(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14は、パルス圧縮を用いた場合の物標に反射して得られた受信信号の時間波形(深度方向にそった波形)を示す図である。
【0006】
しかしながら、パルス圧縮を用いた場合、
図14に示すように、物標に反射して得られた受信信号は、当該物標の位置に生じる高いレベルのメインローブを有するとともに、当該メインローブに対して時間方向(深度方向)の前後の位置にレンジサイドローブと呼ばれる偽像が生じる。
【0007】
特に、海底等の非常にエコー信号のレベルが高い物標によるレンジサイドローブが生じると、当該信号レベルが高い物標の近傍に、信号レベルが低い物標が存在するような水中探知画像になってしまう。これにより、レンジサイドローブによる偽像を小魚の魚群等の探知対象物標と間違ってしまうことがある。また、このレンジサイドローブにより、当該レンジサイドローブの範囲に存在する信号レベルが比較的に高くない物標が現れない探知画像になってしまう。これにより、海底付近の底付き魚群等を探知画像上で視認できなくなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、海底等のエコーの信号レベルの高い物標によるレンジサイドローブを抑圧して、より高精度な探知データを生成する水中探知装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、周波数変調した超音波パルス信号の反射エコーから得られる受信信号をパルス圧縮してパルス圧縮信号を生成するパルス圧縮部と、パルス圧縮信号に対してレンジサイドローブ抑圧処理を行って探知データを生成するレンジサイドローブ抑圧部と、を備えた、水中探知装置に関するものであり、次の特徴を有する。レンジサイドローブ抑圧部は、抑圧範囲設定部、抑圧除外範囲設定部、抑圧値設定部、および、抑圧演算部を備える。抑圧範囲設定部は、パルス圧縮信号に基づいて抑圧範囲を決定する。抑圧除外範囲設定部は、抑圧範囲よりも深い側の所定範囲の複数の深度位置でのパルス圧縮信号の信号レベルと、超音波パルス信号のレンジサイドローブ近似波形とを用いて、除外範囲決定用の閾値を設定する。抑圧除外範囲設定部は、除外範囲決定用の閾値とパルス圧縮信号の信号レベルとの比較結果によって抑圧除外範囲を決定する。抑圧値設定部は、抑圧範囲内のパルス圧縮信号の信号レベルと、抑圧範囲の外部のパルス圧縮信号の信号レベルとを用いて、抑圧値を決定する。抑圧演算部は、抑圧除外範囲を除外した抑圧範囲のパルス圧縮信号の信号レベルを抑圧値で抑圧する演算を行う。
【0010】
この構成では、抑圧除外範囲を適正に設定でき、当該抑圧除外範囲を含んでいても抑圧範囲を適切に設定できる。これにより、抑圧すべき範囲(レンジサイドローブのみの範囲)で適正にレンジサイドローブの抑圧処理を実行できる。
【0011】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧範囲設定部は、注目位置のパルス圧縮信号の信号レベルがメインローブの信号レベルに基づく第1閾値以上であり、注目位置よりも浅い側のパルス圧縮信号の信号レベルが第1閾値未満である場合に、この注目位置を抑圧範囲の深い側の端点に設定する。抑圧範囲設定部は、超音波パルス信号から抑圧範囲の深度範囲を設定する。
【0012】
この構成では、抑圧範囲の深い側の端点が、深度方向に並ぶ2つの信号レベルだけで検出でき、抑圧範囲設定処理を簡素化、高速化できる。
【0013】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧範囲設定部は、抑圧範囲内に、抑圧範囲の深い側の端点の信号レベルよりも高い信号レベルの点を検出すると、該検出点よりも深い側のみを抑圧範囲に設定する。
【0014】
この構成では、設定した探知範囲内に大きな物標(魚群等)が存在しても、当該大きな物標のエコーの範囲は、抑圧範囲から除外される。これにより、レンジサイドローブを抑圧しながら、当該大きな物標のエコーの信号レベルは抑圧されない。
【0015】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧除外範囲設定部は、抑圧範囲よりも深い側の所定範囲のパルス圧縮信号の信号レベルの代表値から、除外範囲決定用の閾値を設定する。
【0016】
この構成では、パルス圧縮信号の信号レベルに応じて、除外範囲決定用の閾値が設定されるので、抑圧除外範囲を正確に検出することができる。
