【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明らは、電磁波を用いた所定の距離の変位の測定方法を用いることにより、測定の対象物である生体に対して高い精度かつ非接触で脈波測定を行うことができることを見出し、本発明の脈波測定装置に至った。
【0017】
本発明は、第一周波数の第一電磁波を対象物に対して照射し、第一周波数とは異なる第二周波数の第二電磁波を対象物に対して照射し、第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波との合成波である反射合成波を受信し、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得て、反射合成波波形と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得て、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成される、脈波測定装置である。
【0018】
本発明の脈波測定装置は、第一電磁波及び第二電磁波の二つの電磁波を対象物に対して照射するように構成されることを含む。本明細書では、第一電磁波の周波数を第一周波数という。同様に、第二電磁波の周波数を第二周波数という。第一周波数と第二周波数とは異なる周波数である。二つの異なる周波数の電磁波を用いることにより、二つ電磁波の波形の位相差に基づく解析が可能となる。
【0019】
本発明の脈波測定装置は、第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波との合成波である反射合成波を受信するように構成されることを含む。
【0020】
第一電磁波及び第二電磁波の二つの電磁波を対象物に対して照射することにより、対象物からは第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波とが反射されることになる。本明細書では、第一反射波と、第二反射波との合成波を反射合成波という。本発明の脈波測定装置は、反射合成波を受信するように構成される。対象物の距離の変位の測定値を得るために反射合成波を用いることにより、高い精度の距離の変位の測定が可能となる。
【0021】
本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成されることを含む。また、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成されることを含む。
【0022】
本発明の脈波測定装置が受信した反射合成波は、本発明の脈波測定装置中の回路で反射合成波波形となる。反射合成波波形と、第一周波数である第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得ることができる。同様に、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と、第二周波数である第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得ることができる。
【0023】
本発明の脈波測定装置は、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成されることを含む。
【0024】
本発明の脈波測定装置は、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得ることができる。この所定の位相差に基づくことにより、本発明の脈波測定装置は、高い精度で対象物の距離の変位の測定値を得ることができる。生体を測定の対象物とすることにより、脈波による生体表面の変位を、脈波測定装置と対象物との距離の変位として非接触で測定することができる。対象物の距離の変位の測定値の時間変化から、生体振動波形(生体振動の時間変化)を得ることができる。したがって、本発明によれば、測定の対象物である生体に対して非接触かつ高い精度で生体振動波形を得ることができ、生体振動波形に基づき脈波測定を行うことができる脈波測定装置を得ることができる。
【0025】
なお、本発明の脈波測定装置において測定する対象物の距離の変位とは、変位がゼロである場合、すなわち対象物が不変位(停止)の場合も含む。
【0026】
本発明の脈波測定装置では、第一周波数の第一電磁波及び第二周波数の第二電磁波に関する位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成される。この構成において、任意の電磁波照射による位相差に基づく距離の変位の測定方法を応用することができる。例えば、本発明の脈波測定装置において、定在波レーダによる方法及びクオドラチャー検出器による方法等を応用することもできる。
【0027】
また、本発明の脈波測定装置の距離の変位の測定方法によれば、周波数差が大きく異なっても、分解能の限界はあまり相違しないことが知られている。例えば、100MHzのときに8.6266μm、1MHzのときに8.6264μmと見積もることができる。これは、周波数安定性の悪い安価な発振回路を用いても、分解能については、全く問題ないといえる。したがって、本発明の脈波測定装置は、周波数安定性の悪い低価格の発振回路を用いることができる。
【0028】
