(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078481
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】化学強化ガラスの切断方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/02 20060101AFI20170130BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20170130BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20170130BHJP
B28D 1/22 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
C03B33/02
C03B33/09
C03C21/00 101
B28D1/22
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-181(P2014-181)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2014-131954(P2014-131954A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0000420
(32)【優先日】2013年1月3日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502411241
【氏名又は名称】コーニング精密素材株式会社
【氏名又は名称原語表記】Corning Precision Materials Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ヒクァン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ユンソク
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ チャン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジフン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャ、 ジェミン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ホサム
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−251879(JP,A)
【文献】
特開2005−320234(JP,A)
【文献】
特表2013−518800(JP,A)
【文献】
特公昭47−014837(JP,B1)
【文献】
特開2007−045649(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/023658(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
C03C 15/00−23/00
B28D 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス内部の第1のアルカリイオンを該第1のアルカリイオンとは異なる第2のアルカリイオンと交換することでガラスの表面に圧縮応力を形成する化学強化工程にて化学強化された化学強化ガラスを切断する方法であって、
前記化学強化ガラスにおける切断したい切断部にペースト(paste)を塗布するステップと、
前記ペーストに熱を加えるステップ、及び
前記切断部をカッティングするステップと、を含み、
前記ペーストは、前記化学強化工程にて交換された前記第2のアルカリイオンよりもイオン半径の小さい第3のアルカリイオンを含むことを特徴とする化学強化ガラスの切断方法。
【請求項2】
前記第1のアルカリイオンはNaイオンを含み、前記第2のアルカリイオンはKイオンを含み、前記第3のアルカリイオンは、Liイオン及びNaイオンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項3】
前記ペーストは、前記Liイオン及びNaイオンのうちの少なくとも一つを硝酸塩の形態で含むことを特徴とする請求項2に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項4】
前記ペーストは、Kイオンをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項5】
前記ペーストは、前記Kイオンを硝酸塩の形態で含むことを特徴とする請求項4に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項6】
前記ペーストは、ZnOをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項7】
前記ペーストは、前記LiイオンをLiNO3の形態で含み、前記NaイオンをNaNO3の形態で含み、
前記ペーストは、前記NaNO3を0〜60重量部、前記LiNO3を40〜100重量部含むことを特徴とする請求項6に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項8】
前記ペーストは、KイオンをKNO3の形態で含み、
前記ペーストは、前記NaイオンをNaNO3の形態で含み、
前記ペーストは、前記KNO3を0〜60重量部、前記NaNO3を40〜100重量部含むことを特徴とする請求項6に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項9】
前記ペーストに熱を加えるステップでは、前記ペーストを高周波加熱することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項10】
