特許第6078705号(P6078705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6078705筋疲労評価装置、システム、方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078705
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】筋疲労評価装置、システム、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20170206BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20170206BHJP
   A61B 5/15 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   A61B5/14 322
   A61B10/00 E
   A61B5/14ZDM
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-269288(P2011-269288)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-119001(P2013-119001A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】515087972
【氏名又は名称】株式会社イノフィス
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】村松 慶紀
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−125402(JP,A)
【文献】 特開平03−118035(JP,A)
【文献】 特開2004−298572(JP,A)
【文献】 特開2004−154481(JP,A)
【文献】 特開2010−246738(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/055815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算する演算手段と、
前記演算手段で演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価手段と、
を備えた筋疲労評価装置。
【請求項2】
前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度とを近赤外光を用いて計測した
請求項1記載の筋疲労評価装置。
【請求項3】
それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて生体の筋組織に照射する照射手段と、
前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算する演算手段と、
前記演算手段で演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価する評価手段と、
を備えた筋疲労評価装置。
【請求項4】
前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、
前記評価手段は、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の筋疲労評価装置。
【請求項5】
前記近赤外光を、波長が400nm〜2500nmの範囲内の互いに波長が異なる複数の近赤外光とした
請求項2又は3に記載の筋疲労評価装置。
【請求項6】
前記所定時間を、50秒〜100秒の範囲内とした
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の筋疲労評価装置。
【請求項7】
近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測する計測装置と、
前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測装置で計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価装置と、
を備えた筋疲労評価システム。
【請求項8】
前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、前記評価装置は、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する
請求項7記載の筋疲労評価システム。
【請求項9】
前記計測装置は、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射手段、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出手段、前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成手段、及び前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号とを送信する送信手段、を備え、
前記評価装置は、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号を受信する受信手段、前記受信手段で受信した前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後に推移を示す推移情報を生成する推移情報生成手段、前記推移情報生成手段で生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことを検知する状態推移検知手段、前記状態推移検知手段で前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記予め定められた時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または値の大きい信号の値の小さい信号に対する比を演算する演算手段、及び前記演算手段で演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断する疲労判断手段を備えた
請求項7記載の筋疲労評価システム。
【請求項10】
前記近赤外光を、波長が400nm〜2500nmの範囲内の互いに波長が異なる複数の近赤外光とした
請求項7乃至請求項9の何れか1項に記載の筋疲労評価システム。
【請求項11】
前記予め定められた時間を、50秒〜100秒の範囲内とした
請求項7乃至請求項10の何れか1項に記載の筋疲労評価システム。
【請求項12】
演算手段と評価手段とを備えた筋疲労評価装置における筋疲労評価方法であって、
前記演算手段が、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算する演算ステップと、
前記評価手段が、前記演算ステップで演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、
を含む筋疲労評価方法。
【請求項13】
前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度とを近赤外光を用いて計測した請求項12記載の筋疲労評価方法。
【請求項14】
照射手段と検出手段と信号生成手段と演算手段と評価手段とを備えた筋疲労評価装置における筋疲労評価方法であって、
前記照射手段が、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて生体の筋組織に照射する照射ステップと、
前記検出手段が、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出ステップと、
前記信号生成手段が、前記検出ステップで検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成ステップと、
前記演算手段が、前記信号生成ステップで生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算する演算ステップと、
前記評価手段が、前記演算ステップで演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、
を含む筋疲労評価方法。
【請求項15】
計測装置と評価装置とを備えた筋疲労評価システムにおける筋疲労評価方法であって、
