(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079022
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】誘導電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20170206BHJP
【FI】
H02P21/22
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-156730(P2012-156730)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-23188(P2014-23188A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶明
(72)【発明者】
【氏名】今井 博志
【審査官】
尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−205600(JP,A)
【文献】
特開平06−284772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00− 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクトル制御を用いて、誘導電動機のトルク電流及び励磁電流を制御する誘導電動機の制御装置であって、
前記誘導電動機の回転数に基づいて前記励磁電流を演算して励磁電流指令値を設定する励磁電流演算部であって、前記誘導電動機の回転数が基底回転数より大きくなる場合に、弱め励磁により当該回転数の増加に応じて当該励磁電流が小さくなるように当該励磁電流指令値を設定する当該励磁電流演算部と、
前記励磁電流演算部によって設定される励磁電流指令値が励磁電流制限値以下になる場合に当該励磁電流制限値を励磁電流指令値として保持する励磁電流制限部と、を備え、
前記励磁電流制限値は、前記誘導電動機の励磁インダクタンスが最大値となるときの励磁電流値である、誘導電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機のベクトル制御を行う誘導電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、誘導電動機のベクトル制御を行う誘導電動機の制御装置が開示されている。この誘導電動機の制御装置は、トルク指令値Te*から2次磁束の目標値φdn*を求め、この目標磁束φdn*と誘導電動機の現在の回転速度ωmとから励磁電流指令値iφ*、トルク電流指令値iT*、及び、すべり周波数ωseを求めている(例えば、
図6を参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1に開示の誘導電動機の制御装置は、まず、トルク指令値Te*から誘導電動機の定常損失が最小となる回転子磁束φLm演算し(定常損失最小磁束演算部11)、この回転子磁束φLmからローパス特性を有する伝達関数に基づいて2次磁束の目標磁束φdn*を演算する(目標磁束演算部12)。
【0004】
次に、目標磁束φdn*を発生させるための励磁電流指令値iφn*を演算し(励磁電流指令値演算部13)、この励磁電流指令値iφn*の正負の上限値を制限して励磁電流指令値iφ*を生成する(励磁電流リミッタ部14)。また、トルク指令値Te*から所定の伝達特性に基づいて誘導電動機の目標トルクTd*を演算し(目標トルク演算部15)、この目標トルクTd*と目標磁束φdn*とからトルク電流指令値iTn*を演算し(トルク電流指令値演算部16)、このトルク電流指令値iTn*の正負の上限値を制限してトルク電流指令値iT*を生成する(トルク電流リミッタ部17)。また、目標磁束φdn*とトルク電流指令値iT*とからすべり周波数ωseを演算する(すべり周波数演算部18)。
【0005】
なお、誘導電動機の回転速度(機械角)ωmに誘導電動機の極対数Pを乗算することによって誘導電動機の回転子の角速度(電気角)ωreを演算し(モータ回転数演算部19)、この角速度ωreとすべり周波数ωseとを加算することによって1次周波数ωを演算する。
【0006】
そして、特許文献1に開示の誘導電動機の制御装置は、励磁電流指令値iφ*、トルク電流指令値iT*、1次周波数ω、及び、誘導電動機の各相の電流iu,iv,iwから電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する(座標変換電流制御ブロック2)。この電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*によって、インバータ3は、直流電源6の直流電力をPWM制御し、3相交流電力(各相の電流iu,iv,iw)を誘導電動機4に供給する(例えば、
図2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−163900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示のベクトル制御手法よりも簡易なベクトル制御手法を利用して誘導電動機を制御することが行われている。この簡易なベクトル制御手法は、トルク指令値及び2次磁束の目標値を求める代わりに、誘導電動機の目標回転数(目標速度)及び現在の回転数から直接、励磁電流指令値、トルク電流指令値、及び、すべり周波数を求める手法である。
