(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的に、外周面にプーリ溝を有する複数のプーリにベルトを巻き掛けてなるベルト伝動装置は、全てのプーリに掛け渡した状態のベルトに対して所定の張力を付与するオートテンショナなどの張力付与手段を備えている。
【0003】
このような張力付与手段を不要にするために、複数のプーリに取り付ける際に周方向に引き伸ばしてプーリフランジを乗り越えさせるようにしたベルトがある。そして、従来から、このベルトをプーリに取り付けるためのベルト取付治具が提案されている。
【0004】
ベルト取付治具は、例えば2個のプーリにベルトを巻き掛ける場合、一方のプーリにベルトを掛け渡した状態で、該ベルトの余剰部分が掛けられると共に他方のプーリに装着して使用されるものであり、その装着状態は、当該ベルト取付治具よりもプーリ回転方向後方に位置するベルト部分をプーリ溝に嵌合させ、且つ当該ベルト取付治具よりもプーリ回転方向前方に位置するベルト部分をプーリの外周面上から手前側側方に曲げて引き出すことにより、ベルトとプーリ溝との間に一部が挟着された状態である。なお、本明細書でいう「手前側」とは、ベルトの取付け作業を行う作業者側を意味し、「奥側」とは、上記作業者と反対側を意味する。
【0005】
そして、ベルト取付治具は、上記装着状態とされた後、治具装着側のプーリのセンターボルトをレンチなどの工具を用いて回転させ、当該ベルト取付治具をプーリ回転方向前方に進め、プーリ溝に嵌るベルトの範囲を徐々に広げることによって、最終的には治具装着側のプーリにもベルトを完全に巻き掛けるようになっている。
【0006】
このようなベルト取付治具として、例えば、特許文献1には、ベルトがプーリ溝に嵌合するまで当該ベルト取付治具をプーリに固定するための固定手段と、ベルトの一部を受けてプーリフランジの近傍且つプーリ軸方向外側に保持する保持面とを備え、該保持面が、プーリフランジの外周面と面一に設定され、プーリを回転させたときに、ベルト幅方向に曲がったベルトがその復元力によってプーリ溝に嵌合するまで、ベルトの一部を保持するように構成された治具が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のベルト取付治具をプーリに装着し、当該ベルト取付治具を用いてプーリにベルトを巻き掛ける際には、保持面でベルトの一部を受け、該保持面よりもプーリ回転方向前方に位置するベルト部分をプーリの外周面上から手前側側方に曲げて引き出す必要がある。
【0009】
しかしながら、当該ベルト取付治具では保持面がプーリフランジの外周面と面一に設定されているため、当該ベルト取付治具をプーリに装着する際には、保持面上でベルトを幅方向に比較的大きく曲げざるを得ない。そうすると、当該ベルトの引き出し箇所の曲げ部分において局所的に、ベルト幅方向の手前側部分が圧縮される一方、ベルト幅方向の奥側部分が引張される状態となる。この状態でプーリを回転させて治具装着先のプーリにベルトを巻き掛けていくと、ベルトの巻掛けに伴い付与された張力によって上記ベルトの引き出し箇所の曲げ部分に加わる圧縮力及び引張力が益々増大するため、ベルトが損傷するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1の如くベルトを保持するための保持面がプーリフランジの外周面と面一に設定されていると、ベルト取付治具に掛けたベルトは、その巻掛けに伴い付与された張力によってプーリの手前側側方に強く引っ張られ、保持面上を滑ってベルト取付治具から外れるおそれさえもある。
【0011】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のプーリにベルトを取り付ける際において、ベルト取付治具からのベルト外れと、ベルトの局所的な圧縮及び引張による損傷とを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、ベルトを保持する保持面の形状を、ベルトを正曲げ状態に掛け回すことによって当該保持面に引っ掛けながらプーリの側方へスムーズに引き出し可能なように工夫した。
【0013】
具体的には、本発明は、プーリの側面に一側面を対応させて配置される治具本体と、上記治具本体の一側面の一端側にプーリの外周に沿うように突設され、且つ基端側表面にベルトを保持する保持面を有し、上記プーリのプーリ溝に嵌合した状態で、上記ベルトを上記保持面を経てプーリの側方に案内して引き出すベルト案内部とを備え、少なくとも2個のプーリに上記ベルトを緊張状態で巻き掛けて取り付ける際、1個のプーリを除く他のプーリに上記ベルトを掛け渡した状態で、上記ベルト案内部を上記1個のプーリのプーリ溝に嵌合させて、上記ベルトを上記保持面で保持し、当該プーリの回転動作に伴い上記ベルトと共に回転方向に移動して該ベルトをプーリ溝に嵌合させて当該プーリに取り付けるベルト取付治具を対象とし、以下の解決手段を講じたものである。
