(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、プランジャの先端部に樹脂製のプランジャリング(以下、樹脂リングという。)を周設した構成では、その樹脂の種類によっては樹脂リングが破損し、モールド樹脂が漏れてしまうおそれがある。樹脂漏れが発生すると、ポット内面にモールド樹脂が堆積(付着)し、プランジャの摺動不良を引き起こす場合がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術のように、成形品(製品)を構成するモールド樹脂と同一のものを用いて樹脂リングを形成することもできる。しかしながら、成形品を構成するモールド樹脂のすべてが樹脂リングに適するものであるとは限らない。例えば、モールド樹脂が耐熱性や耐摩耗性、硬さなどにおいて長時間のプランジャ摺動に耐えられない場合、樹脂リングが破損してしまうおそれがある。したがって、成形品のモールド樹脂によって、プランジャに摺動不良が発生したり、しなかったりとバラツキが生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、プランジャの摺動不良の発生を防止することのできる技術を提供することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。本発明の一実施形態におけるプランジャは、樹脂が供給されるポットに摺動可能に収容され、先端部で前記樹脂を押圧するプランジャであって、前記先端部には、プランジャ軸の周方向に沿ったリング凹部が設けられ、前記リング凹部には、一部が切り欠かれた切り欠き部を有する複数の外リングが、プランジャ軸の方向に重なって組み付けられ、重なった互いの前記外リングは、それぞれの前記切り欠き部が非連続となるように組み付けられ
、前記複数の外リングは、重なった前記複数の外リングの内側に前記外リングより熱膨張係数の大きい内リングがはめ込まれて、前記内リングを介して前記リング凹部で組み付けられていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、前記切り欠き部を設けることで、前記金属リングが拡径したり縮径したりして(弾発性を持たせて)前記ポットの内周面に対する前記プランジャのシール性を向上させることができる。さらに、前記複数の金属リングが、それぞれの前記切り欠き部を非連続となるようにずらして前記リング凹部に配置されることで、前記プランジャが樹脂を押圧する際に、プランジャ後端側へ樹脂が漏れるのを防止することができる。したがって、前記プランジャにおいて、摺動不良の発生を防止することができる。
また、前記樹脂を押圧する際に、前記外リングの変形を防止するように、前記内リングが前記外リングを支持することができる。また、前記外リングの内側の領域が前記内リングで占められると共に、前記外リングと前記内リングとのクリアランスを可及的に少なくできるため、前記プランジャ内部側への樹脂侵入を防止することができる。
【0010】
本発明の他の実施形態におけるプランジャは、樹脂が供給されるポットに摺動可能に収容され、先端部で前記樹脂を押圧するプランジャであって、前記先端部には、プランジャ軸の周方向に沿ったリング凹部が設けられ、前記リング凹部には、一部が切り欠かれた切り欠き部を有する複数の外リングが、プランジャ軸の方向に重なって組み付けられ、重なった互いの前記外リングは、それぞれの前記切り欠き部が非連続となるように組み付けられ、前記リング凹部には、プランジャ先端側から第1の前記外リングと第2の前記外リングとが重なっており、前記第1の外リングと前記第2の外リングとは、前記第2の外リングの内周に沿った端面周凹部に、前記第1の外リングの内周に沿った端面周凸部が差し込まれて組み付けられ、前記第1の外リングが前記ポットから突出した状態において、前記第2の外リングが前記ポットの内周面と接する外径で維持されることを特徴とする。
【0011】
これによれば、前記切り欠き部を設けることで、前記金属リングが拡径したり縮径したりして(弾発性を持たせて)前記ポットの内周面に対する前記プランジャのシール性を向上させることができる。さらに、前記複数の金属リングが、それぞれの前記切り欠き部を非連続となるようにずらして前記リング凹部に配置されることで、前記プランジャが樹脂を押圧する際に、プランジャ後端側へ樹脂が漏れるのを防止することができる。したがって、前記プランジャにおいて、摺動不良の発生を防止することができる。また、前記プランジャが前記樹脂を押圧する際に、前記樹脂が前記第1の外リングの前記切り欠き部に侵入する(入り込む)ことによる前記第1の外リングの開き(内圧による開き)を防止することができる。
