(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Si-SiC焼結体は、該骨格におけるSiCの含有比率が40〜65質量%、金属Siの含有比率が30〜55質量%であることを特徴とする請求項1記載の複合耐火物。
前記三次元網目構造を構成する骨格密度が垂直断面と水平断面とで異なり、垂直断面における骨格密度が水平断面における骨格密度の1.1〜40倍であることを特徴とする請求項1記載の複合耐火物。
【背景技術】
【0002】
近年、小型電子部品の焼成効率向上の観点から、脱脂工程と焼成工程の双方で共用できるセッターの需要がある。脱脂工程で用いるセッターには、バインダーを速やかに排出するための通気性が要求され、焼成工程で用いるセッターには、耐熱性や機械的強度の他に、焼成するセラミック電子部品と反応しない特性を備えることが要求される。
【0003】
焼成工程における前記要求を満足するセッターとして、アルミナ・ムライト系基材の表面に、中間層と、耐反応性のコート層を形成したセッターが広く知られている。また、前記のアルミナ・ムライト系基材に変えて、Si−SiC焼結体を基材として用いることにより、アルミナ・シリカ質の焼結体に比べて、耐熱性、耐食性に優れ、さらに、高強度かつ高熱伝導率という特性を備えており、セッターを薄肉化して窯効率の向上を図るとともに、エネルギー効率の向上を図る技術も開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1のセッターは、通気性を欠くため、脱脂工程との共用に適さない。通気性を備えるセッターとしては、従来のセラミック製の板材に変えて、金網を用いる技術が開示されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、金網は、高温の焼成工程において反りを生じやすい。また、Si−SiC焼結体に比べて熱伝導性に劣るため、金網上に載置された製品間に温度バラつきが生じ、製品品質が安定しないという問題があった。
【0006】
なお、通気性を備えるセラミック構造体に関し、「シュバルツワルダー法」により連続気孔フォームセラミックを製造する技術が知られている。従来の連続気孔フォームセラミックは、骨格の気孔部分から亀裂が入りやすく、機械的強度に劣る問題があったのに対し、SiCフォームセラミックにおいて骨格の気孔部分にSiを含浸させることにより、高強度化を図る技術も開示されている(特許文献3)。
【0007】
しかし、特許文献3の技術では、セラミックを高強度化すると、弾性率も同時に上昇してしまい、弾性率の上昇は耐熱衝撃性(熱衝撃破壊抵抗係数R´=σ(1−ν)λ/(αE)、ここでσ:強度、E:弾性率)の低下につながるため、耐熱衝撃性能と高強度化の両立を求められる用途への適用はできないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は前記の問題を解決し、高強度かつ高熱伝導率であって、耐熱衝撃性に優れ、かつ、通気性を備えるとともに、高温条件下での使用によって割れや反り等の変形を生じることのない複合耐火物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の複合耐火物は、Si−SiC焼結体を基材とする複合耐火物であって、前記Si−SiC焼結体は、気孔率1%以下の骨格で構成された三次元網目状構造を有し、該骨格におけるSiCの含有比率が35〜70質量%、金属Siの含有比率が25〜60質量%で
あり、かつ該骨格が、金属Siを主成分とし、残部にCを含む芯部と、SiCを主成分とし、Siと、元素として15〜50質量%のCとを含有する表層部から構成されたものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記Si-SiC焼結体は、該骨格におけるSiCの含有比率が40〜65質量%、金属Siの含有比率が30〜55質量%であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記三次元網目構造において、該三次元網目構造を構成する気孔と骨格の各々の形状が、(気孔径/骨格径)の平均値≧3を満足することを特徴とするものである。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、