【0014】
すなわち、第1の発明は、上記保持面は、上記ベルトの内周面が
上記治具本体側を向くように上記治具本体
と上記ベルト案内部との接続部に対応する箇所の中央部分を頂部としてその周囲に向かって下傾すると共に、ベルト引き出し方向に沿って
上記治具本体とは反対側に凸状をなす山形に湾曲し
、上記ベルトが上記治具本体側に外れることを防止する外れ止めを兼ねることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明のベルト取付治具において、上記保持面におけるベルト引き出し側端部は、当該ベルトの引き出し側に向かって下傾し、当該保持面で保持したベルトの引き出し部分での屈曲を緩和する屈曲緩和面を構成していることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明のベルト取付治具において、上記治具本体
のうち上記ベルト案内部
のベルト引き出し側
に位置する端部は、上記ベルト案内部に案内されてプーリの側方に引き出されたベルトのプーリ回転方向後方側の側面と当接し、該ベルトの側面を沿わせる側面当接部を構成していることを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1〜第3の発明のいずれか1つのベルト取付治具において、上記治具本体は、上記ベルト案内部の突設基部にプーリの側面に沿うようにプーリ回転方向前方に突設され、上記ベルト案内部とプーリ回転軸方向に離間して当該ベルト案内部との間に隙間を有し、該隙間に案内されたベルトを、プーリの側面とにより当該ベルトの内周面をプーリ側に向けた状態の姿勢に保持する姿勢保持部を備えていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第4の発明のベルト取付治具において、上記姿勢保持部は、プーリの外周縁部に沿うように円弧形状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第1〜第5の発明のいずれか1つのベルト取付治具において、上記治具本体は、上記ベルト案内部とプーリ回転軸方向に離間して当該ベルト案内部との間に隙間を有し、該隙間を通したベルトを上記ベルト案内部とで挟持するベルト挟持部を備えていることを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第1〜第6の発明のいずれか1つのベルト取付治具において、上記治具本体は、ベルト引き出し側のプーリ回転軸周りに位置するように設けられ、上記ベルト案内部に案内されてプーリの側方に引き出されたベルトの一部をプーリ径方向外側に位置する面で受けるベルト受け部を備えていることを特徴とする。
【0021】
第8の発明は、第1〜第7の発明のいずれか1つのベルト取付治具において、上記各プーリのプーリ溝は、並列に複数設けられ、各々、開口側から底側に向かって幅が狭くなるV字状に形成されており、上記ベルト案内部は、上記各プーリ溝に係合する複数の係合突条部を裏面に有し、上記各係合突条部は、上記プーリ溝に対応するように横断面三角形状又は台形状に形成されていることを特徴とする。
【0022】
第9の発明は、第1〜第8の発明のいずれか1つのベルト取付治具において、治具装着先のプーリはフランジ付きプーリであり、当該プーリのフランジは基端側から先端側に向かって幅が狭くなる横断面台形状に形成され、上記治具本体の一端側と上記ベルト案内部の基端側表面との間には、治具装着先のプーリのフランジを挟み込んで係合する係合溝が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、ベルト取付治具のベルトを保持する保持面が、治具本体側の一部を頂部としてその周囲に向かって下傾し、且つベルト引き出し方向に沿って山形に湾曲した湾曲面を呈している。このような湾曲面を呈する保持面にベルトを保持させると、ベルトは、保持面上で内周面が治具本体側を向き、保持面の湾曲形状に倣いベルト周方向に沿って湾曲した正曲げ状態となって、プーリの手前側側方に引き出される。これにより、ベルトをプーリの手前側に引き出した状態において、ベルトに生じる幅方向の曲げを抑えることができるので、ベルトの引き出し箇所の曲げ部分に局所的な圧縮力や引張力が加わることを防止できる。
