特許第6078330号(P6078330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6078330炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078330
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20170130BHJP
   C30B 23/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B23/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-279448(P2012-279448)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122140(P2014-122140A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】古谷 優貴
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
(72)【発明者】
【氏名】鷹羽 秀隆
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266115(JP,A)
【文献】 特開2005−225710(JP,A)
【文献】 特開2009−293105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素種結晶上に炭化珪素の単結晶を成長させるための炭化珪素単結晶製造用坩堝であって、前記坩堝の内壁の少なくとも一部、黒鉛が圧縮されてなり、密着性および柔軟性を有する薄片状あるいは薄板状の黒鉛シートが貼着られていることを特徴とする炭化珪素単結晶製造用坩堝。
【請求項2】
前記黒鉛シートのガス透過率が10−4cm/s以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝。
【請求項3】
前記黒鉛シートの厚みが0.05mm以上1.5mm以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝を備えた炭化珪素単結晶製造装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝を用いて炭化珪素単結晶を製造する方法であって、前記坩堝の内壁の少なくとも一部に、黒鉛が圧縮されてなり、密着性および柔軟性を有する薄片状あるいは薄板状の黒鉛シート貼着して炭化珪素単結晶の成長を行うことを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記貼着を、カーボン接着剤を用いて行うことを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が大きく、エネルギーバンドギャップが広く、また、熱伝導度が高いなどの優れた特性を有するため、大電力パワーデバイス、耐高温半導体素子、耐放射線半導体素子、高周波半導体素子等への応用が可能である。シリコンが材料自体の物性限界から性能向上も限界に近づきつつあるため、シリコンよりも物性限界を大きくとれる炭化珪素が注目されている。また、近年は地球温暖化問題への対策の観点から、炭化珪素材料を使ったパワーエレクトロニクス技術が電力変換時のエネルギーロスを低減する省エネルギー技術として期待を集めている。その基盤技術として炭化珪素単結晶の成長技術の研究開発が精力的に進められている。
【0003】
炭化珪素単結晶を成長させる方法として、昇華再結晶法が広く用いられている。この方法は通常、黒鉛製坩堝(炭化珪素単結晶製造用坩堝)の底部に配した炭化珪素原料(粉末)を2000℃以上に加熱して昇華ガスとし、その昇華ガスを原料部より低温にした炭化珪素の種結晶上に再結晶化させることによって、種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させるものである(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
図10は、従来の典型的な炭化珪素単結晶製造装置100を示す。
単結晶成長装置100は、真空容器101の内部に断熱材102で覆われた黒鉛製坩堝103が配置され、真空容器101の外側に加熱手段110が配置されて概略構成されている。
【0005】
黒鉛製坩堝103の蓋部103aの台座104の下面104aに炭化珪素種結晶105が固定される。断熱材102には、黒鉛製坩堝103の下部表面および上部表面の一部が露出するように孔部102a、102bが形成されている。
【0006】
断熱材102を巻き付けた黒鉛製坩堝103は真空容器1の内部中央の支持棒106上に設置されている。支持棒106は筒状とされており、この支持棒106の孔部106aを断熱材102に設けた孔部102aと合わせるようにする。これにより、真空容器101の下に配置された放射温度計107により、この支持棒106の孔部106aおよび断熱材102の下側の孔部102aを通して、黒鉛製坩堝103の下部表面の温度を観測できる構成とされている。同様に、真空容器101の上に配置された別の放射温度計107により、断熱材102の上側の孔部102bを通して、黒鉛製坩堝103の上部表面の温度を観測できる構成とされている。
【0007】
真空容器101の内部のガス交換は、まず、排出管108に接続した真空ポンプ(図示略)を用いて、真空容器101の内部の空気を排気して、例えば、4×10−3Pa以下の減圧状態とする。真空ポンプとしては例えば、ターボ分子ポンプなどを用いることができる。その後、導入管109から真空容器101の内部に高純度Arガスを導入して、真空容器101の内部(炉内)を例えば、Ar雰囲気で9.3×10Paという環境とする。