【0009】
具体的には、予め誘導電動機をインバータにより駆動して簡易な実験を実施し、誘導電動機の効率が最適となるように、励磁電流を算出するための励磁電流設定値、及び、すべり周波数を算出するためのすべり利得設定値を設定する。そして、通常の誘導電動機の制御時において、これら予め設定された励磁電流設定値及びすべり利得設定値を用いて、励磁電流指令値及びすべり周波数を演算する。
【0010】
なお、トルク電流指令値は、誘導電動機の目標回転数と現在の回転数などから求められ、すべり周波数は、トルク電流指令値とすべり利得設定値などから求められる。
【0011】
この簡易なベクトル制御手法では、励磁電流指令値を誘導電動機の回転数によって補正しており、誘導電動機の回転数が基底回転数以下では一定値とし、誘導電動機の回転数が高くなるほど励磁電流指令値を小さくしている。このように制御することにより、誘導電動機の効率を高めている。
【0012】
しかしながら、誘導電動機の回転数が高くなるのに合わせて励磁電流を小さく絞りすぎると、励磁電流とトルク電流とすべり周波数の最適なバランスが崩れて誘導電動機の効率が低下してしまうという問題がある。詳説すると、弱め励磁により基底回転数以上で励磁電流を小さくし続けると、励磁インダクタンスが急激に低下してしまい、モータ電圧が大きく下がってしまう。すると、目標のモータ出力を得るためにモータ電流(すなわち、トルク電流)を増加する制御が行われ、その結果、モータ効率が低下してしまう。このように、励磁電流とトルク電流及びすべり周波数との適切なバランスが崩れ、モータ効率が低下してしまう。
【0013】
そこで、本発明は、誘導電動機の回転数が高い場合にも、誘導電動機の効率を高めることが可能な誘導電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の誘導電動機の制御装置は、ベクトル制御を用いて、誘導電動機のトルク電流及び励磁電流を制御する誘導電動機の制御装置であって、誘導電動機の回転数に基づいて励磁電流を演算して励磁電流指令値を設定する励磁電流演算部であって、誘導電動機の回転数が基底回転数より大きくなる場合に、弱め励磁により回転数の増加に応じて当該励磁電流が小さくなるように当該励磁電流指令値を設定する当該励磁電流演算部と、励磁電流演算部によって設定される励磁電流指令値が励磁電流制限値以下になる場合に、当該励磁電流制限値を励磁電流指令値として保持する励磁電流制限部とを備える。
【0015】
この誘導電動機の制御装置によれば、誘導電動機の回転数が基底回転数より大きくなる場合に励磁電流演算部によって弱め励磁が行われ、励磁電流指令値が励磁電流制限値以下になる場合には、励磁電流制限部によって、当該励磁電流制限値を励磁電流指令値として保持するので、誘導電動機の回転数が高い場合にも、誘導電動機の効率を高めることができる。
【0016】
上記した所定の励磁電流制限値は、誘導電動機の励磁インダクタンスが最大値となるときの励磁電流値である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、誘導電動機の回転数が高い場合にも、誘導電動機の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ駆動系の構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る誘導電動機の制御装置の構成を示す図である。
【
図3】従来の励磁電流演算部における励磁電流指令値の演算処理を模式的に示す図である。
【
図4】
図2に示す励磁電流演算部及び励磁電流制限部における励磁電流指令値の演算処理を模式的に示す図である。
【
図5】励磁電流に対するモータ電圧/モータ電流の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ駆動系の構成を示す図である。このモータ駆動系1は、電気自動車やバッテリフォークリフト等における走行用や荷役用に用いられるものであり、バッテリ2と、インバータ3と、モータ(誘導電動機)4と、回転センサ5と、電流センサ6u,6v,6wと、制御装置10とを備える。
【0021】
インバータ3は、6個のスイッチング素子によって構成された3相インバータであり、バッテリ2の直流電力を3相交流電力に変換し、この3相交流電力をモータ4へ供給する。モータ4は、3相誘導モータである。回転センサ5は、モータ4の回転数N
Aを検知して制御装置10へ送信する。電流センサ6u,6v,6wそれぞれは、各相のモータ電流Iu,Iv,Iwを検知して制御装置10へ送信する。
【0022】
制御装置10は、ベクトル制御によりインバータを介してモータ4を駆動制御するものであり、目標回転数N
Tと現在の回転数(回転速度)N
