループP1を形成し、編地裏面側へ移行する。そして編地裏面側の導電糸オールドループ10bと絡んで第2ループP2を形成し、以後同様に編地表面側で第3ループP3を形成し、編地裏面側で第4ループP4を形成するといったことを繰り返す。従って導電糸10は、本発明編地1の編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。
【0025】
これに対して弾性糸11は、編地裏面側の弾性糸オールドループ11aと絡んで第1ループR1を形成し、編地表面側へ移行する。そして、編地表面側の弾性糸オールドループ11bと絡んで第2ループR2を形成し、以後同様に編地裏面側で第3ループR3を形成し、編地表面側で第4ループR4を形成するといったことを繰り返す。従って弾性糸11も、本発明編地1の編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。その結果、編地中には、導電糸10と弾性糸11とのクロス部13がループ毎に交互配置で形成されることになる。
【0026】
但し、弾性糸11は豊富な伸縮性を有しているのに対して導電糸10は殆ど伸縮しない。そのため、本発明編地1をその表裏面の面方向(
図1(a)の左右方向であり後述する
「コース方向」と同じである)に沿って伸長させると、クロス部13では、弾性糸11が導電糸10と交差することで編地の表裏面側に生じさせているクロス角θを徐々に拡大させ、鈍角となる状況を経て、次第に弾性糸11だけがよく伸びてゆくようになる。
【0027】
次に、この弾性糸11の伸びに引っ張られるようにして導電糸10がそのループからクロス部13へと繰り出される挙動が生じる。
また、本発明編地1の伸長を解除すると、クロス部13では弾性糸11だけが収縮による引き締め力を生じ、この引き締め力を受けて導電糸10がクロス部13からその両外側のループへと押し込める挙動が生じる。このときの弾性糸11による引き締め力が、非伸縮時の本発明編地1において、導電糸10のジグザグ状配置を保形させ、厚さ方向のボリュウムを持たせる作用を奏することになる。
【0028】
このように導電糸10は、ループからクロス部13への繰り出しや押し込みによってループを小さくさせたり大きくさせたりするだけでありながら、弾性糸11の伸縮に合わせて一緒に伸び縮みをしているかのようになり、本発明編地1は
図1(b)に示すような伸縮性を有するものとなっている。
この説明から明らかなように、導電糸10は実質的に伸縮するものではないので、コース方向で使用された全長は変化せず、もとよりその外径も変化しない。のみならず、導電糸10はコース方向に並ぶループ同士が接触することがなく、複数のコース間で絡まったり接触したりすることもない。従って、電気抵抗も不変となるものである。
【0029】
また、本発明編地1では、編地中の同一コース内が導電糸10により製編された構成経路と、弾性糸11により製編された構成経路とに分離されたものであると言える。そのため、互いの構成経路における伸縮挙動の互いへの影響(干渉)が抑制され、各独立したものとなるので、各構成経路ではそれぞれ自由度の高い伸縮挙動が許容されることになる。これにより、本発明編地1として、豊富な伸縮性及び柔軟性が確保される。
【0030】
なお、このように導電糸10の構成経路と弾性糸11の構成経路とが分離する編地構成では、導電糸10の構成経路中に1経路あたり多くの導電糸10を入れられることになる。そのため、本発明編地1の電気抵抗値を可及的に低く設定することが可能となる。弾性糸11の場合も、1経路あたり多くの弾性糸11を入れられることは同様である。弾性糸11を多く入れることに関しては弾性特性を良好にできるという利点に繋がる。
【0031】
導電糸10の構成経路と弾性糸11の構成経路とが分離する編地構成を得る方法としては、本発明編地1を製編するに際し、導電糸10と弾性糸11とを異なるニッティングポイントで製編し、各別のループを形成させる方法を提示できる。
なお、「コース方向」は編組織において繋がったループを形成しつつ進む方向であって「コース」と同じ方向とおく。編地地面上でコース方向と垂直に交差する方向は「ウエール」又は「ウエール方向」とおく。また「コース間」はウエール方向で隣接するコースとコースとの間である。
【0032】
このようなことから、本発明編地1において、コース方向の導電性は、1コースの導電糸10によって(一筋の連続した導電糸10として)発現されることが明らかである。なお、1コースの電気抵抗値を小さくするには、1コースに用いる導電糸10について、S撚りやZ撚り、引き揃えやプレーティング等により導電糸10の本数を多くしたり、或いは低電気抵抗の素材を選んだり、太くしたりすればよいことになる。