【0017】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧除外範囲設定部は、代表値として、抑圧範囲よりも深い側の所定範囲のパルス圧縮信号の信号レベルのうち、信号レベルが高い方の所定個数の信号レベルの平均値を用いる。
【0018】
この構成では、除外範囲決定用の閾値の具体的な設定手段を示しており、この手段を用いることで、レンジサイドローブが抑圧除外範囲に入ることを抑制し、物標のエコー範囲が抑圧除外範囲に確実に入るように、設定することができる。
【0019】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧値設定部は、抑圧範囲内のパルス圧縮信号の信号レベルと抑圧範囲の外部のパルス圧縮信号の信号レベルとを用いて抑圧値を決定する。
【0020】
この構成では、抑圧範囲内の信号レベルすなわちレンジサイドローブの信号レベルと、抑圧範囲外の信号レベルすなわちノイズレベルとから抑圧値が決定される。これにより、レンジサイドローブを適切に抑圧する抑圧値を設定できる。
【0021】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧値設定部は、抑圧範囲内のパルス圧縮信号の信号レベルと抑圧範囲の外部のパルス圧縮信号の信号レベルとの比から抑圧値設定用のオフセット値を設定する。抑圧値設定部は、オフセット値と超音波パルス信号のレンジサイドローブ近似波形とから抑圧値を決定する。
【0022】
この構成では、受信状況をレンジサイドローブの形状に応じた抑圧値を設定することができる。これにより、抑圧範囲内のレンジサイドローブを適切に抑圧することができる。
【0023】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧値設定部は、オフセット値が、メインローブに基づく許容最大値を超えた場合に、オフセット値を許容最大値に設定する。
【0024】
この構成では、抑圧値に上限を設けることができ、これにより、過剰な抑圧処理が行われることを防止できる。
【0025】
また、この発明の水中探知装置では、抑圧値設定部は、抑圧範囲内のパルス圧縮信号の信号レベルが、抑圧範囲の外部のパルス圧縮信号の信号レベルよりも小さい場合には、1以上の所定のオフセット値に設定する。
【0026】
この構成では、オフセット値が不要に小さくなることを防止できる。この際、1に近い適正値に設定するとよい。これにより、抑圧値に下限を設けることができ、外部環境ノイズが大きな場合であっても、適切な抑圧値を設定できる。
【0027】
また、この発明の水中探知装置では、レンジサイドローブ近似波形は、超音波パルス信号に基づく指数関数により設定される。
【0028】
この構成では、レンジサイドローブ近似波形の具体的な設定例を示しており、指数関数を用いることで適切な近似波形を設定することができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、エコーレベルの高い物標によるレンジサイドローブのみを抑圧し、高精度な探知データを生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の第1の実施形態に係る水中探知装置、水中探知方法および水中探知プログラムについて、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、水中探知装置として魚群探知機を例に示したが、スキャニングソナー等の他の水中探知装置に対しても、本実施形態の構成等は適用することができる。
【0032】
図1は本発明の第1実施形態に係る水中探知装置10の構成図である。水中探知装置10は、送信部20、送受切替部30、AD変換部40、パルス圧縮部50、検波部60、レンジサイドローブ抑圧部70、表示処理部80、および送受波器100を備える。
【0033】
送信部20は、送受波器100から超音波パルス信号を送信するための駆動信号を生成する。駆動信号は、超音波パルス信号が次の仕様になるように生成される。超音波パルス信号は、所定の搬送波周波数からなり、最大探知距離(最大探知深度)に応じた送信パルス長からなる、搬送波周波数は、パルス区間において所定の周波数範囲内でスイープするように変調されている。
【0034】
送信部20は、予め設定された送信周期に基づいて、送受切替部30を介して駆動信号を送受波器100へ出力する。
【0035】