前記計測装置が、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測する計測ステップと、
前記評価装置が、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測ステップで計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差を演算し、当該差に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、
を含む筋疲労評価方法。
【請求項16】
前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、前記評価ステップは、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する
請求項12乃至請求項14の何れか1項に記載の筋疲労評価方法。
【請求項17】
前記計測ステップは、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射ステップ、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出ステップ、前記検出ステップで検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成ステップ、及び前記信号生成ステップで生成された前記第1の信号と前記第2の信号とを送信する送信ステップ、を含み、
前記評価ステップは、前記送信ステップで生成された前記第1の信号と前記第2の信号を受信する受信ステップと、前記受信ステップで受信された前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後における推移を示す推移情報を生成する推移情報生成ステップ、前記推移情報生成ステップで生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことを検知する状態推移検知ステップ、前記状態推移検知ステップで前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記予め定められた時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または比を演算する演算ステップ、及び前記演算ステップで演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断する疲労判断ステップを含む
請求項15記載の筋疲労評価方法。
【請求項18】
コンピュータを、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の筋疲労評価装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外分光法(Near-infrared Spectroscopy、以下「NIRS法」と称す)を用いた筋疲労評価装置、システム、方法、及びプログラムに係り、特に、動作に伴う筋疲労状態の評価を効率的に行うのに好適な筋疲労評価装置、システム、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
NIRS法は、測定する対象に近赤外線を照射して、近赤外線の対象への吸光度の変化を測定し、この変化によって対象の成分分析を行う間接的な測定方法である。NIRS法の用途は広く、食品の成分分析や、宇宙の天体の組成分析にも使われ、特に医療分野において多く利用されている。
【0003】
医療分野の利用としては、医薬品の成分分析はもとより、近赤外線が皮膚に遮られないという特性を活かし、生体組織内における吸光度の変化を計測する非侵襲計測方法として種々の技術が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、NIRS法を疲労診断に適用する方法が提案されており、血液に赤外線を照射して当該赤外線が吸収される波長のパターンで、患者が慢性疲労症候群かどうかを判定する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2においては、NIRS法を採用した簡便な構成で、ユーザが痛みなく無意識のうちに疲労度を測定でき、ユーザに疲労状態を通知することが可能な腕時計型携帯端末などが開示されている。
【0006】
一方、局所的な筋疲労の評価については、例えば、特許文献3に記載のように、表面筋電図が利用されている。この表面筋電図による筋疲労評価は、表面筋電位の大きさによる筋使用量の評価と、高速フーリエ変換を用いて算出された筋電位のパワースペクトルの平均周波数変化に基づいている。
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示されている表面筋電位による局所的な筋疲労評価は、測定部に複数の筋肉組織が密集している場合に、浅層の筋肉の筋電位測定することは容易であるが、深層の筋肉に対しては筋電位を測定しがたい。したがって、例えば大腿部などの複数層の筋肉組織が浅層から深層にわたって存在する部位に対して筋疲労評価ができないおそれがあった。
【0008】
これに対して、特許文献4、特許文献5、及び非特許文献1においては、前記したNIRS法をこの局所的な筋疲労評価に適用する非侵襲計測技術も提案されている。すなわち、これらの文献には、生体組織内のヘモグロビン(Hb)が、酸素との結合状態により近赤外光の吸収特性が異なることを利用して、生体組織内のヘモグロビンの酸化状態と還元状態における吸光度の変化を計測することで非観血的に血中酸素動態を計測する、NIRS法による筋疲労評価技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2006/123611 A1
【特許文献2】特開2011−183005号公報
【特許文献3】特開2003−169782号公報
【特許文献4】特開2001−276005号公報
【特許文献5】特開2010−253141号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2003)「表面筋電図、筋音図および筋血液動態に及ぼす収縮強度と疲労の影響」千葉大学人間生活工学教育研究分野:吉野 智佳子
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4、特許文献5、及び非特許文献1に開示されているNIRS法による筋疲労評価では、人の動作中における酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの疲労による変化傾向の差異は明らかにされているが、動作の後の当該動作に伴う筋疲労の状態を定量的に評価することはできない、という問題点があった。
【0012】
例えば、スポーツ選手のトレーニングやリハビリテーションにおいては、過剰な負荷による筋疲労を抑えることが有効であり、そのためには、個々の選手別に、トレーニングやリハビリテーション等の運動に伴う当該運動の後の筋疲労の状態を定量的に評価し、その評価結果を当該選手のトレーニングやリハビリテーション等に反映させることが求められる。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行う筋疲労評価装置、システム、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の筋疲労評価装置は、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算する演算手段と、前記演算手段で演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価手段と、を備えている。
【0015】
このように、請求項1に記載の筋疲労評価装置によれば、演算手段により、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比が演算され、評価手段により、前記演算手段で演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0016】
このように、請求項1に記載の筋疲労評価装置によれば、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、演算した差または比に基づいて、生体の筋組織の疲労度を評価しているので、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0017】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度とを近赤外光を用いて計測するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0018】