前記切断部をカッティングするステップでは、レーザーまたはスクライブ(Scribe)装置を利用して前記切断部をカッティングすることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項11】
前記化学強化ガラスの切断方法は、
前記切断部にペーストを塗布するステップの後であって前記ペーストに熱を加えるステップの前に、前記ペーストが塗布された化学強化ガラスを予熱するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【請求項12】
前記化学強化ガラスを予熱するステップでは、化学強化ガラスを300℃以上の温度で加熱することを特徴とする請求項11に記載の化学強化ガラスの切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスの切断方法に係り、より詳しくは、表面に圧縮応力が形成された化学強化ガラスを切断するための化学強化ガラスの切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モニターやカメラ、VTR、携帯電話などの映像及び光学装備、自動車などの運送装備、各種の食器類、建築施設などといった幅広い技術及び産業分野においてガラス製品は必須構成要素として取り扱われており、このため、各産業分野の特性に合わせて多様な物性を持つガラスが製造され使用されてきている。
【0003】
特に、近年に入り、有機発光ディスプレイ(OLED)、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)などといったディスプレイのカバー基板として化学強化ガラスが広く使用されている。
【0004】
ガラスの強化方法としては、主に自動車の安全ガラスに適用する風冷強化と呼ばれる物理強化方法や化学強化方法があり、特に化学強化は、形状が複雑か厚さが略2mm以下の薄板ガラスに有効に適用することができる技術である。このような化学強化は、ガラスの内部に存在するイオン半径の小さいアルカリイオン(主にNaイオン)を所定の条件でイオン半径の大きいアルカリイオン(主にKイオン)と交換させる技術であって、イオン交換によりガラス表面に大きな圧縮応力が生成され、ガラスの強度及び硬度が増大するようになる。
【0005】
しかしながら、このような化学強化ガラスは、表面に存在する圧縮応力によって強化後は切断や研磨などのような2次加工が事実上不可能であるという短所を有する。化学強化ガラスを従来のダイヤモンドホイールによって切断する場合、ガラス表面に存在する大きな圧縮応力に起因して、ガラスが意図した形態ではない無秩序な破片に破損されるようになる。
【0006】
そこで、従来は、大面積のガラスを切断や研磨してから化学強化を施す工程により、所望の大きさや形状の化学強化された単位ガラスを製造していたが、かかる化学強化が施された単位ガラスの製造工程は、工程効率及び生産性が低いという問題がある。
【0007】
したがって、高い工程効率及び生産性を有し且つ多様な大きさや形状の化学強化ガラスを製造するために、化学強化ガラスを切断する技術の開発が必要とされている。
これに関して、米国公開特許第2012/0064306号では、切断したい部位にポリマーなどでイオン交換を防ぐ遮蔽層を形成後に化学強化を施すことで、化学強化後に化学強化ガラスを切断する技術が開示されているが、この場合、遮蔽層が化学強化温度、すなわちガラス転移温度の環境に耐えられ得ることや、化学強化工程後に遮蔽層が除去されやすいこと、という多くの制約要素を有する。
【0008】
また、米国公開特許第2010/0206008号では、レーザーを利用して化学強化ガラスを切断する技術が開示されているが、レーザーの利用は、生産の面で効率的ではないという短所を有する。
【0009】
そして、米国公開特許第2012/0135195号では、エッチングなどの方法にて強化ガラスの表面に引張領域を形成させてから、クラックを伝播させて強化ガラスを切断する技術が開示されているが、この場合、ガラスの表面に形成されたクラックによって強化工程中におけるガラスの取り扱いが難しいという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国公開特許第2012/0064306号
【特許文献2】米国公開特許第2010/0206008号
【特許文献3】米国公開特許第2012/0135195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、化学強化ガラスの切断時に化学強化ガラスが割れる現象を防止し且つ製品の信頼性を向上させることができる化学強化ガラスの切断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、ガラス内部の第1のアルカリイオンを該第1のアルカリイオンとは異なる第2のアルカリイオンと交換することでガラスの表面に圧縮応力を形成する化学強化工程にて化学強化された化学強化ガラスを切断する方法であって、前記化学強化ガラスにおける切断したい切断部にペースト(paste)を塗布するステップと、前記ペーストに熱を加えるステップ、及び前記切断部をカッティングするステップと、を含み、前記ペーストは、前記化学強化工程にて交換された前記第2のアルカリイオンよりもイオン半径の小さい第3のアルカリイオンを含むことを特徴とする化学強化ガラスの切断方法を提供する。
ここで、前記化学強化工程は、前記第1のアルカリイオンはNaイオンを含み、前記第2のアルカリイオンはKイオンを含み、前記第3のアルカリイオンは、Liイオン及びNaイオンのうちの少なくとも一つを含んでいてよく、好ましくは、前記ペーストは、前記Liイオン及びNaイオンのうちの少なくとも一つを硝酸塩の形態で含むものであってよい。
また、前記ペーストは、Kイオンをさらに含んでいてよく、好ましくは、前記Kイオンを硝酸塩の形態で含むものであってよい。
また、前記ペーストは、ZnOをさらに含んでいてよい。
好ましくは、前記ペーストは、前記LiイオンをLiNO
3の形態で含み、前記NaイオンをNaNO
