(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079020
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】PC部材のグラウト注入方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20170206BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
E04C5/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-155734(P2012-155734)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15813(P2014-15813A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 潤
(72)【発明者】
【氏名】水島 好人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−144492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/12
E04C5/08−5/10
E01D1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC部材のPC鋼線又はPC鋼より線を挿通する挿通孔にグラウトを注入する際に前記挿通孔が閉塞した場合に前記挿通孔にグラウトを充填する方法であって、
一端にグラウト注入口を設けた前記挿通孔の他端に減圧ポンプを接続するための減圧ポンプ接続部を予め前記PC部材に設けておくと共に、前記挿通孔の他端と中間部のうち、前記他端を含む少なくとも一箇所にグラウト注入ポンプを接続するための注入ポンプ接続部を予め前記PC部材に設けておき、
前記挿通孔にグラウトを注入している途中で前記挿通孔が閉塞した場合に、前記減圧ポンプを前記減圧ポンプ接続部に接続して前記減圧ポンプにより前記挿通孔内を減圧し、閉塞地点の下流側の前記グラウト注入ポンプ接続部のうち、最も前記閉塞地点に近い前記注入ポンプ接続部に前記グラウト注入ポンプを接続して前記グラウト注入ポンプにより前記挿通孔内にグラウトを注入することを特徴とするPC部材のグラウト充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC部材のPC鋼材(PC鋼線又はPC鋼より線等)の挿通孔へのグラウトの注入方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリートの梁材や床版等(以下、PC部材という)のPC鋼材(PC鋼線やPC鋼より線等)を挿通するシース管へグラウトを注入する際に、シース管内でグラウトが硬化する等してシース管が閉塞する場合がある。この場合には、閉塞箇所を推定して閉塞箇所の近傍を削孔し、その孔からシース管内にグラウトを注入している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「PCグラウト施工マニュアル 建築編 2009」,平成21年6月発行,発行 社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 建築部会 建築工務推進部会,73〜77頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のシース管の閉塞時の対応では、閉塞箇所を誤って推定した場合には、削孔を繰返さなければならない。また、削孔する際にPC鋼材を損傷させる恐れがある。さらに、削孔するのに多くの時間を要し、工事の全体工程に大きな影響を与える。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、PC鋼材の挿通孔内に閉塞が発生した際に、PC部材に削孔をすることなく、挿通孔内にグラウトを充填できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るPC部材のグラウト注入方法は、PC部材のPC鋼線又はPC鋼より線を挿通する挿通孔にグラウトを注入する
際に前記挿通孔が閉塞した場合に前記挿通孔にグラウトを充填する方法であって、一端にグラウト注入口を設けた前記挿通孔の他端に減圧ポンプを接続するための減圧ポンプ接続部
を予め前記PC部材に設けておくと共に、前記挿通孔の他端
と中間部のうち、前記他端を含む少なくとも一
箇所にグラウト注入ポンプを接続するための注入ポンプ接続部を予め前記PC部材に設けておき、前記挿通孔にグラウトを注入している途中で前記挿通孔が閉塞した場合に、前記減圧ポンプを前記減圧ポンプ接続部に接続して前記減圧ポンプにより前記挿通孔内を減圧し、
閉塞地点の下流側の前記グラウト注入ポンプ接続部のうち、最も前記閉塞地点に近い前記注入ポンプ接続部
に前記グラウト注入ポンプを接続して前記グラウト注入ポンプにより前記挿通孔内にグラウトを注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PC鋼材の挿通孔内に閉塞が発生した際に、PC部材に削孔をすることなく、挿通孔内にグラウトを充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るグラウト注入方法を適用するPC部材を示す立断面図である。
