(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換素子を高温側熱交換器と低温側熱交換器との間に配置して発電を行う熱電発電が知られている。熱電変換素子は、ゼーベック効果と呼ばれる熱電効果を応用したものである。熱電材料として半導体材料を用いる場合には、P型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(P型素子)と、N型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(N型素子)とを、電極を介して電気的に接続することにより、熱電発電モジュールが構成される。
【0003】
そのような熱電発電モジュールは、構造が簡単かつ取り扱いが容易で、安定な特性を維持できることから、自動車のエンジンや工場の炉等から排出されるガス中の熱を利用して発電を行う熱電発電への適用に向けて、広く研究が進められている。
【0004】
一般に、熱電発電モジュールは、高い熱電変換効率を得るために、高温部の温度(Th)と低温部の温度(Tc)との差が大きくなるような温度環境において使用される。例えば、代表的なビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料を用いた熱電発電モジュールは、高温部の温度(Th)が最高で250℃〜280℃となるような温度環境において使用される。従って、熱電変換素子と電極とを接合する接合層の材料の熱電変換素子内への拡散や、熱電変換素子の酸化が問題となる。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、電極からの電極材料の拡散を防止するバリア膜を有し、製造工程における搬送工程等での移動が容易な熱電素子が開示されている。特許文献1は、電極から熱電素子への電極材料(Cu)の拡散を防止するバリア膜をNi又はNi合金で形成すると、組立工程において、バリア膜が、帯磁して装置にくっついてしまったり、逆の場合に帯磁した装置にくっついてしまい、製造工程が滞留するという問題を解決することを目的としている。
【0006】
バリア膜は、Ag、Al、Cr、Mo、Pt、Pd、Ti、Ta、W、Zr、V、Nb、及び、Inからなる群から選択された少なくとも1種の金属又は合金からなることが好ましいと記載されている。しかしながら、熱電素子と電極とを接合するために、半田とバリア膜との間に、半田との接合を向上させる半田接合層を設ける場合には、半田接合層の構成元素の拡散を有効に防止することはできない。
【0007】
さらに、熱電発電モジュールのように、例えば250℃以上の温度範囲で使用される場合には、バリア膜の材料そのものが熱電素子内に拡散するので、メッキ法によって成膜できるAg、Cr、Pt、Pd、Inは、長期間使用することができない。一方、メッキ法によって成膜できないAl、Mo、Ti、Ta、W、Zr、V、Nbは、主に蒸着法等のPVD法で成膜するのが一般的であるが、特許文献1には、蒸着により形成される総厚は100乃至1000nmであり、膜厚が1000nmを超えると、膜応力により膜が基材からはがれやすくなるため、積極的には使用することができないと記載されている(段落0027)。
【0008】
しかしながら、本願発明者がモリブデン(Mo)膜を用いて調査した結果、膜厚が1.34μm以下の場合には、十分な拡散及び酸化防止効果が得られていない。
図25は、N型素子の1つの面に形成されたモリブデン膜の厚さによる拡散及び酸化防止効果の違いを示す図である。各試料におけるモリブデン膜の厚さは、1ロット中の各サンプルの3箇所において測定されたものである。
図25においては、3種類の試料に対し、大気中において温度350℃で500時間の耐久試験を行った結果が示されている。
【0009】
図25(A)は、モリブデン膜の厚さが0.25μm〜0.36μmである試料の断面の顕微鏡写真を示し、
図25(B)は、モリブデン膜の厚さが0.70μm〜1.34μmである試料の断面の顕微鏡写真を示している。いずれの試料においても、N型素子内で酸化が進行していることが分かる。一方、
図25(C)は、モリブデン膜の厚さが4.08μm〜5.34μmである試料の断面の顕微鏡写真を示している。この試料においては、N型素子内の酸化が抑制されていることが分かる。なお、本願発明者が用いた成膜手法によれば、膜厚が3μm以上の場合でも、モリブデン膜の剥離が長期間生じていない。
【0010】
特許文献2には、高温半田を使用する場合に電極のCuが高温半田を経て半導体内に拡散するので、これによる半導体自体の熱電変換効率の低下を防止することを目的とする熱電変換素子が開示されている。この熱電変換素子は、P形導電形式又はN形導電形式を有するBi−Te系半導体に接する介在層が電極に接続され、この介在層は、Al、Ti、及び、Mgから成るグループの内の1つ又はそれらの合金であることを特徴とする。
【0011】
しかしながら、本願発明者の調査の結果、AlやTiは、メッキ法による成膜はできないので、一般的には、薄膜技術としてはスパッタ法や蒸着法、厚膜技術としてはスクリーン印刷法を用いて成膜される。通常の薄膜技術により膜厚を数μm以上にした場合には、熱電材料との線膨張係数の差により剥離が生じるので、長時間に亘って繰り返して温度を変化させることは困難である。また、厚膜技術により成膜された膜は緻密さに欠けるので、例えば250℃以上の高温では、酸素の透過により膜直下の半導体が酸化され、電気抵抗が増加するという問題点がある。
【0012】
さらに、本願発明者が調査した結果によれば、チタン(Ti)及びニッケル(Ni)のスパッタ膜を形成した熱電変換素子を350℃に加熱すると、ニッケル膜と熱電変換素子との間で材料の相互拡散が発生すると共に、チタン膜直下の熱電変換素子においてニッケルが酸化し、上記目的を果たすことができなかった。
【0013】
図26は、P型素子の1つの面にチタン及びニッケルのスパッタ膜を順に形成した場合の耐久試験における変化を示す図である。
図26(A)は、P型素子の1つの面に、厚さ0.5μmのチタン(Ti)膜と、厚さ0.5μmのニッケル(Ni)膜とを、この順に形成した試料の断面の顕微鏡写真を示している。また、