【0008】
加熱手段110は例えば、高周波加熱コイルであり、電流を流すことにより高周波を発生させて、真空容器101内の中央に設置された黒鉛製坩堝103を例えば、1900℃以上の温度に加熱することができる。これにより、黒鉛製坩堝103内の炭化珪素原料粉末111を加熱して、炭化珪素原料粉末111から昇華ガスを発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2000/39372号
【特許文献2】特開2010−13296号公報
【特許文献3】特表2003−504296号公報
【特許文献4】特開平11−199395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、炭化珪素原料(粉末)からの昇華ガスとしてはSiCの他に主にSi、Si2 C、SiC2 等があり、黒鉛製坩堝103は、これらの昇華ガスとその内壁103Aとの相互作用、これらの昇華ガスの内壁への取り込み等により、炭化珪素単結晶の成長を繰り返すほどにその表面が劣化していく。この黒鉛製坩堝の内壁表面103Aの劣化により、黒鉛微粒子が坩堝の内部空間(空洞部)112に舞い、これが炭化珪素単結晶へのカーボンインクルージョンの原因となっていた。
この坩堝の内壁表面103Aの劣化を防ぐためにTaC(炭化タンタル)、WC(炭化タングステン)、NbC(炭化ニオブ)などで内壁を保護する方法が知られている(例えば、特許文献3、4)。これらは耐食性が強く、2000℃以上の高温下でも使用でき、坩堝の劣化防止の効果を発揮するが、非常に高価である。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、廉価な構成により、坩堝内壁の劣化及び坩堝内への黒鉛微粒子の飛散が抑制された炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
(1)炭化珪素種結晶上に炭化珪素の単結晶を成長させるための炭化珪素単結晶製造用坩堝であって、その内壁の少なくとも一部が、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートで被覆されていることを特徴とする炭化珪素単結晶製造用坩堝。
(2)前記黒鉛シートのガス透過率が10−4cm/s以下であることを特徴とする(1)に記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝。
(3)前記黒鉛シートの厚みが0.05mm以上1.5mm以下であることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝。
(4)(1)〜(3)のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶製造用坩堝を備えた炭化珪素単結晶製造装置。
(5)炭化珪素種結晶上に炭化珪素の単結晶を成長させるための炭化珪素単結晶製造用坩堝を用いて炭化珪素単結晶を製造する方法であって、前記坩堝の内壁の少なくとも一部に、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートで貼着して炭化珪素単結晶の成長を行うことを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
(6)前記貼着を、カーボン接着剤を用いて行うことを特徴とする(5)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法によれば、坩堝内壁の劣化を抑制し、炭化珪素単結晶へのカーボンインクルージョンを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を適用した炭化珪素単結晶製造用坩堝の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態を適用した炭化珪素単結晶製造装置の断面模式図である。
図3】坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積している様子を示す摸式である。
図4】比較例2の坩堝の内壁の状態を示す写真である。
図5】比較例3の坩堝の内壁の状態を示す写真である。
図6】実施例1の坩堝の内壁の状態を示す写真である。
図7】実施例2の坩堝の構成を説明するための断面模式図である。
図8】実施例3の坩堝の構成を説明するための断面模式図である。
図9】実施例4の坩堝の構成を説明するための断面模式図である。
図10】従来の典型的な炭化珪素単結晶製造装置の構成を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態である炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、昇華再結晶法、CVD法等の気相成長法に適用できるが、一例として昇華再結晶法を用いた場合を例にあげて説明する。
なお、以下の説明において参照する図面は、本実施形態の炭化珪素単結晶製造用坩堝及び炭化珪素単結晶の製造方法を説明する図面であって、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の炭化珪素単結晶製造用坩堝や炭化珪素単結晶製造装置の寸法関係とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示する材料や寸法等は一例であり、本発明は必ずしもそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
[炭化珪素単結晶製造用坩堝]
図1に、本発明の一実施形態を適用した炭化珪素単結晶製造用坩堝の断面模式図を示す。