また、本発明では、少なくとも一つの電磁波発振部と、少なくとも一つの反射合成波受信部と、第一乗算部と、第二乗算部と、変位測定部とを含む脈波測定装置であって、電磁波発振部が、第一電磁波及び第二電磁波を発振し、対象物に対して照射するように構成され、反射合成波受信部が、反射合成波を受信して反射合成波波形を得るように構成され、第一乗算部が、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成され、第二乗算部が、第一乗算部とは異なる場所に位置し、反射合成波と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成され、変位測定部が、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得るように構成される、脈波測定装置であることが好ましい。
【0029】
本明細書において、電磁波発振部とは、第一電磁波及び第二電磁波を発振し、対象物に対して照射するように構成される部分のことをいう。
【0030】
本明細書において、反射合成波受信部とは、反射合成波を受信して反射合成波波形を得るように構成される部分のことをいう。
【0031】
本明細書において、第一乗算部とは、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成される部分のことをいう。
【0032】
本明細書において、第二乗算部とは、第一乗算部とは異なる場所に位置し、反射合成波と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成される部分のことをいう。
【0033】
本明細書において、変位測定部とは、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得るように構成される部分のことをいう。
【0034】
本発明の脈波測定装置が、少なくとも一つの電磁波発振部と、少なくとも一つの反射合成波受信部と、第一乗算部と、第二乗算部と、変位測定部とを含むことにより、対象物の距離の変位の測定を非接触かつ高い精度で確実に行うことができる。
【0035】
また、本発明の脈波測定装置は、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むように、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
【0036】
上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むことが必要である。第一乗算部及び第二乗算部への入力波形が所定の波形を含むことにより、所定の位相差の乗算を確実に行い、対象物の距離の変位の測定の結果を高い精度で得ることができる。
【0037】
電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲の設定は、例えば、第一電磁波及び第二電磁波を発するための部品、例えばアンテナを所定の方向及び位置に設定することにより行うことができる。例えば、2つのアンテナを所定の位置に平行配置する場合には、方向性利得によって照射範囲が決定される。特に対象物における各々の照射の範囲の半値角の範囲に重なりがあるように照射の範囲を設定することにより、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むようにすることができる。
【0038】
また、本発明の脈波測定装置は、電磁波発振部が、第一電磁波を照射するための第一電磁波発振部と、第二電磁波を照射するための第二電磁波発振部とを含み、脈波測定装置が、第一電磁波発振部であり、かつ反射合成波受信部である第一アンテナと、第二電磁波発振部であり、かつ反射合成波受信部である第二アンテナとを備え、第一アンテナが第二反射波を含む反射合成波を受信し、第二アンテナが第一反射波を含む反射合成波を受信するように、第一アンテナ及び第二アンテナの位置関係を設定することが好ましい。
【0039】
第一アンテナが第一電磁波発振部及び反射合成波受信部の両方の機能を有し、第二アンテナが第二電磁波発振部及び反射合成波受信部の両方の機能を有することにより、電磁波の発振と受信とを一つの部分で行うことができるので、脈波測定装置のコストを低減することができる。また、第一アンテナ及び第二アンテナの位置関係を所定の位置関係に設定することにより、対象物の距離の変位の測定値を得るために必要な波形を第一乗算部及び第二乗算部に確実に入力することができる。
【0040】
アンテナとしては、角錐ホーンアンテナ、円錐ホーンアンテナ、誘電体ロッドアンテナ、パッチアンテナ及びこれらに近い絶対利得を有するアンテナ並びにこれらのアンテナをアレー化し高利得化したものから適宜選択して使用することができる。また、漏れ波アンテナ及びスロットアンテナのような低利得のアンテナをアレー化し、高利得化したものを使用することもできる。第一アンテナと第二アンテナとは必ずしも同種類のアンテナである必要はない。しかしながら、電磁波の照射範囲の半値角の範囲に重なりがあるように照射の範囲を設定することを容易にするために、第一アンテナと第二アンテナとは同種類のアンテナであることが好ましく、同種類かつ同形状のアンテナであることがさらに好ましい。
【0041】