前記骨格の芯部が、元素として5〜20質量%のCを含有することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記三次元網目構造を構成する骨格密度が垂直断面と水平断面とで異なり、垂直断面における骨格密度が水平断面における骨格密度の1.1〜40倍であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記Si-SiC焼結体の気孔率が50〜98%であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記基材の表層に、被処理体に対する耐反応性を備えた表面コート層を有することを特徴とするものである。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記基材の表層に、気孔率が0.1〜2%のSi-SiC焼結体からなる緻密質層を有することを特徴とするものである。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記基材が、気孔率の異なる前記Si-SiC焼結体を積層した構造を有することを特徴とするものである。
【0019】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の複合耐火物において、前記積層構造の内、最表層が、気孔率0.1〜2%の緻密層であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項11記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記基材のエッジ部に、気孔率0.1〜2%の緻密層からなる枠部を形成したことを特徴とするものである。
【0021】
請求項12記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物において、前記基材を支持するニッケル合金で構成される枠部材を備えることを特徴とするものである。
【0022】
請求項13記載の発明は、請求項1記載の複合耐火物の製造方法であって、有機溶剤にSiC粉末を分散させ、更に、ゲル化剤を添加して得られた成形用スラリーに、三次元網目構造からなる骨格を有するウレタンフォームを浸漬し、スラリーを硬化させる成形工程と、前記成形工程で得た成形体を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程を経た乾燥成形体に、金属Siを載置し、減圧かつ還元雰囲気中で焼成を行い、金属Siを前記乾燥成形体の骨格に含浸させる焼成工程を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
高強度かつ高熱伝導率という特性を備えたSi−SiCを用いた上で、気孔率1%以下の骨格を、三次元網目状とした構造とし、かつ、骨格におけるSiCの含有比率が35〜70質量%、Siの含有比率が25〜60質量%であり、より好ましくはSiCの含有比率が40〜65質量%、Siの含有比率が30〜55質量%とすることにより、高強度かつ高熱伝導率であって、耐熱衝撃性に優れ、かつ、通気性を備えるとともに、高温条件下での使用によって割れや反り等の変形を生じることのない複合耐火物を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0026】
(実施形態1:単層、圧縮なし)
本実施形態の複合耐火物は、
図1(a)に示すように、Si−SiC焼結体を基材とする単層構造のセッターである。セッターは、
図1(b)に示すように、骨格を三次元網目状とした構造からなる。骨格の気孔率は1%以下である。
【0027】
電子部品等の焼成工程においてセッターはSiの融点(1400℃付近)に近い1300℃前後の高温で使用される。そのため、前記骨格がSiのみで構成された場合、高温の焼成工程において、クリープ変形が生じやすい問題や、酸化して表層にSiO
2を生じやすい問題、炉内への酸素持ち込み量が多い問題等があった。これに対し、本発明では、耐酸化性および耐熱性が高く、なおかつ高強度なSiCを複合させたSi-SiCで構成することにより、これらの問題回避を実現している。
【0028】
また、通気性を備えるセッターでは、通気性のために形成された気孔部が断熱層となりやすく、熱伝導率の低いステンレスやNi等の金網を「通気性を備えるセッター」として用いた場合には、加熱・冷却時においてセッターに温度分布が生じやすく、セッターに載置された製品間に温度バラつきが生じ、製品品質が不安定となる問題や、高温の焼成工程において、温度分布すなわち熱膨張差に起因するセッターの反り変形が生じやすいという問題があった。これに対し、本発明では、ステンレスやNi等の金網に比べて熱伝導性に優れるSi−SiC焼結体を、三次元網目構造として「通気性を備えるセッター」を構成することにより、これらの問題回避を実現している。
【0029】
本発明では、骨格におけるSiCの含有比率が35〜70質量%、Siの含有比率が25〜60質量%となるように、各成分量を調整している。ここで、化学成分はJIS R 2011(炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法)により測定することができる。骨格におけるSiCの含有比率が70質量%より多い場合、SiC粒子間に気孔が残存しやすいため強度が低下する問題があり、35質量%より少ない場合、耐熱性が低下するため、高温の焼成工程において、クリープ変形が生じやすい問題がある。また、Siの含有比率が60質量%より多い場合、耐熱性が低下するため、高温の焼成工程において、クリープ変形が生じやすい問題があり、25質量%より少ない場合、SiC粒子間に気孔が残存しやすいため強度が低下する問題がある。