図26(B)は、大気中において温度350℃で500時間の耐久試験を行った後の試料の断面の顕微鏡写真を示している。ニッケル膜とP型素子との間で材料(Ni、Te等)が相互拡散しており、P型素子の一部に酸化が発生していることが分かる。
【0014】
図27は、N型素子の1つの面にチタン及びニッケルのスパッタ膜を順に形成した場合の耐久試験における変化を示す図である。
図27(A)は、N型素子の1つの面に、厚さ0.5μmのチタン(Ti)膜と、厚さ0.5μmのニッケル(Ni)膜とを、この順に形成した試料の断面の顕微鏡写真を示している。また、
図27(B)は、大気中において温度350℃で500時間の耐久試験を行った後の試料の断面の顕微鏡写真を示している。ニッケル膜とN型素子との間で材料(Ni、Te等)が相互拡散しており、N型素子の広い範囲に酸化が発生していることが分かる。
【0015】
特許文献3には、特に400℃以上の如き中高温における効率の良い、しかも経時的劣化や性能低下の極めて生じ難い熱電変換モジュールを得ることが開示されている。この熱電変換モジュールは、熱電変換部と吸熱部及び放熱部とよりなる熱電変換モジュールであって、該熱電変換部と吸熱部とが応力緩和層を介して固着一体化してなることを特徴とする。
【0016】
特許文献3の熱電変換モジュールは、特殊な接合材や溶射層又はフラックス等の介在物を用いずに熱電変換素子と電極とを接合する目的で、熱電変換素子と電極との間に、水素を吸蔵した金属箔(Cu、Fe、Ni、Ag、Ti、Zr、Al、Nb、又は、Mo等)を挟持させたものである(段落0044参照)。
【0017】
しかしながら、例えば250℃以上の高温で熱電変換モジュールを用いた場合に、Cu、Fe、Ni、Agは熱電変換素子に容易に拡散して、熱電変換特性を劣化させてしまうという問題がある。一方、Ti、Zr、Al、Nb、Moは熱電変換素子に拡散し難いが、熱電材料との線膨張係数の差が大きく、半田を介さずに電極と熱電変換素子とを接合した場合には、長時間に亘って繰り返して温度を変化させると破損の可能性が高い。また、水素を吸蔵した金属箔は、安全上及びコスト上の観点から好ましくない。
【0018】
特許文献4には、熱電半導体に性能を低下させないための合金層を形成することで、電極接合時及び電極接合後の通電時に熱電変換素子の劣化を防止し得る熱電変換素子が開示されている。この熱電変換素子は、(a)熱電半導体Bi−Te−Se系合金(n型)、又は、熱電半導体Bi−Sb−Te系合金(p型)と、(b)3価若しくは4価元素(B、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn)の内の少なくとも一種類の元素と、Bi、Sb、Te、Seの内の少なくとも一種類の金属若しくはBi−Te−Se系合金若しくはBi−Sb−Te系合金との合金層と、(c)3価若しくは4価元素(B、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn)の内の少なくとも一種類の元素からなる層と、(d)拡散防止効果を有する金属(Ti、Cr、Co、Ni、Nb、Mo、W)の内の少なくとも一種類の元素からなる層と、(e)電極材(半田材、電極)とから成る。
【0019】
特許文献4は、電極の材料が熱電半導体内に拡散するのを防止することを目的としているが、拡散防止層は、3価若しくは4価元素の層の上に配置されるので(特許文献4の
図4参照)、3価若しくは4価元素の熱電半導体内への拡散を十分に防ぐことはできない。特に、熱電材料に対して、Ga、In、Ge、Snは容易に固溶しアクセプタとして機能するので、これらとBi、Sb、Te、Seの内の少なくとも一種類の金属若しくはBi-Te-Se系合金若しくはBi-Sb-Te系合金との合金層を高温でも安定した状態で維持することは困難であり、熱電材料の熱電変換特性を容易に劣化させてしまうという問題がある。
【0020】
また、拡散防止効果を有する金属として、Ti、Cr、Co、Ni、Nb、Mo、Wが例示されているが、Ti、Nb、Mo、Wはメッキ法で成膜することはできないので、特段の工夫がなければ上述のような問題が発生し、例えば250℃以上の高温では十分な拡散防止効果を得ることは困難である。さらに、Co、Ni、Cr等は、熱電材料に拡散し易く、場合によってはTeとの合金又は金属間化合物を形成し、熱電変換特性を劣化させてしまうので、あまり適当ではない。
【0021】
特許文献5には、ビスマスと、テルルと、セレンと、アンチモンとの内の少なくとも1つを含む熱電材料に対して、元素の拡散防止効果が高く、且つ、剥離強度が高い拡散防止層を形成できる熱電素子の製造方法、及び、そのような熱電素子の製造方法によって製造された熱電素子が開示されている。この熱電素子は、ビスマス(Bi)と、テルル(Te)と、セレン(Se)と、アンチモン(Sb)との内の2つ以上を含む熱電材料と、該熱電材料上に形成され、上記熱電材料に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層と、該拡散防止層上に形成され、該拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層とを具備し、熱電材料層と拡散防止層との界面、又は、拡散防止層と半田接合層との界面における剥離強度が0.6MPa以上であることを特徴とする。
【0022】
特許文献5の熱電素子は、電極/半田層/半田接合層/拡散防止層/熱電材料層の構成とすることにより、特許文献1〜4における問題を大きく改善しているが、半田層や半田接合層と熱電材料層との間の相互拡散や熱電材料層の酸化を防止するという観点では不十分であった。
【0023】
図28は、熱電材料層の1つの面にモリブデン膜、ニッケル膜、及び、錫膜を順に形成した場合の耐久試験の結果を示す図である。この熱電発電モジュールは、熱電材料層の1つの面に、厚さ5μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1μmのニッケル(Ni)膜と、厚さ0.2μmの錫(Sn)膜とを、この順に形成したものである。錫(Sn)膜は、半田層を介して電極に接合されている。