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波の対象物表面での半値角に対応する第一電磁波照射領域と、第二電磁波の対象物表面での半値角に対応する第二電磁波照射領域とが重なり合う部分が存在するように、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
【0042】
「半値角」とは、電磁波の電力が一番高い点の電力を基準として、その電力の半分の電力になる点が作る角度のことをいう。上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、対象物表面の同じ部分に第一電磁波及び第二電磁波の両方が、所定の強度で照射していることが必要である。本発明の脈波測定装置において、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲は、第一電磁波の対象物表面での半値角に対応する第一電磁波照射領域と、第二電磁波の対象物表面での半値角に対応する第二電磁波照射領域とが重なり合う部分が存在することが必要となる。
【0043】
第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲の設定は、電磁波発振部であるアンテナの形状、照射方向及び電磁波の照射強度を調節することにより行うことができる。
【0044】
脈波測定のための対象物表面とは、対象物である生体の、脈波測定の可能な血管が位置する表面である。
【0045】
第一電磁波照射領域と第二電磁波照射領域とが重なり合う部分の面積は、照射領域全体の面積に対して50%以上にすることが好ましい。また、重なり合う部分の範囲が脈波の測定対象とする血管の範囲を含むようにすることが必要である。特に、血管の範囲の面積が重なり合う部分の範囲の面積の80%以上を占めるように第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
【0046】
図4に示すように、第一電磁波及び第二電磁波が重なり合う部分の半径をr
Aとすると、半径r
Aは、θが半値角となるような半径r
Aとすることができる。第一電磁波及び第二電磁波が重なり合う部分が被測定部となる。高精度の測定を確実に行うことができるため、生体振動の測定を確実に行うための半径r
Aは、次に示すように各測定部位ごとに異なる血管の直径φ
tの3倍以下とすることが好ましい。各測定部位ごとの血管の直径φ
tは、大動脈起始部ではφ
t=20〜30mm、腹大動脈ではφ
t=14〜20mm、腸骨動脈ではφ
t=6〜10mm、上腕の動脈ではφ
t=5〜8mm、下腕又は足首の動脈ではφ
t=2〜4mm(具体的には3mm)、細動脈ではφ
t=0.2〜0.5mmである。
【0047】
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波及び第二電磁波が、電磁波発振部で直接発振させるか、発振した電磁波の高調波によって得るか、又は逓倍によって得ることが好ましい。
【0048】
「直接発振」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数をそのまま用いることをいう。また、「電磁波の高調波」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数の波形に対して整数倍にあたる周波数の波形のことをいう。「逓倍」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数の波形を基にして、その整数倍の周波数を発生させることをいう。
【0049】
第一電磁波及び第二電磁波は、必ずしも同じ発振方法によって得る必要はない。例えば、第一電磁波を電磁波発振部で直接発振させ、第二電磁波を発振した電磁波の高調波によって得るというように、それぞれ異なる発振方法を用いることもできる。また、発振は、可変周波数発信器及び連続波発振器等の発信器を用いることによって行うことができる。具体的には、発信器としては、例えば、誘電体共振発振器や、パターンによるLC共振発振器、集中定数によるLC共振発振器などを用いることができる。
【0050】
また、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形が、所定距離離した位置に配置された2つのミキサである第一乗算部及び第二乗算部に入力され、位相差が、2つのミキサの出力波形の位相差であることが好ましい。
【0051】
第一乗算部及び第二乗算部として、ミキサを用いることにより、簡便に、反射合成波と、第一周波数波形又は第二周波数波形とを乗算することができ、第一差分出力波形又は第二差分出力波形を得ることができる。また、第一差分出力波形及び第二差分出力波形が、2つのミキサ(第一乗算部及び第二乗算部)の出力波形であるので、2つのミキサの出力波形の位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得ることができる。
【0052】
ミキサとしては、非線形ミキサを用いることができる。また、電磁波発振部の電力を用いて非線形ミキサを駆動する装置とすることができる。よって、第一乗算部及び第二乗算部の出力には、副次的なスペクトラムが出るのでフィルタ、例えばハイパスフィルター、ローパスフィルター及びバンドパスフィルター等を適宜組み合わせることにより所望の周波数成分(例えばf
1−f