【0012】
また、本発明の他の実施形態では、最もプランジャ先端側の前記外リング(最先端リング)を除く他の前記外リングには、プランジャ軸の周方向に沿ったリング周溝部が設けられていることを特徴とする。これによれば、最先端リングで樹脂漏れを防止すると共に、前記ポットの内周面に対する前記プランジャの先端部の接触面積を小さくすることができる。また、仮に、最先端リングで樹脂漏れした場合であっても、他の前記外リングの前記リング周溝部を樹脂溜まりとして用いてプランジャ後端側への樹脂漏れを防止することができる。
【0013】
また、本発明の他の実施形態では、前記複数の外リングには、表面処理が施されていることを特徴とする。これによれば、前記外リングがより硬質となって前記プランジャの耐久性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の他の実施形態では、前記先端部を構成する第1ホルダおよび第2ホルダを備え、前記第1ホルダには、ロッド部が設けられ、前記第2ホルダには、前記ロッド部が挿入される挿入部が設けられ、前記複数の外リングは、前記ロッド部に通されて前記第1ホルダおよび前記第2ホルダでホールドされていることを特徴とする。これによれば、前記複数の外リングを前記先端部で容易に周設することができる。
【0015】
本発明の一実施形態における樹脂モールド装置は、
キャビティが形成されるモールド金型と、前記キャビティに連通して前記モールド金型に設けられ、樹脂が供給されるポットと、前記ポットに摺動可能に収容され、先端部で前記樹脂を押圧するプランジャと、を備え、前記先端部には、プランジャ軸の周方向に沿ったリング凹部が設けられ、前記リング凹部には、一部が切り欠かれた切り欠き部を有する複数の外リングが、プランジャ軸の方向に重なって組み付けられ、重なった互いの前記外リングは、それぞれの前記切り欠き部が非連続となるように組み付けられ、前記リング凹部には、プランジャ先端側から第1の前記外リングと第2の前記外リングとが重なっており、前記第1の外リングと前記第2の外リングとは、前記第2の外リングの内周に沿った端面周凹部に、前記第1の外リングの内周に沿った端面周凸部が差し込まれて組み付けられ、前記第1の外リングが前記ポットから突出した状態では、前記第2の外リングが前記ポットの内周面と接する外径で維持されることを特徴とする。これによれば、樹脂モールド装置の信頼性を高めることができる。
【0016】
本発明の一実施形態における樹脂モールド方法は、
(a)樹脂をポット内に供給する工程と、
(b)前記ポットに摺動可能に収容されたプランジャの先端部で前記樹脂を押圧して、前記樹脂を前記ポットと連通するキャビティへ圧送する工程と、
(c)前記キャビティを前記樹脂で充填して加熱・硬化する工程とを含む樹脂モールド方法であって、
前記(a)、(b)、(c)工程の前に、一部が切り欠かれた切り欠き部を有する第1および第2の外リングを前記プランジャの先端側からこの順に前記プランジャの軸の方向に重ねて互いの前記切り欠き部が非連続となるように、前記第2の外リングの内周に沿った端面周凹部に前記第1の外リングの内周に沿った端面周凸部を差し込んで、前記プランジャの先端部で前記プランジャの軸の周方向に沿って設けられたリング凹部に前記第1の外リングおよび前記第2の外リングを組み付けておき、前記(b)工程では、前記第1の外リングを前記ポットから突出させて前記樹脂を押圧し、前記ポットの内周面に対して前記
第2の外リングにより前記樹脂を塞ぎ止めながら
前記ポット内で前記第2の外リングを摺動させることを特徴とする。ここで、前記樹脂として、低粘度の液状樹脂が用いられることを特徴とする。これによれば、前記プランジャ後端部側への樹脂漏れを防止して樹脂モールドすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。本発明の一実施形態によれば、前記プランジャの摺動不良の発生を防止することができる。また、前記プランジャの摺動性を維持しつつ、押圧する樹脂の種類に関係なく前記プランジャの前記先端部の外周側面と前記ポットの内周面とのクリアランスを可及的に少なくすることができる。また、前記外リングとして金属リングを用いた場合、樹脂リングで前記プランジャの先端部の外周側面と前記ポットの内周面との間をシールするわけではないため、リング破損による樹脂漏れを防止することができる。また、樹脂漏れを防止することで、前記ポットの内周面の樹脂汚れも防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の本発明に係る実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0021】
