特許第6078429号(P6078429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078429
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】尿素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/18 20060101AFI20170130BHJP
   C07C 275/10 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C07C273/18
   C07C275/10
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-146899(P2013-146899)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-17077(P2015-17077A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智光
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−178874(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/087318(WO,A1)
【文献】 特開平05−100424(JP,A)
【文献】 特開2011−216179(JP,A)
【文献】 特開2009−230109(JP,A)
【文献】 特開2011−121911(JP,A)
【文献】 特開2005−239603(JP,A)
【文献】 特開2002−348274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(1’)で表される尿素化合物の製造方法であって、
トルエンおよびキシレンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤(A)と水とからなる二相系の液中で、下記一般式(2)または(2’)で表されるイソシアネート化合物と水とを反応させることにより前記尿素化合物を合成する工程と、
前記二相系の液中から前記尿素化合物を固体として回収する工程と、を含むことを特徴とする尿素化合物の製造方法
【化1】
[一般式(1)または(1’)中、RおよびRは各々独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合、エステル結合およびフェニレン結合からなる群より選ばれる結合で置換してなる基である。]
【化2】
[一般式(2)または(2’)中のR〜Rは各々、前記一般式(1)または(1’)中のR〜Rと同義である。]
【請求項2】
前記一般式(1)、(1’)、(2)または(2’)中のRが、非置換の炭素数1〜4のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合で置換してなる基である、請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記尿素化合物の回収が、前記二相系の液中に析出した析出物を固液分離によって回収することにより行われる、請求項1または2に記載の尿素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリロイル基を有する置換基2つが尿素結合を介して連結された構造の尿素化合物(以下、(メタ)アクリル系尿素ダイマーともいう。)の製造方法としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物と水とを反応させる方法が知られている(例えば特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/087318号
【特許文献2】特開平05−100424号公報
【特許文献3】特開2011−216179号公報
【特許文献4】特開2009−230109号公報
【特許文献5】特開2011−178874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、従来の方法で特定の(メタ)アクリル系尿素ダイマー(以下本願において(メタ)アクリルとは、メタクリルまたはアクリルを意味する)を製造する場合、得られる(メタ)アクリル系尿素ダイマーの収率が低かったり、収率や純度を高めようとすると手間やコストがかかり、製造効率が良くない問題がある。
例えば特許文献1〜3の[実施例]に記載の方法の場合、得られる(メタ)アクリル系尿素ダイマーの収率が低く、純度も低い。
特許文献4〜5の[実施例]に記載の方法の場合、(メタ)アクリル系尿素ダイマーの収率は向上する。しかし、生成した(メタ)アクリル系尿素ダイマーは、反応に使用した有機溶剤(テトラヒドロフラン、酢酸エチル等)に溶解しており、該有機溶剤には、反応に用いた原料や副生物も混在する。そのため、高純度の(メタ)アクリル系尿素ダイマーを得るには晶析等の精製処理が必要になり、手間やコストの点で好ましくない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な製造工程で効率よく高純度の尿素化合物を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