【0030】
さらに、骨格におけるSi含有比率が55質量%より多い場合には、Siが酸化して表層にSiO
2を生じやすく、30質量%より少ない場合には、SiC粒子間に気孔が残存しやすく、SiCが酸化して表層にSiO
2を生じやすく、何れも、表層に生じたSiO
2に起因して、耐熱衝撃性および耐熱性の低下による割れおよび反り変形、炉内への酸素持ち込み量の増加、被処理体との反応といった問題が生じやすくなるため、製品の長寿命化の観点から、SiCの含有比率が40〜65質量%、Siの含有比率が30〜55質量%となるように各成分量を調整することが、より好ましい。
【0031】
本発明では、このように、弾性率が高いSiC(弾性率:400GPa程度)と、弾性率の低いSi(弾性率:100GPa程度)を、SiCの含有比率が35〜70質量%、Siの含有比率が25〜60質量%であり、より好ましくはSiCの含有比率が40〜65質量%、Siの含有比率が30〜55質量%となるように調整して、骨格を形成することにより、Si−SiC焼結体の弾性率の低減を図っている。弾性率の低減は耐熱衝撃性(熱衝撃破壊抵抗係数R´=σ(1−ν)λ/(αE)、ここでσ:強度、E:弾性率)の向上につながるため、当該構成によれば、高強度かつ高熱伝導率という特性に加えて、耐熱衝撃性に優れるという特性を具備した複合耐火物を実現することができる。
【0032】
本実施形態では、Si−SiC焼結体の弾性率の低減を図ることを目的とした、もう一つの構成として、上記の三次元網目構造を構成する気孔と骨格の各々の形状が(気孔径/骨格径)の平均値≧3を満足するものとする構成を採用している。(気孔径/骨格径)の平均値≧3を満足するものとすることにより、製品強度の維持と、弾性率の低減の両立を実現することができる。なお、セッターの気孔率は、50〜98%とすることが好ましい。気孔率が49%以下では、十分な通気性が得られず、99%以上では、著しい強度低下により破損しやすくなるため何れも好ましくない。
【0033】
上記の骨格は、
図1(b)、
図2に示すように、芯部1と、気孔部2に面した表層部3から構成されている。
【0034】
【表1】
表1には、
図2の組成像の任意の2点におけるEDS分析結果を示している。表1に示すように、各部位(芯部1と表層部3)は、構成元素比率が異なり、芯部1では、C元素の含有比率が5〜20質量%、Si元素の含有比率が80〜95質量%、表層部3では、C元素の含有比率が15〜50質量%、Si元素の含有比率が50〜85質量%となっている。骨格中の遊離炭素(F.C)は0.1%以下であり、C元素は、骨格中でほぼSiCとして存在しているため、前記元素含有率からなる芯部1では、金属Siが主な構成成分となり、ここに、少量のSiCが含有されている。表層部3は、従来のSi−SiC焼結体と同様に、SiCを主成分とし、その気孔にSiを充填した構造を有している。
【0035】
芯部1のC元素の含有比率が20質量%より多い場合には、芯部1に気孔が残存しやすく、強度が低下する。、一方、5質量%より少ない場合には、耐熱性が低下するため、高温の焼成工程において、クリープ変形が生じやすくなるため、芯部1のC元素の含有比率は上記範囲とすることが好ましい。
【0036】
表層部3のC元素の含有比率が50質量%より多い場合には、SiC粒子間に気孔が残存しやすく、強度が低下する。、一方、15質量%より少ない場合には、耐熱性が低下するため、高温の焼成工程において、クリープ変形が生じやすくなるため、表層部3のC元素の含有比率は上記範囲とすることが好ましい。
【0037】
以下、本実施形態のセッターの製造方法について詳述する。本実施形態のセッターは、ゲルキャスト法により、
図3に示す各ステップ(ST1)〜(ST8)で作製される。ゲルキャスト法とは、本出願人の発明にかかる粉体成形方法であり、セラミック、ガラス、あるいは金属から選ばれた一種以上の粉体を、分散剤を用いて分散媒に分散させて作製したスラリーに、ゲル化能を有する物質(ゲル化剤)を添加することによりスラリーを硬化させ、任意形状の成形体を得る方法である。
【0038】
(ST1):
本実施形態のセッターは、ゲルキャスト法により成形されるため、まず成形用スラリーを作製する。本実施形態の成形用スラリーは、有機溶剤にSiC粉末を分散させスラリーとした後、ゲル化剤を添加することにより、或いは、有機溶剤にSiC粉末及びゲル化剤を同時に添加して分散することにより作製することができる。
【0039】
SiC粉末の他、カーボン、炭化硼素等の粉体を適宜混合して使用することもできる。なお、前記各セラミック粉体の粒径は、スラリーを作製することが可能であるかぎりにおいては、特に限定されるものではなく、製造の目的とする成形体に応じて適宜選定されるものである。
