(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078315
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ハイドロサイクロン分級装置
(51)【国際特許分類】
B03B 5/28 20060101AFI20170130BHJP
B04C 3/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
B03B5/28 B
B04C3/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-266726(P2012-266726)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111243(P2014-111243A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】300020603
【氏名又は名称】東栄アクアテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089956
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 利和
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智一
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐三
【審査官】
高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−050310(JP,A)
【文献】
特開2009−018278(JP,A)
【文献】
特開平07−080414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 5/28
B04C 3/00− 3/06、
5/00− 5/30、 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー中に分散した固体粒子を粒度の大きさ又は比重の大きさによって分級するハイドロサイクロン分級装置であって、
円筒状の第1中空部とその下側に連続して下方が小径となる逆円錐状の第2中空部とが同軸状に形成されているサイクロン本体部と、
前記サイクロン本体部の外部から前記第1中空部へスラリーを供給する通路として、前記第1中空部の内壁の接線方向と略平行な方向に構成されているスラリー供給路と、
前記第1中空部の天井壁の上側で前記サイクロン本体部の前記第1中空部の中心軸と同軸上に軸支されており、前記天井壁を貫通して前記スラリー供給路の位置よりも下側の位置まで垂下した回転軸と、
円板の片側面に複数の羽根板が等分の中心角をもって配置されていると共に、前記各羽根板を、それぞれの最外周部が前記円板の最外周部より内側となるように、前記円板の中心から等距離の位置に立設させた構成からなり、前記円板における前記羽根板の立設面を上側にして、前記回転軸の中心軸が前記円板の中心を通過すると共に、前記回転軸の中心軸と前記円板の板面とが垂直な関係となるように、前記回転軸の先端部に固定された羽根車と、
円管部材からなり、前記サイクロン本体部の外部から前記第2中空部の下端部を貫通して、前記回転軸に取り付けられた前記羽根車の下方まで直伸した第1排出路と、
前記サイクロン本体部の外部から前記第2中空部の下端近傍で前記第1排出路の周囲へ通じる第2排出路と、
前記スラリー供給路から前記第1中空部へ供給されるスラリーの旋回方向へ前記羽根車を回転させるように、前記サイクロン本体部の上側で前記回転軸を回転駆動させる回転駆動手段と
を備えたことを特徴とするハイドロサイクロン分級装置。
【請求項2】
前記第1中空部の内壁面と前記羽根車の円板の外周面との間に構成される環状流路の面積及び前記第1排出路の断面積が、前記スラリー供給路の断面積より大きく設定されている請求項1に記載のハイドロサイクロン分級装置。
【請求項3】
前記羽根車における前記羽根板の最上部が前記スラリー供給路の前記第1中空部に対する開口部の最下位置よりも下側となるように、前記回転軸を前記第1中空部の天井壁の上側で軸支した請求項1又は請求項2に記載のハイドロサイクロン分級装置。
【請求項4】
前記羽根車における前記各羽根板より外側にある前記円板の環状部分が下側へ傾斜させて形成されている請求項1、請求項2又は請求項3に記載のハイドロサイクロン分級装置。
