(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078397
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】作動液
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20170130BHJP
C10M 105/14 20060101ALN20170130BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20170130BHJP
C10M 107/34 20060101ALN20170130BHJP
C10M 155/02 20060101ALN20170130BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20170130BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
C10M169/04
!C10M105/14
!C10M105/18
!C10M107/34
!C10M155/02
C10N30:06
C10N40:08
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-73464(P2013-73464)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196443(P2014-196443A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】加賀 伸行
(72)【発明者】
【氏名】木村 純一朗
【審査官】
▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭41−016289(JP,B1)
【文献】
特開2011−225661(JP,A)
【文献】
特開昭61−264097(JP,A)
【文献】
特開昭57−070196(JP,A)
【文献】
米国特許第04420409(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M,C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類を基材とする作動液であって、水を含有せず、エポキシ基、メタクリル基、メルカプト基のいずれか、あるいは、ポリエーテル基及びアミノ基を有する変性シリコーンオイルを含有する作動液。
【請求項2】
前記変性シリコーンオイルが式(1)の構造を持つ請求項
1に記載の作動液。
X:
エポキシ基、メタクリル基、メルカプト基のいずれか、あるいは、ポリエーテル基及びアミノ基
R
1、R
2:炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、上記Xと同じ極性基、又は上記Xで示される極性基を有する炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、から選ばれる基
R
3、R
4:メチル基又はフェニル基
l、m、nは共に1以上であり、l+m+nは2000以下である。
【請求項3】
前記変性シリコーンオイルの添加量が0.002〜1.0重量%である特徴とする請求項1又は2に記載の作動液。
【請求項4】
防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤の1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の作動液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール類を基材とする作動液に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧式自動車用ブレーキシステムは、マスターシリンダのピストンの摺動によりホイルシリンダへ液圧を伝達する機構となっている。従来、これらのシリンダ部品は、シリンダ、ピストン、ゴムカップ等から構成され、その材質は、アルミニウム、鋳鉄、鋼等の金属とゴム類であった。
また近年、車輌の軽量化のために、これらの部品において、金属製に代わりプラスチック製のものが使用されている。
しかし、一般的にプラスチックとゴムの潤滑性は、金属とゴムの潤滑性より悪く、スティックスリップによる異音の発生が問題となっている。
このため、潤滑性を向上させるために、特許文献1には、ブレーキ液としてリン酸エステルと脂肪酸とを併用することが記載されている。潤滑性は脂肪酸の炭素数が多いほど向上する傾向にあるが、十分な潤滑性を得ることは困難であった。
【0003】
また、特許文献2には、一般式(RO)
2 P(O)OHおよび(RO)P(O)(OH)
2 で表されるリン酸エステル混合物とグリコール類を含有する自動車用ブレーキ液が記載されており、その自動車用ブレーキ液によれば摩擦係数の低減や摺動面の傷発生防止効果を奏するとされているが、スティックスリップの発生防止を目的としたものではない。
特許文献3には、ブレーキ液にリン酸エステルを配合することが記載されているが、具体的に示唆されているリン酸エステルとしてはエチルホスフェート、ジメチルホスフェート等であり、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの繰り返し構造を有するものは使用されていないし、スティックスリップ発生防止を目的としたものではない。
そしてこれらの作動液はいずれもシリコーンオイルを含有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/053641
【特許文献2】特開平10−36869号公報
【特許文献3】特表2010−540728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は作動液においてスティックスリップ発生防止にみられる潤滑性向上と耐寒性向上の性質を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.グリコール類を基材とする作動液であって、極性基を有する変性シリコーンオイルを含有する作動液。
2.前記極性基がアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ポリエーテル基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシ基のいずれかである1に記載の作動液。
3.前記変性シリコーンオイルが式(1)の構造を持つ1又は2に記載の作動液。
X:極性基
R
1、R
2:炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、上記Xと同じ極性基、又は上記Xで示される極性基を有する炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、から選ばれる基
R
3、R
4:メチル基又はフェニル基
l、m、nは共に1以上であり、l+m+nは2000以下である。
4.前記変性シリコーンオイルは、極性基としてポリエーテル基と該ポリエーテル基以外の極性基を有するものである1〜3のいずれかに記載の作動液。
5.前記その他の極性基がアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシ基のいずれかである4に記載の作動液。
6.前記変性シリコーンオイルの添加量が0.002〜1.0重量%であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の作動液。
7.防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤の1種以上を含有する1〜6のいずれかに記載の作動液。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作動液のスティックスリップ発生防止にみられる潤滑性向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本発明の作動液の用途)