【0040】
分散媒として用いる有機溶剤は、エチレングリコール等のジオール類やグリセリン等のトリオール類等の多価アルコール、ジカルボン酸等の多塩基酸、グルタル酸ジメチル、マロン酸ジメチル等の多塩基酸エステル、トリアセチン等、多価アルコールのエステル等のエステル類を挙げることができる。
【0041】
ゲル化剤は、セラミックスラリーを硬化させる、反応性官能基を有する有機化合物であればよい。このような有機化合物としては、架橋剤の介在により三次元的に架橋するプレポリマー等、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。ゲル化剤は、分散媒中の有機化合物との反応性を考慮して、好適な反応性官能基を有するものを選定することが好ましい。例えば、有機溶剤として比較的反応性が低いエステル類を使用する場合には、ゲル化剤を構成する反応性官能基を有する有機化合物としては、反応性が高いイソシアネート基(−N=C=O)および/またはイソチオシアネート基(−N=C=S)を有する有機化合物を選択することが好ましい。本実施形態では、下記のST2に記載のように成形用スラリーをウレタンフォームに含浸させて成形するため、ウレタンフォームの弾性変形(撓みなど)に伴うSiCスラリー成形体の破壊を防止するために、ゴム弾性が高いウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
成形用スラリーは、ウレタンフォームへの含浸時には硬化せず、成形後は迅速に硬化することが好ましい。このため、セラミックスラリーの作製に当たっては、スラリーの温度、分散媒の種類や含有量、ゲル化剤の種類や含有量、ゲル化反応に寄与する触媒の有無、触媒の種類や含有量等を考慮することが好ましい。作業性を考慮すれば、20℃におけるスラリー粘性が50dPa・s以下であることが好ましく、更に、20℃におけるスラリー粘性が20dPa・s以下であることが、より好ましい。
【0043】
成形用スラリーの作製工程では、セラミック粉体、分散媒および分散剤の調合を行い、混合する。その後、ゲル化剤および触媒等を添加してスラリーの最終的な調合を行い、これをウレタンフォームへの含浸成形に先立って脱泡する。
【0044】
成形用スラリーの混合はポットミルやボールミル等で行い、ナイロン製の玉石を使用して温度15℃〜35℃で12時間以上、好ましくは72時間以上行う。また、スラリーの脱泡は、スラリーを真空雰囲気で撹拌して行い、真空度−0.090MPa以下、好ましくは−0.095MPa以下、撹拌速度は好ましくは100rpm〜500rpm、攪拌時間は好ましくは5分〜30分行う。
【0045】
(ST2)〜(ST4):
ST1で作製した成形用スラリーをウレタンフォームに含浸させた後、スラリーがウレタンフォームの気孔を塞がない程度に絞って余剰スラリーを除去し、固定用治具の上に載置して、常温〜40℃で数時間〜数十時間放置する。これにより、成形用スラリーは、ゲル化して硬化することによって成形体となる。
【0046】
図4(A)に示すように、ウレタンフォームは、骨格部4と空隙部5から構成されており、(ST2)では、
図4(B)に示すように、空隙部5に面してSiCスラリー成形体10が形成される。
【0047】
(ST5)〜(ST6):
続いて、40℃〜100℃で3〜12時間乾燥を行い、更に、100℃〜200℃で3〜12時間加熱を行ってウレタン形状の焼き付け、すなわち、ウレタンフォームの弾性を除去する処理を行う。
【0048】
なお、乾燥に伴ってSiCスラリー成形体10は収縮する。水を分散媒として用いた水系スラリーを使用した場合には、成形用スラリーを含浸時にウレタンフォームの膨潤が起こらないため、乾燥時におけるSiCスラリー成形体10の縮み代が確保できず、SiCスラリー成形体10にクラックが生じやすい問題があった。これに対し、本実施形態では、成形用スラリーを含浸時にウレタンフォームの膨潤が生じる有機溶剤を分散媒として用いているため、乾燥時におけるSiCスラリー成形体10の縮み代が確保され、乾燥に伴うSiCスラリー成形体10でのクラック発生を回避することができる。
【0049】
(ST7)〜(ST8):
図4(C)および
図5に示すように、弾性を除去したウレタンフォームの上面に金属Si7を載置して、不活性ガス雰囲気で1400℃〜1500℃で1〜3時間加熱を行う。ウレタンフォームの骨格部4は、500℃付近で焼失するが、
図4(D)に示すように、骨格部4が焼失して形成される空間に金属Si7が含浸することによって、三次元網目構造からなる緻密なSiC−Si骨格を有する新たな複合耐火物(気孔率50〜98%)が得られる。この方法によれば、金属Si7を、SiCスラリー成形体10で構成される骨格を伝って含浸させることができるため、金属Si7を空隙部5に目詰まりさせることなく、均一な含浸を行うことができる。