【0024】
また、上記保持面が治具本体側に向かって上傾する傾斜面を呈しているので、当該保持面に保持させたベルトは、治具装着先のプーリを回転させながらベルトを巻き掛けるときに、ベルトの巻掛けに伴って付与された張力によりプーリ手前側に引っ張られても、保持面に押し付けられて引っ掛った掛止状態となる。これにより、ベルトが保持面に確実に保持されるので、ベルト取付治具からベルトがプーリ手前側に外れることを防止できる。
【0025】
したがって、複数のプーリにベルトを取り付ける際において、ベルト取付治具からのベルト外れと、ベルトの局所的な圧縮及び引張による損傷とを防止することができる。
【0026】
第2の発明によれば、上記保持面におけるベルト引き出し側端部がベルト引き出し側に向かって下傾する屈曲緩和面を構成しているので、該屈曲緩和面により、ベルトに極端な曲げを生じさせることなく該ベルトを保持面から曲げてプーリの側方にスムーズに引き出すことができる。これにより、プーリへのベルト巻掛けに伴ってベルトにひずみ集中が生じることを避けてベルトの破損を防止することができる。
【0027】
第3の発明によれば、治具本体がベルト引き出し側にベルトの側面を沿わせる側面当接部を備えているので、該側面当接部により、ベルト案内部に案内されてプーリの側方に引き出されたベルトを位置決めできる。そして、プーリにベルトを巻き掛ける際には、ベルトの側面が側面当接部に支持された状態でプーリの回転動作に伴いその回転方向前方に押されるので、ベルトが潰れたり異常な変形を生じにくい。これにより、ベルトの損傷をよりいっそう防止することができる。
【0028】
第4の発明によれば、治具本体がプーリ回転方向前方に突設された姿勢保持部を備え、該姿勢保持部とベルト案内部との間の隙間に案内されたベルトが、姿勢保持部とプーリの側面とによりその内周面をプーリ側に向けた状態の姿勢に保持されるので、プーリ溝にまだ巻き掛けられていないベルト部分においてプーリの外周面上で手前側に送られる幅方向一方側がプーリの外周面上で奥側に送られる幅方向他方側に対してプーリ回転軸寄りに位置し、治具装着先のプーリに続いてベルトが送られる他のプーリ上でプーリ手前側に位置するベルト部分が該他のプーリのプーリ溝に強く噛んで、当該プーリからベルトが外れることを防止できる。
【0029】
また、治具装着先のプーリの回転動作に伴う当該プーリの側面との摺動によりベルトに捩れが生じようとするプーリ側方において、当該ベルトの捩れを確実に抑止して、ベルトが損傷することを防止できる。
【0030】
第5の発明によれば、姿勢保持部がプーリの外周縁部に沿うように円弧形状に形成されているので、プーリへのベルト巻掛け終了間際には、プーリ溝にまだ嵌合していないベルト部分が治具装着先のプーリの外周縁部近傍に位置するが、このような状態においても姿勢保持部とプーリの側面とでベルトを所定の姿勢に保持できるので、ベルトの巻掛けが終了するまで予めベルトを掛け渡したプーリからのベルト外れとベルトの捩れによる損傷とを良好に防止することができる。
【0031】
第6の発明によれば、治具本体がベルト案内部との間に隙間を有するベルト挟持部を備え、該ベルト挟持部とベルト案内部とによりこれらの間の隙間を通したベルトが挟持されるので、プーリにベルトを巻き掛ける際に、ベルト取付治具自体にベルトが固定される。これにより、プーリの回転動作に伴いベルトがベルト取付治具上で滑ることを防止でき、効率良く且つ確実にプーリにベルトを取り付けることができる。
【0032】
第7の発明によれば、治具本体がベルト引き出し側のプーリ回転軸周りに位置するように設けられたベルト受け部を備え、該ベルト受け部のプーリ径方向外側に位置する面により、ベルト案内部に案内されてプーリの側方に引き出されたベルトの一部を受けるので、該ベルトはプーリの回転軸上から外れた位置を通される。これにより、プーリを回転させるための工具をプーリの回転軸に連結させる際にベルトが邪魔にならず、ベルトの取付け作業を円滑に行うことができる。
【0033】
また、ベルト受け部がプーリ回転軸よりもプーリ径方向外側でベルトを受けるので、治具装着先のプーリを回転させる際に、該プーリの側方に引き出したベルト部分に作用する張力によってプーリの回転動作に必要なトルクが小さくて済み、当該プーリを容易に回転させることができる。
【0034】
第8の発明によれば、ベルト案内部裏面の係合突条部と治具装着先のプーリのプーリ溝とを楔係合させて当該ベルト取付治具がプーリに装着されるので、プーリへのベルトの巻掛け終了後に当該ベルト取付治具がプーリから外れて落下することを防止できる。