特許文献1〜3の[実施例]に記載の方法で得られる(メタ)アクリル系尿素ダイマーの収率が低く、他方、特許文献4〜5の[実施例]に記載の方法で収率が向上するのには、反応系に用いられている溶媒が、特許文献1〜3では均一系(特許文献1では水のみ、特許文献2、3では、水と、水と相溶するアセトンとを併用)で、特許文献4〜5では二相系(特許文献4および5は水と酢酸エチルとを併用)であることが影響している。イソシアネート化合物と水との反応では、反応中間体としてアミン(イソシアネート化合物のイソシアナト基がアミノ基となったもの)が生成し、このアミンと未反応のイソシアネート化合物とが反応して(メタ)アクリル系尿素ダイマーが生成する。均一系では、原料のイソシアネート化合物、反応中間体も同じ溶媒に溶解するため、アミンの生成速度が非常に速く、反応系中からイソシアネート化合物が急激に減少する。これが収率の低下を生じさせていたと考えられる。また二相であっても、有機溶剤(A)として例えば(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを原料として尿素化合物を製造した際などでは、生成する尿素化合物は酢酸エチルやテトラヒドロフランに十分溶解しうるため、生成物の回収のために晶析の手間がかかるなどの課題があった。一方、本発明の二相系では、原料のイソシアネート化合物は有機溶剤(A)相、反応中間体のアミンは水相に分布するため、2相の界面においてのみアミンおよび(メタ)アクリル系尿素ダイマーの生成が起こり、生成速度が抑制された結果、副生物の発生が減少し目的物の収率が向上すると考えられる。
【0007】
本発明者は、知見に基づきさらに検討を重ねた結果、(メタ)アクリル系尿素ダイマーを合成する際の溶媒として、水と特定の有機溶剤(A)とからなる二相系の溶媒を用い、かつ該特定の有機溶剤(A)として、水の溶解度、製造しようとする(メタ)アクリル系尿素ダイマーの溶解度がそれぞれ10質量%以下であり、分子内に活性水素基を有しないものを用いることで、上記課題が解決されることを見出した。かかる二相系の溶媒を用いて(メタ)アクリル系尿素ダイマーを合成する場合、反応中間体や(メタ)アクリル系尿素ダイマーの生成速度が適度に抑制され、収率が向上する。また、(メタ)アクリル系尿素ダイマーは水、前記特定の有機溶剤(A)のいずれに対しても不溶であるため、生成した(メタ)アクリル系尿素ダイマーはそのまま二相系の溶媒中に析出する。そのため、晶析等の精製工程を経ずとも、ろ過等の簡単な操作で高純度の(メタ)アクリル系尿素ダイマーを回収することができる。
本発明は、上記知見に基づくものであり、以下の態様を有する。
【0008】
[1]下記一般式(1)または(1’)で表される尿素化合物の製造方法であって、
下記a)、b)、c)の条件を全て満たす有機溶剤(A)と水とからなる二相系の液中で、下記一般式(2)または(2’)で表されるイソシアネート化合物と水とを反応させることにより前記尿素化合物を合成する工程と、
前記二相系の液中から前記尿素化合物を固体として回収する工程と、を含むことを特徴とする尿素化合物の製造方法。
a)水の溶解度が10質量%以下である。
b)前記尿素化合物の溶解度が10質量%以下である。
c)分子内に活性水素を有しない。
【0009】
【化1】
[一般式(1)または(1’)中、RおよびRは各々独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合、エステル結合およびフェニレン結合からなる群より選ばれる結合で置換してなる基である。]
【0010】
【化2】
[一般式(2)または(2’)中のR〜Rは各々、前記一般式(1)または(1’)中のR〜Rと同義である。]
【0011】
[2]前記一般式(1)、(1’)、(2)または(2’)中のRが、非置換の炭素数1〜3のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合で置換してなる基である、[1]に記載の尿素化合物の製造方法。
[3]前記有機溶剤(A)が、トルエン、ヘキサン、ベンゼンおよびキシレンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の尿素化合物の製造方法。
[4]前記尿素化合物の回収が、前記二相系の液中に析出した析出物を固液分離によって回収することにより行われる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の尿素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な製造工程で効率よく高純度の尿素化合物を製造できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、下記一般式(1)または(1’)で表される尿素化合物の製造方法であって、
下記a)、b)、c)の条件を全て満たす有機溶剤(A)と水とからなる二相系の液中で、下記一般式(2)または(2’)で表されるイソシアネート化合物と水とを反応させることにより前記尿素化合物を合成する工程(以下、合成工程という。)と、
前記二相系の液中から前記尿素化合物を固体として回収する工程(以下、回収工程という。)と、を含むことを特徴とする。
a)水の溶解度が10質量%以下である。
b)前記尿素化合物の溶解度が10質量%以下である。
c)分子内に活性水素を有しない。
【0014】
【化3】
[一般式(1)または(1’)中、RおよびRは各々独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合、エステル結合およびフェニレン結合からなる群より選ばれる結合で置換してなる基である。]
【0015】
【化4】
[一般式(2)または(2’)中のR〜Rは各々、前記一般式(1)または(1’)中のR〜Rと同義である。]
【0016】
<尿素化合物>
本発明の製造方法により製造する尿素化合物は、前記一般式(1)または(1’)で表される。
本発明においてアルキレン基とは、脂肪族飽和炭化水素中の炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を除いて生ずる基を意味する。
一般式(1)または(1’)中、Rにおける炭素数1〜10のアルキレン基としては、炭素数1〜8のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がさらに好ましい。
におけるアルキレン基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、直鎖状のアルキレン基がより好ましい。