【
図2】通常時のグラウト注入方法の手順を説明するための立断面図である。
【
図3】通常時のグラウト注入方法の手順を説明するための立断面図である。
【
図4】シース管内に閉塞が生じた時のグラウト注入方法の手順を示す立断面図である。
【
図5】シース管内に閉塞が生じた時のグラウト注入方法の手順を示す立断面図である。
【
図6】シース管内に閉塞が生じた時のグラウト注入方法の手順を示す立断面図である。
【
図7】シース管内に閉塞が生じた時のグラウト注入方法の手順を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係るグラウト注入方法を適用するPC部材1及び同方法で用いるグラウト注入装置100を示す立断面図である。この図に示すように、PC部材1は、水平方向に延びる水平部材、かつ、建築構造物の構造材としてのPC梁(プレストレストコンクリートの梁)である。シース管10は、PC部材1にその一端から他端まで延びるように埋設されており、PC部材1の両端から中央にかけて曲がって下がりさらに中央にかけて曲がって上がるように形成されている。
【0011】
シース管10の一端から他端までPC鋼材(PC鋼線又はPC鋼より線等)が挿通され、シース管10の一端においてPC鋼材がPC部材1に定着され、シース管10の他端においてPC鋼材が緊張力が導入された状態でPC部材1に定着される。即ち、PC部材1の一端にPC鋼材の固定端が配され、PC部材1の他端にPC鋼材の緊張端が配される。
【0012】
グラウト注入装置100は、グラウト注入用のホース11と、グラウト排出用のホース12と、グラウト確認用のホース13A、13B、13Cと、真空ポンプ接続用のホース14と、ホース11とホース14とに夫々設けられたバルブ16、18と、ホース12とホース13A〜Cとに夫々取り付けられた栓17、19と、グラウトポンプ20と、真空ポンプ22とを備えている。
【0013】
PC部材1の一端にはグラウト注入用のホース11が埋設され、該ホース11がシース管10の一端に接続されている。また、PC部材1の他端にはグラウト排出用のホース12が埋設され、該ホース12がシース管10の他端に接続されている。ホース11及びホース12は、PC部材1から突出して上方に立ち上げられており、ホース11にはバルブ16が設けられ、ホース12の先端には栓17が着脱可能に取り付けられている。また、ホース11はグラウトポンプ20に接続されている。
【0014】
また、PC部材1におけるシース管10の任意の位置に、シース管10のグラウト確認用のホース13A、13B、13Cが埋設されている。該ホース13A〜Cは、PC部材1から突出して上方に立ち上げられており、その先端には栓19が着脱可能に取り付けられている。また、該ホース13A〜Cは透明材で形成されており、該ホース13A〜C内にグラウトが上昇したことを視認できるようになっている。
【0015】
また、グラウト排出用のホース12から真空ポンプ22に接続するためのホース14が分岐している。該ホース14は、PC部材1から突出して上方に立ち上げられており、バルブ18が設けられている。
【0016】
図2及び
図3は、通常時のグラウト注入方法の手順を説明するための立断面図である。
図2に示すように、通常のグラウト注入時(即ち、シース管10内に閉塞が生じていない時)は、まず、グラウト注入用のホース11のバルブ16を閉じ、グラウト排出用のホース12を栓17で閉じ、グラウト確認用のホース13A〜Cを栓19で閉じ、真空ポンプ接続用のホース14のバルブ18を開いた状態にして真空ポンプ22を作動させることにより、シース管10内を所定の減圧状態(例えば、真空状態(大気圧を0.0MPaとした場合、−0.09MPa以下))にする。
【0017】
次に、
図3に示すように、真空ポンプ接続用のホース14のバルブ18を開けて真空ポンプ22を作動させたまま、グラウト注入用のホース11のバルブ16を開き、グラウトポンプ20を作動させて、グラウト注入用のホース11からシース管10内にグラウトを注入する。この際、シース管10の中間点に接続されたホース13A〜C内にグラウトが上昇したことを確認することにより、シース管10内の中間地点をグラウトが通過したことを確認する。また、シース管10のグラウト注入方向の下流端(以下、下流端という)に接続されたホース12からグラウトが排出されたことを確認することにより、シース管10の下流端までグラウトが充填されたことを確認し、そしてバルブ18を閉じる。
【0018】
図4〜
図7は、シース管10内に閉塞が生じた時のグラウト注入方法の手順を示す立断面図である。
図4及び
図5に示すように、シース管10の中間地点P(
図4に示す例ではグラウト確認用のホース13A、13Bの間、
図5に示す例ではグラウト確認用のホース13Cとグラウト排出用のホース12との間)で閉塞が生じた場合には、グラウト注入用ホース11のバルブ16を閉じ、グラウト排出用のホース12を栓17で閉じ、グラウト確認用のホース13A〜Cを栓19で閉じ、真空ポンプ接続用のホース14のバルブ18を開く。そして、真空ポンプ22を作動させることにより、シース管10内の閉塞地点Pから下流端までの間を上記所定の減圧状態にする。
