(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078660
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】GnRH誘導体の徐放性脂質初期製剤およびこれを含む薬剤学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/04 20060101AFI20170130BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20170130BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20170130BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20170130BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20170130BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20170130BHJP
A61P 5/28 20060101ALI20170130BHJP
A61P 5/32 20060101ALI20170130BHJP
A61P 15/16 20060101ALI20170130BHJP
A61P 15/18 20060101ALI20170130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20170130BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
A61K37/43
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/14
A61K47/28
A61K47/08
A61P5/28
A61P5/32
A61P15/16
A61P15/18
A61P35/00
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/12
A61K9/70 401
A61K9/10
A61K9/72
【請求項の数】22
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-550323(P2015-550323)
(86)(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公表番号】特表2016-504353(P2016-504353A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】KR2013012269
(87)【国際公開番号】WO2014104791
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0157583
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514052597
【氏名又は名称】チョン クン ダン ファーマシューティカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】ユン、サン フィル
(72)【発明者】
【氏名】コ、キ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ハ ナ
(72)【発明者】
【氏名】ベク、ヒェ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ウォン キュ
(72)【発明者】
【氏名】コ、ジン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、スン ブム
(72)【発明者】
【氏名】アン、スン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キ、ミン ヒョ
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−526934(JP,A)
【文献】
特表2007−510705(JP,A)
【文献】
特表2007−511525(JP,A)
【文献】
特表2003−520205(JP,A)
【文献】
特表平08−506584(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/165468(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−58
A61K 9/00−72
A61K 47/00−48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル, hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)と、
b)リン脂質(phospholipid)と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)と、
d)薬理学的活性物質としてのGnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体と、
を含み、
該液晶硬化剤が、トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである、
水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成する薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monolpalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項4】
前記リン脂質(phospholipid)は、飽和または不飽和された炭素数4〜30のホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)およびこれらの混合物の中から選択される請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項5】
前記リン脂質(phospholipid)は、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)である請求項4に記載の薬剤学的組成物。
【請求項6】
前記液晶硬化剤は、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項7】
前記GnRH誘導体は、GnRH作用剤(agonist)またはGnRH拮抗剤(antagonist)である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項8】