送受波器100は、例えば船舶の船底に取り付けられている。送受波器100は、駆動信号によって励振し、超音波パルス信号STxを送信する。この際、送受波器100は、船舶の鉛直下方向を指向性の中心方向とし所定の指向角を有するように、超音波パルス信号STxを送信する。
【0036】
送受波器100は、超音波パルス信号STxが海底901や水中の魚(または魚群)902に反射したエコー信号ERxを受信する。送受波器100は、送受切替部30を介して受信信号をAD変換部40へ出力する。
【0037】
AD変換部40は、アナログの受信信号を所定の時間間隔でサンプリングしてデジタルの受信データを生成する。なお、AD変換部40の前段には、一般的に受信アンプが配置されている。受信アンプは、受信信号に対して、TVG処理等を含む増幅処理を行う。
【0038】
パルス圧縮部50は、受信データと超音波パルス信号のレプリカ波形との相互相関処理等を行って、パルス圧縮データ(本発明の「パルス圧縮信号」)を生成して、出力する。検波部60は、既知の検波方法を用いて、パルス圧縮データを検波し、レンジサイドローブ抑圧部70へ出力する。
【0039】
レンジサイドローブ抑圧部70は、具体的な構成およびレンジサイドローブの抑圧方法は後述するが、パルス圧縮データに含まれるレンジサイドローブを抑圧して、探知データを生成する。表示処理部80は、探知データの信号レベル(レンジサイドローブ抑圧後のパルス圧縮信号の振幅値に相当する)に基づいて色調や輝度を設定した探知画像を、表示画面に表示する。
【0040】
次に、レンジサイドローブ抑圧部70の具体的な構成およびレンジサイドローブの抑圧方法について説明する。
図2は、レンジサイドローブ抑圧部70の構成を示すブロック図である。
【0041】
レンジサイドローブ抑圧部70は、抑圧範囲設定部71、抑圧除外範囲設定部72、抑圧値設定部73、および抑圧演算部74を備える。
【0042】
抑圧範囲設定部71は、パルス圧縮データの各深度位置の信号レベルに基づいて、抑圧範囲を設定する。
図3は、抑圧範囲の設定手段を説明するための波形図である。
図3は、深度方向に沿ったパルス圧縮データの信号レベルを示す図である。
【0043】
抑圧範囲設定部71は、パルス圧縮データの各深度位置のデータの信号レベル(振幅レベル)を、深度方向に沿って順次、第1閾値ThE1と比較する。第1閾値ThE1は、送信する超音波パルス信号が所定深度で大物標(この場合は海底)に反射した場合のパルス圧縮データのメインローブのピークレベルに基づいて設定されている。例えば、このピークレベルが所定のA値となるように超音波パルス信号が設定された場合に、当該Aよりも所定のB値減衰した値を第1閾値ThE1に設定する。この際、B値は、設定した海底の位置とTVGのゲイン補正量とを加味して適宜設定すればよい。
【0044】
抑圧範囲設定部71は、深度方向のある位置(注目位置(n))における信号レベルE(n)が、第1閾値ThE1以上であり、注目位置(n)に対して深度の浅い方向に隣り合う位置(n−1)の信号レベルE(n−1)が第1閾値ThE1未満であることを検出すると、注目位置(n)を抑圧範囲Zone(s)の深い側の端点に設定する。
【0045】
抑圧範囲設定部71は、検出した注目位置(n)から浅い側へ所定の深度方向範囲を、抑圧範囲Zone(s)に設定する。この際、抑圧範囲Zone(s)に設定する深度方向範囲は、送信する超音波パルス信号からレンジサイドローブの波形は推定できるので、この推定結果に基づいて設定すればよい。
【0046】
抑圧範囲設定部71は、設定した抑圧範囲Zone(s)を、抑圧除外範囲設定部72、抑圧値設定部73、および抑圧演算部74に通知する。
【0047】
抑圧除外範囲設定部72は、抑圧除外範囲設定用の第2閾値ThE2と、各点(i)の信号レベルEz(i)とを比較して、抑圧範囲Zone(s)内の抑圧除外範囲ExZone(s)を設定する。
図4は、抑圧除外範囲の設定手段を説明するための波形図である。
図4は、深度方向に沿ったパルス圧縮データの信号レベルを示す図である。
【0048】
抑圧除外範囲設定部72は、抑圧範囲Zone(s)の最も深い位置を基準点として、所定の深度範囲をオフセット決定用の範囲Zone(r)を設定する。
【0049】
抑圧除外範囲設定部72は、オフセット決定用の範囲Zone(r)内の各点(i)の信号レベルEz(i)から所定個数の高い信号レベルEz(i)を抽出し、代表値Ezrを算出する。例えば、抑圧除外範囲設定部72は、代表値Ezrとして平均値を算出する。
【0050】
抑圧除外範囲設定部72は、算出した代表値Ezrから、オフセット設定用の減算値ΔEzを減算することで、オフセット値Eoffを算出する。オフセット設定用の減算値ΔEzは、例えば、送信する超音波パルス信号の振幅や、メインローブのピークレベルから設定することができる。