【0017】
前記アルキレン基は、当該アルキレン基中の炭素原子間の単結合がエーテル結合(−O−)、エステル結合(−CO−O−)およびフェニレン結合(−C−)からなる群より選ばれる結合で置換されていてもよい。該結合で置換される単結合は1つでも2つ以上でもよく、1つであることが好ましい。2以上の単結合が置換される場合、各単結合を置換する結合は同じでも異なってもよい。
【0018】
前記アルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合、エステル結合およびフェニレン結合からなる群より選ばれる結合で置換してなる基としては、例えば、−CH−、−C−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−C−O−CH−、−C−COO−CH−、−C−Ph−CH−等が挙げられる。
【0019】
において、前記アルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合をエーテル結合、エステル結合およびフェニレン結合からなる群より選ばれる結合で置換してなる基は、置換基を有していてもよい。
前記置換基としては、炭化水素基、ニトロ基、シアノ基、−OR’、−COR’、−COOR’(R’はアルキル基である。)等が挙げられる。
がフェニレン結合を有する場合、前記置換基は、アルキレン基中の水素原子を置換してもよく、フェニレン結合中の水素原子を置換してもよい。
【0020】
前記置換基における炭化水素基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1〜10の炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基が挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、ビニル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
前記R’におけるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0021】
としては、上記の中でも、原料の入手容易性・反応性の点で、炭素数1〜8のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合の少なくとも1つをエーテル結合で置換してなる基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合の少なくとも1つをエーテル結合で置換してなる基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素原子間の単結合の少なくとも1つをエーテル結合で置換してなる基がさらに好ましく、−CH−、−C−、−(CH−、−CH−O−C−、または−C24−O−C−が特に好ましい。
【0022】
一般式(1)中、2つのRは同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。同様に、2つのR、2つのRは各々同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。
一般式(1’)中、4つのRは同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。同様に、2つのR、4つのRは各々同じでも異なってもよいが、同じであることが好ましい。
【0023】
<合成工程>
合成工程では、下記a)、b)、c)の条件を全て満たす有機溶剤(A)と水とからなる二相系の液中で、前記尿素化合物を合成する。
a)水の溶解度が10質量%以下である。
b)前記尿素化合物の溶解度が10質量%以下である。
c)分子内に活性水素を有しない。
【0024】
本発明において、有機溶剤(A)への水の溶解度は、25℃において、有機溶剤(A)に溶解し得る最大の量(有機溶剤(A)に水を添加したときに、添加した水と有機溶剤(A)とが2相に分離せず均一な溶液となる最大量)の水が溶解した有機溶剤(A)中の水分量(質量%)を示す。該水分量は、例えばカールフィッシャー法によって測定することができる。
有機溶剤(A)への尿素化合物の溶解度は、25℃において、有機溶剤(A)に溶解し得る最大の量(有機溶剤(A)に尿素化合物を添加したときに、添加した尿素化合物がすべて溶解し均一な溶液となる最大量)の尿素化合物が溶解した有機溶剤(A)中の尿素化合物濃度(質量%)を示す。該濃度は、該有機溶剤(A)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析することによって求めることができる。
【0025】
有機溶剤(A)がa)の条件を満たす場合、水と有機溶剤(A)とを混合したときに均一な溶液とならず、尿素化合物を合成する反応が、水相と有機溶剤(A)相とを有する二相系の液中で行われることになり、尿素化合物の収率が向上する。また、有機溶剤(A)がb)の条件を満たす場合、液中で生成した尿素化合物が、水にも有機溶剤(A)にも溶解することなく析出する。析出した尿素化合物は高純度であり、容易に固体として回収できる。こうして得られる尿素化合物は、晶析等の精製工程を経ずとも高い純度を有するものとなる。
有機溶剤(A)への水の溶解度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。該溶解度の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
有機溶剤(A)への前記尿素化合物の溶解度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。該溶解度の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0026】