3の形態で含み、前記ペーストは、前記NaNO
3を0〜60重量部、前記LiNO
3を40〜100重量部含むものであってよく、または、前記ペーストは、KイオンをKNO
3の形態で含み、前記ペーストは、前記NaイオンをNaNO
3の形態で含み、前記ペーストは、前記KNO
3を0〜60重量部、前記NaNO
3を40〜100重量部含むものであってよい。
また、前記ペーストに熱を加えるステップでは、前記ペーストを高周波加熱していてよい。
そして、前記切断部をカッティングするステップでは、レーザーまたはスクライブ(Scribe)装置を利用して前記切断部をカッティングしていてよい。
前記化学強化ガラスの切断方法は、前記切断部にペーストを塗布するステップの後であって前記ペーストに熱を加えるステップの前に、前記ペーストが塗布された化学強化ガラスを予熱するステップをさらに含んでいてよい。
ここで、前記化学強化ガラスを予熱するステップでは、化学強化ガラスを300℃以上の温度で加熱していてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、化学強化ガラスの切断部だけに応力を緩和しまたは解除した後に切断することで、切断過程で生じる化学強化ガラスの歪みまたはストレスなどによる割れを防止することができる。
また、ペースト塗布による簡単な方法にて圧縮応力を解除することができ、化学強化ガラスの切断効率性及び生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例に係る化学強化ガラスの切断方法に関する概略的なフローチャート。
【
図2】化学強化及び本発明に係る圧縮応力の緩和の概念を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施例に係る強化ガラスの切断方法について詳しく説明する。
なお、本発明を説明するにあたって、関連公知機能あるいは構成についての具体的な説明が本発明の要旨を不要に曖昧にし得ると判断された場合、その詳細な説明は省略することにする。
【0016】
図1は、本発明の一実施例に係る化学強化ガラスの切断方法に関する概略的なフローチャートである。
図1を参照すると、本発明の一実施例に係る化学強化ガラスの切断方法は、切断部にペーストを塗布するステップ(S100)、ペーストに熱を加えるステップ(S200)、及び切断部をカッティングするステップ(S300)を含んでなる。
【0017】
化学強化ガラスは、ガラス内部のアルカリイオンをこれよりもイオン半径の大きい他のアルカリイオンと交換することでガラスの表面に圧縮応力を形成する化学強化工程にて製造される。
【0018】
一般の化学強化は、ガラスのNaイオンをこれよりもイオン半径の大きいKイオンと交換してなる。アルカリ金属以外の多価イオンは、ガラス中を移動しにくく、Mg
2+やCa
2+はイオン交換による化学強化が施されにくい。また、イオン半径が大きすぎてもガラス中への拡散の邪魔となり、同じ1価イオンであるとしてもRb
+やCs
+ではイオン交換による化学強化が施されにくい。
【0019】
化学強化ガラスを切断するために、先ず、化学強化ガラスにおける切断したい切断部にペーストを塗布する(S100)。
ここで、ペーストは、化学強化工程にて交換されたアルカリイオンよりもイオン半径の小さいアルカリイオンを含む。
【0020】
化学強化工程にてガラス内部のNaイオンがKイオンと交換された場合、ペーストはKよりもイオン半径の小さいLiイオンまたはNaイオンのうちの少なくとも一つを含むこととなる。好ましくは、Liイオン及びNaイオンは、LiNO
3、NaNO
3のような硝酸塩の形態でペーストに含まれていてよい。
【0021】
Liイオンは、Naイオンよりもイオン半径が小さいため、後述するペーストに熱を加えるステップにてNaイオンよりも化学強化ガラスの表面を拡散しやすくなる。すなわち、Liイオンは、Naイオンよりも化学強化ガラス中をより速く且つ深く拡散することができるので、化学強化ガラスのイオン交換の速度及び表面応力の緩和時間を縮めることができる。
【0022】
また、LiイオンとNaイオン含有量を適宜調節することで、化学強化ガラスのイオン交換の速度及び表面応力の緩和時間を制御することができる。
【0023】
また、本発明の一実施例に係るペーストは、Kイオンをさらに含んでいてよい。
Liイオン及び/またはNaイオンにKイオンを含めることで、化学強化ガラスの圧縮応力層(DOL)の全部を解除することではなく、切断可能な範囲内で所定の深さまで圧縮応力を解除し、その内部は圧縮応力が保持されるようにすることができる。
好ましくは、Kイオンは、硝酸塩の形態でペーストに含まれていてよい。
【0024】
また、本発明の一実施例に係るペーストは、ZnOをさらに含んでいてよい。
【0025】
ペーストに熱を加えると、ペーストが液化して切断部以外の部分へと流れていくことがあるため、ペーストにZnOを含めることで、ペーストが熱を受けてもスラリー状態を保つようにすることができる。
【0026】
好ましくは、本発明の一実施例に係るペーストは、0〜60重量部のNaNO
3、40〜100重量部のLiNO
3、及びZnOを含んでなるか、または0〜60重量部のKNO
3、40〜100重量部のNaNO
3、及びZnOを含んでなるものであってよい。
【0027】
次いで、切断部に塗布されたペーストに熱を加える(S200)。
ペーストに熱を加えると、ペーストに含まれたイオンが化学強化ガラスのイオンとイオン交換しながら、化学強化ガラスの表面における圧縮応力を解除または緩和する。すなわち、化学強化工程にて交換された化学強化ガラスのアルカリイオンよりもイオン半径の小さいペーストに含まれたアルカリイオンが化学強化ガラスへ拡散していき、イオン交換されることで化学強化ガラスの表面に形成された圧縮応力が解除または緩和されるのである。
【0028】
図2は、化学強化及び本発明に係る圧縮応力緩和の概念を示す概念図である。