一方、上記目的を達成するために、請求項3に記載の筋疲労評価装置は、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射手段と、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算する演算手段と、前記演算手段で演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価する評価手段と、を備えている。
【0019】
このように、請求項3に記載の筋疲労評価装置によれば、照射手段により、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源が発光されて前記生体の筋組織に照射され、検出手段により、前記筋組織からの反射光の光強度が検出され、信号生成手段により、前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号が生成され、演算手段により、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比が演算され、評価手段により、前記演算手段で演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0020】
このように、請求項3に記載の筋疲労評価装置によれば、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射し、前記筋組織からの反射光の光強度を検出すると、検出した前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成し、生成した前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算し、演算した差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0021】
なお、本発明は、請求項4に記載の発明のように、前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、前記評価手段は、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する。
【0022】
また、本発明は、請求項5に記載の発明のように、前記近赤外光を、波長が400nm〜2500nmの範囲内の互いに波長が異なる複数の近赤外光とした。
【0023】
また、本発明は、請求項6に記載の発明のように、前記所定時間を、50秒〜100秒の範囲内とした。
【0024】
一方、上記目的を達成するために、請求項7に記載の筋疲労評価システムは、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測する計測装置と、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測装置で計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価装置と、を備えている。
【0025】
このように、請求項7に記載の筋疲労評価システムによれば、計測装置により、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とが計測され、評価装置により、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測装置で計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比が演算され、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0026】
このように、請求項7に記載の筋疲労評価システムによれば、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測し、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0027】
なお、本発明は、請求項8に記載の発明のように、前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、前記評価装置は、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する。
【0028】
なお、本発明は、請求項9に記載の発明のように、前記計測装置は、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射手段、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出手段、前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成手段、及び前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号とを送信する送信手段、を備え、前記評価装置は、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号を受信する受信手段、前記受信手段で受信した前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後に推移を示す推移情報を生成する推移情報生成手段、前記推移情報生成手段で生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことを検知する状態推移検知手段、前記状態推移検知手段で前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記所定時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または値の大きい信号の値の小さい信号に対する比を演算する演算手段、及び前記演算手段で演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断する疲労判断手段を備えた構成とする。
【0029】
このように、請求項9に記載の筋疲労評価装置によれば、前記計測装置において、照射手段により、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源が発光されて前記生体の筋組織に照射され、検出手段により、前記筋組織からの反射光の光強度が検出され、信号生成手段により、前記検出手段で検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号が生成され、送信手段により、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号とが送信され、また、前記評価装置において、受信手段により、前記信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号が受信され、推移情報生成手段により、前記受信手段で受信された前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後に推移を示す推移情報が生成され、状態推移検知手段により、前記推移情報生成手段で生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことが検知され、演算手段により、前記状態推移検知手段で前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記所定時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または値の大きい信号の値の小さい信号に対する比が演算され、疲労判断手段により、前記演算手段で演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断される。
【0030】
