(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078470
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブの変形の計測システム、計測方法及び計測装置
(51)【国際特許分類】
A63B 60/42 20150101AFI20170130BHJP
【FI】
A63B60/42
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-537423(P2013-537423)
(86)(22)【出願日】2012年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2012006399
(87)【国際公開番号】WO2013051277
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-220516(P2011-220516)
(32)【優先日】2011年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】高尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】松永 英夫
(72)【発明者】
【氏名】岩出 浩正
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−183090(JP,A)
【文献】
特開2010−284177(JP,A)
【文献】
特開2011−000210(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0206837(US,A1)
【文献】
実開昭61−127770(JP,U)
【文献】
特開2009−18043(JP,A)
【文献】
特開2013−9771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 60/42
A63B 60/46
A63B 53/10
A63B 53/12
A63B 69/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測システムであって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる前記ゴルフクラブのヘッド上に取り付けられた少なくとも1つの識別特徴を含む方向に向けて、前記ゴルフクラブに対して取り付けられた撮像装置と、
前記撮像装置により撮像されたスイング時の前記ゴルフクラブの画像から取得した前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報に基づいて、前記ゴルフクラブの変形を計測する計測装置と、を備える、ゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項2】
前記計測装置は、
前記撮像装置からスイング時の前記ゴルフクラブの画像を取得する画像取得部と、
取得された前記画像から前記少なくとも1つの識別特徴を認識し、認識された前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報を取得する位置情報取得部と、
取得された前記位置情報に基づいて前記ゴルフクラブの変形を計測する計測部と、を有する、請求項1に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの識別特徴は、前記ヘッドの上面に付されたマーカーである、請求項1又は2に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項4】
前記ゴルフクラブの変形が、前記ゴルフクラブのヘッドの動き及びシャフトのしなりの双方又はいずれか一方である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項5】
前記撮像装置が90g未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項6】
前記撮像装置は、前記ゴルフクラブのグリップの直下又は近傍に取り付けられたことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項7】
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測方法であって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる少なくとも1つの識別特徴をヘッド上に有すると共に、該識別特徴を含む方向に向けて取り付けられた撮像装置を有するゴルフクラブを用いたゴルフスイング時に、前記撮像装置により前記ゴルフクラブの画像を撮像するステップと、
前記撮像装置からスイング時の前記ゴルフクラブの画像を取得するステップと、