【請求項5】
前記羽根車における前記各羽根板の内周側の高さが外周側の高さより大きく設定されている請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載のハイドロサイクロン分級装置。
【請求項6】
前記サイクロン本体部における前記第1中空部と前記第2中空部の境界が、前記羽根車における前記円板の位置又はその位置より僅かに下側に設定されている請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のハイドロサイクロン分級装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーを円筒内で旋回させることにより、遠心力を利用してスラリー中に分散している固体粒子を比重又は粒度の大きさによって分級するハイドロサイクロン分級装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般的なハイドロサイクロン分級装置としては、円筒状の中空部と下部が小径となる逆円錐状の中空部とを上下に同軸状に連続させたサイクロン本体部と、前記サイクロン本体部における円筒状の中空部に接線方向からスラリーを供給するスラリー供給路と、前記サイクロン本体部における逆円錐状の中空部の下端にあってスラッジを排出させる下部排出路と、前記サイクロン本体部の上方からその中央部へ垂下する円管として配置され、前記スラリーから前記スラッジ分を除去した残部(ろ液)を排出する上部排出路とからなる構成が広く知られている。
【0003】
このハイドロサイクロン分級装置では、スラリー供給路からスラリーを流入させると、スラリーはサイクロン本体部の円筒状の中空部の内周壁に沿って旋回しながら下方の逆円錐状の中空部へ下降してゆく。
そして、その旋回過程ではスラリーに強力な遠心力が作用し、各中空部の内周壁に近いほど比重又は粒度の大きい固体粒子となる傾向で半径方向に分布しながら旋回することになる。
【0004】
したがって、比重又は粒度の大きい固体粒子は下降する旋回流によって下部排出路側へ導かれ、スラッジとして同下部排出路から外部へ排出される。
一方、各中空部の中心軸付近では逆に上昇流が発生し、スラッジとして除去された固体粒子以外のろ液がその上昇流によって上方へ移送されて上部排出路から外部へ排出される。
【0005】
ハイドロサイクロン分級装置では、このような原理によってスラリーに含まれている固体粒子の分級を行い、分級点が10μm以下の分級も実現可能であることから分級点が小さいときに有利な方式であるとされている。
しかし、前記ハイドロサイクロン分級装置では、スラリーの旋回流に作用する遠心力を利用して固体粒子の分級を行っているため、高い分級精度が要求される場合や固体粒子の分離粒子径を変更する場合や異なる質量の個体粒子を分離して成分分離を行う場合などにおいては、スラリーの供給速度を変更したり、サイクロン本体の逆円錐状の中空部における内面傾斜角度を変更する等の方法が採られるが、要求される分級条件に柔軟に対応することが困難である場合が多い。
【0006】
これに対して、下記特許文献1のサイクロン式濾過装置では、
図7に示すように、円筒状の中空部101を長く構成し、サイクロン本体部100の上部で軸支された円管102を長めに垂下させて、その内部を上部排出路103とすると共に、円管102の周囲に軸方向に沿って羽根板104を立設固定しておき、サイクロン本体部100の上側で円管102を回転駆動させることにより円筒状の中空部101の内部で羽根板104を回転させるようになっている。
そして、スラリーは円筒状の中空部101における羽根板104の立設固定区間よりも上部に設けたスラリー供給路105から内周面の接線方向へ導入されるが、スラリーは円管102の羽根板104の高速回転によってその旋回が促進され、スラリーに作用する遠心力を増大させて比較的比重の軽い微粒子も補足分離が可能になるとされている。
なお、このサイクロン式濾過装置では、長く構成された円筒状の中空部101における分級作用を大きく見込めるためか、サイクロン本体部100の下部に設けられた逆円錐状の中空部106は短く構成されている。
【0007】
また、下記特許文献2においては、
図8に示すような羽根車を用いたハイドロサイクロン分級装置が提案されている。
この装置では、サイクロン本体部200は円筒状の中空部201と逆円錐状の中空部202とからなり、円筒状の中空部201には接線方向からスラリーを供給するスラリー供給路203が、逆円錐状の中空部202の下端にはスラッジを排出する下部排出路204が設けられていると共に、サイクロン本体部200の上方からその中央部へ貫通・垂下させた円管205の先端が上部排出口205aとされ、サイクロン本体部200の天井部において前記円管205を中心固定軸として回転する羽根車206が設けられている点に特徴がある。