活性水素は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等に結合した水素原子であり、炭素原子に結合した水素原子に比べて反応性が高い。
有機溶剤(A)がc)の条件を満たすことで、有機溶剤(A)と反応原料(例えば後述する一般式(2)または(2’)で表されるイソシアネート化合物)との反応して副生物が生成することを防止できる。
なお、活性水素を有する有機溶剤(A)としては、分子内に水酸基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基等の活性水素含有基を有する有機溶剤が挙げられる。本発明に用いられる有機溶剤(A)は、このような活性水素含有基を有しない。
【0027】
前記a)、b)、c)の条件を全て満たす有機溶剤(A)としては、例えば、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記二相系の液中での前記尿素化合物の反応原料は、前記一般式(2)または(2’)で表されるイソシアネート化合物である。前記一般式(1)で表される尿素化合物を合成する際は前記一般式(2)で表されるイソシアネート化合物を原料として用い、前記一般式(1’)で表される尿素化合物を合成する際は前記一般式(2’)で表されるイソシアネート化合物を原料として用いる。
【0029】
一般式(2)で表されるイソシアネート化合物の具体例としては、例えば(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシブチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシペンチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシヘキシルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシヘプチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシオクチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシノニルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシデシルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、原料入手性および反応性の点から、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネートが好ましい。
一般式(2’)で表されるイソシアネート化合物の具体例としては、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が好ましい。
【0030】
前記イソシアネート化合物は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
前記イソシアネート化合物の市販のものとしては、カレンズMOI(登録商標、昭和電工社製、メタアクリロイルオキシエチルイソシアネート)、カレンズAOI(登録商標、昭和電工社製、アクリロイルオキシエチルイソシアネート)、カレンズMOI−EG(登録商標、昭和電工社製、メタアクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート)、カレンズBEI(登録商標、昭和電工社製、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)等が挙げられる。
前記イソシアネート化合物の製造方法としては、例えば、US2821544号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0031】
前記イソシアネート化合物と水とを反応させると、該イソシアネート化合物が加水分解され、イソシアナト基がアミノ基となって下記一般式(3)または(3’)で表されるアミン化合物が生成する。このアミン化合物と、加水分解されていないイソシアネート化合物とが反応して、目的の尿素化合物が生成する。例えば一般式(2)で表されるイソシアネート化合物を原料として使用した場合、反応中間体として一般式(3)で表されるアミン化合物を経て、一般式(1)で表される尿素化合物が生成する。一般式(2’)で表されるイソシアネート化合物を原料として使用した場合、反応中間体として一般式(3’)で表されるアミン化合物を経て、一般式(1’)で表される尿素化合物が生成する。
前記イソシアネート化合物は、前記a)〜c)の条件を満足する有機溶剤(A)に溶解し、水には溶解しないか、溶解してもわずかである。反応中間体であるアミン化合物は、水に溶解し、前記有機溶剤(A)には溶解しないか、溶解してもわずかである。前記二相系の液中で前記反応を行う場合、有機溶剤(A)相に溶解したイソシアネート化合物が、水相との界面で水と反応してアミン化合物となって水相に移行し、水相と有機溶剤(A)相との界面でアミン化合物とイソシアネート化合物とが反応して尿素化合物が生成すると考えられる。生成した尿素化合物は、どちらの相にも溶解せず析出する。
【0032】
【化5】
[一般式(3)または(3’)中のR〜Rは各々、前記一般式(2)または(2’)中のR〜Rと同義である。]
【0033】
前記イソシアネート化合物と水との反応は、例えば、反応容器に前記イソシアネート化合物および有機溶剤(A)を入れ、そこに水を滴下する方法により行うことができる。
前記反応の反応温度は5〜100℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。反応温度が5℃以上であると反応速度が充分に速くなり、100℃以下であると、生成物の熱重合を抑制できる。
【0034】