前記GnRH作用剤(agonist)は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、ナファレリン(nafarelin)、ブセレリン(buserelin)、ヒストレリン(histrelin)、デスロレリン(deslorelin)、メテレリン(meterelin)、ゴナドレリン(gonadrelin)、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項7に記載の薬剤学的組成物。
【請求項9】
前記GnRH拮抗剤(antagonist)は、デガレリクス(degarelix)、アバレリクス(abarelix)、ガニレリクス(ganirelix)、セトロレリクス(cetrorelix)、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項7に記載の薬剤学的組成物。
【請求項10】
前記GnRH誘導体は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、デガレリクス(degarlix)、アバレリクス(abarelix)、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項11】
前記GnRH誘導体は、ロイプロリド(leuprolide)またはこの薬剤学的に許容可能な塩である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項12】
性ホルモン依存性疾患の予防または治療用、または避妊剤として用いられる請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項13】
前記性ホルモン依存性疾患は、前立腺癌、乳房癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、早発思春期(precocious puberty)、多毛症、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症、不妊である請求項12に記載の薬剤学的組成物。
【請求項14】
a)およびb)の重量比が10:1〜1:10である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項15】
a)+b)およびc)の重量比が1000:1〜1:1である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項16】
a)+b)+c)およびd)重量比が10000:1〜1:1である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項17】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル、hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)9〜90重量%と、
b)リン脂質(phospholipid)9〜90重量%と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)0.1〜50重量%と、
d)生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone, GnRH)誘導体0.01〜50重量%と、
を含む請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項18】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル, hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)9〜64重量%と、
b)リン脂質(phospholipid)18〜76重量%と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)1〜36重量%のと、
d)ロイプロリド(leuprolide)またはこの薬剤学的に許容可能な塩0.1〜50重量%と、
を含む請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項19】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル, hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)9〜64重量%と、
b)リン脂質(phospholipid)18〜76重量%と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)1〜36重量%と、
d)ゴセレリン(goserelin)またはこの薬剤学的に許容可能な塩0.1〜50重量%と、
を含む請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項20】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル, hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)9〜64重量%と、
b)リン脂質(phospholipid)18〜76重量%と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)1〜36重量%と、
d)デガレリクス(degarelix)またはこの薬剤学的に許容可能な塩2〜50重量%と、
を含む請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項21】
前記薬剤学的組成物が、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤および貼付剤の中から選択される剤形である請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項22】
前記剤形が、注射剤である請求項21に記載の薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的活性物質としてGnRH誘導体を含む徐放性脂質初期製剤およびこれを含む薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性製剤(sustained−release formulation)は、単回の投与で薬理学的活性物質を持続的に放出することにより、反復投与により引き起こされる副作用を防止し、一定の時間または一定の期間以上薬理学的活性物質の有効濃度範囲を維持する製剤である。
【0003】
薬理学的活性物質の治療機序および物理化学的特性を考慮したとき、徐放性製剤の形態として設計されなければならない代表的な薬理学的活性物質としては、GnRH誘導体が挙げられる。
【0004】
