(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血液処理開始から1時間後までのアルブミン漏出の合計量を100質量%とした場合、血液処理開始から5分間後までのアルブミン漏出量が50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリスルホン系血液処理用中空糸膜。
血液処理の全期間にわたるアルブミン漏出の合計量が1.0g/session以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリスルホン系血液処理用中空糸膜。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について、詳細に説明する。本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
なお、以下の説明は全て、血液透析器のように中空糸膜の内腔部を血液が流れる場合を想定して記載するが、中空糸膜の内腔部に血液が流れない場合、すなわち中空糸膜の外側を血液が流れる場合は、中空糸膜の内外を反対に読み替えるものとする。
【0017】
<ポリスルホン系血液処理用中空糸膜>
本実施形態の血液処理用中空糸膜(以下、単に「中空糸膜」と記載する場合がある。)は、ポリスルホン系樹脂、親水性高分子及び脂溶性物質を含み、中空糸膜は膜の表面に1m
2あたり脂溶性物質を10〜300mg含有し、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量を100質量%とした場合、膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量が40〜95質量%であり、中空糸膜を用いて組み立てられた血液浄化器の1.5m
2換算したβ2MGのクリアランス値が65mL/min以上であるものである。
【0018】
中空糸膜は、血液浄化器に用いられる血液処理用中空糸膜である。「血液浄化器」とは、血液透析器、血液濾過透析器、血液濾過器、持続式血液濾過(透析)器等の血液体外循環治療のために使用される、血液を浄化する機器である。
【0019】
内径、膜厚、及び長さなどの形態は任意に調整し得るが、例えば内径は100〜300μm、膜厚は10〜100μm、長さは10〜40cmの範囲から選択してもよい。また、高い分子量分画性と高透水性を両立するために薄い緻密層(活性分離層)と、中空糸強度を担う多孔質層(支持層)を有する、いわゆる非対称膜であることが好ましい。なお、本実施形態の血液処理用中空糸膜は、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている従来知られている血液処理用中空糸膜と同様な構造を有し得るが、これら従来の中空糸膜は高透過性能を指向しておらず、高透過性能血液浄化器で顕在化するβ2MGとアルブミンとの分画性や、本発明で明らかにされた不均衡症候群の緩和を目的としていない。一方で本発明は高性能血液浄化器に用いる中空糸膜を対象にしており、本実施形態の中空糸膜を組み立てた血液浄化器の1.5m
2換算したβ2MGのクリアランスは65mL/min以上であり、好ましくは70mL/min以上である。なお、本発明で定義する1.5m
2換算したβ2MGクリアランスは以下の方法により測定、算出する。
【0020】
<β2MGのクリアランス測定>
佐藤威ら、日本透析医学会誌(1996年)Vol.29(8)、P.1231〜1245の規定する測定方法に準じてβ2MGのクリアランスを測定する。以下、具体例を紹介するが、その趣旨の範囲内で変形して実施しても構わない。
【0021】
血液側に使用する試験液は抗凝固化牛全血を血漿分離した牛血漿を使用する。抗凝固剤はクエン酸系を用いてもよく、ヘパリンを用いてもよい。血漿総蛋白を6.5±0.5g/dLに調整し、市販のβ2MG試薬を0.01〜4mg/Lとなるように添加する。透析液は、pHが7.4付近となる市販透析液を使用するか、同等の緩衝液を作成して用いてもよい。血液側試験液及び透析液側試験液はいずれも37±1℃に保温する。膜面積1.5m
2の血液浄化器を
図1に示す「シングル回路」にセットし、血液浄化器の血液側入口流量(QBi)を200mL/min、血液出口側流量(QBo)を185mL/min、透析液入口流量(QDi)を500mL/minに、それぞれ調整する。血液側出口溶質濃度CBoが安定するまで定常待ちを行ってから血液供給液、血液側試験液の出口及び透析液側試験液の出口から液をサンプリングし、それぞれのβ2MG濃度CBi、CBo及びCDoを測定する。β2MG濃度は市販の装置を使って測定してもよく、臨床検査会社に測定を依頼することも可能である。クリアランス(CL)は数式(1)より計算する。
【数1】
【0022】
なお、1.5m
2以外の膜面積の血液浄化器については、峰島三千男、『血液浄化器−性能評価の基礎』、日本メディカルセンター発行(2002年)、第1版、第1刷に記載の方法を参考にして測定値を1.5m
2換算する。まず、QBoを数式(2)により再設定する以外は上記方法によりβ2MGクリアランスを測定する。
【数2】
【0023】
次に数式(3)により総括物質移動係数(K0)を算出する。
【数3】
ただしQBi=200mL/min、QDi=500mL/min、
A=供試モジュールの膜面積(m
2)、
CL=クリアランス測定値(mL/min)
【0024】
さらに数式(4)により1.5m
2換算のクリアランスを算出する。
【数4】
ただしQBi=200mL/min、QDi=500mL/min、
A=1.5m
2、K0=数式(3)で求めた値
【0025】
<ポリスルホン系樹脂>
本実施形態のポリスルホン系樹脂(以下、場合によって「PSf」という。)とは、スルホン結合を有する高分子化合物の総称であり、特に限定されるものではない。例えば、繰り返し単位が、下記化学式(1)〜(5)で示されるポリスルホン系高分子が挙げられる。なお、nは重合度であり任意の値でよい。
【化1】
【0026】
化学式(1)のPSfは、ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社より、「ユーデル」の商品名で、また、ビー・エー・エス・エフ社より「ウルトラゾーン」の商品名で市販されており、重合度によって複数の種類が存在するが、特に限定するものではない。
【0027】
また化学式(2)のPSfは、スミカエクセルPES(住友化学社製、製品名)、ウルトラゾーン(BASF社製、製品名)等が挙げられる。これらは、広く市販されており、入手も容易であり好ましく、取扱性や、入手容易であるという観点から、1(W/V)%のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液で測定した還元粘度が、0.30〜0.60の範囲であることが好ましく、0.36〜0.50の範囲であることがより好ましい。
【0028】
<親水性高分子>
本実施形態の親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(以下「PVP」と称することがある)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、紡糸の安定性や、PSfとの親和性の観点から、PVPが好ましく用いられる。
【0029】