【0035】
第9の発明によれば、ベルト取付治具の係合溝と治具装着先のプーリのフランジとを楔係合させて当該ベルト取付治具がプーリに装着されるので、プーリへのベルトの巻掛け終了後に当該ベルト取付治具がプーリから外れて落下することを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0038】
《発明の実施形態》
図1〜
図6は、この実施形態に係るベルト取付治具Jを示す図である。
図1は、ベルト取付治具Jのプーリ手前側に位置する側方からの斜視図である。
図2は、ベルト取付治具Jのプーリ奥側に位置する側方からの斜視図である。
図3は、ベルト取付治具Jのプーリ装着状態での正面図である。
図4は、ベルト取付治具Jのプーリ装着状態での背面図である。
図5は、ベルト取付治具Jのプーリ装着状態での平面図である。
図6は、ベルト取付治具Jのプーリ装着状態でのプーリ奥側からの斜視図である。また、
図7は、ベルト取付治具Jを用いてVリブドベルト(以下、単にベルトという)Bを巻き掛けた状態の2個のプーリ1,6を示す側面図である。
【0039】
本実施形態に係るベルト取付治具Jは、
図7に示すように、例えば、エンジンに搭載されたエンジン本体のクランク軸に連結されるクランクプーリ1と、同じくエンジンに搭載されたエアコンディショナーコンプレッサの入力軸に連結されるコンプレッサプーリ6とにベルトBを巻き掛けて取り付けるために使用されるものである。
【0040】
ベルトBは、図示しないが、高伸縮性の繊維からなる心線を埋設した平ベルト状のベルト本体の内周面にベルトの周方向に延びる複数(本実施形態では3本)のVリブが一体に突設されてなる。クランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6は、所定の軸間距離を隔てて回転自在に支持され、当該軸間距離は変更不能とされている。
図7中の矢印は、各プーリ1,6の回転方向を示している。なお、エンジンは、上記ベルトBに対して張力を付与するオートテンショナ(張力付与手段)を備えていない。
【0041】
クランクプーリ1は、
図3〜
図6に示すように、外周面にベルトB内周面のVリブに嵌合する複数(本実施形態では3本)のプーリ溝2が並列に周方向に延びるように形成されている。これら各プーリ溝2は、開口側から底側に向かって幅が狭くなるV字状に形成されている。
【0042】
また、クランクプーリ1は、フランジ付きプーリであって、外周面におけるプーリ回転軸方向両端に上記プーリ溝2の群を挟むように一対のフランジ3が環状に突設されている。クランクプーリ1手前側のフランジ3は、プーリ奥側の面がプーリ溝2側に向かって下傾し、基端側から先端側に向かって幅が狭くなる横断面台形状に形成されている。
【0043】
このクランクプーリ1の径方向中心に設けられたボス部4には、エンジンのクランク軸がプーリ奥側から挿入されている。そして、このクランク軸の先端部がプーリ手前側にてセンターボルト5で止められている。
【0044】
一方、コンプレッサプーリ6も、
図7に示すように、プーリ回転軸方向両端にフランジ7が環状に突設されたフランジ付きプーリであって、図示しないが、上記クランクプーリ1と同様に、外周面にベルトB内周面のVリブと嵌合するV字状の複数(本実施形態では3本)のプーリ溝が形成されている。
【0045】
このコンプレッサプーリ6の径方向中心に設けられたボス部8には、エアコンディショナーコンプレッサの入力軸がプーリ奥側から挿入されている。そして、この入力軸の先端部がプーリ手前側にてセンターボルト9で止められている。
【0046】
ベルト取付治具Jは、上記クランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6の一方に装着して使用されるものである。本実施形態では、クランクプーリ1に装着して使用されるベルト取付治具Jを例に挙げて説明する。
【0047】
ベルト取付治具Jは、例えばMC(モノキャスト)ナイロンやポリプロピレンなどから一体に成形されてなる樹脂製の治具である。このベルト取付治具Jは、
図1〜
図6に示すように、クランクプーリ1の側面に一側面を対応させて配置される治具本体10と、該治具本体10の一側面のプーリ径方向外側に位置する一端側にクランクプーリ1の外周に沿うようにプーリ回転方向前方に突設されたベルト案内部20とを備え、該ベルト案内部20によりベルトBを装着先のクランクプーリ1外周面上から該プーリ1の手前側側方に案内して引き出すように構成されている。
【0048】
上記治具本体10は、