生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin−releasing hormone;GnRH)または黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing Hormone Releasing Hormone;LHRH)は、視床下部の神経血管末端で合成される神経内分泌(neuroendocrine)ペプチドである。GnRHは、視床下部から分泌されて脳下垂体前葉性性線刺戟細胞(anterior pituitary gonadotroph cell)の膜の上にある特異的受容体に選択的に結合した後、黄体形成ホルモン(LH)およびろ胞刺激ホルモン(FSH)の生合成および分泌を刺激する。生成されたろ胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)は、男性および女性の生殖腺の性ステロイドの生成を調節する役割を果たす。このようなGnRHの生物学的な機能によって、GnRH誘導体は、前立腺癌、乳房癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、多毛症、早発思春期、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症または不妊などの性ホルモン依存性疾患の治療に用いられる。
【0005】
広く市販中の製品のうち、GnRH誘導体を徐放化させた製品としては、酢酸ロイプロリド(leuprolid acetate)を薬理学的活性物質として含むLupron(R) Depotが挙げられる。Lupron(R) Depotは、生分解性を有するPLGA[poly(lactic−co−glycolic acid)]微粒球を徐放基材として用いた筋肉および皮下内注射剤として広く用いられている。一般に、PLGA微粒球は、生体内で一定の期間留まりながら乳酸およびグリコール酸に分解されて封入された薬理学的活性物質を持続的に放出して徐放効果を示す(米国登録特許第5,480,656号)。しかしながら、PLGA微粒球の製造工程は複雑であり、難解であるうえ、薬理学的活性物質の封入効率も顕著に低いという欠点を有している。また、PLGA微粒子はろ過し難く、40℃以上の温度では溶融されるため、一般に無菌処理のために用いられる方法を適用することができないため高度の無菌状態の条件下で工程を行わなければならないという難しさがある。さらに、理想的な徐放出の様相を作るためには互いに異なる2種類以上の微粒球を製造して混合するという複雑な工程をさらに行わなければならないため(国際公開特許WO2005/074896号)、工程が非効率的であり、これにより、経済的なコストが高騰してしまう。なお、PLGA微粒球に起因する酢酸不純物および酸性分解物質は、炎症反応、細胞増殖率の減少などを起こし(K. Athanasiou, G. G. Niederauer, and C. M. Agrawal, Biomaterials, 17, 93 (1996))、10〜100μm程度の微粒球を水相溶液に懸濁させて筋肉および皮下に多量投与しなければならない製品の特性からみて、注射部位に疼痛または組織損傷を伴うという問題がある。
【0006】
PLGA微粒球徐放剤形の欠点を補うために紹介されたGnRH誘導体(leuprolide acetate)徐放注射剤としては、エリガード注(Eligard(R))が挙げられる。エリガード注は、保護されたカルボキシ末端基を有するpoly(DL−lactide−co−glycolide)およびGnRH誘導体(leuprolide acetate)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて用いる皮下注射剤として広く市販されている。エリガード注は、生分解性高分子を極性非陽性磁性溶液に溶解させて流動性組成物を製造した後に皮下投与することにより、固体PLGA微粒球剤形が有する欠点の一部を改善した(米国登録特許第6,773,714号)。しかしながら、前記製品は完全なプレフィルド型注射装置を提供しないため使い勝手が悪く、混合されて製造された溶液上における薬物安定性が低いという欠点を有している。前記製品が提供するキットは、2つの連結可能な注射器と、混合、製造および注射のための装置と、によって構成されている。最終的な混合溶液を製造するに当たって、細部的には約10段階以上の複雑な過程が必要であり、30分以内に製造を終えて投与しなければならないという難点がある。また、前記製品は、保管条件からみて、別途の冷蔵保管装置を必要とし、最終的な混合溶液を冷蔵保管しない場合に5日以上用いることができないという欠点がある。さらに、前記剤形は、PLGA剤形が一般的に有する欠点である高い初期薬物放出現象を改善することができず、むしろPLGA微粒子剤形であるLupron(R) Depotよりも高い初期薬物濃度を示した(米国登録特許第6,773,714号)。薬物機能の範囲を大幅に上回る初期薬物濃度は機能的にも毒性学的にも好ましくない。特に、GnRH誘導体は、投与の初期には性ホルモンの分泌が一時的に増加していて一定の時点が経過してから下向きに調節される機序であることを考慮するとき、過度な初期薬物放出は必ず止揚すべき要素である。
【0007】
このようなPLGA剤形の問題点を克服するための一つの代案として、国際公開特許第WO2005/117830号は、少なくとも一つの中性ジアシル脂質および/またはトコフェロール、少なくとも一つのリン脂質、および少なくとも一つの生体適合性、酸素含有、低粘度の有機溶媒を含む初期製剤を開示しており、国際公開特許第WO2006/075125号は、少なくとも一つのジアシルグリセリド、少なくとも一つのホスファチジルコリン、少なくとも一つの酸素含有有機溶媒、および少なくとも一つのGnRH誘導体を含む初期製剤を開示している。これらの製剤はいずれも、高分子システムの乳酸またはグリコール酸分解産物を生成しないため注射部位の疼痛や炎症を伴わず、薬理学的活性物質を生体内(in vivo)で約4週間持続的に放出した。しかしながら、前記製剤組成物の核心的な構成成分であるジアシル脂質は、一般に、医薬品の賦形剤として用いられず、安全性が十分に確保されていない物質であり、一部の薬理学的活性物質の活性低下を引き起こす有機溶媒を使用しなければならないという問題がある(H. Ljusberg−Wahre, F. S. Nielse, 298, 328−332 (2005); H. Sah, Y. bahl, Journal of Controlled Release 106, 51−61(2005))。
【0008】
そこで、本発明者らは、a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)と、b)リン脂質(phospholipid)およびc)液晶硬化剤を含む徐放性脂質初期製剤およびこれを含む薬剤学的組成物発明を完成し(大韓民国出願第10−2012−0093677号)、前記発明による徐放性脂質初期製剤は、安全性および生分解性が既存の初期製剤に比べて同等であるか、あるいは、既存の初期製剤よりも卓越しており、薬理学的活性物質を含む薬剤学的組成物は、薬物を徐放することが確認された。