前記撮像装置により撮像された画像から前記少なくとも1つの識別特徴を認識し、認識された前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報を取得するステップと、
取得された前記位置情報に基づいて前記ゴルフクラブの変形を計測するステップと、を含む、ゴルフクラブの変形の計測方法。
【請求項8】
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測装置であって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる前記ゴルフクラブのヘッド上に取り付けられた少なくとも1つの識別特徴を含む方向に向けて、前記ゴルフクラブに対して取り付けられた撮像装置により撮像されたスイング時の前記ゴルフクラブの画像から取得した、前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報に基づいて、前記ゴルフクラブの変形を計測する、ゴルフクラブの変形の計測装置。
【請求項9】
前記計測部は、前記位置情報取得部により取得された前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報から、前記ヘッドの回転挙動を計測する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項10】
前記計測部は、前記ヘッドの回転挙動から前記ゴルフクラブのシャフトのねじれを算出する、請求項9に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項11】
前記ゴルフクラブがジャイロセンサを備える、請求項1〜6、及び9〜10のいずれか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【請求項12】
前記ゴルフクラブのヘッドは、前記識別特徴として、一直線上に配置されていない、または、三角形をなすように配置されている、少なくとも3つのマーカーを備える、請求項1〜6、及び9〜11のいずれか一項に記載のゴルフクラブの変形の計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフスイング時のゴルフクラブの変形の計測システム、計測方法及び計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ゴルファがボールを真直ぐに飛ばすことを意図して、ゴルフクラブをスイングして、ゴルフボールを打撃した(ショットした)場合に、ゴルフボールの飛行方向が比較的真直ぐであり、曲がらない(曲がりにくい)ことが望ましい。特に、各ゴルファが、適切なゴルフクラブを用いることで、そのような望ましいショットが比較的容易に可能となりうる。しかしながら、実際にゴルファが店頭に行って、自分に合ったゴルフクラブを選定することは容易ではない。
【0003】
ところで、ボールの飛行方向は、ゴルフスイングにおけるバックスピン量や打ち出し角等の要因に影響される。これらの要因は、例えば、ゴルフクラブヘッド(以下、単にヘッドと称する)がゴルフボールを打撃する際(インパクト)の、ヘッドの動きに大きく影響を受けることが知られている。また、ゴルファによるゴルフスイング中には、ゴルフクラブのヘッドの重みや、ゴルフクラブにゴルファから加えられる力に応じて、ゴルフクラブのシャフトが変形する。ゴルフクラブのシャフトがしなるように変形することは、一般的に「しなり」と呼ばれる。このしなりは、ゴルファが望ましいゴルフスイングを実現する上で非常に大きな影響を及ぼすと考えられている。
【0004】
そこで、従来、ゴルフクラブに対して歪みゲージを取り付けてゴルフスイング中のシャフトに生じる歪みを計測する方法が提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法では、ゴルフクラブのシャフトの表面上に歪みゲージを取り付け、ゴルフスイング中にシャフトに生じるしなりを計測することができる。
【0005】
さらに、従来、ゴルファによるゴルフスイング時に変形するシャフトの形状を計測するために、多数のマーカーを施したゴルフクラブを用いたゴルフスイングを複数台の撮像装置で撮影し、モーションキャプチャーによりマーカーの3次元座標を測定する方法が提案されてきた(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載のシステムでは、測定した3次元座標からゴルフスイング時のシャフトの形状を曲線近似して可視化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】鳴尾丈司他、「ゴルフシャフトのフレックスに関する研究」、ジョイント・シンポジウム スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集、日本機械学会、1995年、No.95-45
