(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載された水平ダイレクトプレス方式を利用してプレス成形したところ、複数の磁気ディスク用ガラスブランク(以下、適宜単に「ガラスブランク」という。)の平面度のばらつきが大きくなることがわかった。具体的には、ガラスブランクの主表面に高さ3〜5μm程度のシワが観測され、このシワの程度の個体差によってガラスブランクの平面度のばらつきが大きくなることがわかった。このようなシワの発生は、平面度のばらつきを悪化させるのみならず外観上も好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、水平ダイレクトプレス方式によって磁気ディスク用ガラスブランクを製造する場合に、磁気ディスク用ガラスブランクの主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制できるようにした磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法、及び当該磁気ディスク用ガラスブランクを基にした製造磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の水平ダイレクトプレス方式を利用してプレス成形して複数の磁気ディスク用ガラスブランクを製造した場合に、主表面の平面度のばらつきが大きくなる原因について発明者らが鋭意検討したところ、ガラスブランクの主表面の平滑性を向上させるために型のプレス成形面の平面度及び表面粗さを極めて小さくしたことが原因であると考えられた。発明者らの推定原因を
図1Aおよび
図1Bを参照して説明すると、以下の通りである。
水平ダイレクトプレス方式では、落下中の溶融ガラスの塊を一対の型で捕らえて連続的に挟み込む方式であるため、一対の型を水平方向に高速で移動させて型を開状態から閉状態にする必要があり、溶融ガラスの塊はプレス成形面上で高速で薄板状に押し広げられる。特に、型のプレス成形面に溶融ガラスの塊が接してから一対の型が閉じられるまで0.2秒以内であり、この短時間でガラスが伸びきる。
プレス後のガラスブランクの残留歪みを低下させるためには、型をガラス転移点以上の温度とした状態でプレスを行うことが有効であるが、この場合、一対の型が閉じられた後の溶融ガラスは、プレス成形面上で薄板状に伸びきった状態で、かつ粘性流動可能な状態で金型間に一定期間保持される。溶融ガラスが伸びきった状態で金型間に保持されているときには、溶融ガラスから金型への熱の移動が生じ、溶融ガラスは急速に冷却されながら固化するが、この冷却に伴ってガラスの収縮が生ずる。
図1Aは、従来の水平ダイレクトプレス方式によって成形される溶融ガラスの、冷却による収縮前後の状態の変化を示す図である。
図1Aでは、収縮前後の薄板状の溶融ガラスの平面図を示している。
図1Aにおいて、(a)は収縮前の状態を、(b)は収縮後の状態を示す。
図1A(a)の収縮前の溶融ガラスの平面図において、矢印は溶融ガラスが収縮する方向を示している。つまり、薄板状の溶融ガラスの冷却による収縮は、外縁から中心に向かう方向(半径方向)と、周方向とで行われる。図示しないが、溶融ガラスの板厚方向にも収縮が行われる。その結果、
図1A(b)に示すように、収縮後の溶融ガラスは、収縮前の状態と比べて外径が小さくなる。
【0009】
上述した溶融ガラスの収縮の過程において、特にプレス成形面が平滑面(例えば表面粗さRaで0.25μm以下の状態)である場合には、平面度を悪化させるシワが生じやすくなると考えられる。
図1Bに、
図1AのS−S断面の、冷却による収縮前後の溶融ガラスの状態の変化を示す。
図1Bにおいて、(a)は収縮前の状態を、(b)は収縮後の状態を示す。
図1B(b)に示すように、溶融ガラスの収縮後において、収縮するガラスの方向が相対する箇所では局所的にガラスの逃げ場が無くなって膨れた状態となる。特に、プレス成形面が平滑面の場合には、プレス成形面上で溶融ガラスが伸びきった収縮前の状態で、溶融ガラスとプレス成形面の密着度合いが高くなっており、収縮時のガラスの板厚方向の逃げ場がほとんどないことから、
図1B(b)に示す状態となりやすい。収縮するガラスの方向が相対することによる板厚方向の膨れが、プレス成形面に沿ったガラス面上の様々な箇所で生ずることで、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが観測されたと考えられる。また、このシワの高さやシワが形成される範囲は、一方の金型と他方の金型の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるものと考えられる。
【0010】
上述した推定原因に基づき発明者らは、水平ダイレクトプレス方式において、成形されるガラスブランクにもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することを目的として鋭意研究した結果、一対の型のプレス成形面で溶融ガラスの塊を挟み込む際の一対の型のプレス成形面の温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とし、かつプレス成形面の表面を粗面とした金型を用いてプレス成形することで、上記目的が達成できることを見出した。
プレス成形面の温度がプレスを開始する際にガラス転移点未満である場合、プレス中における溶融ガラスの厚さ方向の温度分布が生じ、成形されたガラスブランク内の残留応力が発生しやすい。ガラスブランクの内部に残留応力が生じている場合には、後加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。また、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(除冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消されるが、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、逆にガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)という問題が生じる。そこで、これらの問題を回避するために、プレスを開始する際に一対の型のプレス成形面の温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とする。それによって、溶融ガラスの厚さ方向の温度分布を小さくすることができ、成形されたガラスブランク内の残留応力を小さくすることができる。