【0009】
さらに、本発明者らは、鋭意研究を重ねて、前記徐放性脂質初期製剤に薬理学的活性物質としてGnRH誘導体を含む薬剤学的組成物発明を完成した。前記薬剤学的組成物は、薬理学的活性物質として選択されたGnRH誘導体の徐放性を提供することができる。
【0010】
以下、本発明に関連する先行技術を検討する。
【0011】
米国登録特許第7,731,947号は、インターフェロン、スクロース、メチオニンおよびクエン酸緩衝液からなる固体粒子が安息香酸ベンジルなどの有機溶媒に分散した組成物を開示しており、適用可能な薬物としてGnRH誘導体が挙げられると説明している。また、一部の実施形態では、ホスファチジルコリンをビタミンE(トコフェロール)と共に有機溶媒に溶解させて固体粒子の分散液として使用することができることを説明している。ところが、この特許の組成物は、液晶(liquid crystal)が形成されないうえ、これらを固体粒子分散用途に使用するという点で、本発明とは異なる。
【0012】
米国登録特許第7,871,642号は、リン脂質、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤、トリグリセリドおよびエタノールの混合物を水に分散させ、ホルモン製剤を含む薬理学的活性物質を伝達する分散体を製造する方法を開示しており、ここで、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤の一つとしてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート, polysorbate)とポリオキシエチレンビタミンE誘導体が使用できることを説明している。ところが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとポリオキシエチレンビタミンE誘導体は、ソルビタン脂肪酸エステルとビタミンEのそれぞれに親水性ポリマーとしてのポリオキシエチレンが結合した物質であって、元来のソルビタン脂肪酸エステルおよびビタミンEと構造が全く異なり、ポリオキシエチレンの特性を用いた親水性界面活性剤として使用される物質であるという点で、本発明の構成成分とは異なる。
【0013】
米国登録特許第5,888,533号は、インプラントを形成する流体組成物であって、非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質と、この物質を少なくとも部分的に溶解させ、水または生体液に混和または分散可能な溶媒とからなり、人体への適用の際に該溶媒が生体液に拡散しながら抜け出て非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質が凝集または沈殿することによりインプラントが形成されてロイプロリドを含む薬理学的活性物質の徐放性を提供する組成物を開示している。ここで、非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質として、ステロール、コレステリルエステル、脂肪酸、脂肪酸グリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪アルコール、脂肪アルコールと脂肪酸のエステル結合物、脂肪酸の脱水物、リン脂質、ラノリン、ラノリンアルコールなどを使用することができると説明し、溶媒としてエタノールなどが挙げられると説明している。ところが、前記特許は、液晶を形成することができないうえ、単なる凝集または沈殿によってインプラントを形成する組成物であるという点、および多量の有機溶媒を必須的に使用しなければならないという点で、本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開特許公報WO2005/074896号
【特許文献2】国際公開特許公報WO2005/117830号
【特許文献3】国際公開特許公報WO2006/075125号
【特許文献4】米国登録特許公報第5,480,656号
【特許文献5】米国登録特許公報第6,773,714号
【特許文献6】米国登録特許公報第7,731,947号
【特許文献7】米国登録特許公報第7,871,642号
【特許文献8】米国登録特許公報第5, 888,533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、極性頭基に−OH(ヒドロキシル基)が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステルを組成物として安全性を大幅に向上させ、水性流体の不在下で液相として存在するため投薬形態の医薬品製剤が適用し易く、水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成して生体内で薬理学的活性物質として用いられたGnRH誘導体の徐放性を増加させる薬剤学的組成物を提供するところにある。
【0016】
本発明の他の目的は、液相のままで注射可能であるため既存の徐放製剤が克服できなかった注射時の疼痛、炎症および高い初期放出濃度などを改善することのできる薬剤学的組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)と、b)リン脂質と(phospholipid)、c)液晶硬化剤およびd)薬理学的活性物質としてのGnRH誘導体を含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成する薬剤学的組成物を提供する。
【0018】
以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0019】
a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid estser)
【0020】
本発明の液晶形成剤であるソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、極性頭基に−OH(ヒドロキシル, hydroxyl)が2つ以上存在する下記の[化学式1]の化合物を意味し、中でも、ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、R
1=R
2=OH、R
3=R、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、R
1=OH、R
2=R
3=R、ここで、Rは、炭素数が4〜30であり、二重結合を1つ以上含むアルキルエステル基(alkyl ester group)を意味する。
【0021】
【化1】
【0022】