このように、請求項9に記載の筋疲労評価装置によれば、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射し、前記筋組織からの反射光の光強度を検出し、検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成し、生成された前記第1の信号と前記第2の信号とを送信し、信号生成手段で生成された前記第1の信号と前記第2の信号を受信し、受信した前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後に推移を示す推移情報を生成し、生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことを検知し、前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記所定時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または値の大きい信号の値の小さい信号に対する比を演算し、演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0031】
また、本発明の筋疲労評価装置は、請求項10に記載の発明のように、前記近赤外光を、波長が400nm〜2500nmの範囲内の互いに波長が異なる複数の近赤外光とした。
【0032】
また、本発明の筋疲労評価装置は、請求項11に記載の発明のように、前記所定時間を、50秒〜100秒の範囲内とした。
【0033】
一方、上記目的を達成するために、請求項12に記載の筋疲労評価方法は、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算する演算ステップと、前記演算ステップで演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、を含む。
【0034】
このように、請求項12に記載の筋疲労評価方法によれば、演算ステップにより、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、前記生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比が演算され、評価ステップにより、前記演算ステップで演算された差または比に基づいて、前記生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0035】
このように、請求項12に記載の筋疲労評価方法によれば、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、演算した差または比に基づいて、生体の筋組織の疲労度を評価しているので、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0036】
なお、本発明の筋疲労評価方法は、請求項13に記載の発明のように、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度とを近赤外光を用いて計測するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0037】
一方、上記目的を達成するために、請求項14に記載の筋疲労評価方法は、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射ステップと、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成ステップと、前記信号生成ステップで生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算する演算ステップと、前記演算ステップで演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、を含む。
【0038】
このように、請求項14に記載の筋疲労評価方法によれば、照射ステップにより、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源が発光されて前記生体の筋組織に照射され、検出ステップにより、前記筋組織からの反射光の光強度が検出され、信号生成ステップにより、前記検出ステップで検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号が生成され、演算ステップにより、前記信号生成ステップで生成された前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比が演算され、評価ステップにより、前記演算ステップで演算された差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0039】
このように、請求項14に記載の筋疲労評価方法によれば、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射し、前記筋組織からの反射光の光強度を検出すると、検出した前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成し、生成した前記第1の信号の推移と前記第2の信号の推移とが相互に変動して、前記第1の信号と前記第2の信号が接近もしくは交差した時点から所定時間経過後の前記第1の信号と前記第2の信号との差または比を演算し、演算した差または比に基づき、前記生体の動作に伴う当該生体の筋組織の疲労度を評価するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0040】
一方、上記目的を達成するために、請求項15に記載の筋疲労評価方法は、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測する計測ステップと、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測ステップで計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価する評価ステップと、を含む。
【0041】
このように、請求項15に記載の筋疲労評価方法、計測ステップにより、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とが計測され、評価ステップにより、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、前記計測装置で計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比が演算され、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度が評価される。
【0042】
このように、請求項15に記載の筋疲労評価方法によれば、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを計測し、前記生体の動作終了から予め定められた時間経過後に、計測された前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、当該差または比に基づき前記生体の筋組織の疲労度を評価するので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0043】
なお、本発明は、請求項16に記載の発明のように、前記比は、前記酸素化ヘモグロビン濃度と前記還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、前記評価装置は、前記差または比が大きいほど前記疲労度が高いと評価する。
【0044】
なお、本発明の請求項17に記載の筋疲労評価方法は、前記計測ステップは、それぞれ異なる波長の近赤外光を発光する2つの光源を発光させて前記生体の筋組織に照射する照射ステップ、前記筋組織からの反射光の光強度を検出する検出ステップ、前記検出ステップで検出された前記光強度に対応して、前記筋組織中の血液における前記酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と前記還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号を生成する信号生成ステップ、及び前記信号生成ステップで生成された前記第1の信号と前記第2の信号とを送信する送信ステップ、を含み、前記評価ステップは、前記送信ステップで生成された前記第1の信号と前記第2の信号を受信する受信ステップと、前記受信ステップで受信された前記第1の信号と前記第2の信号の、前記生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後における推移を示す推移情報を生成する推移情報生成ステップ、前記推移情報生成ステップで生成された前記推移情報に基づき、前記第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより前記動作開始前の状態から前記動作中の状態に変化したことを検知した後に、前記第1の信号と前記第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、前記動作終了の状態に変化したことを検知する状態推移検知ステップ、前記状態推移検知ステップで前記動作終了の状態に変化したことを検知した時点から前記所定時間経過後に、前記第1の信号の値と前記第2の信号の値との差または比を演算する演算ステップ、及び前記演算ステップで演算された差または比が予め定められた値より大きい場合、前記生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断する疲労判断ステップを含む。