PVPは、重合度によって複数の種類が存在し、例えば、アイ・エス・ピー社より、「プラスドン」の商標名で、K−15、30、90等の分子量違いのものが存在するが、いずれも用いることができる。
【0030】
<脂溶性物質>
本実施形態の脂溶性物質とは、一般に水に溶けにくく、アルコールや油脂に溶ける物質を言い、毒性が低い天然物や合成物を用いることができる。具体的にはコレステロール、ヒマシ油・レモン油・シアバターなどの植物油、魚油などの動物油、ショ糖脂肪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの脂肪酸、イソプレノイド、炭素数の大きな炭化水素などが挙げられる。また、脂溶性のビタミンである、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、及びユビキノンなども好ましく用いられる。これらの中では、過剰摂取をしても障害を誘発しないという観点から、ビタミンEが好適である。
【0031】
ビタミンEはα−トコフェロール、α−酢酸トコフェロール、α−ニコチン酸トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール等、及びそれらの混合物を用いることができる。中でもα−トコフェロールは生体内抗酸化作用、生体膜安定化作用、血小板凝集抑制作用等の種々の生理作用に優れており、上述した酸化ストレスを抑制する効果が高いため好ましい。
【0032】
また、上記脂溶性物質は、抗酸化力や膜基材との親和性の調整、安定性向上又はその他の目的のために上記例示した化合物を適宜化学修飾したものでもよい。
【0033】
本発明者らは鋭意研究により、1.5m
2換算したβ2MGのクリアランス値が65mL/min以上である血液浄化器を構成する、ポリスルホン系血液処理用中空糸膜において、脂溶性物質を含有させることで、分画性の向上及びなだらかにアルブミンを漏出させ得ることを見出した。
【0034】
この理由は明らかではないが、以下のように推察することができる。アルブミンは分子内に疎水性表面を有し、疎水性表面に吸着することが知られている。このため、膜表面を疎水性の脂溶性物質で改質した本実施形態の分子分画を決定する分離活性層の孔の表面にも強固に吸着すると推定される。一方でアルブミンは陰性荷電を有し、陰性荷電膜によりアルブミンリークを抑制することができることが知られている。膜表面に強く吸着したアルブミンは後から接近するアルブミンに対して静電反発効果を発揮し、一方で荷電を有さないβ2MGなど尿毒物質の透過性には影響を与えない。通常のPSf中空糸膜でも同様の現象は一部で生じているものの、脂溶性物質で表面改質された本実施形態の中空糸膜では顕著にその効果が表れ、β2MGとアルブミンとの分画性向上として認識されたものと推測される。
【0035】
また、アルブミンが分離活性層の孔表面に強固に吸着するということは孔の実質内径の縮小を意味するため、本実施形態の中空糸膜の孔径分布は従来の中空糸膜よりも大孔径に設定している。血液浄化用のPSf中空糸膜はPSf溶媒に非溶媒を添加して誘導される相分離により孔構造を形成する。PSf溶媒及び非溶媒の混合液における溶媒の濃度は一例として50〜60%である。本実施形態で必要な大き目の孔構造を得るためには相分離を進める必要があるが、確率論として粗大孔の割合が増してくると予想される。上述した静電反発は距離の二乗に反比例するために粗大孔ではその効果が得られない。しかしながら、この少数であるが一定数存在する粗大孔のためにアルブミンが継続的にリークする、言い換えるとなだらかにアルブミンを漏出させているのであると推測される。
【0036】
<膜の表面に存在する脂溶性物質の量>
本実施形態の中空糸膜は、膜の表面に存在する脂溶性物質の量が膜面積1m
2あたり10〜300mgであり、さらに、中空糸膜の全体における脂溶性物質の含有量を100質量%とした場合、中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量が40〜95質量%である。なお、「中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量」とは、中空糸膜の表面に付着、吸着又は被覆した脂溶性物質の含有量をいい、この表面に存在する脂溶性物質の含有量は、例えば、中空糸膜を破壊又は溶解せずに溶媒によって抽出される脂溶性物質の含有量によって定量することができる。
【0037】
中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質は、中空糸膜の膜面積換算で10mg/m
2以上300mg/m
2以下の範囲である。好ましくは50〜250mg/m
2、より好ましくは100〜200mg/m
2である。本発明でいう中空糸膜の膜面積とは、濾過や透析に関与する中空糸膜の実効総表面積のことであり、具体的には中空糸膜の内表面積であって、中空糸膜の平均内径(直径)、円周率、本数、及び有効長の積から算出される。
【0038】
膜表面に存在する脂溶性物質の含有量が10mg/m
2以上であると、脂溶性物質の被覆ムラを防止でき、前述したアルブミン透過性の制御が再現性良く得られる。また、優れた抗酸化能力をも発揮できる。一方で300mg/m
2を超えると、中空糸膜内の活性分離層が脂溶性物質により完全に閉塞してしまう恐れがあるため本発明の特徴である高透過性が達成できない。
【0039】
中空糸膜表面に存在する脂溶性物質の含有量の測定方法の一例を説明する。まず中空糸膜型の血液浄化器を分解し、中空糸膜を採取し、水洗した後、乾燥処理を施す。続いて精秤した乾燥後の中空糸膜に脂溶性物質を溶解する界面活性剤、例えば1質量%のポリエチレングリコール−t−オクチルフェニルエーテル水溶液を加え撹拌・抽出を行う。抽出した中空糸膜の膜面積は重量から算出する。定量操作は、例えば下記液体クロマトグラフ法により行い、脂溶性物質標準溶液のピーク面積から得た検量線を用いて、抽出液中の脂溶性物質の濃度を算出する。得られた濃度と抽出した中空糸膜の膜面積から抽出効率を100%として、中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の量(mg/m
2)を求めることができる。
【0040】
[液体クロマトグラフ法による定量方法の一例]
高速液体クロマトグラフ装置(ポンプ:日本分光PU−1580、検出器:島津RID−6A、オートインジェクター:島津SIL−6B、データ処理:東ソーGPC−8020、カラムオーブン:GL Sciences556)に、カラム(Shodex Asahipak社製ODP−506E packed column for HPLC)を取り付け、カラム温度40℃において、移動相である高速液体クロマトグラフィー用メタノールを、例えば流量1mL/minで通液し、UV検出器で波長295nmにおける吸収ピークの面積から脂溶性物質濃度を求める。
【0041】
<中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の割合>
本実施形態の中空糸膜における中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量は中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量の40〜95%である。好ましくは45〜90%、より好ましくは50〜80%である。
【0042】