一方、プレスを開始する際の一対の型のプレス成形面の温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とすることで、プレス中の溶融ガラスは粘性流動しやすい状態となるが、そのような状態でも、型のプレス成形面の表面粗さRaを0.4μm以上とすることで、上述したシワが生じ難くなる。つまり、溶融ガラスが伸びきって金型間に保持された状態で、冷却に伴うガラスの収縮が生じたときに、プレス成形面の凹凸が溶融ガラスの逃げ場として機能するため、
図1B(b)に示した膨れが生じ難くなり、ガラスブランクの主表面にシワが発生することが抑制され、シワの発生に起因するガラスブランクの平面度のばらつきが抑制される。結果として、磁気ディスク用ガラスブランクの主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することができる。
【0011】
上述した観点から、本発明の第1の観点は、磁気ディスク用ガラス基板の製造に用いられるガラスブランクを製造するための磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法であって、溶融ガラスの塊を一対の型のプレス成形面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程を有し、前記プレス工程では、前記一対の型のプレス成形面で前記溶融ガラスの塊を挟み込む際の前記一対の型のプレス成形面の温度を前記溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度とし、前記プレス成形面の表面粗さRaが0.4μm以上の型を用いてプレス成形することを特徴とする。
【0012】
上記磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法において、前記プレス成型面の平面度が4μm以下であることが好ましい。
【0013】
上記磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法において、溶融ガラス供給口から供給された溶融ガラス流を切断し、溶融ガラスの塊を落下させる切断工程をさらに有し、前記プレス工程では、落下中の前記溶融ガラスの塊を前記一対の型のプレス面でプレスしてもよい。
【0014】
上記磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法において、前記ガラスブランクを、前記一対の型のプレス成形面を離間させて取り出す取出工程をさらに有し、前記取出工程では、前記一対の型を離間させる際に、前記一対の型の間に空気流を吹きつけて、前記一対の型から前記ガラスブランクを落下させてもよい。
【0015】
上記磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法において、前記プレス工程は、前記溶融ガラスの塊を前記一対の型のプレス成形面によって挟み込み、ガラスブランクを所定の厚さにするための1次プレス工程と、前記1次プレス工程後に行われ、前記1次プレス工程でのプレス圧力よりも小さなプレス圧力で前記ガラスブランクを前記一対の型のプレス成形面間で、前記1次プレス工程のプレス時間よりも長い時間プレスする2次プレス工程とを含んでいることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の観点は、上記磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法によって製造されたガラスブランクから磁気ディスク用ガラス基板を製造する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
上述の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、水平ダイレクトプレス方式によって磁気ディスク用ガラスブランクを製造する場合に、磁気ディスク用ガラスブランクの主表面にもとめられる平面度を確保しつつそのばらつきを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
[磁気ディスク用ガラス基板]
磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラスブランクは、薄板であって円形形状からなり、磁気ディスク用ガラス基板の製造に用いられるプレス成形品のガラス素材ある。図示しないが、磁気ディスク用ガラス基板は、その中心に内孔が形成された、ドーナツ型の薄板のガラス基板である。
磁気ディスク用ガラス基板の大きさは特に限定するものではないが、例えば、外径(φ)と厚さの組合せとして、φ65mm(公称2.5インチ)−1.27mm厚、φ65mm−0.8mm厚、φ65mm−0.635mm厚、φ95mm(公称3.5インチ)−0.5mm厚などである。
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0021】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板に用いられるガラス材料の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、必須成分として、SiO
2、Li
2O、Na
2O、ならびに、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物を含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下であって、ガラス転移点が650℃以上であるアモルファスのアルミノシリケートガラスであってもよい。
このような組成の磁気ディスク用ガラス基板は、Tgが650度以上であり耐熱性が高いのでエネルギーアシスト磁気記録用磁気ディスクに使用される磁気ディスク用ガラス基板に好適である。
【0022】
本明細書でいう平面度とは、JIS B0621で規定する平面度を意味し、具体的には、ガラス表面の表面凹凸であって、ガラスブランクの表面を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の二平面間の間隔である。平面度は、例えば、フラットネステスターを用いて測定することができる。
本実施形態で作製されるガラスブランクの平面度は、好ましくは4μm以下である。
【0023】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0024】
(1)プレス成形工程
先ず、プレス成形工程について説明する。プレス成形工程は、切断工程とプレス工程と取出工程を含む。
溶融ガラス流が溶融ガラス供給口から所定の量流出したとき、溶融ガラス流を切断ユニットにより切断することによって、溶融ガラスの塊を落下させる。落下する溶融ガラスの塊を水平方向に移動する一対の金型で挟み込んで、落下中の溶融ガラスの塊を水平方向から一対の金型のプレス成形面によって挟むことによりプレスしてガラスブランクを成形する水平ダイレクトプレス方式が用いられる。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。プレスの際、一対の金型のプレス成形の温度が互いに揃うように溶融ガラスの塊がプレスされる。このような水平ダイレクトプレス方式については、後述する。