【特許文献2】特開2011−183090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような方法で、ゴルフクラブの全体的なしなりの情報を取得するためには、多数の歪みゲージをシャフトに取り付けることが必要になるが、この場合、歪みゲージに対する配線が増加し、ゴルファが普段通りのゴルフスイングを行うことが困難になってしまう。
【0008】
一方、特許文献2に記載の方法では、マーカーについて三次元位置座標を取得するために撮像装置間の相対的な位置関係を補正する必要がある。撮像装置の台数が多くなるほど、当然補正に時間がかかり、ゴルフクラブの変形の計測を簡易に行うことはできない。
【0009】
このように、従来の方法及びシステムでは、ゴルファによる普段通りのゴルフスイングについて、ゴルフスイング時のゴルフクラブの変形を簡易に計測することはできなかった。
【0010】
そこで、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、ゴルファによる普段通りのゴルフスイングについて、ゴルフクラブの変形を簡易に計測することができる、ゴルフクラブの変形の計測システム、計測方法及び計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムは、
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測システムであって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも1つの識別特徴を含む方向に向けて、前記ゴルフクラブに対して取り付けられた撮像装置と、
前記撮像装置により撮像されたスイング時の前記ゴルフクラブの画像から取得した前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報に基づいて、前記ゴルフクラブの変形を計測する計測装置と、
を備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムによれば、ゴルファによる普段通りのゴルフスイング時におけるゴルフクラブの変形を簡易に計測することができる。
【0013】
また、本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムにおいては、
前記計測装置は、
撮像装置からスイング時の前記ゴルフクラブの画像を取得する画像取得部と、
取得された前記画像から前記少なくとも1つの識別特徴を認識し、認識された前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報を取得する位置情報取得部と、
取得された前記位置情報に基づいて前記ゴルフクラブの変形を計測する計測部と、を有することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、ゴルフスイング時のゴルフクラブの変形を計測装置に含まれる各機能部によって簡易に計測することができる。
【0015】
また、本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムにおいては、
前記少なくとも1つの識別特徴を、前記ゴルフクラブのヘッド上に備えることが好ましい。
【0016】
この構成よれば、ゴルフクラブのヘッドの動き及び/又はヘッドの動きに反映されるシャフトのしなりを計測することができる。
【0017】
また、本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムにおいては、
前記ゴルフクラブの変形が、前記ゴルフクラブのヘッドの動き及びシャフトのしなりの双方又はいずれか一方であることとして、ゴルフクラブのヘッドの挙動及びシャフトのしなりの双方又はいずれか一方を計測することができる。
【0018】
また、本発明によるゴルフクラブの変形の計測システムにおいては、前記撮像装置が90g未満であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、スイング時のヘッドスピードを著しく低下させることないため、普段通りのヘッドスピードの影響が反映されたゴルフクラブの変形を計測することができる。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明によるゴルフクラブの変形の計測方法は、
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測方法であって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる少なくとも1つの識別特徴と、該識別特徴を含む方向に向けて取り付けられた撮像装置とを有するゴルフクラブを用いたゴルフスイング時に、前記撮像装置により前記ゴルフクラブの画像を取得するステップと、
前記撮像装置からスイング時の前記ゴルフクラブの画像を取得するステップと、