【0051】
抑圧除外範囲設定部72は、オフセット値Eoffで振幅レベルをシフトさせた所定関数からなる第2閾値ThE2を設定する。この際、抑圧除外範囲設定部72は、所定関数として、例えば、深度方向の位置を底とし、係数を適宜設定した指数関数を用いる。これは、レンジサイドローブが、
図14に示すように、メインローブに近づくにしたがって信号レベルが高くなる傾向にあり、メインローブが近づくほど急激に信号レベルが高くなることを意図して設定されたものである。
【0052】
このような指数関数を用いることで、レンジサイドローブの信号レベルのピークの包絡線(変化傾向)に近似した第2閾値ThE2を設定することができる。なお、指数関数以外でも、深度方向に沿ったレンジサイドローブの信号レベルのピークの包絡線に近似できれば、他の関数であってもよい。
【0053】
抑圧除外範囲設定部72は、抑圧範囲Zone(S)内の各点(i)において、パルス圧縮データの信号レベルEz(i)と、第2閾値ThE2とを比較する。抑圧除外範囲設定部72は、パルス圧縮データの信号レベルEz(i)が第2閾値ThE2よりも高ければ、当該点(i)を抑圧除外範囲ExZone(s)に設定する。
【0054】
このように、レンジサイドローブの波形に近似した第2閾値ThE2を設定することで、レンジサイドローブ内に存在する物標のエコーを正確に検出することができ、当該物標のエコーを含む範囲を、確実に抑圧除外範囲ExZone(s)に設定することができる。この際、例えば、従来行われているように、レンジサイドローブの抑圧範囲Zone(s)に対して、所定のオフセットをもって一定の閾値を設定した場合、エコーレベル(信号レベル)の高い物標は検出できたとしても、エコーレベル(信号レベル)の低い物標は検出できず、抑圧範囲Zone(s)に含まれてしまう可能性がある。しかしながら、本実施形態のように、レンジサイドローブのピークの包絡線に近似した第2閾値ThE2を用いることで、信号レベルに影響されることなく、レンジサイドローブ内の物標を確実に検出することができる。
【0055】
なお、抑圧除外範囲設定部72は、検出した点のみでなく、当該点を含む所定の深度範囲を抑圧除外範囲ExZone(s)に設定してもよい。このように、深度方向に所定の幅を有するように抑圧除外範囲ExZone(s)を設定することにより、抑圧処理後の波形における抑圧除外範囲ExZone(s)と抑圧範囲Zone(S)との境界の不連続性を緩和することができる。
【0056】
抑圧値設定部73は、抑圧範囲Zone(s)内の複数点(i)の信号レベルEz(i)と抑圧範囲Zone(s)外の複数点(j)の信号レベルEz(j)とから設定したオフセット値Moffを用いて、抑圧値SS(i)を算出する。
図5は、抑圧値の設定手段を説明するための波形図である。
図5は、深度方向に沿ったパルス圧縮データの信号レベルを示す図である。
【0057】
抑圧値設定部73は、抑圧範囲Zone(s)内の複数点(i)の信号レベルEz(i)の代表値を算出する。具体的には、抑圧値設定部73は、抑圧範囲Zone(s)内の全ての点の信号レベルEz(i)のうち、信号レベルが最も低い側の所定数の信号レベルEz(i)nを抽出する。抑圧値設定部73は、抽出した複数の信号レベルEz(i)nの平均値MMF1を代表値として算出する。
【0058】
抑圧値設定部73は、抑圧範囲Zone(s)外の複数点(j)の信号レベルEz(j)の代表値を算出する。具体的には、抑圧値設定部73は、抑圧範囲Zone(s)よりも浅い側の各点(j)の信号レベルEz(j)のうち、信号レベルが最も低い側の所定数の信号レベルEz(j)mを抽出する。抑圧値設定部73は、抽出した複数の信号レベルEz(j)nの平均値MMF2を代表値として算出する。
【0059】
抑圧値設定部73は、平均値MMF1を平均値MMF2で除算した値を、オフセット値Moffとする。
【0060】
抑圧値設定部73は、オフセット値Moffで振幅レベルをシフトさせた所定関数を用いて、抑圧範囲Zone(s)の各点(i)における抑圧値SS(i)を設定する。この際、抑圧除外範囲設定部72は、上述の第2閾値ThE2と同様に、所定関数として、例えば、深度方向の位置を底とし、係数を適宜設定した指数関数を用いる。
【0061】
このような処理を行うことで、外部環境すなわちノイズの振幅レベル、レンジサイドローブの振幅レベルとから値が設定され、レンジサイドローブのピークの包絡線に近似した特性で値が変化する抑圧値SS(i)を設定できる。これにより、適切な値および特性の抑圧値SS(i)を設定することができる。