炭化珪素単結晶製造用坩堝10は、炭化珪素種結晶上に炭化珪素の単結晶を成長させるための炭化珪素単結晶製造用坩堝であって、その内壁10aの少なくとも一部10aaが、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シート1で被覆されている。
【0017】
炭化珪素単結晶製造用坩堝(以下、単に坩堝ということがある)10は、空洞部2を備えている。
炭化珪素単結晶を結晶成長させる際には、坩堝10の空洞部内の下部2aに、炭化珪素種結晶5上に炭化珪素単結晶を結晶成長させるのに十分な量の炭化珪素原料4が収容される。炭化珪素原料4は通常、粉末の形態で収容される。空洞部2の上部には炭化珪素単結晶を結晶成長させるのに必要な空間が確保されている。この構成により、昇華再結晶法によって炭化珪素種結晶5の成長面5a上に炭化珪素単結晶6を結晶成長させることができる。
【0018】
炭化珪素単結晶製造用坩堝の材料としては、黒鉛に限定されない。例えば、炭化珪素または炭化珪素もしくはタンタルカーバイド(TaC)によって被覆された黒鉛からなるもの等を用いることができる。
また、炭化珪素単結晶製造用坩堝の形状や構成については特に制限はない。
【0019】
坩堝10の内壁10aの少なくとも一部10aaは、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シート1で被覆されている。
ここで、本発明の「黒鉛シート」における“黒鉛”はグラファイトとも呼ばれ、六方晶系に属し、亀の甲状の層状物質であり、層毎の面内は強い共有結合で炭素間が繋がっているが、層と層の間(面間)は弱いファンデルワールス力で結合している。本発明の「黒鉛シート」における“黒鉛”は人造黒鉛及び天然黒鉛を含み、また、それらを加工したものも含む。
また、本発明の「黒鉛シート」における“シート”とは、黒鉛製坩堝の内壁への密着性を確保できる程度の柔軟性を有する厚さを有する、薄片状あるいは薄板状の部材を意味する。具体的な厚さとしては0.05 〜3mmである。この範囲の厚さであれば、坩堝の内壁へ貼着する作業時に破れたり、裂けたりすることが生じにくく、また、坩堝の内壁への密着性を確保できる程度の柔軟性を有するからである。さらにその効果を高めるためには、好ましくは、0.1mm以上1.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以上0.6mm以下である。
【0020】
黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートは、通常の黒鉛(人造黒鉛及び天然黒鉛)よりも気密性が高いため、炭化珪素原料からの昇華ガスとの反応が、黒鉛製坩堝の内壁よりも進みにくく、その劣化速度が低い。そのため、この黒鉛シートで被覆された坩堝内壁の部位の劣化を抑制することができ、それにより、炭化珪素単結晶へのカーボンインクルージョンを低減することができる。
また、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートは、柔軟性を有しており、加工しやすく、膨張率差によるワレ等が生じない。黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートは、膨張黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートであることが、柔軟性に優れ好ましい。
また、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートは、従来、坩堝の内壁の劣化防止に用いられてきたTaC(炭化タンタル)、WC(炭化タングステン)、NbC(炭化ニオブ)等の材料に比べて廉価である。
さらにまた、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートは炭素のみで構成されているので炭素供給源となり、Si/C比の過剰な上昇を防ぐことができる。
【0021】
黒鉛シートとしては例えば、市販のものを挙げれば、PERMA−FOIL(登録商標:東洋炭素株式会社)、GRAFOIL(登録商標)がある。
【0022】
また、本発明で使用する黒鉛シートは、そのガス透過率が10−4cm/s以下であることが好ましい。この範囲のガス透過率であれば、カーボンインクルージョンがほぼゼロの炭化珪素単結晶を製造することが可能となる。ガス透過率は小さいほど、坩堝の内壁劣化抑制効果は大きいが、一般にガス透過率が小さいほど材料の変形に余裕がなく、柔軟性が低くなる。その観点から、ガス透過率は10−10cm/s以上であることが好ましく、より高い柔軟性を確保する観点からは10−7cm/s以上であることが更に好ましい。
【0023】
黒鉛シートは、坩堝の内壁の一部を被覆されていても、坩堝の内壁全面を被覆されていてもよい。坩堝の内壁のうち、特に劣化が大きい部分を、坩堝の使用前に予め黒鉛シートで被覆しておいてもよいし、また、坩堝の使用により劣化を生じた部分を黒鉛シートで被覆しておいて、劣化部分が空洞部に存在する昇華ガスに直接触れないようにしてインクルージョンを抑制してもよい。また、黒鉛製坩堝の内壁をコーティングしている場合には、コーティングされていないで黒鉛材料が露出している部分に黒鉛シートを被覆してもよい。
【0024】
黒鉛シートは、坩堝の使用前に坩堝の内壁を被覆されたものでも、坩堝の使用後に被覆されたものでもよい。
また、黒鉛シートは、異なる厚さのもので坩堝の内壁を被覆していてもよい。例えば、坩堝の内壁のうち、特に劣化が大きい部分は厚い黒鉛シート(限定するものではないが、例示すれば、0.5〜1mm)で被覆し、劣化が大きくない部分はそれより薄い黒鉛シート(限定するものではないが、例示すれば、0.1〜0.5mm)で被覆していてもよい。
【0025】