前記撮像装置により撮像された画像から前記少なくとも1つの識別特徴を認識し、認識された前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報を取得するステップと、
取得された前記位置情報に基づいて前記ゴルフクラブの変形を計測するステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0021】
本発明によるゴルフクラブの変形の計測方法によれば、ゴルファによる普段通りのゴルフスイング時におけるゴルフクラブの変形を簡易に計測することができる。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明によるゴルフクラブの変形の計測装置は、
ゴルファがゴルフクラブをスイングする際のゴルフクラブの変形を計測する計測装置であって、
前記ゴルフクラブ上の位置を特定できる前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも1つの識別特徴を含む方向に向けて、前記ゴルフクラブに対して取り付けられた撮像装置により撮像されたスイング時の前記ゴルフクラブの画像から取得した、前記少なくとも1つの識別特徴の位置情報に基づいて、前記ゴルフクラブの変形を計測することを特徴とするものである。
【0023】
本発明によるゴルフクラブの変形の計測装置によれば、ゴルファによる普段通りのゴルフスイング時におけるゴルフクラブの変形を簡易に計測することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも1つの識別特徴を含む方向に向けて、当該ゴルフクラブに対して取り付けられた撮像装置により取得されたゴルフスイングの画像に基づいて所定の計測を行うことにより、ゴルファによる普段通りのゴルフスイング時におけるゴルフクラブの変形を簡易に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施の形態によるゴルフクラブの変形の計測システムを説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施の形態によるゴルフクラブの変形の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図1に示す撮像装置の投影面と、ゴルフクラブのヘッド及びシャフトとの関係を説明するための図である。
【
図4】
図1に示す撮像装置によって撮像したゴルフスイング時のゴルフクラブの画像の一例を示すグラフである。
【
図5】撮像装置の投影面上でのX軸方向における各マーカーの位置の時間推移の一例を示す図である。
【
図6】撮像装置の投影面上でのY軸方向における各マーカーの位置の時間推移の一例を示す図である。
【
図7】ゴルフスイング時のヘッド上のマーカーの投影面上での軌跡の一例を示す図である。
【
図8】ヘッドの初期位置に対するゴルフスイング時のヘッドの相対角度の時間推移の一例を示す図である。
【
図9A】ゴルフスイング時のヘッド上のマーカーの投影面上での軌跡の一例を示す図である。
【
図9B】ゴルフスイング時のヘッド上のマーカーの投影面上での軌跡の一例を示す図である。
【
図9C】ゴルフスイング時のヘッド上のマーカーの投影面上での軌跡の一例を示す図である。
【
図10A】ヘッドの初期位置に対するゴルフスイング時のヘッドの相対角度の時間推移の一例を示す図である。
【
図10B】ヘッドの初期位置に対するゴルフスイング時のヘッドの相対角度の時間推移の一例を示す図である。
【
図10C】ヘッドの初期位置に対するゴルフスイング時のヘッドの相対角度の時間推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による一実施形態のゴルフクラブの変形の計測システム、計測方法及び計測装置について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施の形態によるゴルフクラブの変形の計測システム1を説明するための図である。
図1に示すゴルフクラブの変形の計測システム1は、計測装置2及びゴルフクラブ3に取り付けられた撮像装置4を備える。ゴルフクラブ3は、通常のゴルフクラブと同様に、シャフト5、ヘッド6、及びグリップ7を備える。
【0028】
撮像装置4は、後述する識別特徴を含む方向に向けて、好ましくは、光軸がシャフト5のシャフト軸に対して略平行になるように、ゴルフクラブ3のシャフト5に対して取り付けられている。撮像装置4のシャフト5上での取り付け位置は、例えば、グリップ7の直下又は近傍(図示の例では直下)であり、ゴルファ8が普段通りのゴルフスイングを行うことが可能な位置である。このような位置に撮像装置4を取り付けることで、撮像装置4の位置がゴルフスイング時のゴルフクラブ3の変形の影響を受けることが少ないという利点や、広範囲にわたってゴルフクラブ3の画像を取得することができるという利点が生じる。撮像装置4の光軸がシャフト軸に対して平行ではない場合であっても、ゴルフスイングを通じてヘッド6の識別特徴(図示しない)を撮像できる範囲であれば構わない。