【0008】
具体的には、固定筐体であるプーリー・カバー207に固定された支持部208は円管205を貫通させて支持しており、その支持部208の周囲にラジアルベアリング209を介してプーリー210が回転自在に取り付けられていると共に、そのプーリー210は円管205の外周面との間及びサイクロン本体部200の天井部との間にそれぞれシール部材211,212を介在させている。
そして、サイクロン本体部200の天井部分に相当するプーリー210の下端面に羽根車206が取り付けられているが、羽根車206は環状板206aの下側面に4枚の羽根板206bを90°の中心角毎に放射方向へ取り付けた構成からなり、モータ(図示せず)によって駆動されるベルト213を介してプーリー210が回転せしめられることにより羽根車206が回転するようになっている。
なお、下記特許文献2では、羽根車206の構成のものだけでなく、単に環状板206aだけからなる天板や、環状板206aに対して羽根板206bの代わりに円管205と同軸状に円筒を取り付けたものを整流部材として用いる場合についても提案がなされている。
このハイドロサイクロン分級装置は、スラリー供給路203からスラリーを供給しながら羽根車206や整流部材を回転させることにより、分級点の変更範囲をより大きくでき、分級精度も向上させることができるとされている。
【0009】
一方、乾式のサイクロン分級装置ではあるが、下記非特許文献1の研究論文もあり、上記のハイドロサイクロン装置に対応させると、次のような傾向があると説明されている。
(1) サイクロン本体内でより滑らかな旋回流を形成することが分級性能の向上につながる。
(2) 円管の管径を小さくし、また円管の挿入長さを大きくして上部排出口の位置を低くするほど分級性能が向上するが、圧力損失が大きくなり、圧力損失は円管の管径のほぼ2乗に逆比例して増大する。
(3) サイクロン本体における逆円錐状の中空部が長くなるにしたがい、分級点や分級精度指数が共に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4775913号公報
【特許文献2】特許第4495519号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】冬木正 著 「博士学位論文要旨/論文内容の要旨および論文審査結果の要旨/金沢大学大学院自然科学研究科」 金沢大学出版 1995年6月 p.142-146(旋回流場における微粒子分離に関する研究)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記特許文献1のサイクロン式濾過装置は円管102の羽根板104を回転させて供給されるスラリーの旋回を促進させているが、羽根板104はその回転によって円管102と中空部101との間に高速の旋回流を生じさせると共に中空部101の内壁面近傍で乱流や脈流を生じさせる傾向があり、結果的にはその乱流や脈流が分級・ろ過性能を低下させる要因となり易い。
【0013】
また、前記特許文献2のハイドロサイクロン分級装置においては、スラリー供給路203から回転する羽根車206の下側にスラリーが供給され、羽根車206によってスラリーの旋回流の速度を加速させるが、前記特許文献1の場合と同様に、サイクロン本体部200の天井付近では羽根車206の回転によって旋回流の中に乱流や脈流が発生し、それが中空部201を下方へ進行する旋回流に影響を及ぼして分級性能を低下させる要因となる。
前記特許文献2においては、羽根板206bを用いずに、環状板206aだけからなる天板、又は円管205と同軸状に円筒を取り付けて整流部材とすることも開示している。
しかし、その場合には、乱流や脈流の発生を抑制できるとしても、天板や円筒の表面に対するスラリーの摩擦だけに依存した旋回流の加速は殆んど期待できず、前記特許文献2の段落[0052]に説明されているように前記表面の面粗さを大きくしたとしても、その効果は極めて限定的であろうと推察される。
【0014】
以上から、ハイドロサイクロン分級装置において、要求される分級条件に柔軟に対応できるようにするには、やはり促流・加速部材として羽根車を用いることが有効であるが、スラリーを機械的にせん断し、押し引きする羽根は如何にしても乱流や脈流を発生させ易く、前記非特許文献1における「サイクロン本体内でより滑らかな旋回流を形成することが分級性能の向上につながる。」という実験的結論に背反する作用を有している。