【0062】
抑圧演算部74は、抑圧範囲設定部71および抑圧除外範囲設定部72によって設定された抑圧除外範囲ExZone(s)を除く抑圧範囲Zone(s)内の各位置(i)において、パルス圧縮データの信号レベルEz(i)を、抑圧値設定部73で設定された抑圧値SS(i)で抑圧演算する。例えば、抑圧演算部74は、各位置(i)において、信号レベルEz(i)から抑圧値SS(i)を減算する。
【0063】
抑圧演算部74は、抑圧演算を行ったパルス圧縮データを、探知データとして、表示処理部80へ出力する。
【0064】
図6は、抑圧演算後の深度方向に沿ったパルス圧縮データの信号レベルを示す図(波形図)である。
図6に示すように、上述のような処理を行うことで、レンジサイドローブの信号レベルは抑圧される。さらに、レンジサイドローブの範囲内に存在する物標エコーは抑圧されることなく、元の信号レベルを維持している。このように、本実施形態の構成および処理を用いることにより、レンジサイドローブ内に存在する物標のエコーを抑圧することなく、レンジサイドローブを効果的に抑圧した探知データを生成することができる。
【0065】
なお、上述の説明では、レンジサイドローブの抑圧処理を各機能部で実現する例を示した。しかしながら、超音波パルス信号STxの送信のための駆動信号の生成処理、エコー信号ERxに基づく受信信号に対するパルス圧縮処理、パルス圧縮信号(パルス圧縮データ)に対するレンジサイドローブの抑圧処理は、プログラム化して記憶手段に記憶しておき、コンピュータで読み出して実行することもできる。
【0066】
図7は、本実施形態のレンジサイドローブの抑圧方法を示すフローチャートである。
【0067】
水中探知装置は、周波数変調された超音波パルス信号STxを送信するように駆動信号の生成制御を行う(S101)。水中探知装置は、超音波パルス信号STxのエコー信号ERxを受信して、受信信号を生成する(S102)。水中探知装置は、受信信号をパルス圧縮処理して、パルス圧縮データを生成する(S103)。
【0068】
水中探知装置は、深度方向に沿って、各位置で信号レベルと第1閾値ThE1とを比較して、パルス圧縮データのレンジサイドローブのメインローブ側エッジを検出し、抑圧範囲Zone(s)を設定する(S104)。より具体的な抑圧範囲Zone(s)の設定フローは、
図8を用いて後述する。
【0069】
水中探知装置は、レンジサイドローブの波形に近似した除外範囲検出用の第2閾値ThE2を設定し、当該第2閾値ThE2と抑圧範囲Zone(s)内の各位置の信号レベルとから抑圧除外範囲ExZone(s)を設定する(S105)。より具体的な抑圧除外範囲ExZone(s)の設定フローは、
図9を用いて後述する。
【0070】
水中探知装置は、レンジサイドローブの波形に近似した抑圧値SS(i)を設定する(S106)。より具体的な抑圧値SS(i)の設定フローは、
図10を用いて後述する。
【0071】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)内の各位置において、信号レベルE(i)を抑圧値SS(i)で抑圧することでサイドローブ抑圧演算を行い、探知データを生成する(S107)。
【0072】
次に、抑圧範囲Zone(s)の設定方法について、
図8を用いて説明する。
図8は、抑圧範囲Zone(s)の設定フローを示すフローチャートである。
【0073】
水中探知装置は、注目位置(n)の信号レベルE(n)を取得し、第1閾値ThE1と比較する(S401)。なお、第1閾値ThE1は、上述の説明のように、超音波パルス信号によるメインローブのピークレベルに基づいて設定されている。
【0074】
水中探知装置は、注目位置(n)の信号レベルE(n)が第1閾値ThE1以上であると(S402:YES)、当該注目位置(n)よりも1つ浅い側の信号レベルE(n−1)と第1閾値ThE1とを比較する(S403)。
【0075】
なお、水中探知装置は、注目位置(n)の信号レベルE(n)が第1閾値ThE1未満であると(S402:NO)、注目位置を1つ深度が深い側に移動させて(S410)、新たな注目位置での信号レベルと第1閾値ThE1との比較を行う(S401)。
【0076】
水中探知装置は、当該注目位置(n)よりも1つ浅い側の信号レベルE(n−1)が第1閾値ThE1未満であると(S404:YES)、注目位置(n)をレンジサイドローブのメインローブ側の端点位置として検出する(S405)。