【0033】
また、より伸縮性を豊富なものとさせるには、太いポリウレタン糸、伸長に対する復元力(キックバック)の強い高弾性率のポリウレタン糸をドラフト高く(ループ長を短く)使用する方法もある。更に、導電糸10の経路に補助的に比較的細い弾性糸11(ポリウレタン等)を同給糸したり、カバリング糸(「芯」にポリウレタン等の弾性糸11を用い「カバー」に導電糸10を用いたもの)を使用したりするなどの方法もある。ただ、これらの方法は、あくまでも伸縮挙動の補助的な役割とする。
【0034】
導電糸10には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等により形成された金属線を用いることができる。場合によっては、金属線の代わりに炭素繊維を採用することも可能である。線径は、10〜200μ
mのものとするのが好適である。殊に、細径の繊維を束ねて使うのが望ましい。このように金属線に関しては、塑性変形しやすいものであるか否か、或いは、顕著な弾性復元力(バネ性)を備えたものであるか否かなどについて、特に限定されるものではない。
【0035】
なお、導電糸10には、樹脂繊維(ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、フッ素樹脂など)をカバリングしたものを使用することもできる。このようにすることで、本発明編地1に親水性、撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を持たせることができる。また、導電糸10は、樹脂繊維や金属線に対して湿式や乾式のコーティング、又はメッキなどで表面処理を施したり、真空成膜により有機又は無機の薄膜を成膜したりすることが可能である。
【0036】
更に導電糸10は、弾性糸11と撚糸、カバリング加工、又は引き揃えにより複合糸とすることもできる。
弾性糸11には、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料、或いは「芯」にポリウレタンやエラストマー材料を用い「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。
【0037】
なお、弾性糸11は、導電糸10の引張強度限界となる伸長度を超えて伸長することがないように(導電糸10の伸長を制限する目的で)、素材選びすることが推奨される。弾性糸11としてカバリング糸を採用する場合は、「カバー」において、導電糸10の伸長制限作用を持たせるような素材選びをすることも可能である。またこのような、弾性糸11自体、或いは「カバー」の素材選びは、本発明編地1に要求される伸縮挙動に適応させる目的で行うものとしてもよい。また、導電糸10の伸長(負荷)を制限する目的では非導電部3,4で制御することもあり得る。
【0038】
例えば、伸長からの復元(戻り)が急峻で勢いの強い挙動となるように要求される場合であれば、比較的太くて強弾性の弾性糸11を選択する。反対に、伸長からの復元がじわじわとゆっくりした挙動となるように要求される場合であれば、比較的細くて弱弾性の弾性糸11を選択するといった具合である。
以上、詳説したところから明らかなように、本発明編地1は、伸縮性及び柔軟性が豊富で伸長を繰り返した際の復元性をも備えた編地でありながら、伸長時と非伸長時とで電気抵抗の変化が皆無又は抑制される特性を備えている。そのため、複数の基板間を配線するような場合にあって、各基板の配置により配線経路が複雑な曲がりを有するものとなっていたり、配線する段階まで配線長さや配線経路が確定していなかったり、基板同士が配線後に移動したりするとき、或いは基板と動体との間に配線する状況下において動体の動作で配線距離に大きな伸縮変動が繰り返し起こったりするとき等にも、好適な配線部材として使用可能である。
【0039】
また、伸長時と非伸長時とで電気抵抗が不変であるので、外乱を嫌う信号線としても好適に使用できることになる。
本発明編地1は、弾性糸11による面方向の引き締め力(収縮力)に付随させることにより、編地の伸長状態と非伸長状態との間で導電糸10を挙動させるものである。そのため本発明編地1では、豊富な伸縮性(例えば200%以上)を発現させながらも導電糸10として金属線を使用することができる点が、特徴点の一つである。
【0040】