【0029】
撮像装置4は、例えば、ディジタルハイスピードカメラや無線カメラにより構成される。カメラのフレームレートは、無線カメラであれば、30fps(frames per second)以下であり、ディジタルハイスピードカメラであれば、30fps超でありうる。撮像装置4は、ゴルファ8がゴルフクラブ3を用いて普段通りのゴルフスイングを行うことが可能な程度に軽量である。具体的には、撮像装置4の重量は、90g未満であることが好ましい。更に好ましくは、撮像装置4は、60g以下である。表1に示すように、撮像装置4の重量は、90g以上であれば、ヘッドスピードが著しく低下するし、撮像装置4が60g以下であれば、ヘッドスピードにほとんど影響が生じないことがわかる。撮像装置4が90gの場合のスピード低下率未満であれば、実際の測定に十分に用いることが可能である。このため、ヘッドスピードの影響が反映された、より実際の状態に近い、ゴルフクラブの変形を計測することが可能になる。尚、撮像装置4の重量は、撮像装置4を構成するカメラ本体、カメラレンズ、及び撮像装置4をシャフト5に対して取り付ける部材の重量が含まれるものとする。
【0031】
図1には示さないが、撮像装置4が無線カメラ以外の装置で構成される場合には、撮像装置4と計測装置2との間には、ゴルファ8によるゴルフスイングの障害とならないように配線を引き回すこともある。なお、撮像装置4が無線カメラ以外の装置で構成される場合であっても、撮像装置4に着脱可能な記憶媒体が内蔵可能な場合には、必ずしも配線を引き回す必要は無い。
【0032】
ゴルフクラブ3には、ゴルフクラブ上の位置を特定できる少なくとも1つの識別特徴(図示しない)が付されている。識別特徴とは、画像処理において他の部分から区別可能な特徴をいい、例えば、市販のゴルフクラブのヘッドに付されているロゴマークや文字、及び
図4を参照して詳述するようなマーカーM1〜M3であり得る。識別特徴は、例えば、反射テープやペンキ等を用いてゴルフクラブ3に付される。このほかの素材であっても、画像処理上で周囲の画素とのコントラストが所定値以上となるような素材であれば、識別特徴に使用することができる。
【0033】
計測装置2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を備えるパーソナルコンピュータ等により構成され、画像取得部、位置情報取得部及び計測部(図示しない)を備える。さらに、計測装置2は、表示部を備えることもでき、ゴルフクラブの変形を計測した結果を表示部に表示するように構成することもできる。画像取得部、位置情報取得部及び計測部の機能については、
図2を参照して後述する。
【0034】
計測システム1は、ゴルファ8がゴルフクラブ3を用いてゴルフボール9を打ち出すためにゴルフスイングを行うにあたり、撮像装置4により撮像した画像について計測装置2にて計測処理を実施して、ゴルファ8によるゴルフスイングにおけるゴルフクラブの変形を計測する。以下、
図2を参照して、計測システム1において実施される計測方法について更に詳細に説明する。
【0035】
図2は、本発明の一実施の形態によるゴルフクラブの変形の計測方法を説明するためのフローチャートである。先ず、撮像装置4によりゴルフスイング時のゴルフクラブの画像を撮像する(ステップS01)。その後、計測装置2は、画像取得部により、撮像装置4からゴルフスイング時のゴルフクラブ、例えば、ヘッド6の画像を取得する(ステップS02)。このゴルフクラブの画像は、撮像装置4により撮像された任意の形式の動画データであり得る。
【0036】
計測装置2は、位置情報取得部により、ステップS01で撮像装置4により撮像された動画データから任意の画像データを抽出し、抽出した画像データについて、ヘッド6上の識別特徴を認識し、認識した識別特徴の位置情報を取得する(ステップS03)。例えば、識別特徴が
図4にマーカーM1〜M3として示すように円状である場合には、位置情報取得部は、サークルフィッティング法によって識別特徴を抽出し、その中心位置の座標を位置情報として取得する。ここで、座標は、例えば
図3及び
図4を参照して後述する撮像装置4の仮想の投影面10における座標である。
【0037】
計測装置2は、計測部を用いて、ステップS03にて取得した位置情報に基づいてゴルフクラブの変形を計測する(ステップS04)。具体的には、計測部は、ヘッド6の動き及びシャフト5のしなりのうち少なくとも一方を計測することができる。さらには、計測部は、撮像装置4に対するヘッド6の位置に基づいて、ヘッド6の動き及びシャフト5のしなりを計測しても良い。このとき、計測部は、ヘッド6の位置として、撮像装置4の投影面10上での位置を計測する。さらに、計測部は、投影面10上でのヘッド6の位置の時間推移を求めて、ゴルフスイング中におけるヘッド6の動き及びシャフト5のしなりの状態推移を計測することもできる。以下、
図3及び