図1に示すように、上記ベルト案内部20の突設基部である本体基部12と、該本体基部12にクランクプーリ1の外周縁部に沿うようにプーリ回転方向前方に突設された円弧形状の姿勢保持部である姿勢保持プレート14と、本体基部12からプーリ径方向内側に延びて姿勢保持プレート14側のクランクプーリ1の回転軸周りに位置するように設けられたベルト受け部16とを備えている。
【0049】
上記本体基部12は、
図4に示すように、クランクプーリ1の手前側側面の形状に倣って該プーリ1の側面に対応する一側面が形成され、少なくともプーリ径方向外側でクランクプーリ1の側面と当接するようになっている。この本体基部12には、例えば側面側(
図4で右側)や背面側(
図4で紙面手前側)などに、中央部分を凹陥する凹陥部が形成されていてもよい。このように本体基部12に凹陥部が形成された構成を採れば、本体基部12の強度を保持したままベルト取付治具Jを軽量化することができる。
【0050】
この本体基部12におけるベルト引き出し側端部は、
図1及び
図3に示すように、ベルト案内部20に案内されてクランクプーリ1の側方に引き出されたベルトBのプーリ回転方向後方の側面と当接する側面当接部12aを構成している。これにより、クランクプーリ1の側方に引き出されたベルトBを側面当接部12aに沿わせて、該ベルトBを位置決め可能になっている。
【0051】
上記姿勢保持プレート14は、
図1及び
図2に示すように、クランクプーリ1のフランジ3に半周超に亘って沿うように配置される優弧形状に形成されている。この姿勢保持プレート14は、
図1及び
図3に示すように、ベルト案内部20とプーリ回転軸方向に離間して当該ベルト案内部20との間にベルトBを通す隙間Sを有している。そして、姿勢保持プレート14は、上記隙間Sに案内されたベルトBを、クランクプーリ1の側面とにより挟み込んでベルト内周面をクランクプーリ1側に向けた状態の姿勢に保持するようになっている。
【0052】
さらに、この姿勢保持プレート14の基端側はベルト案内部20に沿って延びており、そのプーリ径方向外側に位置する部分はベルト案内部20との間の隙間Sを通したベルトBをベルト案内部20とで挟持するベルト挟持部15を構成している。これにより、ベルト取付治具J自体にベルトBを固定可能になっている。
【0053】
上記姿勢保持プレート14にも、例えば側面側(
図1で紙面手前側)などに、中央部分を凹陥する凹陥部が形成されていてもよい。このように姿勢保持プレート14に凹陥部が形成された構成を採れば、姿勢保持プレート14の強度を保持したままベルト取付治具Jを軽量化することができる。
【0054】
上記ベルト受け部16は、
図1に示すように、クランクプーリ1のボス部4に外嵌する半円弧状の外嵌部17と、該外嵌部17と本体基部12とを連結する連結部18とからなり、プーリ径方向外側に位置する姿勢保持プレート14側の面で、ベルト案内部20に案内されてクランクプーリ1の側方に引き出されたベルトBの一部を受ける構成となっている。外嵌部17は、他の治具本体10部分よりもベルト案内部20とは反対側に突出し、プーリ回転軸方向に幅広に形成されていて、クランクプーリ1のボス部4に外嵌したときに該ボス部4にしっかり位置決めされるようになっている。
【0055】
上記ベルト案内部20は、クランクプーリ1のフランジ3間の幅に略等しい幅に形成されている。このベルト案内部20の裏面には、クランクプーリ1の各プーリ溝2に係合する複数(本実施形態では3本)の係合突条部24が突設されている。各係合突条部24は、プーリ溝2に対応するように横断面台形状に形成されており、該プーリ溝2と楔係合するようになっている。
【0056】
なお、本実施形態では、係合突条部24が横断面台形状に形成されているとしたが、係合突条部24は上記プーリ溝2に楔係合するように横断面三角形状に形成されていてもよい。
【0057】
さらに、上記治具本体10の本体基部12とベルト案内部20の基端側裏面との間には、
図2及び
図4に示すように、クランクプーリ1手前側のフランジ3を挟み込む係合溝26が形成されている。この係合溝26は、クランクプーリ1手前側のフランジ3と楔係合するようになっている。
【0058】
また、ベルト案内部20の基端側部分は、治具本体10との接続部分に向かって上傾した傾斜面を呈し、本体基部12よりもプーリ径方向外方に部分的に突出した形状を有するベルト保持部21を構成している。このベルト保持部21は、その表面にベルトBを保持する保持面22を有している。そして、ベルト案内部20は、
図3、
図5及び
図6に示すように、クランクプーリ1のプーリ溝2に嵌合した状態で、ベルトBを、保持面22を経て姿勢保持プレート14との間の隙間Sに案内してクランクプーリ1の手前側側方に引き出すようになっている。