Aとに基づいて、励磁電流指令、トルク電流指令、及び、1次周波数を生成する。そして、制御装置10は、これらの励磁電流指令、トルク電流指令、1次周波数、及び、各相のモータ電流Iu,Iv,Iwから、インバータ3における各相用スイッチング素子を駆動するための制御電圧Vu,Vv,Vwを生成する。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る誘導電動機の制御装置の構成を示す図である。この制御装置10は、励磁電流演算部11と、励磁電流制限部12と、トルク電流指令演算部13と、すべり周波数演算部14と、モータ速度演算部15と、1次周波数演算部16と、制御電圧生成部17とを備えている。
【0024】
励磁電流演算部11は、モータ4の現在の回転数から励磁電流指令値I
Mを演算する。以下では、
図3及び
図4を参照して励磁電流演算部11の演算処理を詳細に説明する。
図3は、従来の励磁電流演算部における励磁電流指令値の演算処理を模式的に示す図であり、
図4は、本実施形態の励磁電流演算部11及び励磁電流制限部12における励磁電流指令値の演算処理を模式的に示す図である。
【0025】
励磁電流演算部11は、予め、所定のモータ出力にてモータをインバータ駆動する簡易な実験を実施し、モータ電流が最小となるように、励磁電流を算出するための励磁電流設定値I
M0を設定する。
【0026】
励磁電流演算部11は、
図4に示すように、現在のモータ回転数N
Aを検出し、その回転数が基底回転数N
B以上であるか否か判定する。現在のモータ回転数N
Aが基底回転数N
B以下である場合には、励磁電流演算部11は、励磁電流指令値I
Mとして励磁電流設定値I
M0を出力する。すなわち、励磁電流演算部11は、N
A≦N
Bでは、励磁電流指令値I
Mを励磁電流設定値I
M0に制限する(上限値)。
【0027】
一方、現在のモータ回転数N
Aが基底回転数N
Bより大きい場合には、励磁電流演算部11は弱め励磁を行う。具体的には、励磁電流演算部11は、N
A>N
Bでは、モータ回転数N
Aの増加に応じて、励磁電流が次第に小さくなるように、励磁電流指令値I
Mを次第に小さく設定する。なお、励磁電流演算部11は、励磁電流指令値I
Mを連続的に小さくしてもよいし、段階的に小さくしてもよい。
【0028】
なお、励磁電流演算部11による励磁電流指令値の算出方法は、上述した励磁電流設定値を用いる簡易なベクトル制御手法に限定されない。例えば、励磁電流演算部11は、直接計算によって励磁電流指令値を算出してもよい。
【0029】
次に、励磁電流制限部12は、励磁電流指令値I
Mに下限値を設定する。
図4に示すように、励磁電流制限部12は、励磁電流演算部11によって設定された励磁電流指令値I
Mが所定の励磁電流制限値I
M1以下となる場合に、励磁電流指令値I
Mを励磁電流制限値I
M1に制限する。
【0030】
図5は、励磁電流に対するモータ電圧/モータ電流の特性を示す図である。
図5に示すモータ電圧/モータ電流は、モータに励磁電流のみを流したときのモータ電圧/モータ電流であり、励磁インダクタンスに相当する。
図5に示すように、励磁電流制限値I
M1は、励磁インダクタンスが最大値となるときの励磁電流値に設定される。
【0031】
トルク電流指令演算部13は、モータ回転数指令値N
Tと現在のモータ回転数N
Aとからトルク電流指令値I
Tを演算する。また、すべり周波数演算部14は、現在のモータ回転数N
Aとトルク電流指令値I
Tとからすべり周波数fsを演算する。
【0032】
モータ速度演算部15は、現在のモータ回転数N
Aに極数又は極対数Pを乗算することによってモータ速度fmを演算する。そして、1次周波数演算部16が、モータ速度fmにすべり周波数fsを加算することにより1次周波数f1を演算する。
【0033】
制御電圧生成部17は、励磁電流指令I
M、トルク電流指令I
T、1次周波数f1、及び、各相のモータ電流Iu,Iv,Iwから、インバータ3における各相のスイッチング素子を駆動するための制御電圧Vu,Vv,Vwを生成する。
【0034】
ここで、従来、弱め励磁により、
図3に示すように所定の回転数N
1以上の高回転においてもモータ回転数に応じて励磁電流を小さくし過ぎると、
図5に示すように励磁電流制限値I
M1以下では励磁インダクタンスが急激に低下することとなり、モータ電圧が大きく下がってしまう。すると、目標のモータ出力を得るためにモータ電流(すなわち、トルク電流)を増加する制御が行われ、その結果、モータ効率が低下してしまう。このように、励磁電流とトルク電流及びすべり周波数との適切なバランスが崩れ、モータ効率が低下してしまう。
【0035】
しかしながら、本実施形態の誘導電動機の制御装置10によれば、励磁電流演算部11によって弱め励磁が行われ、励磁電流指令値I
Mが励磁電流制限値I
M1以下になる場合には、励磁電流制限部12によって、励磁電流制限値I
M1を励磁電流指令値I
Mの下限値として保持するので、モータ回転数が所定の回転数N
1以上と高い場合にも、モータ効率を高めることができる。
【0036】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…モータ駆動系、2…バッテリ、3…インバータ、4…モータ(誘導電動機)、5…回転センサ、6u,6v,6w…電流センサ、10…誘導電動機の制御装置、11…励磁電流演算部、12…励磁電流制限部、13…トルク電流指令演算部、14…すべり周波数演算部、15…モータ速度演算部、16…1次周波数演算部、17…制御電圧生成部。