2)を選択する周波数選択部を備えることが好ましい。第一乗算部及び第二乗算部は、例えば、ショットキーダイオードを用いて第一周波数波形又は第二周波数波形を注入してそれにより駆動させることにより、第一周波数波形又は第二周波数波形と入力された反射合成波とを乗算させることができる。
【0053】
また、本発明の脈波測定装置は、第一周波数及び第二周波数が、7GHz以上の周波数であることが好ましい。血管の収縮・拡張時の変動量が100μm程度であるため、その1/3の33μm程度の位相差に対する距離精度Δλ(μm/degree)が必要と思われる。よって、
図27より、7GHz以上の周波数であることが望ましい。なお、Δλと周波数[GHz]との関係は、下記の式で表すことができる。
Δλ=207.75/(周波数[GHz])
【0054】
本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一周波数f
1及び第二周波数f
2の和(f
1+f
2)が大きくなれば測定の分解能が向上する。したがって、7GHz以上、好ましくは10GHz以上、より好ましくは24GHz以上の周波数の電磁波を用いることにより、脈波測定の分解能を向上することができる。
【0055】
また、本発明の脈波測定装置は、第一周波数及び第二周波数が、10GHz〜100GHzの間の周波数であることが好ましい。
【0056】
上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一周波数f
1及び第二周波数f
2の和(f
1+f
2)が大きくなれば、測定の分解能が向上するため、高い周波数の電磁波を用いることが好ましい。しかしながら、周波数が高すぎる場合には皮膚表面で反射するようになるため、侵襲性が弱く、レーザー計測に近づいてしまうという問題が生じる。そのため、第一周波数及び第二周波数が、10GHz〜100GHz、好ましくは15GHz〜60GHz、より好ましくは20GHz〜30GHzの間の周波数であることが好ましい。
【0057】
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波と第二電磁波とを対象物に対して照射し、反射合成波受信部が2つのアンテナであり、2つのアンテナが、第一乗算部及び第
二乗算部にそれぞれ接続されていることが好ましい。
【0058】
脈波測定装置が2つのアンテナを有し、それぞれ第一乗算部及び第一乗算部に接続されることにより、第一乗算部及び第一乗算部での所定の波形の乗算を、精度よく確実に行うことができる。
【0059】
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部が、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去する脈波外変位除去部を備えることが好ましい。
【0060】
一般に、変位測定部で測定された波形には、脈波以外に呼吸及び体動等が重畳した波形を示すこととなる。脈波測定が、呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動などによる距離の変位の影響を受けると、脈波測定を正確に行うことができない場合がある。そのため、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈1波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去することにより、脈波測定の精度を向上することができる。
【0061】
脈波外変位除去部における所定の変位の除去は、例えば、呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動などによる距離の変位を別途測定し、その測定結果と脈波測定結果とを比較することにより行うことができる。一般に、呼吸は3秒から4秒の周期の振幅が大きい波形を示し、脈波は約1秒周期の小さな波形を示すので、変位測定部で測定された波形を解析することにより、脈波外変位除去部における所定の変位の除去を行うことができる。
【0062】
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部が、対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることが好ましい。
【0063】
脈波測定のためには、距離の変位の時間変化を測定することが必要である。そのため対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることが好ましい。変位測定部が、対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることにより、脈波測定を確実に行うことができる。
【0064】
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位に基づいて、脈波に関する指標の算出の結果を求める指標算出部を備えることが好ましい。
【0065】
脈波に関する指標とは、動脈の硬さ、脈波速度(PWV)の推定値、AI(Augmentation Index)及びCAVI(Cardio Ankle Vascular Index:心臓足首血管指数)などのことをいう。指標算出部は、変位測定部により得られた対象物の距離の変位の測定の結果を用いて脈波に関する指標の算出の結果を求めるように構成される部分である。指標算出部を備えることにより、脈波に関する指標の算出を確実に行うことができる。