【0019】
次に、
図6及び
図7に示すように、真空ポンプ接続用のホース14のバルブ18を閉じる。そして、
図6に示すように、閉塞地点Pがグラウト確認用のホース13A、13Bの間である場合には、当該閉塞地点Pよりも下流側のホースのうちで最も閉塞地点Pに近いホース13Bにグラウトポンプ20を接続し、グラウトポンプ20を作動させて、ホース13Bからシース管10内にグラウトを注入する。また、
図7に示すように、閉塞地点Pがグラウト確認用のホース13Cとグラウト排出用のホース12との間である場合には、当該閉塞地点Pよりも下流端側のホースのうちで最も閉塞地点Pに近いホース12にグラウトポンプ20を接続し、グラウトポンプ20を作動させて、ホース12からシース管10内にグラウトを注入する。
【0020】
そして、
図6に示すようにグラウト確認用のホース13Bからシース管10内にグラウトを注入する場合、グラウトは分岐点Sから左右に注入されてグラウト排出用のホース12に到達することにより、分岐点Sから下流側(図中右側)は完全に充填される。さらに、分岐点Sより上流側(図中左側)の閉塞地点Pとの間は真空状態等の所定の減圧状態なので、空洞が残ることなくグラウトが充填される。なお、シース管10内の真空度が低ければ空洞は残り、その空洞の大きさは真空度による。また、
図7に示すように、グラウト排出用のホース12からシース管10内にグラウトを注入する場合も、閉塞地点Pまでの間は真空状態等の所定の減圧状態なので、空洞が残ることなくグラウトが充填される。
【0021】
以上説明したように、本実施形態に係るグラウトの注入方法では、真空ポンプ22をシース管10の下流端(他端)に接続するためのホース14を予めPC部材1に設けておき、グラウトポンプ20をシース管10の下流端及び中間部に接続するためのホース12、13A〜Cを予めPC部材1に設けておく。そして、グラウトをシース管10内に注入している途中でシース管10が閉塞した場合、真空ポンプ22をホース14に接続して真空ポンプ22でシース管10内の閉塞地点Pと下流端との間を所定の減圧状態にし、閉塞地点Pより下流側のホース12、13A〜Cの何れかからシース管10内の閉塞地点Pに向けてグラウトを注入する。
【0022】
ここで、グラウトの注入時に空気がシース管10内に残留したとしても、その残留空気の体積は、グラウトの進行に伴うグラウトの圧力の上昇によって減少するが、本実施形態に係るグラウトの注入方法では、シース管10内の閉塞地点Pより下流側を、所定の減圧状態(例えば、真空状態)にしていることにより、シース管10内が大気圧の場合に比して、残留空気の体積が減少する度合いが格段に大きくなり、完全真空となる場合には残留空気の体積は0となり、グラウトの充填度も100%となる。
【0023】
また、本実施形態に係るグラウトの注入方法では、予め真空ポンプ22をシース管10の下流端に接続するためのホース14を予めPC部材1に設けておき、グラウトポンプ20をシース管10の下流端及び中間部に接続するためのホース12、13A〜Cを予めPC部材1に設けておくことにより、シース管10が閉塞した場合にPC部材1に削孔をすることなく、閉塞地点Pより下流側にグラウトを充填することができる。そして、シース管10が閉塞した場合にPC部材1を削孔することなくシース管10内へのグラウトの再注入を実施できることにより、削孔する際にPC鋼材を損傷させたり、削孔するのに多くの時間を要する等のPC部材1を削孔する場合の問題を解消できる。
【0024】
特に、ビル等の建築構造物では、橋梁等の土木構造物に比してシース管が小径であり、シース管が閉塞し易いため、本発明を適用することの効果は大きい。
【0025】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、PC部材1が梁である例を挙げて本発明を説明したが、PC部材1は床版等の他の水平方向に延びる部材であってもよい。また、シース管10が閉塞した場合に真空ポンプ22によりシース管10内を真空状態等の所定の減圧状態にするにあたり、シース管10内の真空度が高ければ高いほど好適であるが、シース管10内の真空度及び気圧は、シース管10内へのグラウトの充填度が十分に高められるように適宜設定すればよい。
【0026】
また、上述の実施形態では、真空ポンプ22をシース管10の下流端に接続するためのホース14をグラウト排出用のホース12から分岐するように設けたが必須ではなく、直接、シース管10に直接接続されるように設けてもよい。さらに、グラウトポンプ20をシース管10の下流端に接続するためのホースをグラウト排出用のホース12としたが必須ではなく、別途設けてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 PC部材、10 シース管(挿通孔)、11 ホース、12、13A〜C ホース(注入ポンプ接続部)、14 ホース(減圧ポンプ接続部)、16、18 バルブ、17、19 栓、20 グラウトポンプ(グラウト注入ポンプ)、22 真空ポンプ(減圧ポンプ)、100 グラウト注入装置