図28は、大気中において温度280℃で5000時間の耐久試験を行った後の熱電発電モジュールの断面の顕微鏡写真を示しており、ニッケル(Ni)が熱電材料層内に拡散して熱電材料層の一部に酸化が発生し、熱電材料(Te)も半田層内に拡散していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの概要を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの一部を示す断面図である。
【
図3】体心立方格子及びそのすべり系を示す図である。
【
図4】(110)優先配向しない条件で形成されたモリブデン膜のXRD(X線回折)プロファイルを示す図である。
【
図5】(110)優先配向する条件で形成されたモリブデン膜のXRDプロファイルを示す図である。
【
図6】第1の拡散防止層として厚さ2.7μmの(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図7】第1の拡散防止層として厚さ13μmの(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図8】第1の拡散防止層として厚さ8.7μmの(110)優先配向しているモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図9】第1の拡散防止層として厚さ9.3μmの(110)優先配向しているモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図10】第2の拡散防止層として厚さ0.5μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図11】第2の拡散防止層として厚さ7.1μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図12】第2の拡散防止層として厚さ2.4μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図13】第2の拡散防止層として厚さ2.9μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図14】
図2における半田層周辺の構造を詳しく示す断面図である。
【
図15】試験条件1の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
【
図16】試験条件2の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
【
図17】試験条件3の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
【
図18】試験条件4の下で行われた耐久試験後の電気抵抗変化率の平均値及び標準偏差から求めた正規分布を示す図である。
【
図19】耐久試験後の試料B1の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図20】耐久試験後の試料B2の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図21】耐久試験後の試料B3−1及びB3−2の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図22】耐久試験後の試料B4の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図23】耐久試験前の試料の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を示す図である。
【
図24】耐久試験後の別の試料の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図25】N型素子の1つの面に形成されたモリブデン膜の厚さによる拡散及び酸化防止効果の違いを示す図である。
【
図26】P型素子の1つの面にチタン及びニッケルのスパッタ膜を順に形成した場合の耐久試験における変化を示す図である。
【
図27】N型素子の1つの面にチタン及びニッケルのスパッタ膜を順に形成した場合の耐久試験における変化を示す図である。
【
図28】熱電材料層の1つの面にモリブデン膜、ニッケル膜、及び、錫膜を順に形成した場合の耐久試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの概要を示す斜視図である。熱電発電モジュール1において、P型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(P型素子)10と、N型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(N型素子)20とを、電極31又は32を介して電気的に接続することにより、PN素子対が構成される。さらに、複数のPN素子対が、複数の高温側電極31及び複数の低温側電極32を介して直列に接続されている。
【0030】
複数のPN素子対によって構成される直列回路の一方の端のP型素子及び他方の端のN型素子には、2つのリード線40が2つの低温側電極32を介してそれぞれ電気的に接続されている。
図1においては、それらのPN素子対を挟み込むように、セラミック等の電気絶縁材料で形成された基板(熱交換基板)51及び52が配置されている。基板51側に熱を加え、基板52側を冷却水等で冷やすと、熱電発電モジュール1に起電力が発生して、2つのリード線40の間に負荷(図示せず)を接続したときに、
図1に示すように電流が流れる。即ち、熱電発電モジュール1の両側(図中の上下)に温度差を与えることにより、電力を取り出すことができる。
【0031】
ここで、基板51及び52の一方又は両方を省略して、電気絶縁性を有する熱交換器の表面に高温側電極31及び低温側電極32の一方又は両方が直接接することが望ましい。その場合には、熱電変換効率を向上させることができる。基板51及び52の一方が省略された熱電発電モジュールは、ハーフスケルトン構造と呼ばれ、基板51及び52の両方が省略された熱電発電モジュールは、フルスケルトン構造と呼ばれる。
【0032】