前記反応における水の使用量は、特に限定されないが、前記イソシアネート化合物中のイソシアナト基のモル当量に対する水のモル当量の比率(水/イソシアナト基)が、0.5〜5.0の範囲内となる量が好ましく、1.0〜3.0の範囲内となる量がより好ましい。水/イソシアナト基の比率が0.5以上であると、イソシアネート化合物が未反応のまま過剰に残存することがなく、経済的に有利である。水/イソシアナト基の比率が5.0以下であると、副生物が少なく収率が良好である。
【0035】
有機溶剤(A)の使用量は、特に限定されないが、撹拌性維持の点から、有機溶剤(A)/イソシアネート化合物のモル比が2.0〜1.0が好ましい。有機溶剤(A)の割合がイソシアネート化合物の1.0倍以上であると、反応時に撹拌を良好に維持でき、収率が向上する。有機溶剤(A)の割合がイソシアネート化合物の2.0倍を超えると、尿素化合物の有機溶剤(A)への溶解分が多くなり収率が低下するおそれがある。
【0036】
前記反応においては、反応時間を短くする目的で、触媒を用いることができる。
触媒としては、例えば、塩基性触媒(ピリジン、ピロール、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、アンモニア等のアミン類、トリブチルホスフィン、トリフェニルフォシフィン等のホスフィン類)、酸性触媒(ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、トリブトキシアルミニウム、テトラブトキシトリチタニウム、テトラブトキシジルコニウム等の金属アルコキシド類、塩化アルミニウム等のルイス酸類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫アセテート等の錫化合物)が挙げられる。これらの中でも、反応後の除去性の点で、塩基性触媒が好ましく、トリエチルアミンが最も好ましい。
触媒の使用量は、特に限定されないが、通常、イソシアネート化合物1モルに対して0.0001〜5モル程度である。
【0037】
前記反応においては、反応中の原料や反応中間体、生成物の重合による反応液のゲル化を防ぐ目的で、重合禁止剤を用いることができる。
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、2−t−ブチルハイドロキノン、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、4−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、4,4'−チオ−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール等のフェノール系化合物、フェノチアジン、スチリルフェノチアジン、ジラウリル 3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル 3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル 3,3'−チオジプロピオネート、ジブチルジチオカルバミン酸銅等の硫黄系化合物、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト等のリン系化合物が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いることができる。
重合禁止剤の使用量としては、反応液の総質量に対して10〜10000質量ppmが好ましく、500〜2000質量ppmがより好ましい。10質量ppm以上であると充分に効果が発揮され、10000質量ppmよりも多いと硬化性や着色に悪影響を与える場合がある。
【0038】
<回収工程>
回収工程では、前記合成工程で得られた反応液から尿素化合物を固体として回収する。
この反応液においては、水と有機溶媒とからなる二相系の液中に、目的の尿素化合物が析出物として存在している。そのため、反応液からの尿素化合物の回収は、反応液を固液分離する等の簡単な操作によって行うことができる。
反応液の固液分離は、公知の方法により行うことができ、例えばろ過、遠心分離、沈降濃縮、湿式ふるい分け、液体サイクロン、デカンタ、脱水、圧搾等が挙げられる。固液分離は、これらの処理のいずれかを単独で行っても2種以上を組合わせて行ってもよい。反応液の固液分離方法としては、簡便性等の点から、ろ過が特に好ましい。
回収後、得られた尿素化合物の洗浄、乾燥等を行ってもよい。洗浄は、尿素化合物の貧溶媒(例えば前記b)の条件を満たす有機溶剤(A)、反応で用いた有機溶媒(前記a)、b)、c)の条件を全て満たす有機溶剤(A))等を用いて行うことができる。洗浄は、反応で用いた有機溶媒を用いて行うことが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法では、前記の合成工程にて、目的の尿素化合物を高い収率で合成し、液中に析出させることができ、該尿素化合物を、前記の回収工程にて、固液分離のような簡易な処理で回収することができる。このようにして、晶析等の手間やコストのかかる処理をさらに行わなくても充分に高い純度を有する尿素化合物が得られる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
N, N’−ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ウレア(一般式(1)で表され、Rがメチル基、Rが水素原子、Rがメチレン基である尿素化合物。以下「尿素化合物1」という。)を以下の手順で製造した。なお、トルエンへの水の溶解度は0.045質量%、尿素化合物1のトルエンへの溶解度は0.35質量%である。