これは、従来の技術において、液晶化現象が、下記の[化学式2]に示すオレイルグリセラート(oleyl glycerate;OG)、フィタニルグリセラート(phytanyl glycerate;PG)、モノオレイン酸グリセリン(glycerine monooleate;GMO)、ジオレイン酸グリセリン(glycerine dioleate;GDO)によって特異的に引き起こされると知られているところとは異なる。すなわち、従来より知られている液晶を形成する物質の構造的な共通点は、いずれもグリセリン(glycerine)またはグリセリン酸(glyceric acid)からなる極性頭部(polar head)を有し、ここに脂肪アルコールまたは脂肪酸形態に由来する非極性テール(nonpolar tail)が結合した構造を有する。
【0023】
【化2】
【0024】
しかしながら、従来の液晶形成物質は、それぞれが有する次のような欠点によって医薬品の開発に適用し難い。オレイルグリセラート(OG)およびフィタニルグリセラート(PG)は液晶が上手に形成されるが、相対的に毒性が高いため医薬品の賦形剤として用いられておらず、逆に、モノオレイン酸グリセリンは、医薬品の賦形剤として使用可能であるが、液晶形成能が低いため医薬品に求められる徐放性の液晶を形成することができないという欠点がある。
【0025】
また、上述した国際公開特許WO2005/117830号のジオレイン酸グリセリンは、ジアシル基を有するグリセリドの形態であり、グリセリンを極性頭部に用いるが、一般に、医薬品の賦形剤として用いられず、安全性が十分に確保されてない物質であるという問題を有している。
【0026】
本発明者らは、既存のグリセリンやグリセリン酸誘導体とは異なり、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルによって形成される液晶が活性物質の徐放化に非常に有利であるだけではなく、既存の液晶形成物質と比較して安全性に優れているため既存の技術の欠点を克服し、医薬品の開発に活用可能であるということを見出した。医薬品組成物として用いられるためには安全性が確保されなければならず、しかも、生分解性が必須要素である。さらに、生体内に注入されて徐放性を示す物質の場合、生分解性は非常に重要な要素である。既存の徐放型注射剤として用いられるPLGAも、1週間徐放効果を示す場合、理想的には1週間後には注入されたPLGAが生体内で分解されて消失されることが好ましいが、実際には徐放機能を終了した後にも1ヶ月から数ヶ月に至るまで分解されずに残存するという問題がある。よって、徐放性に優れており、安全性が確保される他、生分解性が卓越している本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、産業的にも非常に高い価値を有する新規な液晶形成物質であることが明らかである。
【0027】
具体的に、本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、植物性オイル(たとえば、ヤシ油、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、菜種油、トウモロコシ油、胡麻油、綿実油、大豆油、ひまわり油、 紅花油、亜麻仁油など)、動物性脂肪および油(たとえば、乳脂肪、豚脂および牛脂など)だけでなく、鯨油および魚油から得られる脂肪酸に由来するソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)、ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0028】
前記ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、ソルビタンに1つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0029】
前記ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)は、ソルビタンに平均1.5個の脂肪酸基がエステル結合したものであり、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0030】
前記ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、ソルビタンに2つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)およびこれらの混合物の中から選択される。
【0031】
本発明に係るソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)およびこれらの混合物の中から選択して用いることが好ましい。
【0032】
b)リン脂質
【0033】
本発明のリン脂質(phospholipid)は、従来よりリポソーム(liposome)などの層状構造(lamellar structure)の製造に必須的に使用されてきた物質であるが、独自的には非層状構造(non−lamellar phase structure)の液晶を形成することはできない。ところが、本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルによって触発される非層状構造に参加して液晶を安定化させる役割を果たす。
【0034】
本発明のリン脂質は、植物または動物に由来する形態であり、具体的に、飽和または不飽和された炭素数4〜30のアルキルエステル基を有し、極性頭部の構造に応じてホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0035】
また、リン脂質は、豆や卵などの植物または動物に由来する形態であり、リン脂質に結合されるアルキルエステル基としては、モノおよびジパルミトイル(mono- and dipalmitoyl)、モノおよびジミリストイル(mono- and dimyristoyl)、モノおよびジラウリル(mono- and dilauryl)、モノおよびジステアリル(mono- and distearyl)などの飽和脂肪酸エステルやモノおよびジリノレイル(mono- and dilinoleyl)、モノおよびジオレイル(mono- and dioleyl)、モノおよびジパルミトレイル(mono- and dipalmitoleyl)、モノおよびジミリストレイル(mono- and dimyristoleyl)などの不飽和脂肪酸エステルが挙げられ、飽和脂肪酸エステルおよび不飽和脂肪酸エステルが共存する形態であってもよい。
【0036】
c)液晶硬化剤
【0037】
本発明の液晶硬化剤(liquid crystal hardener)は、独自的には液晶形成剤のように非層状構造を形成することができないうえ、リン脂質のようにリポソームなどの層状構造を形成することもできない。ところが、本発明の液晶硬化剤は、液晶形成剤によって触発される非層状構造に参加して非層状構造の曲率(curvature、ねじれ)を高めて油水(oil、water)の規則的な混在程度をさらに高める結果をもたらす。このような液晶硬化剤としての機能を持つためには、分子構造の内部に極性が非常に制限的に存在すると同時に、非極性を示す部位の体積が大きい(bulky)ことが求められる。