本発明の実施形態では、樹脂が供給されるポットに摺動可能に収容され、先端部で前記樹脂を押圧するプランジャを、樹脂モールド装置に適用した場合について説明する。
【0022】
まず、本発明の実施形態における樹脂モールド装置100および樹脂モールド方法について説明する。
図1、
図2に本発明の実施形態におけるプランジャ10を備えた樹脂モールド装置100の要部(モールド金型60)の断面図を示す。なお、説明を明解にするために、
図1、
図2では、プランジャ10を側面視で示している。
【0023】
樹脂モールド装置100は、例えば、図示しない供給部と収納部との間に、少なくとも一つのプレス部を備えて構成される。各プレス部には、キャビティ67が構成されるモールド金型60が少なくとも1つ設けられて、キャビティ67までの樹脂路に溶融した樹脂Rを圧送するプランジャ10が設けられる。供給部は、ローダ(搬送装置)を用いて被成形品であるワークWや例えばタブレット状の樹脂Rをプレス部に供給する公知の機構で構成される。また、収納部は、プレス部からアンローダ(搬送装置)を用いて樹脂モールド成形された成形品であるワークWを取り出し、収納する公知の機構で構成される。なお、樹脂モールド装置100として、供給部と収納部を備えず、プレス部にモールド金型60を備えたマニュアル式の構成を採用してもよい。
【0024】
樹脂モールド装置100は、モールド金型60を構成する上型61(一方の金型)および下型62(他方の金型)と、下型62に設けられて樹脂Rが供給される筒状のポット63と、ポット63に摺動可能(上下方向に進退動可能)に収容されたプランジャ10とを備えている。下型62の中央部では金型面で開口するポット63が設けられ、その両側ではワークWをセットするセット部64が設けられている。なお、ワークWには、例えば基板やリードフレーム上に複数の電子部品(例えば、半導体チップ)が実装されたものが用いられる。また、樹脂Rとしては、タブレット状の他に、液状、顆粒状、粉末状などの種々のモールド樹脂を用いることができる。
【0025】
プランジャ10は、先端部11(ヘッド部)の外周側面をポット63の内周面に摺接させた状態で下型62に設けられている。下型62の下方には、プランジャ10を摺動する駆動機構(図示せず)が設けられている。例えば、駆動機構は、油圧あるいは電動モータによる駆動力を利用するものであり、この駆動機構とプランジャ10とは、駆動機構に設けられた押動ロッドの上端面とプランジャ10の後端部とがキー係合して、抜け止め状態で連結される。
【0026】
図1に示す状態は、モールド金型60において、すでに、ポット63にタブレット状の樹脂Rおよびセット部64にワークW(被成形品)が供給されており、その後、モールド金型60が型閉じして上型61と下型62とでワークWをクランプした工程の状態である。この状態では、上型61に形成されたカル65、ランナ・ゲート66、ワークWの一部(例えば、電子部品)を樹脂モールドするためのキャビティ67が連通している。ここで、カル65は、ポット63と対向して配置され、ポット63と連通している。
【0027】
図2に示す状態は、ポット63内でプランジャ10が上方向へ摺動し、成形温度に加熱されたモールド金型60によって溶融した樹脂Rを圧送して、ポット63からカル65およびランナ・ゲート66を介してキャビティ67へ樹脂Rが充填された工程の状態である。樹脂Rが加熱・硬化されることで、ワークWは成形品となる。なお、
図2に示すプランジャ10の位置は、上死点位置となっている。
【0028】
次に、本発明の実施形態におけるプランジャ10について説明する。
図3にプランジャ10の組み立て側面図、
図4にプランジャ10の分解図を示す。これら
図3、
図4では、説明を明解にするために、プランジャ10の内部を破線で示している。また、
図5にプランジャ10の断面図を示す。この
図5は、
図2に示す樹脂モールド装置100の要部断面図でもある。
【0029】
プランジャ10は、本発明における「外リング」であって先端部11で周設される複数の金属リング12(本実施形態では、2本の第1金属リング12A、第2金属リング12Bとして説明する。)を備えている。具体的には、プランジャ軸10a(
図3参照)の周方向に沿ったリング凹部14が設けられており、このリング凹部14に複数の金属リング12が、プランジャ軸10aの方向に重ねてはめ込まれている。なお、
図4に示すように、リング凹部14は、プランジャ10の先端部11の基部を構成する第1ホルダ20および第2ホルダ30が組み付けられることによって形成される。
【0030】