図4を参照して、撮像装置4の投影面10について説明することにより、上記ステップS03及びS04についてさらに詳述する。
【0038】
図3は、
図1に示す撮像装置4の仮想の投影面10と、ゴルフクラブ3のヘッド6及びシャフト5との関係を説明するための図である。投影面10は、撮像装置4の光軸に対して垂直な平面である。撮像装置4は、取付部材11を介してシャフト5に取付けられており、撮像装置4が取り付けられている部分のシャフト5は、ヘッド6及びヘッド6付近のシャフト5の部分よりもしなりが少ないか、実質的にしなりが無い。撮像装置4の光軸とシャフト軸とが平行な場合、しなりが生じていない状態のシャフト5のシャフト軸と投影面10とは垂直である。
【0039】
ゴルフスイング中にシャフト5にしなりが生じ、破線で示すシャフト5a及び5bのような状態になった場合には、シャフト軸と投影面10とは垂直とはならない。投影面10におけるヘッド6上のマーカーM1〜M3の位置座標は、
図3中左下に記載したX軸及びY軸の座標値に対応するピクセル位置で表される。Z軸は、撮像装置4の光軸と平行な軸である。なお、明確のためシャフト5a及び5bのしなりは誇張して示しており、実際に生じるしなりは図示よりも少ないことが多い。
【0040】
図4は、
図1に示す撮像装置4から取得したゴルフスイング時のゴルフクラブの画像の一例を示すグラフである。図示するシャフト5及びヘッド6の位置は、ヘッド6がゴルフボール9を打撃する時点であるインパクト直前の位置である。ヘッド6の上面には識別特徴であるマーカーM1〜M3が付されている。なお、識別特徴は少なくとも1つあればよく、図示するように3つのマーカーを配置することも、異なる態様で複数のマーカーを配置することも、もちろん可能である。図上、破線で示すマーカーM4〜M6は、それぞれ、ゴルフスイング開始時のマーカーM1〜M3の位置に対応する。上記ステップS03において、計測装置2の位置情報取得部は、各マーカーM1〜M3の位置情報は、投影面であるXY平面上における左下を原点(0,0)としたピクセル座標として取得する。投影面10上での各マーカーM1〜M3の位置情報は、撮像装置4に対するヘッド6の相対位置である。
【0041】
上記ステップS04においては、計測装置2の計測部は、ヘッド6の撮像装置4に対する相対位置に反映されるシャフト5のしなりを計測することができる。さらに、シャフト5上に任意の数のマーカーを付したゴルフクラブ3を用いて同様の計測を行うことにより、シャフト5のしなり量やしなりの態様をさらに詳細に計測することができる。
【0042】
ヘッド6の動きについては、計測部は、例えば、ヘッド6の回転挙動をゴルフスイング開始時のヘッド6のフェース向きに対応する、マーカーM4とM5とを結んだ直線(以下、M4−M5線と表す)と、M1とM2とを結んだ直線(以下、M1−M2線と表す)とがなす角度を算出することによって計測することができる。このようにして、ゴルフスイング中の各時点におけるヘッド6のゴルフスイング開始時のフェース向きに対する相対角度として、ヘッド6の回転挙動を計測することができる。さらに、ヘッドの回転挙動から、シャフトのねじれについても所定のモデルを用いて算出することができると考えられる。
【0043】
以下、
図5〜
図8を参照して、上記ステップS04についてさらに詳述する。計測装置2の計測部は、
図5に示すように位置情報取得部が取得した各マーカーM1〜M3の投影面10上での位置情報の時間推移を求めることもできる。
図5は、撮像装置4の投影面10上でのX軸方向における各マーカーM1〜M3の位置の時間推移を示す図である。横軸は時間(ms)を示し、縦軸は撮像装置の投影面10上でのX軸方向における各マーカーの位置(pixels)を示す。時間(ms)が0の時点は、ヘッド6がゴルフボール9を打撃するインパクト時点である。この図から、ヘッド6のマーカーM1〜M3は、インパクト時点に向けて類似した傾向で投影面X軸方向位置が左右に変動するということが分かる。この傾向を詳述すると、まず、ヘッド6のマーカーM1〜M3は、ゴルフスイング開始後直後は、投影面10上でX軸左方向に移動し、その後、徐々に投影面10上でX軸右方向に移動し、インパクト直前に再度投影面10上でX軸左方向に移動して、インパクト時点に至る。
【0044】
図6は、撮像装置4の投影面上でのY軸方向における各マーカーM1〜M3の位置の時間推移を示す図である。横軸は時間(ms)を示し、縦軸は撮像装置の投影面10上でのY軸方向における各マーカーの位置(pixels)を示す。
図5と同様に、時間(ms)が0の時点は、ヘッド6がゴルフボール9を打撃するインパクト時点である。この図から、ヘッド6のマーカーM1〜M3は、インパクト時点に向けて類似した傾向で投影面Y軸方向位置が上下変動するということが分かる。この傾向を詳述すると、まず、ヘッド6のマーカーM1〜M3は、ゴルフスイング開始直後は、投影面10上でY軸方向に上下に揺れ、その後急激にY軸上方向に移動し、次いで途中まで緩やかに下降した後にインパクトに向けて急激に下降する。
【0045】
図5及び