中空糸膜全体の脂溶性物質含有量の測定方法の一例を説明する。まず中空糸膜型血液浄化器を分解し、中空糸膜を採取し、水洗した後、乾燥処理を施す。続いて精秤した乾燥後の中空糸膜にPSfの溶剤、例えばN−メチル−2−ピロリドンを加え、攪拌・溶解を行う。溶解した中空糸膜の膜面積は重量から算出する。定量操作は、例えば液体クロマトグラフ法により行い、脂溶性物質標準溶液のピーク面積から得た検量線を用いて、溶解液中の脂溶性物質の濃度を算出する。得られた濃度と溶解した中空糸膜の膜面積から中空糸膜が含有する脂溶性物質の質量(mg/m
2)を求めることができる。
【0043】
中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の割合は、数式(5)で算出することができる。
【数5】
【0044】
中空糸膜表面に存在する脂溶性物質の含有量が、中空糸膜全体の脂溶性物質の含有量の40%以下であると、分画性の向上及びなだらかなアルブミン漏出が困難となる。それは、中空糸膜表面に固定化されている脂溶性物質量が減少するためである。これを避けるために膜全体の脂溶性物質含有量を上げることは、血液浄化器の保存中の熱履歴や時間経過により膜全体が有する多量の脂溶性物質が膜表面に移動して透過性能に変化を及ぼすリスクがあるため採用できない。一方でこの値が95%を超えると逆に脂溶性物質が膜表面から膜基材に移動して透過性能に変化を及ぼすリスクが増してくる。本実施形態の中空糸膜及びそれを用いた血液浄化器の有する高透過性はアルブミン漏出過多のリスクと、逆にアルブミン漏出過少による治療効果低下を高度にバランスしたものであり、透過性能の変動リスクは極力避けねばならない。
【0045】
<アルブミン漏出量>
血液処理として血液透析を例にすると1回の治療全体でアルブミンの漏出量は1.0〜10g/session、好ましくは1.2〜9.0g/session、さらに好ましくは、1.5〜8.0g/sessionであることが望ましい。1.0g/sessionよりも少ないと、尿毒素となったアルブミンを除去し、新陳代謝を促す効果が現れがたく、10g/sessionよりも多い治療を継続すると低アルブミン症を発症するリスクが生じる。なおここでいうsessionとは1回の血液処理の治療時間を意味しており、例えば血液透析の場合は240分間(4時間)が標準的である。本発明者らの行った実験によれば膜面積あたりの濾過流量を一定にすれば血液浄化器の膜面積の変更はアルブミン漏出量測定値に大きな差を与えない。このため測定に使用する血液浄化器の膜面積は特に限定されないが、主流膜面積である1.5m
2又はその近辺であることが好ましい。本実施形態の血液浄化器を用いた場合の1回の治療全体でのアルブミンの漏出量は以下に説明する測定方法によって、240分間(1 session)の模擬治療実験により推定することができる。
【0046】
<アルブミン漏出量測定>
アルブミン漏出量の測定方法について、血液処理治療のひとつである透析治療を例にして以下に説明する。
【0047】
クエン酸又はヘパリンナトリウムを添加して凝固を抑制した牛血液を用い、牛血漿又は生理食塩水で希釈し、ヘマトクリットを35±2%、総蛋白濃度6.5±0.5g/dLに調製した。該血液を血液浄化器の血液流路に200mL/minで循環させながら、市販透析液を血液浄化器の血液流路に500mL/min、ワンパスで送液し、除水を6ml/min/m
2で行いながら透析を実施する。透析液の送液は、市販の透析装置(例えば日機装社製DBG−03)を用いる。溶血を防止する目的で血液浄化器は予め生理食塩水で十分に置換しておく。牛血液循環開始と同時に透析液送液、除水を開始し、除水液のサンプリングを開始する。除水液のみのサンプリングが難しい場合は、透析廃液すべてを集めてもよい。除水液、又は透析廃液を所定の間積算して(例えば、0〜5分間積算し、次いで〜1時間積算し、次いで〜4時間積算し、または、5分間積算を4時間繰り返し)サンプリングを行い、試験液とする。試験液をよく混和し、試験液中のアルブミン濃度を、例えばイアトロU−ALB(TIA)試薬(三菱化学メディエンス(株)製)を用いて、自動分析装置Biolis24i(東京貿易メディカルシステム株式会社)にて定量する。1 session(240分間)のアルブミン漏出量(4Hr値)は数式(6)、または数式(7)により算出する。
【数6】
【数7】
【0048】
<アルブミン漏出量1時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率>
血液処理開始から1時間後までのアルブミン漏出量(場合によって「アルブミン漏出量1時間積算値」という)に対する、血液処理開始から5分間後までのアルブミン漏出量(場合によって「アルブミン漏出量5分間積算値」という)の比率は50%以下であればよく、好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。この比率が50%を超えると透析開始直後のアルブミン濃度低下が激しく、不均衡症候群を誘発するリスクが高まる。本実施形態の血液浄化器を用いた場合のアルブミン漏出量1時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率は、上記アルブミン漏出量測定方法によって、血液処理開始後5分間の積算値と血液処理開始後1時間の積算値をそれぞれ測定してその比を算出すればよい。
【0049】
<アルブミン漏出量全積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率>
血液処理の全期間にわたるアルブミン漏出(場合によって「アルブミン漏出量全積算値」という)に対する、アルブミン漏出量5分間積算値の比率は30%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下であることが望ましい。この比率が30%を超えると透析開始直後のアルブミン濃度低下が激しく、不均衡症候群を誘発するリスクが高まる。なお、本実施形態においては、治療全期間(1 session)を240分間(4時間)とし、アルブミン漏出量全積算値をアルブミン漏出量4時間積算値とする。本実施形態の血液浄化器を用いた場合のアルブミン漏出量全積算値(又はアルブミン漏出量4時間積算値)に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率は、上記アルブミン漏出量測定方法によって、血液処理開始後5分間の積算値と全処理期間である4時間の積算値をそれぞれ測定してその比を算出すればよい。
【0050】
<炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコール(成分A)>
従来においては、脂溶性物質を添加する工程において、中空糸膜の性能低下が生じる場合があった。上述したように、本発明者らは本願のなだらかにアルブミンを漏出させる効果は膜の分離活性層に少数存在する粗大孔に由来すると推定している。このため脂溶性物質を添加する工程において、膜の孔径分布の変化が生じると、所望のレベルのアルブミン漏出が得られず、過大あるいは過少となるリスクがあった。脂溶性物質を添加する工程における中空糸膜の性能低下は、脂溶性物質と、中空糸膜の基材樹脂とが、低いながらも相溶性を有し、基材樹脂の構造保持力が低下し、孔径分布が変化するためであると推測される。仮に中空糸膜の基材樹脂と、脂溶性物質とに相溶性が全く無ければ、脂溶性物質は、膜基材の表面に油層として付着するのみで膜基材PSfに入り込むことは無く、孔径分布の変化も生じないと推測される。