【0015】
そこで、本発明は、羽根車を用いるが、それによってスラリーに生じる乱流や脈流が分級機能に与える影響を少ないものとし、分級点自体を低下させることができると共に、分級条件を広い範囲で高精度に可変できるハイドロサイクロン分級装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、スラリー中に分散した固体粒子を粒度の大きさ又は比重の大きさによって分級するハイドロサイクロン分級装置であって、円筒状の第1中空部とその下側に連続して下方が小径となる逆円錐状の第2中空部とが
同軸状に形成されているサイクロン本体部と、前記サイクロン本体部の外部から前記第1中空部へスラリーを供給する通路として、前記第1中空部の内壁の接線方向と略平行な方向に構成されているスラリー供給路と、前記第1中空部の天井壁の上側で前記サイクロン本体部の前記
第1中空部の中心軸と同軸上に軸支されており、前記天井壁を貫通して前記スラリー供給路の位置よりも下側の位置まで垂下した回転軸と、円板の片側面に複数の羽根板
が等分の中心角
をもって配置されていると共に、前記各羽根板を、それぞれの最外周部が前記円板の最外周部より内側となるように、前記円板の中心から等距離の位置に立設
させた構成からなり、前記円板における前記羽根板の立設面を上側にして、前記回転軸の中心軸が前記円板の中心を通過すると共に、前記回転軸の中心軸と前記円板の板面とが垂直な関係となるように、前記回転軸の先端部に固定された羽根車と、円管部材からなり、前記サイクロン本体部の外部から前記第2中空部の下端部を貫通して、前記回転軸に取り付けられた前記羽根車の下方まで直伸した第1排出路と、前記サイクロン本体部の外部から前記第2中空部の下端近傍で前記第1排出路の周囲へ通じる第2排出路と、前記スラリー供給路から前記第1中空部へ供給されるスラリーの旋回方向へ前記羽根車を回転させるように、前記サイクロン本体部の上側で前記回転軸を回転駆動させる回転駆動手段とを備えたことを特徴とするハイドロサイクロン分級装置に係る。
【0017】
本発明では、サイクロン本体部の第1中空部における羽根車の円板より上側が旋回流の加速室になっている。
すなわち、スラリー供給路から第1中空部へ供給されたスラリーは第1中空部の内壁面に案内されて旋回流となるが、回転駆動手段が回転軸を高速回転させることにより羽根車の各羽根が旋回流を加速させる。
そして、羽根車の円板は前記加速室と下側の中空部とを仕切る役割を果たし、円板と第1中空部の内壁面との間に構成されている環状流路を通じて、加速された高速旋回流だけが第1中空部の内壁面に沿って下側へ押し出されてゆく。
その場合、加速室では羽根車の羽根がスラリーの流速よりも早く回転しているため、その室内では乱流や脈流が発生しているが、羽根車の円板による仕切り機能によって環状流路だけで下側の中空部と通じており、室内の乱流や脈流の影響が下側の中空部へ伝播することを大幅に抑制できる。
また、加速室での乱流や脈流は特に各羽根板の最外周部付近で発生する傾向があり、加速室で加速されたスラリーの旋回流は前記付近から第1中空部の内壁面と羽根車の円板の外周面との間の環状流路を通過して下降してゆくため、その下降する旋回流に前記の乱流や脈流の影響が生じ易いが、各羽根板の最外周部が円板の最外周部より内側になるように構成しておくと、下降する旋回流と前記の乱流等とを離隔できるため、その影響を抑制して滑らかな旋回流が得られる。
したがって、本発明によれば、回転駆動手段
を制御して羽根車の回転速度を変更することによりスラリーの旋回流の速度を変更でき、また滑らかな旋回流を環状流路から下側の第1中空部と第2中空部へ下降させることができるため、分級点をより小さい値から広い範囲で高精度に可変設定できる。
【0018】
そして、本発明では、加速室で加速されたスラリーの滑らかな旋回流が前記環状流路から下降し、第1中空部と第2中空部の内壁面に沿って下降する間に、旋回流に作用する遠心力によってスラリー中に分散した固体粒子の内の粒度又は比重の大きい固体粒子が内壁面側に分布し、旋回流と共に内壁面に沿って下降して第2中空部の最下部付近にスラッジとなって堆積するが、そのスラッジは第2排出路を通じてサイクロン本体部の外部へ排出される。
一方、スラッジとして固体粒子が除かれた後のろ液は第2中空部の下方から第1排出路の周囲を旋回しながら上昇し、羽根車の円板の下側に開口している第1排出路の管口からその管内を通じてサイクロン本体部の外部へ排出される。