【0059】
上記保持面22は、ベルトBの内周面が治具本体10側を向くように本体基部12との接続部対応箇所の中央部分を頂部としてその周囲に向かって下傾すると共に、ベルトBの引き出し方向に沿って山形に湾曲した湾曲面を呈している。これにより、クランクプーリ1にベルトBを巻き掛ける際において、ベルト取付治具JからベルトBが外れたり、ベルトBが局所的な圧縮及び引張によって損傷を受けることを防止できる。
【0060】
すなわち、上記のような湾曲面を呈する保持面22にベルトBを保持させると、
図3、
図5及び
図6に示すように、ベルトBは、当該保持面22上で内周面が治具本体10側を向き、当該保持面22の湾曲形状に倣いベルト周方向に沿って湾曲した正曲げ状態となって、クランクプーリ1の手前側側方に引き出される。これにより、ベルトBをクランクプーリ1の手前側に引き出した状態において、ベルトBに生じる幅方向の曲げを抑えることができるので、ベルトBの引き出し箇所の曲げ部分に局所的な圧縮力や引張力が加わることを防止できる。
【0061】
そして、上記保持面22が治具本体10側に向かって上傾する傾斜面を呈しているので、当該保持面22に保持させたベルトBは、クランクプーリ1を回転させながらベルトBを巻き掛けるときに、ベルトBの巻掛けに伴って付与された張力によりプーリ手前側に引っ張られても、保持面22に押し付けられて引っ掛った掛止状態となる。これにより、ベルトBを保持面22に確実に保持することができて、ベルト取付治具JからベルトBがプーリ手前側に外れることを防止できる。
【0062】
上記保持面22におけるベルト引き出し側端部は、
図1、
図3及び
図5に示すように、当該ベルトBの引き出し側に向かって下傾した屈曲緩和面22aを構成しており、該屈曲緩和面22aによって当該保持面22で保持したベルトBの引き出し部分での屈曲を緩和するように構成されている。これにより、ベルトBに極端な曲げを生じさせることなく該ベルトBを保持面22から曲げてクランクプーリ1の側方にスムーズに引き出すことが可能になっている。
【0063】
また、ベルト案内部20の先端側表面は、
図3に示すように、姿勢保持プレート14とは反対側に向かって緩やかに下傾する山形凸面を呈している。これにより、ベルト案内部20の先端側表面にベルトBが乗った際、該ベルトBをプーリ奥側に滑り込ませてプーリ溝2にスムーズに嵌合させるようになっている。
【0064】
上記構成のベルト取付治具Jは、後に詳述するが、コンプレッサプーリ6にベルトBを掛け渡した状態で、ベルト案内部20をクランクプーリ1のプーリ溝2に嵌合させて、ベルトBを保持面22で保持し、クランクプーリ1の回転動作に伴ってベルトBと共に回転方向に移動することにより、該ベルトBをプーリ溝2に嵌合させてクランクプーリ1に取り付けるようになっている。
【0065】
−使用方法−
次に、上記ベルト取付治具Jを使用してクランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6にベルトBを取り付けるベルト取付工程について、
図8〜
図10を参照しながら一例を挙げて説明する。
図8は、ベルト取付工程の前半ステップを示す側面図である。
図9は、ベルト取付工程の後半ステップを示す側面図である。
図10は、クランクプーリ1へのベルト巻掛け終了状態を示す側面図である。なお、
図9中の矢印は、各プーリ1,6の回転方向を示している。
【0066】
上記ベルト取付治具Jを使用してクランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6にベルトBを取り付けるには、まず、
図8(a)に示すように、コンプレッサプーリ6にベルトBの一方側を掛け渡すと共に、該ベルトBの他方側を、ベルト保持部21の奥側を通して保持面22に掛け回し、姿勢保持プレート14とベルト案内部20との間の隙間Sを通してベルト挟持部15とベルト案内部20とで挟持させることにより、ベルト取付治具J自体に固定する。
【0067】
そして、上記保持面22よりもプーリ回転方向後方に位置するベルトB部分をクランクプーリ1のプーリ溝2に嵌合させると共に、上記保持面22よりもプーリ回転方向前方に位置する上記隙間Sを通したベルトB部分をクランクプーリ1の手前側側面と姿勢保持プレート14とでベルト内周面がクランクプーリ1側を向くように挟み込んで該プーリ1の手前側側方に引き出すことにより、保持面22にベルトBを保持させると共にベルト保持部21をクランクプーリ1のプーリ溝2とベルトBとの間に挟着させてベルト取付治具Jをクランクプーリ1に装着する。