【0051】
本発明者らは脂溶性物質に炭素数が1〜4のケトン及び/又はアルコール(以下、場合によって「成分A」という)を添加することにより、脂溶性物質と疎水性樹脂との相溶性を低下させることに成功し、中空糸膜の基材である疎水性樹脂への入り込み、結果として構造保持力の低下の抑制に成功した。これにより性能変化の抑制、ひいては得られる血液浄化器の性能ばらつきが低減される。よって、本実施形態の中空糸膜は、疎水性樹脂、親水性樹脂、脂溶性物質から構成される中空糸膜であって、さらに、成分Aを中空糸膜1gあたり2〜3000μg含むことが好ましい。成分Aを含有することにより、本実施形態の中空糸膜は、アルブミン漏出量の抑制のばらつきが抑制され、より安定した不均衡症候の発症抑制効果が得られる。なお、該ばらつきはアルブミン漏出量測定のCV値(=(測定値の標準偏差)÷(測定値の平均値))により定量化することができるが、CV値が50%を下回ることが好ましい。
【0052】
成分A、すなわち、炭素数が1〜4のケトン及び/又はアルコールは、炭素数が1、2、3又は4であるケトン、並びに、炭素数が1、2、3又は4であるアルコールからなる群より選択される少なくとも一つの化合物である。成分Aとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ブチルアルコールが挙げられ、これらの単一の化合物でもよく、これらの化合物の任意の組み合わせでもよい。そのうち、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく用いられる。成分A以外のたとえばエーテル系やテトラヒドロフラン等を使用すると、疎水性樹脂が膨潤ないし溶解し構造が変化することで、性能が著しく低下する恐れがある。
【0053】
なお、本発明者らの以前の研究によれば、脂溶性物質を添加する工程において、中空糸膜の性能低下として透水量に着目した時にはPSfとして上記化学式(2)に示すポリエーテルスルホンにしか性能低下の抑制効果は認められなかった。引き続く研究により、本願発明の主目的であるアルブミン漏出に影響する粗大孔の安定性に関してはポリエーテルスルホン以外のPSfでも効果の顕在化を認めたものである。
【0054】
中空糸膜に成分Aを含有させる方法については、後述する。
【0055】
中空糸膜に含有される成分Aの存在量は、特に限定されるものではないが、中空糸膜1gあたり、2〜3000μgであることが好ましく、より好ましくは10〜2000μg、さらに好ましくは25〜1500μgである。2μg以上とすることにより、脂溶性物質と疎水性樹脂との相溶性を十分に低下させることができ、中空糸膜の構造保持力を確保でき、膜性能の低下を防止できる。2μg未満では存在量の多少による性能変化が著しく、アルブミン漏出量のばらつきを生じる可能性がある。また、3000μg以下とすることにより、臨床施行時等において、脂溶性物質の剥がれを防止でき、血液への溶出や、脂溶性物質が脂溶性抗酸化剤であった場合は抗酸化性能の低下や性能変化を防止できる。
【0056】
中空糸膜に含有される成分Aの中空糸膜1gあたりの含有量は、以下の方法により測定することができる。
【0057】
[水で充填された血液浄化器の場合]
血液浄化器を解体し、中空糸膜を取り出し、市販の遠心分離機を用いて3500rpmで10分間、あるいはそれ以上の条件にて水分を除去する。水分を除去した中空糸膜の一部または全部の質量を測定する(「w1(g)」とする)。測定後、例えば100倍量のN−メチル−2−ピロリドン(「w2(g)」とする)を加えて溶解し、例えばガスクロマトグラフにより成分Aの濃度x(w/w%)を測定する。中空糸膜1gあたりの成分Aの含有量(「D(g/g中空糸膜)」)を、以下の数式(8)〜(9)に数値w1、xを代入して算出する。
【数8】
【数9】
【0058】
[ドライ血液浄化器の場合]
中空糸膜型血液浄化器の解体を行って、中空糸膜束を取り出す。塩化カルシウムなどを乾燥剤としたデシケーター中で恒量となるまで乾燥を行い、この質量を精秤した(「w3(g)」)後、N−メチル−2−ピロリドン(「w4(g)」とする)を加え、攪拌し、溶解した後、上記方法で成分Aの濃度y(w/w%)を算出する。続いて、w3とyを以下の数式(10)に代入して中空糸膜1gあたりの成分Aの含有量(「D(g/g中空糸膜)」)を算出する。
【数10】
【0059】
<中空糸膜の製造方法>
本実施形態の中空糸膜は、公知の乾湿式製膜技術を利用することにより製造できる。該方法は、例えばポリスルホン系樹脂及び親水性高分子を含む膜中間物質を乾湿式紡糸法で得る紡糸工程と、膜中間物質に脂溶性物質を固定化する固定工程とを有し、また、紡糸工程において、ポリスルホン系樹脂の溶媒及び非溶媒の混合液であって、混合液における溶媒の濃度が50〜60%である中空形成剤を用いてもよい。
【0060】
先ず、PSfと親水性高分子とを、共通溶媒に溶解し、紡糸原液を調製する。共通溶媒は特に限定されないが、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する。)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、又は上記溶媒を2種類以上混合した溶媒等が挙げられる。PSf溶媒に非溶媒を添加して誘導される相分離により孔構造を形成する。添加する非溶媒はPSf溶媒及び非溶媒の混合液であって溶媒の濃度が50〜60%である。なお、目的とする中空糸膜の孔径制御のため、紡糸原液には水等の添加物を加えてもよい。
【0061】
紡糸原液中のPSf濃度は、製膜可能で、かつ得られた膜が透過膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されず、5〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。高い透水性能を達成するためには、PSf濃度は低い方がよく、10〜25質量%がさらに好ましい。
【0062】
紡糸原液中の親水性高分子のPSfに対する濃度は、PSf100質量%に対する親水性高分子の混和比率が27質量%以下であることが好ましく、より好ましくは18〜27質量%、さらに好ましくは20〜27質量%となるように調整する。
【0063】
PSfに対する親水性高分子の混和比率が27質量%を超えると親水性高分子の溶出量が増える傾向にあり、また18質量%未満では中空糸膜の表面の親水性高分子濃度が低下し、患者の血液中の白血球濃度が急激に低下するロイコペニア症状を引き起こす原因となるおそれがあるため、好ましくない。
【0064】
中空糸膜を製造する工程においては、チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、紡糸口金のオリフィスから紡糸原液を、該紡糸原液を凝固させるための中空内液と同時に、チューブから空中に吐出させる。
【0065】
中空内液としては、水、又は水を主体とした凝固液が使用でき、目的とする中空糸膜の透過性能に応じてその組成等を決定すればよい。一般的には、紡糸原液に使用した溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。本実施形態の高い溶質透過性能を有する中空糸膜を得るためには溶剤の濃度が高いことが必要であり、PSfとして上記化学式(1)に示すポリスルホンを用いる場合には50〜70質量%の水溶液が必要あり、より好ましくは50〜65質量%が望ましい。さらに中空内液に親水性高分子を0〜2質量%となるように添加して中空糸膜内表面の親水性高分子の存在量を調整することもできる。