【0066】
また、本発明の脈波測定装置は、脈波に関する指標が、時間に対する距離の変位の極大値もしくは極小値の値、複数の極大値もしくは極小値間の時間、又は、複数の極大値もしくは極小値間の値の差に基づいて算出する指標であることが好ましい。
【0067】
脈波に関する指標として、脈波速度を具体例に説明する。
図3に、本発明の脈波測定装置によって得られる、対象物の距離の変位の測定の結果の一例を示す。
図3の横軸(x軸)は時間であり、縦軸(y軸)は対象物の距離の変位に比例する出力電圧である。
図3の場合の対象物は人間であり、距離の変位の測定部位は大動脈起始部(「A点」という)及び下行大動脈(「B点」という)の2箇所である。
図3から明らかなように、両方の測定部位における時間に対する距離の変位はいくつかの極大値を示している。
図3において脈波に関する指標として、例えば脈波速度を測定する場合、大動脈起始部(A点)の極大値A1に関する脈波が血管を伝播して下行大動脈(B点)の極大値B1として測定されたものと考えられる。極大値A1と極大値B1との時間差をΔtとし、別途測定したA点とB点との間の距離をLとすると、脈波速度(PWV)は、次の式(101)により求めることができる。
PWV=L/Δt ・・・(101)
【0068】
図3の例では、極大値A1と極大値B1との時間差(Δt)は0.05秒であり、別途測定したA点とB点との間の距離(L)は20cmであったことから、脈波速度(PWV)は、4m/secであるといえる。
【0069】
次に、時間に対する距離の変位の極大値を用いることによる脈波に関する指標として、AI(Augmentation Index)を例に、その求め方について説明する。
図3において、大動脈起始部(A点)では、極大値A1の0.15秒後に極大値A2が観測されていることがわかる。この極大値A2は、極大値A1に関する脈波が血管を伝播して下行大動脈分岐部まで達し、そこで脈波が反射したための反射波に起因するものであるといえる。極大値A1の値をP1、極大値A2の値をP2、P1及びP2のうち大きい方の値をPPとすると、ΔP=(P2−P1)として、AIは、次に示す式(101)により求めることができる。
AI=ΔP/PP ・・・(101)
なお、極大値A1の値P1及び極大値A2の値P2は、バックグラウンドを差し引いた値を用いることができる。
【0070】
上述の脈波速度の測定の例では、大動脈起始部及び下行大動脈測定部位の2箇所の測定部位での測定から求める場合について説明した。しかしながら、AIの求め方で説明したような下行大動脈分岐部等からの脈波の反射波を用いることにより、一箇所の脈波速度の測定によって脈波速度を測定することが可能である。
【0071】
以上、脈波速度及びAIを例に、時間に対する距離の変位の極大値の値、複数の極大値間の時間、又は、極大値間の値の差に基づいて、脈波に関する指標を算出する方法について述べた。また、上述の極大値に基づく場合と同様に、時間に対する距離の変位の極小値の値、複数の極小値間の時間、又は、複数の極小値間の値の差に基づいて、脈波に関する指標を算出することもできる。本発明の脈波測定装置を用いるならば、時間に対する距離の変位の極大値又は極小値を測定することができるので、脈波速度及びAI以外の指標についても時間に対する距離の変位の極大値又は極小値の値を用いることにより、容易に算出が可能である。
【0072】
また、本発明の脈波測定装置は、指標が、動脈の硬さに関する指標であることが好ましい。
【0073】
一般に、動脈の硬化が進むと、血管に弾力性がなくなり脈波速度は速くなる。したがって、脈波速度を指標として動脈の硬さを推定することができ、動脈硬化の進行に関する情報を得ることができる。具体的には、例えば、心臓からの駆出波及び末梢血管からの反射波の脈波波形の解析を行うことにより、中枢血管の動脈硬化に関する情報を得ることができる。
【0074】
また、本発明の脈波測定装置は、指標が、脈波速度の推定値又はAIであることが好ましい。
【0075】
上述のように、脈波速度及びAIは、本発明の脈波測定装置によって、時間に対する距離の変位の極大値の値に基づいて算出することができる。これらの指標を用いることにより、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症及び閉塞性動脈硬化症・糖尿病等の少なくともいずれか1つの血管に関係する病状の有無や程度を評価することができる。
【0076】
また、本発明の脈波測定装置は、あらかじめ設定したパターンに対応した判定の結果を設定しておき、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、その比較結果に基づいて判定の結果を得る判定部を備えることが好ましい。
【0077】
あらかじめ設定したパターンとは、一般的に動脈硬化症等の病状の場合に典型的に表れる、上記測定する対象物の距離の変位の時間変化のパターンであって、あらかじめ測定して決定した所定のパターンのことをいう。判定部が、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、病状等の有無や程度の判定の結果を得ることにより、短時間で容易に判定の結果を得ることができる。
【0078】