【0050】
なお、必要に応じて、
図6に示すように、上記ST8に続いて、耐反応性のコート焼付け工程(ST9)を設け、被処理体との接触面となる基材の上層側に、被処理体に対する耐反応性を備えた表面コート層を形成することもできる。表面コート層は、被処理体との反応性が低い材質で形成され、被処理体の種類に応じて材質は異なる。例えばチタン酸バリウムで構成されるセラミックコンデンサの場合、これと反応性の低いジルコニア化合物を選択することが好ましい。ジルコニア化合物としては、カルシア(CaO)またはイットリア(Y
2O
3)で安定化された安定化ジルコニアと、BaZrO3と、CaZrO3とのうち少なくとも一種からなるジルコニア化合物から、既述の反応性を考慮して最適なジルコニアを適宜選択すればよい。なお、電子部品の種類によっては、アルミナとジルコニアの共晶物を含む溶射被膜を表面コート層として用いることも可能である。表面コート層の形成方法は、特に限定されず、例えば、溶射又はスプレーコート法等、適宜最適な手法を採用することができる。
【0051】
また、必要に応じて、ST1で作製した成形用スラリーを基材のエッジ部に含浸して気孔を塞いだ後、硬化させ、ST5〜8に記載の乾燥、Si含浸工程を行うことにより、基材のエッジ部に、気孔率0.1〜2%のSi-SiC緻密層からなる枠部を形成することもできる。
【0052】
また、必要に応じて、基材を支持する枠部材を使用することもできる。枠部材は、ニッケル合金等で構成することが好ましい。この場合、Si−SiC焼結体からなる基材とニッケル合金の熱膨張差を吸収するために、基材と枠部材は固定せず、枠部材と基材との間に所定のクリアランスを設けることが好ましい。
【0053】
(実施形態2:単層、ウレタンフォームの圧縮あり)
図3および
図6中、ST3の「所定厚み・形状に固定」する工程において、ウレタンフォームを圧縮して固定することもできる。
【0054】
このように、成形用スラリーの硬化(ST4)に先立って、ウレタンフォームを圧縮することにより、前記の「三次元網目構造を有する新たな複合耐火物」の骨格密度を高め、高い強度を得ることができる。また、
図7(a)に示すように、セッターの薄肉化を図ることもできる。
【0055】
ウレタンフォームを圧縮して得られる本実施形態の複合耐火物は、
図7(b)に示すように、扁平な骨格構造を有し、
図8に示すように、垂直断面と水平断面とで異なる骨格密度を有している。垂直断面と水平断面の骨格密度比が40倍より大きい場合、側面(垂直断面)において十分な通気性が得られない。また、使用面(水平断面)においてもスラリーによる目詰まりが生じ、十分な通気性が得られないため、40倍以下とすることが好ましい。また、垂直断面と水平断面の骨格密度比が1.1倍より小さい場合、セッターの高強度化において十分な効果が得られないため、1.1倍以上とすることが好ましい。
【0056】
ここで、各骨格密度は下記の方法で測定することができる。まず、上記複合耐火物をフェノール樹脂等に埋設し、複合耐火物に対し垂直方向および水平方向に切断・研磨して測定用試料を作製する。次に日本電子株式会社(JEOL)製走査電子顕微鏡JSM-5600を使用して測定用試料の垂直断面および水平断面において、視野範囲0.1cm
2の組成像を得る。元素ごとの明度差を利用した組成像によれば、Si−SiC骨格部と空隙部を明確に表示することができる。次に、得られた組成像を画像処理ソフトを用いて一定の明度条件で白黒に2値化し、組成像における骨格部および空隙部の各総画素数を計測する。画像処理ソフトは例えばフリーソフトのImageNos(Ver1.04)が使用できる。このようにして視野範囲の総画素数に対する骨格部の総画素数の割合を骨格密度とすることができる(骨格密度=骨格部の総画素数/骨格部および空隙部の総画素数)。このようにして垂直断面および水平断面における骨格密度比を算出することができる(骨格密度比=垂直断面における骨格密度/水平断面における骨格密度)。ただし、三次元網目構造において骨格はランダムに配置されているため、1視野の断面組成像を以って骨格密度を算出することはできない。垂直断面および水平断面において少なくともそれぞれ5視野以上、より好ましくは10視野以上の断面組成像を以って骨格密度を算出する必要がある。
【0057】
なお、
図3および
図6中、ST3の「所定厚み・形状に固定」する工程において、所定形状の型を用いてウレタンフォームを圧縮して固定することもできる。このように、成形用スラリーの硬化(ST4)に先立って、ウレタンフォームを所定形状に固定することにより、前記の「三次元網目構造を有する新たな複合耐火物」の形状自由度を高め、複雑形状のセッターを作製することができる。複雑形状のセッターは、例えばコウ鉢(saggers)、段積み用の足付きセッター(setter with legs forstacking )を作製することができる。