P型素子10及びN型素子20は、いずれも、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、及び、セレン(Se)の内の少なくとも2種類の元素を主成分とするビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料で構成される。例えば、P型素子10は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、アンチモン(Sb)を含む熱電材料で構成される。また、N型素子20は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、セレン(Se)を含む熱電材料で構成される。特に、高温側熱交換器の温度が最高で250℃〜280℃となるような温度環境においては、ビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料が適している。また、高温側電極31及び低温側電極32は、例えば、電気伝導性及び熱伝導性の高い銅(Cu)で構成される。
【0033】
図2は、本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの一部を示す断面図である。
図2においては、例として、P型素子10及びN型素子20と高温側電極31との接合部の構成が示されているが、P型素子10及びN型素子20と低温側電極32(
図1)との接合部の構成も、
図2に示す構成と同様でも良い。ただし、各部のサイズは、適宜変更することが可能である。
【0034】
図2に示すように、熱電発電モジュールは、P型素子10と、N型素子20と、P型素子10及びN型素子20の各々の1つの面(図中の上面)に順に配置された第1の拡散防止層61と、第2の拡散防止層62と、半田接合層70と、半田接合層70に接合された半田層80とを含んでいる。
【0035】
また、熱電発電モジュールは、高温側電極31と、少なくとも高温側電極31の一方の主面(図中の下面)に配置された電極保護層90とを含んでいる。電極保護層90は、メッキ等によって高温側電極31に形成され、
図2に示すように、高温側電極31の一方の主面のみならず、高温側電極31の全ての側面、及び、他方の主面(図中の上面)にも配置されても良い。半田層80は、電極保護層90の一部の領域に半田接合層70を接合する。
【0036】
電極保護層90は、主として、高温側電極31の酸化防止や半田濡れ性改善を目的としており、例えば、ニッケル(Ni)、金(Au)/ニッケル(Ni)の積層構造、錫(Sn)、ニッケル(Ni)を含有する合金又は金属間化合物等、又は、それらの内の少なくとも2つを組み合わせた構造を有している。例えば、電極保護層90の厚さは約20μmであり、半田層80の厚さは約50μm〜約150μmである。
【0037】
第1の拡散防止層61は、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)からなり、第2の拡散防止層62は、コバルト(Co)、チタン(Ti)、又は、それらを主成分とする合金又は化合物からなる。ここで、化合物とは、金属間化合物や、窒化物(ナイトライド)等を含む概念である。
【0038】
また、半田接合層70は、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、又は、それらを主成分とするニッケル−錫(Ni−Sn)等の合金又は化合物からなる。半田接合層70を設けることにより、半田濡れ性を改善することができる。本実施形態においては、半田接合層70として、厚さ0.9μmのニッケル−錫の合金膜が設けられる。熱電発電モジュールを高温で使用すると、ニッケル−錫の合金の大部分は、ニッケル−錫の金属間化合物に変化する。
【0039】
特に、半田接合層70をニッケルではなくニッケル−錫の合金又は金属間化合物で構成する場合には、熱電発電モジュールを高温の環境で長時間放置しても、半田接合層70から半田層80中へのニッケルの拡散が抑制される。これは、半田接合層70を形成するニッケル−錫の金属間化合物がニッケルと錫とに分解する際にエネルギーが必要となるので、この金属間化合物を構成するニッケルが半田中に拡散するためには、単体のニッケルが半田中に拡散するよりも大きなエネルギーを必要とするからである。
【0040】
熱電変換素子と半田接合層70との間に配置される拡散防止層としては、第1の拡散防止層61のみでも、半田層80の材料が熱電変換素子内に拡散することを抑制できるが、半田接合層70の材料と熱電材料との相互拡散や、熱電変換素子の酸化を抑制するには不十分であった。そこで、第2の拡散防止層62を設けることにより、半田接合層70の材料と熱電材料との相互拡散や、熱電変換素子の酸化も、より効果的に抑制することが可能となる。その結果、高温部の温度が最高で250℃〜280℃となるような高温の環境での長時間使用に耐えられる熱電発電モジュールを提供することができる。
【0041】
第1の拡散防止層61は、膜の主面(図中の下面)に略直交する長手方向を有する柱状構造の組織(
図23参照)を有することが望ましい。その場合には、互いに隣接する2層の線膨張係数の差により発生する膜応力を緩和することができる。また、第1の拡散防止層61は、好ましくは2.7μm以上、より好ましくは4μm以上の厚さを有することが望ましい。第1の拡散防止層61の厚さを2.7μm以上とすることにより、熱電変換素子の酸化をより効果的に抑制できるようになる。また、第1の拡散防止層61の組織が柱状構造であれば、膜厚が2.7μm以上の場合でも、互いに隣接する2層の線膨張係数の差により発生する膜応力を緩和することが可能となり、膜剥離を防止できる。
【0042】
例えば、第1の拡散防止層61の材料として、
図3(A)に示すような体心立方格子の結晶構造を有するモリブデン(Mo)を用いる場合に、体心立方格子のすべり面は{110}面なので、理想的には{110}面が膜の主面に略直交するように配向することが望ましい。ここで、{110}面は、等価な6つの面の総称である。
図3(B)に示すように、等価な6つの面の内の(110)面には、正負を区別しない場合に、等価な2つのすべり方向が存在する。従って、すべり系の数は、6面×2方向=12個となる。
【0043】