本実施形態における金属リング12は、成形温度に加熱されるモールド金型60内で、ポット63の内周面と接する(密着する)必要がある。すなわち、金属リング12には、切り欠き部13の幅を狭めることで外径が小さくなる(縮径する)ような、弾性係数の材料を用いる必要がある。また、金属リング12には、ポット63内で摺動しても摩耗量の少ない硬質な材質を用いることが好ましい。このため、本実施形態では、鋼材(例えば、ステンレス鋼やバネ鋼)などの任意の材質を用いて金属リング12を形成している。
【0031】
このように、金属リング12を用いることで、特許文献1、2に記載のような樹脂リングで構成する場合と比較して、摺動箇所が硬質となり、その耐久性が向上することで、破損する割合を極めて低くすることができる。したがって、プランジャ10の摺動不良の発生を防止することができる。また、複数の金属リング12には、表面処理として例えばメッキ処理を施こすことが有効である。メッキ処理により、金属リング12の表面には、例えば、ハードCr膜、CrN膜、TiN膜が形成される。このため、プランジャ10の摺動箇所となる金属リング12全体がより硬質となってプランジャ10の耐久性、摺動性を向上させることができる。また、金属リング12には、他の表面処理として例えば窒化処理を施して窒化層を形成することで摺動性を向上させることも可能である。
【0032】
このような各金属リング12には、周方向の一部が切り欠かれた切り欠き部13が設けられている。言い換えると、金属リング12は、切り欠き部13によって一部が切り離された環状となるような円筒体に形成されている。切り欠き部13が、一方の端面(表面側のリング面)から他方の端面(裏面側のリング面)へ真っ直ぐに所定幅で切り欠いた形状である場合、例えば、切り欠いた環状の素材を所定の幅で切断していくことで一括して多数の金属リング12を容易に形成することができる。なお、切り欠き部13の幅は、プランジャ10の組み立て前後においては変わらず、所定の幅W1となっている(
図3参照)。
【0033】
本実施形態では、複数の金属リング12の外径は、ポット63の内径よりも、例えば最大で数パーセント程度大きくした形状としている。このようにしても、切り欠き部13によって金属リング12の外径を縮径して(弾発性を持たせて)ポット63に収納することができる。このため、プランジャ10がポット63に収容された状態(
図1参照)では、切り欠き部13の幅は、幅W1よりも狭い幅W2となっている。
【0034】
プランジャ10がポット63に収容された状態では、金属リング12は、弾発して常に外径が拡径しようとする。このため、プランジャ10の摺動時においても、金属リング12が容易に拡径するので、プランジャ10の先端部11とポット63のクリアランスを可及的に少なく(小さく)することができ、プランジャ10のシール性を向上させることができる。これにより、ポット63とプランジャ12との隙間における樹脂漏れの発生を確実に防止することができる。したがって、プランジャ10の摺動不良の発生を防止することができる。また、ポット63の内周の汚れの付着を低減してメンテナンス工数も削減することができる。なお、金属リング12を熱膨張により拡径させることで、金属リング12とポット63のクリアランスを少なくすることもできる。また、後述する内リングの熱膨張により、金属リング12とポット63のクリアランスを少なくすることもできる。
【0035】
また、プランジャ軸10aの方向に重なった互いの金属リング12は、それぞれの切り欠き部13が周方向にずらされることで非連続となるように組み付けられている。このため、プランジャ10が樹脂Rを押圧する際に(
図2参照)、仮に、第1金属リング12Aの切り欠き部13に樹脂Rが侵入したとしても、第2金属リング12Bで停止させ、プランジャ後端側へ樹脂Rが漏れるのを防止することができる。したがって、プランジャ10の摺動不良の発生を防止することができる。
【0036】
また、
図2に示す状態では、第2金属リング12Bの切り欠き部13に樹脂Rが侵入する場合もある。この場合は、リング凹部14の内壁面によって、樹脂Rの侵入を停止でき、プランジャ後端側へ樹脂Rが漏れるのを防止することができる。
【0037】
ところで、本実施形態では、2本の金属リング12のうちプランジャ先端側から第1金属リング12A、第2金属リング12Bの順でこれらが重なってリング凹部14に組み付けられている。
図6(a)に第1金属リング12Aの平面図、
図6(b)に第1金属リング12Aの側面図を示す。また、
図7(a)に第2金属リング12Bの平面図、
図7(b)に第2金属リング12Bの側面図を示す。
【0038】