【0038】
ところが、本発明の液晶硬化剤は、実際には、非常に特異的に、直接かつ反復的な実験によってのみ、人体に投与可能で生体に適した物質が選択され、その結果、本発明の組成物に適した液晶硬化剤は、それぞれが異なる分子構造を持っており、1つの構造で説明することはできなかった。但し、本発明の組成物に適した液晶硬化剤を解明した後、これらの構造を観察してみるとき、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、疎水性部分は全体炭素数15〜40のバルキーなトリアシル基または炭素環構造を有する物質であることを確認することができた。好ましくは、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、弱い極性部分として水酸化基およびエステル構造を最大1個有し、相対的に疎水性部分は全体炭素数20〜40のバルキー(bulky)なトリアシル基または炭素環構造を有する物質である。よって、具体的に、本発明の液晶硬化剤は、トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)およびこれらの混合物の中から1種以上選択されるが、これに限定されるものではない。好ましくは、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0039】
d)GnRH誘導体
【0040】
GnRH誘導体(GnRH analogues)は、GnRHと構造的には略同様であるため、体内で他の方式で働く。一般に、GnRHは、拍動性分泌を通じて体内性ステロイドの生成を誘導する生物学的機能を行うが、GnRH誘導体は、体内性ステロイドの生成を一定の期間強力に抑えるために用いられる。
【0041】
このようなGnRH誘導体は、作用する機序に応じて、作用剤(agonist)または拮抗剤(antagonist)に分類される。治療容量のGnRH作用剤を体内に投与すれば、初期にはGnRH作用剤が脳下垂体ゴナドトロピンのGnRH受容体に結合しながらろ胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を促す。しかしながら、GnRH作用剤の持続的な投与はゴナドトロピンを枯渇させる一方で、GnRH受容体を下向きに調節することにより、ろ胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を抑える機能を有する。このようなGnRHの生物学的機能によって、GnRH誘導体は、前立腺癌、乳房癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、多毛症、早発思春期(precocious puberty)、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症または不妊などの性ホルモン依存性疾患の予防または治療に用いられ、避妊剤としても用いられる。
【0042】
本発明の薬理学的活性物質として使用可能なGnRH作用剤(agonist)は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、ナファレリン(nafarelin)、ブセレリン(buserelin)、ヒストレリン(histrelin)、デスロレリン(deslorelin)、メテレリン(meterelin)、ゴナドレリン(gonadrelin)またはこれらの薬理学的に許容可能な塩の中から選択される。好ましくは、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)およびこれらの薬理学的に許容可能な塩の中から1種以上の薬理学的活性物質が選択される。
【0043】
一方、GnRH拮抗剤(antagonist)は、脳下垂体ゴナドトロピンのGnRH受容体に競争的に反応して体内GnRHが結合することを遮断することにより、ろ胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を抑える機能を有している。本発明の薬理学的活性物質として使用可能なGnRH拮抗剤(antagonist)は、デガレリクス(degarelix)、アバレリクス(abarelix)、ガニレリクス(ganirelix)、セトロレリクス(cetrorelix)およびこれらの薬理学的に許容可能な塩の中から選択される。好ましくは、デガレリクス(degarelix)およびこれらの薬理学的に許容可能な塩の中から1種以上の薬理学的活性物質が選択される。
【0044】
本発明の薬剤学的組成物が目的とする液晶に適したa)およびb)の重量比は10:1〜1:10であり、好ましくは、一般に、5:1〜1:5である。a)+b)およびc)の重量比は100:1〜1:1であり、好ましくは、50:1〜2:1である。上述の範囲内において、本発明で目的とする液晶による徐放性効果をよりさらに上手に発現することができ、割合を調節して徐放出様相を調節することができる。また、本発明の薬剤学的組成物において、薬理学的活性物質であるGnRH誘導体の徐放性を提供するのに適したa)+b)+c)およびd)重量比は10000:1〜1:1であり、好ましくは、1000:1〜1:1である。
【0045】
本発明の薬剤学的組成物は、a)9〜90重量%と、b)9〜90重量%と、c)0.1〜50重量%およびd)0.01〜50重量%を含むことが好ましい。
【0046】
本発明の具体例において、薬理学的活性物質がロイプロリド(leuprolide)である場合、a)9〜64重量%と、b)18〜76重量%と、c)1〜36重量%およびd)ロイプロリド(leuprolide)またはこの薬剤学的に許容可能な塩0.1〜50重量%を含むことがさらに好ましいが、本発明がこれに限定されることはない。
【0047】
また、本発明の具体例において、薬理学的活性物質がゴセレリン(goserelin)である場合、a)9〜64重量%と、b)18〜76重量%と、c)1〜36重量%およびd)ゴセレリン(goserelin)またはこの薬剤学的に許容可能な塩0.1〜50重量%を含むことがさらに好ましいが、本発明がこれに限定されることはない。
【0048】
さらに、本発明の具体例において、薬理学的活性物質がデガレリクス(degarelix)である場合、a)9〜64重量%と、b)18〜76重量%と、c)1〜36重量%およびd)デガレリクス(degarelix)またはこの薬剤学的に許容可能な塩2〜50重量%を含むことがさらに好ましいが、本発明がこれに限定されることはない。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物は、前記含量でa)〜d)成分を含むときに、それぞれの薬理学的活性物質の徐放性放出効果に優れている。
【0050】