本発明の作動液は、液圧作動用流体として例えば自動車用ブレーキ液やクラッチ液、各種産業機器のシリンダ用の作動液等の油圧伝達媒体として使用することができる。
以下、具体的に本発明について述べる。
【0009】
(グリコール類)
本発明におけるグリコール類は、作動液の基材となるものである。
そのようなグリコール類としては、例えば、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、n=4もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、又はそれらの2種以上の組み合わせを含むものを使用できる。
なかでも、好ましいグリコール成分は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、n=4もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)の組み合わせ(例えば、混合物)を含むものから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
また、上記グリコール類はそのホウ酸エステルであってもよい。グリコール類のホウ酸エステルとしては、例えばトリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)のホウ酸エステル又はそれらの2種以上の組み合わせを含むものを使用できる。
【0010】
(ポリオール類)
上記グリコール類に加えてその他のポリオール類を添加することもできる。
そのようなポリオール類としては、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。該ポリオール類の含有量としては、作動液中0〜30重量%である。
(その他配合できる基材)
その他配合できる基材としては、例えば水、アルコールが挙げられる。
【0011】
アルコールとしては、一価アルコール及び多価アルコールが挙げられる。一価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、及び2−メチル−2−ブタノールが挙げられる。多価アルコールとしては、グリコール及びグリセリンが挙げられる。グリコールとしては、例えばモノエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、及びジエチレングリコールが挙げられる。
【0012】
本発明にて使用する変性シリコーンオイルは以下の式(1)に示されるものである。
X:極性基
R
1、R
2:炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、上記Xと同じ極性基、又は上記Xで示される極性基を有する炭素数が1〜30のアルキル基、アルコキシ基、から選ばれる基
R
3、R
4:メチル基又はフェニル基
l、m、nは共に1以上であり、l+m+nは2000以下である。
【0013】
上記式(1)に示される変性シリコーンオイルにおけるXは極性基であり、例えば、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ポリエーテル基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシ基から選ばれる1種以上である。
中でもXとしては、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、ポリエーテル基とアミノ基からなるものが好ましい。
また、Xは上記の極性基がケイ素原子に直接結合した基でも良く、また、アミノアルキル基やアミノフェニル基、ヒドロキシエチル基等の、炭化水素基に上記の極性基が結合してなる基でもよい。
【0014】
上記式(1)に示される変性シリコーンオイルにおけるR
1とR
2は、同じでも異なっていても良く、アルキル基またはアルコキシ基、上記Xで示される極性基を有する基、又は上記Xで示される極性基を有する炭素数が1〜30のアルキル基又はアルコキシル基から選ばれる基である。
なおここで、上記Xで示される極性基を有する基とは、極性基がケイ素原子に直接結合したものではなく、アルキレン基等を介して接合した状態を示す。
このため、アルキル基及びアルコキシ基としてはいずれも炭素数が1〜30であり、上記Xで示される極性基に包含される基によって置換されていてもよい。
上記式(1)に示される変性シリコーンオイルにおけるR
1とR
2は上記Xで示される極性基であっても良い。
また、上記式(1)に示される変性シリコーンオイルにおけるR
3、R
4は、同じでも異なっていても良く、メチル基又はフェニル基である。
このようなシリコーンオイルとして、信越化学工業製のX22-3939A(X:アミノ基およびポリエーテル基 R1〜R4:メチル基)、X22-2000(X:エポキシ基 R1、R2:メチル基 R3、R4:どちらか一方がフェニル基、もう一方がメチル基)、KF-393(X:アミノ基 R1〜R4:メチル基)等を使用することができる。
そして、このような変性シリコーンオイルは作動液中に0.002〜1.0重量%となるように添加されることが望ましく、さらに望ましくは、0.005〜0.7重量%、よりこの望ましくは0.01〜0.3重量%である。
作動液中の変性シリコーンオイルの添加量が0.002重量%未満であると潤滑性を十分に向上させることができず、スティックスリップが発生する。また1.0重量%を超えて添加しても、さらに潤滑性と耐寒性を向上させることができない。
【0015】
(その他添加剤)
本発明の作動液には、用途等に応じて潤滑剤、耐磨耗剤、粘度調整剤、殺菌剤、消泡剤、防錆剤、酸化防止剤、極圧剤、pH調整剤、染料の1種以上を含有させることができる。
【0016】
(実施例)
下記表1に記載の組成に基づいて、本発明の実施例1〜4の作動液及び比較例1〜3の作動液を調製し、これらの作動液に対してスティックスリップ発生試験を行った。
これらの実施例及び比較例にて使用した作動液の組成と、これらの試験結果を以下の表1に示す。表1中の数値は重量部を示す。
【0017】
(スティックスリップ発生試験)
新東科学株式会社製 トライボギア14FWにより、ポリアミド樹脂とゴムシートをブレーキ液に浸し、その間のスティックスリップ(びびり音)発生の有無を、垂直荷重10N、すべり速度700mm/minで評価した。このスティックスリップの発生の有無を確認することにより潤滑性が良好であるか否かを確認することができる。
【0019】
変性シリコーンオイルA 信越化学工業製 X22-3939A (アミノ及びポリエーテル変性シリコーンオイル)
変性シリコーンオイルB 信越化学工業製 X22-2000(エポキシ変性シリコーンオイル)
変性シリコーンオイルC 信越化学工業製 KF-393(アミノ変性シリコーンオイル)
シリコーンオイルA 信越化学工業製 KF-96-100CS
シリコーンオイルB 信越化学工業製 KF-96-5000CS
【0020】
表1に示すように、変性シリコーンオイルを添加した実施例1〜4の作動液によるとスティックスリップが発生せず、これらの作動液は良好な潤滑性を有することを確認できる。
しかしながら、変性シリコーンオイルを添加しない他は実施例1〜4と同じ組成の、比較例1の作動液は、スティックスリップが発生するので、潤滑性が良好ではないことが確認できる。
また、変性シリコーンオイルに代えて、変性されていないシリコーンオイルA又はBを添加した比較例2及び3の作動液によっても、比較例1の作動液と同様にスティックスリップが発生するので、潤滑性が良好ではないことが確認できる。
上記の結果によれば、本発明はグリコールを基材とする作動液に単にシリコーンオイルを添加すればよいものではなく、変性シリコーンオイルを選択し、添加することが必要である。