【0025】
(2)スクライブ工程
次に、スクライブ工程について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形されたガラスブランクに対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状のガラス基板とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含んだスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスブランクの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、円形状の孔があいたリング状のガラス基板が得られる。なお、ガラスブランクに対してコアドリル等を用いて内外周加工して円孔を形成することにより円形状の孔があいたディスク状のガラス基板を得ることもできる。
【0026】
(3)形状加工工程、及び端面研磨工程
次に、形状加工工程について説明する。形状加工工程では、スクライブ工程後のガラス基板の端部に対するチャンファリング加工(外周側端面および内側端面の面取り加工)を含む。チャンファリング加工は、スクライブ工程後のガラス基板の外周側端面および内側端面において、ダイヤモンド砥石により面取りを施す形状加工である。この形状加工により所定の形状をしたガラス基板が生成される。面取りの傾斜角度は、主表面に対して例えば40〜50度であり、約45度であることが好ましい。次に、端面研磨工程を説明する。端面研磨では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリが用いられる。
【0027】
(4)固定砥粒による研削工程
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。
図2は、両面研削装置100を説明する図である。具体的には、ガラスブランクから生成されたガラス基板2の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板2の両側の主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤104(
図2参照)及び下定盤102(
図2参照)の間にガラス基板2が狭持される。そして、上定盤104または下定盤102のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板2と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス基板2の両主表面を研削することができる。
【0028】
図2に示す両面研削装置100は、下定盤102、上定盤104、インターナルギヤ106、キャリヤ(保持部材)108、及び太陽ギヤ112、を有する。両面研削装置100は、下定盤102と上定盤104との間に、インターナルギヤ106を上下方向から挟む。インターナルギヤ106内には、研削時に複数のキャリヤ108が保持される。
図2では、4つのキャリヤ108が保持されている。下定盤102および上定磐104に平面的に接着した図示されないダイヤモンドシートの面が研削面となる。すなわち、ガラス基板2は、ダイヤモンドシートを用いた固定砥粒による研削が行われる。
【0029】
(5)第1研磨工程
必要に応じて適宜主表面の研削工程を実施した後、研削されたガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、固定砥粒による研削等により主表面に残留したキズ、歪みの除去、表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
第1研磨工程では、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いてガラス基板の主表面に対する研磨を行う。両面研磨装置は、上定盤および下定盤を有している。下定盤の上面および上定盤の底面には、研磨パッドが取り付けられている。上定盤および下定盤の間に、キャリヤに収容した1又は複数のガラス基板が狭持され、研磨剤を含む遊離砥粒を供給しながら、遊星歯車機構により、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることで、このガラス基板の両主表面を研磨することができる。
【0030】
(6)化学強化工程
さらに、必要に応じて、ガラス基板は化学強化されてもよい。
化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硫酸ナトリウムの混合塩の溶融液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラス基板が、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラス基板が化学強化液中に、例えば1時間〜5時間浸漬される。
このように、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。
【0031】
(7)第2研磨(最終研磨)工程
次に、十分に洗浄されたガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子が用いられる。これにより、ガラス基板の主表面の表面粗さをさらに低減でき、端部形状を好ましい範囲に調整できる。
研磨されたガラス基板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0032】
[プレス成形工程の詳細説明]
次に、プレス成形工程について詳細に説明する。プレス成形工程は、溶融ガラスの塊を溶融ガラス流から切り出す切断工程と、一対の型のプレス面によって挟み込むことにより、ガラスブランクを成形するプレス工程と、このガラスブランクを、一対の型のプレス面を離間させて取り出す取出工程と、を含む。プレス工程は、溶融ガラスの塊を板状のガラスブランクとするための1次プレス工程と、このガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程に用いたプレス成形面のプレス圧力よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する2次プレス工程と、を含む。
【0033】
(a)切断工程