【0066】
紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行させ、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬して凝固を完了させ、洗浄工程等を経て、湿潤状態の中空糸膜巻き取り機で巻き取り、中空糸膜の束を得、その後乾燥処理を行う。或いは、上記洗浄工程を経た後、乾燥機内にて乾燥を行い、中空糸膜の束を得てもよい。
【0067】
上述した方法により、中空糸膜の内表面に存在する親水性高分子の質量を、上記PSfと親水性高分子との合計質量に対して25質量%以上40質量%以下とすることにより、抗血栓性、生体適合性に優れ、蛋白、血小板等の膜面付着も軽微な、中空糸膜が得られる。
【0068】
〔中空糸膜型の血液浄化器の製造方法〕
本実施形態の中空糸膜型の血液浄化器の好ましい製造方法としては、例えば、先ず、上述したように中空糸膜を製造し、当該中空糸膜を用いてモジュールを製造する方法が挙げられる。
【0069】
具体的には、上述した中空糸膜の束を被処理液である所定の流体の出入口を有する筒状の容器に挿入し、両束端にポリウレタン等のポッティング剤を注入してポッティング層を形成して両端をシールし、その後、硬化後の余分なポッティング剤を切断除去して端面を開口させ、流体の出入口を持つヘッダーを取り付ける。
【0070】
続いて、後述するように脂溶性物質を固定化し、さらに後述するように滅菌処理を施す。脂溶性物質の固定化は後述するように独立して行ってもよく、中空糸膜の製膜と同時に行ってもよい。さらにモジュール化する前の中空糸膜の段階で固定化することも可能である。
【0071】
<中空糸膜への脂溶性物質の固定化工程>
中空糸膜へ脂溶性物質を固定化する工程は、基本的に公知の方法を用いることができる。中でもコート法は、既存の設備や製品ラインナップを利用して様々な透過性能を有する脂溶性物質固定化膜生産を実現できるという点で優れている。
【0072】
中空糸膜への脂溶性物質の固定化方法としては、具体的には、中空糸膜の製膜時に製膜原液に脂溶性物質を添加して、中空糸膜全体に脂溶性物質を含有させる方法、中空内液に脂溶性物質及び界面活性剤を添加して、中空糸膜の内表面に脂溶性物質を含有させる方法(例えば、特許第4038583号及び国際公開第98/52683号)、中空糸膜型血液浄化器の組み立て後に、脂溶性物質、脂溶性物質の溶媒からなる脂溶性物質溶液を、中空糸膜の中空部に流入することにより、脂溶性物質を中空糸膜の内表面に付着させる方法(例えば特開2006−296931号公報)等、様々な方法により実施できるが、その他の方法も含め、いずれの方法を用いてもよい。
【0073】
本実施形態の中空糸膜は、脂溶性物質の含有量が、中空糸膜1m
2あたり10mg〜300mgであるが、当該範囲に制御する方法にとしては、以下の方法が挙げられる。
【0074】
具体的には、中空糸膜の製膜原液に脂溶性物質を添加する場合は、添加濃度を0.4質量%〜2質量%、好ましくは0.8質量%〜1.5質量%に調整する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0075】
添加濃度を0.4質量%以上とすると、脂溶性物質の表面露出量を十分に確保でき、良好な抗酸化能力が得られる。一方、2質量%以下とすることにより、中空糸膜の強度を実用上十分に確保でき、中空糸膜の破損のリスクを防止することができる。
【0076】
さらに形成された中空糸膜を乾燥状態で100℃〜180℃、好ましくは110〜180℃の範囲で熱処理を加えることにより、脂溶性物質の含有量が同一の中空糸膜でも、より多くの脂溶性物質を表面に偏在させることができる。
加熱温度を100℃以上とすることにより、脂溶性物質の偏在効果を発揮でき、一方で180℃以下とすることにより、中空糸膜の軟化や透過性能の変化を防止することができる。
【0077】
また、中空内液に添加する場合は脂溶性物質の濃度を0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で調整し、かつ界面活性剤など水性の中空内液に脂溶性物質を可溶にする添加剤を脂溶性物質に対して1/10〜2倍の量で添加するのが好ましい。
【0078】
組み立てられた中空糸膜型の血液浄化器に、脂溶性物質溶液をコーティングする場合は50〜80質量%のプロパノール等のアルコール水溶液に脂溶性物質を0.1〜2.0質量%溶解したコーティング液を通液して、所定時間、例えば30秒〜60分間、好ましくは40秒〜10分間液をなじませ、ついでエアーブローにより過剰なコーティング液を吹き飛ばしてから乾燥により溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0079】
コーティング温度は40℃以下であることが望ましく、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下である。コーティング温度が40℃よりも高いと脂溶性物質が膜基材に浸透する割合が高くなると推測され、上述したなだらかなアルブミン漏出が得られない可能性がある。
【0080】
<中空糸膜への炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコール(成分A)の固定化工程>
炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールは、以下の方法を用いて中空糸膜に含有させることができる。例えば、中空糸膜型の血液浄化器を組み立て、脂溶性ビタミン溶液を通液させた後、炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールの蒸気雰囲気下において乾燥させる方法が挙げられる。具体的にはコート溶媒を炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールとし、乾燥条件を工夫することにより炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールの蒸気雰囲気を保持することもできる。導入する乾燥用気体に炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールを人為的に含有させることにより蒸気雰囲気を保持し、炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコールの固定を行うこともできる。
【0081】
<滅菌処理工程>
上述した中空糸膜型の血液浄化器に対して、滅菌処理を施すことが好ましい。滅菌方法には放射線滅菌法、蒸気滅菌法等、いずれの方法であってもよい。脂溶性物質を多量に含む中空糸膜は、極度な加熱により中空糸破損を起こすリスクが生じるため、放射線滅菌法がより好ましい。放射線滅菌法には、電子線、ガンマ線、エックス線等を用いることができるが、いずれを用いてもよい。放射線の照射線量は、γ線や電子線の場合は通常5〜50kGyであるが、20〜40kGyの線量範囲で照射することが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