しかしながら、成膜条件次第では、優先的に(110)面が膜の主面に略直交するように配向してしまうことがある。以下においては、そのような配向を「(110)優先配向」という。(110)優先配向の場合には、線膨張係数の差により、膜厚9μm程度を超えると大きな亀裂が発生するので、膜厚上限が低くなってしまう。
【0044】
図4は、(110)優先配向しない条件で形成されたモリブデン膜のXRD(X線回折)プロファイルを示す図であり、
図5は、(110)優先配向する条件で形成されたモリブデン膜のXRDプロファイルを示す図である。
図4及び
図5において、横軸はX線の回折角2θ(deg)を表しており、縦軸は回折強度(×10
3CPS)を表している。
【0045】
これらのプロファイルは、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜/厚さ1.4μmのコバルト(Co)膜/厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜の3層膜上からX線を照射して分析することにより得られたものである。実線及び破線は、P型半導体及びN型半導体のウエハに3層膜を形成した場合の結果をそれぞれ表しており、ウエハの材質の違いによる差異は殆ど見られない。
【0046】
第1の拡散防止層61として(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。その結果、モリブデン膜の厚さが最小で2.7μmであれば、熱電変換素子の酸化が見られなかった。一方、モリブデン膜の厚さが2.7μm未満の場合には、熱電変換素子の一部に酸化が見られた。
【0047】
図6は、第1の拡散防止層として厚さ2.7μmの(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図6に示すように、半田層や半田接合層の材料の熱電変換素子内への拡散や、熱電変換素子の酸化は見られない。なお、
図6等において、半田層の銅ボール(後述)の周辺に、熱電発電モジュールの表面を研磨した際に付着した多数の研磨粉が写り込んでいるが、これらは半田層の組織の一部ではない。
【0048】
また、第2の拡散防止層を形成しない場合でも、モリブデン膜の厚さが4.0μm以上であれば、熱電変換素子の酸化が抑制される。熱電変換素子の1つの面にモリブデン膜が形成された試料に対し、大気中において温度350℃で500時間の耐久試験が行われた(
図25参照)。その結果、モリブデン膜の厚さが4.0μm以上の場合には、熱電変換素子の酸化が見られなかった。一方、モリブデン膜の厚さが4.0μm未満の場合には、熱電変換素子の一部に酸化が見られた。
【0049】
図2に示す第1の拡散防止層61は、好ましくは13μm以下、より好ましくは9μm以下の厚さを有することが望ましい。第1の拡散防止層61として(110)優先配向していないモリブデン膜を形成する場合には、膜厚13μmまでは剥離なしに成膜できて、大きな亀裂が発生せず、熱電変換素子の酸化が発生しない。一方、膜厚が13μmを越えると、線膨張係数の差により膜に大きな亀裂が発生し、熱電変換素子の一部に酸化が発生する場合がある。
【0050】
第1の拡散防止層61として(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールに対し、大気中において温度350℃で500時間の耐久試験が行われた。
図7は、第1の拡散防止層として厚さ13μmの(110)優先配向していないモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図7に示すように、モリブデン膜の大きな亀裂や、熱電変換素子の酸化は見られない。加えて、工業的な工程時間とコストの観点からも、膜厚13μm程度が上限であると考えられる。
【0051】
また、第1の拡散防止層61として(110)優先配向しているモリブデン膜を形成する場合には、膜厚9.0μmまでは剥離なしに成膜できて、大きな亀裂が発生せず、熱電変換素子の酸化が発生しない。一方、膜厚が9.0μmを越えると、線膨張係数の差により膜に大きな亀裂が発生し、熱電変換素子の一部に酸化が発生する。
【0052】
第1の拡散防止層61として(110)優先配向しているモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。その結果を、
図8及び
図9に示す。
【0053】
図8は、第1の拡散防止層として厚さ8.7μmの(110)優先配向しているモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図8に示すように、モリブデン膜に大きな亀裂が発生せず、熱電変換素子の酸化は発生していない。
【0054】
図9は、第1の拡散防止層として厚さ9.3μmの(110)優先配向しているモリブデン膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図9に示すように、モリブデン膜に大きな亀裂が発生して、熱電変換素子の一部に酸化が発生している。
【0055】
図2において、第1の拡散防止層61が柱状構造の組織を有する場合には、半田接合層70の材料や酸素が結晶粒界(柱と柱との間)を拡散又は通過し、熱電変換特性に悪影響を与える。そこで、第2の拡散防止層62が存在することにより、熱電変換特性に与える悪影響を大幅に抑制することができる。
【0056】
第2の拡散防止層62は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.9μm以上の厚さを有することが望ましい。第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向していない場合に、第2の拡散防止層62としてコバルト膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。その結果、第2の拡散防止層62の厚さが最小で0.5μmでも、熱電変換素子の酸化が見られなかった。
【0057】
図10は、第2の拡散防止層として厚さ0.5μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図10に示すように、半田層や半田接合層の材料の熱電変換素子内への拡散や、熱電変換素子の酸化は見られない。