切断工程では、プレス成形の対象物である溶融ガラスの塊を作製する。溶融ガラスの塊の作製方法としては特に限定されないが、通常は、溶融ガラスをガラス流出口から垂下させて溶融ガラス流をつくり、鉛直方向の下方側へと連続的に流出する溶融ガラス流の先端部を切断することで、溶融ガラスの塊を形成する。なお、溶融ガラス流からその先端部を分離するように実施される切断には、一対のシアブレードを用いることができる。
【0034】
図3は、本実施形態の切断工程の一例を説明する図である。
切断工程では、
図3に示すように、上端部が図示されない溶融ガラス供給源に接続された溶融ガラス流出管10の下端部に設けられたガラス流出口12から、溶融ガラス流20を鉛直方向の下方側へと連続的に流出させる。一方、ガラス流出口12よりも下方側には、溶融ガラス流20の両側に、各々、第1のシアブレード(下側ブレード)30と、第2のシアブレード(上側ブレード)40とが、溶融ガラス流20の垂下する方向の中心軸Dに対して略直交する方向に、配置されている。下側ブレード30および上側ブレード40は、各々、中心軸Dに対して直交するX1方向、および、中心軸Dに対して直交するX2方向に移動することで、溶融ガラス流20の両側から、溶融ガラス流20の先端部22側へと接近する。なお、溶融ガラス流20の粘度は、溶融ガラス流出管10や、その上流の溶融ガラス供給源の温度を調整することで制御される。
【0035】
下側ブレード30、上側ブレード40は、先端部に刃部34、44を有する。鉛直方向に対して、刃部34の上面34Uと、刃部44の下面44Bとは、略同程度の高さ位置となるように、下側ブレード30および上側ブレード40が配置される。
【0036】
溶融ガラス流20の切断時、下側ブレード30および上側ブレード40を、各々、X1方向およびX2方向に移動させる。これにより、刃部34の上面34Uと刃部44の下面44Bとが、部分的にほぼ隙間無く重なり合う。すなわち、中心軸Dに対して下側ブレード30および上側ブレード40を垂直に交差させる。これにより、溶融ガラス流20に対して、その中心軸Dの近傍まで下側ブレード30および上側ブレード40が貫入して、先端部22が、略球状の溶融ガラスとして切断される。切断されて生成された溶融ガラスの塊は、
図3に示す鉛直方向下方であるY1方向に落下する。
【0037】
(b)1次プレス工程
図4〜6は、1次プレス工程を説明する図である。
1次プレス工程では、落下中の溶融ガラスの塊24を、塊24の落下方向に対して交差する方向に対向配置された第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60によりプレスし、板状のガラスブランクを成形する。ここで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60は、塊24の落下方向(Y1方向)に対して略90度(90度±1度)の範囲内の角度を成すように略直交する方向に対向配置されていることが好ましく、溶融ガラスの塊24の落下方向に対して直交する方向に対向配置されていることが特に好ましい。このように溶融ガラスの塊24の落下方向に対して一対のプレス成形型を対向配置することにより、溶融ガラスの塊24を両側から均等にプレスして板状のガラスブランクに成形することがより容易となる。
【0038】
第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aは、その全域、あるいは、溶融ガラスの塊24が接触する領域の表面粗さRaが0.4μm以上である。プレス成形面52A、62Aの表面粗さRaを0.4μm以上とするのは、後述するように、1次プレスにおいて溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A、62Aに接触して薄板状に押し広げられてから冷却に伴って収縮するときに、溶融ガラスの一部をプレス成形面の凹凸に入り込ませるためである。それによって、成形されたガラスブランクの平面度のばらつきを悪化させるシワの発生が抑制される。
なお、プレス成形面52A、62Aの平面度を4μm以下とするのが好ましい。プレスによって転写されるガラスブランクの主表面の平面度が磁気ディスク用ガラス基板にもとめられる目標平面度(例えば4μm以下)に近くなるため、後工程の研削工程における取しろを少なくすることができるためである。
【0039】
1次プレス工程を実施する直前における、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱され平衡状態にあることが好ましい。プレス成形面の温度を、上述した範囲内とすることにより、後述するように、溶融ガラスの塊24において温度分布があったとしても、後述する2次プレス工程において、ガラス転移点以上の温度で、ガラスブランクの温度分布を略均一にすることができる。これにより、温度分布が略均一になったガラスブランクを第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60から取り出して、大気中で放冷することにより、残留応力の少ないガラスブランクを作製することができる。プレス成形面の温度を屈服点未満とするのは、ガラスブランクをプレス成形型から離型した後に平面度が大きく悪化してしまうことを防ぐためである。
【0040】
次に、金型を構成する第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60について、
図3を参照しながら説明する。第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、例えば超硬合金などで構成されることが、機械的強度及び後述する熱伝導度を高くする点で好ましい。第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、略円盤形状を有するプレス成形型本体52、62と、このプレス成形型本体52、62の外周端を囲うように配置されたガイド部材54、64とを有する。なお、
図3は断面図であるため、
図3中において、ガイド部材54、64は、プレス成形型本体52、62の上下両側に位置するように記されている。また、プレス成形型50をX1方向へ移動させ、第2のプレス成形型60をX2方向に移動させるように、第1のプレス成形型50及び第2のプレス成形型60は、図示されない駆動装置と機械的に接続されている。
【0041】