先ず、実施例に用いた各種測定方法について説明する。
【0084】
<中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量の定量>
中空糸膜型の血液浄化器を分解して中空糸膜を採取し、水洗した後、恒量となるまで40℃で真空乾燥した。乾燥後の中空糸膜0.2m
2をガラス瓶に秤取し、N−メチル−2−ピロリドンを50mL加え、攪拌・溶解を行った。
【0085】
定量は、液体クロマトグラフ法により行い、脂溶性物質標準溶液のピーク面積から得た検量線を用いて、抽出液の脂溶性物質量を求めた。具体的には、高速液体クロマトグラフ装置(JASCO社製UV−2075 plus intelligent UV/VIS Detecter、PU−2080 plus intelligent HPLCpump、CO−2065 plus intelligent columnoven、AS−2057 plus intelligent samplerに、カラム(イナートシルC8−3μm(4.6φ×250mm)+ODP−50 6E(4.6φ×250mm))を取り付け、カラム温度40℃において、移動相であるN−メチル−2−ピロリドンを流量0.5mL/minで通液し、UV検出器で波長295nmの吸収ピークの面積から脂溶性物質濃度を求めた。得られた濃度及び溶解した中空糸膜の質量から中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量(mg/m
2)を求めた。
【0086】
<中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量の定量>
中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の量を、以下のようにして測定した。
【0087】
中空糸膜型の血液浄化器を分解して中空糸膜を採取し、水洗した後、恒量となるまで40℃で真空乾燥した。乾燥後の中空糸膜0.2m
2をガラス瓶に秤取し、1質量%のトリトンX−100(キシダ化学、化学用)水溶液を80mL加え、室温で60分間、超音波振動を加えながら、脂溶性物質の抽出を行った。
【0088】
定量は、液体クロマトグラフ法により行い、脂溶性物質標準溶液のピーク面積から得た検量線を用いて、抽出液の脂溶性物質量を求めた。具体的には、高速液体クロマトグラフ装置(ポンプ:日本分光PU−1580、検出器:島津RID−6A、オートインジェクター:島津SIL−6B、データ処理:東ソーGPC−8020、カラムオーブン:GL Sciences556)に、カラム(Shodex Asahipak社製 ODP−506E packed column for HPLC)を取り付け、カラム温度40℃において、移動相である高速液体クロマトグラフィー用メタノールを流量1mL/minで通液し、UV検出器で波長295nmにおける吸収ピークの面積から脂溶性物質濃度を求めた。抽出効率を100%として、中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量(mg/m
2)を求めた。
【0089】
中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量とは、中空糸膜の表面から抽出された脂溶性物質の含有量(mg/m
2)である。なお、滅菌処理により部分酸化した脂溶性物質も中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質量に含めた。このため、部分酸化した脂溶性物質量を定めるべく、予め検量線作成に用いる脂溶性物質を空気中で50kGyの放射線に当て、部分酸化した脂溶性物質の吸収ピークを予め定めておき、面積計算に用いるピーク群に含め、加算した。
【0090】
中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量(mg/m
2)を、下記表1に示した。なお、表1中、中空糸膜の表面に含有されている脂溶性物質の質量は、「VE含有量」と表記した。
【0091】
<中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量に対する中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量の比率>
上記のようにして測定された、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量及び中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量から、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質の含有量に対する中空糸膜の表面に存在する脂溶性物質の含有量の比率を算出した。なお、表1中、「膜表面VEの割合(%)」と表記した。
【0092】
<β2MGのクリアランス値>
注射用水1Lにクエン酸三ナトリウム二水和物30g、ブドウ糖23.2g、クエン酸一水和物3.58g、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを溶解して抗凝固剤(CPD)を作成した。牛新鮮血5LにCPDを614mL添加して抗凝固化牛血液を得た。得られた血液を3500rpm、20分間遠心して血漿を分離した。得られた血漿は生理食塩水で希釈し総蛋白濃度を6.5±0.5g/dLに調整した。さらにβ2MG(栄研化学)を1Lあたり1mg添加し、血液側試験液とした。別途純水20Lに塩化ナトリウム121.54g、塩化カリウム2.98g、塩化マグネシウム8.14g、酢酸ナトリウム9.83g、ブドウ糖10gを溶解して透析側試験液を作成した。血液側試験液及び透析液側試験液のいずれも37±1℃に保温して試験に供した。
【0093】
膜面積1.5m
2の血液浄化器を
図2に示す「閉鎖循環回路」にセットし、血液浄化器の血液側入口流量(QBi)を200mL/minに、血液出口側流量(QBo)を185mL/minに、濾過流量(QF)を15mL/minに、それぞれ調整し、1時間循環した。1時間後に
図1に示す「シングル回路」にセットし直し、血液浄化器の血液側入口流量(QBi)を200mL/min、血液出口側流量(QBo)を185mL/min、透析液入口流量(QDi)を500mL/minに、それぞれ調整した。なお、血液ポンプはWATOSON社製MARLOW−520Sを、透析装置は日機装社製DBG−03を用いた。運転7分後に血液供給液、血液側試験液の出口及び透析液側試験液の出口からそれぞれ液をサンプリングした。それぞれのβ2MG濃度CBi、CBo、CDoはLZテスト‘栄研’β2−M試薬(栄研化学社製)を用いて、全自動分析装置BM6050(日本電子株式会社製)にて、定量した。クリアランス(CL)は上記の数式(1)により計算した。
【0094】
<アルブミン漏出量>
上記の抗凝固化牛血液を用い、牛血漿あるいは生理食塩水で希釈し、ヘマトクリットを35±2% 、総蛋白濃度6.5±0.5g/dLに調製した。該血液を血液浄化器の血液流路に200mL/minで循環させながら、市販透析液(扶桑薬品工業製、キンダリー透析液AF2号)を血液浄化器の血液流路に500mL/min、ワンパスで送液し、除水を6ml/min/m