本発明において、水性流体は、水を含んで生体粘膜液、涙、汗、唾、胃腸管液、血管外液、細胞外液、間質液(interstitial fluid)または血漿などの体液を意味する。よって、水溶性体液が外界の環境を形成する身体表面、部位または腔(たとえば、身体内)と接触するとき、本発明の組成物は液相から転換されて半固形の外観を示す液晶を形成する特徴を持つ。このように本発明の組成物は人体への適用前には脂質液相であるが、実際に人体への適用の際に徐放性を示す液晶に転換される。
【0051】
本発明において、「液晶」は非常に制限された条件で油水(oil, water)が規則的に混在し、配列されて内相と外相が区分できない状態の非層状構造を有し、このような非層状構造は特異的に油水の規則的な配列により液相(liquid phase)と固相(solid phase)の中間相(mesophase)の性質を有する。
【0052】
これは、既存に薬学的剤形の設計に広く使用されてきたミセル(micelle)、エマルジョン(emulsion)、マイクロエマルジョン(microemulsion)、リポソーム(liposome)、二重脂質膜(lipid bilayer)などはいずれも層状構造の特徴を共通的に有し、このような層状構造は水中油(o/w、oil in water)または油中水(w/o、water in oil)の形で内相(inner phase)と外相(out phase)が区分されることにより、形成される構造が異なる。
【0053】
本発明において、「液晶」を示す液晶化現象は、上述したような初期製剤から水性油体に晒されることにより、非層状構造(non-lamellar phase structure)の液晶(liquid crystal)が形成される現象を意味する。
【0054】
本発明の薬剤学的組成物は、a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステルの中から選択された1種以上、b)リン脂質の中から選択された1種以上、c)液晶硬化剤の中から選択された1種以上およびd)GnRH誘導体の中から選択された1種以上を添加して室温で製造し、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造する。このとき、ホモジナイザーは、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、破砕ホモジナイザーなどの中から選択されて用いられる。
【0055】
本発明の薬剤学的組成物は、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成する。また、本発明の薬剤学的組成物は、注射、塗布、滴下、パッド、経口、噴霧などの中から選択される方法により人体に適用されることを特徴とする薬剤学的組成物であり、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤、貼付剤などに適用可能である。
【0056】
特に、注射剤の投与経路としては、皮下注射、筋肉注射のいずれの投与形態も採用可能であり、投与形態は、それぞれの薬理活性物質の特性により選択される。
【0057】
本発明の薬剤学的組成物は、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤、貼付剤の中から選択された剤形であることが好ましく、注射剤であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の初期製剤に薬理学的活性物質を室温で添加して製造し、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造するが、本発明がこれに限定されない。
【0059】
本発明の薬剤学的組成物の投与量は、使用された薬理学的活性物質の公知の投与量と同量であり、患者の疾患の種類、重症度、年齢、性別などに応じて異なり、薬理学的活性物質および薬剤の特性に応じて経口および非経口で投与可能である。
【0060】
本発明は、本発明の薬剤学的組成物を人間をはじめとする哺乳類に投与することにより、薬理学的活性物質を徐放性で放出してこの薬理効果を持続する方法および用途をさらに提供する。
【発明の効果】
【0061】
本発明の薬剤学的組成物は、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルを液晶形成剤として含んで安全性を顕著に向上させ、水性流体の不在下で液相として存在し且つ水性流体上である体内では速やかに液晶を形成するので、投薬し易く、既存の固形粒子状の徐放性製剤と比較して疼痛、炎症などの副反応を伴わず、薬理学的活性物質として選択されたGnRH誘導体の優れた徐放性効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】実施例2、実施例6、実施例9および実施例12の水性流体上における相変化挙動を示すものである。
【
図2】実施例2および実施例6の水性流体上における液晶構造を示すものである。
【
図3】実施例2および比較例1の薬理学的活性物質の生体内(in vivo)における放出挙動を示すものである。
【
図4】実施例6および比較例2の薬理学的活性物質の生体内(in vivo)における放出挙動を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、実施例および実験例によって本発明を具体的に説明する。但し、これらの実施例および実験例は本発明の例示に過ぎないものであり、本発明の範囲を限定するものでない。
【0064】
本発明における添加剤は、薬局方規格の賦形剤およびAldrich、Lipoid、Croda、Seppic社から購入した試薬を使用した。
【実施例】
【0065】
[実施例1〜12]本発明の薬剤学的組成物の製造
【0066】
下記[表1]に示す重量で、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)、リン脂質、液晶硬化剤、薬理学的活性物質を添加した。
【0067】
実施例1〜12では20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGenmodel125,Fisher)1,000〜3,000rpmの条件下で0.5〜3時間混合して均質化させた。その後、製造された脂質溶液を常温で放置して25℃の熱平衡状態にした後、ここに薬理学的活性物質として酢酸ロイプロリド (leuprolide acetate)、酢酸ゴセレリン (goserelin acetate)、酢酸デガレリクス (degarelix acetate)をそれぞれ添加してホモジナイザーで約5〜30分間約1,000〜3,000rpmの条件下で均質化させて溶液相の薬剤学的組成物を製造した。
【0068】
【表1】
【0069】
[比較例1および2]
【0070】
比較例1の製剤は、酢酸ロイプロリド(leuprolide acetate)を薬理学的活性成分として含むルプリンDPS注(CJ第一製糖製)3.75mgを使用した。