【0045】
一方、上記目的を達成するために、請求項18に記載のプログラムは、コンピュータを、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の筋疲労評価装置として機能させるためのプログラムであり、このプログラムをコンピュータに実行させることにより、動作に伴う筋疲労状態の評価を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、生体の動作終了から所定時間経過後に計測された、生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差または比を演算し、演算した差または比に基づいて、生体の筋組織の疲労度を評価しているので、NIRS法を用いて、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】実施の形態に係る筋疲労評価システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る筋疲労評価システムのコンピュータ構成例を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る筋疲労評価システムの使用例を示す構成図である。
図4】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の一例を示す説明図である。
図5】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の他の例を示す説明図である。
図6】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の他の例を示す説明図である。
図7】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の他の例を示す説明図である。
図8】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価方法の血色素計測処理を示すフローチャートである。
図9】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価方法の筋疲労評価処理を示すフローチャートである。
図10】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の出力画面を示す説明図である。
図11】実施の形態に係る筋疲労評価システムによる筋疲労評価処理結果の他の出力画面を示す説明図である。
図12】実施の形態に係る筋疲労評価装置の構成を示すブロック図である。
図13】実施の形態に係る筋疲労評価装置のコンピュータ構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態に係る筋疲労評価システム10は、図1に示される機能的な構成を備えており、図2に示されるコンピュータのハードウェア構成を有している。そこで、まず、図2を参照してコンピュータの構成を説明する。
【0049】
図2に示す本実施の形態に係る筋疲労評価システム10は、血色素計測装置1と評価装置2を含んで構成されており、血色素計測装置1と評価装置2のそれぞれはコンピュータ装置の構成となっている。
【0050】
評価装置2は、プログラムに基づき筋疲労評価システム10の本実施の形態に係る処理を行うCPU(Central Processing Unit;中央処理装置)22と、CPU22による図9のフローチャートで処理ルーチンを示す各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)24と、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)26と、各種情報を記憶するために用いられるハードディスク28(図中、「HDD」28と記載)と、キーボード14、マウス16、及びディスプレイ18と、外部に接続された装置との間の各種情報の授受を司る送受信部20と、を備えており、これらがシステムバスBUS1により相互に接続されて構成されている。ここで、送受信部20には、NIRS用プローブ等からなる血色素計測装置1が接続されている。
【0051】
CPU22は、RAM24、ROM26、及びハードディスク28に対するアクセス、キーボード14及びマウス16を介した各種情報の取得、ディスプレイ18に対する各種情報の表示、及び送受信部20に接続された血色素計測装置1からの信号入力等を、各々行うことができる。
【0052】
CPU22が、ハードディスク28に記憶された本発明に係る筋疲労評価方法としての処理を制御するプログラムを、RAM24に読み込み実行することにより、図1に示す本実施の形態に係る筋疲労評価システム10における、図1に示す評価装置2を構成する各処理部の機能が実行される。
【0053】
血色素計測装置1も、同様に、CPU42、RAM44、ROM46、及び送受信部40と、を備えており、これらがシステムバスBUS2により相互に接続されて構成されている。さらに、血色素計測装置1においては、LED等のそれぞれ異なる波長の近赤外光を発光する光源1a1と光源1a2、光源1a1と光源1a2が照射された筋組織からの反射光を受光するCCD等の受光部1b1と受光部1b2を備えている。
【0054】
CPU42は、RAM44、及びROM46に対するアクセス、光源1a1と光源1a2の制御、受光部1b1と受光部1b2からの信号の入力、当該信号の送受信部40を介しての評価装置2への送信等を、各々行うことができる。
【0055】
CPU42が、ROM46等に記憶された処理を制御するプログラムを、RAM44に読み込み実行することにより、図1に示す本実施の形態に係る血色素計測装置1における近赤外光照射部1a、光検出部1b、及び信号生成部1cの各機能が実行される。
【0056】
このような構成の血色素計測装置1と評価装置2を含み、図1に示す本実施の形態に係る筋疲労評価システム10が構成されている。なお、図1は機能ブロックとなる構成を表し、一方、図2はデバイス等の接続状態を表すものである。前記したように、機能ブロックとデバイス等とは有機的、かつ相互に関連して筋疲労評価システムを構成するため、図2と共に図1についても詳細に説明する。
【0057】
血色素計測装置1は、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度を計測するものであり、市販のNIRS用プローブを用いることができる。
【0058】
評価装置2は、生体の動作終了から所定時間(t)経過後に計測された、生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とに基づいて、当該酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差を演算して、当該差に基づいて、生体の筋組織の疲労度を評価する。
【0059】
本実施の形態では、酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度とを近赤外光を用いて計測する。
【0060】
近赤外光照射部1aは、それぞれ異なる波長の近赤外光、例えば、770nmと840nm等の400nm〜2500nmの間の波長の近赤外光を発光する2つの光源1a1、1a2を発光させて処理対象の生体の筋組織に照射し、光検出部1bは、筋組織からの反射光を検出して、当該反射光の光強度を示す信号を出力し、信号生成部1cは、光検出部1bから出力された信号により示される光強度に対応して、筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号とを生成し、図2に示す送受信部40を介して評価装置2に送信する。