2で行いながら透析を実施した。なお、アルブミン漏出量全積算値(=アルブミン漏出量4時間積算値)、アルブミン漏出量1時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率、及びアルブミン漏出量4時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率の3項目の測定のため、1条件においてアルブミン漏出量を(1)5分積算時点、(2)1時間積算時点、(3)4時間積算時点の3回測定する。透析液の送液は、日機装社製DBG−03を用いた。溶血を防止する目的で血液浄化器は予め生理食塩水で十分に置換しておく。牛血液循環開始と同時に透析液送液、除水を開始し、除水液のサンプリングを開始した。除水液のみのサンプリングが難しい場合は、透析廃液すべてを集めてもよい。除水液、又は透析廃液を循環開始より(1)0〜5分間、(2)5分〜1時間、(3)1〜4時間の間サンプリングを行い、それぞれ試験液(1)、試験液(2)、試験液(3)とした。各試験液をよく混和し、試験液中のアルブミン濃度(単位:g/mL)を、イアトロU−ALB(TIA)試薬(三菱化学メディエンス(株)製)を用いて、自動分析装置Biolis24i(東京貿易メディカルシステム株式会社)にて定量した。アルブミン漏出量全積算値(=アルブミン漏出量4時間積算値)、アルブミン漏出量1時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率、及びアルブミン漏出量4時間積算値に対するアルブミン漏出量5分間積算値の比率は試験液(1)〜(3)の濃度と除水液量(単位:mL)から以下の数式(11)、数式(12)、数式(13)、数式(14)、及び数式(15)により算出した。
【0095】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【0096】
アルブミン漏出量の全漏出量のばらつきを定量化するために10本のモジュールについて全漏出量を測定し、測定値のCV値(=(測定値の標準偏差)÷(測定値の平均値))を算出した。
【0097】
<成分Aの含有量の測定>
中空糸膜型の血液浄化器内の、炭素数1〜4のケトン及び/又はアルコール(以下、「成分A」という)の、中空糸膜1gあたりの含有量を、以下の方法により測定した。
【0098】
[水で充填された血液浄化器の場合]
血液浄化器を解体し、中空糸膜を取り出し、市販の遠心分離機を用いて3500rpmで10分間遠心分離して水分を除去した。水分を除去した中空糸膜のうち0.25gを秤取した(この質量を「w1(g)」とした)。25gのN−メチル−2−ピロリドンを加えて溶解した後、ガスクロマトグラフ(GC)により成分A、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランの定量を行った。該当する成分Aのピーク面積から得た検量線を用いて、回収液中の成分A、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランの濃度x(%)を求めた。
【0099】
具体的には、ガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC−2014/GC14B)にオートインジェクター(AOC−20i/AOC−17)を接続し、FID検出器(水素炎イオン化型検出器)により得られた吸収ピークから算出した。中空糸膜1gあたりの成分Aの含有量(「D(g/g中空糸膜)」)を、以下の数式(8)〜(9)に数値w1、xを代入して算出した。なお、表1においては「μg/g中空糸膜」に換算してあり、「mg/gHF」と表記している。
【0100】
【数16】
【数17】
【0101】
[ドライ血液浄化器の場合]
中空糸膜型血液浄化器の解体を行って、中空糸膜束を取り出した。塩化カルシウム乾燥剤としたデシケーター中で恒量となるまで乾燥を行い、この質量を精秤した(「w3(g)」)後、N−メチル−2−ピロリドン(「w4(g)」とする)を加え、攪拌し、溶解した後、上記方法で成分Aの濃度y(w/w%)を算出した。続いて、w3とyを以下の数式(16)に代入して中空糸膜1gあたりの成分Aの含有量を算出した。
【数18】
【0102】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイ社製P−1700)17.5重量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K90)3.5重量%を、N,N−ジメチルアセトアミド79.0重量%に溶解して均一な溶液とした。ここで、製膜原液中のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの混和比率は20.0重量%であった。この製膜原液を60℃に保ち、N,N−ジメチルアセトアミド58.1重量%と水41.9重量%との混合溶液からなる内部液とともに、2重環状紡口から吐出させ、0.96mのエアーギャップを通過させて75℃の水からなる凝固浴へ浸漬し、80m/分にて巻き取った。巻き取った糸束を切断後、束の切断面上方から80℃の熱水シャワーを2時間かけて洗浄することにより膜中の残溶剤を除去し、該膜をさらに乾燥することにより含水量が1%未満の乾燥膜を得た。さらに、該乾燥膜を、液体の導入及び導出用の2本のノズルを有する筒状容器に充填して両端部をウレタン樹脂で包埋後、硬化したウレタン部分を切断して中空糸膜が開口した端部に加工した。この両端部に血液導入(導出)用のノズルを有するヘッダーキャップを装填し、中空糸膜面積が1.5m
2の血液浄化装置の形状に組み上げた。
【0103】
次に、イソプロパノール57重量%の水溶液に脂溶性物質としてα−トコフェロール(和光純薬工業(株)製 特級)を0.45重量%溶解した被覆溶液を、25℃の室温にて血液浄化装置の血液導入ノズルから中空糸膜の内腔部に52秒通液して脂溶性物質を接触させた。さらにエアフラッシュして内腔部の残液を除去した後、イソプロパノール蒸気を吹き込んだ24℃のイソプロパノール雰囲気の乾燥空気を30分間通気して溶媒を乾燥除去することにより、脂溶性物質を被覆により固定化した。湿潤化工程として、滅菌保護剤であるピロ亜硫酸ナトリウムを0.06%含み、さらにpH調整のための炭酸ナトリウムを0.03%含む水溶液を血液浄化装置の血液側流路及び濾液側流路に充填し、各ノズルを密栓した状態でγ線を25kGy照射滅菌することにより、本発明の血液浄化装置を得た。
【0104】
得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分Aの含有量は2000μgであった。
【0105】
〔実施例2〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを57.1重量%、被覆溶液の脂溶性物質の濃度を0.15質量%とし、エタノール蒸気を乾燥空気に吹き込んだ以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、20.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、エタノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0106】