第1金属リング12Aの下端面(第2金属リング12B側端面)には、内周に沿った端面周凸部15が設けられている。また、第2金属リング12Bの上端面(第1金属リング12A側端面)には、内周に沿った端面周凹部16が設けられている。複数の金属リング12(第1金属リング12A、第2金属リング12B)が、プランジャ軸10aの方向に重ねられた状態では、第1金属リング12Aと第2金属リング12Bとは、端面周凹部16に端面周凸部15が差し込まれている(
図5参照)。これによれば、プランジャ10が樹脂Rを押圧する際に、樹脂Rが第1金属リング12Aの切り欠き部13に侵入する(入り込む)ことによる第1金属リング12Aの開き(内圧による開き)を防止することができる。
【0039】
具体的に
図5を参照して説明する。端面周凹部16に端面周凸部15が差し込まることで、第1金属リング12Aと第2金属リング12Bとは、段付きにより係合することとなる。ここで、プランジャ10の先端部11が樹脂Rを押圧すると、反作用によりモールド金型60の内圧が先端部11に加えられる。すると、第1金属リング12Aの切り欠き部13に侵入した樹脂Rが、第1金属リング12Aを開く、すなわち拡径しようとする。
【0040】
仮に、第1金属リング12Aがその切り欠き部13に侵入した樹脂Rによって大きく開こうとしても、第1金属リング12Aと第2金属リング12Bとが段付きにより係合しているため、第1金属リング12Aが拡径しようとしても、第2金属リング12Bがそれを防止することとなる。
【0041】
本実施形態では、プランジャ10が上死点位置の状態では、第2金属リング12Bの外周側面は、ポット63の内周面と接するようにしている。このため、仮に、第1金属リング12Aが拡径しようとしても、ポット63の内径より拡がらない第2金属リング12Bによって、確実に防止することができる。すなわち、第1金属リング12Aがポット63から突出した状態から戻そうとしたときに、例えば、第1金属リング12Aと第2金属リング12Bとが段付きにより係合されていない構成であれば、第1金属リング12Aがその切り欠き部13に侵入した樹脂Rの圧力により第1金属リング12Aが拡径し、ポット63の端面で引っ掛かり、プランジャ10の摺動不良を引き起こすことになってしまう。しかしながら、本実施形態の構成では、第1金属リング12Aの拡径を防止し、プランジャ10の摺動不良の発生を確実に防止することができる。
【0042】
また、複数の金属リング12のうち、最もプランジャ先端側の最先端リングである金属リング12(第1金属リング12A)を除いた他の金属リング12(第2金属リング12B)は、プランジャ軸10aの周方向に沿ったリング周溝部17を有している。これによれば、最先端リング(第1金属リング12A)で樹脂漏れを防止すると共に、ポット63の内周面に対するプランジャ10の先端部11の接触面積を小さくすることができる。また、仮に、最先端リング(第1金属リング12A)で樹脂漏れした場合であっても他の金属リング12(第2金属リング12B)のリング周溝部17を樹脂溜まりとして用いてプランジャ後端側への樹脂漏れを防止することができる。
【0043】
このような複数の金属リング12は、先端部11を構成する一対の第1ホルダ20と第2ホルダ30を組み付けることで、リング凹部14を形成し、該リング凹部14に容易に周設することができる。ここで、
図4を参照して、プランジャ10が備えている第1ホルダ20および第2ホルダ30について説明する。
【0044】
第1ホルダ20は、フランジ部21と、テーパ部22と、円柱体部23と、ロッド部24とを有し、これらがこの順に一体となるように、例えば合金鋼から形成されてなる。フランジ部21は、ポット63の内径とほぼ同一若しくは若干小さい外径に形成される。テーパ部22は、フランジ部24に連結して延出側が縮径して形成される。円柱体部23は、テーパ部22の縮径側に連結して円柱体状に延出して形成される。ロッド部24は、円柱体部23から円柱体部23よりも細径に形成され、軸方向に延出して形成される。このロッド部24には、その径方向に貫通するノックピン孔25が形成される。
【0045】
第2ホルダ30は、金属リング12を受ける受け部31と、これに続く胴体部32(軸部)とを有し、これらが一体となるように、例えば合金鋼から形成されてなる。受け部31は、ポット63の内径とほぼ同一若しくは若干小さい外径に形成され、複数の金属リング12を支持するため、フランジ部21よりも肉厚となっている。胴体部32は、受け部31に連結して円柱体状に延出し、受け部31よりも縮径して形成される。この胴体部32には、受け部31の端面からプランジャ軸10a方向にロッド部24が挿入される挿入部33が形成される。このため、挿入部33は、ロッド部24の外径と同一の内径で、ロッド部24の全長が挿入される深さに形成される。また、胴体部32には、複数の金属リング12をホールドした状態で第1ホルダ20のノックピン孔25と孔位置が一致し、胴体部32の径方向に貫通するノックピン孔34が形成される。