図2に示すように、ガラスを化学強化すると、Kイオンがガラス中のNaイオンとイオン交換しながらガラスの表面を拡散していき、これによりガラスの表面に圧縮応力が形成される。このようにして化学強化が施された化学強化ガラスを再びNaイオンによって逆イオン交換すると、強化ガラスの表面に形成された圧縮応力は緩和する。
【0029】
切断部に塗布されたペーストへの熱の印加は、高周波加熱、好ましくは、高周波誘電加熱(dielectric heating)にて行われていてよい。
特に、ペーストが高周波エネルギーを非常に吸収しやすい硝酸塩(nitrate)を含んでなる場合、ペーストが塗布された切断部の温度を切断部以外の部分の温度よりも高く形成することができ、高周波加熱によって切断部以外の部分の圧縮応力が緩和することを最小に抑えることができる。
【0030】
最後に、切断部をカッティングすることで化学強化ガラスを切断する(S300)。
ペーストに熱を加えて切断部の圧縮応力を緩和または解除した状態で切断部をカッティングすることで、化学強化ガラスの破損を生じさせることなく化学強化ガラスを切断することができる。
【0031】
切断部のカッティングは、レーザーまたはスクライブ装置を利用して行われていてよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、ウォータージェット(water jet)などの多様な方法にて行われていてもよい。
【0032】
また、本発明の一実施例に係る化学強化ガラスの切断方法は、切断部にペーストを塗布するステップ(S100)の後であってペーストに熱を加えるステップ(S200)の前に、ペーストが塗布された化学強化ガラスを予熱するステップをさらに含んでいてよい。
すなわち、ペーストに熱を加えて逆イオン交換を行う前に化学強化ガラスを予熱することで、ペーストのイオンと化学強化ガラスのイオンとでのイオン交換が活発に行われるようにすることができる。
好ましくは、ペーストが塗布された化学強化ガラスを予熱するステップは、電気炉(electric heating)にて300℃以上の温度で加熱しながら行われていてよい。
【0033】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
NaイオンがKイオンとイオン交換されることで化学強化されたガラスの切断部にNaNO
3及びZnOらなるペーストを塗布し、次いで、該ペーストをマグネトロン(Mgt)高周波加熱にて330℃で加熱した後の化学強化ガラスの圧縮応力及び圧縮応力層の深さを測定し、その結果を表1に表した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に表したように、NaNO
3及びZnOからなるペーストを高周波加熱した場合、KイオンとNaイオンとが逆イオン交換されながら、ペーストが塗布された切断部の圧縮応力が数分内に完全に解除されることが分かる。
【0037】
一方で、ペーストが塗布されていない切断部以外の部分の圧縮応力もまた、高周波加熱にて僅かながら緩和するようになる。このように高周波加熱にて切断部以外の部分の圧縮応力もまた緩和し、そのため、化学強化ガラスの強度が低下することがあることから、高周波加熱の時間を適宜制御する必要がある。表1における変化量は、高周波加熱前の化学強化ガラスの圧縮応力及び圧縮応力層の深さと高周波加熱後の切断部以外の部分の圧縮応力及び圧縮応力層の深さとを比べた値である。
【実施例2】
【0038】
NaイオンがKイオンとイオン交換することで化学強化されたガラスの切断部にKNO
3、NaNO
3及びZnOからなるペーストを塗布し、次いで、該ペーストを高周波加熱にて330℃で加熱した後の化学強化ガラスの圧縮応力及び圧縮応力層の深さを測定し、その結果を表2に表した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に表したように、KNO
3、NaNO
3及びZnOからなるペーストを高周波加熱した場合、KイオンとNaイオンとの逆イオン交換及びKNO
3塩の高周波吸収による切断部の局所加熱により、ペーストが塗布されている切断部の圧縮応力が数分内に100MPa以下に解除されることが分かる。
【0041】
一方で、ペーストが塗布されていない切断部以外の部分の圧縮応力もまた、高周波加熱にて僅かながら緩和するようになることが分かる。表2における変化量は高周波加熱前の化学強化ガラスの圧縮応力及び圧縮応力層の深さと高周波加熱後の切断部以外の部分の圧縮応力及び圧縮応力層の深さとを比べた値である。
【実施例3】
【0042】
NaイオンがKイオンとイオン交換することで化学強化されたガラスの切断部にNaNO
3及びZnOからなるペーストを塗布し、次いで、化学強化ガラスを電気炉にて抵抗加熱して加熱温度及び加熱時間による化学強化ガラスの圧縮応力及び圧縮応力層の深さ(DOL)を測定し、その結果を表3に表した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に表したように、電気炉による加熱温度及び加熱時間が増加するほど切断部の圧縮応力が緩和することが分かる。特に、330℃以上の温度にて20分以上加熱時の圧縮応力が1/3〜1/5水準に減少することが分かる。
【0045】
一方で、実施例1と実施例3とを比べてみると、高周波加熱による場合のほうが電気炉加熱による場合よりも化学強化ガラスの圧縮応力の緩和効率が優れていることが分かる。これに対し、切断部以外の部分の圧縮応力緩和率は、電気炉加熱による場合のほうが高周波加熱による場合よりも小さいことから、電気炉加熱によって化学強化ガラスの圧縮応力を緩和した場合、切断後も化学強化ガラスが優れている強化特性を保持することができるはずである。
【0046】
以上のように、本発明は、限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、かかる記載から多様な修正および変形が可能である。
それゆえ、本発明の範囲は、説明された実施例に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、特許請求の範囲と均等なものにより定められなければならない。