【0077】
水中探知装置は、当該端点を深度が深い側の端点として、浅い側の所定範囲を抑圧範囲Zone(s)に設定する(S406)。
【0078】
このような処理を用いることで、複雑な処理を用いることなく簡素な処理によって、抑圧すべきレンジサイドローブの範囲である抑圧範囲Zone(s)を設定することができる。
【0079】
なお、上述の方法では、注目位置を浅い側から深い側へ順に移動させる例を示したが、深い側から浅い側へ移動させるようにしてもよい。上述のように、抑圧範囲Zone(s)は、深い側の端点によって設定される。したがって、深い側から上述の処理を行うことで、処理量を低減することができる。
【0080】
次に、抑圧除外範囲ExZone(s)の設定方法について、
図9を用いて説明する。
図9は、抑圧除外範囲ExZone(s)の設定フローを示すフローチャートである。
【0081】
水中探知装置は、上述のように抑圧範囲Zone(s)を設定すると、抑圧範囲Zone(s)よりも深い側にオフセット決定用の範囲Zone(r)を設定する。水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)の深度が深い側の端点を基準点として、所定の深度範囲をオフセット決定用の範囲Zone(r)を設定する。さらに,具体的には、例えば、水中探知装置は、メインローブのピークを含むように、オフセット決定用の範囲Zone(r)を設定する。メインローブのピークは、例えば信号レベルEz(i)の最も高い深度位置から検出することができる。
【0082】
水中探知装置は、当該オフセット決定用の範囲Zone(r)内の各位置(i)の信号レベルEz(i)を取得する。水中探知装置は、複数位置の信号レベルEz(i)をソートし、レベルの最も高い側から所定個数(例えばn個)の信号レベルEz(i)nを抽出する(S501)。
【0083】
水中探知装置は、抽出した所定個数nの信号レベルEz(i)nの代表値Ezrとして、信号レベルEz(i)nの平均値を算出する。水中探知装置は、当該代表値(平均値)Ezから、オフセット設定用の減算値ΔEzを減算することで、オフセット値Eoffを算出する。オフセット設定用の減算値ΔEzは、例えば、送信する超音波パルス信号の振幅や、メインローブのピークレベルから設定することができる。
【0084】
水中探知装置は、深度を底とし所定係数が設定された指数関数を用いてサイドローブ近似関数を設定する。水中探知装置は、当該サイドローブ近似関数をオフセット値Eoffでオフセットすることで、各位置の第2閾値ThE2を設定する(S502)。これにより、上述の
図4に示すような、レンジサイドローブの波形に近似し、レンジサイドローブの振幅レベルよりも所定振幅レベル高い値となる第2閾値ThE2を設定することができる。
【0085】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)内の各位置(i)において、信号レベルEz(i)と第2閾値ThE2とを比較する(S503)。
【0086】
水中探知装置は、信号レベルEz(i)が第2閾値ThE2よりも高ければ(S504:YES)、この位置を抑圧除外範囲ExZone(s)に設定する(S505)。水中探知装置は、信号レベルEz(i)が第2閾値ThE2以下であれば(S504:NO)、この位置を抑圧除外範囲ExZone(s)に設定しない。
【0087】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)の全ての位置に対して、当該比較処理が終了するまで、継続的に当該比較処理を実行する(S506:NO→S503)。
【0088】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)の全ての位置に対して、当該比較処理が終了すると(S506:YES)、上述の
図6に示したフローで設定した抑圧範囲Zone(s)から抑圧除外範囲ExZone(s)を除くようにして、抑圧範囲Zone(s)を決定する(S507)。
【0089】
このような処理を行うことで、レンジサイドローブのピークの包絡線に近似した閾値を設定することができる。このため、抑圧範囲Zone(s)内に魚群等の物標が存在していても、当該物標の範囲を検出し、抑圧除外範囲ExZone(s)に設定することができる。これにより、抑圧範囲Zone(s)内に存在する物標を、後述の抑圧処理で抑圧してしまうことを防止できる。
【0090】