上記特許文献1及び2では、回転軸を管体としてろ液を排出させる第1排出路を構成しているため、羽根や羽根車をベルト駆動方式で回転させざるを得ないが、本発明の場合には回転軸とは別の独立した第1排出路が設けられているため、羽根車はモータ等による直接駆動方式で回転させることができる。
【0019】
本発明においては、前記第1中空部の内壁面と前記羽根車の円板の外周面との間に構成される環状流路の面積及び前記第1排出路の断面積が、前記スラリー供給路の断面積より大きく設定されていることが望ましい。
圧力損失を少なくして分級性能の低下を生じさせないようにするためである。
【0020】
また、本発明においては、前記スラリー供給路と前記羽根車の位置関係については、前記羽根板の最上部が前記スラリー供給路の前記第1中空部に対する開口部の最下位置よりも下側となるように、前記回転軸を前記第1中空部の天井壁の上側で軸支することが望ましい。
これは、スラリー供給路の開口部の前方で羽根車を回転させると第1中空部に流入した直後のスラリーが撹拌されて乱流と脈流が多発し易く、むしろ流入した直後のスラリーが第1中空部の内壁面で一旦落ち着いた旋回流となった後に羽根車で加速した方が滑らかな旋回流が得られるからである。
【0022】
また、本発明においては、前記羽根車における前記各羽根板より外側にある前記円板の環状部分を下側へ傾斜させて形成しておくことが望ましい。
円板の外周縁部分での旋回流の細かな乱れを抑制できると共に、加速されたスラリーの旋回流を加速室から環状流路を通じてより円滑に下降させることができる。
【0023】
また、本発明においては、前記羽根車における前記各羽根板の内周側の高さを外周側の高さより大きく設定しておくことが望ましい。
これは、スラリー供給路から第1中空部に流入したスラリーの旋回流の圧力分布は外周側が大きく中心側が小さい状態になり、実際にはスラリーは旋回しながら中心方向へ巻き込まれる傾向があるからであり、旋回流を効率的に加速させるには各羽根板の表面積を内側において大きくしておく方が効果的である。
【0024】
また、本発明においては、前記サイクロン本体部における前記第1中空部と前記第2中空部の境界は、前記羽根車における前記円板の位置又はその位置より僅かに下側に設定してもよい。
これは、上記非特許文献1に示されているように、逆円錐状の中空部が長くなるにしたがって分級点や分級精度指数が共に向上するという傾向に基づく。
【発明の効果】
【0025】
本発明のハイドロサイクロン分級装置は、サイクロン本体部に供給されるスラリーの旋回流を羽根車で加速して高速旋回流を得られるようにしながら、乱流や脈流が混在しない滑らかな旋回流としてサイクロン本体の中空部を下降させることにより、分級条件を広い範囲で高精度に可変設定することを可能にする。
また、回転駆動手段であるモータと回転軸とを軸結合させた直接駆動方式により羽根車をより高速回転させることができ、前記効果と相俟って、従来よりも分級点を大幅に小さくすることも可能であり、ろ過装置としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態1に係るハイドロサイクロン装置の構成を示す図(要部は断面)である。
【
図2】
図1におけるスラリー供給路、加速室及び羽根車の配置部分の拡大図(A)及びその拡大図(A)におけるX-X矢視断面図(B)である。
【
図3】実施形態2に係るスラリー供給路、加速室及び羽根車の配置部分の拡大図である。
【
図4】実施形態2に係る羽根車の平面図(A)及びその平面図(A)におけるY-Y矢視断面図である。
【
図5】実施形態3に係る羽根車の平面図(A)及び正面図(B)である。
【
図6】実施形態4に係るハイドロサイクロン装置の構成を示す断面図(回転駆動用のモータ部は省略)である。
【
図7】従来技術(特許文献1)に係るサイクロン式濾過装置の主要部の構成を示す要部断面図である。
【
図8】従来技術(特許文献2)に係るハイドロサイクロン分級装置の主要部の構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を
図1から
図6を参照しながら詳細に説明する。
<実施形態1>
この実施形態のハイドロサイクロン分級装置の構成は
図1に示される。
同図において、1は中空筒体で構成されたサイクロン本体部であり、その内部には円筒状の第1中空部1aとその下側に連続した逆円錐状の第2中空部1bが構成されている。