【0058】
(実施形態3:多層)
図9に示すように、成形用スラリーの硬化(ST4)に先立って、ウレタンフォームの圧縮率の異なる層を重ねて一体化する工程(ST10)を設けることもできる。
【0059】
本実施形態の複合耐火物は、
図10に示すように、骨格密度の異なる層を積層した積層構造を有している。例えば、ローラーハースキルンにおけるローラー搬送を想定し、第1層8を高強度な緻密層とし、第2層9を通気性の高い層とするなど、使用形態に応じて最適な積層構造とすることができる。この場合、第1層8は緻密層であっても第2層9は三次元網目構造を有しているため、第2層9の上面および側面において高い通気性を得ることができる。その他、最表層を、気孔率0.1〜2%の緻密層とすることもできる。
【0061】
下記の実施例1〜6および比較例1〜2のセッターを用いて、加熱時における「割れ」および「反り変形」の発生を調べたところ、実施例1〜6では、何れも「割れ」および「反り変形」は確認されなかったのに対し、比較例1〜2では、何れも「割れ」および/または「反り変形」が確認された。
【0062】
(実施例1)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに150×150×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを除去後、スラリーを硬化させることによりウレタンフォームの骨格表面上にSiC(−C、−B
4C)層を形成した成形体を120℃で乾燥し、SiC成形体を作製した。次に、SiC成形体に対し、重量比90%の金属SiをSiC成形体に載置し、減圧かつ還元雰囲気中1500℃で焼成し、三次元網目構造を有するSi−SiCからなる厚さ5mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は95%であった。
(実施例2)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに150×150×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを除去後、固定用冶具を用いてウレタンフォームを厚さ1mmとなるように加圧・圧縮し、そのままスラリーを硬化させることにより、厚さ1mmのSiC成形体を作製した。実施例1と同様に焼成を行い、厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は60%であった。段落(00
55)に記載の方法により算出した骨格密度比は1.4倍であった。
(実施例3)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに180×180×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを除去後、箱型の固定用冶具を用いてウレタンフォームがコウ鉢形状となるように固定し、そのままスラリーを硬化させることにより、厚さ5mmの箱型のSiC成形体を作製した。実施例1と同様に焼成を行い、厚さ5mmの通気性コウ鉢を作製した。作製した通気性コウ鉢の気孔率は95%であった。
(実施例4)
実施例1で得られたSiC成形体の片面または両面に、実施例2で得られたSiC成形体を貼り合わせ、一体化させたSiC成形体を実施例1と同様に焼成を行い、多層構造を有する厚さ6〜7mmの通気性セッターを作製した。
(実施例5)
実施例2で得られたSiC成形体の片面に、ウレタンフォームを使用せずにSiCスラリーを硬化させて厚さ1mmのシート状に成形したSiC成形体を貼り合わせ、一体化させたSiC成形体を実施例1と同様に焼成を行い、高強度な緻密質層を含む多層構造を有する厚さ2mmの通気性セッターを作製した。
(実施例6)
実施例2で得られたSiC成形体のエッジ部にSiCスラリーを幅5mmまで含浸して気孔を塞いだ後、硬化させて一体化させたSiC成形体を実施例1と同様に焼成を行い、幅5mmの高強度な緻密質層のエッジ部を有する厚さ1mmの通気性セッターを作製した。
(実施例7)
実施例2で得られたSi−SiC焼成体の片面または両面にZrO
2および/またはAl
2O
3−SiO
2からなるスラリーをスプレー塗布後1350℃で焼成し、ZrO
2および/またはAl
2O
3−SiO
2からなる層を形成した。
(比較例1)
Ni金網からなるセッターを作製した。
(比較例2)
特許文献1記載の手法で厚さ1mmのセッターを作製した。
【0063】
[実施例B]
