(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、熱で膨張する作動液を封入した感熱体と、作動液が流入出することで伸縮する伸縮部材とをキャピラリチューブで繋ぎ、過熱時には作動液の体積膨張による伸縮部材の膨張を利用してガスの流路を弁体で塞ぐ安全弁が知られている。また、キャピラリチューブの破断や伸縮部材の亀裂などが生じた場合にもガス流路を塞いで安全性を確保するように工夫された安全弁も知られている。このような破断や亀裂などが万が一生じてしまうと、過熱時に作動液の体積が膨張しても破断や亀裂などから作動液が漏れてしまって安全弁が正常に作動しないからである。
【0003】
例えば下記の特許文献1や特許文献2に開示された安全弁では、伸縮部材としてダイアフラムが用いられ、ガス流路の開放時におけるダイアフラムの内部圧力を大気圧未満とすることで、作動液の漏出時(即ち作動液の漏出を生じるような破断や亀裂などが生じたとき)にダイヤフラムが大気圧によって反転し、弁体がガス流路を遮断する構造となっている。
【0004】
しかしながら、伸縮部材としてダイアフラムが用いられる構造は、伸縮部材としてベローズが用いられる構造に較べると、安全弁の本来の目的である過熱時のガス遮断能力が劣っている。なぜならば、ダイアフラムは曲面状の金属板を反転させる構造であるため、作用液の圧力に一定程度の余裕が生じないと変形を開始しないので、ガス流路の遮断が感熱体の過熱発生からタイムラグを経ることとなるからである。
【0005】
このため、伸縮部材としてベローズが用いられるとともに、作動液の万が一の漏出時にも対応した安全弁が提案されている(例えば特許文献3参照)。この特許文献3で提案されている安全弁によれば、変形に際してベローズには圧力の余裕は必要とされず、ガス流路は過熱発生時に即時に遮断されることとなる。特に、過熱により蒸気を発生するタイプの作動液を用いると、液体のまま膨張するタイプの作動液に較べて圧力の上昇は小さいものの体積膨張が大きいために、過熱時にベローズの素早い変形が生じ、遮断の即時性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献3に提案されている安全弁の構造では、作動液漏出時にもガス流路を遮断するために、ばねや反転板などを備えた特別な機構をベローズ外に追加する必要があるので、弁の大型化によって設置場所が制限されたり、追加機構による作動不良の怖れも新たに発生することとなってしまう。
【0008】
このため、過熱発生時の即時遮断性を確保しつつ、作動液漏出時における安全性を簡素な構造で実現した安全弁が望まれている。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、過熱発生時の即時遮断性と作動液漏出時における安全性との双方を実現した簡素な構造の安全弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の安全弁は、
流路を流れてきたガスの燃焼によって加熱される被加熱物に接触する感熱体であって、内部には、加熱により蒸気圧を発生する作動流体が封入されている感熱体と、
上記感熱体に連通し、上記作動流体が上記蒸気圧によって流入することで伸長するベローズと、
上記ベローズ内に組み込まれ、このベローズを伸長方向に付勢する第1の付勢部材と、
上記ベローズの伸長の結果として駆動されて上記流路を遮断する弁体とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の安全弁によれば、ベローズと蒸気圧発生タイプの作動流体とを採用することで過熱発生時の即時遮断性を実現すると共に、ベローズ内に付勢部材を組み込むという簡素な構造によって、作動流体漏出時における安全性(ガス流路の遮断)も実現している。即ち、作動流体が漏出した場合には、第1の付勢部材がベローズを伸長させるため、過熱時と同様に弁体が駆動されて流路が遮断されることとなる。そして、本発明の構造であれば、従来ベローズが採用されている弁構造に対してそのままのスペースで適用することが出来るため、汎用性も高いと言える。
【0012】
本発明の安全弁は、上記第1の付勢部材が金属バネであることが好適である。例えばゴムなどと比較すると金属バネは作動流体との化学的な反応が少なく、長期に亘って安全弁の能力が維持されるからである。
【0013】
また、本発明の安全弁は、
上記流路が遮断される方向に上記弁体を付勢する第2の付勢部材と、