プレス成形型本体52、62の一方の面は、それぞれプレス成形面52A、62Aとなっている。プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとは互いに対向するように配置されている。ガイド部材54には、プレス成形面52Aに対してX1方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面54Aが設けられ、ガイド部材64には、プレス成形面62Aに対してX2方向に少しだけ突出した高さ位置にガイド面64Aが設けられている。このため、プレス成形に際しては、ガイド面54Aとガイド面64Aとが突き当たり接触するため、プレス成形面52Aとプレス成形面62Aとの間には隙間が形成される。この隙間の厚さが、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60との間でプレスされてガラスブランクの厚さとなる。なお、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60によるプレスにより、溶融ガラスの塊24が押し広げられてガラスブランクとなるときのプレス成形面52A、62Aの領域である溶融ガラス延伸領域S1を含むプレス成形面52A、および、溶融ガラス延伸領域S2を含むプレス成形面62Aの全面が、曲率が0である平坦面を成している。
図3中の第1のプレス成形型50のプレス成形本体52のプレス成形面52Aと反対側には、第1の押出部材56及び第2の押出部材58が設けられている。
【0042】
第1の押出部材56の一方の押出面56Aは、プレス成形型本体52の端面である被押出面52Bとガイド部材54の端面である押出面54Bとに接触している。また、プレス成形型本体52の被押出面52Bに対向する領域の一部に、第1の押出部材56の厚み方向に貫通する貫通穴56Hが設けられている。なお、押出面56Aと反対側の面56Bは、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置によって、第1の押出部材56を介して、プレス成形型本体52とガイド部材54とを同時に、図中の軸方向Xの第1の押出部材56が配置された側からプレス成形型本体52およびガイド部材54が配置された側へと押し出すことができる。これにより、第1の押出部材56からプレス成形型本体52にプレス圧力となる押圧荷重が与えられる。
【0043】
第2の押出部材58は、貫通穴56H内に挿入されると共に、プレス成形型本体52の被押出面52B側に接続されている。第2の押出部材58は、
図3に示す例では円柱状の棒状を成すが、プレス成形型本体52に対して荷重を自在にかけることができるのであれば、その形状は特に限定されない。なお、第2の押出部材58の被押出面52B側に接続された端と反対側の端は、図示されない駆動装置に機械的に接続されている。このため、プレス成形に際しては、上記駆動装置及び第2の押出部材58によって、第1の押出部材56がプレス成形型本体52に与える押圧荷重に、さらに押圧荷重を付加させることができ、あるいは、この付加した押圧荷重を除去させることができる。この押圧荷重の除去によって、後述する2次プレス成形においてプレス圧力が調整される。この点は後述する。
【0044】
1次プレス工程では、
図4、5に示すように、溶融ガラスの塊24は、下方へ落下し、2つのプレス成形面52A、62A間に進入する。そして、
図5に示すように、落下方向Y1と平行を成すプレス成形面52A、62Aの上下方向の略中央部近傍に到達した時点で、溶融ガラスの塊24の両側表面が、プレス成形面52A、62Aに同時または略同時に接触する。
その後、
図6に示すように、溶融ガラスの塊24を、その両側から第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により押圧し続けると、溶融ガラスの塊24は、溶融ガラスの塊24とプレス成形面52A、62Aとが最初に接触した位置を中心に均等な厚みで押し広げられる。
図6に示すようにガイド面54Aとガイド面64Aとが接触するところまで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により押圧し続けることで、プレス成形面52A、62A間に、円盤状もしくは略円盤状の板状ガラス(ガラスブランク)26に成形される。このとき、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60により成形されるガラスブランクは、ガイド面54Aとガイド面64Aの端部まで達しない。すなわち、ガラスブランクの端面は、自由曲面となっている。この状態で、1次プレス工程は終了する。したがって、ガラスブランクの端面における熱は、プレス成形面52A、62Aと接触せず、プレス成形面52A、62A内の気相空間の空気に対して放冷される。したがって、ガラスブランクの端面では、冷却に伴って表面に形成される圧縮応力層はほとんどないか、あるいは極めて小さい。すなわち、ガラスブランクの端面には残留応力がないか、あっても極めて小さい。
【0045】
前述したように、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの表面粗さRaは0.4μm以上としているのは、1次プレス工程において溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A、62Aに薄板状に押し広げられてから収縮するときに、溶融ガラスの一部をプレス成形面の凹凸に入り込ませることによって、ガラスブランクの平面度のばらつきを悪化させるシワを生じ難くするためである。この点についてさらに、
図7を参照して説明する。
図7は、プレス成形面52A、62Aの表面粗さRaを0.4μm以上としたことの作用効果を説明するために、1次プレス工程において溶融ガラスの塊24がプレス成形面52A、62Aの間に到達してから押し広げられてガラスブランクとして成形されるまでの間の溶融ガラスの塊24の状態の変化について状態S1〜S3の順に示す図である。
図7において、(a)は、プレス成形面52A、62Aが平滑面(例えば表面粗さRaが0.25μm以下の状態)であると仮定した場合であり、(b)は、本実施形態のプレス成形面52A(表面粗さRa:0.4μm以上)の場合である。
【0046】
図7において状態S1は、プレス成形面52A、62Aと溶融ガラスの塊24が接触を開始する時点の状態である。状態S1では、溶融ガラスの塊24の状態について(a)および(b)で差はない。なお、状態S1では、説明の便宜上、プレス成形面52A、62Aが同時に溶融ガラスの塊24と接触を開始した場合を図示しているが、同時に接触を開始しなくてもよい。
【0047】
図7において状態S2は、プレス成形面52A、62Aと溶融ガラスの塊24が接触してから溶融ガラスの塊24が完全に押し広げられているが、溶融ガラスからプレス成形面への熱移動による冷却に伴う溶融ガラスの収縮が行われる前の状態である。プレス成形面52A、62Aはプレス中において、ガラス転移点以上屈服点未満の温度に保たれているため、状態S2において溶融ガラスは、プレス成形面52A、62Aの間で粘性流動可能な状態で保持されている。状態S2において
図7(a)の場合にはプレス成形面が平滑面であるため、薄板状の溶融ガラスの全面でプレス成形面と密着した状態となっている。一方、状態S2において