【0046】
挿入部33にロッド部24が挿入された状態(挿入方向を
図4中の太い矢印で示す。)では、フランジ部21や受け部31に対して、テーパ部22、円柱体部23が細径となっている。すなわち、プランジャ10の先端部11には、プランジャ軸10aの周方向に沿ったリング凹部14が形成される。このリング凹部14で周設される複数の金属リング12は、ロッド部24に通されて第1ホルダ20および第2ホルダ30でホールドされている。このように複数の金属リング12をロッド部24に通すことで、複数の金属リング12をプランジャ10の先端部11に容易に周設することができる。
【0047】
このように、プランジャ10が組み立てられた状態では、互いに位置合わせされたノックピン孔25およびノックピン孔34を通過するように、ノックピン19が挿入されることで、第1ホルダ20が第2ホルダ30に抜け止めされる(
図5参照)。また、第1ホルダ20と第2ホルダ30とが組み立てられることで、プランジャ10の先端部11の外周に沿ったリング凹部14が形成される。プランジャ10には、このリング凹部14に周設されて金属リング12がシール構造として設けられる。
【0048】
ところで、第1ホルダ20と第2ホルダ30との間に形成されるリング凹部14には、内リング40が周設されている。この内リング40は、先端部11で周設される複数の金属リング12(外リングとなる。)の内側にはめ込まれている。言い換えると、複数の金属リング12は、内リング40と同心状に、内リング40を介してリング凹部14で組み付けられている。なお、内リング40も複数の金属リング12とともにロッド部24に通すことで、内リング40も先端部11に容易に周設することができる。
【0049】
このため、金属リング12には、プランジャ軸10a方向に貫通する貫通孔18が形成されており、この貫通孔18の内径は、内リング40の外径と同一に形成されている。また、金属リング12は、
図3に示すように、全て(第1金属リング12A、第2金属リング12B)を組み合わせて内リング40と同等の幅(厚み)となるよう、内リング40よりも細く(薄く)形成されている。本実施形態のように、2本の金属リング12を用いるときには、2本の金属リング12の幅を足した幅が内リング40の幅と同等となる。
【0050】
一方、内リング40は、金属リング12の内径と略同一の外径を有する円筒体に形成されている。この内リング40には、プランジャ軸10aの方向に貫通する貫通孔41が形成される。この貫通孔41の内径は、第1ホルダ20に設けられた円柱体部23の外径と同一に形成されている。また、内リング40には、貫通孔41の内周端面側に第1ホルダ20のテーパ部22が嵌合するテーパ部42が形成されている。
【0051】
内リング40には、樹脂50の成形温度において金属リング12(外リング)よりも熱膨張係数(または線膨張係数)の大きい弾性材料が用いられている。具体的には、内リング40には、成形温度において所定の強度を有して、モールド金型60のポット63を形成する材質に比べてより大きな熱膨張係数を有するプラスチック(例えば、フッ素系樹脂)やゴム(例えば、合成ゴム)のような樹脂材が用いられる。
【0052】
このような内リング40を積み重なった複数の金属リング12の内側にはめ込むことで、溶融した樹脂Rをプランジャ10で押圧する際、モールド金型60によって内リング40が加熱されて熱膨張し、金属リング12を径方向(外周方向)へ押し付ける作用をする。このため、溶融した樹脂Rをプランジャ10で押圧する際に、内リング40が金属リング12を支持することができる。また、金属リング12とポット63の内周面との間のクリアランスを可及的に少なくすることができる。また、プランジャ10内部も内リング40で埋められることとなり、プランジャ10内部側への樹脂Rの侵入を防止することができる。
【0053】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、代表的なものの新規な特徴およびこれによって得られる作用、効果を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0054】