上記弁体を、上記第2の付勢部材による付勢力に対抗して、上記流路が開放された位置で保持する保持部とを備え、
上記ベローズは、伸長により上記保持部による上記弁体の保持を解除するものであることが好適である。
【0014】
このような好適な構造の安全弁によれば、ベローズの微小な伸長をトリガーとして第2の付勢部材で弁体を大きく動作させることができるので、過熱発生時の即時遮断性がより一層向上する。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、簡素な構造の安全弁により、過熱発生時の即時遮断性と作動液漏出時における安全性との双方が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を適用した具体的な実施形態を、以下図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の安全弁の具体的な一実施形態が組み込まれたフライヤーを示す図である。
【0019】
図1に示すフライヤ1は業務用の調理器具であり、大型の油槽10に溜められた油をバーナー20で加熱して調理に用いる。油槽10の中間部分には、バーナー20からの高温排気が通過する加熱パイプ21が設けられている。この
図1に示したタイプの加熱パイプ21は、様々な種類が存在する加熱パイプの一例であり、加熱パイプ21内には、高温排気の通過を促すためのスクリュー22が組み込まれている。この他の加熱パイプの種類としては、単なる円筒状のタイプ、円筒内を横切るように油が通る小管(ホール)が設けられているタイプ、パイプの表面が蛇腹状になったタイプ、パイプの断面が多角形状で内部にフィンが備えられたタイプなどが存在している。
【0020】
このような構造により、油槽10内の油は、加熱パイプ21上に渡された平網11の上方では調理用の温度に加熱され、加熱パイプ21の下方では低温が保たれることになる。
【0021】
このフライヤ1には、ガスの流入口60からバーナー20へと至るガス流路上に、メインコック30とサーモスタット40とハイリミッタ50とが連なったガスコントロール部が配備されている。メインコック30は、バーナー20の点火コックと一体化されており、メインコック30を操作することで、ガス流路の開閉とバーナー20の点火消火とを同時に行うことが出来る。サーモスタット40とハイリミッタ50からはそれぞれのキャピラリ41,51が延びており、油槽10内の平網11の側にそれぞれの感温部42,52が配置されている。また、感温部42,52とキャピラリ41,51には内部に作動液が封入されている。サーモスタット40は、感温部42の温度変化による作動液の膨張収縮に応じてガスの流量を連続的に変更することで油槽10内の油の温度を設定温度に保つ。一方、ハイリミッタ50は、感温部52が過熱状態となった場合に作動液の蒸気圧によって瞬時にガス流路を遮断して安全を保つ。このハイリミッタ50が、本発明の安全弁の一実施形態に相当する。
【0022】
図2は、
図1に示すフライヤ1に組み込まれているガスコントロール部の外観を示す図である。
【0023】
上述したように、ガスコントロール部にはメインコック30とサーモスタット40とハイリミッタ50とが連なっている。より詳細には、ガス流路およびガスの流れに沿って、ハイリミッタの本体部53、メインコックの本体部31、およびサーモスタットの本体部43がこの順で並べて配備されている。サーモスタット40およびハイリミッタ50それぞれの本体部53,43の後方側から、作動液を伝達するキャピラリ41,51が延び出しており、各キャピラリ41,51には、この
図2では図示を省略した感温部42,52(
図1参照)が繋がっている。また、メインコック30の本体部31の前方側には、ユーザがバーナーの点火消火の操作を行うための自動点火つまみ32が突き出しており、サーモスタット40の本体部43の前方側には、油温を設定するための温度設定つまみ44が突き出している。ユーザは、これらのつまみを操作することによって、バーナーの点火消火や油温の調整を行う。
【0024】
メインコック30とサーモスタット40とハイリミッタ50それぞれの本体部31,43,53には、各々の役割に応じた弁の開閉機構が組み込まれている。即ち、メインコック30の本体部31には、ユーザの手動操作に応じてガス流路を開閉する開閉機構が組み込まれており、サーモスタット40には、油温を設定値に保つようにガス流路を開閉する開閉機構が組み込まれている。これらメインコック30およびサーモスタット40における開閉機構については従来周知の機構が採用されているものとしてこれ以上の詳細説明は省略する。