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた500mL四つ口フラスコに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI(登録商標)、昭和電工社製)62.18g(0.4mol)、トリエチルアミン0.24g、トルエン300mLを入れ、室温で撹拌した。そこに水10.80g(0.6mol)を1時間かけて滴下し、滴下終了後12時間撹拌し熟成した。熟成後、得られたスラリー溶液をろ過して析出物を回収し、トルエン50mLで洗浄した。得られた粉末を真空乾燥機にて乾燥し、目的の尿素化合物1の結晶を収率95%で得た。得られた結晶の純度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析したところ、純度99.2%であった。
【0042】
純度の測定に用いたHPLCの分析条件を以下に示す。
カラム:昭和電工(株)製、商品名「Shodex KF−801」4本、
カラム温度:40℃、
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
流速:0.8ml/分、
検出:示差屈折率(RI)・UV(波長210nm)
【0043】
[実施例2]
N, N’−ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ウレア(一般式(1)で表され、RおよびRが水素原子、Rがメチレン基である尿素化合物。以下「尿素化合物2」という。)を以下の手順で製造した。なお、トルエンへの尿素化合物2の溶解度は0.1質量%である。
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた500mL四つ口フラスコに、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズAOI(登録商標)、昭和電工社製)56.62g(0.4mol)、トリエチルアミン0.24g、トルエン300mLを入れ、室温で撹拌した。そこに水10.80g(0.6mol)を1時間かけて滴下し、滴下終了後12時間撹拌し熟成した。熟成後、得られたスラリー溶液をろ過して析出物を回収し、トルエン50mLで洗浄した。得られた粉末を真空乾燥機にて乾燥し、目的の尿素化合物2の結晶を収率98%で得た。得られた結晶の純度をHPLCにて分析したところ、純度99.8%であった。
【0044】
[実施例3]
N, N’−ビス[1,1’−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチル]ウレア(一般式(1)で表され、RおよびRが水素原子、Rがメチレン基である尿素化合物。以下「尿素化合物3」という。)を以下の手順で製造した。なお、トルエンへの尿素化合物3の溶解度は4.5質量%である。
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた500mL四つ口フラスコに、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(カレンズBEI(登録商標)、昭和電工社製)95.60g(0.4mol)、トリエチルアミン0.24g、トルエン300mLを入れ、室温で撹拌した。そこに水10.80g(0.6mol)を1時間かけて滴下し、滴下終了後12時間撹拌し熟成した。熟成後、得られたスラリー溶液をろ過して析出物を回収し、トルエン50mLで洗浄した。得られた粉末を真空乾燥機にて乾燥し、目的の尿素化合物3の結晶を収率93.7%で得た。得られた結晶の純度をHPLCにて分析したところ、純度98.1%であった。
【0045】
[比較例1]
尿素化合物1を、以下の手順で製造した。
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた200mL四つ口フラスコに、水35.1g(1.95mol)、トリエチルアミン0.24gを入れ氷冷し撹拌した。そこに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI(登録商標)、昭和電工社製)62.18g(0.4mol)を、系内温度が10℃以上にならないように滴下し、12時間熟成した。熟成後、得られた液をろ過し、トルエン50mLで洗浄し、真空乾燥機にて乾燥し、目的の尿素化合物1の結晶を収率63.4%で得た。得られた結晶の純度を測るためTHFに溶解させたところ、THFに対して不溶物が確認されたため、純度測定は行わなかった。
【0046】
[比較例2]
尿素化合物1を、以下の手順で製造した。なお、THFへの水の溶解度はほぼ100質量%、尿素化合物1の溶解度は20質量%超である。
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた500mL四つ口フラスコに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI(登録商標)、昭和電工社製)62.18g(0.4mol)、トリエチルアミン0.24g、THF300mLを入れ、室温で撹拌した。そこに水10.80g(0.6mol)を1時間かけて滴下し、滴下終了後12時間撹拌し熟成した。熟成後、得られた溶液からTHFを減圧留去し、残った固体を酢酸エチルに溶解したのち、n-ヘキサンを添加して再結晶し、目的の尿素化合物1の結晶を収率85%で得た。得られた結晶の純度をHPLCにて分析したところ、純度99.0%であった。
表1に、実施例1〜3、比較例1〜2の結果をまとめて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記結果に示すとおり、a)水の溶解度が10質量%以下であり、b)尿素化合物の溶解度が10質量%以下であり、c)分子内に活性水素を有しない有機溶剤(A)に相当するトルエンを使用した実施例1〜3では、目的の尿素化合物を90%以上の高い収率で得ることができ、得られた尿素化合物の純度も高かった。
一方、有機溶剤(A)を使用せず、水のみの系で反応を行った比較例1では、尿素化合物の収率が低かった。また、得られた結晶がTHFに溶解しない不溶物を含んでおり、純度が低かった。
有機溶剤(A)としてTHFを用いた比較例2では、反応系中に尿素化合物が析出せず、結晶の回収に晶析が必要であった。また、収率も実施例1〜3に比べて劣っていた。