そして、このような処理を行うことで、単純に閾値を一定値にする場合には検出しにくいエコーレベルの低い物標(レンジサイドローブのピークの包絡線よりも少しだけ信号レベルが高い物標)も、より確実に検出して、抑圧除外範囲ExZone(s)に設定することができる。
【0091】
なお、このフローでは、検出した位置のみを抑圧除外範囲ExZone(s)に設定する例を示したが、上述のように、当該検出位置を含む所定の深度範囲を抑圧除外範囲ExZone(s)に設定してもよい。
【0092】
次に、抑圧値SS(i)の設定方法について、
図10を用いて説明する。
図10は、抑圧値SS(i)の設定フローを示すフローチャートである。
【0093】
水中探知装置は、上述のように抑圧範囲Zone(s)を設定すると、当該抑圧範囲Zone(s)内の各位置(i)の信号レベルEz(i)を取得する。水中探知装置は、複数位置の信号レベルEz(i)をソートし、レベルの最も低い側から所定個数(例えばm個)の信号レベルEz(i)mを抽出する。水中探知装置は、抽出した所定個数mの信号レベルEz(i)mの代表値として、信号レベルEz(i)mの平均値MMF1を算出する(S601)。
【0094】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(s)よりも浅い側の各位置(j)の信号レベルEz(j)を取得する。水中探知装置は、複数位置の信号レベルEz(j)をソートし、レベルの最も低い側から所定個数(例えばm個)の信号レベルEz(j)mを抽出する。水中探知装置は、抽出した所定個数mの信号レベルEz(j)mの代表値として、信号レベルEz(j)mの平均値MMF2を算出する(S602)。
【0095】
なお、S601,S602での抽出数は、上述の抑圧除外範囲ExZone(s)を設定する場合の抽出数を同じであっても、異なっていてもよい。
【0096】
水中探知装置は、平均値MMF1と平均値MMF2とからオフセット値Moffを算出する(S603)。例えば、具体的には、水中探知装置は、平均値MMF1を平均値MMF2で除算することによりオフセット値Moffを算出する。
【0097】
水中探知装置は、深度を底とし所定係数が設定された指数関数を用いてサイドローブ近似関数を設定する。水中探知装置は、当該サイドローブ近似関数をオフセット値Moffでオフセットすることで、各位置の抑圧値SS(i)を設定する(S604)。
【0098】
このような処理を行うことで、レンジサイドローブのピークの包絡線に近似した抑圧値SS(i)を、適切な値で設定することができる。
【0099】
なお、上述の方法では、抑圧範囲Zone(s)内に、抑圧範囲Zone(s)の深い側の端点位置よりも信号レベルが高い位置が存在しない場合を例に説明したが、このような位置が存在する場合を加味した場合、次の処理を用いるとよい。
【0100】
図11は、抑圧範囲Zone(s)の第2設定フローを示すフローチャートである。
【0101】
前提とする抑圧範囲Zone(s)の設定は同じであり、上述の
図8のフローと同様のフローにより深度方向に所定範囲の抑圧範囲Zone(S)を設定する(S421)。
【0102】
水中探知装置は、抑圧範囲Zone(S)の設定用に検出した端点位置の信号レベルE(n)と、抑圧範囲Zone(S)内の各位置の信号レベルEz(i)とを比較する。この際、水中探知装置は、端点位置に近い順に信号レベルの比較を行う。
【0103】
水中探知装置は、比較を行った信号レベルEz(i)が端点位置の信号レベルE(n)よりも高いことを検出すると(S423:YES)、この位置よりも浅い側の範囲を抑圧範囲Zone(S)から除外する(S424)。そして、この位置よりも浅い側の各位置に対する比較を行わず、この位置よりも深い側の範囲のみを抑圧範囲Zone(S)とするように決定する(S426)。
【0104】
水中探知装置は、比較を行った信号レベルEz(i)が端点位置の信号レベルE(n)以下であることを検出すると(S423:NO)、さらに浅い側に隣接する次の位置で同様の比較を行う。ここで、水中探知装置は、比較を行った信号レベルEz(i)が端点位置の信号レベルE(n)以下であり続ければ、全ての位置で確認が終了するまで、比較を継続するS425:NO→S422)。水中探知装置は、抑圧範囲Zone(S)内における全ての位置で、信号レベルEz(i)が端点位置の信号レベルE(n)以下であれば(S425:YES)、
図6と同様のフローで設定した抑圧範囲Zone(s)をそのまま用いる。
【0105】