【0058】
一方、第2の拡散防止層62の厚さが0.5μm未満の場合には、下地膜の粗さやモリブデン膜のドロップレットの影響で、成膜の際に、膜成分原子、分子、又は、クラスター等が形成され難い箇所が発生し、第2の拡散防止層62によって被覆されない箇所が発生し易くなるので好ましくない。
【0059】
また、第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向している場合に、第2の拡散防止層62としてコバルト膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。その結果、第2の拡散防止層62の厚さが0.9μm以上である場合には、熱電変換素子の酸化が発生しなかった。一方、第2の拡散防止層62の厚さが0.9μm未満である場合には、熱電変換素子の一部に酸化が発生した。
【0060】
図2に示す第2の拡散防止層62は、好ましくは7μm以下、より好ましくは2.4μm以下の厚さを有することが望ましい。第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向していない場合には、第2の拡散防止層62の厚さが7.1μm以下であれば、剥離なしに成膜できて、膜剥離や熱電変換素子の酸化が発生しなかった。一方、第2の拡散防止層62の厚さが7.1μmを越える場合には、線膨張係数の差による膜剥離や熱電変換素子の酸化が発生する場合がある。
【0061】
第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向していない場合に、第2の拡散防止層62としてコバルト膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。
図11は、第2の拡散防止層として厚さ7.1μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図11に示すように、膜剥離や熱電変換素子の酸化は発生していない。加えて、工業的な工程時間とコストの観点からも、膜厚7μm程度が上限であると考えられる。
【0062】
また、第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向している場合には、第2の拡散防止層62の厚さが2.4μm以下であれば、モリブデン膜に大きな亀裂が発生せず、熱電変換素子の酸化が発生しなかった。一方、第2の拡散防止層62の厚さが2.4μmを越える場合には、線膨張係数の差によりモリブデン膜に大きな亀裂が発生し、熱電変換素子の一部に酸化が発生した。
【0063】
第1の拡散防止層61のモリブデン膜が(110)優先配向している場合に、第2の拡散防止層62としてコバルト膜が形成された熱電発電モジュールに対し、酸素中において温度280℃で1000時間の耐久試験が行われた。その結果を、
図12及び
図13に示す。
【0064】
図12は、第2の拡散防止層として厚さ2.4μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図12に示すように、モリブデン膜に大きな亀裂が発生せず、熱電変換素子の酸化は発生していない。
図13は、第2の拡散防止層として厚さ2.9μmのコバルト膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験後の断面を示す顕微鏡写真である。
図13に示すように、線膨張係数の差によりモリブデン膜に大きな亀裂が発生し、熱電変換素子の一部に酸化が発生している。
【0065】
図2に示す半田層80は、鉛(Pb)及び錫(Sn)を主成分とし、それらの比率がPb
xSn
(1−x)(x≧0.85)で表される組成を有する半田を含むことが望ましい。そのような組成を有する半田を用いることにより、高温での使用に耐える熱電発電モジュールを提供できると共に、錫(Sn)の含有量が少ないことにより、半田接合層70や第2の拡散防止層62と錫(Sn)との反応又は合金化が抑制されて、各層の剥離を防止できる。なお、錫(Sn)の含有比率は、限りなくゼロに近くても良い(x<1)。
【0066】
半田層80の半田が、鉛(Pb)を85%以上含有している場合には、半田の融点が260℃以上となるので、260℃の高温でも半田が溶融せずに、熱電変換素子と電極とを良好に接合することができる。さらに、鉛の含有率を90%以上とすれば、半田の融点は275℃以上となり、鉛の含有率を95%以上とすれば、半田の融点は305℃以上となり、鉛の含有率を98%以上とすれば、半田の融点は317℃以上となる。
【0067】
図14は、
図2における半田層周辺の構造を詳しく示す断面図である。
図14に示すように、半田層80は、半田基材81と粒子82とを含んでも良い。熱電変換素子と電極とを接合する接合層中の半田層80に粒子82を含有させることにより、粒子82が隙間保持材として機能するので、多数の熱電変換素子と電極とを一度に接合する場合でも熱電発電モジュールの高さが一定となり、十分な接合強度を確保することができる。また、圧力が作用する状態での半田接合や高温環境下での使用においても、粒子82によって半田層80の厚さが維持されるので、半田のはみ出しを防止でき、はみ出した半田と熱電材料との反応に起因する破壊等を防止することができる。
【0068】
粒子82としては、例えば、銅(Cu)ボールを用いることができる。粒子82の材料として銅を用いることにより、260℃〜317℃の高温でも粒子82が溶融して消失せず、かつ、電気抵抗が低いので、熱電変換素子と電極との間で電流を効率よく流すことができる。また、銅ボールの表面に、ニッケル(Ni)又は金(Au)がコーティングされていても良い。
【0069】
銅ボールの直径は、5μm〜100μmが適している。銅ボールの直径が5μm未満である場合には、200℃以上の高温環境下で熱電発電モジュールを加圧すると半田層80の厚さが5μm未満となり、薄くなりすぎて接合不良となる。一方、銅ボールの直径が100μmを超える場合には、半田層80が厚くなって界面の電気抵抗が高くなり、電力損失が顕著となる。
【0070】