プランジャ10の先端部11には、プランジャ軸10aの周方向に沿ったリング凹部14が設けられる。リング凹部14には、一部が切り欠かれた切り欠き部13を有する複数の金属リング(外リング)12が、プランジャ軸10aの方向に重なってリング凹部14で組み付けられる。重なった互いの金属リング(外リング)12、12は、それぞれの切り欠き部13、13が非連続となるように、周方向にずらして組み付けられる。
【0055】
これによれば、金属リング(外リング)12を用いて、プランジャ10とポット63とのクリアランスを可及的に少なくして、摺動が可能な範囲で非常に少ない状態に保つこともできる。このため、プランジャ10の摺動性を維持しつつ、樹脂Rの種類に関係なく、例えば、流動性の高い透明なLED用に用いられる極めて粘度の低く樹脂漏れが発生しやすい液状樹脂においても樹脂漏れを防止することができる。また、モールド金型60のキャビティ67でワークWの板材にフリップチップ実装された半導体チップのチップ下を充填し樹脂封止するモールドアンダーフィルにおいて用いられる粘度が低い樹脂などであってもプランジャ10で押圧することができる。また、外リングとして金属リング12を用いる場合、樹脂リングでプランジャ10とポット63との間をシールするわけではないため、リング破損による樹脂漏れを防止することもできる。また、樹脂漏れを防止することで、ポット63の内周面の樹脂汚れも防止することができる。
【0056】
したがって、プランジャ10の摺動不良の発生を防止することができる。そして、このようなプランジャ10を樹脂モールド装置100に適用することで、樹脂モールド装置100の信頼性を高くすることができる。
【0057】
さらに、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0058】
前記実施形態では、金属リング12の切り欠き部13は、一方の端面(表面側のリング面)から他方の端面(裏面側のリング面)へ真っ直ぐに所定幅で切り欠いた形状とした場合について説明した。これに限らず、種々の切り欠き形状とした場合であってもよい。
【0059】
例えば、切り欠き形状を、表面側を狭く、裏面側を広くしたテーパ状(
図8参照)、段付き状(
図9参照)、傾斜状(
図10参照)などとした場合であってもよい。この場合、例えば
図8に示すテーパ状の切り欠き部13とすることで、切り欠き部13内に樹脂Rを溜め込み硬化させ、クリアランスが少ない状態で安定させることもできる。また、逆向きのテーパ状の切り欠き部13とすることで切り欠き部13内の樹脂Rに接する面積を大きくすることもできる。この場合、樹脂Rに加えられた圧力に応じて、金属リング12とポット63とのクリアランスを少なくするようにすることもできる。
【0060】
また、切り欠き形状を長い傾斜状とすることで金属リング12がスプリング状(
図11参照)となる場合であってもよい。さらに、切り欠き形状は直線的でなく拡径用の隙間を設けた噛み合わせ状(
図12参照)とした場合であってもよい。
【0061】
前記実施形態では、プランジャ10の先端側に設けられた第1金属リング12A(先端側リング)と、プランジャ10の後端側に設けられた第2金属リング12B(後端側リング)とは、端面周凹部16に端面周凸部15が差し込まれて積み重なる場合について説明した。これに限らず、端面周凸部や端面周凹部を設けずに先端側リングと後端側リングとを積み重ねる場合であってもよい。また、後端側リングの端面(先端側リングと接する側の端面)内に設けた複数の凹部に、先端側リングの端面(後端側リングと接する側の端面)内に設けた複数の凸部を差し込んで、先端側リングと後端側リングとを積み重ねる場合であってもよい。このような凸部および凹部を設ける場合、プランジャ軸の周方向への先端側リングまたは後端側リングの少なくともいずれか一方の回動を防止でき、それぞれの切り欠き部が繋がってしまうのを防止することができる。
【0062】
前記実施形態では、複数の金属リング12の材質を同じものとした場合について説明した。これに限らず、複数の金属リングの材質を異なるものとした場合であってもよい。異なる材質で形成される場合、例えば、後端側リングに対して先端側リングの熱膨張係数を高くなるように形成することが考えられる。この場合、溶融した樹脂をプランジャが押圧する際、よりプランジャ先端側の先端側リングでポットの内周面とのシール性を確保することができる。
【0063】
前記実施形態では、金属リング12を2本積み重ねて2段とした場合について説明した。これに限らず、金属リングを2本以上積み重ねた場合であってもよい。例えば、金属リングを3本(第1金属リング、第2金属リング、第3金属リング)積み重ねた場合、第1金属リングが最先端リングとなる。また、第1金属リングと第2金属リングとの位置関係において、プランジャ先端側の第1金属リングが先端側リングとなり、プランジャ後端側の第2金属リングが後端側リングとなる。また、第2金属リングと第3金属リングとの位置関係において、プランジャ先端側の第2金属リングが先端側リングとなり、プランジャ後端側の第3金属リングが後端側リングとなる。