図7(b)の場合(本実施形態の場合)にはプレス成形面が粗面となっている。このとき、溶融ガラスは伸びきった状態で粘性流動可能な状態ではあるが、プレス成形面の凹の部分には隙間が存在する状態となっている。
【0048】
図7において状態S3は、溶融ガラスからプレス成形面への熱移動による冷却に伴う溶融ガラスの収縮が行われた後の状態である。状態S3において、薄板状の溶融ガラスの冷却による収縮は、外縁から中心に向かう方向(半径方向)、周方向、さらには板厚方向に行われ、収縮後の溶融ガラスは、収縮前の状態と比べて外径が小さくなり、かつ薄くなる。状態S3において
図7(a)の場合には、薄板状の溶融ガラスの全面でプレス成形面と密着した状態(S2)から半径方向および周方向に収縮が行われるが、収縮時のガラスの板厚方向の逃げ場がほとんどないことから、収縮するガラスの方向が相対する箇所で膨れが生じ、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが生ずる。このシワの高さやシワが形成される範囲は、一方の金型と他方の金型の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるものと考えられる。つまり、
図7(a)の場合には、シワの程度に応じた平面度のばらつきが生ずることになる。これに対して
図7(b)の場合には、溶融ガラスの収縮前の状態S2において、粗面であるプレス成形面52A、62Aの凹部に隙間が存在する状態となっている。そのため、冷却に伴うガラスの収縮が生じたときに、プレス成形面の凹部が溶融ガラスの逃げ場として機能することから、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制される。
【0049】
なお、溶融ガラスを第1のシアブレード30と第2のシアブレード40を用いて切断して溶融ガラスの塊24を形成するときに、各シアブレードと接触する部分では、溶融ガラスの塊24が急冷され切断痕が形成される。この切断痕を含む溶融ガラスの塊24をプレス成形すると、成形されたガラスブランクにはシアマーク等の切断痕に起因した凹み等の欠陥が形成される。そのため、プレス成形時に生ずる切断痕を極力小さくすることが好ましい。切断痕に起因する欠陥を極力少なくするためには、溶融ガラスの切断直前の表面の粘度を低くすることが有効である。例えば、各シアブレードによる溶融ガラスの塊24の表面の冷却を考慮して切断直前の溶融ガラスの表面の温度を予め高くして粘度を低くする方法を採ることができる。それによって、溶融ガラスの塊24が保有する熱により塊上の切断痕の部分の表面は再加熱されるため、切断痕を小さくすることができる。
【0050】
(c)2次プレス工程
2次プレス工程では、ガラスブランクが破損しない程度の時間、1次プレス工程を行った後、1次プレス工程後に1次プレス工程に用いるプレス面(プレス成形面52A、62A)のプレス圧よりも低いプレス圧力でガラスブランクを一対の型で保持する工程である。
プレス圧力は、第1プレス工程時、第2の押出部材58が第1のプレス成形型50に与えた押圧荷重を除去することにより、低下することができる。したがって、2次プレス工程では、
図6に示す状態と変化はない。
1次プレス工程における、プレス成形面52A、62Aのプレス圧力は、例えば0.04〜0.40トン/cm
2であり、2次プレス工程におけるプレス圧力は、例えば1×10
−5〜4×10
−3トン/cm
2である。
【0051】
このように1次プレス工程と2次プレス工程でプレス圧力を変化させるのは、1次プレス工程の機能と、2次プレス工程の機能とを異なるものとするためである。
1次プレス工程において高いプレス圧力を用いてプレスをすることにより、ガラスブランクを所定の厚さ(薄さ)にするとともに、板厚差を低下させることができる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いてプレスすることにより、ガラスブランクの温度分布を均一に近づけることができ、平面度を向上することができる。
具体的に説明すると、2次プレス工程前の1次プレス工程では、高いプレス圧力により、溶融ガラスの塊24の不均一な温度分布に起因して成形直後のガラスブランクの温度分布は不均一である。この不均一な温度分布のガラスブランクから熱が第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に移動して、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせる。2次プレス工程において低いプレス圧力を用いることにより、2次プレス工程では、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下する。その結果、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱移動が低下する。その間、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一な温度分布は、熱伝導による拡散により均一に近づき、温度分布が均一に近づいた第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60が、ガラスブランクと接触することにより、ガラスブランクの温度分布は均一に近づく。
【0052】
また、1次プレス工程では、上述したように第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に不均一の温度分布を生じさせるので、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一の温度分布により、プレス成形面52A、62Aの表面は不均一な熱膨張を起こし、プレス成形面52A、62Aに表面凹凸をつくる。この表面凹凸は、ガラスブランクの表面に転写されるので一定の厚さのガラスブランクを作製する上で好ましくない。第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の不均一な温度分布を解消するために、2次プレス成形では、プレス圧力の低下により、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱移動を低下させることができる。そして、2次プレス工程中、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60内での熱伝導による熱拡散により第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度分布を均一に近づけることができる。これにより、プレス成形面52A、62Aの表面凹凸は均一に近づく。しかも、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、ガラス転移点以上であるので、ガラスブランクもガラス転移点以上である。このため、ガラスブランクの表面には、プレス成形面52A、62Aの均一な表面に近づいた表面形状が転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