【0068】
この装着作業により保持面22にベルトBを保持させると、
図3、
図5及び
図6に示すように、ベルトBは、当該保持面22上で内周面が治具本体10側を向き、当該保持面22の湾曲形状に倣いベルト周方向に沿って湾曲した正曲げ状態となって、クランクプーリ1の手前側側方に引き出される。これによって、ベルトBに生じる幅方向の曲げを抑えて、ベルトBの引き出し箇所の曲げ部分に局所的な圧縮力や引張力が加わることを防止できる。
【0069】
上記装着作業では、ベルトBに張力をさほど作用させずに済むため、クランクプーリ1にベルトBを容易に掛けることができる。このとき、クランクプーリ1の手前側側方に引き出したベルトB部分は、ベルト側面若しくはベルト外周面をベルト受け部16で受けてボス部4のプーリ径方向外側を通しておく。
【0070】
また、上記のようなベルト取付治具Jの装着状態によると、クランクプーリ1の手前側側面と姿勢保持プレート14との間にベルトBが固定され、その固定されたベルトBとプーリ溝2との間にベルト案内部20が挟着されるので、これらベルト取付治具Jとクランクプーリ1とベルトBとの相互の関連によりベルト取付治具Jがクランクプーリ1に強固に係止固定される。
【0071】
次いで、
図8(b)に示すように、ベルト取付治具Jを装着したクランクプーリ1側のセンターボルト4にレンチ100を連結し、クランクプーリ1を手動で回転させることができるようにする。このとき、ベルトBはベルト受け部16で受けられてクランクプーリ1のボス部5のプーリ径方向外側を通っているので、レンチ100をセンターボルト5に連結させる際に邪魔にならず、レンチ100の連結作業を円滑に行うことができる。
【0072】
続いて、クランクプーリ1をレンチ100を用いて
図8(b)で時計回りに回転させることにより、
図9(a)に示すように、ベルト取付治具Jがプーリ回転方向前方に進み、プーリ溝2に嵌合するベルトBの範囲が徐々に広がっていく。このとき、クランクプーリ1の側方に引き出されてベルト受け部16で受けられたベルトB部分に作用する張力によって該プーリ1の回転動作に必要なトルクが小さくて済み、クランクプーリ1を容易に回転させることができる。また、ベルト挟持部15とベルト案内部20とによりベルト取付治具J自体にベルトBを固定しているので、クランクプーリ1を回転動作させた際にベルトBがベルト取付治具J上で滑ることがない。
【0073】
このようにしてクランクプーリ1にベルトBを巻き掛ける最中には、ベルトBのプーリ手前側側方に向かう力がベルト保持部21に作用するが、該ベルト保持部21がベルトBによってプーリ溝2に押さえ付けられると共に、係合溝26がクランクプーリ1手前側のフランジ3に楔係合していることによって、ベルト取付治具Jの傾きが規制される。そして、ベルトBは内周面が保持面22に押し付けられて引っ掛った掛止状態となる。これにより、クランクプーリ1へのベルトBの巻掛けが終了するまで、ベルト取付治具Jのクランクプーリ1への装着状態が維持される。
【0074】
上記クランクプーリ1の回転に伴い、保持面22よりもプーリ回転方向前方でクランクプーリ1の手前側側方に位置するベルトB部分は、クランクプーリ1の径方向内側から外側に移動して、次第にクランクプーリ1手前側のフランジ3の外周縁部に近づいていく。そして、クランクプーリ1のベルトBの巻掛け終了間際においては、
図9(b)に示すように、プーリフランジ3の外周縁部に近接した状態となる。このような状態においても、姿勢保持プレート14はクランクプーリ1の外周縁部近傍に位置するので、クランクプーリ1の手前側側面と姿勢保持プレート14とでベルトBの姿勢が変わらず保持される。
【0075】
ここで、ベルトBの巻掛けに伴い付与された張力によってベルトBがコンプレッサプーリ6におけるベルト進入側でプーリ手前側に強く引っ張られるが、姿勢保持プレート14とベルト案内部20との間の隙間Sに案内されたベルトBを、クランクプーリ1の手前側側面と姿勢保持プレート14とによりその内周面がクランクプーリ1側を向くように挟み込んで保持しているので、クランクプーリ1のプーリ溝2にまだ巻き掛けられていないベルトB部分においてプーリ1,6の外周面上で手前側に送られる幅方向一方側がプーリ1,6の外周面上で奥側に送られる幅方向他方側に対してプーリ回転軸寄りに位置し、コンプレッサプーリ6上でプーリ手前側に位置するベルトB部分が該プーリ6のプーリ溝及びフランジ7に強く噛んで、当該プーリ6からベルトBが外れることを防止できる。また、それと共に、クランクプーリ1の回転動作に伴う当該プーリ1の手前側側面との摺動によりベルトBに捩れが生じようとするプーリ側方において、ベルトBの捩れを確実に抑止して、ベルト背面が損傷することを防止できる。