また、黒鉛シートで坩堝の内壁を被覆する方法は特に制限はないが、例えば、坩堝の内壁にカーボン接着剤を塗布し、黒鉛シートをそのカーボン接着剤の塗布部分に接着する方法がある。カーボン接着剤としては特に制限はないが、例示すると、日清紡株式会社製のカーボン接着剤「ST−201」、コトロニクス(COTRONICS)社製のカーボン接着剤「Resbond 931」が挙げられる。
【0026】
[炭化珪素単結晶製造装置]
図2は、本発明の一実施形態である炭化珪素単結晶製造装置の一例を示した断面模式図である。
本発明の炭化珪素単結晶製造装置は、本発明の炭化珪素単結晶製造用坩堝を用いる点が特徴であり、それ以外の構成としては公知の構成を用いることができる。
【0027】
炭化珪素単結晶製造装置20は、真空容器101の内部に断熱材102で覆われた黒鉛製坩堝1が配置され、真空容器101の外側に加熱手段110が配置されて概略構成されている。その他の構成については図10で示した構成と同様である。
【0028】
[炭化珪素単結晶の製造方法]
本発明の炭化珪素単結晶の製造方法は、炭化珪素種結晶上に炭化珪素の単結晶を成長させるための炭化珪素単結晶製造用坩堝を用いて炭化珪素単結晶を製造する方法であって、その坩堝の内壁の少なくとも一部に、黒鉛が圧縮されてなる黒鉛シートで貼着して炭化珪素単結晶の成長を行うことを特徴とする。
【0029】
黒鉛シートの貼着方法は特に制限はないが、カーボン接着剤を用いて行うことができる。カーボン接着剤は高温で炭化するので、炭化珪素単結晶に対する不純物を抑えることができる。また、特に坩堝として黒鉛製のものを用いる場合、黒鉛製坩堝と黒鉛シートの黒鉛同士の接合には高い接合強度を得ることができる。
カーボン接着剤を用いて黒鉛シートを坩堝の内壁に貼着した後、例えば、Ar雰囲気中で600〜1200℃で1〜10時間程度、加熱して炭化処理を行ってもよい。
【0030】
炭化珪素種結晶としては特に制限はないが、例示すれば、アチソン法、レーリー法、昇華法などで作られた円柱状の炭化珪素単結晶を短手方向に、例えば、厚さ0.3〜2mm程度で円板状に切断した後、切断面の研磨を行って成型したものを用いることができる。なお、この研磨の後に研磨ダメージを取り除くために、種結晶の最終仕上げとして、犠牲酸化、リアクティブイオンエッチング、化学機械研磨などを行う事が望ましい。さらに、その後、有機溶剤、酸性溶液またはアルカリ溶液などを用いて、種結晶の表面を清浄化することが好ましい。
【0031】
炭化珪素種結晶は例えば、坩堝を構成する蓋部の下面に配置する台座(図1の符号3)に固定する。固定方法は接着剤を用いて炭化珪素種結晶を台座に貼り付ける方法や、炭化珪素種結晶を機械的に台座に支持する方法等を用いることができる。
台座は蓋部と一体の部材であっても、蓋部と別個の部材であってもよい。
台座の材料としては例えば、黒鉛、緻密性黒鉛、グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイトなどの炭素材料やそれらの表面にタンタルカーバイドを被覆したものを用いることができる。また、台座の材料として炭化珪素を用いることもでき、その炭化珪素としては多結晶、単結晶、焼結材料などを用いることができる。さらにまた、台座の材料として高融点金属炭化物として、WC、ZrC,NbC,TiC,MoCを用いることができる。これらは、金属の表面を炭化させたものとして用いることもできる。
台座と種結晶の接着面は高度な平坦性が要求されるため、その材料は高度な平坦加工が可能であるものが望ましい。この観点からは緻密性黒鉛、グラッシーカーボンやパイロリティックグラファイト、炭化珪素が好ましく、さらには、種結晶との熱膨張率差に起因する歪を低減するため、種結晶と同等か、それに近い熱膨張率を持つ素材(材料)であることが望ましい。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の炭化珪素単結晶製造用坩堝及びを炭化珪素単結晶の製造方法を用いて炭化珪素単結晶を製造した実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(比較例1)
比較例1で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、かさ密度1.5〜2.0g/cmの黒鉛製の基材からなる円筒形部材であり、その内壁は保護材によって被覆されていない。坩堝は内径が100mmであり、高さが250mmであるものを用いた。
炭化珪素単結晶の成長は、図2に示した構成の炭化珪素単結晶成長装置を用いて行った。
炭化珪素単結晶製造用坩堝の下部に炭化珪素原料粉末を収容し、その炭化珪素原料粉末に対向するように坩堝の蓋部の下面に備えた台座上に、直径76mm(3インチφ)、厚さ0.8mmの炭化珪素種結晶をカーボン接着剤を用いて貼り付けた。
次いで、炭化珪素単結晶製造用坩堝を窒素(N2)、アルゴン(Ar)減圧不活性雰囲気中で2100〜2400℃に加熱した。この際,炭化珪素原料粉末側の温度を炭化珪素種結晶側の温度よりも20〜200℃高く設定し、温度差を駆動力として、種結晶上に炭化珪素単結晶を析出させ、これによって、厚さ20mmの炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、図3に摸式的に示すように、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉(図3の符号7)が炭化珪素原料上に堆積していた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、光学顕微鏡(走査型電子顕微鏡及びオージェ電子分光装置でもよい)で観察評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0034】
(比較例2)