このサイクロン本体部1の上端と下端にはそれぞれフランジ2,3が付設されており、フランジ2は軸受部4を備えた固定板5に、フランジ3は固定基台6にそれぞれボルトで締着されることにより、サイクロン本体部1が固定板5と固定基台6の間に固定されている。
なお、フランジ2と固定板5の当接面やフランジ3と固定基台6の当接面には適宜シール部材が施されている。
【0028】
サイクロン本体部1における第1中空部1aの上端近傍には、円管部材からなるスラリー供給路7が設けられている。
スラリーはこのスラリー供給路7を通じて外部から第1中空部1aへ供給されるが、スラリー供給路7の方向は第1中空部1aの内壁の接線方向と略平行な方向になるように固定されている。
そして、固定板5に取り付けられている軸受部4は回転軸8をサイクロン本体部1の中心軸と同軸上に軸支しており、その回転軸8の下端は第1中空部1aにおける前記スラリー供給路7より下側まで垂下し、その下端に羽根車9が取り付けられている。
ここに、軸受部4はラジアルベアリング10で回転軸8を軸支していると共に、サイクロン本体部1の各中空部1a,1bからの液漏れが生じないように回転軸10との間にメカニカルシール11が施されている。
【0029】
また、サイクロン本体部1における第2中空部1bの下端はフランジ3の付設部分で小さい環状の水平底3aになっており、円管部材からなる第1排出路12が外部から同水平底3aを貫通して前記羽根車9の下方まで直伸させてある。
また更には、管部材からなる第2排出路13が外部から第2中空部1bの下端近傍の側壁部を貫通して前記第1排出路12の周囲(水平底3aの上側)に開口している。
なお、第1排出路12と同水平底3aの間にはシール部材が施されており、第2排出路13は第2中空部1bの下端近傍の側壁部とフランジ3に対して溶接により水密固定されている。
【0030】
一方、前記固定板5における軸受部4の周囲には4本の支柱14(
図1では断面図の便宜上2本だけを表現)が立設されており、それら支柱14によって軸受部4の上側に支持されたモータ取り付け板15にモータ16が固定され、モータ16の回転軸16aと軸受部4で軸支されている回転軸8とがカップリング17によって連結されている。
なお、固定板5と各支柱14及びモータ取り付け板15と各支柱14の間は隅角に板材を溶接することにより補強されている。
【0031】
このハイドロサイクロン分級装置の構造上の特徴は、上記特許文献1,2の装置と比較すれば明らかなように、(1)スラリー供給路7よりも下側の位置で羽根車9が回転するようになっている点、(2)第1排出路12が第2中空部1bの下端部(水平底3a)を貫通して前記羽根車の下方まで直伸した円管部材で構成されている点、(3)回転軸8とモータ16の回転軸16aを直結させて羽根車9をダイレクト駆動する点、及び(4)第2排出路13は第2中空部1bの最下位置に設けられてはいるが、側壁部を貫通して外部へ導かれている点にあるが、特に、第1中空部1aにおけるスラリー供給路7と羽根車9の位置関係、羽根車9の構成、及び第1排出路12の開口部12aの位置については分級機能に大きく影響する。
【0032】
図2の(A)はその羽根車9とその周辺の拡大図であり、(B)は同(A)のX-X矢視断面であるが、羽根車9は円板9aの片側面に6数の羽根板9bを60°の中心角で且つ中心から等距離の位置に放射状に立設した構成からなり、回転軸8の中心軸が円板9aの中心を通過すると共に、回転軸8の中心軸と円板9aの板面とが垂直な関係となるように、回転軸8の先端部に固定されている。
具体的には、回転軸8の先端面に対して円板9aが溶接されていると共に、羽根板9bは長方形の板材からなり、その隣接する二辺の面が回転軸8と円板9aにそれぞれ溶接された構成になっている。
【0033】
また、羽根車9については、各羽根板9bの最外周部の半径位置(半径:Rw)が円板9aの最外周部の半径(Ri)より内側となるように、すなわち各羽根板9bの外周側端面が円板9aの外周面より距離(Ri−Rw)だけ内側になるように、各羽根板9bが円板9aに立設されている。
そして、軸受部4は回転軸8を軸支すると共に羽根車9の上下方向位置も定めているが、羽根車9における羽根板9bの最上部がスラリー供給路7の第1中空部1aに対する開口部7aの最下位置よりも下側になるように設定してある。
【0034】
なお、その他の流体装置としての基本事項として、サイクロン本体部1における圧力損失を小さくするために、第1中空部1aの内壁面と羽根車9の円板9aの外周面との間に構成される環状流路18の面積[S1=(Rs
2−Ri
2)π]及び第1排出路12の断面積[S2=Ro
2π]は、スラリー供給路7の断面積[S3=Rf