【0061】
一方、評価装置2は、図2におけるCPU22による図9のフローチャートで示すプログラムに基づく処理で実現される機能として、推移情報生成部2a、状態推移検知部2b、演算部2c、及び疲労判断部2dを備えている。
【0062】
推移情報生成部2aは、送受信部20で受信した、血色素計測装置1の信号生成部1cで生成され送受信部20から送信された第1の信号と第2の信号の、評価対象とする生体の動作開始前、動作中、及び動作終了後における推移を示す推移情報を生成する。
【0063】
状態推移検知部2bは、推移情報生成部2aで生成された推移情報に基づき、第1の信号と前記第2の信号の値が離れたことを検知することにより動作開始前の状態から動作中の状態に変化したことを検知した後に、第1の信号と第2の信号の値が接近した後に所定距離以内となるか、または交差したことを検知することにより、動作終了の状態に変化したことを検知する。
【0064】
演算部2cは、状態推移検知部2bで動作終了の状態に変化したことを検知した時点から所定時間(t)経過後に、第1の信号の値と第2の信号の値との差を演算する。
【0065】
疲労判断部2eは、演算部2dで演算された差が予め定められた値より大きい場合、生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労していると判断する。あるいは、例えば、予め第1,第2の閾値を定めておき、演算された差が第1の閾値より小さい場合には疲労していないと判断し、差が第1の閾値以上で第2の閾値以下の場合には疲労が少ないと判断し、差が第2の閾値より大きい場合には疲労が激しいと判断することでもよい。
【0066】
なお、上述したように、血色素計測装置1は、市販のNIRS用プローブを用いることができるものであり、ここでは、その近赤外光を用いて非観血的に血中酸素動態を測定する動作を簡単に説明し、本例における使用方法を説明する。
【0067】
一般的にNIRSは頭蓋骨内の脳活動をイメージングするために用いられる。NIRSは近赤外光を測定部位に通過させ、次の式(1)により表されるランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)に基づき、血中酸素動態を算出する。
【0068】
【数1】
【0069】
上記式(1)において、Iinは対象溶液への入射光、Ioutは対象溶液からの透過光、Dは光の通過距離、εは溶液の吸光係数であり、これらから濃度Cが算出できる。NIRSでは血中酸素濃度動態、すなわち、血中のヘモグロビンの状態を計測するので、ランベルト・ベールの法則を拡張し、散乱のある媒体に適応した次の式(2)により表されるモデファイド・ランベルト・ベール則(Modified Lambert-Beer law)を用いる。
【0070】
【数2】
【0071】
上記式(2)においてΔIoutは透過光量変化、ΔCは濃度変化、Dは平均光路長、ΔSは散乱による影響変化を意味する。
【0072】
本例では、Spectratech inc.製の光イメージング脳機能測定装置(Spectratech OEG-16)(登録商標)を使用する。本装置では770nmと840nmの2波長の近赤外線吸収係数を使用し、血中酸素化ヘモグロビンの濃度長変化ΔCoxy・Dと血中還元ヘモグロビンの濃度長変化ΔCdoxy・Dを算出する。
【0073】
上述のように、一般的には、NIRSは頭部にプローブを複数組取り付け、脳内の血中酸素動態を計測するが、本例では、頭部ではなく、対象筋肉上の皮膚にNIRS用プローブを1組取り付け、局所筋肉の血中酸素動態を計測する。
【0074】
本例では、一例として図3に示すように、被験者31の上腕二頭筋の中央部に、血色素計測装置1としてのNIRS用のプローブ30aを図示しない筋電計(EMG)と共に取り付け、被験者31は、椅子33に座り、腕を下ろした状態でダンベル32を持ち、肘を90度屈曲してダンベル上げを行う。
【0075】
本例では、何も持たない安静状態を60秒間維持した後、ダンベル上げ下げ動作を3秒間隔で40回行い(120秒)、その後ダンベル32を離し、動作開始前と同様の安静状態を2分(120秒)程継続する。また、使用するダンベル32は2.5kgと5.0kgの2種類で、被験者は20代の成人男性4人(X,Y,V,W)とする。
【0076】
このような条件で動作した際の、筋疲労評価システム10における血色素計測装置1の信号生成部1cにより生成される筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度を表す第1の信号と還元ヘモグロビン濃度を表す第2の信号の、評価装置2の推移情報生成部2aで生成される推移情報で示される変化の推移状態の例を図4図5に示す。
【0077】
図4図5は共に、同じ被験者Xに対する計測結果を示しており、図4は、2.5kgのダンベル32を用いた場合の運動を行った際の酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度の変化の推移状態を示し、図5は、5.0kgのダンベル32を用いた場合の運動を行った際の酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度の変化の推移状態を示している。なお、図4図5に示す「ARV」は、筋電計(EMG)で取得された表面筋電位(整流平滑化電位)である。
【0078】
図4及び図5において、図中のA領域はダンベル運動の動作開始前(60秒間)であり、B領域はダンベル運動の動作中(120秒間)、C領域はダンベル運動の動作終了後であり、それぞれ異なる3つの形態に区分される。
【0079】
ダンベル運動動作開始前のA領域は安静状態の領域であり、図4図5での違いは見られない。ダンベル運動中のB領域においては、酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと、還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dは、被験者により様々ではあるが、負荷が小さい場合の方が、変化が少ないということ以外の共通点は見られない。
【0080】
ここまでのA領域とB領域における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度の変化の推移状態に関しては、従来技術においても同様の結果として得られている。
【0081】
これに対して、ダンベル運動終了後のC領域では、図4図5を比較すると、図4よりも図5の方が、ΔCoxy・DとΔCdoxy・Dとの差が大きいことが分かる。この結果は、他の被験者(Y,V,W)においても同様であった。
【0082】
この差は、ダンベル運動の負荷の相違(2.5kgと5.0kg)により生じたものであり、この差が、筋疲労に関係していることを示している。ここで、安静時間を十分にとった後に対象となる動作を行い、当該動作終了後に血中酸素動態が収束、あるいは収束に準じる状態になった動作終了時からの経過時間を所定時間t[秒]とし、その時のΔCoxy・DとΔCdoxy・Dとの差をΔHbt・sとする。
【0083】
図5に示すように、動作終了後のΔCoxy・DとΔCdoxy・Dは、それぞれ、ある程度上昇及び下降した後、ある値に漸近して収束する。
【0084】
軽度の運動動作から重度の運動動作に渡って数多くの酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dの測定を行った結果、図5でも示されているように、運動動作の終了後の50〜100秒の間で上記収束が生じていることが確認されている。
【0085】
特に、運動動作の終了後の50〜60秒で血中酸素動態が収束する例が多く見られる。従って、図5からも明らかなように、運動動作の終了後の時間は50〜100秒が好ましく、より好ましくは50〜60秒となる。運動動作の終了後の時間が50秒より小さい場合、あるいは、運動動作の終了後の時間が100秒より大きい場合には、血中酸素動態の収束状態が不安定となる場合が多くなり好ましくない。
【0086】
なお、重度の運動動作に伴って疲労している対象筋肉は,必ず酸素化ヘモグロビン濃度のほうが還元ヘモグロビン濃度より高くなり、図5においては、運動動作の終了後の酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dの測定結果は、還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dの測定結果より常に上側になる