ところで、フルスケルトン構造の熱電発電モジュールと熱交換器とを熱伝導性グリースを用いて密着させる場合には、熱電発電モジュールと熱交換器との間に垂直方向に加える圧力が196kN/m
2(2kgf/cm
2)未満では熱抵抗が高くなるので、196kN/m
2(2kgf/cm
2)以上の圧力を垂直方向に加えて使用することが好ましい。
【0071】
そして、196kN/m
2(2kgf/cm
2)の圧力に耐え得る銅ボールの重量比としては0.75wt%以上を必要とすることから、銅ボールの重量比の下限は0.75wt%となる。銅ボールの重量比が0.75wt%を下回ると、銅ボールに作用する荷重が大きくなり、銅ボールが潰れたり、銅ボールを起点として熱電変換素子にクラックが生じてしまう。
【0072】
また、熱電発電モジュールと熱交換器との間に垂直方向に加える圧力を1960kN/m
2(20kgf/cm
2)にすると、銅ボールの重量比が7.5wt%である場合には熱電変換素子が変形しないことから、さらに好ましくは、銅ボールの重量比は7.5wt%以上である。
【0073】
一方、銅ボールの重量比に対する半田の接合成功率を測定すると、銅ボールの重量比が50wt%では成功率が約100%であり、銅ボールの重量比が75wt%では成功率が約93%である。従って、半田層80の半田における銅ボールの重量比が0.75wt%〜75wt%、さらに好ましくは、7.5wt%〜50wt%となるように、銅ボールが半田基材81に混合されることが望ましい。
【0074】
次に、熱電発電モジュールの耐久試験の結果について説明する。この耐久試験においては、電気抵抗の測定と、耐久試験後の断面観察とが行われた。耐久試験に供される熱電発電モジュール本体においては、
図1に示すように、高温側電極31と低温側電極32とが互い違いに配置され、上下の電極間には、P型素子10とN型素子20とが交互に配置されている。これにより、複数のP型素子10及び複数のN型素子20が、複数の高温側電極31及び複数の低温側電極32を介して電気的に直列接続される。直列回路の両端に配置された2つの低温側電極32に2つのリード線40をそれぞれ接続することにより、複数のP型素子10及び複数のN型素子20によって発電される電力を加算して取り出すことができる。
【0075】
熱電発電モジュール本体の周囲は、樹脂製の枠体(図示せず)で囲まれている。熱電発電モジュール本体の上下面には、電気的に絶縁性を有する基板51及び52が、熱伝導性グリースを介してそれぞれ取り付けられている。基板51及び52は、電極及び枠体を覆う大きさを有しており、熱電発電モジュールが熱源に取り付けられた際に、枠体が熱源に直接接触しないようになっている。
【0076】
P型素子10は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、アンチモン(Sb)を主成分とする菱面体構造材料の微結晶体である。N型素子20は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、セレン(Se)を主成分とする菱面体構造材料の微結晶体である。P型素子10及びN型素子20に対する多層膜の形成方法としては、イオンプレーティング法により、次の条件で成膜が行われた。交流プラズマ出力は450Wに設定され、雰囲気はアルゴン(Ar)雰囲気であり、材料蒸発手段として電子ビームが用いられ、電子ビーム電流は0.3A〜0.4Aに設定された。
【0077】
半田層80(
図14)は、Pb
98Sn
2の組成を有するクリーム半田に7.5wt%の銅(Cu)ボールを混合させたものである。高温側電極31及び低温側電極32は純銅製であり、電極保護層90(
図2)として、金(Au)メッキ膜/ニッケル(Ni)メッキ膜が形成されている。金(Au)メッキ膜の厚さは、0.2μmである。枠体は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂製であり、基板51及び52は、96%アルミナ製である。
【0078】
<電気抵抗の測定>
熱電発電モジュールの最大出力電力Pは、次式(1)で表される。
P=V
2/4R ・・・(1)
ここで、Vは、熱電発電モジュールの開放電圧であり、Rは、熱電発電モジュールの電気抵抗(内部抵抗)である。熱電発電モジュールに接続される負荷が、熱電発電モジュールの内部抵抗と同じ電気抵抗を有する場合に、熱電発電モジュールから最大の電力を取り出すことができる。式(1)から分かるように、熱電発電モジュールの電気抵抗Rに反比例して最大出力電力Pが低下する。従って、熱電発電モジュールの電気抵抗の変化を調査すれば、熱電発電モジュールの劣化の状態を知ることができる。
【0079】
試料A1は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。試料A2は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1.4μmのコバルト(Co)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。試料A3は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1.4μmのチタン(Ti)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。
【0080】
試験条件1として、熱電発電モジュールの高温側温度を280℃とし、熱電発電モジュールの低温側温度を30℃とし、雰囲気を大気中として、熱電発電モジュールの高温側温度及び低温側温度を保持したまま、各試料について1つの熱電発電モジュールの電気抵抗が測定された。なお、1つの熱電発電モジュールは、161対のP型素子及びN型素子を含んでいる。
【0081】
図15は、試験条件1の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
図15において、横軸は、保持時間(hour)を表しており、縦軸は、初期値を「1」に規格化した電気抵抗を表している。
図15における各線は、複数の測定時刻における測定結果を直線で近似したものである。いずれの試料も電気抵抗の増加は僅かであるが、試料A2及び試料A3では、電気抵抗の増加がより少なく、熱電発電モジュールの劣化の要因となる、半田接合層の材料の拡散や熱電変換素子の酸化が抑制されている。