【0053】
このように、2次プレス工程の作用により、ガラスブランクは、ガラス転移点以上の温度で温度分布は均一に近づき、平面度が小さくなる。
1次プレス工程は、ガラスブランクに一定の厚さを確保するために行われるため、1次プレスの継続時間は、ガラスブランクが一定の厚さの形状を確保する時間であればよい。この継続時間が過度に長いと、ガラスブランクが不均一な温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって、あるいは、プレス成形面52A,62Aの不均一な表面凹凸等によって破損する。このため、1次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクが温度分布に起因する熱歪み(熱応力)によって破損しない程度の時間である。一方、2次プレス工程の継続時間は、ガラスブランクの温度分布が略均一になる時間であればよい。また、ガラスブランクの生産効率を高める点で、1次プレス工程及び2次プレス工程の合計の継続時間である、プレス開始からプレス終了までの時間が300秒以下であることが好ましい。さらに、1次プレス工程の継続時間と2次プレス工程の継続時間との比は、1:5〜1:100の範囲であることが好ましい。
【0054】
図8は、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクの温度履歴A1と、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度履歴A2の計測結果の一例を示す図である。
【0055】
第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で加熱されて、温度T2で均一な熱平衡状態にある。この状態で、1次プレス工程が開始されると、ガラスブランクの温度は第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度に比べて高いので、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60に多量の熱が移動する。これによって、ガラスブランクの温度は温度履歴A1に示すように急激に低下する。一方、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60は、ガラスブランクから多量の熱が移動するので、ガラスブランクの各場所の温度に応じた熱移動を受けて温度履歴A2に示すように温度が上昇する。この状態で予め定められた1次プレス工程の継続時間が過ぎると、2次プレス工程に移行する。
【0056】
2次プレス工程では、1次プレス工程に比べて第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス圧力は低下しているので、ガラスブランクとプレス成形面52A、62Aとの間の実質的な接触面積が低下し、その結果、ガラスブランクから第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60への熱の移動量が低下する。また、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度は、溶融ガラスの塊24を構成するガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度で常時加熱されているので、ガラスブランクの温度は、ガラス転移点以上、屈服点未満のある温度に近づく。このような状態で、2次プレス工程は終了する。したがって、2次プレス工程は、上記ガラスブランクの温度状態が達成される時間を予め計測することにより、2次プレス工程の継続時間を定めることが好ましい。しかも、プレス成形面52A,62Aの熱膨張も、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の均一に近づいた温度分布により、均一に近づくため、ガラスブランクは、プレス成形面52A,62Aの表面形状が均一に転写される。したがって、平面度の小さいガラスブランクが形成される。
【0057】
ここで、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス面の温度がプレス開始時点においてガラス転移点未満である場合について説明する。第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス面の温度がプレス開始時点においてガラス転移点未満である場合には、溶融ガラスの第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60との接触部分がガラス転移点未満となり、その接触部分が急速に冷え固まる。この冷え固まった部分では、ガラスの流動が抑制される。また、溶融ガラスは、プレスされた時点において、その厚さ方向に温度分布が生じているため、溶融ガラスの板厚方向中心側の部分の固化の際に生じた歪が逃げ場を失いガラスブランク内に比較的大きな残留応力が生じる。こうして取り出されたガラスブランクには比較的大きな残留応力が生じる。
【0058】
このような残留応力が生じている場合には、コアリングやスクライブなどの後加工の際に、残留応力の影響によりガラスブランクが破損しやすくなるという問題がある。他方、プレス成形後のガラスブランクにアニール処理(除冷)を施すことによって、ガラスブランクの残留応力が解消されるものの、アニール処理による加熱によって、ガラスブランクの内部の残留応力の開放に伴ってガラスブランクに変形が生じ、逆にガラスブランクの平面度が大きくなる(反りが生じる)という問題が生じる。このため、磁気ディスク用ガラス基板として所望の平面度を得るためには、ガラスブランクに対する研削・研磨等の後加工の加工量(取りしろ)を比較的大きく設定する必要があり、加工性が低下するという問題が生じる。このため、本実施形態では、プレス中の第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の温度をガラス材料のガラス転移点以上、屈服点未満の温度とし、プレス工程を1次プレス工程と2次プレス工程とに分けることが好ましい。それによって、溶融ガラスの厚さ方向の温度分布を小さくした状態で溶融ガラスからガラスブランクを形成することができ、ガラスブランクの残留応力を小さくすることができる。なお、ガラスブランクの残留応力が大きい場合には、後述のスクライブ工程において、切断線の形成の際にガラスブランクに残留応力によって破損が生じやすくなるため、ガラスブランクの残留応力をスクライブ切断線を形成可能な程度の残留応力以下とすることが好ましい。
