【実施例】
【0032】
以下に、本発明の炭化珪素単結晶製造用坩堝及びを炭化珪素単結晶の製造方法を用いて炭化珪素単結晶を製造した実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(比較例1)
比較例1で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、かさ密度1.5〜2.0g/cm
3の黒鉛製の基材からなる円筒形部材であり、その内壁は保護材によって被覆されていない。坩堝は内径が100mmであり、高さが250mmであるものを用いた。
炭化珪素単結晶の成長は、
図2に示した構成の炭化珪素単結晶成長装置を用いて行った。
炭化珪素単結晶製造用坩堝の下部に炭化珪素原料粉末を収容し、その炭化珪素原料粉末に対向するように坩堝の蓋部の下面に備えた台座上に、直径76mm(3インチφ)、厚さ0.8mmの炭化珪素種結晶をカーボン接着剤を用いて貼り付けた。
次いで、炭化珪素単結晶製造用坩堝を窒素(N
2)、アルゴン(Ar)減圧不活性雰囲気中で2100〜2400℃に加熱した。この際,炭化珪素原料粉末側の温度を炭化珪素種結晶側の温度よりも20〜200℃高く設定し、温度差を駆動力として、種結晶上に炭化珪素単結晶を析出させ、これによって、厚さ20mmの炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、
図3に摸式的に示すように、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉(
図3の符号7)が炭化珪素原料上に堆積していた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、光学顕微鏡(走査型電子顕微鏡及びオージェ電子分光装置でもよい)で観察評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0034】
(比較例2)
比較例2で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝の内壁の一部をカーボン接着剤で保護したものである。
具体的には、坩堝内壁にカーボン接着剤(日清紡株式会社製「ST−201」(商品名))を坩堝の内壁の一部の30mm×30mmの範囲に塗布し、250℃加熱を施して樹脂化させることによって、内壁の一部を保護した。
図4の点線A1で囲んだ部分がカーボン接着剤の塗布部分である。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していた。
図4の写真の矢印A2で示すのが劣化して崩れ落ちた坩堝の内壁の一部であり、矢印A3が炭化珪素原料上に堆積していた黒鉛粉である。
図4に写真で示す通り、カーボン接着剤の塗布部分も塗布部分以外と同様に劣化して剥がれ落ちており、劣化を防止する効果は見られなかった。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0035】
(比較例3)
比較例3で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝の内壁の一部に、カーボン微粒子を含む高分子溶液を浸漬させて高密度化したものである。
具体的には、坩堝内壁に、カーボン微粒子(三菱化学社製「三菱カーボンブラック」)を含む高分子溶液(DIC社製「フェノール樹脂」)を坩堝の内壁の一部の30mm×30mmの範囲に浸漬させ、250℃加熱硬化させることによって、内壁の一部を高密度化した。
図5の点線B1で囲んだ部分が高密度化部分である。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
この炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部が劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していた。
図5の写真の矢印B2が炭化珪素原料上に堆積していた黒鉛粉である。
図5に写真で示す通り、高密度化した部分もその他の部分と同様に劣化し、剥がれ落ちており、劣化を防止する効果は見られなかった。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部に10〜500μm程度のカーボンインクルージョンが多数観察された。
【0036】
(実施例1)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁の劣化部分(
図6の矢印C1で示す)に、黒鉛シートとして厚みが0.3mmの「PERMA−FOIL(登録商標:東洋炭素株式会社)」を30mm×30mmの正方形に切断したものを、カーボン接着剤として日清紡株式会社製のカーボン接着剤「ST−201」(商品名)を用いて貼着したものを用いた。
図6の点線C2で囲んだ部分が黒鉛シートの貼着箇所である。なお、「PERMA−FOIL(登録商標)」は、ガス透過率が1.3×10
−6cm
2/sである。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、カーボン接着剤を坩堝内壁に塗布し、その上に黒鉛シートを貼り付けて250℃で加熱・硬化させることによって行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
図6に写真で示す通り、炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁の一部は劣化して崩れ落ち、黒鉛粉が炭化珪素原料上に堆積していたが、黒鉛シートを貼り付けた部分は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0037】
(実施例2)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、
図7に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁全面に黒鉛シート11を貼り付けたものである。黒鉛シート11としては、実施例1と同様の「PERMA−FOIL(登録商標)」を用いた。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0038】
(実施例3)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、
図8に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝と同じ坩堝の内壁のうち、炭化珪素原料が収容されていない黒鉛の露出部全面に黒鉛シート21を貼り付けたものである。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。
【0039】
(実施例4)
本実施例で用いた炭化珪素単結晶製造用坩堝は、
図9に摸式的に示すように、比較例1で用いた坩堝のうち、劣化が見られた部位全面に黒鉛シート31を貼り付けたものである。黒鉛シート31としては、実施例1と同様の「PERMA−FOIL(登録商標)」を用いた。
黒鉛シートの坩堝内壁への貼着は、実施例1と同様の方法で行った。
この坩堝を用い、比較例1と同様の方法によって炭化珪素単結晶を得た。
炭化珪素単結晶の成長後、坩堝の内壁は劣化しておらず、表面が保護されていた。
また、得られた炭化珪素単結晶をスライスし、比較例1と同様の方法で評価したところ、結晶内部にカーボンインクルージョンは観察されなかった。