〔実施例3〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを59.5重量%、被覆溶液の脂溶性物質の濃度を0.90質量%とし、アセトン蒸気を乾燥空気に吹き込んだ以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、200.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、アセトンであった)の含有量は2000μgであった。
【0107】
〔実施例4〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを55.0重量%、化学式(1)に示すポリスルホンの代わりに化学式(2)に示すポリエーテルスルホン(住友化学社製4800P)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0108】
〔実施例5〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを55.5重量%とした以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは65mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0109】
〔実施例6〕
脂溶性物質被覆溶液を中空糸膜の内腔部に40℃温度で通液及び乾燥した以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は45質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は10μgであった。
【0110】
〔実施例7〕
脂溶性物質被覆溶液を中空糸膜の内腔部に20℃温度で通液及び乾燥した以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は90質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は3000μgであった。
【0111】
〔比較例1〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを55.5重量%、脂溶性物質被覆工程及び成分Aの固定化工程を有しない以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質含有量を測定した結果、0mg/m
2、中空糸膜全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は0質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分Aの含有量は0μgであった。
【0112】
〔比較例2〕
内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを48.0重量%とした以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは45mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0113】
〔比較例3〕
脂溶性物質被覆工程を行わない以外は、比較例2と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は0質量%、β2MGのクリアランスは45mL/min、中空糸膜1g中の成分Aの含有量は0μgであった。
【0114】
〔比較例4〕
ポリエーテルスルホン18.0重量%、ポリビニルピロリドン3.0重量%を、N,N−ジメチルアセトアミド74.5重量%、水4.5重量%に溶解して均一な溶液とし、内部液のN,N−ジメチルアセトアミドを46.0重量%とし、脂溶性物質被覆工程に用いる被覆溶液をα−トコフェロールを含まないイソプロパノール57重量%の水溶液にて行った以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質含有量を測定した結果、0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は0質量%、β2MGのクリアランスは60mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0115】
〔比較例5〕
脂溶性物質被覆溶液を中空糸膜の内腔部に55℃温度で通液及び乾燥した以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質の含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は30質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は2000μgであった。
【0116】
〔比較例6〕
内腔部に存在する被覆溶液の残液を除去した後、乾燥空気に成分Aの蒸気を吹き込まず、乾燥温度を80℃とした以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器内の中空糸膜の脂溶性物質含有量を測定した結果、60.0mg/m
2、中空糸膜の全体に存在する脂溶性物質に対する内表面に存在する脂溶性物質の割合は70質量%、β2MGのクリアランスは70mL/min、中空糸膜1g中の成分A(ここでは、イソプロパノールであった)の含有量は1μgであった。
【0117】
〔比較例7〕
内腔部に存在する被覆溶液の残液を除去した後、乾燥空気をジエチルエーテル雰囲気とした以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器の中空糸膜の諸物性を測定しようと試みたが膜の液透過量が過少であり、測定できなかった。
【0118】
〔比較例8〕
内腔部に存在する被覆溶液の残液を除去した後、乾燥空気をテトラヒドロフラン雰囲気とした以外は実施例1と同様の方法により血液浄化器を得た。得られた血液浄化器の中空糸膜の諸物性を測定しようと試みたが膜の液透過量が過少であり、測定できなかった。
【0119】
上述した実施例及び比較例の血液浄化器について、4時間の血液浄化処理の全期間にわたるアルブミン漏出量、及び血液浄化処理開始から1時間後までのアルブミン漏出量(A)に対する血液浄化処理開始後5分間のアルブミン漏出量(B)の比(5分間漏出比率(B/A))、を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
実施例1と比較例1とを比較することにより、中空糸膜への脂溶性物質の含有が全期間にわたるアルブミン漏出を抑制し、さらに血液処理開始から5分間後までのアルブミン漏出の割合の抑制に効果を及ぼすことが分かった。
【0122】
また、実施例1と比較例5とを比較することにより、中空糸膜全体に存在する脂溶性物質に対する、中空糸膜表面に存在する脂溶性物質の質量割合が、アルブミンの全漏出量の抑制、及び5分間漏出比率の抑制に影響を及ぼすことが分かった。
【0123】
また、実施例1、5と比較例1、2、3とを比較することにより、β2MGのクリアランス値が65mL/min以上の領域において、脂溶性物質の含有によるアルブミンの全漏出量の抑制、及び5分間漏出比率の抑制に影響を及ぼすことが分かった。
【0124】
さらに、実施例1と4とを比較することにより、中空糸膜の材料がポリスルホン及びポリエーテルスルホンにおいても、同様に効果を示すことがわかった。