【0071】
比較例2の製剤は、酢酸ロイプロリド(leuprolide acetate)を薬理学的活性成分として含むルプリンDPS注(CJ第一製糖製)11.25mgを使用した。
【0072】
[実験例1]製造された薬剤学的組成物の薬理学的活性物質の含量の確認
【0073】
本発明の実施例に従って製造された薬剤学的組成物が公知の治療可能レベルの薬理学的活性物質を含んでいるか否かを確認するために、薬理学的活性物質として用いられた酢酸ロイプロリド(leuprolide acetate)の含量を確認した。酢酸ロイプロリドの含量はHPLCで定量化し、詳しくは、下記の通りである。
【0074】
酢酸ロイプロリド2.5mgを含む薬剤学的組成物の相当量(mg)を移動相(トリエチルアミン緩衝液:アセトニトリル:n−プロピルアルコール=85:9:6)に溶かし、10分間1500rpmで遠心分離して上澄液を取った後、0.2μmでろ過して検液を製造した。標準液は、酢酸ロイプロリド標準品を用いて検液の濃度と同様に製造した。上記の方法によって製造された検液および標準液を紫外部吸光光度計測定波長220nm、4.6×100mm、3μmのパッキングL1またはこれと略同様のカラム、流速1.0〜1.5mL/分、注入量20μLの条件下で分析して薬剤学的組成物のうち酢酸ロイプロリドの量を3回分析した平均値で定量化した([表2]参照)。
【0075】
【表2】
【0076】
[表2]に示すように、実施例1〜8の方法に従って製造された全ての薬剤学的組成物の含量は、基準含量(100%)に比べて±3%以内であって、非常に理想的な測定値を示した。
【0077】
[実験例2]水性流体上における液晶(liquid crystal)の確認
【0078】
本発明の実施例に従って製造された薬剤学的組成物が水性流体上で理想的な液晶(liquid crystal)を形成するか否かを確認した。液相の形態の実施例2、6, 9実施例6、実施例9および実施例12の組成物を注射器に充填して、2gのPBS(pH7.4)に注射した結果は、[
図1]の通りである。
【0079】
実施例1〜12の方法に従って製造された薬剤学的組成物は、水性流体の不在下で流動性を有する液相として存在する。この液相の徐放性脂質初期製剤を水性流体(PBS)上に注射すれば、前記全ての薬剤学的組成物は、水性流体上で球状の液晶を形成した。これより、本発明の薬剤学的組成物が液晶構造を形成するに当たって薬理学的活性物質であるGnRH誘導体は大きな影響を及ぼさないということを確認した。
【0080】
[実験例3]水性流体上における液晶(liquid crystal)の構造の確認
【0081】
本発明の実施例2および実施例6に従って製造された薬剤学的組成物が水性流体上で形成した液晶の結晶構造を偏光顕微鏡(Motic、BA 300 Pol)を用いて確認した[
図2]。
【0082】
実施例2および実施例6をスライドガラスに非常に薄く塗布した後、3次蒸留水が入れられているシャーレに4時間放置してスライドガラス上で液晶を形成した。気泡が入らないようにカバーガラスを覆った後、偏光顕微鏡(Motic、BA 300 Pol)を200倍率に固定した後に観察した。実施例2および実施例6の結晶構造を確認したところ、優れた徐放性が提供可能な典型的な形態であるヘキサゴナル構造であることを確認した[
図2]。
【0083】
上述した実験例1および実験例3の含量試験および液晶形成試験の結果を考慮して総合的に判断したとき、本発明の薬剤学的組成物は、分子量が大きく、相対的に親水傾向が高い薬理学的活性物質(ペプチド)を含んでいるとしても、水性流体上で物理化学的に非常に安定的な構造を有する理想的な液晶を形成することができるということを確認した。
【0084】
[実験例4]生体内(in vivo)における薬剤学的組成物の薬物動態(PK)プロフィルの確認
【0085】
次のような実験によって、生体内(in vivo)における本発明の組成物の薬物放出挙動を確認した。
【0086】
ロイプロリドの投与重量が12.5mg/kg(人間容量であり、約28日に相当する量)となるように使い捨て用注射器を用いて実施例2および実施例6の組成物を平均300gの9週齢のSDラット(雄性)6匹の背に皮下注射した。PLGA微粒子剤形の薬物動態プロフィル(pharmacokinetic profile)の比較のために、比較例1および比較例2の組成物をロイプロリドの投与重量が12.5mg/kg(人間容量であり、約28日に相当する量)となるように平均300gの9週齢のSDラット(雄性)6匹の背に皮下注射した。
【0087】
SDラットの血漿サンプルにおけるロイプロリドの濃度の薬物動態プロファイルをLC−MS/MS(液体クロマトグラフィ−質量分析器)を用いて28日間分析した。[
図3]および[
図4]の結果は、実験に供された6匹のマウスに対する平均値を記載したものであり、各図の2番目のグラフは、後半部のラットの薬物の血中濃度差を確認するためにログ変換して示したものである。
【0088】
比較例1および実施例2のSDラットに対する薬物動態プロファイルの試験結果は、[
図3]の通りである。比較例1は、現在酢酸ロイプロリドの1ヶ月剤形として広く用いられているルプリンDPS注(CJ)3.75mgであり、実施例2の対照薬として用いられた。実施例2は、比較例1と比較したとき、徐放性製剤が有するべき理想的な薬物動態プロファイルの挙動および優れた徐放性を示した。実施例2は、比較例1の初期薬物濃度155ng/mLを81ng/mLに約2倍以上減少させてPLGA微粒球剤形の一般的な欠点として広く知られている初期の急激な薬物放出の問題を画期的に改善した。また、投薬後に5日が経過した時点から不安定な薬物動態プロファイルの挙動を示す比較例1とは異なり、実施例2の場合に非常に安定的に酢酸ロイプロリドの有効血中濃度を維持した。
【0089】
比較例2および実施例6のSDラットに対する薬物動態プロファイルの試験結果は、[
図4]の通りである。比較例2は、現在酢酸ロイプロリドの3ヶ月剤形として広く用いられているルプリンDPS注(CJ)11.25mgであり、実施例6の対照薬として用いられた。実施例6は、比較例2と比較したとき、徐放性製剤が有するべき理想的な薬物動態プロファイルの挙動をさらに確実に示し、特に、優れた長期徐放性を示した。比較例2は、比較例1に比べて約3倍以上高い初期薬物濃度を示し、これは、製品間の薬の容量差をそのまま反映した結果であると認められる。実施例6の場合にも、実施例2と比較したとき、薬の容量は3倍増加したが、比較例2における初期の薬物濃度の急激な増加は観察されず、比較例2における初期の薬物濃度484ng/mLを114ng/mLに約4倍以上画期的に減少させた。また、比較例2は、投薬後に10日が経過した時点から酢酸ロイプロリドの血中濃度が比較例1の中後半の薬物血中濃度に比べて顕著に低く、不安定な血中濃度曲線を示した。これに対し、実施例6は、実施例2の安定的な中後半の血中濃度曲線と略同様の形態を示して、薬の容量が3倍増加した製剤においても優れた長期徐放性は同様に維持されることを確認した。