比較例2で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝の内壁の一部をカーボン接着剤で保護したものである。
具体的には、坩堝内壁にカーボン接着剤(日清紡株式会社製「ST−201」(商品名))を坩堝の内壁の一部の30mm×30mmの範囲に塗布し、250℃加熱を施して樹脂化させることによって、内壁の一部を保護した。図4の点線A1で囲んだ部分がカーボン接着剤の塗布部分である。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していた。図4の写真の矢印A2で示すのが劣化して崩れ落ちた坩堝の内壁の一部であり、矢印A3が炭化珪素原料上に堆積していた黒鉛粉である。
図4に写真で示す通り、カーボン接着剤の塗布部分も塗布部分以外と同様に劣化して剥がれ落ちており、劣化を防止する効果は見られなかった。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0035】
(比較例3)
比較例3で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝の内壁の一部に、カーボン微粒子を含む高分子溶液を浸漬させて高密度化したものである。
具体的には、坩堝内壁に、カーボン微粒子(三菱化学社製「三菱カーボンブラック」)を含む高分子溶液(DIC社製「フェノール樹脂」)を坩堝の内壁の一部の30mm×30mmの範囲に浸漬させ、250℃加熱硬化させることによって、内壁の一部を高密度化した。図5の点線B1で囲んだ部分が高密度化部分である。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していた。図5の写真の矢印B2が炭化珪素原料上に堆積していた黒鉛粉である。
図5に写真で示す通り、高密度化した部分もその他の部分と同様に劣化し、剥がれ落ちており、劣化を防止する効果は見られなかった。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0036】
(実施例1)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁の劣化部分(図6の矢印C1で示す)に、黒鉛シートとして厚みが0.3mmの「PERMA−FOIL(登録商標:東洋炭素株式会社)」を30mm×30mmの正方形に切断したものを、カーボン接着剤として日清紡株式会社製のカーボン接着剤「ST−201」(商品名)を用いて貼着したものを用いた。図6の点線C2で囲んだ部分が黒鉛シートの貼着箇所である。なお、「PERMA−FOIL(登録商標)」は、ガス透過率が1.3×10−6cm/sである。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、カーボン接着剤を坩堝内壁に塗布し、その上に黒鉛シートを貼り付けて250℃で加熱・硬化させることによって行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
図6に写真で示す通り、炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部は劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していたが、黒鉛シートを貼り付けた部分は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0037】
(実施例2)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、図7に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁全面に黒鉛シート11を貼り付けたものである。黒鉛シート11としては、実施例1と同様の「PERMA−FOIL(登録商標)」を用いた。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0038】
(実施例3)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、図8に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁のうち、炭化珪素原料が収容されていない黒鉛の露出部全面に黒鉛シート21を貼り付けたものである。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0039】
(実施例4)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、図9に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝のうち、劣化が見られた部位全面に黒鉛シート31を貼り付けたものである。黒鉛シート31としては、実施例1と同様の「PERMA−FOIL(登録商標)」を用いた。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の炭化珪素単結晶製造用坩堝、炭化珪素単結晶製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法は、カーボンインクルージョンが低減された炭化珪素単結晶の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1、11、21、31 黒鉛シート
10 炭化珪素単結晶製造用坩堝
10a 内壁
10aa (黒鉛シートが被覆された)内壁の一部
20 炭化珪素単結晶製造装置
図1
図2
図3
図7
図8
図9
図10
図4
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図6