【0082】
試験条件2として、熱電発電モジュール全体の温度を280℃とし、雰囲気を酸素中として、熱電発電モジュール全体を加熱したまま、各試料について1つの熱電発電モジュールの電気抵抗が測定された。
【0083】
図16は、試験条件2の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
図16において、横軸は、加熱時間(hour)を表しており、縦軸は、初期値に対する電気抵抗増加率(%)を表している。試料A1と比較して、試料A2および試料A3の電気抵抗増加率は、2000時間経過後も小さいままであった。
【0084】
試験条件3として、熱電発電モジュール全体の温度を280℃とし、雰囲気を酸素中として、熱電発電モジュール全体を加熱したまま、各試料について7つの熱電発電モジュールの電気抵抗が測定された。
【0085】
図17は、試験条件3の下で行われた耐久試験における電気抵抗の測定結果を示す図である。
図17において、横軸は、加熱時間(hour)を表しており、縦軸は、初期値に対する電気抵抗増加率を表している。試験条件3の下においても、試料A1と比較して、試料A2及び試料A3の電気抵抗増加率及びばらつきが小さいことが分かる。
【0086】
試験条件4として、熱電発電モジュール全体の温度を280℃とし、雰囲気を酸素中として、熱電発電モジュール全体を2000時間加熱した後に、室温において、各試料について7つの熱電発電モジュールの各々に含まれている161対のP型素子及びN型素子の電気抵抗が測定された。即ち、各試料について、7×161=1127箇所の電気抵抗が測定された。
【0087】
図18は、試験条件4の下で行われた耐久試験後の電気抵抗変化率の平均値及び標準偏差から求めた正規分布を示す図である。
図18において、横軸は、初期値に対する電気抵抗変化率を表しており、縦軸は、度数(任意単位)を表している。
図18からも、試料A1と比較して、試料A2及び試料A3の電気抵抗増加率及びばらつきが共に小さいことが立証された。
【0088】
<耐久試験後の断面観察>
試料B1は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1μmのニッケル(Ni)膜と、厚さ0.2μmの錫(Sn)膜とが、この順に形成された多層膜を有している。試料B2は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。
【0089】
試料B3−1は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ9μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1.4μmのコバルト(Co)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。試料B3−2は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ4μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1.4μmのコバルト(Co)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。試料B4は、熱電変換素子の1つの面に、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜と、厚さ1.4μmのチタン(Ti)膜と、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成された多層膜を有している。
【0090】
試験条件として、熱電発電モジュール全体の温度を350℃とし、雰囲気を大気中として、加熱時間が1000時間の耐久試験が行われた。
図19は、耐久試験後の試料B1の断面を示す顕微鏡写真である。試料B1においては、ニッケル(Ni)と熱電材料とが相互拡散し、熱電変換素子とモリブデン(Mo)膜との界面の組織が変化すると共に、熱電変換素子の一部に酸化が発生している。
図20は、耐久試験後の試料B2の断面を示す顕微鏡写真である。試料B2は、試料B1よりは相互拡散が改善されているが、熱電変換素子とモリブデン(Mo)膜との膜界面付近の熱電変換素子側に酸化が発生している。
【0091】
図21(A)は、耐久試験後の試料B3−1の断面を示す顕微鏡写真であり、
図21(B)は、耐久試験後の試料B3−2の断面を示す顕微鏡写真である。また、
図22は、耐久試験後の試料B4の断面を示す顕微鏡写真である。試料B3−1、試料B3−2、及び、試料B4においては、耐久試験後も大きな変化は見られなかった。
【0092】
図23は、耐久試験前の試料の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を示す図である。この試料においては、熱電変換素子の1つの面に、モリブデン(Mo)膜と、コバルト(Co)膜と、ニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とが、この順に形成されている。モリブデン(Mo)膜の厚さは、9μmである。
図23に示すように、第1層目のモリブデン(Mo)膜は、膜の主面に略直交する長手方向を有する柱状構造の組織を有している。
【0093】
図24は、耐久試験後の別の試料の断面を示す顕微鏡写真である。この試料は、熱電変換素子の1つの面に、モリブデン(Mo)膜と、ニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜とを、この順に形成したものである。モリブデン(Mo)膜の厚さは、10μmである。この耐久試験では、大気中において350度で500時間の加熱が行われた。モリブデン(Mo)膜は、柱状構造の組織を有しており、大きな線膨張係数の差(約1×10
−5/℃)が緩和されるので、10μmの厚膜であっても熱電変換素子から剥離していない。
【0094】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。