【0064】
前記実施形態では、第1金属リング12Aを除いた他の第2金属リング12Bは、プランジャ軸10aの周方向に沿ったリング周溝部17を有している場合について説明した。これに限らず、金属リングのすべてにリング周溝部を設けない場合であってもよい。
【0065】
前記実施形態では、金属リング12には、表面処理が施されている場合について説明した。これに限らず、金属リングには表面処理が施されていない場合であってもよい。
【0066】
前記実施形態では、内リング40を備える場合について説明した。この場合、複数の金属リング12は、内リング40を介してリング凹部14に配置されることとなる。これに限らず、内リングを備えない場合であってもよい。すなわち、複数の金属リングは、内リングを介さずにリング凹部に配置される場合であってもよい。この場合、例えば、内リングの領域分を埋めるように、第1ホルダ部のテーパ部や円柱体部の形状を変えて(径方向に太らせて)対応することができる。
【0067】
前記実施形態では、第1ホルダ20と第2ホルダ30を組み付ける際に、複数の金属リグ12は、ロッド部24に通されて、リング凹部14に配置される場合について説明した。これに限らず、第1ホルダと第2ホルダを組み付けた後、リング凹部に切り欠き部からはめ込むようにして複数の金属リングを組み付ける場合であってもよい。
【0068】
前記実施形態では、樹脂モールド装置100にプランジャ10を用いた場合について説明した。これに限らず、樹脂などの液体を押圧して所定箇所まで液体を圧送する装置にプランジャを用いる場合であってもよい。
【0069】
前記実施形態では、第1フランジ部21には、金属リング12の手前に厚みの薄いフランジ部21を設ける場合について説明した。これに限らず、フランジ部の厚みを肉厚にして、プランジャ軸の周方向に沿ったフランジ周溝部を形成したフランジ部を設ける場合であってもよい。この場合、プランジャ摺動の際、フランジ周溝部が樹脂溜まりとなって、ランジャ本体側への樹脂侵入を防止することができる。
【0070】
前記実施形態では、金属リング12の外径は、ポット63の内径よりも大きい場合について説明した。これに限らず、金属リングの外径とポットの内径とを同じとする場合であってもよい。
【0071】
前記実施形態では、切り欠き部13を有する金属リング12を用いた場合について説明した。これに限らず、金属螺旋部材を用いる場合であってもよい。
【0072】
あるいは、切り欠き部に代えて拡幅部を設ける場合であってもよい。この場合、例えば、金属リング(外リング)の外径を確実に拡大させてポットに密着させることができる任意の形状を利用することが考えられる。
【0073】
金属リングの円周方向における幅を拡げるための拡幅部として、金属リング12の一部もしくは全部を側面視波形として樹脂圧で伸ばされることで金属リング12が拡径できる構成としてもよい。この場合、軸方向に沿う向きに波の高さが変化するような構成とすることで、外周面を円形に保ちながら樹脂圧で金属リング12を伸ばしポット63とのクリアランスを少なくすることもできる。
【0074】
また、拡幅部として、金属リングの所定角度分についてプランジャの長さ方向における幅を細くすると共に金属リングの幅の間でつづら折り形状や蛇行形状といった折れ曲がった形状としたものを利用することもできる。これによれば、この拡幅部がその両端から引っ張られることで折れ曲がった部分が真っ直ぐに伸ばされるようになって幅が拡げられることで金属リングの外径を確実に大きくすることが可能である。
【0075】
なお、外リングとして、鋼材などの金属リングを用いる構成について説明したが本発明はこれに限定されない。例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、又は、熱可塑性ポリイミド樹脂のうち少なくとも1種により形成されていてもよい。このようなスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることもできる。
【0076】
また、
図13、
図14に示すように、内リング40の一部43の外形が外リング12と同程度となるようなフランジ状の形状として、ポット63に対する追従性を向上させることもできる。この場合、アンダーフィルに用いられるフィラー径の小さな樹脂やLEDのレンズ成形に用いられる粘度の低い樹脂を用いることで、樹脂が漏れやすい条件であっても樹脂漏れをより確実に防止することができる。