このように導電糸10に金属線を用いた場合、メッキ糸などに比べて電気抵抗を遥かに低く抑えることができ、編地厚を分厚くすることなく、通電可能な電圧値や電流値を高めるのにも適している(薄地にできる)。また導電部、ひいては本発明編地1としての耐久性を高めることができるといった利点がある。更に、デザイン性を高めることができると共に、外観面での展開を広範に拡大させることができる。
【0041】
図3は、本発明に係る導電性伸縮編地の第2実施形態を示した組織図である。本第2実施形態では、編組織にダンボールニットを採用している。ダンボールニットは、平編を表裏に重ね合わせてそれらの間をタック(矢符T)により結合させたような編組織である。すなわち、
図3の上面側を編地表面側とおき、同下面側を編地裏面側とおいて説明すると、導電糸10は、編地表面側の平編ループ20aとタックして編地裏面側へ移行し、編地裏面側の平編ループ20bとタックすることを繰り返して、本発明編地1の編地中を表裏
間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。
【0042】
これに対して弾性糸11は、編地表面側及び編地裏面側の平編を製編している。従って、この弾性糸11が発現する表裏面の面方向に沿った引き締め力(収縮力)により、非伸縮時の本発明編地1において、導電糸10のジグザグ状配置を保形させ、厚さ方向のボリュウムを持たせる作用を奏する。その他の構成及び作用効果については第1実施形態と略同様である。
【0043】
図4は、本発明に係る導電性伸縮編地の第3実施形態を示した組織図である。本第3実施形態についても、平編を表裏に重ね合わせてそれらの間を結合させたような編組織であって、導電糸10が、編地表面側と編地裏面側との間で表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。
第2実施形態との違いは、導電糸10によって編地の表裏間方向にジグザグ状に形成された経路と、弾性糸11によって編地の面方向に沿って引き締め力を生じるように形成された経路とが絡まって、これら導電糸10と弾性糸11とが互いに移動自在(伸縮動作を自由に許容される状態)で、収縮側で保持されている点にある。この
図4は編地の断面構造を示したものであり、実際には、導電糸10のループ21や弾性糸11のループ20は、それぞれ編地の表面や裏面で畦状に繋がった突条を形成している。そのため、いずれかのループが編地の肉厚中央へ向けてすっぽ抜けるようなことは起こらない(これを互いの経路が「絡まって」いると説明した)。
【0044】
その他の構成及び作用効果については第1実施形態と略同様である。
[実施例]
以下に、本発明編地1の実施例を例示するが、これらは技術的な理解を助けるために開示するものであり、本発明の技術的範囲は以下の例示に限定されるものではない。
(実施例1)
導電糸10として線径50μmの銅線4本を用い、弾性糸11として235dtのポリウレタンを用いて、スムース(
図1参照)により製編した。
(実施例2)
導電糸10として線径40μmのニッケル線1本を用い、弾性糸11として235dtのポリウレタンを用いて、スムース(
図1参照)により製編した。ニッケル線は耐候性がよいために、特に、環境が重視される部分で使用する場合に適したものであると言うことができる。
(実施例3)
導電糸10として線径50μmの銅線3本と110dtのポリウレタンとによる複合糸を用い、弾性糸11に235dtのポリウレタンを用いて、スムース(
図1参照)により製編した。
(実施例4)
導電糸10として線径50μmの銅線3本を用い、弾性糸11として235dtのポリウレタンを用いて、ダンボールニット(
図3参照)により製編した。
(実施例5)
導電糸10として線径50μmの銅線3本を用い、弾性糸11として235dtのポリウレタンを用いてインレイを行い、フライスインレイ(
図6参照)により製編した。
(実施例6)
導電糸10として線径50μmの銅線3本と110dtのポリウレタンとによるプレーティング編を用い、フライス(ゴム編)により製編した。フライスによる編組織は編地厚のボリュウムが十分あるので、プレーティング編により挿入したポリウレタンに弾性糸11としての作用を期待することができる。
(比較例)
導電糸10として線径50μmの銅線3本と110dtのポリウレタンとによるプレーティング編を用い、シングル(平編)により製編した。シングルによる編組織は編地厚としてボリュウムが不十分であるので、プレーティング編により挿入したポリウレタンに弾性糸11としての作用を期待することはできない。すなわち、この比較例は、弾性糸11
を不採用としたものであると言うことができる。