(実施例8)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに150×150×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを除去後、固定用冶具を用いてウレタンフォームを厚さ1mmとなるように加圧し、そのままスラリーを硬化させることにより、厚さ1mmのSiC成形体を作製した。実施例1と同様に焼成を行い、厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は60%であった。骨格全体のSiCの含有比率は46.5質量%、Siの含有比率は48.4質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は19.8質量%、表層部におけるC含有量は46.8質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は4.9であった。
(実施例9)
150×150×3mmのウレタンフォームを用いて、実施例8と同様の方法で厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は70%であった。骨格全体のSiCの含有比率は54.1質量%、Siの含有比率は40.0質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は11.1質量%、表層部におけるC含有量は33.6質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は4.6であった。
(実施例10)
150×150×2mmのウレタンフォームを実施例8と同様の方法で厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は80%であった。骨格全体のSiCの含有比率は58.8質量%、Siの含有比率は35.8質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は6.0質量%、表層部におけるC含有量は16.0質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は3.9であった。
(比較例3)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに150×150×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを除去後、固定用冶具を用いてウレタンフォームを厚さ1mmとなるように加圧し、そのままスラリーを硬化させることにより、厚さ1mmのSiC成形体を作製した。次に、SiC成形体に対し、重量比60%の金属SiをSiC成形体に載置し、減圧かつ還元雰囲気中1500℃で焼成し、、厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は60%であった。骨格全体のSiCの含有比率は73.3質量%、Siの含有比率は21.6質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は10.1質量%、表層部におけるC含有量は55.7質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は3.6であった。
(比較例4)
比較例3と同様の方法で、厚さ1mmのSiC成形体を作製し、次に、SiC成形体に対し、重量比120%の金属SiをSiC成形体に載置し、減圧かつ還元雰囲気中1500℃で焼成し、、厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は60%であった。骨格全体のSiCの含有比率は28.4質量%、Siの含有比率は66.2質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は11.4質量%、表層部におけるC含有量は13.6質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は4.2であった。
(比較例5)
有機溶剤にSiC(−C、−B
4C)を分散させ、ウレタン樹脂(イソシアネートおよび触媒)を混合したSiCスラリーに150×150×5mmのウレタンフォームを浸漬し、余剰スラリーを十分除去せずに、固定用冶具を用いてウレタンフォームを厚さ1mmとなるように加圧し、そのままスラリーを硬化させることにより、厚さ1mmのSiC成形体を作製した。次に、SiC成形体に対し、重量比60%の金属SiをSiC成形体に載置し、減圧かつ還元雰囲気中1500℃で焼成し、、厚さ1mmの通気性セッターを作製した。作製した通気性セッターの気孔率は40%であった。骨格全体のSiCの含有比率は68.8質量%、Siの含有比率は23.8質量%であり、該骨格の芯部におけるC含有量は11.1質量%、表層部におけるC含有量は55.4質量%であった。また、(気孔径/骨格径)の比率は1.3であった。
【0064】
【表2】
上記の実施例8〜10および比較例3〜5のセッターを作成し、耐熱衝撃性および耐熱性を調べたところ、実施例8〜10では、何れも、比較例3〜5と比較して、耐熱衝撃性および耐熱性の向上が確認された。