また、本発明の脈波測定装置は、判定の結果が、正常、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、閉塞性動脈硬化症・糖尿病の少なくともいずれか1つに関する判定の結果であることが好ましい。
【0079】
本発明の脈波測定装置により脈波に関する情報を測定することにより、正常、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、閉塞性動脈硬化症・糖尿病の少なくともいずれか1つに関する判定の結果を精度良く容易に得ることができる。
【0080】
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位を所定のサンプリングレートで所定時間記録した脈波情報とともに、結果を関連付けて記憶する記憶手段を備えることが好ましい。
【0081】
記憶手段が、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位を所定のサンプリングレートで所定時間記録した脈波情報とともに、結果を関連付けて記憶することにより、結果のみならず、脈波情報である脈波パターン(測定された対象物の変位の時間変化)それ自体を容易に精査することができるので、医師等が、より詳しい病状の解析を容易にかつ正確に行うことができる。
【0082】
所定のサンプリングレートは、10sps以上であることが好ましく、10〜400spsであることがより好ましく、100〜300spsであることがさらに好ましい。
【0083】
「記憶手段」としては、公知のハードディスクドライブ、CDドライブ、DVDドライブ及び各種メモリ等、脈波情報を電子的に保存することができるものであることが、関連付けを容易にできることから好ましい。
【0084】
また、本発明の脈波測定装置は、結果を報知する報知手段を備え、結果が得られない測定異常の場合の報知態様と、結果が得られた場合の測定結果の報知態様とを異なる報知態様とすることが好ましい。
【0085】
結果を報知する報知手段は、結果が得られない測定異常の場合の報知態様と、結果が得られた場合の測定結果の報知態様との両方を報知することが好ましい。結果が得られない測定異常の場合に報知するための報知手段を備えることにより、医師等による再測定を確実に行うことができる。また、結果が得られた場合に報知するための報知手段を備えることにより、特に病状が正常でない場合には、医師等がそれを見落とすことなく対処することを確実にできる。
【0086】
報知手段としては、具体的には、脈波測定装置の操作ディスプレー上のアラーム、別途配置された警告灯及びブザー等の音響警告装置等、公知のものを用いることができる。
【0087】
また、本発明の脈波測定装置は、上述の脈波測定装置を複数備え、各脈波測定装置の対象物が同一人の異なる部位の血管に対応する位置に設定し、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物の距離の変位の測定の結果のずれに基づいて脈波に関する指標を算出する、脈波測定装置であることが好ましい。
【0088】
上述のように、例えば、脈波速度を測定する場合には、大動脈起始部及び下行大動脈測定部位の2箇所の測定部位での測定から求める方法の以外にも、AIの測定で説明した下行大動脈分岐部等からの脈波の反射波を用いることにより、一箇所の脈波速度の測定によって脈波速度を測定することが可能である。しかしながら、脈波の反射が必ずしも予期した場所で生じるとは限らないことから、上述の脈波測定装置を複数備え、各脈波測定装置の対象物が同一人の異なる部位の血管に対応する位置に設定し、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物の距離の変位の測定の結果のずれに基づいて脈波に関する指標を算出することが好ましい。
【0089】
脈波に関する指標としては、例えば、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物との距離の変位の測定の結果の特徴点間の時間差と、前記同一人の異なる部位間の距離とに基づいて得られる脈波速度に関する指標とするとよい。特徴点としては、測定結果の脈波波形の立ち上がりの点、ピーク(極大値又は極小値)の点とするとよく、比較する脈波波形は時間的に直近の2つの類似のパターンの脈波波形とするとよい。
【0090】
また、本発明の脈波測定装置は、対象物を固定する対象物固定手段をさらに備え、対象物固定手段は、ベッド又は椅子であることが好ましい。
【0091】
脈波測定の対象物は生体なので、動きが生じる場合がある。正確な脈波測定のためには、脈波以外の余分な動きをできるだけ防止することが好ましい。本発明の脈波測定装置は、対象物を固定する対象物固定手段をさらに備えることにより、脈波以外の余分な動きをできるだけ防止し、測定の精度を向上することができる。
【0092】
対象物固定手段は、公知のものを用いることができる。対象物固定手段としては、特に、ベッド又は椅子であることが好ましい。本発明の脈波測定装置を、例えば病院等の建物の中に配置する場合には、ベッド又は椅子を対象物固定手段とすることができる。ベッド又は椅子は、さらに対象物固定用のバンド等を備えることができる。
【0093】
また、本発明の脈波測定装置は、距離の変位を測定できることから、脈波以外の体動測定のためにも応用することができる。例えば、本発明の脈波測定装置を応用することにより、心拍及び呼吸の測定を行うための装置を得ることもできる。