【0076】
さらにそのまま続けてクランクプーリ1を回転させると、やがて、ベルトBは、姿勢保持プレート14とベルト案内部20との間の隙間Sから抜けてベルト案内部20の表面に乗り、該ベルト案内部20の先端側表面を経てプーリ溝2側に滑り込んで完全にプーリ溝2に嵌合し、クランクプーリ1に正常に巻き掛けられる。
【0077】
そして、ベルト取付治具JがベルトBから外れて、
図10に示すように、クランクプーリ1とコンプレッサプーリ6との間に位置した状態となるので、この時点でクランクプーリ1の回転を止める。この状態でも、ベルト取付治具Jは、ベルト案内部20裏面の係合突条部24とプーリ溝2との楔係合に加え、クランクプーリ1手前側のフランジ3と上記係合溝26との楔係合によってクランクプーリ1に係止固定されているので、クランクプーリ1から外れて落下することがなく、該プーリ1に付いたままとなる。
【0078】
しかる後、クランクプーリ1側のセンターボルト5からレンチ100を取り外し、クランクプーリ1からベルト取付治具Jを取り外して、クランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6へのベルトBの取付けが完了する。
【0079】
以上のようにして、クランクプーリ1とコンプレッサプーリ6とにベルトBを緊張状態で巻き掛けることができる。
【0080】
−実施形態の効果−
この実施形態によると、ベルト取付治具JのベルトBを保持する保持面22が、治具本体10との接続部対応箇所の中央部分を頂部としてその周囲に向かって下傾し、且つベルト引き出し方向に沿って山形に湾曲した湾曲面を呈しているので、クランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6にベルトBを取り付ける際において、ベルト取付治具Jからベルトが外れたり、ベルトBが局所的な圧縮及び引張により損傷を受けることを防止できる
。
【0081】
なお、上記実施形態では、姿勢保持プレート14がベルト案内部20との間の隙間Sに案内したベルトBをクランクプーリ1の手前側側面とで挟み込んで所定の姿勢に保持する構成を説明したが、本発明はこれに限らない。姿勢保持プレート14は、クランクプーリ1の手前側側面との間に若干の捩れ動作が可能にベルトBが緩く挿入される構成でもよく、姿勢保持プレート14と治具装着先のプーリの手前側側面とにより、治具装着先のプーリに続いてベルトBが送られる他のプーリ上でベルトBのプーリ手前側部分を該プーリのプーリ溝及びフランジに強く噛ませる角度にベルトBの姿勢を保持でき、且つベルトBの背面が治具装着先のプーリの手前側側面と当接しない程度にベルトBの捩れを規制できる構成であれば構わない。
【0082】
すなわち、上記実施形態では、姿勢保持プレート14がクランクプーリ1のフランジ3に半周超に亘って沿うように配置される優弧形状に形成されているとしたが、本発明はこれに限らない。姿勢保持プレート14は、クランクプーリ1のフランジ3に半周未満で沿うように配置される劣弧形状に形成されていてもよく、クランクプーリ1のフランジ3に沿うように配置される形状でなくても構わない。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上記の実施形態の範囲に限定されない。上記の実施形態が例示であり、それらの各構成要素や使用方法に、さらにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲になることは当業者に理解されるところである。
【0084】
例えば、上記実施形態では、クランクプーリ1に装着して使用されるベルト取付治具Jを例に挙げて説明したが、これに限らず、ベルト取付治具Jは、コンプレッサプーリ6に装着して使用されるものであってもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、クランクプーリ1及びコンプレッサプーリ6の2個のプーリにベルトBを巻き掛けて取り付ける場合を例に挙げて説明したが、本発明に係るベルト取付治具はJ、3個以上のプーリにベルトBを巻き掛けて取り付ける場合にも勿論適用することができる。
【0086】
またその他、上記実施形態では、プーリ1,6に巻き掛けるベルトとしてVリブドベルトBを例に挙げて説明したが、本発明に係るベルト取付治具Jの使用対象とするベルトはこれに限らず、平ベルトやVベルトなどのVリブドベルト以外のベルトであっても構わない。