表1は、4人の被験者(X,Y,V,W)のΔHb・60s(運動動作の終了60秒後の差)を示す。
【0087】
【表1】
【0088】
このような、動作終了後の所定時間t[秒]経過後における、酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dとの差ΔHbt・sに基づく筋疲労評価が、上腕二頭筋以外の筋肉でも適用可能であることを確かめるために、錘(12.5kg)を持ち、あるいは持たないでスクワットを、3秒間隔で50回、行った際の大腿筋の計測、及び床にある錘(2.5kgと12.5kg)を持ち上げる動作時(3秒間隔で20回)の脊柱起立筋の計測を行った。その結果を、図6図7に示す。
【0089】
図6においては、錘(12.5kg)を持ち、あるいは持たないでスクワットを、3秒間隔で50回、行った際の大腿筋の計測結果を示しており、図7においては、床にある錘(2.5kgと12.5kg)を持ち上げる動作時(3秒間隔で20回)の脊柱起立筋の計測結果を示している。
【0090】
図6に示されるように、動作終了後の60秒経過後における、酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dとの差ΔHbt・60sは、負荷のない場合は「0.070」であり、12.5kgの負荷をかけた場合は、「0.155」であり、上腕二頭筋と同様に、大腿筋の疲労の程度が数値で表現できていることがわかる。
【0091】
また、図7に示されるように、動作終了後の60秒経過後における、酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dとの差ΔHbt・60sは、負荷のない場合は「0.002」であり、12.5kgの負荷をかけた場合は、「0.057」であり、上腕二頭筋及び大腿筋と同様に、脊柱起立筋の疲労の程度が数値で表現できていることがわかる。
【0092】
次に、図8及び図9を参照して、筋疲労評価処理を実行する際の本実施の形態に係る筋疲労評価システム10の作用を説明する。
【0093】
まず、図8を参照して、筋疲労評価処理を実行する際の血色素計測装置1の作用を説明する。なお、図8は、この際に血色素計測装置1のCPU42により実行される血色素計測処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムはROM46の所定領域に予め記憶されている。
【0094】
同図のステップS100では、近赤外光照射部1aの2つの光源1a1,1a2による近赤外光の発光を開始し、次のステップS102では、当該発光光の被験者31からの反射光を光検出部1bの受光部1b1,1b2により検出する。なお、このとき、CPU42は各受光部1b1,1b2から上記反射光の光強度を示す信号を受信する。
【0095】
次のステップS104では、上記ステップS102の処理によって受光部1b1から受信した信号をデジタル信号に変換することにより第1の信号(酸素化ヘモグロビン濃度を表す信号)を生成すると共に、受光部1b2から受信した信号をデジタル信号に変換することにより第2の信号(還元ヘモグロビン濃度信号を表す信号)を生成する。
【0096】
次のステップS106では、上記ステップS104の処理によって生成した第1の信号および第2の信号を評価装置2に送信し、次のステップS108にて、被験者31に対する、筋疲労の評価対象とする運動の実施期間として予め定められた時間(本実施の形態では、5分)が経過したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップS102に戻る一方、肯定判定となった時点で、ステップS110に移行する。
【0097】
ステップS110では、ステップS100で開始した本血色素計測処理プログラムを終了する。
【0098】
次に、図9を参照して、筋疲労評価処理を実行する際の評価装置2の作用を説明する。なお、図9は、この際に評価装置2のCPU22により実行される筋疲労評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムはHDD28の所定領域に予め記憶されている。
【0099】
同図のステップS200では、血色素計測装置1からの第1の信号および第2の信号の受信待ちを行い、次のステップS202では、受信した第1の信号および第2の信号の差を演算し、これによって得られた値をΔYとする。
【0100】
次のステップS204では、差ΔYが予め定められた閾値Y以上であるか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップS200に戻る一方、肯定判定となった時点でステップS206に移行する。なお、本実施の形態に係る筋疲労評価システム10では、上記閾値Yとして、差ΔYが当該値以上となった場合に、被験者31によって運動が開始されたと見なすことのできる値として、実験やコンピュータ・シミュレーション等により予め得られた値を適用している。
【0101】
ステップS206では、血色素計測装置1からの第1の信号および第2の信号の受信待ちを行い、次のステップS208では、受信した第1の信号および第2の信号の差を演算し、これによって得られた値をΔYとする。
【0102】
次のステップS210では、差ΔYが所定距離以内となるか、または交差したことを示すものであるか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップS206に戻る一方、肯定判定となった時点でステップS212に移行する。
【0103】
ステップS212では、所定時間t(本実施の形態では、60秒)の経過待ちを行い、次のステップS214では、血色素計測装置1からの第1の信号および第2の信号の受信待ちを行い、次のステップS216にて、受信した第1の信号および第2の信号の差ΔYを演算する。
【0104】
次のステップS218では、上記ステップS216の処理によって得られた差ΔYが予め定められた閾値Th以上であるか否かを判定し、否定判定となった場合はステップS220に移行し、予め定められた第1提示画面を表示するようにディスプレイ18を制御した後、本筋疲労評価処理プログラムを終了する。
【0105】
図10には、上記ステップS220の処理によってディスプレイ18に表示される第1提示画面の一例が示されている。同図に示すように、本実施の形態に係る第1提示画面では、被験者31の評価対象部位が疲労していることを示す情報が表示される。従って、筋疲労評価システム10のユーザは、当該画面を参照することにより、被験者31の評価対象部位が疲労していることを容易に把握することができる。
【0106】
一方、上記ステップS218にて、否定判定となった場合はステップS222に移行し、予め定められた第2提示画面を表示するようにディスプレイ18を制御した後、本筋疲労評価処理プログラムを終了する。
【0107】
図11には、上記ステップS222の処理によってディスプレイ18に表示される第2提示画面の一例が示されている。同図に示すように、本実施の形態に係る第2提示画面では、被験者31の評価対象部位が疲労していないことを示す情報が表示される。従って、筋疲労評価システム10のユーザは、当該画面を参照することにより、被験者31の評価対象部位が疲労していないことを容易に把握することができる。
【0108】
なお、このような2値判断の表示とせずに、差ΔYを直接数値表示もしくは類似の方法によるアナログ表示等として、画面を参照する被験者の判断に任せることもできる。
【0109】
次に、図12図13を用いて、本実施の形態の筋疲労評価装置について説明する。
【0110】
本実施の形態に係る筋疲労評価装置は、図12に示される機能的な構成を備えており、図13に示されるコンピュータのハードウェア構成を有している。
【0111】
図12に示すように、本実施の形態に係る筋疲労評価装置10’は、図1で示す筋疲労評価システム10を構成する血色素計測装置1と評価装置2との機能を一体化した構成であり、血色素計測装置1を構成する、LED等の光源1a1、1a2を備えた近赤外光照射部1a、CCD等の受光部1b1、1b2を備えた光検出部1b、及び信号生成部1cを備えると共に、評価装置2を構成する、推移情報生成部2a、状態推移検知部2b、演算部2c、及び疲労判断部2dを備えている。
【0112】
また、図13に示すように、本実施の形態に係る筋疲労評価装置10’は、図2で示す筋疲労評価システム10のハードウェア構成と同様に、CPU22、RAM24、ROM26、キーボード14、マウス16、ディスプレイ18を含み構成されると共に、システムバスに光源1a1、1a2と受光部1b1、1b2が接続され、CPU22により制御される構成となっている。