2π]より大きく設定されている。但し、Rsは第1中空部1aの内壁面の半径、Roは第1排出路12の半径、Rfはスラリー供給路7の半径である。
【0035】
次に、以上のハイドロサイクロン分級装置の構成において、スラリー供給路7からサイクロン本体部1にスラリーが供給されて各中空部1a,1bにスラリーが充満し、モータ16が羽根車9を高速回転させてスラリー中に分散している固体粒子を定常的に分級する動作へ移行した状態について説明する。
先ず、スラリー供給路7から中空部1aに供給されたスラリーは中空部1aの内壁に沿って旋回流となるが、その旋回流は未だ羽根車9の羽根板9bよりも上側にあるために羽根板9bに直接当たることはなく、それ以降の周回過程で羽根車9の位置へ下降し、スラリーはその流入速度よりも高速回転している羽根板9bによって加速される。
【0036】
スラリー供給路7からの供給直後のスラリーの流れに羽根板9bが当たると乱流や脈流が発生し易いが、この実施形態では、落ち着いた旋回流となって下降したスラリーに対して羽根板9bが周方向へ加速するようになっているため、乱流や脈流の発生を抑制して滑らかな高速旋回流を効率よく生成させることができる。
そして、加速されたスラリーの高速旋回流はスラリー供給路7から流入直後の旋回流よりも第1中空部1aの内壁側に強く押しやられた流れとなるが、その高速旋回流が前記環状流路18を通じて下方の第1中空部1aへ下降してゆく。
すなわち、羽根車9の円板9aは、第1中空部1aを仕切って上側を羽根板9bによる加速室19とし、その円板9aの周囲に形成されている環状流路18から加速後の高速旋回流だけを下降させ、加速室19で発生する乱流や脈流が下方へ影響しないようにする役割を果たしている。
【0037】
また、それにも関連するが、前記のように羽根車9における各羽根板9bの外側端面が円板9aの外周面より距離(Ri−Rw)だけ内側になっているのは、各羽根板9bの外側端面付近では乱流や脈流が発生し易く、それが下降する高速旋回流に影響することを回避するためである。
【0038】
図1に戻って、環状領域18を通じて下降した高速旋回流は、加速室19の下側の第1中空部1aと第2中空部1bの内壁面に沿った螺線状の高速旋回流になって第2中空部1bの水平底3a付近まで下降すると、一転して円管部材である第1排出路12の周囲を螺旋状に上昇する旋回流となり、第1排出路12の上端の開口部12aから管内を通じてサイクロン本体部1の外部へ排出される。
そして、スラリーの高速旋回流が第1中空部1aと第2中空部1bの内壁面に沿って螺旋状に下降する過程においては、スラリーに作用する遠心力によって分散した固体粒子の内の粒度又は比重の大きい固体粒子が内壁面側へ押しやられ、旋回流の螺旋下降に伴って内壁面に沿って下降し、第2中空部1bの水平底3a付近にスラッジとなって堆積するが、そのスラッジは第2排出路13を通じてサイクロン本体部1の外部へ排出される。
但し、その単位時間当たりの排出量はスラリーの種類や分級条件によりバルブ20で調整される。
【0039】
したがって、第1排出路12から外部へ排出されるろ液はスラリーから一定の分級点で固体粒子が除去された液であり、スラッジも分級点によって粒度範囲の異なるものになるが、その分級点は環状領域18を通じて下降させる高速旋回流の旋回速度に依存しており、羽根車9を回転させるモータ16の回転速度を制御することにより分級点を制御できる。
また、この実施形態の装置の構成によれば、加速室19が仕切られているため、羽根車9の回転速度を一定にしてスラリー供給路7からのスラリー流入速度を変化させると、環状流路18から下降する高速旋回流の軸方向の下降速度を前記流入速度に比例させることができ、スラリー流入速度によって分級点を制御することも可能である。
【0040】
<実施形態2>
この実施形態は羽根車の構成に係り、
図3はその羽根車を適用した場合のスラリー供給路、加速室及び羽根車の配置部分を示し、
図4は羽根車自体の平面図と断面図である。
この羽根車31の羽根板31bは実施形態1のものと同様であるが、円板31aにおける各羽根板31bより外側にある環状部分31cが下側へ傾斜させて形成されている点に特徴がある。
【0041】
加速室19で加速された高速旋回流が環状流路18を通じて下降する際に、前記環状部分31cが傾斜面になっていると、実施形態1の円板9aの場合よりも円滑に環状流路18を通過することができる。
また、実施形態1の円板9aの場合には、高速回転する円板9aの外周端面の近傍で生じた乱流が環状流路18を通過する高速旋回流に影響を与え易いが、傾斜面としたことでそれを抑制できる。