【0046】
表1に示すように、実施例1〜5では、250〜300%の最大伸びを実現させることができ、この最大伸びに対して10000回に及ぶ伸縮を繰り返しても、実用に耐え得るだけの強い復元力が保持されていることが確かめられた。実施例6で採用しているフライス(ゴム編)では、編地中の導電糸10が表裏間方向にボリュウムを持ったものとなり、ジグザグ状配置と同等の構成となっているので、「伸長−復元繰り返し数」として3000回の耐久性を達成し得るものであった。この意味で本発明効果を得られるものであった。
【0047】
これに対して比較例では、シングル(平編)を採用しているので、編地中の導電糸10が表裏間方向にジグザグ状配置と成らず、また弾性糸11を不採用としているのに等しいために最大伸びが小さく、且つ復元力も乏しいために、実用には不向きであることが判明した。
なお、伸縮動作を繰返し行う場合では、導電糸10に与える影響を考慮して、その振幅を最大伸びの1/2程度として行うのが好ましい。そのため、表1中に示した最大伸びについては、振幅の設定にもよるが、大きい数値が得られるものが好ましいと言うことができる。
【0048】
一方、スムース組織(
図1参照)の本発明編地1を導電部に使用して、本発明に係るハーネス2(
図2に示した構成のもの)を以下の通り製造した。
なお、帯幅方向中央の非導電部3と帯幅方向外側の非導電部4とは、コース数及び使用素材を同じとした。また帯幅方向の両側縁部を縁取るように、それぞれ2コースずつ、溶着ポリウレタンによる被覆コースを設けて、取り扱い性の向上を図った。
【0049】
また、導電部(本発明編地1)には、導電糸10としてエナメル線を採用した構成経路が設けられたものとし、非導電部4には、非導電糸としてアラミド繊維を採用した構成経路が設けられたものとした。
【0051】
導電部(本発明編地1)の導電糸10として用いたエナメル線は樹脂コーティングされているので、周囲との絶縁が確保されるという特性を備える。また、非導電部3,4に用いたアラミド繊維は耐熱性に優れているので、電気的配線を行う際のハンダ付けの熱に耐えることができる。そのため、ハンダ熱により非導電部3,4が溶けてしまうといった不具合は起こらす、導電糸10のエナメル線の樹脂コーティングを巧く溶かして確実且つ容易にハンダ付けができるものとなった。
【0052】
ところで、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、本発明編地1は筒状生地として製編することが限定されるものではなく、非筒のシート状として製編してもよい。従って、丸編機や横編機など、汎用の編機によって製編することができる。
【0053】
本発明編地1は、
図1で説明したスムース編や
図3で説明したダンボールニット、
図4で説明した編構造などの他、ゴム編としてもよいし、又はそれらの変形組織のいずれかの編組織により製編することができる。例えば、
図5に示すようなエイトロックや
図6に示したようなフライスインレイ、更には図示は省略するが、ミラノリブ、モックミラノリブ、片畦、三段両面、コードレーン、鹿の子などを例示することができる。経編を採用することもできる。
【0054】
本発明編地1は、前記した給電用、信号用、医療用など以外にも、衣料用(ウエアラブル素材等として)など、多くの利用分野を有する。
本発明編地1は、導電糸10をウエール方向で隣接させて少なくとも2コース設けることが必要であるが、コース数をどの程度に増やすかの限定は一切ない。そのため、本発明編地1として、線状に形成することも可能であるし幅広の帯状に形成することも可能である。従って、
図2に示したようなハーネス2として、その帯幅方向及び帯長手方向の全部を本発明編地1として形成することもできる。
【0055】
また、本発明編地1は正方形や長方形などの四角形として形成することもできる。この場合、例えば生体情報をセンシングして取得するための電極等として採用することができる。
その他、導電糸10及び弾性糸11とは別に、伸び止め用の編糸(非弾性糸とすることが好ましいが撚りや編組織により伸長を制限させた糸としてもよい)を混用することも可能である。非導電部3,4の編糸、編設計で伸び止めをするのがよい。
【0056】
編地中の同一コース内を、導電糸10により製編された構成経路と弾性糸11により製編された構成経路とに分離する場合にあって、導電糸10の一部又は全部に非導電性の他の糸素材を引き揃えるようにしたり、或いは弾性糸11の一部又は全部に導電性の他の糸素材を引き揃えるようにしたりすることが可能である。