【0025】
以下、ハイリミッタ50の構造の詳細について更に説明する。
【0026】
図3は、ハイリミッタ50の外観の詳細図であり、
図4〜
図6は、ハイリミッタ50の本体部の内部構造を詳細に示す構造図である。
【0027】
図3に示すように、ハイリミッタ50には、本体部53とキャピラリ51と感温部52が備えられている。この
図3では、ガスの流路は、本体部53に対して図の奥行き方向に接続されることになる。
【0028】
感温部52は棒状の外形を有していて内部は中空となっている。感温部52の内部には、過熱時に蒸気圧を生じる作動液が封入されている。なお、ハイリミッタの感温部としては、
図1,3に示すように油槽の内部に取り付ける棒状のタイプの他に、油槽の外壁に貼り付けるために平らな外形をしたタイプも存在する。このタイプの場合にも、内部には上述した作動液が封入されている。
【0029】
また、キャピラリ51も中空で、感温部52とキャピラリ51は内部が繋がっている。つまり作動液は感温部52とキャピラリ51の内部全体を満たした状態となっている。更に作動液は、本体部53内に組み込まれた後述するベローズ内も満たしている。
【0030】
ハイリミッタの感温部は、外形が棒状か平らかに拘わらず、本発明にいう感熱体の一例に相当し、作動液は、本発明にいう作動流体の一例に相当する。
【0031】
図4は、ハイリミッタ50の本体部の内部構造を詳細に示す構造図である。この
図4に示された状態では、ガス流路は開放されている。
【0032】
ハイリミッタ50の本体部53は、本体ケース501とベローズケース502とが合わさって外形を成しており、ベローズケース502には吊金物503を介してキャピラリ51が接続されている。吊金物503はロックナット504によってベローズケース502に固定されている。
【0033】
本体ケース501には、ガスの流入口505と流出口506が空けられている。流入口505は本体ケース501内部の流入室507に繋がり、流出口506は流出室508に繋がっている。そして、流入室507と流出室508との間には連通口509が形成されており、この連通口509には、流入室507側に弁座面510が形成されている。
図4に示す状態では、弁用ゴムで形成された弁体511は弁座面510から離れているので、ガスは、流入口505から本体ケース501内の流入室507へと流入し、連通口509を経て流出室508に流れ込み、流出口506から本体ケース501外へと流出することとなる。後述する動作によって弁体511が弁座面510に密着すると連通口509が閉じられてガスの流路は遮断される。
【0034】
弁体511はバルブ軸512で支持されており、このバルブ軸512は押え板513に繋がった筒体514内を貫通している。バルブ軸512は、筒体514の内面に案内されて図の上下方向に移動自在になっている。
【0035】
弁体511は、コイル状の押しばね515によって弁座面510側に付勢されている。一方で、筒体514内を貫通したバルブ軸512の先は、図の左右方向から挟みつけるクリップ状の保持ばね516に引っ掛かっているので、弁体511は、押しばね515の付勢力に対抗した状態で、ガス流路を開放した位置に保持されている。保持ばね516は、押え板513と止め輪517との間に固定されている。
【0036】
弁体511は、本発明にいう弁体の一例に相当し、押しばね515は、本発明にいう第2の付勢部材の一例に相当する。また、バルブ軸512および保持ばね516によって、本発明にいう保持部の一例が構成されている。
【0037】
ベローズケース502内には、キャピラリ51に繋がったベローズ518が備えられており、このベローズ518内には、ベローズ518を図の上方へと伸長させるように付勢する金属製のフェール用ばね519が配備されている。そして、ベローズ518の上面は、バルブ軸512の先端と、ゴムフラム520を隔てて向き合っている。ゴムフラム520は、流入室507のガスがベローズ518に接触することを防いでいる。ベローズ518の内部は中空で、図の上下方向に伸縮自在となっている。キャピラリ51に繋がったベローズ518内にも作動液が満たされている。また、作動液を封入する工程上の理由などから、ベローズ518、キャピラリ51、および上述した感温部52内は大気圧よりも低い圧力となっている。