【0113】
このような構成により、筋疲労評価装置10’においても、図1図2で示す筋疲労評価システム10と同様に、図8図9で示したプログラムに基づく処理を行う。
【0114】
すなわち、本実施の形態に係る筋疲労評価装置10’は、CPU22のプログラムに基づく処理により、図8,9に示す処理ルーチンを制御するプログラムを、RAM24に読み込み実行することにより、図1に示す筋疲労評価システム10と同様にして、被験対の動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0115】
以上説明したように、本例の筋疲労評価システム10及び筋疲労評価装置10’では、近赤外光を用いて生体の筋組織中の血液における酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度を計測し、生体の動作終了後の予め定められた時間tの経過後に、計測される酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差を演算して、演算した差の大小に基づき生体の筋組織の疲労度を評価することにより、動作に伴う筋疲労状態の評価を定量的に行うことができる。
【0116】
なお、本例では、酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との差を用いて、生体の筋組織の疲労度を評価しているが、酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度との比を用いて生体の筋組織の疲労度を評価することでも良い。この場合の比は、酸素化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度のいずれか高い方の低い方に対する比であり、当該比が大きいほど疲労度が高いと評価する。前述したように、筋疲労がある場合、動作終了後の所定時間後においては、酸素化ヘモグロビン濃度(Coxy)の方が常に還元ヘモグロビン濃度(Cdoxy)より高いので、ここでは、酸素化ヘモグロビン濃度(Coxy)の還元ヘモグロビン濃度(Cdoxy)に対する比(Coxy/Cdoxy)が大きいほど疲労度が高いと評価する。
【0117】
このように、本例の筋疲労評価システム10及び筋疲労評価装置10’では、生体の動作時における酸化ヘモグロビン濃度の変化と還元ヘモグロビン濃度の変化に基づき、当該動作に伴う生体の筋組織の疲労状態を自動的に行うことができるので、例えば、スポーツ選手の個々に、トレーニングやリハビリテーション等の運動に伴う当該運動の後の筋疲労の状態を定量的に評価し、その評価結果を当該選手のトレーニングやリハビリテーション等に有効に反映させることができる。
【0118】
また、図2に示す構成の筋疲労評価システム10では、評価装置2として、携帯電話、スマートホン当の携帯端末、PDA(Personal Digital Assistant)等を使用することができる。
【0119】
また、筋疲労評価システム10では、血色素計測装置1で測定したデータを、血色素計測装置1と評価装置2が接続された際に同期させて、評価装置2に第1,第2の信号を取り込んでも良いし、血色素計測装置1と評価装置2を接続した状態で測定データを取り込むこと行っても良い。
【0120】
また、筋疲労評価システム10の血色素計測装置1と評価装置2で取得されたそれぞれのデータを、あるいは、筋疲労評価装置10’で取得したデータを、無線または有線により接続された他のコンピュータ装置に送信して、このコンピュータ装置において、各被験体毎のデータとして蓄積し、適宜分析に用いることでも良い。
【0121】
以上の説明では、負荷として、座った上体でのダンベルの上下運動を用いたが、これに限定されず、例えば、スクワット等の運動や、ランニングマシーンでの走行運動を用いることでもよい。
【0122】
ランニングマシーンでの走行運動の場合には、血色素計測装置1の動作に関してもCPPUから制御することができるので、この場合、ランニングマシーンの動作中止に基づき、運動の終了を直接、検知することができ、この検知後の時間t経過(例えば60秒)後に、酸素化ヘモグロビン濃度長変化ΔCoxy・Dと還元ヘモグロビン濃度長変化ΔCdoxy・Dとの差を求める動作としても良い。
【0123】
また、ランニングマシーン等に、図12図13に示す筋疲労評価装置10’を直接設けた構成としても良い。
【0124】
なお、本発明は、上述した例に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0125】
例えば、本例においては、血色素計測装置1として、Spectratech inc.製の光イメージング脳機能測定装置(Spectratech OEG-16)(登録商標)を使用しているが、これに限るものではなく、他のNIRS用プローブ等を用いることでも良い。
【0126】
また、本例においては、筋組織中の血液に照射する近赤外光として、770nmと840nmの波長の光を用いたが、400nm〜2500nmの波長のいずれの近赤外光を用いても良い。
【0127】
また、本例においては、所定の経過時間tとして60秒を用いているが、図5の例からも明らかなように、50秒〜100秒の間のいずれの時間を用いても、同様な処理結果を得ることができる。
【0128】
また、生体の動作に伴い当該生体の筋組織が疲労しているか否かの判断に用いる閾値Thとしては、例えば、動作の開始前の状態における第1の信号の値と第2の信号の値との差の平均値を用いても良いし、図8に示す2.5kgのダンベル動作時における動作停止後の差(X=0,Y=0.078,V=0,W=0)等を用いることでも良く、被験者個別に適宜の値を用いることで良い。
【0129】
また、図4,5に示した第1の信号と第2の信号の推移動作状態例では、動作の停止に伴い第1の信号と第2の信号が交差しているが、これは被験者Xの実験結果であり、他の被験者の場合には、動作の停止に伴い第1の信号と第2の信号が交差することなく、近接するだけの場合もある。何れにしろ、動作停止を検知した後、例えば60秒後における第1の信号(酸素化ヘモグロビン濃度)と第2の信号(還元ヘモグロビン濃度)との差が、予め定められた値よりも大きければ、当該動作に伴う筋疲労が発生したと判定することができる。
【0130】
また、図2に示したコンピュータ構成において、本発明に係る各処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、各構成による処理が実行されてもよいし、図示されていない通信機能を用いて、当該プログラムを読み込ませることでもよい。
【0131】
なお、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0132】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0133】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能を、コンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0134】
また、本実施の形態に係る筋疲労評価システム10と筋疲労評価装置10’の信号生成部1c、推移情報生成部2a、状態推移検知部2b、演算部2c、及び疲労判断部2dを、プログラムにより各機能の実行が可能なコンピュータで構成するものとしているが、論理素子回路からなるハードウェア構成とすることでも良い。
【0135】
また、図13に示す筋疲労評価装置10’においては、キーボード14及びマウス16は、適宜に削除しても良い。
【0136】
このように、本発明を実施する形態例を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0137】
1 血色素計測装置
1a 近赤外光照射部
1a1,1a2 光源
1b 光検出部
1b1,1b2 受光部
1c 信号生成部
2 評価装置
2a 推移情報生成部
2b 状態推移検知部
2c 演算部
2d 疲労判断部
10 筋疲労評価システム
10’ 筋疲労評価装置
14 キーボード
16 マウス
18 ディスプレイ
20,40 送受信部
22,42 CPU
24,44 RAM
26,46 ROM
28 ハードディスク(HDD)
30a NIRS用プローブ
31 被験体
32 ダンベル
33 椅子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13