しがたって、この実施形態2の羽根車31を適用すると、より滑らかな高速旋回流を下降させることができ、分級性能の向上が図れる。
【0042】
<実施形態3>
この実施形態も羽根車の構成に係る。
図5はその羽根車の平面図と正面図であるが、ハイドロサイクロン分級装置では、前記実施形態1や2と同様に回転軸8の先端に取り付けられて、サイクロン本体部1の第1中空部1aにおいて第1スラリー供給部7の下側位置で回転する。
同図から明らかなように、この実施形態に係る羽根車32の円板32aに対する各羽根板32bの配置や固定の仕方は実施形態1の場合(
図2)と同様であるが、各羽根板32bは内側(回転軸8側)が高く外側(外周側)が低くなっている。
【0043】
スラリー供給路7から流入したスラリーは第1中空部1aの内壁面に沿って旋回流となり、羽根車32によって加速されるが、加速室19の中のスラリーの圧力は外周側が高く、内周側が低くなっているため、旋回流は内側へ巻き込む傾向がある。
したがって、羽根板32bを内周側において面積が大きく、外側にかけて小さくなるようにしておけば、旋回流をより効率的に加速できる。
また、この実施形態のように外周側が低くなっていると、羽根板32bの外周側における乱流や脈流の発生も少なくなり、加速された高速旋回流は滑らかなものとなって分級性能を向上させることができる。
【0044】
<実施形態4>
この実施形態はサイクロン本体部の形状に特徴のあるハイドロサイクロン分級装置に係る。
図6はそのハイドロサイクロン装置の構成を示す断面図(モータ部は省略)であるが、実施形態1に係る
図1と同一の符号で示されている機構要素等は同実施形態で説明したものと同一である。
【0045】
この実施形態におけるサイクロン本体部40の第1中空部40aと第2中空部40bの境界は、羽根車9における円板9aの位置又はその位置より僅かに下側に設定されている。
すなわち、中空円筒状の第1中空部40aの大部分が羽根車9によるスラリーの加速室になっており、羽根車9の円板9aの下側が直に逆円錐状の第2中空部40bになっている。
【0046】
実施形態1のように、加速室19から環状流路18を通じて下降する旋回流が同一径の第1中空部1aの下側区間を経て第2中空部1bに移行するようにすれば、環状流路18からの下降直後の旋回流に乱れが含まれている場合でも、前記下側区間で滑らかな旋回流になって第2中空部1bでの分級性能の向上が望めるが、一方、第1中空部1aのように同一径での旋回流の下降区間が長くなると旋回流の流速が低下する。
【0047】
そのため、環状流路18からの下降直後の旋回流にあまり乱れがなく、滑らかな旋回流が得られているような場合には、そのまま逆円錐状の第2中空部40bへ移行させ、できるだけ旋回流の流速を低下させない状態で底部まで下降させる方が良好な分離性能が得られることがある。
また、その場合には第2中空部40bをそれだけ長く設計することができ、上記非特許文献1においても示唆されているように、その意味でも分級性能の向上が望める。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ハイドロサイクロン方式による懸濁粒子の分級装置やろ過装置として適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1…サイクロン本体部、1a…第1中空部、1b…第2中空部、2…フランジ、3…フランジ、3a…水平底、4…軸受部、5…固定板、6…固定基台、7…スラリー供給路、7a…開口部、8…回転軸、9…羽根車、9a…円板、9b…羽根板、10…ラジアルベアリング、11…メカニカルシール、12…第1排出路、12a…開口部、13…第2排出路、14…支柱、15…モータ取り付け板、16…モータ、16a…モータの回転軸、17…カップリング、18…環状流路、19…加速室、20…バルブ、31…羽根車、31a…円板、31b…羽根板、31c…環状部分、32…羽根車、32a…円板、32b…羽根板、40…サイクロン本体部、40a…第1中空部、40b…第2中空部、100…サイクロン本体部、101…円筒状の中空部、102…円管、103…上部排出路、104…羽根板、105…スラリー供給路、106…逆円錐状の中空部、200…サイクロン本体部、201…円筒状の中空部、202…逆円錐状の中空部、203…スラリー供給路、204…下部排出路、205…円管、205a…上部排出口、206…羽根車、206a…環状板、206b…羽根板、207…プーリー・カバー、208…支持部、209…ラジアルベアリング、210…プーリー、211,212…シール部材、213…ベルト。