このような処理を用いることで、抑圧範囲Zone(s)内に、大きな魚群等の信号レベルが非常に高い範囲が存在した場合に、当該範囲を抑圧範囲Zone(s)から除外することができる。これにより、余分な抑圧除外範囲ExZone(s)の設定等を行う必要が無く、レンジサイドローブ抑圧処理を簡素化し、高速化することができる。また、このような非常に高い信号レベルの魚群等がレンジサイドローブの範囲内に存在しても、抑圧することなく、探知データ(探知画像上)に残すことができる。
【0106】
図12は抑圧範囲Zone(s)の第2設定フローを用いた場合の抑圧前と抑圧後の深度方向に沿ったパルス圧縮データの信号レベルを示す図(波形図)である。
【0107】
図12に示すように、単にレンジサイドローブのメインローブ側の端点位置から浅い側の所定範囲を抑圧範囲Zone(s)に設定した場合に、当該抑圧範囲Zone(s)内に大物標が存在しても、当該大物標の信号レベルは抑圧されない。そして、当該大物標の範囲が抑圧範囲Zone(s)に含まれないので、抑圧演算の範囲が必要最小限に留められ、抑圧演算の高速化が可能になる。
【0108】
なお、
図12では、大物標(大魚群等)の浅い側については、特に図示していないが、この大物標の浅い側の範囲にも、同様にレンジサイドローブは発生する。このような範囲についても、上述の処理を適用することができ、適切なレンジサイドローブの抑圧処理を行うことができる。
【0109】
また、上述の説明では、抑圧値SS(i)の設定において、平均値MMF1を平均値MMF2で除算してオフセット値Moffを算出する例を示した。この方法では、平均値MMF2(抑圧範囲Zone(s)よりも浅い側の低レベルエコー平均値(外部環境ノイズの平均値))が、平均値MMF1(抑圧範囲Zone(s)の低レベルエコーの平均値)よりも小さい場合には、オフセット値Moffが適切な値に設定される。通常の海況では、このような関係になるので特に問題にはなりにくいが、次の処理を用いることで、より確実に適正なオフセット値Moffを設定することができる。
【0110】
図13は、抑圧値SS(i)の第2設定フローを示すフローチャートである。平均値MMF1,MMF2を算出するステップS601,S602は、
図8と同じであるので説明は省略する。
【0111】
水中探知装置は、平均値MMF1が平均値MMF2よりも大きければ(S611:YES)、平均値MMF1を平均値MMF2で除算して、オフセット値Moff(=MMF1/MMF2)を算出する(S612)。
【0112】
水中探知装置は、除算によるオフセット値Moffを算出すると、当該オフセット値Moffを、予め設定した最大オフセット値Mmaxと比較する。水中探知装置は、オフセット値Moffが最大オフセット値Mmax以下であれば(S614:NO)、当該オフセット値Moffを、サイドローブ近似関数のオフセットとしてそのまま適用し、抑圧値SS(i)を設定する(S604)。
【0113】
水中探知装置は、オフセット値Moffが最大オフセット値Mmaxよりも大きければ(S614:YES)、オフセット値Moffを最大オフセット値Mmaxに設定する(S615)。そして、最大オフセット値Mmaxからなるオフセット値Moffを、サイドローブ近似関数のオフセットに適用し、抑圧値SS(i)を設定する(S604)。このように、除算によるオフセット値Moffが最大オフセット値Mmaxよりも大きくなる場合に、当該最大オフセット値Mmaxを適用することで、外部環境ノイズが極小さい場合に、オフセット値が不要に高くなりすぎることを防止できる。また、抑圧範囲Zone(s)内に物標が存在して平均値MMF1が大きくなっても、オフセット値Moffを最大オフセット値Mmaxで制限できるので、オフセット値が不要に高くなりすぎることを防止できる。これにより、適切な抑圧値SS(i)を設定することができる。
【0114】
水中探知装置は、平均値MMF1が平均値MMF2以下であれば(S611:NO)、オフセット値Moffを所定値Mcc(Mcc≧1)に設定する(S613)。この際、所定値Mccは、1に近い所定値に設定するとよい。そして、所定値Mccからなるオフセット値Moffを、サイドローブ近似関数のオフセットに適用し、抑圧値SS(i)を設定する(S604)。このように、平均値MMF1がMMF2よりも小さな場合にオフセット値Moffを所定値Mccに設定することで、外部環境ノイズが大きな場合であっても、オフセット値Moffが不要に高くなることを防止できる。これにより、適切な抑圧値SS(i)を設定することができる。
【0115】
なお、上述の説明では、代表値として平均値を用いる例を示したが、中央値、最大値、最小値等の他の統計的算出値を、適宜用いてもよい。