【0059】
(d)取出工程
取出工程では、ガラスブランクは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面を離間して取り出される。
図9は、取出工程を示す図である。
図9に示すように、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60とを互いに離間させるように、第1のプレス成形型50をX2方向へ移動させるとともに、第2のプレス成形型60をX1方向へ移動させる。これにより、プレス成形面62A及びプレス成形面52Aと、ガラスブランク26とを離型させて、ガラスブランク26を鉛直方向下方に落下させて取り出す。ここで、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60とを離間する際に、第1のプレス成形型50と第2のプレス成形型60との間に向けて空気を吹き付けてもよい。この空気を吹き付けることにより、ガラスブランク26が第1のプレス成形型50又は第2のプレス成形型60に貼り付いた場合でも、空気流によってガラスブランク26を冷却することによって、第1のプレス成形型50、第2のプレス成形型60、及びガラスブランク26の熱収縮を促して、第1のプレス成形型50又は第2のプレス成形型60からガラスブランク26を剥離することができる。こうして、ガラスブランク26を得る。ガラスブランク26は、図示されない断熱板上に載せられて、大気中で放冷される。
【0060】
なお、プレス成形面52A及びプレス成形面62Aには、従来より用いられてきたボロンナイトライド等の離型剤は用いられない。これは、1次プレス工程及び2次プレス工程におけるガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の面接触を増やして、ガラスブランクとプレス成形面52A及びプレス成形面62Aとの間の熱移動を利用するためである。また、離型剤の使用は、離型剤の形状がガラスブランクの表面に転写されて平面度が大きくなることから好ましくない。
以上がプレス成形工程の説明である。本実施形態で得られるガラスブランクは、平坦性に優れ(平面度が小さく)、残留応力も小さいことから、従来のように、ガラスブランクにアニール処理を施す必要がない。
また、本実施形態のプレス成形工程では、プレス中の第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60のプレス成形面52A、62Aの表面粗さRaを0.4μm以上とし、プレス成形面52A、62Aの温度を溶融ガラスのガラス転移点以上屈服点未満の温度としてプレス成形する。その結果、ガラスブランクの残留歪みを低減できるとともに、プレス成形面52A、62Aの間で伸びきった薄板状の溶融ガラスが冷却して収縮するときに、粗面であるプレス成形面の凹凸が溶融ガラスが収縮するときの逃げ場として機能し、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制され、成形されたガラスブランクの平面度のばらつきが抑制される。さらに、プレス成形面52A、62Aの平面度が4μm以下である場合には、プレスによって転写されるガラスブランクの主表面の平面度が磁気ディスク用ガラス基板にもとめられる目標平面度(例えば4μm以下)に近くなるため、後工程の研削工程における取しろを少なくすることができるので好ましい。
【0061】
上記プレス成形工程では、プレス成形面52A、62Aの表面粗さRaが0.4μm以上であるため、その表面粗さが転写されて形成されるガラスブランクの表面粗さは、例えば0.3μmよりも良好にはなり難い。このようなガラスブランクの表面粗さは、後工程の研削工程で低下させることができる。前述したように、研削工程では固定砥粒が用いられているが、ガラスブランクの主表面が粗面となっているために研削するときの研削の起点となりやすく、高い加工レートでの研削加工を行うことができる。
【0062】
(実施例)
以下、本実施形態で作製されるガラスブランクの特性を調べるために、種々のガラスブランクを作製した。
本実施形態の製造方法を用い、1次プレス工程のプレス圧力、2次プレス工程の継続時間とプレス圧力、あるいは、第1のプレス成形型50および第2のプレス成形型60の設定温度(ガラス転移点以上屈服点未満の温度範囲内)等を調整して実施例1のガラスブランクを100個作製した。比較例1のガラスブランクは、プレス成形面の表面粗さRaが実施例1のものと異なること以外の条件は実施例と同様にして、100個作製した。実施例、比較例ともに、型のプレス成形面の平面度を4μmとした。実施例1、比較例1ともに、プレス後のガラスブランクの残留応力をアニール処理により低下させた。成形後は、ガラスブランクの平面度(JIS B0621)を、フラットネステスターを用いて測定した。
表1において「ガラスブランクの平面度のばらつき」は、成形した100個のサンプルの平面度を測定し、測定して得られた平面度の標準偏差とした。なお、100個のサンプルの平面度の平均値は、4μm以下であった。
【0063】
ガラスブランクの平面度のばらつき(平面度の標準偏差)の評価基準は、以下の通りである。○が合格である。
[平面度のばらつきの評価基準]
・平面度の標準偏差が1.0μm以上 … ×
・平面度の標準偏差が0.5μm以上〜1.0μm未満 … ○
【0065】
表1から、実施例1のように、プレス成形面の表面粗さが0.4μm以上である型を用いてプレス成形を行った場合には、ガラスブランクの平面度のばらつきが少ないことがわかる。これは、プレス時に薄板状の溶融ガラスが冷却して収縮するときに、粗面であるプレス成形面の凹凸が溶融ガラスの一部の逃げ場として機能し、局所的に平面度が悪化した領域であるシワの発生が抑制されたためであると考えられる。他方、比較例1のように、プレス成形面の表面粗さが0.4μm未満である型を用いてプレス成形を行った場合には、ガラスブランクの平面度のばらつきが大きいことがわかる。これは、プレス成形面の表面性状が良好過ぎるために溶融ガラスが収縮する前に溶融ガラスとプレス成形面が全面で密着した状態となっているため、ガラスが収縮したときの逃げ場がなく板厚方向に膨れ、局所的に平面度が悪化した領域であるシワが発生したためである。このシワの高さやシワが形成される範囲は、金型間の熱履歴(温度分布)の差などに起因してガラスブランクごとに個体差が生ずるため、ガラスブランクの平面度のばらつきが大きかったと考えられる。
【0066】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、平面度のばらつきの少ない磁気ディスク用ガラス基板を効率良く作製することができる。
以上、本発明の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。