図6に示したように、本実施形態によれば、ヘッド6の動きに反映されるゴルフクラブ3の変形を計測することができる。さらに、本実施形態によれば、
図7に示すようなゴルフスイング中のヘッド6上のマーカーM1の投影面10上での軌跡の情報を得ることもできる。
図7のプロット上に示すダイヤ印は、インパクトを示す。撮像装置4の投影面10上でのマーカーM1の軌跡は、撮像装置4に対してヘッド6が相対的にどれだけ変位したかということを示すものである。ヘッド6の撮像装置4に対する相対変位に最も大きく寄与する要因は、ゴルフクラブ3の変形のなかでもシャフト5のしなりであると考えられる。従って、
図7に示すようなマーカーM1の軌跡から、ゴルフスイング時のシャフト5のしなりを計測することができる。
【0046】
さらに、ヘッドの回転挙動については、
図8に示すように計測することができる。この回転挙動には、例えば、ヘッド6がシャフト軸から遠ざかる方向であるトゥダウン方向の回転や、シャフトを軸とした打ち出し方向の回転などが含まれる。
図8において、縦軸は相対角度を示し、横軸は時間(ms)を示す。相対角度は、ゴルフスイング開始時におけるM1−M2線に対応するM4−M5線、及び同M1−M3線に対応するM4−M6線に対して、ゴルフスイング中のM1−M2線及びM1−M3線がそれぞれなす角度を示す。プラスは打ち出し方向への回転角を示し、マイナスはそれとは逆方向の回転角を示す。実線は、ヘッド6のM1−M2線がM4−M5線に対してなす角の時間推移を表す。破線は、M1−M3線がM4−M6線に対してなす角の時間推移を示す。
図8より、ゴルフスイング開始直後は、慣性のためにフェース面はプラスの回転角を呈するが、その後、マイナスに転じ、インパクトへ向けてフェース面は徐々にプラス方向に回転することがわかる。
【0047】
図8では、実線の変化のほうが、破線の変化よりも大きい。これは、ゴルフスイング時にヘッド6が、いわゆるトゥダウン方向(ヘッド6がシャフト軸から遠ざかる方向)に移動することで、シャフト5にしなりが生じることに起因すると考えられる。上述したようなシャフトのしなりの計測結果と併せてこのようなデータを更に解析することで、シャフトのしなりとヘッドの動きとの相関を解析することも可能になると考えられる。
【0048】
このように、本実施形態による方法は、ゴルファ8によるゴルフクラブの変形を計測するために複数台の撮像装置を用いる必要がなく、簡易にゴルフスイング時のヘッド6の動きを計測することができる。なお、上記
図5、
図6、
図8では、ゴルフスイング時のヘッドの動き及びシャフトのしなりに関するデータは経時的なデータとして示したが、これらは経時的なデータとしてのみ取得可能なものではない。たとえば、インパクト時など、関心のある任意の一時点について、各データを求めることももちろん可能である。この場合、ゴルフクラブ3の変形は、例えば、変形が全く生じていない状態のゴルフクラブ3の状態からの変位量として求めることができる。
【0049】
次に、本実施形態による計測システム及び計測方法を、複数の被験者について適用した結果を
図9及び
図10を参照して説明する。
図9A〜Cに示した計測結果は、
図7と同様に、ゴルフスイング時のヘッド6上のマーカーM1の投影面10上での軌跡を示す。
図10A〜Cに示した計測結果は、
図8と同様に、ヘッド6の初期位置に対するゴルフスイング時のヘッド6の相対角度の時間推移を示す。図上、ゴルフスイングのフェーズをバックスイング(実線)、ダウンスイング(破線)、フォロースルー(点線)にそれぞれ分けて示す。例えば、ゴルファ8によるゴルフスイング全体を撮像する撮像装置を撮像装置4とは別に設置することや、ゴルフクラブ3にジャイロセンサを設けることにより、ゴルフスイングのフェーズを区別することができる。このように、ゴルフスイングのフェーズを区別することにより、異なるタイプのゴルフスイングの計測結果について、フェーズ毎に比較評価することが可能になる。
【0050】
図9A〜C、及び
図10A〜Cから明らかなように、各被験者の計測結果は相互に異なっている。そこで、比較すべき特徴や指標とすべき特徴量を決定して、計測結果を比較及び分類することにより、各被験者に適したゴルフクラブを選定や開発を支援することができると考えられる。
【0051】
本発明の一実施形態について説明したが、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。なお、上記実施の形態では、ゴルファ8を人間として示したが、本発明によれば、ロボットのゴルファによるゴルフスイング時のゴルフクラブの変形を簡易に計測することも可能である。当該ロボットのゴルファは、一定条件でのスイングが可能であり、例えば、同一仕様の多数の製品間での特性の均質性を簡易に判断することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 計測システム
2 計測装置
3 ゴルフクラブ
4 撮像装置
5 シャフト
6 ヘッド
7 グリップ
9 ゴルフボール