図4に示す状態では、ベローズ518はフェール用ばね519の付勢力に対抗して縮んでいる。フェール用ばね519の付勢力程度では作動液を膨張させることはできないので、作動液の漏れが生じない限り、フェール用ばね519の付勢力ではベローズ518は伸長しない。なお、フェール用ばね519が金属製であるため、ベローズ518内に作動液とともに長期間に亘って封入されていてもフェール用ばね519は作動液とは特に反応することはなく腐食なども生じない。
【0038】
ベローズ518は、本発明にいうベローズの一例に相当し、フェール用ばね519は、本発明にいう第1の付勢部材の一例に相当する。
【0039】
流出室508内には、弁体511が弁座面510に密着した場合に弁体511を
図4に示された位置まで押し戻すためのリセット軸521が突き出している。このリセット軸521は、本体ケース501を貫通して本体ケース501の外部にも突き出しており、本体ケース501外に突き出したリセット軸521の先には、リセット軸521をユーザが押し込むためのリセット板522が固定されている。そして、リセット板522と座金524との間に挟まれたリセットばね523によってリセット板522およびリセット軸521は本体ケース501の外部側へと付勢されている。リセット軸521の途中にはEリング525が固定されていて、このEリング525が流出室508の内壁に引っ掛かっていることによってリセット軸521は
図4に示す位置に保持されている。流出室508内のガスは、ゴム製の隔膜526とOリング527によって外部への漏れが防がれている。
【0040】
次に、ハイリミッタ50の動作について説明する。
【0041】
図5は、ガス流路が遮断された状態における内部構造を示す図である。
【0042】
図1に示す油槽10内の油が過熱状態となって
図1,3に示す感温部52が設定温度以上に昇温すると、感温部52内に封入されている作動液の蒸気が発生して急激に体積が膨張する。この結果、作動液の蒸気圧によってキャピラリ51内の作動液がベローズ518内に流れ込み、ベローズ518は遅滞なく伸長する。そしてベローズ518の上面は、ゴムフラム520を押し上げてバルブ軸512の先に衝突する。これによりバルブ軸512の先は保持ばね516から外れ、弁体511は押しばね515によって押されて弁座面510に密着する。このような一連の動作によって弁体511が連通口509を閉じ、ガスの流路は遮断される。ここで説明した動作において、油が過熱状態となってから弁体511が連通口509を閉じる迄の間には、動きを中断させタイムラグを生じさせるような要素は存在せず、ガス流路の遮断が瞬時に行われることが解る。また、ベローズ518の上面の移動量に対し、弁体511の動作量が大きいことも容易に理解できる。これは、バルブ軸512および保持ばね516で保持されている弁体511を、ベローズ518の伸長をトリガーとして押しばね515の付勢力で動かす構造となっているからである。
【0043】
次に、ベローズ518に亀裂が入ったりキャピラリ51が破断したりした場合の動作について説明する。このような亀裂や破断などを生じた場合(即ちいわゆる作動液漏出時)には、その亀裂や破断などから空気の進入が可能となるため、ベローズ518を
図4に示すような収縮状態に保持する力が抜けてしまう。そのため、ベローズ518はフェール用ばね519の付勢力によって伸長し、この場合にもベローズ518の上面がゴムフラム520を押し上げてバルブ軸512の先に衝突する。そして、過熱時と同様にバルブ軸512の先は保持ばね516から外れ、弁体511は押しばね515によって押されて弁座面510に密着する。そしてガスの流路は遮断されて安全が確保される。つまり、ハイリミッタ50はフェールセーフ機能を備えていることになる。
【0044】
最後に、過熱時に弁体511が連通口509を閉じた後で過熱が収まった場合に弁体511を、
図4に示す状態に戻す動作について説明する。
【0045】
図6は、弁体511を開放位置へと戻すときの内部構造を示す図である。
【0046】
弁体511を開放位置へと戻す場合には、ユーザがリセット板522を押し込む操作を行う。これによりリセット軸521はリセットばね523の付勢力に抗して内部へと進入し、リセット軸521の先端が弁体511を図の下方へと押し戻すこととなる。そして、バルブ軸512も下方へと進み、バルブ軸512の先が保持ばね516によって挟み込まれて保持される。この結果、弁体511は、連通口509を開放した状態で再び保持されることとなる。